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パワハラ防止法の実効性は?
2019/05/31(Fri)
 5月31日 (金)

 5月29日、企業に職場のパワーハラスメント防止策に取り組むことを義務付ける 「労働施策総合推進法改正案」 が成立しました。あわせてセクシャルハラスメントとマタニティーハラスメントで従業員を不利益にする扱いを禁止する男女雇用機会均等法と育児・介護休業法の改正案も成立しました。
 成立した改正法はパワハラの定義を 「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境を害するもの」 としました。「言動に起因する問題」 に限定され、さらに 「優越的な関係を背景とした言動」 「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」 「雇用する労働者の就業環境が害される」 の3要素を満たすものになります。

 2012年3月15日に厚生労働省が発表した 「職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言」 (「提言」) は日本で初めて職場のいじめ・パワーハラスメントの概念規定・定義を行いました。「職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう」 です。3要素それぞれがパワハラに該当し、すべてを満たさなければならないということではありません。
 さらに改正法からは 「精神的・身体的苦痛を与える行為」 が削除されました。
 暴力的苦痛を与える行為等は 「言動に起因する問題」 以外の行為で、刑法・民法で対処する問題だと説明します。では精神的苦痛はどうなるのでしょうか。「精神的」 の文言は法案作成にむけた労働政策審議会の答申までは含まれていました。ところが法案提出の段階で削除されました。
 例えば、精神的苦痛を与える行為である 「シカト」 や 「仕事はずし」 「仲間はすれ」 「一方的目標設定・業績評価」 は職場のパワハラになるのでしょうか。

 労働者が職場で法律に抵触するトラブルが発生したとき法律の条文・ “字面” を問題にし、補足・細則、判例までは踏み込みません。改正法の定義は、これまで提言によって作りあげてきた職場環境を崩し、パワハラの枠を狭めて会社の裁量権を拡大し、職場で労働者が声を挙げにくい状況を作り出してしまいます。発生したトラブルは早期解決が鉄則ですが、今後は、労働者と管理者において 「パワハラだ」 「パワハラではない」 の議論が頻発することが想定されます。“職場のパワハラ推進法” です。

 改正法は、(雇用管理上の措置等) として定義のようなことが起きたときのために 「当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」 「事業主は、労働者が前項の相談を行つたこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない」 といいます。
 事業主は相談窓口の設置等が義務づけられます。そして相談者や相談をされた労働者、調査に協力した労働者が不利益な取り扱いを受けないことをうたっています。
 相談者が不利益な取り扱いを受けない規定は、例えば労働基準監督署に相談や申告をした場合や、労働委員会への救済申立をした場合にも適用され、特別新しいものではありません。
 では労基署への申告等を行った場合、現状はどうなっているでしょうか。当該案件で重ねて不利益になることはないにしても、職場で孤立を強いられたり、別件で処分をちらつかされることも多々あります。“合法的 (違法ではない) 攻撃” によるパワハラが連続します。

 本来職場のパワハラ対策は “BEFORE” 予防・防止に重点が置かれる必要があります。発生したトラブルについては労働者と管理者が 「パワハラだ」 「パワハラではない」 と言い争う前に、ゆき違いが生じてしまうような職場環境ついての全体の議論が必要です。
 “AFTER” 発生対応は個別問題として処理され、企業・管理者の意図の発覚を隠すことに終始されたりすることがあります。往々にしてパワハラが間接的退職勧奨・強要や、労働者を孤立させた職場管理をする手段に利用されていたりします。
 「適切かつ有効な実施を図るため」 の措置は、パワハラは職場の組織構造から発生していることをふまえ、企業・管理者の裁量ではなく被害者の人権保護の視点に立つものでなければなりません。職場対策においては、問題が起きたとの訴えがあったときは、職場のすべての労働者が就業環境を害されたと受け止めて改善にむけた議論ができる機会を保障する必要があります。


 改正法では、職場内で解決しなかった場合、都道府県労働局に相談することができます。「都道府県労働局長は、紛争に関し、当事者に対し必要な助言等をすることができる」 「厚生労働大臣は違反している事業主が勧告に従わなかったときは、その旨を公表できる」 とあります。ただし罰則規定はこれだけです。
 この間、パワハラやセクハラ問題に取り組んでいる多くの団体は措置義務では不十分で禁止規定が必要だと訴えてきましたが聞き入れられませんでした。
 はたして改正法で効果は発生するでしょうか。
 5月14日の 「活動報告」 に書きましたが、4月16日の衆議院厚生労働委員会で5人の参考人が陳述しました。与党議員が、禁止規定を設けることの検討を中長期的にも開始する必要があるのではないかと質問すると3人の参考人は必要ある、他の学者の参考人は 「労政審での調整の結果を現時点では尊重したい」 と回答しました。
 経団連の参考人は 「セクハラの企業名公表になかなか至らないのは、行政の指導の中で、企業名公表に至るまでに各企業が是正をしているのではないか」 と回答しました。
 事実は異なります。2006年の改正 「男女雇用機会均等法」 でセクシャルハラスメントの予防・防止として措置義務がうたわれています。しかし今も、被害は頻発しています。
 禁止規定がない法律は居直りをもたらします。その具体例が昨年5月に発覚した福田淳一前財務事務次官のセクハラ問題についての麻生太郎財務相の 「セクハラ罪という罪はあるのか」 の発言です。
 パワハラ被害においても措置義務は、被害者にとっては長期間かけても解決しないと諦めて泣き寝入りをすること導く “効果” しかありません。そのことを承知しながら繰り返すのは、対策を進めるふりをしながら、規制など必要ないという本音を吐いています。
 改正法は “働き方改革” の一環として国会に提出されましたが、まさしく政府・経済界の “働かせ方改革” です。
 法に禁止事項と罰則をきちんと盛り込むことよってこそ実効性がともなうものになり、予防・防止の効果は発生します。


 改正法の具体的運用については 「厚生労働大臣は、・・・事業主が講ずべき措置等に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針を定めるものとする」 「厚生労働大臣は、指針を定めるに当たつては、あらかじめ、労働政策審議会の意見を聴くものとする」 といいます。改正法は、公布の日から起算して一年を超えない範囲内において政令で定める日から施行されます。


 法案の衆議院での採決にあたって17項目の附帯決議がつきました。パワハラ防止に関係する個所を抜粋します。

 政府は、本法の施行に当たり、次の事項について適切な措置を講ずるべきである。
六 ハラスメントの根絶に向けて、損害賠償請求の根拠となり得るハラスメント行為その
 ものを禁止する規定の法制化の必要性も含め検討すること。
七 パワーハラスメント防止対策に係る指針の策定に当たり、包括的に行為類型を明記
 する等、職場におけるあらゆるハラスメントに対応できるよう検討するとともに、以下の
 事項を明記すること。
 1 自社の労働者が取引先、顧客等の第三者から受けたハラスメント及び自社の労働
  者が取引先に対して行ったハラスメントも雇用管理上の配慮が求められること。
 2 職場におけるあらゆる差別をなくすため、性的指向・性自認に関するハラスメント及
  び性的指向・性自認の望まぬ暴露であるいわゆるアウティングも対象になり得ること、
  そのためアウティングを念頭においたプライバシー保護を講ずること。
八 事業主に対し、パワーハラスメント予防等のための措置を義務付けるに当たっては、
 職場のパワーハラスメントの具体的な定義等を示す指針を策定し、周知徹底に努め
 ること。
九 パワーハラスメントの防止措置の周知に当たっては、同僚や部下からのハラスメント
 行為も対象であることについて理解促進を図ること。
十四 紛争調整委員会の求めに応じて出頭し、意見聴取に応じた者に対し、事業主が
 不利益取扱いを行ってはならないことを明確化するため、必要な措置を検討すること。
十五 セクシュアルハラスメント防止や新たなパワーハラスメント防止についての事業主
 の措置義務が十分に履行されるよう、指導を徹底すること。その際、都道府県労働局
 の雇用環境・均等部局による監視指導の強化、相談対応、周知活動等の充実に向け
 た体制整備を図ること。
十六 国内外におけるあらゆるハラスメントの根絶に向けて、第百八回ILO総会におい
 て仕事の世界における暴力とハラスメントに関する条約が採択されるよう支持するとと
 もに、条約成立後は批准に向けて検討を行うこと。


 これほどの付帯決議がつく不完全法案は、本来なら大幅な修正をしたり、出し直しにすべきです。指針で法の基本を変更することはできません。
 「損害賠償請求の根拠となり得るハラスメント行為そのものを禁止する規定の法制化の必要性を検討する」 なら今国会でおこなうべきでした。議論が煮詰まっていないという言い訳は、やる気がないときに引き延ばすための常套句です。
 「自社の労働者が取引先、顧客等の第三者から受けたハラスメント及び自社の労働者が取引先に対して行ったハラスメント」 についてはこれまで同様先送りです。しかも 「雇用管理上の配慮が求められること」 で終わっています。
 「事業主に対し、パワーハラスメント予防等のための措置を義務付けるに当たっては、職場のパワーハラスメントの具体的な定義等を示す指針を策定し、周知徹底に努めること」 とあります。事業主が自主的に改正法を超える定義を行なうことは可能です。労働組合は、「提言」 の定義とするよう要求し、さらに就業規則等に懲戒規定などを盛り込ませていく必要があります。


 6月10日から今年のILO総会が開催されます。昨年に続き 「仕事の世界における暴力と嫌がらせの撤廃に関する条約」 の採決に向けた議論がおこなわれます。
 4月16日の衆議院厚生労働委員会の参考人陳述で、議員から5人の参考人に、この政府提出の法案で、ILOが採択を予定している条約を日本は批准することができると考えるかと質問されました。4人は 「できない」 「むずかしい」、経団連の参考人だけは 「今後の議論いかん」 と回答しました。
 昨年、日本政府は批准に反対の立場を貫きました。今年は 「パワハラ防止法」 成立をもって防止策を策定したと報告するのでしょうか。

 「活動報告」 2019.5.14
 「活動報告」 2019.4.9
 「活動報告」 2019.4.5
 「いじめメンタルヘルス労働者支援センター」ホームページ・ご相談はこちらから
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