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「高プロ」、労働裁量制は経団連の要請
2018/02/23(Fri)
 2月23日 (金)

 2月18日付の朝日新聞に 「財界 団結から分散へ 崩れた55年体制 そしてグローバル化」 の見出し記事が載りました。「『財界の総本山』 と呼ばれた経団連 (日本経営者団体連盟) は、平成の間、その存在意義を問われ続けた。」 とあります。
 現在の経団連は、東証第一部上場企業を中心に構成されます。経済政策に対する財界からの提言および発言力の確保を目的として結成された組織で、経営者の意見を取りまとめて発信し、その利害が社会問題に対する見解や主張に反映されています。

 経団連とは別組織として1948年4月、大企業経営者の立場から労務政策を専管事項として議論・提言することを目的とした 「経営者が団結して戦うための戦略本部」 ・日経連 (日本経営者団体連盟) が発足します。「経営者よ強かれ」 のスローガンを掲げ、経営権の確立に乗り出します。
 戦後混乱期の多くの労働争議や三井三池闘争などの大争議に 「総資本」 の側から対応したのが日経連でした。しかし労使双方が疲弊すると双方が 「企業内組合」 「年功序列」 「終身雇用」 の労使協調路線にむかいます。
 1974年に会長に就任して1979年に退任した桜田武は 「官僚機構と裁判所と警察 (本音は軍隊) がしっかりしていたら日本は安泰」 と豪語しました。これらが連携して労働者や市民の抵抗を抑え込むという管理支配が進みました。

 米国の学者エズラ・ボーゲル著 『ジャパン・アズ・ナンバーワン』 には 「2度の石油危機を乗り切り、超インフレを抑えた日本の団結力に目を見張った」 とあります。その主役は労使でした。財界で労使と向き合ったのは日経連でした。第一次石油危機後の74年、当時の桜田武会長は 「大幅賃上げの行方研究委員会」 を設置し、74年春闘で32.9%を記録した賃上げを1ケタに抑える報告書を出すと、労組は賃上げ要求を抑えました。
 その後、労働組合は使用者にとりこまれ抵抗する力を奪われてしまっていました。労の側としては1987年総評が解散し連合 (
全日本労働組合総連合) が発足します。

 経済団体としては他に1946年に結成された、経営者が個人の資格で加入する会員制組織の経済同友会がありました。結成当初は第2次世界大戦後の経済再建を新しい経営理念で目指す若手経営者の集まりでした。国内外の問題に対して財界の立場から国の経済政策に意見や要望を表明します。
 桜田にいわせると 「経済同友会の活動は、過激な労働争議に脅える経営物側の “単なる仲良し団体” でした。

 これらに日商 (日本商工会議所) を加えた4団体について 「大企業の利益を代表する経団連、時代を先取りする同友会、商工業発展のための地域経済団体を総轄する日商、労働問題を専門に扱う日経連」 (白井久也 『危機のなかの財界』 サイマル出版1973年) といわれていました。


 1995年、経団連は報告書 「新時代の 『日本的経営』」 を発表します。労働者を① 「長期蓄積能力活用型グループ」 (総合職正規社員) ② 「高度専門能力活用型グループ」 (一般正規職員) ③ 「雇用柔軟型グループ」 (パート、臨時、派遣) に分けた雇用の方向づけをおこないました。
 雇用の柔軟化、流動化といっても①から②や③に、②から③になることはあっても、②から①に、③から②や①になることはほとんどありません。雇用は継続しても大幅な処遇の劣化が伴う対処方法の提案でした。
 この報告書発表に至る論議が2007年5月11日付の 『朝日新聞』 に掲載されました。
 94年2月25日、経済同友会は研究会を開催したが、そこでは激論が交わされます。
「企業は、株主にどれだけ報いるかだ。雇用や国のあり方まで経営者が考える必要はない」
「それはあなた、国賊だ。我々はそんな気持ちでやってきたんじゃない」
 前者はオリックス社長の宮内義彦で後者は新日鉄社長の今井敬。
 「終身雇用を改めるなら経営者が責任をとって辞めた後だ」 と今井に同調する日産自動車副社長塙儀一。
 「人口構成が逆ピラミッド型の高齢社会で終身雇用・年功序列は持たない」 と宮内を援護するウシオ電機会長の牛尾治朗。そして 「終身雇用が会社人間を作ってきた面もある。行き過ぎた会社中心社会を改める機会だ」 と主張する日本IBM会長の椎名武雄。
 さらに宮内は 「これまで企業が社会に責任を負いすぎた。我々は効率よく富を作ることに徹すればいい」 と発言。今井は 「苦労していない経営者に何がわかるか」 といら立つ。

 その後、日経連で同じ論議が始まり、決着がつかないまま 「報告書」 は発表されました。
 同友会の研究会に参加した富士ゼロックス会長の小林陽太郎は後に 「効率や株主配当は重要。場合によっては雇用にも手をつけなければいけないのは分かる。だが一にも二にも株主という意見にはちょっとついていけなかった」 と話しています。
 日経連は、労働対策では強権的姿勢をつらぬきながらく 「終身雇用」 を基本にした労使協調の地平を作り上げました。しかし 「新時代の 『日本的経営』」 は、新たな労使対立・紛争を生み出す危険性がありましたが経済同友会は関心がありません。

 富士ゼロックスは、九五年 「成果主義賃金制度」 を日本で最初に導入します。雇用を維持するためには、経営者は人権費予算増減の裁量権を持つ必要があるという論です。実際は 「成果主義賃金制度」 は、正規労働者の人件費縮小を目的にしたもので、この後、他社も取り入れていきます。
 「報告書」 を書いた日経連賃金部長小柳勝次郎は 「雇用の柔軟化、流動化は人中心の経営を守る手段として出てきた」 と振り返ります。「これが派遣社員などを増やす低コスト経営の口実としてつまみ食いされた気がする」 とも。
 この後雇用の流動化は加速します。これに反撃したのは、小さな組合・各地のユニオンでした。
 経団連が 「その存在意義を問われ続けた」 ずっと以前から連合は存在意義を問われ続け ています。


 2002年5月、日経連と経団連 (経済団体連合会) が経済政策に対する財界からの提言及び発言力の確保を目的として統合して発足しました。加盟企業のほとんどが重複していました。
 労使協調路線は強まり、「ストライキなどで労組とドンパチやる場面が減った。労使関係が安定すると、労組対策が財界に占める割合が落ちた」、日経連は労使間の対立の収束とともに役割を終えつつあるとの理由からでした。
 経団連は政権とタッグを組むことを目指します。労務対策が必要ない時代になっていました。そして連合はパートナーになりさがっています。


 世界人権宣言に基づく社会権規約委員会は、2013年4月30日にジュネーブの国連人権高等弁務官事務所で日本の社会権規約の実施について第3回の審議をおこないました。
 社会権規約は、さまざまな問題を取り上げ、労働における社会権保障としては公務員のストライキ権、雇用の機会均等、休息、余暇、労働時間の合理的な制限、定期的な有給休暇なども含みます。締約国は、取り組みの進捗状況を定期的に審査されます。
 日本政府の第2回報告の審議は2001年8月に行われ、見解が発表されました。これに対して日本政府は2009年9月に 「政府報告書」 を提出しました。
「4.休息、余暇、労働時間の制限及び有給休暇
 (1) 所定労働時間と残業時間
 労働基準法においては、休憩時間を除き1週間について40時間、1週間の各日については、休憩時間を除き1日について8時間を超えて労働させてはならないとされている (第32条)。この法定労働時間を超えて労働させることができるのは、非常災害の場合 (第33条)、又は、労使が書面で時間外労働に関して協定を行い、これを行政官庁に届け出た場合 (第36条) に限られる。」
 いかにも8時間労働がきちんと守られているかのようです。

 これに対し、国際人権活動日本委員会は12年3月に 「カウンターレポート」 を提出します。そこではNPO株式オンブズマンが労務上のコンプライアンスの現状を把握するために、経団連の会長・副会長歴任者出身企業の36条協定の実態を所轄の労働局を通じて得た情報を取り上げています。
 添付された表に、経団連の会長・副会長を出している16社の「日本経団連会長・副会長企業の36協定の概要 2009年4月12日現在」があります。そこでは1日の延長できる最大時間は、キャノン15時間、パナソニック13時間45分、三菱重工13時間30分、日立製作所13時間、三井物産12時間45分、東京電力12時間10分、みずほFG11時間などとなっています。キャノンの15時間の時間外労働協定は、休憩時間を除くと睡眠時間は保障されていません。
 月の延長できる最大時間は、東レ160時間、三井物産120時間、野村H104時間、新日本製鉄、新日本石油、パナソニック、東京電力が100時間などでした。13社が80時間を越える協定を締結しています。年の延長できる最大時間は、東レ1600時間、キャノン1080時間、三井物産920時間、みずほFG900時間、パナソニック841時間、三菱重工業720時間、トヨタ自動車720時間、新日本製鉄700時間などでした。
 各企業は無制限の残業時間を認める 「特定条項付き時間外労働に関する労使協定」 を締結すると 「違法ではない」 となります。協定を締結しているのは16社中、金融関係の3社以外は労働組合です。


 昨年12月4日付の朝日新聞に 「残業上限、過半が月80時間以上 過労死ライン労使協定225社調査」 の見出し記事が載りました。
 東証1部上場の主要225社について、16年10月時点で結んだ36協定について、各地の労働局に情報公開請求をしました。その資料をもとに、17年7月時点の協定時間を各社の本社に尋ね、179社から回答を得ることが出来ました。その結果、125社が月80時間の労使協定を締結し、そのうち41社が100時間以上の協定を締結していました。
 現在の経団連の会長・副会長を出している企業はどうでしょうか。会長を出している東レは100時間です。副会長の日立製作所は3か月400時間でした。大成建設150時間、三菱電機110時間、三井物産120時間、三菱商事100時間です。これ以外は80時間にしたと思われます。
 会長・副会長を出していない企業の状況は、IHI150時間、日本たばこ産業140時間、大林組150時間、東急電鉄150時間、東洋製缶GHD150時間、住友重機機械工業140時間などです。
 労働時間規制の“働き方改革”の法案成立がもっと早いと予測した対応でしたが、経団連の会長・副会長の企業が率先して労働時間の短縮・過労死防止に取り組むというような姿勢は見えません。各企業が法案の最長の協定を締結しています。
 では “消えた残業時間” はどこに行ったのでしょうか。人員増が行われたという話は聞きません。業務遂行の工夫が進んだという報告がありますが、ではこれまでは時間を浪費していたのでしょうか。工夫によって業務内容が過密となったり、これまで以上にゆとりがなくなったという話も聞きます。

 ゆとりがなくなった中で出退勤管理のごまかし、持ち帰り残業、下請け・関連会社への犠牲の転嫁が進んでいます。見せかけの短縮です。
 会社は長時間の協定を繁忙期対策だと説明します。しかし緊急時の時間外労働については緊急の協定を締結すればことたります。実際は “恒常的繁忙期” の状態を合法化しています。
 経団連にとって現在議論が進んでいる労働時間規制の法案は迷惑なことです。そのため、「高プロ」 と労働裁量制の拡大導入は必死です。政府は経団連に代わって労務政策を提起しています。しかし労働者にとって 「過労死促進法案」 は絶対に容認することはできません。

 厚労省の 「過重労働による健康障害防止のための総合対策」 (2002年2月12日付け基発第0212001号) では月45時間を超えると健康障害のリスクが高くなるとあります。労働者は健康障害のリスクをかかえてまで残業をする必要はありません。
厚労省は残業規制は過労死ラインといわれる月80時間ではなく、45時間を “健康障害防止ライン” として法規制すべきです。

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