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「核の非人道性」 を声高に
2018/02/09(Fri)
 2月9日 (金)

 2月2日、トランプ米政権の国防省は、オバマ前政権の方針を転換する新たな核政策、戦略、能力、戦力態勢を定めた報告書 「核戦略体制の見直し」 (NPR Nuclear Posture Review) を公表しました。新たな措置として爆発力を低下させた小型核を潜水艦発射弾道ミサイル (SLBM) に導入すると提言しています。
 2010年のNPRで 「核なき世界」 を目指し、核兵器の数と役割の縮小を掲げたオバマ前政権の理想主義的な核軍縮方針から決別し、「安全で確実、効果的な核抑止力」 を確保することに重きを置くとしています。
 NPRの公表は1994年、2002年、2010年に次いで4回目、です。
 オバマは前年の09年4月5日のプラハ演説で 「核兵器のない世界の平和と安全を追及する」 と語りました。そして2010年に公表されたNPRは、究極的な核廃絶という理想を高らかに表明しました。

 日本政府は3日、このトランプの転換を 「高く評価する」 と歓迎する河野太郎外相談話を発表しました。新戦略について 「米国による抑止力の実効性の確保と我が国を含む同盟国に対する拡大抑止へのコミットメントを明確にしている」 と評価します。
 日本は、専守防衛をうたい、非核三原則を堅持する方針を明確にしています。だから北朝鮮の核への抑止を米国の核兵器に依存することが必要と説明します。

 河野外相に対し、6日の衆院予算委員会で菅直人元首相が質問に立ちました。
 1962年のキューバ危機のとき 「危機の後に米ソは、先制攻撃をしても双方だめになるという 『相互核破壊』 の考え方に落ち着いた。(NPRは) 先制攻撃を認める方向に進み、核戦争の可能性が拡大するのではないか」 と追及しました。
 河野外相は、「前回の2010年のNPRでも米国は先制不使用をうたっておらず、米国の方針が転換したと考えていない」 と答弁しました。


 キューバ危機についてです。
「1962年と言えば、ソ連が同じ共産主義独裁のキューバに核ミサイルを秘密裏に搬入し、これを探知した米国のジョン・F・ケネディ政権がキューバへの空爆と軍事進攻を検討、核戦争をも覚悟したキューバ危機が10月に勃発している。ケネディは最終的に、『キューバ不可侵』 の確約に加え、いずれ退役させるつもりだったトルコ配備のミサイルの撤去を決めてソ連の要望に応えることで、ソ連にキューバから核ミサイルを引き揚げさせるディール (取引) に成功、『核戦争の手前まで行った』 とよく評された危機を収束させた。
 だが、平和裏の解決を見たキューバ危機は、西ドイツなど米国の同盟国には逆に、そこはかとない疑念と懸念を抱かせることになったのではないか。なぜなら、米国本土が核攻撃の危険にさらされる究極の事態となれば、米国は同盟国の意など介さずに、さっさとソ連と手を握ってディールをまとめてしまう恐れを想起させたからだ。NATOメンバー国のトルコからミサイル撤去が公表されなかったのも、同盟国の動揺回避を狙ったケネディ政権の対外広報戦略の一環だった。
 いずれにせよ、『万が一の場合、米国は真に頼りにできるのか』 『米国の 『核』 頼みで本当に欧州の安全は保てるのか』 『やはり自前の核兵器が必要ではないのか』 との疑念がキューバ危機のあった1962年頃から、西ドイツ政府内で渦巻き始める。」 (太田昌克著 『偽装の被爆国 核を捨てられない日本』 岩波書店)
 「大国がいかなるコストを払ってでも同盟国を守ると信じることには、計算できないリスクが伴う」 という意見が西ドイツ政府内にくすぶり続けていたといいます。
 米軍基地が米国外に散在するのは、米国本土が襲撃されることを回避するためでもあります。
 ベトナム戦争ピークの1967年、沖縄に配備・貯蔵されていた核兵器の総数は1300発に上りました。仮に今、北朝鮮がアメリカを攻撃しようとするときに最初のターゲットは沖縄基地です。

 河野外相は評価の理由について、「同盟国に対して核抑止を明確にコミット (約束) している」 と改めて強調。「オバマ政権も友好国に対して核抑止のコミットをしてきた」 と指摘されると、「ご質問の意図が全く分からない」 と声を荒らげる一幕もありました。実際はどの時点でのオバマ評価かということもあります。

 オバマは、広島訪問後、NPRの見直し作業をおこない、そこでは 「核の先制攻撃」 から、相手が使用する前には使用しないという 「核の先制不使用」 を含ませていたことが明らかになっています。
 なぜ公表されなかったのでしょうか。「核の傘」 にいる同盟国から反発を受けることを懸念したからです。例えば、日本は独自の核開発をいいだす危険性がでてきます。原発問題とも絡みますが不可能ではありません。
 
 この “緊張関係” は日米の間にはずっと存在します。核所有国が増えることはアメリカにとっては望むことではありません。
 そのため、アメリカは、日本と 「密約」 を結んでいます。ドイツもそうです。
「日本の場合、1960年の日米安全保障条約改定に際し、首相の岸信介、外相の藤山愛一郎、駐日米大使のダグラス・マッカーサー二世が中心となって、米軍核搭載艦船の日本寄港を米日間の 『事前協議』 対象から除外し、米側に核寄港のフリーハンドを与える 『核持ち込み密約 (核密約)』 を交わしていた。
 また、1972年に実現した 『核抜き本土並み』 の沖縄返還に当たり、首相の佐藤栄作は69年に米大統領のリチャード・ニクソンと密約議事録を作成し、有事における沖縄への核再配備を認める 『沖縄核密約』 で合意している。」 ( 『偽装の被爆国 核を捨てられない日本』 )

 1970年、核拡散防止条約 (NPT) が締結されました。条約作りを主導したのはアメリカ、ソ連などの核所有国で、アメリカ、ソ連、イギリス、フランス、中国の5大国以外の核保有を禁止します。逆にいうと5大国が独占します。ターゲットは日本とドイツでした。
 日本は1970年にNPTに署名しながら5年間批准、加盟の手続きをしませんでした。理由は、「日本の核武装のオプションが閉ざされる」 からです。アメリカは 「核抑止力」 の 「核の傘」 の実行性を確認させて批准を強制しました。

 これが 「非核三原則」 を堅持しているという日本の実情です。
 アメリカの核は有事の時に行使し、「日本を守る」 だけでなく、日本の核武装に対する 「抑止力」 の役割も持っていたといえます。
 そしてアメリカ本土の被害を小さくするための基地の散在は、日本にとっては 「本土」 への被害を免れるための沖縄基地ではないでしょうか。歴史は繰り返されます。


 昨年12月、ノーベル平和賞は、核兵器を法的に禁止する 「核兵器禁止条約」 を実現するために設立された 「核兵器廃絶国際キャンペーン (ICAN)」 が受賞し、10日にはノルウェー・オスロで授賞式がありました。そこには広島、長崎の被爆者も出席しました。
 2013年から14年にかけて、ノルウエ―のオセロ、メキシコのナヤリッド、オーストリアのウィーンで開かれた核の非人道的結末を論じる国際会議を通じ徐々に核兵器の開発や製造、実験、保有、使用、または使用の威嚇を全面的に禁じるという共通認識が醸成されていきました。
 その成果は16年秋の国連総会決議に反映され、法的禁止の具体的措置をめぐる交渉会議開催へと結びつき、17年3月、国連で 「核兵器禁止条約」 の成立・締結を目指した外交交渉が開始されました。
 ICANは101カ国・468の非政府組織 (NGO) がパートナー組織になっています。各国の政府に任せておくだけではなかなか解決しない世界共通の重要課題に対して、市民社会に根付いたNGOが積極的な役割を果たすことで現実を動かし、未来を変えていこうという活動です。被爆者の証言を現実の外交と結びつけるなどの活動を続け、昨年7月に国連での採択にさいしては主導的役割を果たしたと評価されました。加盟団体のNGOは自国政府への働きかけを行いました。その結果、市民の力が決して小さいものではなく、政府を動かすことができることも示しました。

 核兵器禁止条約の前文には 「ヒバクシャの苦しみに留意する」 と盛り込まれ、核兵器は 「いかなる場合の使用も違法」 と 「核の非人道性」 が明記されています。核兵器で核を封じ込めるのではなく、核を禁止することが必要だという主張です。

 NPTと核兵器禁止条約は矛盾するものです。核所有国にとって核兵器禁止条約はあいいれないものです。
 では、核兵器禁止条約への被爆国である日本の立ち位置はどうだったのでしょうか。
 参加しませんでした。理由は、①核保有国が参加する見込みがなく核廃絶につながりそうにない、➁北朝鮮の核ミサイル開発で悪化する安全保障環境を考えると 「核の傘」 は不可欠である、③条約に反対する核保有国と推進派の非核保有国の分断が一層深まる、と説明します。
 日本政府は毎年、国連に核兵器廃絶決議案を提出していますが本気ではありません。昨年は見透かされて賛成国が減っています。


 広島、長崎、ビキニ珊礁の被害を受け、福島原発事故の経験を持つ日本こそ、原爆、核兵器、原発の恐怖、危険性をごまかすことなく、もっと声高に語り続ける責務を負っているはずです。

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