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労働者の誇り
2017/12/19(Tue)
 12月19日

 12月17日の日曜日、TBSのテレビドラマ 「陸王」 は最終回直前です。 
 元来足袋製造のこはぜ屋は、陸王を作り続けるためには資金援助が必要ということで、役所広司が演じる宮沢社長は松岡修造が演じる米国企業 「フェリックス」 の御園社長からの買収案を全社員の前で説得し、了解させます。
 その時のシーンです。平均年齢58歳のこはぜ屋でも最古参の庄司照枝が演じる社員はまえかけを持ち上げて涙を拭います。誇りと悔しさがにじみ出ていました。前話では買収に反対した社員が自分に言い聞かせながら叫びます。「こはぜ屋が支援を受けるのでなく、俺たちの技術がフェリックスを支援したといわせようじゃないか」
 もう1人の社員がいいます。「会社が買収されると、最初に買収された会社の社長の首が危うくなるといいますけど、俺たちが社長を守りますから」
 フェリックスは、自ら商品開発はしないで買収をくり返して拡大してきた会社です。
 ドラマは現在のM&Aの実態をのぞかせていました。


 それを地でいくことが起きています。
 12月16日の日経新聞です。「黒田電気、TOBが成立 MBK傘下に」 の見出し記事が載りました。
 黒田電気に関する15月9月1日の 「活動報告」 の再録です。
 以前のように、銀行を併せ持った財閥グループ企業による株の持ち合いや、その傘下に中小企業を抱えていた時は、株主は株価や配当にあまり関心を持ちませんでした。労働者にとっても労使関係・労働条件決定に大きな影響はありませんでした。
 しかしファンドのような投資が登場してくると会社のあり方も違ってきています。グローバル化による投資の国際化の中で、「物言う株主」 が登場します。投資家は株価の短期の所有期間における上昇と売買を目的にし、長期的会社経営には関心がありまあせん。そのようななかで会社経営を委任されている経営者は存続の対応に必死です。

 15年8月22日の毎日新聞に 「黒田電気 個人株主、村上氏を警戒」 の見出し記事が載りました。村上氏とは、かの 「お金を儲けることはいけないことですか」 と発言した村上ファンドの村上世彰。村上の長女がCEOを務める投資会社C&Iホールディングスは黒田電気の株約16%を握り、21日の株主総会には村上世彰ら4人の社外取締役選任案を提出しました。そして 「今後3年間、最終 (当期) 利益の100%を株主還元できると」 訴えました。
 黒田電機は2015年3月期に2期連続の最高益を達成しています。すでに取締役6人のうち半数は社外取締役です。村上側は定員を増やさなければC&Iホールディングス系が過半数以上を占めることをねらいました。
 株主総会では、現経営陣の従来の手堅い経営を志す政策と、村上側の企業の合併・買収 (M&A) を通じた高成長を求める意見が真っ向から対立したといいいます。村上側からいえば、最高益を達成しているときがM&Aのチャンスで、高騰した株が売れたら撤退です。会社への愛着はまったくありません。それが 「お金を儲けることはいけないことですか」 です。
 しかし村上側の提案は最終的には約6割の株主の反対で否決されました。
 利益の株主配当率を決定するのは取締役会です。現取締役会の提案は40%から65%です。しかし村上らの 「最終 (当期) 利益の100%を株主還元できる」 との主張が退けられた背景には、株主それぞれのリスク管理の意識が働きました。

 黒田電気は本来の業務だけでなく株主対策にも翻弄されました。
 17年8月14日の日経新聞です。記者の目に 「黒田電気、低空飛行が招く波乱第2幕」 の見出し記事がのりました。
「株主総会を巡る旧村上ファンド勢と経営陣の対立が注目された黒田電気の先行きに暗雲が漂っている。2017年4~6月期決算は大幅な減収減益で株価下落に拍車をかけた。車載関連機器などに資源を集中して脱専門商社を急ぐ方針だが、競争は厳しい。経営方針が食い違う大株主の投資ファンド、レノ (東京・渋谷) は株の大量取得で経営陣に圧力を強めている。業績や株価の低空飛行をきっかけに、波乱劇の第2幕が開く可能性もある。
 売上高31%減、純利益25%減――。黒田電気が7月末に4~6月期決算を発表すると、業績不振を嫌気した売りで翌日の株価は4%下落した。」

 その結果です。
 12月16日の日経新聞です。
「電子部品専門商社の黒田電気は16日、アジア系ファンドのMBKパートナーズによるTOB (株式公開買い付け) が成立したと発表した。発行済み株式数の68%にあたる2570万株の応募があり、買い付け予定数の下限 (1891万株) を上回った。黒田電気は今後、臨時株主総会の決議を経て、上場廃止になる見通し。……
 黒田電気の大株主には旧村上ファンド代表の村上世彰氏の親族や同氏が関与する投資ファンドが並び、合計すると発行済み株式数の約4割を握る。村上氏らは黒田電気に他社との経営統合や自社株買いを迫り、本業の立て直しを優先したい経営陣との対立が深まっていた。
 経営の自由度を高めたい黒田電気はMBKによるTOBに賛同。MBKは村上氏らとの交渉を進め、TOB価格を引き上げるなどして村上氏らの賛同も得ていた。」

 TOB (株式公開買い付け) は、「不特定かつ多数の者に対し、公告により株券等の買付け等の勧誘を行い、取引所有価証券市場外で株券等の買付け等を行うこと」 と定義されています。つまりは融商品取引所 (証券取引所) を通さない取引を行います。
 決められた期間に、決められた株数、一定の価格で買いますと宣言して不特定多数の投資家から株を買い集めます。おもに企業の経営権を取得して企業の買収や子会社化を目的とするものがおおいといいます。
 その結果、旧村上ファンドはMBKパートナーズに高い価格で所有株を売ることが可能となります。村上ファンドは 「お金を儲けることはいけないことですか」 とこのようなことをくり返しています。

 「陸王」 の松岡修造の会社はファンドではありませんが、似たようなことをくり返してきていました。
 ファンドが 「お金を儲けることはいけないことですか」 を実行すると 「会社が買収されると、最初に買収された会社の社長の首が危うくなる」 が起きますが、「俺たちが社長を守りますから」「 とはなりません。次に登場するのは労働者の合理化です。
 ファンドは 「お金」 以外に関心がありません。


 もう一度15年9月1日の 「活動報告」 の再録です。
 バブルが崩壊し、ファンドが飛び交うようになった頃から、会社は誰のものかという議論が起きると 「ストックホルダー」 (株主) という主張がはびこっています。経済のグローバル化が進む中でのグローバル・スタンダードではさらにそうです。「コンプライアンス」 が登場し、重視されます。

 では、村上らのような株主のものでしょうか。労働者は、労働者の側からの 「コンプライアンス」 ・秩序を対峙させて主張する必要があります。なぜなら、会社の利益をつくり出しているのは労働者だからです。
 会社は、社会の中に存在し、関連する事業・企業があって存在でき、利用者があって維持できています。そして会社の中には労働者がいます。「ステークホルダー」 (利害関係者) のものです。さらに利害関係者は拡大し、顧客・消費者、そして事業所が存在する地域の人たちも含めるまで捉えられるようになっています。法人としての会社は社会的存在・責任もあります。会社は株主が 「お金を儲ける」 だけの組織ではありません。
 そして、労働組合にも社会的責任があります。


 12月17日のTBSテレビ 「サンデーモーニング」 は12月11日に発生した新幹線 「のぞみ34号」 の台車亀裂問題を取り上げました。そのなかで涌井雅之氏は 「最近は技術は発展しているが技能は劣化しているのではないか」 とコメントしました。
 技術者が異常事態を発見しながら判断を上に仰ぐというのは任務を放棄しています。異常事態が 「現場で起きている」 のです。現場が状況を一番知っているのであって、原因も推測できます。判断は現場がくだすべきです。
 技術者は、身に着けた感覚で、音、色、匂いから異常・正常を判断します。それ以上の的確な正しい判断はありません。
 しかし、事故が拡大するという判断よりも列車を遅らせない、そのために上司の判断を仰ぐという行動をとります。安全と遅延のどちらを選択するかの判断など論外です。
 今回の事故で失ったのは、もっとも取り返しが難しい会社の安全対策の管理システムへの信頼です。会社はそのことを自覚する必要があります。

 こはぜ屋の労働者は自分たちの仕事に誇りを持っていました。鉄道の労働者も、自分の経験・感覚・技能への誇りと安全を守るという責務をもっと自覚する必要があります。

   「活動報告」15.9.51
  当センター「いじめメンタルヘルス労働者支援センター」ホームページ・ご相談はこちらから
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