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顧客至上主義的な対応をすることが正しい事ではない
2017/10/06(Fri)
 10月6日 (金)

 9月、UAゼンセン流通部門は、『悪質クレームの定義とその対応に関するガイドライン』 を策定しました。流通部門は組織する組合は500を超え、約100万人の組合員を組織し、スーパーマーケット部会、GMS部会、百貨店部会などをかかえています。運動方針の主な政策・取り組みのなかに 「悪質クレーム問題への対応」 も掲げています。ガイドラインを紹介します。
 「はじめに」 です。
「……近年、報道等で様々な団体が謝罪している場面を数多く見かけるようになり、日常的に消費者から店舗で謝罪要求を受けるようになっている。また、消費者の不当な要求を受け日常の仕事に支障が生じ、流通・サービス業に従事する労働者に大きなストレスを与える事例が後を絶たない。消費者からの不当な要求は、ハラスメントの新しい領域としても社会的な問題となっている。
 私たちの産業は、顧客第一主義を大原則に掲げ、消費者の行動は常に正しいとの認識が強く、消費者からの意見に対しては不当なものであっても耐えなければならない風潮がある。そしてこのことが社会的にもモンスター化する消費者を助長させることで悪影響を及ぼしているといえる。さらに、流通・サービス産業はそのことから起因していると考えられる退職者の増加、接客対応の難しさから働く仕事として敬遠される傾向にある。
 ……消費者も従業員もお互いが共に尊敬される存在であり、健全で対等な関係をつくるためにはお客様は決して神様ではないことを認識すべきである。産業の魅力を向上させていくためには、このような悪質クレームに対して毅然として対応をとっていくことが必要であり、サービス産業で働く者を守ることにもつながる。」
 切実さが伝わってきます。苦痛をともなっていてはいいサービスは提供できません。労働者はお互いが共に尊敬される存在であることを期待しています。

 悪質クレームに関する現状です。
「クレームの傾向
 クレームの特徴としては一つ目に高学歴、高所得、といった社会階層が高い方のクレームが多くみられる。この層は、自尊心が高く、完全主義的な傾向が強い方が多いことから起因しており、『謝罪文を出せ!』 『社長を呼べ』 などの要求をすることが多くなっている。二つ目には、そもそも社会的な不満が高い階層の方がおり、日常のストレスをサービス業に従事する従業員にむける傾向があり、接客に関するいいがかり的なクレームや大きな声を上げて怒鳴る行為をとる傾向がある。
 このことは、集団主義的文化の消費者よりも個人主義文化の消費者が増えてきている象徴であり、背景には、格差社会の拡大といった社会問題も大きく含んでいるといえる。」 (関西大学社会学部社会学科 池内祐美教授 講演内容)

 従業員が理不尽で過剰な対応を強いられている典型例です。
 (ア) 社長をだせ、責任者を呼べ、上の者を出せのリピート
 (イ) 対応の悪さを執拗に指摘
 (ウ) 不快感を晴らすために、叶いそうにない要求をあえてストレートに主張
 (エ) 文章をよこせ、一筆入れろとの要求
 (オ) 長時間の監禁
 (カ) 普通の顧客なら受け入れる対応を拒絶しつづける

 労働者の精神衛生上の問題です。
「……しかしながら、トラブルが発生してしまった場合に、従業員がお客様に対して過度に責任を大きく感じてしまったり、無理して対応を続けるあまり、従業員の疲弊が高まる傾向が強く、仕事のストレス要因であると考えられる。日常の場合でいえば、レジ打ちの際に急いでいるお客様から時間的なプレッシャーを感じたり、商品等に対するクレームや過度な (特に理不尽な) 要求に対して対応を迫られたりする場合などである。従って、小売業におけるメンタルヘルス対策では、これまで多くの職業性ストレス研究で問題とされてきた様々な職業性ストレス要因に加え、時間的プレッシャーや労働者での負担などにも考慮して対応していくことが大切と思われる。」 (平成22年 厚労省 小売業におけるストレス対策への支援)
 悪質クレームによる企業損失です。
「企業においても悪質クレームに対して迅速かつ適切な対応が図られなければ、通常のお客様へのサービス低下が起こり、他の顧客に迷惑をかける事態にも発展し、さらに、従業員が大きなストレスを受ける職場であれば離職率の増加や人材が集まらない事態に陥る危険もある。」
 しかし、企業ごとに対応の違いがあります。
「クレーム対応については企業ごとに大きく違っており、従業員が行うクレームへの対応は大きく違っている。ある企業では、一定の要求レベルをこえる悪質クレームとして毅然と対応している企業もあれば、あくまでも顧客至上主義の中で 『お客様へは、納得いくまで対応する』 という基準をもうけている企業もある。こうした企業の対応の格差が悪質クレームの温床になりかねなく、産業全体への影響もありえる状況である。悪質なクレームに対しては毅然とした対応を図る産業全体の姿勢と、悪質クレーム対応の最低基準が必要であり、業界全体として認識を一つにしていくことが必要である。」
 「お客様へは、納得いくまで対応する」 のような対応は労働者の正義感を否定して受け入れ、自己をコントロールできなくなり、感情と行為の “乖離” をもたらします。また周囲の客にとってもクレーマーの行為は雰囲気を壊します。悪質なクレーマーを排除しても売り上げに大きな影響はでません。そのかわりに他の客へのサービス時間が増えるというリスク管理につながります。


 悪質クレームに関する課題です。
「……いつでも顧客至上主義的な対応をすることが正しい事ではないことを共通の認識にしていく必要がある。
 さらに、販売責任・製造者責任はあるものの、『消費者の選択した責任』 については強く保護される立場にあり、責任が偏っていることへの是正も必要であると考える。」
 しかし、企業側の対応の遅れもあります。
「企業側がクレームに対して慎重になる原因として、インターネットの普及により企業不祥事が一気に広まることへの警戒があげられる。拡大した情報がブランドを損なうことにつながれば顧客離れをおこし営業成績を下げる要因になりかねないとの考えが根強くなっており、消費者側が不当な要求をしているにも関わらず過剰な対応につながる傾向があり、対応が長期化し従業員のストレスが大きくなり生産性にも影響がでてくる。」
 しかし、クレームだけでなく無責任なインターネットへの書き込みに対応する手段はありません。別の手段でそれ以上の評価を得ることに力を注ぐ方がさきです。
 そこには悪質クレームの定義が存在しない、判断が困難なという問題があります。
「クレームの対応の難しさは、悪質クレームの明確な基準がないことがあげられる。……実際には厳格な対応が難しい環境にある。そのことが企業の対応に差異がうまれ、対応の難しさにつながっていることは否めない。一方、企業が自主的に判断基準を設定することは差し支えなく、悪質なクレームに対しては毅然とした対応をするための基準の策定には大きな効果を望める。一企業ではなく、業界全体としての基準作りをしていくことでより効果も大きくなっていく。」


 課題を解決するための企業の基本姿勢です。
 (1) 悪質クレームの定義と判断基準を明確にします。
「現場レベルでクレーム対応の判断ができるように悪質クレームの定義を明確にするのと同時に企業内で対応の考えを統一する。そのうえで、クレーム事例からクレームを類型ごとにまとめ、該当クレームごとに対応内容の基準を作成し、適正に対応できるように整理を行う。」
 (2) 企業は事前の啓蒙・教育を行います。
「企業は従業員に対して、悪質クレーム対策についての教育を実施し、従業員が過度に対応しないように考え方や対応を徹底していく。」
 (3) 毅然とした態度を示します。
「顧客至上主義の行き過ぎを見直し……『社会通念上受け入れられないことは、きちんと断る』 という毅然とした態度が必要である。企業は、従業員の保護、または業務に支障をきたさないためにも悪質クレームに対して判断基準を設け、早い段階で対応していく。」


悪質クレームの定義についてです。
「……悪質クレームに対応するのは現場の従業員であって、その従業員がじっさいの目の前の事態に対応するには、複雑な定義は不要であり、悪質クレームの定義については理解しやすい簡易なものが求められる。そこで、社会常識を大きく超える迷惑な要求者というものが業界の悪質クレームの定義として共通な認識になるだろう。一方で、悪質クレームの中には要求の内容自体には問題がないものの要求態度に問題がある場合や、反対に要求態度には問題がないものの要求内容が受け入れられない場合や、これらの複合型の場合などさまざまな類型が考えられる。これらのすべての類型を悪質クレームの範疇に含める定義がもとめられる。以上を考えたところによれば、悪質クレームとは『要求内容、又は、要求態度が社会通念に照らして著しく不相当であるクレーム』とするのが適切である。」


 企業としては、対策が必要です。
 (1) クレームが発生しないような予防策を講じることが重要です。予防策の効果が大きいと
  考えられる方法が教育・研修の実施です。
 (2) 企業として悪質クレームには毅然とした対応方針を明確に打ち出すことが重要です。
  業が、職場で働く者の後ろ盾となり、お客様と接する際の安心感を高めることが最大の効
  果をもたらすものとして期待できます

 (3)クレーム事案の発生、被害拡大、再発などの防止に対しては 「ミスは起り得る」 との認
  識に立ち、  クレーム情報を一元的に管理するため、報告 (連絡) の徹底を指導します。
 (4)クレーム対応は発生した内容と、種々の分類により変化することを認識し、業務に必要な
  知識等の研鑽に努めるとともに、顧客に応じた適切な措置が取れるような判断能力などの
  向上を図ります。
 (5)相談窓口を設置し、クレーム対応業務には様々な専門知識と豊富な見識を持ち、さらには
  対応感度の高い人材を配置することが望まれます。一人で対応しきれない悪質クレーマーに
  遭遇した場合など、精神が疲弊する前に担当者を交代することも時には必要であり、担当者
  を孤立させない

  ことが企業としても重要です。
 (6)日常で起こっているクレームの対応について、社内での情報交換や他企業の対応の研究と
  いった勉強会をしていくことが、対応レベルのスキル向上に大きく貢献します。
 (7)特に店舗においては、地域行政・警察・保険所など関係各所とのコミュニケーションを日
  常的に行い、クレーム発生時には相談できる体制をつくり迅速な対応ができるようにしてお
  きます。


 現場で起きている切実な問題に、UAゼンセン流通部門の取り組みを示しながら社会全体での取り組みになるよ運動を進めていく必要があります。
 5月19日から開催されている 「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」 においてもこの内容をふまえた議論が行われることを期待します。

   「悪質クレームの定義とその対応に関するガイドライン
   「活動報告」 2017.9.29
   「活動報告」 2017.7.14
  当センター「いじめメンタルヘルス労働者支援センター」ホームページ・ご相談はこちらから
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