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トヨタという会社
2017/08/25(Fri)
 8月25日 (金)

 トヨタ自動車は現在、企画・専門業務の係長クラス(主任級)約1700人に裁量労働制を導入していますが、“自由な働き方” を認める裁量労働の対象を拡大すると発表しました。事務職や研究開発に携わる主に30代の係長クラスの総合職約7800人のうち一定以上の自己管理・業務遂行能力を持ち、本人が希望し、所属長、人事部門の承認がある者が対象です。非管理職全体の半数を占めることになります。
 残業時間に関係なく毎月17万円 (45時間分の残業代に相当) を支給し、さらに一般的に残業代を追加支給しない裁量労働制とは違い、勤務実績を把握して月45時間を超えた分の残業代も支払います。これまでの残業代支給額は月10万円程度でした。そのための原資は、以前すすめた人事・賃金制度の改革で浮いた分を充てるといいます。16年1月から、全社員約6万8000人のうち生産現場で働く約4万人の労働者の賃金体系を見しました。
 対象者には年末年始や夏休みのほかに平日で連続5日の年休取得を義務付けます。20日間の年休を消化できなかった場合、制度の対象から外します。
 新制度導入の理由を、自動車産業では自動運転分野などで米グーグルなど異業種との競争が激しくなっていて、仕事のメリハリをつけて創造性と生産性を高める必要があると判断したと説明しています。専門性の高い技術者の間では一律の時間管理の弊害を指摘する声が出ていたといいます。
 現在は、繁忙期の超過を認める労特別条項付きの36協定を結んでいますが、新制度はこの範囲で運用します。新制度では繁忙期に備え残業の上限時間を月80時間、年540時間にします。(ちなみに、2009年の協定は月80時間、年720時間)
 上司が対象者に時間の使い方の権限を移します。
 新制度案を7月末に労働組合に提示し、12月の実施を目指します。

 政府は今秋の臨時国会に高収入の専門職を労働時間規制の対象から外す 「高度プロフェッショナル制度」 (高プロ) の法案を提出しますが、新制度は 「脱時間給」 の要素を現行法の枠内で、製造業の現場で独自の制度で先行導入します。
 「脱時間給」 は、ネスレ日本が4月に工場以外の社員を対象に労働時間で評価する仕組みを原則撤廃、住友電気工業は4月に研究開発部門で裁量労働制を導入しています。


 トヨタの新制度は、現在の労働時間削減に向けたうごきを嘲笑しています。時間外労働は例外であるということを無視し、いわゆる “働きかた改革” における時間外労働の上限規制等について労政審が6月5日に厚生労働大臣におこなった建議の 「上限は原則として月45時間、かつ、年360時間」 を “通常” と設定しています。この段階ですでに長時間労働です。そのうえで 「仕事のメリハリをつけて創造性と生産性を高める必要がある」 特別な事情や、臨時的な特別の事情がある場合として年540時間が設定されます。
 日本における残業は “周囲の雰囲気” が強制します。それも含めて 「新制度では上司が対象者に時間の使い方の権限を移します。」 本気で実行する社員はいません。中間層の社員にも長時間労働が強制され、恒常化が合法化されます。
 いわゆる “働きかた改革” のもう1つの柱である 「高度プロフェッショナル制度」 の年収制限のハードルを下げた導入でもあります。「高度プロフェッショナル制度」 が導入されたら他社でトヨタの新制度を変形させたものが登場してくることは明らかです。

 「一定以上の自己管理・業務遂行能力を持ち、本人が希望し、所属長、人事部門の承認がある者が対象」 はトヨタの社員選別に際しての常套文句です。
 16年1月からの賃金体系変更の1つに、団塊世代の大量退職による技術力の低下を防ぐため、「スキルド・パートナー」 と呼ばれる60歳定年後の再雇用制度も見直しがありました。それまの再雇用制度では60歳の定年後65歳まで賃金が半減しました。
 制度見直しでは作業レベルや指導力など技能伝承に向けて極めて高い能力を持つ「余人を持って代えがたいような卓越した技能を有する人材」の優秀な人材は囲み込み、処遇を変えずに65歳まで再雇用し、若手の指導や高度な技術の伝承が円滑に継承できるようにしました。定年に際して峻別がおこなわれました。一定の評価基準に到達しないと評価された多くの労働者については従来の制度が継承されるといいますが、期待しないから早期に辞めろという位置づけです。峻別をするのは所属長、人事部門です。
 60歳間際になっても競争が煽られ、「会社人間 」 としての忠誠が試され、再雇用になっても処遇に差が付けられます。長年の労働者の貢献は簡単に切り捨てられます。後期高齢者制度が法制化されても形式になっています。「違法ではない」 がトヨタの人事制度です。
 このような危険な、無慈悲な制度を労働組合は了承するのでしょか。こう問いかけること自体が無駄のようです。


 8月21日の日刊工業新聞は 「トヨタ、部品価格引き下げ要請。原価低減で減益回避狙う 下期は上期と同水準に。サプライヤーの協力がカギに」 の見出し記事が載りました。
 トヨタは取引先部品メーカーと毎年2回、部品価格改定の交渉を実施しています。
 14年3月期決算から3年連続で2兆円を超える営業利益をあげました。14年度下期 (10月―3月) と15年度上期 (4月―9月) は利益の社会への還元を優先する形で部品価格の引き下げを見送りました。15年度下期に再開し、16年度下期からは引き下げ幅を拡大していました。
 16年3月4日の中日新聞の社説は、トヨタが16春闘のさなかに部品価格引き下げ要請を再開したことについて、「下請け企業から賃上げへの余力をも奪う」 と痛烈に批判しました。全トヨタ労連内の小企業約80社の平均獲得額は861円にすぎませんでした。
17年度下期の部品価格引き下げ幅について、17年度上期と同等水準にする方針を固め取引先部品メーカーへの正式要請を前に、内々に示し始めています。大半が1%未満の要求になる見込みですが、赤字の会社などは値下げが免除される場合もあります。
 18年3月期連結決算で2期連続の減益を予想しており、原価低減を継続します。18年3月期に設備投資が1兆3200億円 (前期比8.9%増)、研究開発費が1兆600億円 (同2.1%増) と高水準の投資を計画します。
 トヨタは例年、3000億―5000億円規模で製造原価を低減し、営業利益の押し上げ要因としてきました。ただ、17年度の原価低減は原材料費の高騰などもあり、期初時点の予想で900億円にとどまっています。原価改善効果は営業利益段階で前期比1000億円の増益要因としています。2期連続の減益を回避したいトヨタは、利益改善策の1つとして引き続き原価低減を推進します。
 部品価格の引き下げ以外にも18年度から新たな原価低減活動を始めます。主要部品メーカーに 「RRCI」 (良品・廉価・コスト・イノベーション) と呼ぶ活動の第3期目の取り組みを始めると伝えました。コスト目標などは個別に定めるが、20年代前半に市場投入する車種に活動成果を反映する考えだ。

 簡単にいうとトヨタの取引先は、本体の利益確保の調整弁になっています。利益が低い時は “製造原価を低減” するということで納品価格の引き下げをおこないます。これが本体としては “原価改善効果” となって利益をつくります。
 このことが本体の労働者の賃金を保障させています。
 トヨタ労組は今春の春闘まで4年連続でベアを獲得し、子育て支援や非正規従業員の処遇改善など勝ち取ってきましたが、ベアを保障させたのは “原価改善効果” でもありました。


 2月2日の聯合通信は 「付加価値の循環運動」 は本物か/トヨタの2017春闘」 の見出し記事を載せました。
 トヨタ自動車が、その突出した利益から日本の賃上げ水準を決めるようになって20年ほどになります。
 トヨタ労組の17春闘の方針案にはこれまでにない「表」が掲載されました。全トヨタ労連 (315労組、約34万人) の賃上げ比較表です。14、15、16春闘で、トヨタ労組以上の回答を獲得した組合数などが示されています。たとえば16春闘 (製造部門) では、トヨタ労組が1500円を獲得しましたが、それ以上獲得した組合は前年までのゼロから一気に32労組になりました。豊田鉄工の1600円をはじめ、デンソー、アイシンがトヨタと並ぶ1500円でした。こんなことはこれまでにありませんでした。トヨタ労組の獲得額は14年2700円、15年4000円、16年1500円でした。
 しかしこれはトヨタが関連会社の労働者のことを考えているということなのでしょうか。
 労働力不足はトヨタだけでなく関連会社にも押し寄せ、そこでの事故も多発して、トヨタ全体に大きな影響を与えました。処遇改善をおこなわないと再発します。トヨタにおいても非正規労働者の労働条件を改善せざるを得ませんでした。

 自動車総連は、16春闘から自動車産業全体の底上げをめざす 「付加価値のWIN‐WIN最適循環運動」 を3年がかりで始めました。リーフレットには現状分析から3つの課題をあげています。「企業収益のバラつき二極化」 「労働条件の格差拡大」 「人材不足」 です。これに対して 「裾野の広い自動車産業の基盤を支えている中堅・中小企業の底上げがなされてこそ、真の意味で経済や産業の持続的な発展が可能となる!」 と呼びかけ 「労働条件の改善」 と 「現場力の底上げ」 の両面からの取り組みが必要だと訴えています。
 自動車は、約3万点の部品からなる裾野の広い産業であり、トヨタだけでも関連・下請け・取引先は2万9315社 (帝国データバンク調査) になります。
 「付加価値のWIN‐WIN最適循環運動」 は労働組合主導の生産性向上運動です。「表」 は “頑張ればなんとでもなる” とj説得する手法です。そして “自力更生” “自己責任” の通告です。労使協調の窮極です。

 しかし、付加価値=利益はトヨタなどメーカーが独り占めしてきました。下請けは、「賃上げの余力があるのなら単価を切り下げよと言われる」 (JAM元幹部) というのが実態でした。部品など自動車関連のメーカー労組も多いJAMは、16春闘で517労組が平均1346円の賃上げ獲得でした。
 親会社より子会社の方が労働条件がいいということでは子会社の意味がありません。トヨタの子会社はトヨタよりも “当然” 低い賃金で、時間外労働月80時間、年540時間の長時間労働を強制されます。

 トヨタ労組はトヨタと一体です。トヨタ労組は全トヨタ労連を支配します。
 そして全トヨタ労組は自動車総連を主導し、自動車総連は連合で大きな発言力を持っています。その連合が “働きかた改革” を勝手に推し進めます。
 経済界で発言力が大きいトヨタは政府進める “働きかた改革” に違法にならない範囲の現状維持を提示してけん制します。

 労働者と労働組合は、政府と使用者のごまかし・居直りの “働かせかた改革” ではなく本当の “働きかた改革” の議論をすすめ法案に活かしていく必要があります。

   「活動報告」 2017.7.25
   「活動報告」 2016.7.15
   「活動報告」 2015.2.3
  当センター「いじめメンタルヘルス労働者支援センター」ホームページ・ご相談はこちらから
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