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当たり前の生活ができる最賃に
2017/07/28(Fri)
 7月28日 (金)

 厚生労働相の諮問機関である中央最低賃金審議会の小委員会は25日夜、2017年度の最低賃金 (時給) の引き上げ額について、全国の加重平均で25円・3%上げるべきだとの目安をまとめました。現在の全国平均は823円です。実現すれば全国平均は848円になります。
 安倍政権は 「1億総活躍プラン」 で、毎年3%引き上げて全国平均1000円とする目標を掲げ、賃上げで景気浮揚を狙っています。今年3月にまとめた「働き方改革実行計画」にも同じ目標を明記しています。政府は企業への賃上げの呼びかけを続け、2020年までに「1000円」に引き上げることを目指しています。
 今年も物価や所得水準などの指標をもとに都道府県をA~Dの4ランクに分け、ランクごとに目安額が提示されまし。東京など大都市部のAランクは26円。Bは25円、Cは24円、Dは22円。この目安を参考に都道府県ごとに引き上げ額を決め、秋以降に順次改定されます。現在の最高は東京都の932円で、最低は沖縄の714円です。

 厚労省は、第2回の小委員会に資料を提出しました。今年の春闘の連合における妥結状況と高校卒の決定初任給です。
 連合調査の非正規労働者の春闘妥結状況は、時給の値上げ額は、単純平均は20.46円、平均時給965.13円、加重平均は21.29円、平均時給952.18円です。
 労務行政研究所による東証第1部上場企業と生命保険、新聞、出版でこれに匹敵する大手企業を調査対象にした高校卒の決定初任給は、事務・技術職一律166.231円、現業167.759円です。
 1か月の労働時間を8時間×21.75日 ((365日-104日) ÷12ヶ月) =174時間として計算すると
 平均時給965.13円×174時間=167.932円です。
 高校卒の決定初任給とほぼ同じ額になります。
 つまりは、非正規労働者の賃金は年齢や経験年数に関係なく高校卒の初任給とほぼ同じ額になります。
 しかし非正規労働者の賃金965.13円は労働組合に組織された労働者の平均で、最高の東京都よりも高い額です。これを非正規労働者の実態とみることはできません。
 最低賃金は都道府県によるばらつきのなかで各ランクのギリギリの賃金で働いている労働者も大勢います。


 海外ではすでに19世紀後半から最低賃金に関する法律が制定されます。
 理由は、賃金は労使の交渉によって決定されるべきで国家が介入すべきではないが、そうすると組織されていない労働者や家庭内労働などの労働者が低賃金のままに置かれるという事で該当しないということで最低賃金の決定機関が必要という声が大きくなっていきます。
 1928年、ILOは26号条約 「最低賃金決定制度の創設に関する条約」 を批准します。条約は、「団体協約その他の方法によって賃金をきめる制度が存在しない、あるいは賃金が非常に低い職業に従事する労働者を保護するため、最低賃金率をきめる制度を作ることを目的とした条約である。」 を目的としています。

 1970年、ILOは131号条約 「開発途上にある国を特に考慮した最低賃金の決定に関する条約」 を採択します。
 条約の目的は、
「最低賃金については、1928年の最低賃金決定制度条約 (第26号) や1951年の最低賃金決定制度 (農業) 条約 (第99号) があり、重要な役割を果たしてきた。しかし、第26号条約は賃金が非常に低い限られた産業や業種だけを対象にしたものであった。そこで、一般的に適用されるが、発展途上国のニーズを特に考慮した新たな条約を採択する時期がきたとして、本条約が採択された」
です。 規定としては
「この条約の批准国は、雇用条件に照らして対象とすることが適当な賃金労働者のすべての集団に適用される最低賃金を決定し、かつ随時調整できる制度を設置する。制度の対象集団の決定は権限ある機関が、関係のある代表的労使団体と合意または十分に協議して行う。
 最低賃金水準の決定にあたり考慮すべき要素には、可能かつ適当である限り、次のものを含む。
 1.労働者と家族の必要であって国内の一般的賃金水準、生計費、社会保障給付及び他の社会
  的集団の相対的生活水準を考慮したもの
 2.経済的要素(経済発展上の要請、生産性水準並びに高水準の雇用を達成・維持する必要性を含む)
  最低賃金制度の設置、運用及び修正に関連して、関係ある代表的な労使団体と十分協議する。」
です。
 日本の最賃制度は最賃とはいえません。


 終戦後、戦争中の賃金統制令がずっと残っていました。廃止されたのが昭和46年9月です。給与審議会ができますが、インフレと最低賃金の関係、公務員の賃金に適用したら財政にどういう影響を与えるか、最低賃金を決めるとしたら最低にするのか、標準にするのか、そういう議論が中心に議論がおこなわれます。しかし片山内閣のときの新物価体系による公定価格に入れる業種別平均賃金が出てきると、この議論は終わってしまいます。
 47年9月に労働基準法が施行されます。労働基準法の中に賃金委員会の規定があり、賃金委員会で最低賃金を審議することができる、その審議会に基づいて労働大臣が最低賃金を決めることができるという条文が入っていました。
 しかしGHQは、インフレで混乱している時期には最低賃金をやるのはあまり適当でないという意見を出したりしたこともあり、基準法ができたのですが、賃金委員会の条文だけは適用されませんでした。
 48年、経済9原則でインフレが収束すると最低賃金をそろそろ検討すべきではないかという意見がだされて50年に労働基準法および賃金審査会令による中央賃金審査会ができます。しかしその後も何段階かの議論をへます。

 戦後の賃金要求は生活給から始まりますが、能力給が登場し、毎年の賃金増が続くと産業間、企業間、さらに企業内においても個人間に格差が顕著になり、労使ともの課題になります。生活給的要素と能力給的要素をどう調和させるかが、最低補償的な要素を賃金制度の中でどう捉えるかが問題になります。
 総評は57年、「産業別最低賃金保障」 をうち出しますが中味は各企業でばらばらです。例えば、私鉄は年齢別最低補償・最低賃金18歳〇〇の要求で、おおよそ年齢30歳、勤続10年、扶養家族3人の基準時点に対する最低賃金を柱にして、年齢係数、勤続係数、経験係数、職格係数等を計算要素とした生活給賃金を要求しました。
 しかし中小企業などは置き去りになっていました。
 このようななかで最低賃金法制定の要求が大きくなり、57年5月に中央賃金審査会が再開され、59年、最初の最低賃金法が成立します。しかし業者間協定による最低賃金を認めていました。これはILO26条の決定機関に関する条項に抵触します。
 その後、ILOの国際労働基準を守れという労働組合の運動によってやっと1968年に最低賃金法が改正され、業者間協定は廃止されました。


 2007年11月28日、最低賃金法が改正されました。ワーキングプア解消を目指すため最低賃金を決める際、「生活保護に係る施策との整合性に配慮する」ことを明記し、9条には「労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう」 との文言も加えられました。
 この流れは、2009年に民主党政権になると加速しました。翌年、2010年6月に策定された政府の 「新成長戦略」 では、民主党のマニフェストに沿って、「最低賃金について、できる限り早期に全国最低800円を確保し、景気状況に配慮しつつ、全国平均1000円を目指す」 ことが決められ、2020年までに達成すべき最低賃金の水準として 「全国最低800円、全国平均1000円」 という目標が設定されました。
 これでも正規労働者と比べたら6割くらいの水準です。


 高卒初任給、現在の非正規労働者の平均時給、そして生活保護はほぼ同じ水準です。
 高卒初任給は、家族と生計を一緒にするか、会社の寮などに入った時に維持できる生活費です。独立して生計を維持できるものではありません。非正規労働者も同じです。ましてや非正規労働者が一家の大黒柱であったり、扶養家族を抱えている場合は生計が成り立ちません。
 それでも 「生活保護に係る施策との整合性に配慮する」 ということは、働いている者の方が働いていない者の収入を上回るということでしかありません。
 フランスでは生活困窮者への扶助は 「積極的連帯所得手当」 ととらえられ、世代をこえてだれでも生活困窮者に陥る可能性がある、そこから這い上がるための支援も必要という “持ちつ持たれる” の共通認識があります。
 しかし日本では生活困窮者にも自己責任・自助努力を強制し、そこから這い上がることも困難にしています。日本の社会福祉政策の貧困さが最低賃金の水準も決定しています。

 現在の非正規労働者の平均時給965.13円が1000円になったとしてもILO条約の 「1.労働者と家族の必要であって国内の一般的賃金水準、生計費、社会保障給付及び他の社会的集団の相対的生活水準を考慮したもの や2.経済的要素(経済発展上の要請、生産性水準並びに高水準の雇用を達成・維持する必要性を含む)」 といえるものにはなりません。
 憲法第二十五条で保障されている 「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。○2 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」 は、最低賃金法にはおよびません。
 その結果、生活を抱える非正規労働者はダブルジョブ、トリプルジョブをおこなわざるをえず、必然的に長時間労働を強いられています。


 最低賃金法の議論が起きると必ずでてくる主張があります。
 1つは、中小企業は人員削減をおこなわなければならないか潰れてしまうというものです。しかし中小企業のためにそこで働く労働者は我慢しなければならないのでしょうか。現在ばらまかれている雇用に関するさまざまな補助金はそのようなものにこそ優先して給付される必要があります。
 もう1つは、生活費補てんのために働く主婦パートの時給はそう高くなくてもいいのでは、賃上げを望まない人もいるというものです。その人たちは働く時間を短くすればいいのです。
 3つ目は、正規職員の本音で、高くすると正規労働者の賃金に影響が出てくるというものです。時代錯誤と言える主張ですが、使用者が賃金を抑える理由として公然と登場し、正規と非正規労働者の分断をはかります。

 最近は 「今すぐ時給1500円」 の要求が掲げられています。
 年収では年間労働時間2000時間として、1500円×2000時間=300万円です。
 これでも労働者の平均年収の8割にもなりません。
 本来の“働きかた改革”はこのようなことにもメスが入るものでなければなりません。

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