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震災の 「2次的要因」 に具体的対応を
2017/06/13(Tue)
 6月13日 (火)

 6月11日で、東日本大震災から6年と3か月です。
 被災地の状況は日々変化していきます。被災者の 「心」 もそうです。6年という年月は決して短い時間ではありません。風化が進んでいくのは必然です。しかし忘れてはいけないことにはこだわりつづけて伝承していく必要があります。
 震災の後の状況は 「そこ退け、そこ退け防災が通る」 という言い方があるのだそうです。防災という名のもとに被災者の意見は無視され、上からの計画が押し付けられます。目に見える復興が急がれますが被災者の 「心」 にはなかなか関心が向きません。
 被災者は地域的つながりが崩れ、個々を取り巻く経済的状況は大きな 「格差」 が生まれます。それにともなう “人間関係” にも大きな変化が起きています。新たな出会いもありますが、一方では、想像がつかないところで崩れていきます。そしてその具体的姿は学校にも表れ、“いじめ” も起きてきます。“いじめ” の問題をそれだけで限定して議論をしても解決には至りません。

 1995年3月17日に発生した阪神淡路大震災の時はどういう状況が生まれたでしょうか。
 貴重な資料を眠らせたままにしないで今こそ活かしていくことがなか必要です。15年12月11日の 「活動報告」 の再録です。
 阪神淡路大震災発生後10年間、兵庫県の関連機関は毎年 『阪神・淡路大震災復興誌』 を刊行しました。その最終版・第10巻の第6章 教育から、学校の状態、児童・生徒の心理状況はどうだったのか、それに教職員はどう対応していたのか拾ってみます。実際に教職員がどのような活動をしていたのかを検討する中から、教職員への対応策が探れるからです。

「被災児童・生徒の心のケアといえば、教育復興担当教員があげられ、学級担任が対応しきれない 『心のケア』 に、担任教諭、保護者、養護教論、スクールカウンセラー、関係機関の間に立って、コーディネータ一役を果たした。被災児童・生徒一人ひとりの症状を把謹し、『個に応じた心のケア』 を進め、家庭訪問をくり返し、教室に入れない児童・生徒に相談室で個別指導を行った。」
「心に大震災の傷を負った被災児章・生徒の教育的配慮に取り組む 『教育復興担当教員』 は2004年度に55人配置と、大幅減となった。要配慮児童・生徒の減少、震災から10年経過などによるもので、配置市町は、1998年度から変わらず、6市2町。……
教育復興担当教員は国の加配措量による配置で、1995年度に128人、1996年度から2000年度まで207人、2001年度180人、2002年度130人、2003年度65人と、要配慮児童・生徒の減少に伴って削減された。2004年度は当初、文部科学省が全廃方針を打ち出したが、兵庫県教委の強い要望で55人体制で継続された。
 2005年度からは教育復興担当教員としては廃止され、『阪神・淡路大震災に係る心のケア担当教員』 に名称変更して、神戸、西宮、芦屋、宝塚の4市に、計36人 (前年より19人減) が配置された。」

「カウンセラーが行う心のケアの分野で、教育援興担当教員は大きな役割を果たした。教師ならではの方法で成功した。担任ではないが、個別的な児童・生徒へのかかわりが活動の中核になった。学校とは集団の論理で運営されるが、個の論理を置き、個別指導を中心に置く活動だった。
 『声かけ・励まし・日記指導』 など教師の常のスタイルが80% 。加えて 『生活指導・学習指導で自信を持たせる』 支援を続けた。教師の技法というより自然的なかかわりで、相談活動も 『日常会話の中で』 が突出した。家庭、保護者との連携、相談にも積極的だった。1998年9月の台湾地震後、現地の日本人学校へ文部省が兵庫の教育復興担当教員を派遣したことは取り組みの成果を高く評価したからだ。」


「しかし、被災から10年たっても児童・生徒が負った心の傷は今も残されている。大震災からの援興が広い分野で進んだ中で、いまだに解決、解消の道が遠い課題でもある。大震災から学んだ教訓だ。
 兵庫県教委は、被災直後の1996年から、震災による教育的配慮を必要とする児童・生徒数の調査を続けている。1998年度の4,106人をピークに、1997年度から3年間は4,000人の大台を超え、2000年度から減少傾向となった要因別に見ると、被災から5年を境に、事情が変わってくる。前期は 『震災の恐怖によるストレス、住宅環境の変化、通学状況の変化』 などが主な要因。後半は 『家族・友人関係の変化』 や 『経済環境の変化』 などが漸増傾向を見せるようになる。これを県教委は 『二次的要因』 と位置づけている
 要因はどうあれ、要配慮児童・生徒は、10年後の2004年度1,337人、2005年度808人にのぼる。県教委をはじめとして教育現場では、初体験の 『心のケア』 に取り組んできた。その成果が要配慮児童・生徒数の減少である。その中心的役割を果たしたとして評価されるのが 『教育復興担当教員』。略称 『復興担』 は被災後、国の教員加配措置で配置され、『心のケア』 と 『防災教育の推進』 に努めた。」


「大震災で子どもが負った心の傷を調べる 『教育的配慮を要する児童・生徒の実態調査』 は兵庫県教委が1996年度から7月1日現在で続けている。
 2001年度までは県内すべての公立小・中学生を調査対象にしたが、2002年度から震災後に出生した子どもを除くことにし、2004年度は小学1 、2 、3 年生が調査対象外となった。
 2004年の調査対象は小学校828校1分校、15万9,697人。中学校359校3分校 (芦屋国際中等教育学校を含む)、14万9,117人。合計1,187校4分校、30万8,814人。
 調査結果によると、配慮が必要な小学生556人 (前年比420人減)、中学生781人 (同151人減)、合計上1,337人 (同571人減)。毎年減少となっているが、被災9年後に新たな発症が74人もいた。」

「要配慮児童・生徒の2004年度要因 (複数回答) は 『住宅環境の変化』 が43.5% (前年40.1% 、前々年40.0%)。『経済環境の変化』 が37.1% (34.7%、33.1%)。『家族・友人関係の変化』 が36.9% (39.0%、41.0%)。『震災の恐怖によるストレス』 が29.9% (35.3%、36.8%) で、これら4項目が要因の大半を占める。4項目以外では 『学校環境の変化』 4.9% (6.9%、8.6%)、『通学状況の変化』 4.3% (4.7%、5.5%) など。
 トップの 『住宅環境の変化』 は前年と変わらないが、『経済環境の変化』 が2位 (前年4位、前々年4位) につけた。『家族・友人関係の変化』 は3位 (前年2位、前々年1位)。「震災の恐怖によるストレス」 は4位 (前年3位、前々年3位)。要因別順位は2位以下にかなりの変動が見られた。『震災の恐怖』 が大きくポイントを下げたのに対し、『経済環境』 は毎年ポイントを上げ、最近の二次的要因の特徴を2004年度も見せた。
 9年間の調査結果の流れを見ると、1996年度から1999年度までは 『震災の恐怖』 の割合が最も高かった。『住宅環境』 は1996年度、1997年度は40%を超える高い割合を占め、その後、一時減少したが、2002年度以降、再び、40%を超え、2004年度は最も高い。
 生活基盤を揺るがす災害は、直接の衝撃だけでなく、その後の生活の不安定さなどの二次的ストレスが、心理的に大きな影響をもたらし続けることが指摘されている。この調査でも1995年度から2001年度まで 『家族・友人関係の変化』 が増加し、その後やや減少したとはいえ、2004年度でも36.9%を占めている。
 また、『経済環境の変化』 は1995年度以降、一貫して、その割合が増加し、2004年は37.1%、第2位となった。このような二次的ストレスが、震災の恐怖などのストレス体験を呼び起こすことも指摘されており、今後の取り組みは、調査結果の流れ、傾向を踏まえて進める必要がある。
 『震災の恐怖ストレス』 は倒壊家屋の下敷きになるなどの体験により、再び地震があることへの極度の緊張感を持ったり、地震の夢を見て泣き出すなど。
 『住宅環境の変化』 は避難所での苦しい生活や住民移転の影響など。
 『家族・友人関係の変化』 は震災による家族や身近な人の死、保護者の別居、離婚、友人との別れなど。『経済環境の変化』 は震災の恐怖体験をしたうえ、家庭が経済的に悪化したり、保護者が失業。自宅の再建や転居費用がかさんだりするなど。」


「震災で心に傷を負った児童について、兵庫県教委は毎年行う調査で、震災後生まれを対象から外している。2004年度の調査では小学3年生以下が除かれ、4年生以上を調査対象とした。
 兵庫県教職員組合と兵庫教育文化研究所は、2004年7月、教育復興担当教員が配置されている神戸、西宮、芦屋、宝塚各市と北淡町の19小学校で、教育復興担当教員から開き取り調査を行った。その結果、小学1-3年生の中でも、約4%にあたる242人に心のケアが必要なことがわかったと発表した。
 242人には 『怖い夢を見る』 『乳幼児のような言動が現れる』 『集中力に欠ける』 『落ち着きがない』 『いらいらしやすい』 『攻撃的』 『音や振動に過敏』 などの症状が見られたという。
 これらは要ケアの判断基準になっている症状で、理由について、兵教組は 『家族・友人関係の変化』 『住宅・経済環境の変化』 など2次的要因によるものと分析している。
 家族が震災で死亡したり、失職や離婚など、乳幼児期に家庭環境の急変を経験して、ストレスが出ている。不安定な生活の中で子育てが、子どもの心の成長に影響を与えていると主張している。」

 時間の流れとともに要因は変化していきます。10年たっても問題は深刻です。
 このような事態は東日本大震災の被災地においても今後同じような状況が生まれることが予想されます。


 東日本大震災での被災地の子どもたちにも問題は確実に生まれています。
 15年12月1日の 「毎日新聞」 は、「被災地、教育に貧困影響 『父が非正規・無職』 倍増」 の見出し記事を載せました。
 東日本大震災で被災した子どもたちの学習を支援している公益社団法人 「チャンス・フォー・チルドレン」 (本部・兵庫県西宮市) は、11月30日、同法人が支援に関わるなどした被災家庭2338世帯を対象に2014年5〜9月に実施した、被災地の子どもの貧困や教育格差の実態調査 「被災地・子ども教育白書」 を発表しました。
 白書によると、父親が契約社員などの非正規労働か無職の割合は13.1%で、震災前の6.3%に比べ約2倍になりました。逆に正規労働は9.4ポイント減の78.5%に落ち込みました。世帯所得が250万円未満の割合は36.9%で、震災前に比べ8.5ポイント増えました。
 理想とする進路を中学3年生に尋ねたところ、56.2%が 「大学以上 (大学、大学院)」 と回答。しかし 「現実的には、どの学校まで行くことになると思うか」 との質問に 「大学以上」 と答えた割合は44.3%にとどまり、11.9ポイントの開きがありました。その理由に 「経済的な余裕がない」 を挙げたのは13.4%。国が全国の親子を対象に11年度に実施した同種の意識調査で、現実的な進路を選ぶ理由に 「経済的理由」 を 挙げた割合は4.3%しかなく、被災地の子どもたちが自分の希望に反し、経済的理由から現実的な進路選択を迫られる割合が高まりました。
 一方、不登校の経験がある中高生を世帯の所得別でみると、年収100万円未満世帯が最も高い17.9%で、低所得世帯ほど高くなっています。「安心して過ごせる居場所がないと感じたことがある」 「自殺をしようと思ったことがある」 と回答した割合も、低所得世帯ほど高い傾向がみられました。
 同法人の今井悠介代表理事は 「震災の影響は学習面だけでなく生活のさまざまな面に及び、要因も家庭の経済状況や人間関係など複数が絡み合っている。給付型奨学金の充実や子ども専門のソーシャルワーカーの制度化など、国や自治体、地域が連携した支援が必要だ」 と指摘しています。
 しかし現実は 「心」 を無視した防災教育だけが叫ばれています。
 その中で、自分たちの体験を踏まえてこの問題に取り組んでいるあしなが育英会の地道な活動には本当に脱帽します。


 このような児童・生徒に対応しているのが教職員です。
 しかし、阪神淡路大震災の時は、教職員や公務員の 「心のケア」 についてはさほど問題になりませんでした。実際は深刻でした。5年後、10年後に 「バーンアウト」 「PTSD」 が発症しています。
 東日本大震災でも 「二次的要因」 が表れ始めています。教職員は初体験の 「心のケア」 にも対応していかなければなりません。

 兵庫県における震災から2年後の教職員の調査を行った兵庫庫県精神保健協会 こころのケアセンターの岩井圭司医師による 『教職員のメンタルヘルス調査 報告』 (兵庫県精神保健協会こころのケアセンター 1998年3月) を紹介します。

 調査から見えてきたことを [考察と提言] としてまとめています。
 ①震災の被害の大きかった地域に勤務する公立学校教職員ほど評価尺度上の得点が高い傾向が
  あった。
 ②非被災地域の学校に勤務する教職員の評価尺度得点も、一般人口中のそれに比べて著しく高く、
  学校教職員は平時から強いストレスにさらされていることがうかがわれた。
 ③震災時の個人的被災状況が深刻であった者および震災後の業務内容が過酷であった者ほど、
  調査時点での精神健康が低下していた。
 ④震災時の個人的被災状況が深刻であった者および震災後の業務内容が過酷であった者では、
  その後の生活においてもより甚大なストレス状況にさらされやすい傾向を認めた。
 ⑤長期的な精神健康の低下をもたらす予測因子としては、震災後の業務内容よりも個人的被災状況
  の方が重要であると考えられた。
 ⑥勤務先の学校が避難所になったかどうかにかかわらず被災地にある学校に勤務する者は、調査時点
  においても震災の影響を精神健康面でこうむり続けていた。
 ⑦被災状況・業務内容が同程度であった場合には、女性の方が男性に比して評価尺度上高得点をしめ
  す傾向があった。

 これらのことを踏まえて対策を考察しています。
災害をはじめとする心的外傷事件 traumatic event による精神健康の低下においては、その予後ないし全般的な重症度は、急性期の重症度としてよりも回復の遷延というかたちで出現することがこれまでの研究でしられている。また、被害の軽重は、急性期のある時点における横断的な重症度よりも慢性期の重症度と相関することが多い。
 そしてこのことこそが、本調査を意義づけるものであるといえる。学校教職員は災害後も長期にわたって学校という場所に恒常的にとどまり続ける者であり、長期的な展望と対策を必要とするからである。
 学校は教育機関であり、児童・生徒に広い意味での “援助” を与える場である。そして、学校教職員はトレーニングを受けたプロの救助者・災害援助者ではない。したがって、被災した児童・生徒に適切な教育的援助を提供することが優先されるべきであって、教職員たちが本来の学校教育以外の責任や業務を担うことは最小限にとどめるべきであろう。」

「大災害後の被災した児童・生徒のケアにあたっては、精神保健専門家 (精神科医、臨床心理士、精神科ソーシャルワーカー等) の関与が望ましい。しかし、子どもたちの現在の状態を災害前からの生活史の中に位置づけてとらえることに関しては、専門相談機関や専門家よりも学校教職員の果たす役割が大きい。特に、災害で保護者をなくしたり、保護者と離れて暮らすようになった児童・生徒を、生活状況・家庭状況の変化を考慮しつつよりトータルな援助者として見守り続けていくことができるのは、担任教師を措いて他にはない。つまり、被災した生徒・児童に対しては、教職員にしかできない援助というものがある。それゆえ、援助者としての教職員に求められるのは “簡便な” 精神保健知識ではなく、あくまでも教育者としての専門技能の延長上に位置づけられるべきものとしてのアドヴォカシー (擁護的・保護的援助) を提供する能力であり、その一環としての精神保健知識であるといえる。学校教職員にとって最小限の災害心理学の知識は、学校避難所に避難してくる被災者のためにではなく、教職員自身と子どもの精神健康の維持のために必要である。」

 阪神淡路大震災における貴重な体験を活かしていかなければなりません。
 教職員に対する “心のケア” と “ゆとり” が必要です。
「被災した生徒・児童に対しては、教職員にしかできない援助というものがある。」
 児童生徒の心理状態は、体験だけでなくその後の生活変化、社会の変化にも大きく影響されています。1人ひとりに目が届くだけの教師の人的配置体制が必要です。
 兵庫県のような “心のケア” ができる 「教育復興担当教員」 の配置は、教員同士で “ゆとり” を作り出すこともできます。安易なカウンセラーの導入はかえって学校現場を混乱させます。
 「痛みある心」 は児童・生徒も教職員も持っています。それを癒すのは 「痛みある心の裡」 をも共有している人たちとの人間関係です。


 学校の “いじめ” 問題の責任を教師だけに押し付けても解決しません。
 5月29日の朝日新聞 フォーラム 「いじめをなくすために」 に評論家の荻上チキさんがコメントを寄せています。
「多くのいじめは休み時間に教室で起きています。……ストレスがたまりにくい環境を学校がつくっていく必要があります。
 ただ、今でも多忙な教師だけに負担を押し付けるのは問題です。常に2人以上の大人が教室にいるよう、人員を増やすべきでしょう。
 いじめに遭うと1人で抱え込んで何も考えられなくなり、選択肢が狭まってしまう。だからSOSを出しやすくしてあげることが大事です。いじめた側は 「チクった」 と言うかもしれないけど、それは相手を悪者にして自分を正当化しようとする卑怯な言い分。『もしまた何か言われたら先生が対応するから、どんどんチクりましょう』。子どもたちにそう伝えるのです。……」


 問題が発生することが予測できたら、意識しながら、行動しながら事前にさまざまな対策を検討していくことが二次被害の “減災” につながります。

  当センター「いじめメンタルヘルス労働者支援センター」ホームページ・ご相談はこちらから
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