2017/07 ≪  2017/08 12345678910111213141516171819202122232425262728293031  ≫ 2017/09
電通の過労自殺は大手企業の傲慢さの象徴
2016/10/25(Tue)
 10月25日 (金)

 大手広告会社の電通で、昨年末に新入社員が過労自殺し、労災に認定されたことを遺族が10月7日に記者会見して明らかにしました。
 昨年4月に入社した新入社員は、試用期間が過ぎた10月以降1か月の時間外労働が105時間におよびました。しかし電通は、社員本人が作成する 「勤務状況報告表」 の時間外労働は月70時間を超えないよう指導し、新入社員は10月に 「69.9時間」、11月に 「69.5時間」 と記載していました。

 電通では、1991年に入社2年目の男性社員が過労自殺したことに対して遺族が提訴し、2000年に最高裁から東京高裁への差し戻し審で電通が損害賠償と謝罪をして和解しました。いわゆる 「電通過労死事件」 です。第一審判決では 「使用者の安全配慮義務」 違反が指摘され、判例はそれ以降の裁判でも踏襲されています。
 しかし電通においては労働環境が改善されていないといううわさはその後も漏れ伝わってきていました。今回の事件が報道されると、13年6月にも当時30歳で病死した男性社員は長時間労働が原因で過労死し、労災認定されていたことが明らかになりました。また14年6月に関西支社が、15年8月に本社が労基署から是正勧告を受けていたことが明らかになりました。新入社員は本社が勧告を受けた4カ月後のです。


 電通過労死事件の一審判決を契機に労働省は労災認定基準の改正作業に取りかかりました。その後、精神障害の労災認定は増えつづきます。
 使用者側も “高額の損害賠償金を支払わないため” のメンタルヘルス対策を開始しました。講習会では電通過労死事件の和解金額が掲載された新聞切り抜きを示し、管理職は社員の動向を監視し、裁判に至ったときに反証するための証拠づくりが命令されました。メンタルヘルス対策は、労働者個人の資質の問題、健康管理は自己責任というとらえ方で職場環境改善には至りません。その姿勢は、昨年12月1日から法的に義務付けられた 「ストレスチェック制度」 の具体的運用においてもそうです。
 労働者個人の資質の問題というとらえ方は、いみじくも今回の過労自殺事件が報道され、政府の 「過労死等防止対策白書」 が公表された直後に武蔵野大の長谷川秀夫教授が言い得ています。ニュースサイトなどに 「月当たり残業時間が100時間を超えたくらいで過労死するのは情けない。自分が請け負った仕事をプロとして完遂するという強い意識があれば、残業時間など関係ない」 と投稿しました。抗議が寄せられると 「つらい長時間労働を乗り切らないと会社が危なくなる自分の過去の経験のみで判断した」 と釈明しました。会社のためには労働者は無理を受忍しなければならないという主張です。労働者の健康よりも会社が優先、労働者は使い捨て、いつでも取り換えがきくという多くの使用者の本音が吐露されました。
 さらに 「勤務状況報告表」 の書き替えは、多くの企業で行なわれていますが残業代の未払いも発生させています。

 そのような労務政策によって多くの企業で長時間労働がはびこっています。
 2012年3月、世界人権宣言に基づく社会権規約に対して、国際人権活動日本委員会は 「社会権規約第3回日本政府報告に対する 『カウンターレポート』」 を提出しました。そのなかに過労死問題も盛り込まれています。
「下記の表は日本経団連の会長・副会長歴任者出身企業の36条協定の実態である。これは株主の立場から企業の社会的責任 (CSR) を求めて活動しているNPO株式オンブズマンが、労務上のコンプライアンスの現状を把握するために所轄の労働局を通じて得た情報である。」
 表には企業名、延長することができる最大時間 (1日、1か月、1年)、過半数代表者が記載されています。
 例えば、
  キャノン     15時間、    90時間、1000時間、労働組合
  トヨタ自動車   8時間、    80時間、 720時間、労働組合
  新日鉄製鋼   8時間、   100時間、 700時間、労働組合
  三井物産   12時間45分、120時間、 920時間、労働組合
などです。
 三井物産の労働者は8時間労働で、間に1時間の休憩時間をはさみ、そのうえで12時間45分の残業をしたら、通勤時間を含めたら生活時間はどれくらいになるのでしょうか。
 かつての栄養ドリンクのコマーシャル 「24時間働けますか」 そのものです。
「日本を代表する、かつ日本の経済界をリードする大企業が労働基準法の規定をはるかに超えた36条協定を労働組合と締結しているという実態が示されている。労働組合がその不法不当な協定に合意し、かつ所轄の労働基準監督署がその36条協定を指導し訂正を求めることなく受理しているというゆゆしき結果が示されている。」
 記載されたある企業は、全員が対象ではなく、急に残業が必要になったときの担保だと弁明しましたが果たして実態はそうでしょうか。さらに多くの企業で 「延長することができる最大時間」 を超えた時間外労働が常態化しています。その具体的例が電通ではないでしょうか。

 このような長時間労働を 「合法化」 しているのが、厚労省が2003年10月22日に発した労基法36条の運用に関する 「通達」 (基発第1022003号) のなかの 「特別条項付き協定」 です。
「労使当事者は、……『限度時間』 以内の時間を一定期間についての延長時間の原則として定めた上で、『限度時間』 を超えて労働時間を延長しなければならない『特別の事情』が生じたときに限り、一定期間として協定されている期間ごとに、労使当事者間において定める手続を経て、『限度時間』 を超える一定の時間まで労働時間を延長することができる旨を協定すれば、当該一定期間についての延長時間は 『限度時間』 を超える時間とすることができることとされているところである。」
 具体的には 「特別の事情」 がある場合は 「1日を超え3箇月以内の一定期間について、原則となる延長時間を超え、特別延長時間まで労働時間を延長することができる回数を協定するものと取り扱うこととし、当該回数については、特定の労働者についての特別条項付き協定の適用が1年のうち半分を超えないものとすること」 です。
 要するに、特別条項付き協定を結べば、限度時間を超える時間を延長時間とすることができます。その運用 (悪用) 次第では労働時間の上限はないといえるものになります。
 経団連が、政府への 「おねだり経団連」 と呼ばれて久しいですが、政府・厚生労働省は労働時間の規制においては使用者の都合だけを配慮し、労働者の健康問題については 「通達」 「指針」 で済ませています。
 長時間労働を合法化する特別条項付き協定は直ちに撤廃されなければなりません。

 長時間労働の実態は、特別条項付き協定を含めた36協定を締結している一方の労働組合にも責任があります。さらに、特別条項付き協定を超えた長時間労働の黙認は労働組合も共犯です。
 電通過労死事件の時、遺族は電通の労働組合に裁判へ支援を要請しました。労組は 「中立を守る」 という回答で拒否しました。「中立を守る」 は、会社に非があったことが明らかになっても会社を追求しないで、裁判の結果を黙殺しました。その結果、今回の事件も発生しました。労働組合は共犯です。しかし今回も沈黙を守っています。労働者の生命も守ろうとしない労働組合はもはや労働者への敵対者でしかありません。

 さらに、「カウンターレポート」 にあるように 「所轄の労働基準監督署がその36条協定を指導し訂正を求めることなく受理しているというゆゆしき結果が示されている」 問題が指摘されています。
 電通において労災認定が行なわれ、臨検・指導がおこなわれた後でも過労自殺者が起きるということは臨検・指導が形式に終始し、有効性を発していないということです。
 電通は、なぜ指導に従って労働環境を改善しなかったのでしょうか。指摘や指導があって自分たちには社会的力と存在感があるので見逃される、もみ消せるという大企業の傲慢さがありました。多くの大企業がそうでした。
 数年前から労基署の臨検で長時間労働が摘発され、実態が公表されて報道でも大きく取り上げられ、社会問題化しました。その結果、自主的に改善を進める企業も増えています。
 しかし民間企業の人事関係者の間では、摘発の “いけにえ” は、外食産業の次はIT産業だとささやかれていました。経済団体の中枢部から外れていて影響力が小さい産業だからです。これが現在の労基署の姿勢への評価でした。まさにトカゲのしっぽきりです。
 大企業こそ社会的責任は大きく、規範とならなければならなりません。労基署はそのように指導を強化する必要があります。


 現在、政府はさまざまな労働政策を推し進めています。労働者の保護が強化されると説明されています。しかし実際は経済成長における労働力の功利的活用の発想に基づくものでしかありません。
 過労死防止法は遺族の闘いで成立をかち取りました。労働者と労働組合は、長時間労働防止にむけて、政府の法制化による規制に期待をかけるのではなく、自分たちが獲得した地平を法律で担保させるような闘いを作り上げていかなければなりません。


   長時間労働問題
   「活動報告」 2016.9.9
   当センター「いじめメンタルヘルス労働者支援センター」ホームページ・ご相談はこちらから
この記事のURL | 長時間労働問題 | ▲ top
| メイン |