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非正規公務員は 「感情労働」 の前線にいる
2014/12/12(Fri)
 12月12日 (金)

 11月下旬、今春出版した本 『“職場のいじめ” 労働相談』 (緑風出版) の読者が所属する団体から学習会に呼ばれました。
 『本』 は事前に読まれているのを前提にして最近の話をしました。10月24日の 「活動報告」 に書いた第26回コミュニティ・ユニオン全国交流会の分科会 「交渉事例から考えよう――いじめ・パワハラとユニオンの可能性」 のなかでの闘争報告を紹介しました。被害の体験者からは同意できるという感想をもらいました。再録します。
 
「数年前から職場でいじめに遭い、ユニオンに加入して対応し、 “脱出” できたことでの教訓を3つ披瀝しました。
 1つは、いじめを受けると自殺思考になるので周囲は “見て見ぬふりをする” のではなく喚起する必要がある。
 2つは、いじめを受けたら、業務時間とプライベート時間の切り替えをしっかりし、業務時間以外に嫌な思いを持ち込まないで楽しむ。
 3つは、いじめに遭って怖いと思ったら逃げる。逃げることは卑怯でも負けでもなく、自己防衛の手段。
 報告者は最後に 『ユニオンに加入して、みんなに支えられながら、闘ってきてよかった』 と実感を語りました。そして、職場や社会は確実に変わってきていると語っていました。」

 いじめに遭ったら、まず自分を守ることを考えなければなりません。その手段として逃げることも必要です。逃げてから起きていることを冷静に、客観的に捉え直してみると事態が見えてきたりします。その上で対応を検討します。逆に我慢を続けると意識が内向きになってしまい、被害意識が拡大していって体調不良に陥ったりします。そうすると解決は困難になります。
 周囲の者が 「見て見ぬふりをする」 ことが及ぼす影響について話をすると議論になりました。
 いじめ問題の捉え方がいい方向に向かっているという感想を持ちました。

 学習会の参加者からは、『本』 を読んだが相談活動のためのマニュアルではなく研究書だったという感想が寄せられました。言われてみると確かにそのような性格を持っています。ただ、シンプルなマニュアルは多様に応用がききません。相談活動で寄せられる1件1件違う事態に対しては応用できる参考書が必要です。『本』 はやはりそのためのマニュアルです。
 別の参加者からは、「職場の暴力」 「感情労働」 の章を読んで、自分の職場の状況を捉えかえすことができたと言われました。研究・開発部門所属で、外部からも問い合わせや要望、意見が寄せられます。しかしそれだけではなく文句や強要もあり、長時間に及ぶこともあるといいます。業務から外れた話にも及ぶので話を切り上げたいという思いからストレスが湧いてきます。『本』 を読むまではどう捉えたらいいか、我慢しなければならないのかと考えていたといいます。


 今秋もう1冊本を出しました。『パワハラにあったときどうすればいいかわかる本』 (合同出版) です。
 書評がレーバーネットに載りました。転載します。
「『公務員を叩く人が首長になると、モンスターペアレントが増えるんですよ』、こんな話を大阪の教員から聞いた。客室乗務員 (CA)、看護師、介護士はじめ対人サービス業は、自分の感情を抑え、いつも笑顔で穏やかな対応が求められるので感情労働とも呼ばれるが、顧客からのパワハラの矢面に立ち、心身を壊すケースが少なくない。そんな問題も視野に入れているのが、いじめ・メンタルヘルス労働者支援センター (千葉茂代表) と精神科医・磯村大さんの共著 『パワハラにあったときどうすればいいかわかる本』 (合同出版) である。
 日本でパワハラを議論する場合、しばしば参照されるのが、厚生労働省の円卓会議が出した 『職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言』 である。この提言は 『働く人の尊厳や人格が大切にされる社会を創っていくための第一歩』 だと自らを位置づけているが、それを 『答え』 として固定化して捉える向きも少なくない。 本書も 『提言』、とくにパワハラの定義や6類型 (パターン) を参照するが、『この6つのパターンにあてはまるものだけがパワハラではない』 と言う。この視点が、前述した 『顧客からのパワハラ』 の理解に活きている。……」
 身に余る紹介をしていただきましたが、最初に 「感情労働」 が取り上げられていることに正直驚きました。
 
 感情労働とは、1900年代後半にアメリカの社会学者アーリー・ホックシールドが著書 『管理される心』 のなかで 「自分の感情を誘発したり抑圧したりしながら、相手の中に適切な精神状態を作り出すために、自分の外見を維持すること」 と定義しています。労働のなかで相手に迎合して本当の自分ではない自分を演じなければなりません。長期に及ぶと自分をコントロールできなくなり人格が破壊されます。 EUでは 「職場の暴力」 の概念に含まれるようになってきていますが、日本ではまだ 「お客様は神様です」 の対応が続いています。

 学習会の参加者の報告と書評で 「感情労働」 の問題が取り上げられたのは偶然でしょうか。時代の趨勢でしょうか。2冊の本が感情労働の啓蒙書になるならうれしい限りです。


 感情労働は、世界的には労働現場から問題提起され、それぞれの分野の専門家から意見が出されてきました。
「米国の賃金コンサルタント企業であるヘイ社は、独自の得点要素法を研究開発し、これが普及した。しかし1970年代後半になると、米国やカナダで、これが女性差別撤廃運動の批判の対象となった。ヘイ社の得点要素法は女性職務を低く評価するジェンダー・バイアスがあって、それが女性の低賃金の重要な理由となっているとの批判であった。そして、この批判の影響のもとに、1980年代以降、女性職務を低く評価しない考え方で得点要素法を研究開発することがすすんだ。その研究開発の重要な1つが、『感情労働』 にともなう労働者の負担を、四大ファクター 『負担』 の1つに採用することであった。そして、女性職務を低く評価しない考え方が、女性差別撤廃運動のなかで Comparable Worth や Pay Equity と英語で呼ばれるようになり、その後に 『同一価値労働同一賃金』 と日本語訳された」 (遠藤公嗣著 『これからの賃金』 旬報社)

 ケア労働においてです。
 ノーベル経済賞を受賞したアマルティア・センはケア労働について 「ケア労働とは、献身・責任・協力・感情というような動機と結びついた人間関係的労働であり、自分自身の利害のみに動機づけられて行動するものではなく、他利的要素を持っている。しかも、ケアする労働の中には、人間が持っている潜在的能力を培っていくという主要な側面がある。したがって、ケア労働における人間的側面をネガティブに、ただ “減らす” 方向でのみ把握すべきではない。」 というようなことを述べています。 (『竹中恵美子が語る 労働とジェンダー』 ドメス出版)
 ケア労働を高く評価したうえでそこに含まれている問題点を指摘しています。そのうえで、竹中恵美子さんは別の章で問題点を指摘しています。
 カナダのオンタリオ州では、1987年に10人以上を使用している公共・民営部門の企業に対して、「ペイ・エクイティ法」 (Pey Equity Act、賃金衡平法) が制定されました。
「ペイ・エクイティは、従来の女性職に対する低い評価を改め、平等賃金を実現するための有力な原則であり運動ですが、限界もあります。
 1つには、従来の職務評価の技法 (ヘイ・システム) は職場の複雑さと重要度を、ノウハウ・問題解決能力・説明責任の3つのファクターで評価する点ですが、ケアのような仕事の評価には適切ではないからです。1991年にオンタリオ看護協会がヘイ・システムに反対して、感情労働 (emotional labor) の評価を導入する評価技法を聴聞審判所に認めさせました。このように、たえずジェンダーに中立な職務評価法を開発していくことが必要です。」 (『竹中恵美子が語る 労働とジェンダー』)
 聴聞審判所とは、労使の紛争が解決しない場合に、審査・調停をする労使の代表からなる機関です。ケア労働は他の労働と比べて感情労働による精神的負荷は大きいことを指摘して認めさせました。

 同じようなことが日本での評価制度の中でも指摘されています。
 遠藤公嗣明治大学教授は、自治労の職務評価制度作成に携わりました。
「『同一価値労働同一賃金』 の考え方はどこに反映しているのか。それを2つ例示しよう。
……
 第二に、大ファクター 『負担』 のなかに、小ファクター 『感情的負担』 を特に設定することだ。『感情的負担』 は、対人サービス労働で労働者に求められる 『感情労働』 の負担のことである。『感情労働』 とは、顧客や住民の感情的な言動や理不尽な要求などにもかかわらず、労働者が自分の感情をコントロールしながら、顧客や住民に礼儀正しく適切に対応するという労働のことだ。古くからの肉体労働や頭脳労働とは違って、サービス経済化がすすむにつれて、この30年間で重視されるようになった労働の考え方だ。『同一価値労働同一賃金』 の考え方による職務評価は、この考え方を取り入れている。
 ところで、地方自治体に窓口業務はつきものだ。住民票の発行から消費生活相談まで、とても多い。これら窓口業務を担当する職員は、全員が 『感情労働』 を求められ、その 『感情的負担』 が大きいはずだ。そしてあまり知られていないことだけれども、地方自治体の窓口業務は、その全部または相当部分が、非正規職員、とくに女性の非正規職員の担当だ。住民に応対する職員の多くは、実は、非正規職員なのだ。だから 『感情的負担』 ファクターを設定することは、彼女らの職務評価を高くしている。」

 
 非正規公務員の問題については昨年11月29日の 「活動報告」 で触れました。
 自治労の2012年6月1日現在の調査では、警察や消防、教員などを除き、臨時・非常勤職員は30万5,896人、正規職員は61万9,542人で、全体に占める非正規率は33.1%です。未調査自治体を含めて換算すると全国の非正規公務員数は約70万人と推計されます。
 非正規公務員の構成比は、学童指導員92.8%、消費生活相談員86.3%、図書館職員67.8%、学校給食調理員64.1%、保育士52.9%、学校用務員52.0%。生活保護業務を担うケースワーカーは1割に及んでいます。

 非正規公務員問題はジェンダー問題でもあります。
 2012年調査では、74.2%が女性です。ちなみに民間で非正規労働者が占める割合は68.8%です。非正規公務員で最も女性の構成割合が高い職種は看護師等で97.8%、次が給食調理員97.7%、保育士等で95.7%と正規公務員と同様の傾向を示しています。
 一般事務職・技術職員に占める女性正規公務員の割合は25.6%です。しかし非正規公務員に占める職種別ではもっとも多く80.8%を占めます。窓口業務は非正規公務員が多くいます。

 非正規公務員については労働条件が問題にされますが、問題はそれだけではありません。
 住民に直接接する出先の仕事 (相談業務、保育士、休職調理) など、家事的公務ともいえるケア的部分は公務員の仕事としては軽くいられ、非正規でもできるとみなされ劣悪な労働条件で働かされています。
 日常的に行政の窓口で住民の要望や不満を受ける職員には権限がありません。その構造は住民と “役所” の距離も作り出します。そのため住民による暴力事件も起きていますが、窓口は 「盾」、露払いの役割も担わせられています。低い労働条件で、住民から不満をぶつけられ、“役所” の 「盾」、露払いという三重苦の労働条件を強制されています。 

 自治労には遠藤教授の指摘をうけての具体的取り組みを期待したいと思います。


 感情労働に含まれるネガティブの問題の本格的克服のためには、社会全体と労働現場で人権問題がきちんと取り組まれることが必要です。日本ではもう少し時間がかかりそうですが、粘り強い問題提起が必要なことを知らされました。


    関連:「感情労働」
   「活動報告」14.10.24
   「活動報告」13.11.29
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