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“いじめ” 問題の最終的解決は                            人権の回復を伴うものでなければならない
2014/06/20(Fri)
 6月20日(金)

 本 『“職場のいじめ” 労働相談』 (緑風出版) を出版しました。今回の本は2011年秋に出版した 『メンタルヘルスの労働相談』 (緑風出版) の続編です。

 『メンタルヘルスの労働相談』 はメンタルヘルス・ケア研究会編です。
 メンタルヘルス・ケア研究会は2004年にスタートし、70数回開催しました。そこでの討論と活用したテキストや資料、講演録などと、毎年開催されるコミュニティーユニオン全国交流集会のメンタルヘルス分科会で使用された資料をもとに2000年春にパンフレット 『労働者のための メンタルヘルス・ケア 相談マニュアル』 (A4で120ページ) を作成しました。新聞で紹介されると問い合わせが相次ぎ最終的に600部を越える作成となりました。その中には企業や全国の行政機関などからも多くあり、貴重な意見も寄せられました。そこで加筆修正をして改めて本にして出版しました。

 内容は、労働組合・ユニオンでの相談の受け方や心構え、長時間労働や休職・復職の問題、自殺問題、さらには労働相談を受ける側が体調を崩した時の対応策などを取りあげました。おそらくメンタルヘルス・ケアの問題について労働者・労働組合の側から出版された最初のものでした。
 しかし出版後に精神障害の労災認定に関する 「心的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」 (「判断指針」) が見直され、2011年12月26日に新たに 「認定基準」 が作成されました。また2012年3月15日に厚労省は 「職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言」 を発表しました。
 そのようなことで内容が多少古くなってしまいました。
 今回の 『“職場のいじめ” 労働相談』 は前回の本の中から 「職場のいじめ」 「差別とは」 の項目とそれに関連する問題を中心に取り出して大幅に加筆しました。

 内容です。
 第1章は、厚労省の 「職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言」 を紹介しました。この中で 【職場のパワーハラスメントの概念】 が規定されています。「職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。」 です。
 「提言」 をどう受け止め、活用できるかについて “期待 を込めて” 見解を述べました。職場のいじめは個人的ではなく、構造的に起きています。
 そして 「提言」 は職場のいじめ問題から差別問題と、下請会社や関連会社への “いじめ” や顧客から暴力の問題を排除していることを指摘しました。

 第二章は、全国労働安全衛生センター連絡会議やコミュニティ・ユニオン全国ネットワーク、いじめメンタルヘルス労働者支援センターは以前から厚労省に職場のいじめ問題に取り組むよう要請を続けてきましたので、その経過を振り返りました。「提言」 はその成果と捉えています。
 厚労省の 「提言」 に向けた検討会とワーキンググループでの議論に対しては 「私たちのカウンターレポート」 を提出しました。議論が判例に沿って進められようとしていると思われた時には次のよう意見書を提出しました。
「判決は、案件を強制的に 『終了』 させますが、『解決』 するわけではありません。『終了』 と 『解決』 は違います。判例は労使紛争の解決の失敗例です。
 『人間関係の問題』 の検討を法律や判例から追うのは愚の骨頂です。職場環境、労働条件、人間関係が法律で対処されると 『人間性』 が消されます。せっかく斬新なことに取り組もうとしているのにいいものができるはずがありません。」

 「提言」 が発表された後、いじめ メンタルヘルス労働者支援センターは講演会を開催さいました。その時の講師と参加者の質疑・応答です。
 「使用者の方が質問しました。
 Q 業務の適正な範囲内での指導教育を行っているが、パワハラと反論される。適正ということをどう考えればいいでしょうか。パワハラと指導の違いは。受け手の受け取り方でパワハラになってしまうと考えると厳しいことが言えなくなってしまいます。
 A 逆に質問しますが、事案が起きて対応する時、これがパワハラかどうかという判断が必ずしも必要なのでしょうか。
何か相談が寄せられたということは困っている状況であるということです。そのことにパワハラか否か、重大であるかどうかを問わずに会社や労組が対処することが紛争予防につながります。」
 発生したトラブルをパワハラか否かと議論することは本当につまらないことです。

 第三章では、バブル経済後に発生した職場のいじめ問題についての労働者の受け止め方の変化と取り組みの経過をたどりました。例えば、20年前は労働者はいじめられていると公言することはしませんでした。しかし最近は 「パワハラを受けた」 という訴えが頻繁にあります。
 職場のいじめ問題が社会的に大きく登場したのは国鉄の分割民営化からです。
 例えば、政府と当局は国労組合員から仕事を奪い、「人材活用センター」 に封じ込めました。昨今の 「リストラ部屋」 「隔離部屋」 です。国労組合員は人権無視だと反撃して撤廃させました。しかし不当だとという世論はあまり起きませんでした。昨今の 「リストラ部屋」 はマスコミが取り上げてやっと問題になりました。当事者である労働者の行動が大きく違います。
 国鉄の分割民営化は鉄道労働者と利用者とにおかしな関係性を作り出しました。「安全の分割民営化」 の波及は、社会全体の不安を増加させ、ストレスを増大させました。このような中で他の労働組合も機能を停止し、労働者が “弱者” に転落していきます。
 それとは逆に、フランスでは “モラルハラスメント” の法制定が行われ、その後に積極的に活用されている状況を紹介しました。今、モラルハラスメント規制は予防措置として効果を発揮しています。

 第4章は、具体的相談事例と解決に至る経過を紹介しました。
 雇用不安が一番のいじめです。労働者の働き方、働かされ方が変化しているなかで会社がいじめを利用しています。
 この他、理不尽ないじめの問題、そして誰もが “いじめ” の対象になるということなどを具体例で紹介しました。本全体で20の相談事例を紹介しました。
 精神科医の中井久夫氏は著書 『いじめの政治学』 (『アリアドネからの糸』 に収録 みすず書房) のなかで、いじめは3段階あると書いています。
「第一段階は 『孤立化』 です。加害者はターゲットになる加害者を選び、周りの人間が被害者を助けない状況を作り出します。周りは自分は大丈夫と安心します。いかにその子がいじめられるに値するか、といったPR作戦も行われます。次に『無力化』が起きます。殴る蹴るから始まって、どんなに抵抗しても無駄であるという状況を被害者に示します。物理的暴力はこの段階が一番ひどく、ここまではまだ、外からいじめとして認識されやすいかもしれません。最後に 『透明化』 がおきます。ここまでくるといじめられている状況が見えなくなってしまいます。加害者の存在があまりに大きく、被害者は加害者が喜ぶことであれば何でもします。言われるまま、家族から金を盗み、裏切り、自己像を破壊させられてしまいます。けれども、外からは加害者の仲間のようにしか見えなくなっていくのです。」
 誰でも加害者になり得ます。また被害者だと声を挙げた者が加害者だったりします。

 第5章は、「差別という “いじめ”」 について問題提起をしました。
 差別とは『心の踏み台』と言われ、自分の <存在証明> を追いもとめる行為です。
 そして2008年年末から開始された 「年越し派遣村」 の中から雇用問題の中に秘められている差別構造について問題提起しました。
 なぜ彼らは解雇に素直に応じたのでしょうか。
「『村民』 から聞いた話です。派遣労働者の職場は 『よその会社』。そのため遠慮しながら、不満を言わずに働きます。派遣先との関係は 『引いている』 のだそうです。だから解雇を言われても 『引き』 ました。派遣労働者である自分の責任で、やむをえないと受けとめました。」

 第6章は、「職場の暴力」 について問題提起をしました。
 「職場の暴力」 とは、顧客や得意先からの暴言や暴力行為です。下請会社や関連会社への無理の強制なども含みます。日本では鉄道職員への暴行、行政窓口職員への罵倒、学校でのモンスターペアレントなども含みます。しかし取り組みは進んでいません。
 韓国では 「職場の暴力」 を 「感情労働」 と捉えて対策が進んでいます。
 感情労働に従事する労働者は、最初は 「感情手当」 を要求しました。しかしそれでは解決しないと 「感情休暇」 を要求しました。それでも解決しないとわかると “社会的認識変化の努力” の要求を掲げました。「無理な要求をする顧客に一方的に謝らない権利を与えなければならない」 「顧客が王様なら、従業員も王様だ」 という問題提起をしています。
 日本における行政窓口における暴力は生活に直結する部局の窓口で発生しています。援助を求めてきた住民は最初から暴言を吐いたり暴行を働くことはしません。自治体窓口は、担当者が意識しているかどうかに関係なく 「小さな政府」 の末端機関です。そこでのやり取りの中でトラブルに発展していきます。しかも最近窓口職員は非正規労働者がかなりを占めています。悲しい現実です。

 第7章は、職場のいじめ問題の解決に向けた取り組みについてです。
 EUの取り組み 「職業性ストレスとその原因に取り組む労働者のための実践的アドバイス」 を紹介しました。最初はリスク管理から始まりましたが積極的取り組むなかで労使双方にメリットがあることに気付き、解決の経験を労使双方の財産にしていきました。

 結論です。
 本の中には 「労働基準法」 などの言葉はほとんど出てきません。労使関係は法律ではありません。法律に頼ると 「法律関係」 にしか到達しません。
 “人間関係が一番の労働条件” です。

 最後に 「はじめに」 を紹介します。
「相談活動は、交渉を経て紛争解決に向かいます。
 紛争の本当の解決とはどういうことを言うのでしょうか。
 相談者の 『成長』 を確認し合うことです。そして自立した生活を取り戻すこと、または再スタートに立つことです。つまりは職業生活を培っていける自信をつけるようにすること、自分らしい納得した生活を送ることです。」
 そして “いじめ” 問題の最終的解決は人権の回復を伴うものでなければなりません。
 まずは、1人ひとりが声をあげることが大切です。」
  

 今トラブルに遭遇していないことはいいことですが、予防のために、そして職場での人間関係作りを豊富化させるための一助になればと思います。

    当センターのホームページ、相談・連絡はこちらへ
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