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韓国 感情労働                                              「職員が親切になることを望むならば、自身の業務に満足させなさい」
2014/02/04(Tue)
 2月4日(火)

 韓国の新聞 「ハンギョレ新聞」 は、昨年10月13日から12月5日まで6回にわたって 「感情労働」 の連載を行ないました。それぞれを紹介します。深刻です。そして日本の状況と重なるところが多々あります。アンダーラインは、精神科医など専門家のコメントです。

 第1回は、三星 (サムスン) 電子サービスセンターです。
 三星電子サービスセンターは、出張設置や修理の後に1人のサービス技師につき月に20回程度、顧客にサービス満足度を評価してもらう “ハッピーコール” をかけます。“とても不満” 1点、“とても満足” 10点。技師は8点であってもサービス改善の 「対策書」 を書かなければなりません。5点ならば “人民裁判” 覚悟です。
 “人民裁判” は午後9時から始まりますが、同じ組の1人でも点数が低ければ全員残らなければなりません。1人はサービス技師の役割、他の1人は顧客の役割で問題となったサービスを再演します。会社はCSロールプレイと言いますが、技師たちは “人民裁判” と呼んでいました。技師の1人は 「人間的にいつもみじめだった。今もそのまま残っているその部屋は恐怖の対象」 と語ります。
 6月、金属労働組合三星電子サービス支会が発足してからは中断されたが、慶尚南道地域のあるセンターでは、対策書を朝礼の時に全職員の前で読み “自己批判” をしなければなりません。

 緑色病院労働環境健康研究所は、2012年現在の就業者2468万1000人中51.6%にあたる1266万9000人が卸小売業、宿泊および飲食店業、教育・サービス業などを含む感情労働に分類される職群に従事していると推算しています。韓国の就業者2人に1人が感情労働者と言われる時代、労働者が心の病気にかかりつつあります。

 第2回は、精神的外傷 (トラウマ) を抱いているサービス職労働者3人への深層インタビューです。
 コールセンターで仕事をする労働者の体験です。“お客様” から商品が届かないという電話を受けました。注文番号を入力していると受話器の向こうから悪口が襲ってきました。手が震えてしまって到底注文番号を打てないほどで、20分間浴びせ続けられる悪口をぼうぜんと聞いているだけでした。
 客が注文した商品は通関保留中でした。しかし数日間一日一時間、名指しでののしり叱責する電話を受けなければなりませんでした。商品を受け取ると、客はこの間自分が電話した内容が記録された音声録音ファイルを全て消去することを要求しました。

 トラウマは暴力の前で弱者が体験する苦痛です。 問題は加害者には何事もなく、被害者は同様な状況を体験するたびにトラウマが強化されるということです

 仁川空港販売店のレジ係の労働者は、40代の女性客が腹を立てて入ってくるのを見ました。販売職員の心の中に警戒警報が鳴ります。客が突然レジに来たのでレジ係の労働者は微笑を浮かべるタイミングを逃しました。「ここの職員はみんな表情がどうかしたの?」 「申し訳ありません。」 いくら頭を下げても怒りはおさまりません。マネジャーを呼べと言います。客は搭乗時間が近づくと捨て台詞を吐いて出て行きました。「かわいそうだから許してあげる。あんたの人生も本当に…」
 「その一言で私の人生は本当に崩れた。今まであくせく生きてきた人生がまるごと否定されたようだった」 とレジ係は話しています。

 健康な人はストレスを発散させようとします。トラウマを体験した人々はしきりにその時に立ち戻ろうとします。そんなことが自分に起きなかったことを願う気持ちのためです
 
 レジ係の労働者は客が怒ったその場面を頭の中で数百回も反復再生します。「私がそのような侮蔑を受けて当然な人間だという証拠を自らずっと捜し出そうとしたんです。私が明るく笑えなかったのでお客さんが怒ったのだろう、私が良い大学を出て華やかな会社に通えば良かったのに・・・。後日には父親が亡くなって生計を私に委ねた母親を恨んだりもしました。私の人生、私という人間が嫌いになりました。」 結局、病院を訪れてうつ病の診断を受け、6ヶ月間治療を受けました。
 
 顧客センターの管理者は、顧客にこちらに来てひざまずいて謝れといわれました。チーム長と部長が直接管理者を連れていって謝らせました。ひざまずく前に顧客が許しましたが、親切と歓待でぎっしりと埋まった管理者の人生はその日を境に崩れました。「その時、初めて人を殺したいと思った。仕事では不満顧客をののしるが、会社を出れば弱者に大声を上げる自分の姿を発見する。」

 「攻撃性は慢性的挫折が日常化される時に出てくる自然な反応だ。手足が縛られた状態で顧客の感情を受け入れなければならない感情労働者が、外に出て行けば今度は自ら攻撃性を表出することになる
 
 第3回です。感情労働者公開相談室の状況です。
 心理治癒専門企業で “感情労働者公開相談室” が開催され、事例発表が行われました。
 参加者にはあらかじめ “あなたが正しい”、“とんとんと抱きしめてあげたい”、“共感百倍、私も同じ経験があります”、“私がもしあなたならば…” 等と書かれた立て札が配られ、発表者の発表が終わると4つの立て札の中の一つを挙げて話しかけます。
 発表者が、顧客と会社から侮辱された他の人の経験を自身のことのように読み下す事例発表を終えました。聞いていた病院の顧客センター相談員は “私がもしあなたならば…” を挙げ 「何が大変なんだか分かりません」 と答えました。
 理由を聞くと 「顧客センターに電話をする人はほとんどが病院に不満がある、医療事故だと主張する方々です。私は妊娠して臨月まで、殺すと脅迫する顧客を相手にして仕事をしました。私はただうまく行っていると考えていたけど…苦しがっている他人の話を聴けば心がとても変で複雑です。」 
 彼女は会社で “感情を表に出さず不満顧客もうまく処理する職員” として待遇されたが、いつからか日常の関係は絡まり始めたと打ち明けました。ある時、自分がこの状況でどんな表情をしなければならないのかさえ分からない瞬間が襲ってきました。

 “感情マヒ”です。誰かが自分に侮辱を与え脅迫すれば、羞恥心、侮蔑感、怒り、恐怖などの感情が自然に感じられます。ところが、そのような感情を頻繁に感じ、耐え難い状況が繰り返されると、生きるために正常な感情を停止させます。 結局は大変なこともなく、うれしいこともない、日常的な喜怒哀楽のリズムを全て失うことになります

 感情労働者集団相談に参加した親切教育の講師は、「私自身も納得できない会社のマニュアルどおりに、職員にいつも微笑を浮かべやさしくしなければならないと教え、気持ちの中ではよく頑張っていると思っていたが、結局身体が先に音を上げた」 と話しました。 顔面と体の左側にマヒがきて、救急室に運ばれていくこと二回、結局彼女は会社を辞め、その後健康も回復しました。
 感情労働者は “怒る力” さえ麻痺しています

 第4回です。福祉士たちが置かれている状況です。
 100人が働いている障害者生活施設の福祉士は手袋をはめずに仕事をします。入所した時、責められました。「ここに入ってこられた方々は生涯障害のために差別を受けて生きた方々じゃないの。それなのに私たちまでが手袋をはめてその方に触れるなら距離感も感じて差別を受けると思わないかい?」 素手で大小便も片づけ、からだも拭きます。
 仕事をはじめて3ケ月後、施設で疥癬がうつり、家族にもうつしてしまいました。
 「手袋をはめてはならない理由は別にありました。手の動きが鈍くなって仕事をする時間が1.5倍かかるといいますよ。」 強制規定ではないが、働く手が遅いと管理者が一言ずつ文句を言うので手袋をはめて仕事をする人は殆どいないと言います。
 「障害者が殴って来た時にさっと身を避ければ、殴った人が倒れてケガをしますね。上では技術的に受け止めろと教えますね。“奉仕するという使命感を持って来たなら献身して仕事をしろ” そういう話をよく聞きます。」 世話をして愛した患者が死ぬたびに、福祉士の精神的傷も大きいです。しかし身体と心を慰める時間も余力もありません。一緒に仕事をしている同僚で筋骨系疾患に病んでいない人は1人もいません。しかし労災を申し込んだり認定された人がいません。社会福祉士の権利を主張することは福祉士らしくないことと映るためです。
 感情労働と社会的弱者を相手にしているという倫理的責務感まで重なって、社会福祉士のからだと心が “燃尽” しつつあります。

 死ぬほど努力したが当初抱いていた理想ほどには仕事が実現されない時、心理的に “バーンアウト” (焼尽) 状態になります。あたかも人生の燃料を全て使い尽くしてしまったように身体的・情緒的に極度の疲労感を感じ、無気力症や自己嫌悪・職務拒否に陥る症状を見せます

 第5回です。下請け労働者の状況です。
 衣類売場の販売職員は、ズボンを試着した男性のお客さんにうずくまるようにして長さが合うように裾を折っていると、「どこを触っているんだ」 と言われて足で蹴られました。倒れ、顔を真っ赤にして周辺にいる同僚を眺めたが、誰も助けてくれませんでした。「おかしなお客さんに会ったとしてやり過ごそうと努めたが、あまりにも無関心な同僚、反対に自分を咎めるマネジャーの姿を見れば、私が間違ったような気分になって恥ずかしかった」 と話します。「私が非正規職だから皆が私を余計に無視したのではないか…」

 自ら直接貧困労働を体験した後にルポを書いた米国言論人バーバラ・エーレンライクは、本 『貧困の経済』 のなかで 「数多くの低賃金労働者に強要する侮辱的な行為 (薬物検査、絶え間ない監視、管理者の厳しい叱責) が低賃金を維持する要因」 とし 「もし自身が別に使い道のない人だと信じるようになれば、自分が受け取っている賃金が実際に自身の価値だと考えることになりうる」 と述べています。
 韓国社会は感情労働の弊害が最も深刻だという指摘が出ています。「韓国の異常なアウトソーシング・非正規職の拡散」が労働者にますます強力な “卑屈” を強要していると指摘します。卑屈を強要する構造の中で、多くの労働者たちは自己尊重感を低下させ、自己卑下の奈落に落ち込みやすい状況にあります

 ソウル市人権委員会が “120茶山コールセンター感情労働および雇用実態” 討論会を開催しました。
 コールセンターは下請け業者からの派遣です。「下請け業者は相談員に対して、無礼で非常識な請願人にも無条件に親切に対応するよう強要し、請願人が間違っていても相談員に対して謝れと言う」 と話します。相談員は女性労働、感情労働、間接雇用非正規労働、低賃金労働という4重苦を受けています。

 イム・サンヒョク労働環境健康研究所長は 「我が国において世界で最も感情労働が深刻な社会問題になったのは最少の人員で最大の効率を得るための企業の過度な業務量賦課と非民主的、反人権的経営組織体系、生産体系のため」 と指摘します。

 <自己卑下> 人は自身が大なり小なり価値ある存在だという確信で生きています。しかし自分の尊重感を守れずに卑屈な態度で生きなければならない状態が持続すれば、自分に対する否定的な考えに捕われることになります。自己卑下的状況になれば失敗に耐えられなくなり自身の短所にばかり集中して劣等感と憂鬱、無気力を振り切り難くなります


 第6回です。やっと明るい話題になります。
 サービス業種が急増した現代社会で、感情労働自体をなくすことはできないが、その弊害は減らせます。
 討論会に参加していたイ・ソンヒ相談員は「去る4年間、事務室に小さな引出し一つ持てずに、毎日席を移動して消耗品のように働いてきた」 として涙まじりに話しました。
 会社にはいつでも取り替え入れ替えられる “人間乾電池”、“市民様” にはサンドバッグでした。
 彼女は日が経つにつれ疲れていきました。悪性民願でも “市民の話を注意深く最後まで傾聴” しなければならず、“傾聴度” 点数で評価されます。「幼い子供までが電話して、自身が市民であなたは相談員だから、私に行儀正しく応対しろと堂々と言うんですよ。」 自尊感は限りなく崩れたといいます。
 ソウル特別市人権委員会インタビュー調査で、多くの相談員は 「いつも涙をこらえている」 と打ち明けました。感情圧迫、自尊心喪失、憂鬱感など、感情労働者が訴える問題がそっくりあらわれました。相談者は請願人の困った事を解決することにやりがいを探すけれども、ほとんどが非正規職で間接雇用された女性労働者たちは簡単に無視され酷使されました。その一方で彼女たちが発揮しなければならない “親切項目” は無制限に増えてきました。
 しかし相談員にきちんとした教育はないが、毎月厳格な試験を受けなければならなりません。 法定公休日はもちろん守られず、週末勤務も頻繁でした。

 彼女は会社の前でビラを一枚受け取ります。 同僚数人が労働組合を結成したという便りでした。“労組” という言葉が恐ろしく思えました。
 「コールセンター労働者が30万人、大部分が女性だというけど、私の娘たちが生きていく世の中を考えれば、このままにしておくことはできないと思いました。」 すぐに労組に加入ました。初めて同じ事務室の同僚と挨拶を交わしました。“茶山コールセンターの勤労条件改善と正規職化” を要求するプラカードを持ってソウル市庁前に立ちました。彼女はその日を “実績競争を捨てて人間的な自負心を取り戻した” 日として記憶しています。
 現在、茶山コールセンター労組には3つの委託業者に所属した500余名の相談員の中で300人余りが加入しています。7%まで急騰した月間退社率は、労組結成後には1%台に下がりました。
 ソウル市も直接問題解決に立ち上がりました。
 「秒単位で記録される評価を忘れて、相談だけに集中することにしました。……手当てを受け取れなくても、もうそんな相談はしないつもりです。私ができる最善の親切は、偽りの微笑や優しい声ではなく、きちんとした案内ですから。」
 米国の経営学者ペチェロが書いた論文 <感情労働:顧客の幸福と職員満足の秘訣> は 「職員が親切になることを望むならば、自身の業務に満足させなさい」
と注文している。


 労働者に憤懣をぶつける人たちだけではありません。
 13年12月17日付の 「ハンギョレ新聞」 に韓国・中央大学のストライキの記事と写真が載っていました。
 見出しです。
  “きれいにできなくて ごめんなさい” ストライキ清掃労働者の大字報 “ジーンと”
  “どうして申し訳ないと言われるんですか…” 1113回リツィット “話題”

 中央大学校の清掃をしている外注会社は、労働組合脱退と労働強度を続けていました。労働組合は脱退勧誘の中断と労働強度に合わせた15人追加人材採用を要求してストライキに入ります。その時、1人の清掃労働者が、図書館のトイレ前の壁に大学生に向けてA3大の手書きの手紙を貼りました。
 「学生たちに先ず申し訳ないという話からします。今、美化員のおばさんたちがストライキをしています。試験期間にきれいにできなくてごめんなさい。ストライキは本当に大変です。私たちの問題解決がはやく終わり次第、戻ってきてきれいに清掃しますね。愛する学生の皆さん! -美化員おばさん」

 1人の学生がツイッターを立ち上げました。すると3時間もしない間に1113回もリツィットされました。「涙が出る手紙ですね」、「心が痛いです」、「社長には死んでも分からない “本当のお母さんの心”」 「ストライキは憲法に保障された権利です。謝る必要はありません」 という反応でした。
 ツイッターを立ち上げた学生は 「(掲示物を見て) 悲しくなった。法に保障された正当な権利なのに、あのようにまで “ごめんね” と言うのを見ると、この間清掃労働者の方々がどれほど抑圧的な状況で顔色を伺いながら勤務をしたのかが感じられた」 と話しています。


 それぞれの立場は違っても、主張し合う中から理解し合える共感者が生まれます。



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