fc2ブログ
2020/10 ≪  2020/11 123456789101112131415161718192021222324252627282930  ≫ 2020/12
なぜ急ぐ マイナンバー
2020/11/26(Thu)
 11月25日 (火)

 菅政権はとにかくデジタル政策を急いでいます。今後5年程度で行政のデジタル化を達成できるよう目指すといいます。
 9月23日の閣僚会議で全閣僚にデジタル化の改革着手を指示し、デジタル庁設置準備室を設置しました。内閣官房や経済産業省、総務省など関係省庁から40~50人規模を集め、民間からもアイデアを募集する目安箱も置きます。年内に策定するデジタル庁の新設に向けた基本方針に盛り込む方針を作成し、来年秋までにデジタル庁の設置を目指します。デジタル化には国と各都道府県でばらばらで運営されているシステムの統一も含まれます。
 行政が保有する国民や企業、施設などの情報の 「デジタイゼーション」 が第一歩。デジタル化したデータを国の各省庁間、国と自治体間で連携できるようにすます。連携した大量のデータをAI (人工知能) が分析しておけば、必要なときに必要な情報を個人や企業に提供できるといいます。

 作業部会がまとめたデジタル庁の業務概要によりますと、デジタル社会の形成に関する司令塔として、勧告権など強力な総合調整機能を持つ組織とし、国や地方自治体などの情報システムを統括するといいます。
 自民党のデジタル社会推進本部は、11月17日の会合で第1次提言案を取りまとめ、18日に政府に提示して実現に向けた工程表の作成を促しました。自民党案はデジタル庁には十分な予算と強い権限を持たせ、各府省や地方自治体がデジタル化を進めるための事業計画や、事業者の選定に必要なマニュアルの管理などを担わせるべきとしていますマイナンバー制度に関する国のガバナンスを強化するためは、カードの発行やシステム運用を担う地方公共団体情報システム機構 (J-LIS) への国の関与を強めるよう呼びかけています。
 しかし、行政がスムースに機能するというよりは、政府と地方、行政と住民という関係が上位下達で支配されてしまう、その縛りが予算配分と住民の選択権の拘束ということの方が恐怖感として湧いてきます。

 11月20日のAPEC (アジア太平洋経済協力会議) の会合でまで菅首相はわざわざ 「新型コロナにより人々の行動様式が変わる中、デジタル化の加速が重要で、司令塔としてデジタル庁を設立する。民間活力を利用するべくデジタル化を阻む規制は抜本的に見直し、早急に取り組んでいく」 と述べました。テレワークや経済を活性化させて生産性を向上させることが念頭にあるようですがさまざまな情報の共有化、そのための規制緩和を進めようとしています。

 この間、新型コロナウイルス禍での特別定額給付金支給の遅れなどでマイナンバーが進んでないのと機能していないことが明らかになりましたが、今度はそれを口実にマイナンバーの強制と個人情報のデジタル化を進めようといています。
 今年10月1日現在での普及率が20.5%でしかないにもかかわらず、普及をあせる状況を見せられると逆にほかに何か理由が隠されているのではないかと胡散臭さが増してしまいます。


 マイナンバー制度の所管は現在の総務省などから、政府が来年秋に新設するデジタル庁へと移すよう提起し、デジタル庁を内閣直属の常設組織とすることも盛り込みました。
 マイナンバー制度全般については、企画・立案を一元的に担う体制を構築するほか、サイバーセキュリティの専門チームを設置し、国の行政機関などに対するセキュリティ監査を行うことなども盛り込むといいます。しかし、住民が恐れているのは、「国や行政機関による住民への監査の強化」です。


 すでに検討されている具体的内容も多々あります。
 以前からマイナンバーカードと健康保険証の一体化が言われてきました。
 21年3月からマイナンバーカードに健康保険証の機能を加えて一体化し、医療機関や薬局は 「顔認証付きカードリーダー」 や目視で患者本人を確認します。しかし現行健康保険法施行規則では、健康保険組合に保険証の発行義務があります。保険証が残ればマイナンバーカードへの移行が進まない可能性がでてきますので、保険証の発行義務を緩和して、将来的には発行停止を検討して早期の移行をめざすといいます。発行停止は健保組合の負担軽減にもつながるといいます。
 とはいいながら現在、医療機関などはマイナンバーカードの普及具合を様子見している状況で、カードリーダーの申し込みは10月時点で16%程度にとどまっています。政府は21年3月に6割を目標としています。
 さらに21年3月からはマイナポータルで自分の特定健診(特定健康診査)の情報を確認でき、21年10月からは薬剤や医療費の情報も確認できるようになるといいます。利用者が同意すれば、医療機関のシステムと連携ができるため、初めて受診する医療機関の医師らにこれまでの特定健診情報や服用してきた薬剤の情報を伝えられます。
 しかし本人が知らないところで健康状態が管理されることは危険です。(2019年2月14日の 「活動報告」)
 3月以降も医療機関などでは、従来通り健康保険証も使えます。


 すでに社会保障と税の共通番号 (マイナンバー) 制度について、人びとが開設しているすべての預貯金口座情報とのひも付け (連結) を義務化する検討に入っています。
 現行法はマイナンバーと口座情報のひも付けを認めていません。ひも付けさせる場合は本人の同意が必要で、金融機関が任意で行っています。このことが、本当に困っている人を特定して支援する番号制度本来の目的が達成されていない理由の1つにもしています。
 実現すれば、政府は人びとの資産状況を正確に把握することが可能となり、必要に応じて給付などに活用するほか、徴税の強化を図るといいます。
 マイナンバーと口座情報のひも付けをもっとも嫌がり反対しているのは豊富な隠し資産を保有している層です。さらに人びとへの監視が強まり、プライバシー権の侵害を懸念する反発も予想されるため、改正作業は世論の動向を見極めながら慎重に進めていくといいます。


 早速10月以降、行政手続の検索やオンライン申請がワンストップでできるマイナポータルは続々と機能を拡充し必要な書類の一括取得やデータの自動入力が可能になりました。
 国税庁は10月1日から年末調整控除申告書作成用ソフトウエア「年調ソフト」の無償提供を始めました。スマホ版も提供します。事業場は、労働者が作成した年末調整申告書や控除証明書などのデータを受け取ると、給与システムなどに取り込んで税額を計算してきました。それが不要になり、10月以降、「年調ソフト」 が利用できます。2021年1月以降は、所得税の確定申告の手続きにも利用できるようになる予定です。
 これに合わせて生命保険会社8社は9月、保険契約者に生命保険料控除証明書 (電子的控除証明書) を電子交付する「マイナポータル連携サービス」の提供を開始するといいます。国税庁の年調ソフトにデータを読み込ませれば、申告書の作成が簡単になる。氏名や住所などを入力するだけで控除申告書に必要な項目を自動入力したり、控除額を自動計算したりできる。
 これまでの年末調整は、社員が労働者が保険会社から送られてくる生命保険料や地震保険料の控除証明書などを保管して事業場に提出し、事業場が税額を再計算していました。
 いかにも事業場の手続きが簡単になると吹聴したいようですが、本来、税金は国税庁が徴集するもので国税庁の業務です。現在の制度は、事業場が社員から一方的に徴収し、国税庁は 「お上」 として事業場に “納めさせ” ています。社員は税から逃れることができません。それをできる方法が、ゆとりのある一部の層が利用する 「ふる納税」 での減税です。
 社員が加入している生命保険が第三者によって監視されます。菅政権が掲げる “自助” “共助” の手段に悪用されることを恐れます。


 さらに、警察関連の行政手続きはデジタル化が遅れている分野の一つとされてきました。マイナカードと免許証の一本化は第2次安倍政権でも検討されたが、進展はありませんでしたが菅政権になってようやく動き出すことになります。一体にし、行政のテジタル化を加速します。
 そのことで、運転免許証の保有者は全国で8000万人に上るため、2割にとどまるマイナカードの普及率が大きく上がる可能性が高くなるといいます。そこまでして普及率を高めたい本当の理由はここにあるような気がします。
 政府が固めた工程表案によると、現在のように各都道府県が異なるシステムを運用したままではマイナカードと免許証の一本化ができないので、まず免許情報を管理する各都道府県の警察が現在ばらばらのIT (情報技術) システムを統一します。2022年度から25年度にかけて共通のクラウドシステムに移行します。さらに共通システムはマイナカードのシステムと連携します。警察庁は実際に免許証とカードを一体にできるのは26年からとみています。
 統合後は、交通違反者の免許証の確認はマイナカードのICチップに読み取り端末をかざして行い、免許の種類や番号、有効期限などの情報が表示されます。
 免許の更新のために求められる講習も最寄りの免許更新センターに行く必要はなくなり、オンラインで受けられるようになります。
 警察はあらゆる情報の収集が可能になります。治安の見地からはここにマイナンバー制度の本当の目的があるのではないでしょうか。


 今年1月15日、マスコミ各社は 「マイナンバー端末、甘い管理」 という見出し記事を載せました。
 マイナンバーを含む個人情報を扱う自治体のセキュリティー対策について会計検査院が調べたところ、抽出調査した217市区町村のうち12の自治体で、本来必要な 「2要素認証」 を導入していない端末があったことなどが15日、分かった。他にも複数の自治体で運用に不備が見つかり、個人情報の管理に問題があるとして、検査院は総務省に改善を求めた。
 総務省は2015年の年金情報流出を受け、自治体に対し、マイナンバーなどを扱う端末は原則としてインターネットから切り離し、職員がログインする際にパスワードやICカード、指紋認証などのうち2つの要素で本人確認する 「2要素認証」 の導入などを求めている。
 検査院はセキュリティー対策の補助金を15~16年度に交付された1773自治体から抽出調査。そのうち2要素認証に関する調査の対象となった217市区町村の中で、12自治体がマイナンバーなどを取り扱う端末の一部に2要素認証を導入していなかった。12自治体のうち10自治体は導入予定がなく、総務省はこうした状況を把握していなかった。
 調査を受け、8自治体は20年度末までに全端末への2要素認証の導入を終える。残りの2自治体は端末を入退室を管理する専用室などに置いていたという。
 ICカードの読み取り失敗など、2要素認証が機能しなかった場合の代替手段に不備があった自治体も。27自治体は指紋やICカードなどが読み取れなかった際に利用するパスワードが複数職員で共有されるなど、権限のない職員でも個人情報にアクセスしやすい状態だった。本来は一時的なパスワードを発行するなどの仕組みが求められている。
 また13の自治体では端末の一部に情報のコピーなどを制限する設定が導入されておらず、USBメモリーなどに情報を移せる状態だった。
 総務省は 「すでに全自治体に対して技術的助言を発出した。総務省としてもしっかりと支援していき、セキュリティー対策に万全を期したい」 とコメントした。


 韓国では住民登録番号と社会保障、納税が連動し、携帯電話番号とも結びついています。行政のデジタル化が進みコロナ禍でスマホから政府や自治体に支援を申請することができたといいいます。一方で住民登録番号が流出して悪用される例もあります。
韓国は “休戦中” の状況にあります。世界で韓国のような制度の方が世界では珍しいです。


 平井卓也デジタル改革相は11月23日の記者会見で、「医療、教育、災害発生時の対応はデジタル庁設置前にプロジェクトを始めたい」 と語りました。
 税、社会保障、教育、防災は一本化される必要はありません。多くの国はそうしています。人びとの個人情報を保護のためです。情報の漏洩は防げません。被害を小さくする方法が細分化での管理です。自分では管理できない情報が政府や他者に利用され独り歩きしている方が危険で恐怖をおぼえます。
 便利ということで、結局、マイナンバーカードの常時携帯化が強制されてしまいます。マイナンバーカードにGPSがセットされたら、まさしく管理・監視社会の到来です。

 「活動報告」 2019.2.14
 「いじめメンタルヘルス労働者支援センター」 ホームページ・ご相談はこちらから
この記事のURL | その他 | ▲ top
外国人労働者は 「この社会を一緒に作っていく仲間」
2020/11/20(Fri)
 11月20日 (金)

 6月に 「移住者と連帯する全国ネットワーク」 代表理事の鳥井一平さんが本 『国家と移民 外国人労働者と日本の未来』」 (集英社新書) を刊行しました。
 一気に読み終えてしまいました。わかりやすいうえに視点が鋭いです。外国人労働者がかかえている問題・課題についてはいろいろなところで語られてもいますので、『本』 のなかで指摘している付随する 「人権」 問題について紹介します。

 厚生労働省が2020年1月31日に発表した 「外国人雇用状況」 データでは2019年に事業主から届け出があった外国人労働者はおよそ166万人です。決して少ない数ではありません。
 2019年4月、改正 「出入国管理及び難民認定法(入管法)」 などが施行され、在留資格 「特定技能」 による外国人労働者の受け入れが開始されました。「特定技能」 の評価はさておくとして、この後も増え続けることが予想できます。しかし日本政府の政策、社会はそれに見合ったものとなっているでしょうか。

 1980年代に大勢の外国が日本にきました。80年代以降に移住した人々は 「ニューカマー」 と呼ばれています。一方、戦前の植民地支配の一環で植民地から労働者としてきたり、連れてこられた人たちとその子孫は 「オールドカマー」 と呼ばれています。
 1990年からの日系ビザの労働者=日系労働者は、主に大手、大企業に入っていました。
 89年に入管法を改正し、90年から日系ビザを導入しました。「日本人と外国人」 というふうに 「血筋」 で区分して、「日系人は外国人じゃないから大丈夫だろう」 と思ったのでしょう。しかし 「日本人だと思ってきてもらったら外国人だった」 ということになったのです。
 1993年に技能実習制度が開始されます。来日後、1年間 「研修生」 として 「研修」 し、その後、技能研修試験を受けます。合格すると 「技能実習生」 となり、さらに1年間日本に滞在して 「技能実習」 できるようになります。
 しかしこれは 「技能実習」 とは名ばかりの労働でした。
 一方、零細企業にとって 「救い」 は93年以降、技能実習生だったのです。

 1993年の入管発表の統計値で29万9000人、実数で30万人超のオーバーステイ労働者がいました。容認する政策を日本政府が取っていたからです。観光ビザなどで来ても、バブル経済といわれていた当時は、ビザが切れてオーバーステイになっても日本経済を支えるために実質的に容認されてきました。バブルが崩壊し、失業者が増大しても 「外国人が日本人の仕事を奪っている」 などの声は聞かれませんでした。逆に経営者に拘束され (閉じ込められ)、パスポートを散り上げたりして長時間就労させられていました。日本人労働者とは仕事、支払われる賃金で住み分けられていました。

 2010年の拡大前後から、大手も日系労働者から技能実習生に入れ替えしてきました。
 2018年冒頭から受け入れ拡大論議が活発化します。2月に改正 「出入国管理法」 を成立させ、新たな在留資格「特定技能」をもうけ、19年4月から開始しました。


 日本政府は 「移民はいない」 といっていますが、オーバーステイ労働者は 「移民」 です。
 国連機関の国際移住機関 (IOM) は 「移民」 の定義を
  「当人の (1) 法的地位、(2) 移動が自発的か非自発的か、(3) 移動の自由、(4)
  滞在期間に関わらず、本来の居住地を離れて、国境を越えるか、一国内で移動し
  ている、または移動したあらゆる人」
としています。
 これに従えば、日本でオーバーステイで働いている人は 「移民」 です。

 移民とは何なのでしょうか。日本では、日本から海外に移り住んだ人たちをそう呼びます。古くは、ハワイへ移住、アメリカ大陸やブラジル、そして満州への移住した人たちです。また、戦時中の朝鮮半島や中国大陸から強制連行された人たちもそうです。労働力が余剰になった時は追い出し、不足した時には強制連行でした。
 しかしそのことを強制した日本政府・社会は、「本人たちの意思に沿った人の移動」 と主張し、そこではたくさんの歴史の歪曲も行われています。

 そもそも人を単に 「労働力」 としてとらえること自体が誤りです。人は働きもしますが、様ざまな感情を持ち、恋愛をしたり、他の人と関係を築いたり、暮らしている場所や文化に愛着を持ったㇼもします。そういう 「人としての在り方」 を無視して、「労働力だけいただこう」 というのは非常に身勝手で傲慢な考え方です。

 その一方で、日本人経営者による過酷な労働が発覚したりすると入管や警察は外国人労働者の取り締まりを真っ先にします。「不法就労しているかどうか」 ということだけで、その人を見てしまいます。本当は、取り締まる外国人の来歴ではなくでも 「なぜ不法就労しているのか?」 が問題です。
 また本来なら、不法就労者を雇用している経営者側の 「不法就労助長罪」 と、働いている本人の 「不法就労」 では、「不法就労助長罪」 の方が罪としては重いはずです。
 それなのに多くの場合、まず、不法就労している外国人が捕まって、その後に不法就労助長罪で社長が送検され、社長の方は罰金刑で済むのに本人たちは何年も長期収容されたり、強制送還されるというケースがほとんどです。


 日本に働きに来て、何年もここで暮らしてなじみ、出身国に帰りたくない人には、安心して住み続けられるようにすることが大切です。
 国内、海外問わずボーダーを越え人が移動するときに、人権や労働基準、労働者の権利がどのように担保されていくのか、労働する側と雇う側の 「労使対等原則」 がどう担保されるのかということが重要になってきます。
 移民問題は労働問題であり、人権問題に他ならないのです。
 しかし現状は、モノ扱いされているケースが多く、「使い捨て」 が横行されています。

 過去30年間を見ると、日本の労働組合は、どちらかといえば外国人労働者排除位置にいたといえるでしょう。さまざまな問題がある技能実習制度にしても、労働組合の 「メインストリーム」 は 「技能実習制度を廃止すべきだ」 とは一度も言ったことがありません。逆に日本の労働組合は、「外国人労働者に雇用を奪われる」 という立場に立ってきました。
 外国人労働者は「お客様」ではありません。「この社会を一緒に作っていく仲間」 だと考えるべきです。劣悪な職場環境があるなら、一緒に浴していけばいいのです。労働条件が劣悪で危険なところでは、外国人労働者だけでなく、日本人労働者も働かせるべきではありません。誰にとっても劣悪でなく、安全な職場を作っていこう、と考えるべきです。


 2005年、移住連は、岐阜県の縫製工場で働かされていた外国人研修生や技能実習生に対する残業代が 「時給300円」 しか支払われていないという実態を明らかになると “時給300円の労働者キャンペーン” をスタートさせます。
 NGO団体が国際社会へのロビー活動を展開します。
 2007年、アメリカ国務省の 『人身売買年次報告書』 は 「日本の外国人研修・技能実習制度は問題だ」 と指摘します。日本で外国人労働者が置かれている状況に注目が集まる大きなきっかけとなりました。2019年の年次報告書まで毎年指摘します。
2008年から国連の人権機関からもほぼ毎年かなり厳しく指摘されます。
 2014年の国連の自由権規約委員会の所見と勧告は 「2008年に勧告を出したのに日本政府は対応していない、いったいどうなっているのか。1年以内に報告書を出せ」 と命じました。
 これが、2016年の 「外国人の技能実習生の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律 (技能実習法)」 制定につながります。
 日本の研修・技能実習制度は、国際社会では、「人身売買、奴隷労働」 として名高いです。


 アプローチの仕方として問題があるのは、「日本人」 「外国人」 と区別していることです。日本に彼ら、彼女らが来て一緒に働き始めたら、もう 「同僚」 であり 「仕事仲間」 です。
 人権は国民が対象ではなく、すべての人々が対象です。国籍を持っていない人、いわゆる 「国民」 という概念に当てはまらない人たちでも、人権は尊重されなければなりません。
 国家、国境は存在しますが、人権がそこで立ち止まってはいけないのです。労働者の団結もそうです。労働者の権利のための運動は、元々 「国を越えて万国の労働者が団結する」 というインターナショナル精神でやってきたのですが、今、日本の労働組合では、そうした精神も希薄になっている気がします。


 外国人労働者の闘いは日本の労働者にも成果を与えています。
 2001年に大手居酒屋チェーンSを経営するM社は、過去2年間の未払い残業代として全従業員に合計38億円を支払いました。
 この支払のきっかけには、オーバーステイの外国人労働者の運動がありました。大手居酒屋チェーン店では大勢のビザのないオーバーステイの外国人労働者が働いていましたが、SとM社はそうした外国人労働者の働きに感謝して報いるどころか、取り締まりの噂をきいた途端、一方的に一斉解雇してきました。
 本社前でビラを配布したり集会をしたりして、他の社員周囲の人々に自分たちの解雇問題を伝え、団体交渉を重ねた結果、最終的に未払い残業代を支払わせました。
 こうした飲食産業のサービス残業の実態を重く見た厚労省も、労働者の労働時間を把握するために企業が守るべき基準を示す文書を公表し、その基準を盛り込んだ 「賃金不払残業総合対策要綱」 を改め、サービス残業をなくしていくための取り組みを企業に求めました。こうしてサービス残業の問題は社会全体の問題として取り上げられることになったのです。

 外国人労働者には生活者として 「家族帯同の権利」 が認められていません。
 あるトルコ人男性労働者はもともと永住ビザをもっていてトルコ人の妻をトルコから迎えました。日本で2人の子どもが生まれました。子ども2人は生まれた時に永住申請をして永住資格を取りました。しかし妻のビザは配偶者ビザで1年ごとの更新が必要です。子どもは永住資格があるのにその母は1年です。
 別の家族です。ガーナ人の両親のもとに生まれた娘はビザが与えられるけど入管は両親に国に帰れといいます。
 家族の統合件は国際的な人権基準です。しかし日本は人権に基づいた施策をしていません。
 日本の労働者にも単身赴任の労働者が大勢います。経営者が労働者をどのようにも扱える 「モノ」 としか見ず、人、家族として認めていないからです。しかし労働者は諦めて声を上げません。

 移民とは何なのでしょうか。移民という言葉で区別されるものではなく「この社会の一員になろうとしている人たち」です。

 「活動報告」 2018.12.11
 「活動報告」 2018.9.4
 「活動報告」 2018.6.1
 「いじめメンタルヘルス労働者支援センター」 ホームページ・ご相談はこちらから
この記事のURL | 仲間・連帯・団結 | ▲ top
「核兵器禁止条約」 21年1月22日に発効
2020/11/17(Tue)
 11月17日 (火)

 10月24日、国連に中米のホンジュラスが核兵器の開発、保有、使用を禁じる 「核兵器禁止条約」 の批准書を提出し、受理されました。これで批准発効の要件の50カ国・地域に達し、条約は90日後の来年の1月22日に発効します。そして発効から1年以内に締約国会議が開かれ、廃絶の検証のあり方など、より具体的な運用を議論します。保有国など条約に入っていない国もオブザーバーとして参加できます。
 兵器禁止条約は2017年7月、国連の交渉会議で核兵器の非保有国122カ国・地域の賛成で採択されました。国連に加盟する国や地域の約3分の2が、歴史上で初めて核兵器を全面的に違法化する条約に賛同しました。非保有国に禁止条約を支持する動きが広がる背景には、保有国による核軍縮が遅々として進まない現状へのいらだちがあります。

 核兵器禁止条約は前文で、核兵器がもたらす 「破滅的な人道上の結末」 や、被爆者や核実験被害者の 「容認しがたい苦しみ」 に触れ、廃絶だけが 「いかなる状況でも二度と核兵器が使われないことを保証する唯一の方法」 としています。
 それを踏まえて、核兵器の使用や保有にとどまらず、使用するとの脅し、実験、他国への譲り渡し、自国内への配備の容認なども禁止行為の対象とします。核実験は、臨界前核実験など爆発を伴わない実験も含めて禁止されると考えられています。原子力の 「平和目的」 での利用については認めています。
 現在、核兵器を保有しているのは米国、ロシアを筆頭に9カ国。ストックホルム国際平和研究所の調べでは、世界には今も計1万3400発の核兵器があります。米ソ冷戦時代の最大約7万発に比べれば減ったとはいえ、今なお膨大な数です。

 核保有国の参加については、核兵器を手放した上で参加するか、参加後に手放すかの2通りあり、後者の場合、すぐに核兵器の実戦配備を解き、定められた期限内に廃棄し、どちらの場合も、検証のため国際機関の査察を受け入れることになります。
 核兵器の使用や実験による被害者への支援も盛り込まれています。条約に参加する国は、被害者を医療、心理、社会、経済的に支援します。また他国に被害を与えた場合は、被害者支援や環境の改善のため、その国を支援する責任も負うことになります。
推進国は核兵器廃絶に向けた圧力としたい考えですが、核保有国は参加しておらず、今後、実効性をどう確保していくかが課題となります。
 日本には 「唯一の被爆国」 を掲げ、道義的な発信力への期待も大きくあります。しかし現実には、禁止条約の交渉会議には参加せず、保有国と非保有国の 「橋渡し」 役を果たすとしながら、米国の核抑止力を重視する姿勢を鮮明にしています。それでもオブザーバーとして参加することはできます。


 批准発効の要件となる50カ国・地域に達したことを報道するNHKニュースです。運動を担ってきた人たちの思いが込められています。
  ・・・
 条約の推進国や国際NGOとしては、さらに批准国を増やして核兵器廃絶に向けた国際的な世論を高めたいねらいです。核兵器禁止条約の背景には核兵器廃絶への取り組みが一向に進まないことへの核を持たない国々の強い不満があります。

 核軍縮の取り組みはこれまで1970年に発効したNPT=核拡散防止条約を基盤に進められてきました。
 NPTはアメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国の5か国を核保有国と認め、核軍縮の交渉を義務づける一方、その他の国々の核兵器の保有や拡散を禁じてきました。
 しかし世界の核兵器の9割を保有する米ロの核軍縮は進まないうえ、NPTに参加していないインドとパキスタンが相次いで核実験に踏み切り、北朝鮮も条約から脱退を宣言して核兵器開発を加速させています。
 さらにあらゆる核実験を禁じる 「CTBT=包括的核実験禁止条約」 もアメリカやインド、パキスタンなどで批准の見通しが立たず、1996年の採択から20年以上たった今も発効していません。

 そのため2013年以降、核兵器を持たないノルウェー、メキシコ、オーストリアはNPTや国連とは別の国際会議を相次いで開き、核兵器を法的に禁止すべきだという議論を活発化させてきました。
 こうした中、核保有国と非核保有国の対立は激しくなり、2015年春のNPT再検討会議では核兵器の法的な禁止を求める国々に対し、核保有国は段階的な核軍縮を主張して、世界の核軍縮の方向性を決める合意文書を採択できない事態となりました。
 そして2016年、オーストリアやメキシコなど50以上の国が共同で核兵器禁止条約の交渉の開始を求める決議案を国連総会に提出し、113の国の賛成多数で採択されました。

 この時、日本は唯一の戦争被爆国として核兵器廃絶を訴える一方、「核軍縮は核保有国とともに段階的に進めるべきだ」 として、アメリカなどの核保有国とともに反対に回り、国内外で驚きをもって受け止められました
 その後、核兵器禁止条約の制定に向けた交渉会議が2017年3月に始まりましたが、核保有国に加え、アメリカの核抑止力に依存する日本やNATO=北大西洋条約機構の大半の加盟国は交渉に参加しませんでした。
 条約は国連で7月に122の国と地域の賛成で採択されました。
 当初から条約の制定を推進してきた国際NGOのICAN=核兵器廃絶国際キャンペーンは各国に直接働きかけるなど条約の実現に貢献したとしてこの年のノーベル平和賞を受賞しました。
 条約は2017年9月の国連総会に合わせて各国の署名が始まるとともに、それぞれの国や地域で批准の手続きが進み、3年余りを経て発効に必要な50の国と地域の批准を満たしました。

 条約の実効性が疑問視されていることに対し、批准国や国際NGOは条約の発効で核兵器を違法だとする新たな国際的な規範が出来たとして、今後、核兵器の違法性を問う国際世論の流れをつくりだし、「核兵器に汚名を着せる」ことで、核兵器を使用させず核軍縮を進めさせる圧力を強めたい考えです。


 核兵器禁止条約が来年1月に発効することになったことを受け、ICAN=核兵器廃絶国際キャンペーンのフィン事務局長は24日、公式サイトで 「核軍縮にとって新たなページが開かれた。長年の活動は、多くの人が不可能だと言ってきたことを成し遂げた。核兵器は禁止された」 とコメントしています。

 国際NGO、ICAN=核兵器廃絶国際キャンペーンの川崎哲国際運営委員は、「条約は、原爆の被害や苦しみを二度と繰り返してはいけないという被爆国の思いが形になったものだ。被爆者が高齢になる中、核兵器をなくさなければいけないという声を国際法として残す意味がある」 と述べ、唯一の被爆国、日本にとって、大きな意味を持つ条約であると強調しました。
 日本政府が条約に参加しない姿勢を示していることについては、「大変残念で、被爆者の声を聞いてきた立場からすると本当につらいことだ。政府は、条約に参加すると、核抑止力の正当性が失われると主張しているが、被爆国である日本は、核兵器は違法であるという立場に転ずるべきだ。いきなりは難しくても、長期的には条約への参加を目指すということを明確に表現してほしい。核兵器のない世界を目指すと言っている以上、できないはずはない」と述べ、条約の発効後に開かれる締約国会議にオブザーバーとして出席し、条約への参加の姿勢を示すべきだと指摘しました。
 そのうえで、「人権問題や奴隷制度なども長い時間を経て変えてきた歴史があり、75年前にできた核兵器が未来永ごう残り続けるというのは根拠がない。核兵器禁止条約は核兵器の時代を終わらせて、新たな時代を作り出すきっかけになるものだ。どれだけ多くの国や人々が古い考え方から新しい考え方に移るか、それを遅らせるも早めるのも私たち次第だ」 と述べました。

 核兵器禁止条約の採択で主導的な役割を果たしてきたオーストリアのクルツ首相は24日、みずからのツイッターで、「これによって、条約は90日で発効する。核兵器のない世界というわれわれの目標に近づく、重要な一歩を踏み出した!」 と歓迎しました。

 広島の被爆者でつくる広島県被団協=広島県原爆被害者団体協議会の坪井直理事長は 「条約の発効によって直ちに核兵器の廃絶が進むわけではないとはいえ核兵器の禁止・廃絶を具体化する大いなる一歩であることは間違いない」 としたうえで、「核兵器保有国と核の傘の下にある国々が条約に参加するよう引き続き力を尽くしたい。とりわけ日本政府には原爆を体験した被爆者が望んでいることを踏まえて条約への参加をぜひ考えてもらいたい」 などとコメントしています。

 広島県被団協=広島県原爆被害者団体協議会の箕牧智之理事長代行は 「ニューヨークからの1報をいただき驚きと感動でいっぱいです。大国の政治家には広島や長崎を訪れて核兵器の恐ろしさを肌で感じて批准に応じていただくような政策を考えていただきたいし、これからも諦めることなく声を出し続けていきたい」 とコメントしています。


 長年、世界各国で自身の被爆体験を語り、核兵器廃絶を訴え続けてきたカナダ在住の広島の被爆者、サーロー節子さんは、「批准が50に達したことを聞いて、喜びで体が震え、ことばが出なかった。これから90日後には核兵器が違法になるということになり、広島で体験した悪夢を思うと、75年たってやっと祈りが通じた気持ちだ。これまで核兵器廃絶の活動をする中で、常に広島で亡くなった人たちと一緒にいるという思いで活動をしてきたが、やっとここまでこぎ着けたという報告をした」 と述べました。
 そして、「核兵器禁止条約が発効することによって、核兵器廃絶を目指す活動は新しい章に入ると思うが、完全に廃絶できるまで活動を続けなくてはいけないと思っている。核兵器がこの世から完全になくなるときには、私たちはこの世にはいないと思うが、条約の発効は貴重な一歩で、私も命のある限り、活動を続ける覚悟だ。同じ思いを持った人たちが世界中で活動を続けてくれると信じている」 と。
 さらに、日本政府が条約に参加しない方針を示していることについては 「日本は、広島と長崎で唯一、核攻撃の被害を経験した国だ。国同士の同盟について考える前に、人間として、広島や長崎で大量の殺りくがあったことを考えてほしい。日本政府は、人類に対する責任を考えてほしい」 と述べ、条約への参加を求めました。

 半世紀以上にわたって核兵器廃絶を訴えてきた、広島の被爆者の阿部静子さん (93) は「この日を長い間心待ちにしていたので、大変うれしいです。原爆が落ちた当時、まるで地獄のような、逃げ惑う人々の姿をいまでも覚えています。長年、核兵器廃絶を訴える運動をしてきましたが、それは荒海に向かって叫ぶような日々でした。核兵器を保有している国は、『持っているから安心だ』 という考え方を変えて、廃絶に向かって動き出してほしいです」と話しました。
 そのうえで、日本政府の対応について、「原爆の悲惨さをつぶさに知っている日本政府が条約に参加していないのは被爆者として本当に残念だ。アメリカへの気遣いと条約に参加するかどうかは別の問題ではないか。核保有国と非保有国の橋渡し役を務めるために、しっかりと条約に参加したうえで核兵器廃絶に向けて、各国を導いてほしい」 と話していました。

 世界各国に核兵器禁止条約への批准を求める署名活動を行ってきた 『ヒバクシャ国際署名をすすめる長崎県民の会』 の田中重光共同代表は 「核兵器を禁止する国際規範の形ができたということで大変喜ばしい。被爆者が訴えてきた核廃絶が実現に向かっている。今後は日本が被爆国として枠組みに積極的に参加をしてほしい」 と話しました。

 原水爆禁止日本国民会議の議長の川野浩一さんは 「核兵器禁止条約が発効されることは大変嬉しい。被爆者だけでなく国際NGOや世界の国・地域が頑張ってくれたことに感謝したい」 と述べました。
 川野さんは、4年前から長崎県内で核兵器禁止条約に関する署名活動を行っている 『ヒバクシャ国際署名をすすめる長崎県民の会』 の立ち上げに関わりました。
 川野さんは 「署名活動の立ち上げで中心になった被爆者5人のうち私を除く4人がすでに亡くなってしまった。日本政府には世界の先頭に立って核兵器廃絶に向けて世界を引っ張ってほしい」 と話しました。


 「微力だけれど無力じゃない」 運動が大きな力となっています。

 「活動報告」 2018.10.2
 「活動報告」 2018.8.28
 「活動報告」 2018.7.6
 「いじめメンタルヘルス労働者支援センター」 ホームページ・ご相談はこちらから
この記事のURL | ヒロシマ | ▲ top
「あの人も病気になってはいけない人」
2020/11/13(Fri)
 11月13日 (金)

 11月12日、政府の 「新型コロナウイルス感染症対策分科会」 の下に設置された 「偏見・差別とプライバシーに関するワーキンググループ」 は、9月から病院や学校、日本新聞協会などにヒアリングや調査をおこなってきました。そこでの実態をふまえ、国や地方自治体、関係団体、NPO、報道機関等が今後取り組みを進めるにあたってのポイントや防止策をまとめた報告書を公表しました。
 
 ワーキンググループは8月24日に開催された分科会で設置が決まりました。設置の経緯です。
「感染者、濃厚接触者、医療・介護従事者等、更にはその家族に対する偏見、差別や感染リスクが高いと考えられる業種や事業者への心ない攻撃などが問題となっており、これらについての実態把握やこれをふまえた相談や啓発などが求められています。
 また、感染者等に関する情報が公開された結果、まん延防止に資する範囲を超えて、個人のプライバシーの侵害に当たるおそれがある場合が生じているとの指摘があり、感染者や濃厚接触者が安心して積極的疫学調査に協力でき、自治体間の情報共有・連携も促進できるような 『信頼の連鎖』 の構築が必要となっています。」
 偏見・差別やプライバシー侵害の問題はコロナ禍が取り上げられ始めると同時に発生し、関係団体や周囲などからは様ざまサポートも行われてきています。
 ワーキンググループの調査開始は深刻な事態が起きてかなり経過した後です。防止対策としてはあまりにも遅すぎます。そして報告内容は、実際に発生した問題の氷山の一角です。

 ワーキンググループは調査などで明らかになった差別や偏見の実態をふまえながらこれまで4回検討・議論を行ってきました。
把握した偏見・差別の実態のまとめです。
・感染者が発生した医療機関・介護施設やその従事者、家族等への誹謗中傷、暴言、苦情、職員へ
 の嫌がらせなどの言動があった。そのことにより、医療従事者の子どもたちに対するいじめや
 一部の保育所での登園拒否などがあった。
・学校や学校関係者への差別的な言動があった。
・勤務先に関連する差別的な言動等としては、検査陽性を理由とする雇止めが行われたり、家族が
 入院した医療機関に感染者が入院している等による、勤務先からの検査や出勤停止の要請
 等が行われたりした。
・インターネットやSMS上での感染者や家族の勤務先・行動履歴等の暴露、誤情報の拡散等
 が行われた。
・職業・国籍を理由にした誹謗中傷、県外移住者や他県ナンバー所有者への差別的な言動等が
 あった。
・感染者と濃厚接触者の人物関係の図示、感染者の職業や詳細な行動履歴、子どもの通う学校
 名の報道等、個人に関する情報を含む詳細な報道が行われた。

 記者会見した中山座長は 「違法行為と言えるような悪質なものもあれば、感染を恐れる不安な気持ちが高じて会社に来ないで欲しいという命令を出してしまったという例もありました」。特に危機感を持ったのは医療機関や介護施設で働く職員とその家族への偏見や差別の問題です。職員への暴言や嫌がらせ、子どもたちへのいじめや登園拒否などが確認されました。
 他にも新型コロナ感染を理由とする雇い止めや出勤停止、インターネット上での個人情報や行動履歴の暴露なども確認されました。

 具体的事例です。
 新型コロナの国内最初の死亡者が入院していた相模原中央病院では誹謗中傷だけでなく、オムツが配送業者によって置き去りにされ、クリーニング業者にも立ち入りを拒否されて病院職員が搬入から搬出まで代行せざるを得なかった等の風評被害が発生していました。
 108名の感染を確認した高校の実態です。
 8月11日に学校が記者会見を開き、マスコミで報道された日から8月末までに、635件の抗議、問い合わせ、誹謗中傷の電話が殺到しました。その内訳ではクレーム98件です。具体的には、「日本から出て行け、お前たちは日本人じゃない。殺人者を100人も作って、教師が馬鹿だからこのような事態になる。落とし前をつけろ!」 (非通知・男性)、「私の家族は買い物も我慢している。しょうもない学校」 「くずのような学校は潰してくれ! 画像の削除は何故か。誹謗中傷は良くないが隠蔽したんだろう!」 (非通知・女性)、「どんな教育しているんだ。こちらは死活問題。クラスター出ました? あほかおどれは!自殺もんだ!」 (非通知・男性)、「刑事告訴しに行く。1800万円×15年 賠償しろ! 人殺し・バカ!」 (非通知・男性)、「謝って済む問題ではない。傷害罪、殺人未遂、使えない奴ら、行為自粛しろ! 頭つかえ、人災、私立やったらなお更だ!」 (非通知・男性) 「〇〇 (地元地名) から出ていけ!」 (非通知・男性)、「何やってんだ、テレビで学校が悪いと言っているぞ、ドンドン拡散してバカ!」 (番号通知・男性)。
 その一方で、激励の電話が71件、寄付が10件ありました。
 電話をかけてきた内訳は、保護者57件、報道207件、その他192件です。
 学校関係者に余計な電話対応を強制することが、逆に事態の収集を遅らせることになると同時に意欲を失わせるということが理解されていません。
 日本看護協会は4月20日からホームページ上に 「新型コロナウイルス感染症に関する看護職の相談窓口」 を設置し、(1) 感染管理について、(2) 看護職の働き方、(3) メンタルヘルスについて、(4) 意見・要望 の4領域に分けて専門知識を持つ回答者が対応しました。
 窓口へのメール相談や協会への電話相談には、看護師やその家族から差別・偏見を受けたと相談が寄せられ、休職や離職を検討しているという声、精神的ストレスによる心身の不調を訴える声などが寄せられたといいます。

 実態報告の内容は、東日本大震災における福島原発事故の被災者・避難者におこなわれた言辞、さらには各地で行われているヘイトスピーチで行われていることと似ています。
 被災者・避難者やヘイトスピーチの被害者は、それだけで批判の対象とされます。批判する側は、正しい情報などを収集できないなかで不安や不満が積もります。そのなかで自己を守る手段を模索します。自宅待機などの他者との交流が遮断された中ではなおさらです。しかし当然ですが、勝手に攻撃対象を作ったり、発見しても問題は何も解決しません。しかしそのことは認識していながら、インターネットやSMSに匿名で誹謗・中傷、差別的書き込みをします。そして同調者を発見すると自分の認識は間違っていないと確信してエスカレートしていきます。しかし匿名で “仲間” は作れません。世論にはなりません。常に孤立してもがき続けることになっていきます。
 また、誹謗・中傷、差別的言辞は、日常的ストレスの発散手段として行われます。相手をあくどい言辞で落としこめて自分を優越的立場に導きます。しかしそれで自分が浮かび上がるということはありません。
 批判する者たちは、往々にして “本当に闘うべき相手” を見失っています。そして “本当に闘うべき相手” は人びとのストレスのガス抜きに利用します。
 逆に、コロナ感染患者が入院した病院関係者やエッセンシャルワーカーズに対してたくさんの激励や支援物資が届けられたことを皆知っています。だれもが感染する危険性があります。以前に書きましたが 「病とは、人が金を払ってする贅沢ではないし、金銭を払って償わなければならない罪でもない」 ことを確認し合い、コロナを 「正しく恐れる」 ことが大切です。


 ワーキンググループの提言です。
 「医師や保健所の判断よりも厳格に人を休ませたり遠ざけたりする行為や、過度な消毒を求める行為も差別的な言動の遠因になりうる」 と警鐘を鳴らしています。
 そして、学校や企業が感染者らの性別や年代を公表すると、小さなコミュニティーでは個人が容易に特定される恐れがあるので原則公表すべきではないとしました。そして 「感染を責める行為は検査や受診忌避を呼び起こし、かえって感染が広まる本末転倒の事態を招く」 と指摘し、自治体が感染者について公表する際は「蔓延防止に資する情報に限るべきだ」としました。
 感染者情報については都道府県によって公表範囲にばらつきがあります。
 政府に対しては、「情報の公表については、蔓延防止に資する情報に限って公表すること。新型コロナに即した国としての情報公表のあり方を検討してほしい」 と 「統一的な考え方」 を整理して指針を出すよう求めました。
 こうした実態を踏まえ、「個人に関連する情報を含む詳細な報道」 のあり方にも問題があるとし、「新型コロナウイルス感染症の特性を踏まえた情報公表に関する統一的な考え方の整理」 が必要であると指摘したうえで、「ウイルスの特性に適した問題設定を持った報道、知る権利への奉仕と感染者の個人情報保護のジレンマに正面から向き合った報道、誤った風説に対するファクトチェックなどの役割に期待する」 とまとめています。そして 「事件とか事故のような報道のスタイルは避けていただけたら」 と要望しました。

 記者会見で武藤副座長は、偏見や差別が行われると受診やクラスター対策への協力を妨げ、感染を拡大させることにもつながると訴えました。
「(「3密」 の考えが) 実践されていない外国人を見かけた時に、それでも優しく接することができるのか。外国人の方を支え、医療やその他の支援を受けにくい状況にあると理解した上で乗り越えるためのことをやっていかなければなりません」
 尾身分科会会長は一部の外国人コミニティーのクラスターが抱える課題を広く周知することについて専門家の中では色々な議論があった、「出し方によっては外国人のコミュニティについて差別の問題が起きてしまう」 という懸念があったことを明かしました。そのうえで改めて外国人を差別するのではなく支援する方向で力を合わせる必要があると強調し、今後も必要に応じて偏見・差別とプライバシーに関するワーキンググループと政府が連携する方針を示しました。

 コロナ禍は労働の分野においてもさまざまな問題が発生しています。
 外出を控えて危険を回避する行為は日常品や食事までも宅配にオーダーする人が増えています。しかしそのような依頼者の行為は労働者の危険を増大させてもいます。
 10月20日の 「ハンギョレ新聞」 によると、韓国では今年に入ってから10人の宅配労働者が過労で亡くなっています。 「新型コロナ拡散により荷物量が増え、宅配業者の収入も増加したが、宅配労働者の殺人的労働強度に対する補償は全くなかった」
 そのニュースを知った消費者たちは 「あの人も病気になってはいけない人」、「肝心の労働者たちの幸せは守られていないと思う」 と気付かされたといい、「宅配便ドライバーのみなさんを応援する市民の会」 を結成し、「宅配労働者の死は明白な 『人災』」 と政府と宅配業者に対し過労死予防対策を講じるよう求めました。
 日本政府の 「自助」 政策とは真逆です。
 政府として、社会としてコロナを 「正しく恐れる」 対策を進めることが早期の解決に近づけます。

 「いじめメンタルヘルス労働者支援センター」 ホームページ・ご相談はこちらから
この記事のURL | いじめ・差別 | ▲ top
月末1週間の就業60時間の雇用者397万人
2020/11/10(Tue)
 11月10日 (火)

 10月30日、厚労省は 『令和2年版過労死等防止対策白書』 を公表しました。過労死等防止対策推進法に基づくもので5回目です。
 そのなかかの 「第1章 労働時間やメンタルヘルス対策等の状況」 を見てみます。
 「労働時間等の状況」 です。
 厚生労働省 「毎月勤労統計調査」 による 「年間総実労働時間」 です。
 公表されている時間数はパートタイム労働者を含む平均です。2018年度は1.706時間、所定内労働時間は1.577時間でともに減少傾向にあります。ただし所定外労働時間は129時間で大きな変化は見られません。
 パート労働者の総実労働時間は横ばいから微減で推移しています。総労働者のなかで占める割合は増加傾向にありますので、労働者1人当たりの年間総実労働時間の減少はパート労働者の増加によるものです。
 パート労働者以外の総労働時間は、リーマンショックの時に2.000時間を割りましたがそれ以外の年は2.000時間を超えています。
 パート労働者の割合は一貫して増加傾向にあり、15年以降は30%を超えています。さらに総実労働時間は12年に1.100時間を越えましたが、それ以外は1.000時間台で減少傾向にあります。

 主要産業別の労働時間は、「建設業」、「運輸業、郵便業」、「製造業」、「情報通信業」 は全産業平均よりも長くなっています。
 パート労働者が占める割合に違いがありますが、具体的には、「建設業」 2.041時間、「運輸業、郵便業」 2.023時間、「製造業」 1.961時間、「情報通信業」 1.873時間です。

 総務省 「労働力調査」 による 「月末1週間の就業時間別の雇用者の割合の推移」 をみると、1週間の就業時間が60時間以上の就業者の割合は、08年までは10%を超えていました (537万人) が減少傾向にあります。18年は6.9%、397万人となっています。かなりの数です。ちなみに就業者数には休職者が含まれます。
 大綱では20年までに週労働時間60時間以上の雇用者の割合を5%以下とすることを目標としています。
 業種別の月末1週間の就業時間が60時間以上の雇用者の割合です。
 18年は、「運輸業,郵便業」 17.0%、「教育、学習支援業」 11.0%、「建設業」 10.2%の順にその割合が高く、「医療,福祉」、「複合サービス事業」 の順にその割合が低くなっています。「福祉」 はパート労働者が多くいます。
 「運輸業,郵便業」 、「教育、学習支援業」 の長時間労働は長い間指摘されています。しかし改善されていません。

 厚生労働省 「就労条件総合調査」 による 「年次有給休暇の取得率、付与日数、取得日数の推移」 です。
 付与日数は長期的に微増傾向にあります。取得日数は、2000年初めまで微減が続き、10年前後から増減しながら微増傾向にあり、2017年は9.3日です。
 取得率は、10年以降5割を下回る水準で推移していましたが、17年に5割を上回り51.1%となっています。
 企業規模別に労働者1人当たりの平均取得率をみると、10年以降は規模が大きいほど高い傾向にあります。17年の別取得率は、1.000人以上58.4%、300人から999人47.6%、100人から299人47.6%、30人~99人44.3%です。
 17年の産業別の労働者1人当たりの平均取得率は、「電気・ ガス・熱供給・水道業」 72.9%、「複合サービス事業」 64.7%、「鉱業、採石業,砂利採取業」 62.9%、「情報通信業」 59.8%の順で高く、「宿泊業,飲食サービス業」 32.5%、「卸売業,小売業」 35.8%、「生活関連サービス業,娯楽業」 36.5%の順で低くなっています。


 「勤務間インターバル制度導入の割合」 です。
 「インターバル制度を設けることを就業規則又は労使協定等で定めて導入している」 企業の割合は、18年1.8%で、前年の1.4%から増加となっています。また、「制度の導入の予定はなく、検討もしていない」 企業のうち、導入していない理由として 「制度を知らなかったため」 と回答した企業は18年で29.9%となっています。
 業種別では、「情報通信業」 は 「制度を導入している」 2.7%、「導入を予定又は検討している」 19.2%、「宿泊業、飲食サービス業」 0.1%、19.3%、「運輸業、郵便業」 4.1%、11.2%などとなっています。一方、「建設業」 2.6%、3.7%、「製造業」 1.6%、7.2%、「金融業、保険業」 1.0%、3.7%などとなっています。
 「情報通信業」 「宿泊業、飲食サービス業」 「運輸業、郵便業」 は長時間労働が指摘されていますが、やはり対策は進んでいないと思われます。
 ただし、予定しない企業には 「超過勤務の機会が少なく、当該制度を導入する必要性を感じないため」 が半数近くを占めます。


 OECDDatabaseによる 「諸外国における年平均労働時間の推移」 は長い順に 「韓国」 「アメリカ」 「日本」 「イギリス」 「フランス」 「ドイツ」 です。
 「韓国」 は2017年に2.000時間を割りました。「アメリカ」 は1.700時間後半で推移しています。繰り返しますが、日本の割合はパート労働者を含めたものです。
 「諸外国における 『週労働時間が49時間以上の者』 の割合 (平成30年)」 は、多い順に、「韓国」 合計29.0%、男性29.0%、女性21.7%、「日本」 19.0%、27.3%、8.5%、「アメリカ」 19.2%,23.6%,14.2%,「イギリス」 11.5%16.7%、5.7%、「フランス」 10.1%、14.0%、6.0%、「ドイツ」 8.1%、12.0%、3.7%です。男女の差は日本は極端に大きいです。社会の在り方、家族の姿が浮き彫りになります。


 「職場におけるメンタルヘルス対策の状況」 です。
 厚生労働省の 「労働安全衛生調査 (実態調査)」 による 「職場におけるメンタルヘルス対策の状況」 です。
 「仕事や職業生活に関することで強い不安、悩み、ストレスを感じている労働者の割合」 は、18年は58.0%と、依然として半数を超えています
 「仕事や職業生活に関する強い不安、悩み、ストレスを感じる」 とした労働者のその内容は、「仕事の質・量」 59.4%、「仕事の失敗、責任の発生等」 34.0%、「対人関係 (セクハラ・パワハラを含む。)」 31.3%、「役割・地位の変化等 (昇進、昇格、配置転換等)」 22.9%、「会社の将来性」 22.2%などです。
 職場における横の繋がりが見えません。労働者が孤立しながら業務をこなしていることが推測されます。

 現在の自分の仕事や職業生活でのストレスについて 「相談できる人がいる」 92.8%で、その相談相手は、「家族・友人」 79.6%、「上司・同僚」 77.5%です。また、家族・友人等を除き、職場に事業場外資源 (事業場外でメンタルヘルス対策の支援を行う機関及び専門家) を含めた相談先がある労働者の割合は73.3%です。
 業務ラインが縦型になっていることが推測されます。
 「ストレスを相談できる人がいる」 とした労働者のうち、実際に相談した人がいる労働者の割合は80.4%で、実際に相談した相手は 「家族・友人」 76.3%、「上司・同僚」 69.7%、「産業医」 8.8%、「地域のかかりつけ医・主治医」 5.6%、「保健師又は看護師」 3.8%です。
 「家族・友人」 76.3%は検討が必要です。職場の同僚意外ということですが、ストレスの相談を 「家族」 「友人」 に同じようにはしません。「家族」 には心配かけまいと遠慮がちにします。「友人」 は相手によって話す内容が違います。

 メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所の割合は59.2%です。
 事業所の規模別では、50人以上の事業所は90.7%となっている一方、10人~29人の事業所は51.6%です。
 取組内容は、「労働者のストレスの状況などについて調査表を用いて調査 (ストレスチェック)」 62.9%)、「メンタルヘルス対策に関する労働者への教育研修・情報提供」 56.13%です。

 15年12月から施行されている、医師、保健師等による心理的な負担の程度を把握するための検査 (「ストレスチェック」) を集団分析して、その結果を活用した50人以上の事業所の割合は63.7%です。
 大綱において、ストレスチェック結果を集団分析し、その結果を活用した事業場の割合を60%以上とすることを目標としているといいます。60%以上ということですが、法律の趣旨は、集団分析し、その結果で職場改善を進めることが目的だったのではないでしょうか。

 メンタルヘルスケアに取り組んでいる事業所における取組内容です。
 「労働者のストレスの状況などについて調査票を用いて調査 (ストレスチェック)」 62.9%、「メンタルヘルス対策に関する労働者への教育研修・情報提供」 56.3%、「メンタルヘルス対策に関する事業所内での相談体制の整備」 47.5%、「健康診断後の保健指導におけるメンタルヘルス対策の実施」 36.3%、「メンタルヘルス対策の実務を行う担当者の選任」 36.3%の順になっています。

 毎年同じような結果報告が行われます。はたしてして職場環境の改善は進んでいるといえるのでしょうか。

  『令和2年版過労死等防止対策白書』
 「活動報告」 2019.10.04
 「活動報告」 2018.7.19
 「いじめメンタルヘルス労働者支援センター」 ホームページ・ご相談はこちらから
この記事のURL | 長時間労働問題 | ▲ top
| メイン | 次ページ