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「パワハラ防止法」 を改正してILO条約批准を
2019/06/28(Fri)
 6月28日 (金)

 6月10日から21日、国際労働機関 (ILO) 第108回総会が開催されました。主要議題は 「仕事の世界における暴力とハラスメント」 に関する条約案で、昨年からの継続です。政労使から327本の修正案が提出されました。
 条約は6月21日に採択されました。日本政府は、昨年は反対の論陣をはりました。今年は直前まで態度を決めていませんでしたが、最終的に賛成しました。労働者を代表した連合は賛成、使用者を代表した経団連は棄権しました。
 条約案です。
「I. 定義
第1条 (a) 仕事の世界における 『暴力とハラスメント』 とは、一回性のものであれ繰り返されるものであれ、身体的、精神的、性的または経済的危害を目的とするか引き起こす、またはそれを引き起こす可能性のある、許容しがたい広範な行為と慣行、またはその脅威をいい、ジェンダーに基づく暴力とハラスメントを含む。
 (b) 『ジェンダーに基づく暴力とハラスメント』 とは、性別またはジェ ンダーを理由として直接的に個人に対して向けられた、または特定の性またはジェンダーに偏向して影響する暴力およびハラスメントをいい、セクシュアル・ハラスメントを含む。
 Ⅱ 被害者・加害者の範囲
第2条 この条約は、都市か地方にかかわらず、フォーマル経済およびインフォーマル経済の双方におけるあらゆるセクターの労働者、国内法および慣行で定義された被雇用者、契約上の地位にかかわらず労働する者、実習生および修習生を含む訓練中の者、雇用が終了した労働者、ボラ ンティア、求職者および就職志望者を含むその他の者について適用する。
第4条 この条約の適用上、仕事の世界における暴力とハラスメントの被害者および加害者は、以下であり得る。
 (a) 使用者および労働者、ならびにそれぞれの代表者、ならびに第2条で定める
  その他の者、
  (b) 国内法および慣行に即したクライアント、顧客、サービス事業者、 利用者、
  患者、一般の人々を含む第三者。」

 第2条と第4条との重複が懸念されました。
 第4条について、ニュージーランドから 「仕事の世界におけるハラスメントについて、誰が加害者か被害者かを言及する必要はない」 として削除するよう提案があり、日本政府、EU、中東湾岸諸国、カナダ、アメリカ、ロシアなどの政府、使用者が賛成を表明しました。ニュージーランドやEUなどと日本政府の意図は真逆でしたが、削除の要求は一緒だったのかもしれません。
 コスタリカは、削除されると条約にどのような影響があるかILO事務局に質問し、ナミビアもアフリカグループを代表して第三者が明示されないことによる影響を尋ねました。
 ILO事務局の法律顧問は、「第4条が削除されても、権利・責任関係に影響はなく、第三者は条約案の対象から除外されない」 と明言しました。
 採決では第4条は削除されました。
 委員会終了後、連合の代表は日本政府と話し合いを行い、ILO事務局の法律顧問の発言も踏まえ、「第4条が削除されても、本条約案の対象には第三者も含まれている」 との日本政府の認識を確認しました。

 仕事の世界における暴力とハラスメント予防・防止には、「すべての人間は、人種、信条又は性にかかわりなく、自由及び尊厳並びに経済的保障及び機会均等の条件において、物質的福祉及び精神的発展を追求する権利をもつ」 (フィラデルフィア宣言) ことの共通認識、つまりはお互いの人権、人格権を認め合うことが底流にあります。
 日本で5月に成立した 「パワハラ防止法」 の定義は 「事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害される」 です。パワハラ防止の主体は事業主で、使用者の支配・管理の視点からとらえています。そのため身体的、精神的、性的または経済的危害などの人権、人格権、労働者保護の視点が欠落しています。


 12年3月15日に厚生労働省が発表した 「職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言」 (「提言」) は、はじめて職場のパワーハラスメントの定義を行いました。「職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」です。いわば 「あらゆるハラスメントの包括的規制」 です。
 提言を検討した 「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議」 に出席した使用者側の委員は、第一回目の会議で、店員に暴言を吐く客がいる、このような問題についても議論をしたいと提案しました。しかし 「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議 ワーキング・グループ」 が最終的にまとめた報告書では同じ職場で働く者以外からのいじめについては対象外になりました。円卓会議もそれを承認しました。

 17年3月28日に政府の働き方改革実現会議が決定した 「働き方改革実行計画」 に 「職場のパワーハラスメント防止を強化するため、政府は労使関係者を交えた場で対策の検討を行う」 と盛り込まれていました。それをふまえ厚生労働省は 「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」 を開催します。
 検討会は、いじめの定義について、「提言」 を大きくいじらないで、混乱を生じさせないためにわかりやすくしたといいながら、定義を分解して活用しにくくしました。報告書には 「必ずしもパワーハラスメントとは言えない事案もある」、発生の要因については、行為者及び被害者となる労働者個人の問題によるものと、職場環境の問題によるものがあるとの意見が示され、「自己責任」 が登場します。 「職場のパワーハラスメン トの概念」 は、
「【職場のパワーハラスメントの要素】
 ① 優越的な関係に基づいて (優位性を背景に) 行われること
 ② 業務の適正な範囲を超えて行われること
 ③ 身体的若しくは精神的な苦痛を与えること、又は就業環境を害すること」
の要素のいずれも満たすものとなります。まさしく 「働かせ方改革」 です。
 当初、UAゼンセンがおこなったアンケートから労働現場の切実な声が紹介されたりしましたが、途中からトーンダウンします。終盤で公益の学者委員が、「カスタマーハラスメントと呼べる第三者の暴力は、得意先、親会社、商店における顧客からなどさまざまで、それぞれ特徴があり同にように扱うことができない、別個に検討会を設けて議論すべき」 と発言すると議論は止まってしまいました。(この時 「カスタマーハラスメント」 の言葉が初めて使用されます。)
 被害者である労働者にとっては猶予できない問題であるという訴えは無視されました。
 定義と第三者からの暴力のスタンスは同じです。使用者が管理・支配をしやすくする、責任の範囲を小さくする、損害賠償等の訴訟の対象になりにくくするです。企業の対応が免罪され、被害を受ける労働者の人権が軽視され、声をあげにくくなります。


 その後に開催された労働政策審議会における議論は、基本的に審議会のベースを崩すことはできませんでした。
 「職場のパワーハラスメントの定義については、・・・以下の3つの要素を満たすものとすることが適当である。ⅰ) 優越的な関係に基づく ⅱ) 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により ⅲ) 労働者の就業環境を害すること (身体的若しくは精神的な苦痛を与えること)」 と建議しました。
 これを受けて 「パワハラ防止法案」 は、今後の職場のハラスメントの法的定義を 「1 事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害される」 の3要素を満たすものとしました。

 「提言」 の 「精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」 は、「報告書」 では 「③ 身体的若しくは精神的な苦痛を与えること、又は就業環境を害すること」 と3つの要素の1つとなり、「建議」 では 「ⅲ) 労働者の就業環境を害すること (身体的若しくは精神的な苦痛を与えること)」 と3つの要素の1つの 「労働者の就業環境」 の中にかっこで括られ、法案では消されてしまいました。人権、人格権が消されていったといえます。
 さらに法案は禁止項目も罰則規定もないまま成立しました。


 2003年10月、ILOは 「サービス業の職場における暴力とストレス (生産性とディーセントワークに対する脅威) についての実施基準作成の専門家会合」 を開催し、11月、「サービス業における職場暴力及びこの現象を克服する対策についての実施基準案」 を発表しました。
目的。「この実施基準の目的は、サービス業における職場暴力の問題に対処するための一般的な手引きを提供するものである。この基準は、特に異なる文化、状況及び必要性にそれぞれ適合するように、国際的地域、国家、業種、企業、団体、職場のそれぞれのレベルで同様の手引きを作成する際の参考資料として利用されることを意図したものである。」
範囲。「この基準は、民間及び公的なサービス業における経済活動のすべての分野に適用される。」
職場暴力の定義。「妥当な対応を行っている者が業務の遂行及び直接的な結果に伴って攻撃され、嚇かされ、危害を加えられ、傷害を受けるすべての行動、出来事、行為」で、「直接的な結果とは、業務との明確な関連があって、かつ、妥当な期間の範囲で発生した行動、出来事、行為と解されるものである。」
「部内職場暴力とは、管理者、監督者を含めた労働者間で発生したものを言う。」 「部外職場暴力とは、管理者、監督者を含めた労働者と職場に存在するその他の者との間で発生したものを言う。」
原則。「・1981年 (155号) 労働安全衛生条約の規定に基づき健康的で安全な職場環境が、業務の遂行に際して最適な肉体的及び精神的健康を保てるようにすること、また、職場暴力を未然に防止し得ること。
 ・使用者、労働者及びそれらの代表、適当な場合には政府との間での労使対話が、職場暴力
  防止の方針及び計画の実施の成功に際して基本的なカギとなる。そのような労使対話は、
  労働における基本的な原則と権利についてのILO宣言とその関連文書に記載されて
  いるものである。
 ・職場暴力防止のための方針及び行動は、ディーセントワークと相互尊重と1958年
  (第111号) 差別 (雇用及び職業) 条約に基づく職場における差別の防止を促進す
  ることに結びつかなければならない。
 ・性の平等の促進は、職場暴力の減少に貢献し得るものである。」

職場暴力に対する方針。「政府、使用者、労働者及びそれらの代表は、職場暴力の撲滅に寄与する職場慣行を合理的に実行可能な範囲で促進すべきである。この目的を達成するため、政府、使用者、労働者及びそれらの代表は、職場暴力の危険性を最小限にするため適切な方針及び手続きを開発し実施することが肝要である。」
方針の重要性。「ディーセントワーク、労働倫理、安全、相互尊重、寛容、機会均等、協力、サービスの質に基づいた建設的な職場文化が構築されることを優先しなければならない。これは次のものを含む。
 ・質の高いサービスを実現する人材が重要な役割を担う旨の明確な目的
 ・共通の目的を分かち合う組織及び構成員についての強調
 ・職場暴力防止の宣言
 職場暴力の撲滅への努力の重要性を認識した上で、経営トップによる明確な経営戦略の表明及び周知を行わなければならない。」
方針における責任の所在として、「方針は、関係者すべてにより検討され、使用者、労働者、一般公衆、顧客及び取引先に率先して周知されるべきである。」 などがあげられています。
関係者の役割及び責任として、政府には、防止措置の策定と適用についてリーダシップをとるべきであるとして、調査、ガイドライン、法令、財源、国際地域間及び国際間の協力の推進、支援をあげています。
使用者には、職場暴力の危険性を撲滅し最小限にするための適切な方針と手続きを策定し実行するため労働者及びそれらの代表と協議すべきであるとして、危険性の低減及び管理、国家、業種及び企業職場での合意、人事方針、苦情及び懲戒手続きをあげています。
苦情及び懲戒手続きとしては、「労働者及びそれらの代表が職場暴力についての苦情を申し立てられるような手続きを定めなければならない。職場暴力の申し立ては可能な限り調査が完了するような時まで内密に保たなければならない。」 とあります。
労働者の訓練として、「使用者は、職場暴力の防止について、職場における企業方針と戦略について、また、職場暴力が発生した際の支援について労働者に周知、教育及び訓練する職場におけるプログラムを開始しまた支援しなければならない。」 とあります。
 そのうえで、「サービス業における職場暴力の防止のために行われる訓練は、次のようなものが含まれる。
 ・潜在的な暴力の危険性を感知する能力を向上させること。
 ・事態の評価、協力体制及び問題解決の対応能力を向上させること。
 ・潜在的な暴力の危険性を回避し軽減できる会話コミュニケーション技能を教えること。
 ・協力体制を形成できるような積極的な姿勢を育成すること。
 ・リスクアセスメントに従い必要に応じて積極的に主張する訓練。
 ・リスクアセスメントに従い必要に応じて自己防衛する訓練。
 特定の環境下における職場暴力を防止し対処するために必要な特定の訓練と技能を明確化した特定の業種及び職業におけるガイドラインを新たに開発するべきである。」 とあります。
 実施基準案は、「第三者からの暴力」 にたいして、国、使用者、労働者全体の問題ととらえたうえでそれぞれの課題としています。


 日本においても、2011年3月、厚労省と中央労働災害防止協会は 「小売業におけるストレス対処への支援」 を作成しました。「小売業の仕事に特徴的なものとして、接客、すなわちお客 様と接し対応することが挙げられます。・・・しかしながらこのような事柄は、例えばトラブルが発生してしまったような場合に、従業員がお客様に対して過度に責任を大きく感じてしまったり、無理して対応を続けるあまり、疲弊してしまったりするようなこともあるかもしれませ ん。そのようなことは、小売業に特徴的で、小売業に従事しているからこそ存在する仕事のストレス要因であると考えられます。」
「お客様からのクレームの矢面に立つこともしばしばありますので、非常に大きな対人ストレスにさらされます。特に、度を超えたクレーム (執拗に来店して些細な事で高圧的に詰め寄る、特定個人を集中して非難する等) については個人の裁量に任せるのではなく、標準的な対応方法を教育し、組織として対応することが必要です。」
 小売業では大きなストレスが発生していることが認識されています。しかしその後議論はおこなわれず、対策は進んでいません。
 労働者が発症したストレスには原因があります。個人的対応では解消できません。特に 「第三者からの暴力」 の場合はそうです。やはり国、使用者、労働者全体の問題ととらえながらそれぞれの課題として取り組んでいかなければなりません。

 日本政府は 「仕事の世界における暴力とハラスメント」 に関する条約の批准が迫られます。「パワハラ防止法」 を再度改正し、ILOの要請に答えていかなければなりません。
 お互いの人権、人格権を認め合い、被害者を救済することを目的に、「あらゆるハラスメントの包括的規制」 を法律に明記させる社会的運動を盛り上げることが必要です。

 「活動報告」 2019.6.11
 「活動報告」 2019.5.31
 「いじめメンタルヘルス労働者支援センター」 ホームページ・ご相談はこちらから
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司法的救済は機能しているか
2019/06/21(Fri)
 6月21日 (金)

 5月23日、参議院構成労働委員会での 「女性の職業生活における活躍の推進等の法律」 改正案の審議にさいして参考人質問がおこなわれました。議事録が1カ月近くたってやっとホームページに載りました。
 5人が意見を述べました。法政大学キャリアデザイン学部武石惠美子教授、日本経団連輪島忍労働法制本部長、連合井上久美枝総合男女・雇用平等局総合局長、早稲田大学浅倉むつ子名誉教授、角田由紀子弁護士です。
 その中の井上参考人、浅倉参考人、角田参考人の発言を抜粋して紹介します。

○井上参考人
 この6月のILO総会において、仕事の世界における暴力とハラスメントに関する新たな条約が採択される予定です。
 世界的にハラスメントの根絶が求められる中で、昨年のILO総会で発言したほとんどの政府は条約と勧告の採択に賛成の立場です。しかし、日本政府の対応は、日本にとって定義がやや広過ぎるとして立場保留と発言されました。
 女性活躍の更なる推進と、あらゆるハラスメントの根絶に向けた観点から意見を述べさせていただきます。
 一点目は、ハラスメントの禁止規定です。
 現在、日本においてハラスメント行為そのものを禁止する規定はありません。セクシュアルハラスメント、マタニティーハラスメント、育児や介護に関するいわゆるケアハラスメントについては、法律に基づいて事業主に防止措置義務が課せられていますが、とりわけセクシュアルハラスメントについては、1999年に防止配慮義務、2007年に防止措置義務が導入されてから10数年が経過しているにもかかわらず、都道府県労働局には年間約7000件もの相談が寄せられています。国連の女性差別撤廃委員会から禁止規定を創設するよう長年勧告を受けていることもあり、禁止規定を求める声は大変強いものがあります。
 今年のILO総会で議論される条約案の第五条では、暴力とハラスメントを法的に禁止すると明確にうたっており、条約が採択されれば、ハラスメントの禁止は世界的な潮流となります。
 労政審の建議において、禁止規定の創設に当たっては、民法等との関係整理などの課題があるとして先送りされましたが、一方で、児童虐待防止に関して、体罰禁止については、こちらも民法との関係がありながらも、言わば先行して明記されることになりました。並べて論じるのは適切ではないのかもしれませんが、なぜハラスメントの方は禁止するとうたうことができないのか
 二点目は、パワーハラスメントの定義です。
 建議では、2018年三月の職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会報告書の概念を踏まえ、3つの要素として、1、優越的な関係に基づく、2、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により、3、労働者の就業環境を害することを満たすものとすることが適当とされました。これらは暴力とハラスメントの全体を網羅していると言え、これから新たにパワーハラスメントの防止措置義務を事業主に課そうという中では、その行為類型について、狭小化するのではなく、包括的に定義するべきだと考えます。
 三点目は、行為者、被害者の定義です。
 誰が加害者かによって事業主の対応が変わるのでしょうか。誰が加害者であっても守るのが事業主の責任ではないでしょうか。
 四点目は、被害者の救済です。
 今回の法案では、パワーハラスメントに関して、セクシュアルハラスメントと同様の紛争解決の仕組みを規定、適用するとされていますが、今ほどのような問題を放置したままで、果たして実効性はあるのでしょうか。
 最後になりますが、ILO条約は国際労働最低基準です。政府も使用者もグローバルスタンダードを強調しますが、労働環境は決してグローバルにはなっていません。

○浅倉参考人
 2013年には第三回目の均等法の見直しが期待されておりました。しかし、施行規則や指針の部分的改正に終わり、性差別禁止の核心に触れる改正はありませんでした。今回こそ均等法の本格的見直しを期待しておりましたけれども、これが現国会の焦点になっているようには見えません。
 真に日本の女性が能力を発揮できるようになるためには、均等法に禁止されるべき性差別の定義規定を置き、そこに直接差別と間接差別が含まれるというふうに明記すること、そして7条の間接性差別禁止規定をより分かりやすい条文にする、そういう抜本的な法改正が必要であると考えております。
 第三ですが、現在焦点となっておりますハラスメントについては、全般的なハラスメント禁止規定が必要不可欠だと考えております。
 ハラスメントに対するこれまでの日本の法政策的な対応は、ハラスメントを名称によって分類して、行政がそれぞれ個別に対応していくという形を取ってまいりました。しかし、その定義の谷間に落ちてしまう、そういうハラスメントがあるために、本当にそれでよいのか反省する必要があると考えます。
 現在のような、事業主に対するハラスメントへの適切な対応という雇用管理上の措置義務だけでは決して十分ではありません。それでは一般の人々に対して、なぜハラスメントが許されない行為なのか理解させることができないからです。
 EUやイギリスの平等法では、ハラスメントは、他者の尊厳を侵害する行為であり、脅迫的、敵対的、品位をおとしめるような屈辱的な行為であり、さらに不快な環境をつくる行為であると述べられております。
 ハラスメントは許されない。なぜなら、それは人の尊厳を侵害する言動だからです。このことをまずしっかりと条文化すべきだと考えます。
 禁止規定を作ることはハラスメント防止対策のイロハであって、この禁止規定から漏れてしまう人々があってはならないと考えます。人の尊厳の侵害行為がハラスメントなのですから、全般的、包括的ハラスメント禁止規定を置く必要性であると考えます。
 第四ですが、ハラスメントを禁止する規定を置いた場合でもその実効性をいかに確保すべきか、何といっても重要です。
 措置義務を遵守していない事業主に対しては行政が助言、指導、勧告をすることができますが、しかし勧告違反に対する制裁である企業名公表は、長い均等法の歴史の中でもただ一回行われたにすぎません。しかも、これは妊娠、出産をめぐる解雇事案でございました。

○角田参考人
 私は、ほぼ30年近くセクシュアルハラスメントの被害者の側に立って仕事をしてまいりました。そこで、セクシュアルハラスメント被害者への司法的救済というのは本当に機能しているのかというこの論点に絞ってお話をさせていただきます。
 1989年、1人の若い女性が職場での語りにくい女性差別をなくそうと、初めてセクシュアルハラスメントを理由として不法行為による損害賠償請求事件を福岡地裁に提訴しました。それ以前は、それを告発する言葉も法的枠組みも日本にはありませんでした。
 この第一号事件は、92年に不法行為であると認定されて、原告のほぼ全面勝訴で終わりました。私たちは、アメリカでのセクシュアルハラスメント事件の扱いに見習ったのですが、日本にはアメリカと違って職場の性差別禁止法がありません。そこで、私たちはやむなく、せめて違法行為として損害賠償をされるべきと考えて、当時、今もですが、使えそうな法律を含めてたった1つあった民法の不法行為を使いました。判決では、直接の行為者である編集長に加えて、原告と編集長が勤めている会社の不法行為責任が明確に認められました。
 原告は、それが不法行為であり慰謝料の支払責任があるということを認定してもらうためには、性差別であるということを強調することが必要だと考えましたので、次のように主張しました。いわゆるセクシュアルハラスメントは、職場で行われる相手方の意思に反する性的な言動であって、労働環境に悪い影響を与えるような行為をいう、それは相手方、とりわけ女性を性によって差別し、性的自己決定の自由等のプライバシーを含む人格権を侵害するものであり、また働く権利を侵害し、ひいては生存権を脅かすものであって、憲法十三条、十四条、民法一条二等に違反する。このような性差別が許されないことは諸外国においても既に広く認識されており、さらに、女性差別撤廃条約、男女雇用機会均等法、労働基準法等々によりセクシュアルハラスメントを受けずに働く権利は法律で保障されているんだと。
 つまり、性差別であって、自己決定権を含む人格権侵害であり、その結果、労働する権利が奪われ、挙げ句には生存権が奪われると、こういう三段階にわたる違法行為であることがセクシュアルハラスメントの特徴であります。
 働く女性には、セクシュアルハラスメントはまさに死活問題です。私は30年にわたって被害者に関わってきましたが、加害者からはたったそれだけのことかと言われるような出来事であっても、被害者は心身に大きなダメージを受け、仕事はもちろん、食べたり眠ったりする日常生活すら満足にこなせなくなっているということは決して珍しいことではありません。
 さらに、行為そのものと周囲の人々の誤った対応などから受ける屈辱感、自尊感情の破壊などがもたらす被害は、傷そのものが身体的な傷のように外部から見えないので理解されませんし、被害者は更に苦しむことになるのです。PTSDのもたらす心身の不調は、それを知らない人には単なる怠け者としてしか見えなかったりするわけです。
 しかし、今、30年を振り返ってみると、セクシュアルハラスメント事件は不法行為のカタログを1つ追加したにすぎない面があったのではないかと思っております。なぜならば、いまだに不法行為の枠を超えられず、本当に被害者が求めているものを獲得できないからです。被害者の求めているものは、事実をセクシュアルハラスメントと認めること、それから加害者が謝罪すること、さらに再発防止策を取るというこの3つです。
 ところが、セクシュアルハラスメント裁判を不法行為を使ってやってきた、現在ではその限界が私は大きく見えているというふうに思います。
 今回の改正案でも、法的解決手段としては不法行為裁判しか考えられていないようですけれども、30年にわたってそのことを行ってきた私の経験からは非常にそれは不十分であるし、結論としては原告の救済になっていないというふうに考えております。
 次に、被害者と加害者に平等な位置付けを与える司法手続、つまり民事訴訟という、非常に時間の掛かる手続はこの事案に対して適切かという問題があります。
 裁判は原告と被告とが攻撃、防御を繰り返す場ですが、過失相殺が許されることで、そのための主張、立証のために裁判期間は必然的に長引きます。これは、被害者から見れば、改めて加害者側の攻撃にさらされ、心身の負担が激しくなる二次被害の期間でもあるわけです。
 それから、三番目の困難な問題は、不法行為法を基にして裁判を行いますと、ゴールは金銭賠償でしかないということです。その上に、日本では賠償金額が非常に低いという問題があります。
 現状の法案では、司法的救済としては相変わらず不法行為というものが期待されているようですけれども、それでは不十分であって、とても被害者の救済には役に立たないというのが三十年間これをやってきた私の結論でございます。

○立憲民主党川田龍平
 今回の改正案ではセクシュアルハラスメントを抜本的に根絶する対策とは言い難いような状況です。参考人からもこのハラスメント行為そのものを禁止する規定が必要だという意見がある中、具体的にどのような規定が必要と考えるか。
○井上参考人
 禁止規定としては大きく分けて二種類あるというふうに思っております。ひとつめは行為者の刑事責任を伴うもの、また2つ目は違法として損害賠償請求の根拠規定となるものというふうに考えております。
 世界銀行の調査によりますと、189か国のセクハラに関する調査によりますと、禁止規定となり得る刑法上の刑罰は79か国、民事救済措置は89か国が有しているという調査もございます。

○角田参考人
 セクハラという言葉があります。 この言葉は、私たちが1989年に福岡で最初に裁判を始めたときには、セクシュアルハラスメントという言葉ではなくて、その当時暫定的にあった日本語訳、性的嫌がらせという言葉を使って始めたんです。しばらくやっていると、どうも性的嫌がらせという日本語はセクシュアルハラスメントの本来持っている意味と離れているんじゃないかということに気が付いたんですが、残念ながら弁護団で適切な訳を見付け出すことができなかった。そこで、セクシュアルハラスメントという片仮名のままでその後続けていったんです。
 そうすると、第一号事件のときに、女性が何を生意気なというような反響が周りからたくさんあったものですから、男性週刊誌がそういうふうにセクシュアルハラスメントの告発を始めた女性を半ばやゆするような感じで、セクハラという言葉を作ったんですね。
 セクシュアルハラスメントという英語そのものは、アメリカではそういう被害を体験している女性たちが編み出した言葉だったんです。でも、日本では、残念ながらセクハラという男性がやゆする表現が作られてわあっと広がったんです。広がったことはいいことではあるんですけれども、大体セクハラって何なのと、意味が付いていかないわけです。セクハラという分かりやすい日本語になった途端に本来持っていた意味がすっかり抜け落ちてしまったと。何となく曖昧のままで、人権の問題だという認識も薄かったということで、今のような状況になっているんじゃないかと私は思っております。

○日本共産党倉林明子
 セクシュアルハラスメントで被害を受けた被害者が裁判に打って出るというのは本当に大変なことだと思うんです。裁判に立ち上がって、しがいと言うか、そういう結果は得られているんでしょうか。
○角田参考人
 私は89年からセクシュアルハラスメントの裁判に関わってきました。最初のうちはただ勝つわけなので悪くはなかったんですけれども、4、5年やっていくうちに、自分の依頼者が何を獲得したのかととても疑問になってきたわけです。私は、その疑問を持ちながら、不法行為というその枠の中でやることの矛盾も考えました。
 日本では、裁判をやるということはとても重大なことというか重荷のことなんです。特に、セクシュアルハラスメントで会社も含めて訴えたいと思ったときには、大変難しいと思います。日本人の意識では、自分の雇主に何か要求する、しかもそれを裁判でやるということは非常にやりにくいことで、決意が要ると思うんです。
 裁判に訴える人は、とりわけセクシュアルハラスメントについて言えば、裁判に行く前の段階でほとんどエネルギーを使い尽くしている、精も根も尽き果てているという状況が率直なところではないかと思うんです。それにもかかわらず裁判を始めるのは大きなプレッシャーであると。個人相手だけならまだいいんですけれども、会社も相手にするときに、在職しながら訴えるのはとても難しいと思うんです。
 私が30年間に扱った原告で、在職しながら裁判やった人は2人しかいないんです。ひとりはキャリアのある人です。キャリアが中断するということはとても彼女にとっては耐え難いことなので、何とか大変でも守り抜きたいということ。もうひとりは公務員だった人です。普通の会社に勤めている人よりはまだ立場上ましであったということがありました。それ以外の人はほとんど全員が仕事を辞めてから、やっぱりこの状況に納得できないということで、文字どおり最後の手段として訴訟を起こすことになってきているわけです。
 それでは在職中の人たちは周りの同僚から支援を得られたかというと、ほとんど得られないです。トラブルメーカーだと扱われたり、いろいろ良くないことを言われる、非難されるということ。場合によっては、証人になってもいいという人もいます。実際に会って話を聞いて、裁判になると、いや、やっぱり自分の立場が悪いので証人になることはちょっと勘弁してとなってくるわけです。
 セクハラに限らず刑事事件でもそうですけれども、性被害に遭った人に対して、周りは何と言うか。あんたに落ち度があったんじゃないか、あんたが悪いんだよと言われることです。そうすると、告発をすることは、私にも落ち度がありましたと、その反面で言っているような結果になってくるわけです。
 そういうことがあるので、本当に覚悟を固めて、しかも孤立無援の闘いになってもやり抜けるのかということなんです。こういう全体的な状況、裁判をめぐる基本的な状況と、とりわけ性被害に関わる裁判をめぐる特殊な状況とがあるので、日本の中では裁判を選択するということは非常に難しい、消極的になるんです。
 裁判で勝った結果、周りに対してうそを言っていなかったということにはなるわけです。しかし、そのことが証明されたからとして、周りの人が考えを変えるかというと、そんなことは余りないです。
 被害者にしてみれば、PTSDなどの重い被害が残っているときは、裁判は2年か3年で終わっても、その後もっと長い期間を付き合わなければいけない不条理もあるわけです。だから、裁判に勝ったら終わりではない、被害者本人の救済にならないんじゃないかと私は思うようになったわけです。
 措置義務だって、会社に対して手続規定としては措置義務を申し立てることができると言っても、一体何人が言い出せるだろうかというと大変難しいと思いますし、辞めてからだったら意味ないわけです。
 ですから、不法行為だけを当てにするのではなくて、もっと別の、もっと時間が掛からなくて、しかも煩わせが少ない、それからプレッシャーの少ない、そういう別の法的な救済方法を考えなければいけないと思います。
 外国では、禁止規定を持っていることと連動し、もちろん司法的な救済はあるんですけれども、それ以外の人権委員会とか雇用平等委員会とか、いわゆるそういう行政機関での訴訟にない、もっといろんなうまみを持った解決方法ができていることを日本でも検討する必要がある
と思っております。

 予防をどうするかは大変難しい問題です。
 裁判をやっても、原告にとっては本当の回復にならないし救済にならないので、講演を頼まれると、裁判というのは余り役に立たないですよと。
 それよりは、お金を掛けるのであれば、企業も予防に掛けてほしいと思います。そのときに、やっぱりセクシュアルハラスメントは何なのかということを基本的に教育するというものがないと、おざなりなことをやっていてはしようがないと思っています。
 本当に深刻な解決すべき問題であるということを、企業も従業員も理解できるような内容の研修をすべきだと私は考えています。
 自分が呼ばれたときも、私の話を聞いて、今日研修したからいいというのでは困りますよと、これは単なる入口だから、もっと本格的な理解に進まないと、どうすれば予防できるかという理解も進まないでしょうと。もっと連続して中身のあるものをどういうふうにやっていくかと考えていただかなければいけないと思うんです。
 外国の例をもっと真剣に参照した方がいいと思います。日本の中だけだったら何か行き詰まったような感じになるんですけど、そうじゃない国があるわけなので、どうしてほかの国ではできているのかということを考える必要があると思います。
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男性管理職のメンタル不調が深刻
2019/06/18(Tue)
 6月18日 (火)

 日本産業カウンセラー協会は、相談室によせられた利用状況等の18年度統計結果をまとめました。
 「対面」 と電話相談 「働く人の悩みホットライン」 合わせて10,371件寄せられました。対面は男性2.458件、女性2.855件、電話は、男性2.241人、女性2.817件です。労働人口における男女比から見ると、女性の方が圧倒的に多いです。

 相談内容についてです。
 男性の対面でもっとも多かったのは 「職場の問題」 (823件)、次いで 「自分自身のこと」 (691件)、「メンタル不調」 (413件)、「キャリアカウンセリング」 (280件)、「家庭の問題」 (221件) の順です。
 電話は 「場の問題」 (785件)、次いで 「自分自身のこと」 (649件)、「キャリアカウンセリング」 (306件)、「メンタル不調・病気」 (305件)、「生活全般」 (74件)、「家庭の問題」 (64件) の順です。
 女性の対面でもっとも多かったのは 「自分自身のこと」 (1.087件)、ついで 「職場の問題」 (835件)、「家庭の問題」 (443件)、「キャリアカウンセリング」 (221件)、「メンタル不調」 (213件) の順です。
 電話は 「職場の問題」 (1,411件)、次いで 「自分自身のこと」 (638件)、「キャリアカウンセリング」 (324件)、「家庭の問題」 (187件)、「メンタル不調・病気」 (142件) の順です。

 男性は対面と電話ともに 「職場の問題」 「自分自身のこと」 の順で、ついで面談では 「メンタル不調」 が3位、電話では1件の差で4位です。
 女性は電話では 「職場の問題」 を、対面では 「自分自身のこと」 を相談することが多いです。
 男女の違いとしては、「メンタル不調・病気」 については、男性は女性に比べ2倍以上多くいます。逆に 「家庭の問題」 は、女性は男性に比べ2倍以上多くいます。男性は家庭をあまり顧みるゆとりがないくらい仕事を続け、女性は家事に専念しているということでしょうか。
 「職場の問題」、「メンタル不調・病気」 の相談が職場ではなく外部機関におこなわれるということは、職場の労働組合や安全衛生を担当する機関が機能していないということです。「自分自身のこと」 の相談を外部機関にするのは職場に相談できる相手がいないということです。現在の職場状況、人間関係が垣間見られます。

 面談での年齢別に見てみると、対面は40代が最も多く、次いで50代、30代の順です。
 さらに細かくみると、40代では男性が多く、30代では女性が圧倒的に多く、50代では同じくらいになっています。
 電話での年齢別では、40代が最も多く、30代、50代の順です。しかし件数に大きな差はありません。ただ、どの年代でも女性が多くなっています。さらに細かくみると、40代、50代では女性が圧倒的に多くなっています。


 面談で相談内容と年代、男女別をクロスさせると、「メンタル不調・病気」 では40代男性が最も多く (28.6%)、50代男性 (12.9%)、20代男性 (12.3%)、20代女性 (11.2%)、30代男性 (9.1%) の順です。
 電話では、40代男性が最も多く (24.6%)、30代男性 (16.3%)、50代男性 (13.9%)、60代男性 (9.6%)、30代女性 (8.3%)の順です。
 40代男性からの比率が他の年代に比べ多いことから、中間管理職にあたる世代で 「メンタル不調・病気」 の悩みを抱える方が多くなっているといえます。
 また、30代男性と60代男性の電話での相談が面談よりの多くなっています。「顔が見える関係」 では相談しにくいということでしょうか。


 2011年からの対面の男女比率を発表しています。
 2015年までは男性55%前後、女性45%前後でしたが、14年、15年は拮抗し16年に逆転します18年は男性46.3%、女性53.7%です。
 電話では、男性44.3%、女性55.7%で、昨年度と比べると4.7%、女性の比率が高くなりました。
 女性労働者が増大しています。ただし正規、非正規の具体的数字はわかりません。

 対面の相談事例です。
 ・あまり深く考えず転職し、周囲から即戦力として期待されているが、それに応える自
  信がない。
 ・鬱病で休職中だが、復職に備えてどういったことに気をつけたら良いか相談したい。
 ・転職先でも以前の職場でもパワハラを受けている。自分に問題があるとは思えない
  が、第三者の意見を聞きたい。
 電話の相談事例です。
 ・通勤途中の出来事が原因でパニック障害となり休職。復職したが同僚の心無い言
  葉に傷ついた。
 ・異動先の上司から必要以上の好意を寄せられたので、少し距離を置いたら、逆に
  嫌がらせを受けるようになった。
 ・新人の態度が悪いので注意したら、パワハラだと上司に訴えられてしまった。
 ・電話すると気持ちが落ち着く。話を聴いてもらえるのはここだけ。

 相談事例からも、現在は職場の人間関係がバラバラ、孤立していることが伺えます。


 相談内容も時代の流れとともに変化が見られます。
 管理職の 「メンタル不調・病気」 の原因は、これまでも時代背景とともにあげられました。
 1990年代のバブル崩壊後、各企業はリストラを推進します。多くの管理職、中間管理職がその対象になりましたが、残された管理職は経験が浅い業務で責任を負わされます。部下も削減されます。プレイング・マネジャー化が進みます。部下はバブル期入社組でした。その中で部下の業務を深夜に処理をすることになるなど、孤立無援のなかで多忙を極みました。
 管理職としてのノウハウも伝授・継承されていません。管理職の責務を充分に習得しないままで部下を指導することになります。
 ゆとりがない上司を部下は “無能” と評価します。しかし “無能” ではなく能力を発揮するゆとりやチャンスがないのです。管理職のメンタルヘルス不調、過労自殺が増大しました。しかし体調不良は自己管理ができていないからといわれました。
 いまもこの弊害は残っています。

 非正規労働者が増大します。正規労働者、非正規労働者の格差がさまざまに表れます。それを取り繕うのが管理職の任務です。しかし改善する手立てはもっていません。その場しのぎの対応しかできないので当事者の不満を解消することはできません。非正規労働者の業務を深夜に肩代わりします。職場環境は改善されません。職場全体に不満が鬱積します。

 成果主義 (実際は実績主義)、生産性向上を迫られます。部、課全体の責任が問われます。最終的にはそこの責任者の責任となります。
 指定された目標に達しなかったときは全体へのペナルティーが科せられます。その結果、やる気を失い、労働者はバラバラになっていきます。仲間内の個人攻撃がおきます。

 1990年代半ばから2000年前半は 「就職氷河期」 と呼ばれました。自分に自信を持てない世代が入社します。夢を追わない・追えない世代です。
 この世代が現在の会社の中堅を担っています。
 2008年にリーマンショックが起きました。「努力しても報われない」 ことが突然起きます。しかし自己責任を強いられました。年末の 「日比谷派遣村」 にはスーツ姿の中年男性労働者が “路上” から集まってきました。
 不安定な社会状況は今も続いています。
 社会生活、日常生活の中でストレスが発生しないはずがありません。


 「日経ビジネス」6月19日号の記事「中間管理職がヤバい!死亡率急増と身代わり残業」からです。
「北里大学公衆衛生学部の和田耕治氏らの研究グループが、30~53歳の男性の死因および死亡前に就いていた職業のデータなどを、1980年から2005年まで縦断的に解析したところ、管理職の自殺率は1980年から2005年の25年間で、271%も激増し、管理職の死亡率が5年で7割も増加。さらに、心筋梗塞や脳卒中で亡くなる人は他の職種で漸減していたのに、管理職と専門職では70%も増加していたのである。
 また、この調査では30~59歳の日本人男性の人口に占める管理職の割合も調べているのだが、1980~2005年の25年間で、8.2%だったのが3.2%と半分未満に減少していることもわかった。」


 今は、職場での業務指示もインターネット、人間関係は携帯、スマホになっています。同僚・仲間の関係性がつくれません。そして携帯、スマホは人間関係を狭くします。逆に一方的、無責任な情報が飛び交っています。
 いびつな職場、社会がつくられています。このようななかで1人ひとりの労働者は脆弱になっているといわれています。
 生産性が向上するはずがありません。

 お互いが不満をいい合う労働環境から、理解し合う関係を模索することが大切です。
 誰かに相談する場合は、個人的に不満を解消するだけではなく、職場環境を改善に向けて挑戦する契機にしていく必要があります。
 不安定な社会だからこそ、「失敗しても許される、再起が保障される」 制度を確立していく必要があります。お互いが助け合う社会をつくりあげていかなければなりません。

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政府は投資をすすめるべきでない
2019/06/14(Fri)
 6月14日 (金)

 金融庁の審議会は、男性65歳、女性60歳の夫婦が30年長生きする場合、生活費として平均2000万円不足するという報告書を提出しました。しかし財務大臣みずからが諮問したにもかかわらず受け取りを拒否し、自民党国会対策委員長は 「なかったもの」 として取り扱うといっています。
 報告書の本当の狙いはタンス預金などの 「貯蓄から投資へ」 を働きかけることで経済を活性化するのが目的でした。安倍政権の経済政策に沿ったものです。
 しかし政府と審議会の関係性から、これまでだれも触れたがらなかった年金政策問題に発展して議論がつづいています。

 老後を自助努力で、そのための資産形成の方法が投資といわれて可能な人はどれくらいいるのでしょうか。そして投資は必ず利益を生むものではありません。リスクが伴う一種の “ばくち” です。だれかが儲けて、だけかが損をします。証券会社などから騙されて損をしても自己責任です。しかし将来へ不安をあおって推進しようとしています。やめるべきです。


 会社経営は開かれたものでなければなりません。(15年9月1日の 「活動報告」参照)
 しかし騙して儲ける 「ものいう株主 (アクティビスト)」 もいます。彼らは株価がさえない企業をターゲットに様々なことを仕掛けてきます。
 アクティビストファンドは、イベントドリブン型のヘッジファンドとも呼ばれます。イベントドリブンとは、企業のM&A (合併・買収)、経営破綻、事業再編などのイベントを利用して収益を得る手法をいいます。このようなイベントが引き金となり、株価が激しく上下しますがその値動きを収益機会とします。
 アクティビストファンドは、値ごろ感のある上場企業の株式を取得し、株価が上昇した段階で手放し、利ザヤを稼ぎます。株主の権利をフルに活用し、事業提案を行うなど経営陣にも積極的に働きかけます。
 最近のアクティビストファンドは、年金基金など機関投資家を味方につけて影響力を強めており、経営陣と対立した場合は、株主総会での多数決で議案を決めます。「委任状争奪戦 (プロキシーファイト)」 です。
 株主総会に合わせて増配や自社株買いなどの要求を突きつけることもあれば、役員を送り込んだり、経営にタッチするケースもあります。時には無理な増配などの要求をしたり、リクエストが通らないと取締役の解任を迫るなど、高圧的な態度や姿勢を見せることもあります。
 イベントには一般株主・投資家も巻き込まれます。


 最近の具体例です。
 大手不動産会社のレオパレス21は、昨年5月、自社が手がけた賃貸アパートで建築基準法違反が発覚して以降、経営が危機に陥っています。5月10日に発表した19年3月期決算は、予想をはるかに上回り、補修工事費用の拡大で686億円もの巨額赤字となりました。施工不良が見つかったアパートの修繕費用に備えるため、自社で保有する賃貸マンションなどを売却し資金を手当てすることを決定しました。
 そのようななかで、5月初旬の株価は約200円だったのが5月27日には438円まで上昇しました。
 株価上昇のきっかけは、「お金をもうけることはいけないことですか」 の “名言” を吐いた村上世彰が立ち上げた旧村上ファンド系の 「ものいう株主」 として有名なレノの 「買い」 です。急落する中で買い増しを進めてきていました。5月23日にグループの保有割合は16.18%まで上昇していました。保有目的は 「投資および状況に応じて経営陣への助言、重要提案行為などを行うこと」 としています。

 なぜレノは、レオパレス株を買い集めているのでしょうか。
 6月27日に株主総会がおこなわれます。そこではレノからの厳しい要求が予想されます。
 レオパレスは現在、8人いる社内出身の取締役のうち、社長ら7人が株主総会で一斉に取締役を退くことを発表しています。新たな取締役を加えた計10人で、社外取締役の割合をこれまでよりも増やし、企業統治の改善につなげたいと考えています。
 レノがものいう株主として、レオパレスにどのような提案をおこなうか注目されています。

 レオパレスが人々の生活の基盤である住居にたいして施工不備なことをおこなっていたこと自体、入居者のことなどはまったく考慮しないで単なる商品として取り扱っていたということで許されません。今後の責任追及、入居者の生活保障は必須です。
 さらにそのような会社から一時的に株主を主張して利ザヤを稼ぎ、そこで働く労働者の生活、権利のことなどはかえりみずに撤退しようとする行為は許されません。
 そのようなことをして 「お金をもうけることはいけないことです」。


 レオパレスにおける動向はどこかで聞いたことがある光景です。
 17年12月19日などの 「活動報告」 で紹介した電子部品・材料専業商社の黒田電気です。介入した村上ファンド系は最終的に保有株式を手放しましたが380億円稼いだといわれています。


 さらになりふり構わない姿です。
 5月10日の朝日新聞は 「車部品大手ヨロズの買収防衛策 旧村上ファンド系が廃止要求」 の見出し記事を載せました。
「自動車部品大手のヨロズ (横浜市) は9日、同社の大株主で、旧村上ファンドの関係者が運営する投資会社 「レノ」 から買収防衛策の廃止を求める書簡を受け取ったと発表した。ヨロズは要求に応じない構えだが、レノは4月9日付の書簡で、6月の株主総会で買収防衛策の廃止を株主提案する意向も伝えており、今後対立が激しくなる可能性がある。

 レノが書簡への回答の公表を求めたことを受け、ヨロズの志藤昭彦会長が5月9日の記者会見で明らかにした。志藤会長は 「(レノは) 設備投資の内容などにも興味を示さない。中長期的な企業価値の向上を目的に要求しているかは疑わしい」 と話した。
 ヨロズによると、レノは、株価が低水準なのに買収防衛策を維持するのは経営陣の保身行為だと主張用。買収防衛策の廃止に加え、持ち合い株の売却や自社株買いの実施などを求める書簡を複数回送った。
 ヨロズは、昨年の株主総会で3年間有効な買収防衛策が承認されていて廃止の必要はないと反論。有効期間中に廃止するには、定款変更が必要だと回答したという。定款変更には株主総会で3分の2超の賛成が必要でハードルが高い。

 レノは2014~15年ごろ、旧村上ファンド系の別の投資会社とヨロズ株の約12%を取得。株主還元策の強化などを要求し、応じなければ株式公開買い付けを実施すると主張した。その後全株を売却したが、18年以降に再び株式を収得し、いま約5%を持つ。」

 5月28日のロイターは 「東京高裁、投資会社・レノのヨロズへの請求棄却 株主提案で」 の記事を発信しました。
「旧村上ファンドの関係者が運営する投資会社 「レノ」 からの株主提案を株主総会の議案としないとした自動車部品メーカーのヨロズの決定に対し、レノが申し立てた仮処分に関連し、東京高裁は27日、レノ側から出ていた即時抗告を棄却した。
 この件で、レノはヨロズに対し、買収防衛策の廃止を求め、株主提案していた。しかし、ヨロズは 「法的な疑義がある」 として、6月17日開催の定時株主総会の議案としないことを決めたと発表。
 これに対し、レノは、横浜地裁に仮処分の申し立てを行い、横浜地裁は20日に申し立てを棄却。レノは東京高裁に即時抗告していた。」


 15年9月1日の 「活動報告」 の再録です。
 会社法は、会社は誰ものか、そもそも会社とは何かということから始まります。会社は 「法がつくった人」、つまり 「法人」 です。そして出資者である株主のものです。バブルが崩壊し、ファンドが飛び交うようになった頃から、会社は誰のものかという議論が起きると 「ストックホルダー」 (株主) という主張がはびこっています。経済のグローバル化が進む中でのグローバル・スタンダードではさらにそうです。「コンプライアンス」 が登場し、重視されます。

 では、村上らのような株主のものでしょうか。労働者は、労働者の側からの 「コンプライアンス」 ・秩序を対峙させて主張する必要があります。なぜなら、会社の利益をつくり出しているのは労働者だからです。
 会社は、社会の中に存在し、関連する事業・企業があって存在でき、利用者があって維持できています。そして会社の中には労働者がいます。「ステークホルダー」 (利害関係者) のものです。さらに利害関係者は拡大し、顧客・消費者、そして事業所が存在する地域の人たちも含めるまで捉えられるようになっています。法人としての会社は社会的責任もあります。会社は株主が 「お金を儲ける」 組織ではありません。

 労働者・労働組合は株主、取締役会に対峙していく必要があります。そうでないと村上らのような株主の餌食になります。
 「お金を儲けることは悪いことですか」 の問いに 「労働者を差別して、踏み台にしてお金を儲けることは悪い。そのために生死の境に追いやられているものもいる。私たちはそうしない。私たちはそのような社会を変えたい。」 という認識と行動です。
 労働組合は社会の中に存在し続ける必要があります。


 株主・投資家も餌食になっています。しかしその判断は自己責任です。労働者が犠牲になっています。
 政府は、年金問題で不安をあおって投資をすすめるようなことはやめるべきです。
 年金問題は、働き続けてきたものが安心して老後が過ごせるような社会互助制度として確立させていく必要があります。そのための真剣な議論を開始させなければなりません。

 「活動報告」 2017.12.19
 「活動報告」 2017.6.27
 「活動報告」 2015.9.1
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「暴力とハラスメントのない仕事の世界に対するあらゆる人の権利を承認」する条約の批准、採択を
2019/06/11(Tue)
 6月11日 (火)

 6月10日から21日にスイス・ジュネーブで国際労働機関 (ILO) 第108回総会が開催されます。メインテーマは 「仕事の世界における暴力とハラスメント」 に関する条約案です。議論は昨年からの継続で、今年は採決が行われます。
 総会には、会期中に40カ国以上の首脳、厚労省の説明では 「ハイレベル出席者」 が演説する予定になっています。しかし日本から政府関係者は10数名出席しますが首相や大臣などの予定はありません。

 日本政府は昨年の総会で反対の論陣をはりました。
 しかし、厚労省のホームページには議題としては挙げられたことまでは報告がありますが、どのような議論がおこなわれ、日本政府は具体的にどのような主張をしたのかについてはまったく触れず、隠しつづけています。
 今回の条約への賛否も国内法との整合性などから未定といわれています。
 根底にあるのは労働者の人権、人格権尊重、保護の欠如です。ILOのフィラデルフィア宣言は 「すべての人間は、人種、信条又は性にかかわりなく、自由及び尊厳並びに経済的保障及び機会均等の条件において、物質的福祉及び精神的発展を追求する権利をもつ」 と確認しています。「労働は商品ではない」 です。しかし労働者が、労働力が宿るが人間として扱われていません。労働が取り扱い自由の商品になっている実態を追認しています。


 採決予定の 「仕事の世界における暴力とハラスメントの根絶に関する条約案」 の抜粋です。(連合仮訳)
「・・・暴力とハラスメントのない仕事の世界に対するあらゆる人の権利を承認し、仕事の世界における暴力とハラスメントは人権侵害の一つであり、均等な機会への脅威であり、受け入れ難く、かつディーセント・ワークと相容れないものであることを想起し、
各加盟国は暴力とハラスメントの防止を促進するため、それら行為と慣行を断固として容認しない環境を全面的に整備する重要な責任があること、仕事の世界に関わる全ての当事者が、暴力とハラスメントを自制し、防止し、それらに対処する必要があることを想起し、
仕事の世界における暴力とハラスメントは、個人の精神的、身体的および性的健康、尊厳、家族および社会環境に影響するものであることを認め、暴力とハラスメントは、公共および民間のサービスの質にも影響し、多くの者、とくに女性が労働市場にアクセスし、残留し、昇進するのを妨げる可能性があることを認識し、暴力とハラスメントは持続可能な企業の促進と相容れず、仕事上の組織、職場の関係、労働者の参加、企業の名声と生産性に否定的に影響することに留意し、
ジェンダーに基づく暴力とハラスメントは、女性と少女に偏向して影響を与えることを認め、ジェンダー・ステレオタイプ、複合的に連関 する形態の差別、ジェンダーに基づく不平等な力関係などを含む、根本的原因とリスク要因と闘うための、包摂的で、統合され、かつジェ ンダーを意識したアプローチは、仕事の世界における暴力とハラスメ ントを終結させるために必須であることを認識し、
ドメスティック・バイオレンスは、雇用、生産性、健康および安全に影響を与えうること、また政府、使用者と労働者の組織、労働市場制度は、その他の措置の一環として、ドメスティック・バイオレンスを認識し、それに対応しまた対処するための支援が可能であることに留意する。
 会期の議事日程の第5議題である、仕事の世界における暴力とハラスメントに関する提案の採択を決定し、その提案が国際条約の形式をとるべきであることを決定して、次の条約 (引用に際しては、2019年の暴力とハラスメント条約と称することができる) を2019年6月 XX 日に採択する。

I.定義
第1条
1.この条約の適用上、
(a) 仕事の世界における 「暴力とハラスメント」 とは、一回性のもので あれ繰り返され
 るものであれ、身体的、精神的、性的または経済的危 害を目的とするか引き起こす、また
 はそれを引き起こす可能性のある、 許容しがたい広範な行為と慣行、またはその脅威をいい、
 ジェンダー に基づく暴力とハラスメントを含む。
(b) 「ジェンダーに基づく暴力とハラスメント」とは、性別またはジェンダーを理由として
 直接的に個人に対して向けられた、または特定の 性またはジェンダーに偏向して影響する暴
 力およびハラスメントをいい、セクシュアル・ハラスメントを含む。
2.本条第1項 (a) に影響を与えることなく、暴力および嫌がらせは単一の概念または別々の
 概念として法令の中で定義されることがある。

Ⅱ.範囲
第2条 この条約は、都市か地方にかかわらず、フォーマル経済およびインフォーマル経済
 の双方におけるあらゆるセクターの労働者、国内法および慣行で定義された被雇用者、
 契約上の地位にかかわらず労働する者、実習生および修習生を含む訓練中の者、雇
 用が終了した労働者、ボランティア、求職者および就職志望者を含むその他の者に
 ついて適用する。

第3条 この条約は、仕事中に、仕事に関連して、または仕事に起因して発生する、仕事
 の世界における暴力とハラスメントに適用する。
(a) 労働する場としての公共および私的な空間を含む職場。
(b) 労働者が賃金の支払いを受ける場所、休憩もしくは食事をとる場所、または労働者が
 使用する衛生設備、洗面所、更衣室。
(c) 仕事に関係した旅行、訓練、イベントまたは社会的活動の期間中。
(d) 情報通信技術によって可能になった労働関連のコミュニケーショ ンの間。
(e) 使用者が提供する宿舎。および
(f) 合理的に実行可能である限りにおいて、通勤時間中。

第4条 この条約の適用上、仕事の世界における暴力とハラスメントの被害者および加害
 者は、以下であり得る。
(a) 使用者および労働者、ならびにそれぞれの代表者、ならびに第2条で定めるその他
 の者、
(b) 国内法および慣行に即したクライアント、顧客、サービス事業者、利用者、患者、一般
 の人々を含む第三者。

Ⅲ.基本原則
第5条
1. 本条約を批准する加盟国は、暴力とハラスメントのない仕事の世界に対する権利を承認
 する。
2. 各加盟国は、国内法および国内の状況に即して、かつ労使の代表的組織との協議のうえ
 で、仕事の世界における暴力とハラスメントを根絶するための以下を含む包摂的かつ統合さ
 れたジェンダーを意識した アプローチを採用する。
(a) 暴力とハラスメントを法的に禁止する。
(b) 適切な政策によって暴力とハラスメントに対処する。
(c) 暴力とハラスメントを防止しそれらと闘うための措置を実施するための包括的な戦略を
 採用する。
(d) 執行および監視のための仕組みを強化し確立する。
(e) 被害者が救済および支援を受けられるよう確保する。
(f) 制裁を設ける。
(g) ツール、指導、教育、および訓練を確立し、認識を高める。
(h)暴力とハラスメント事例に対する労働監督官など権限のある当局による効果的な監督
 および調査の手段を確保する。
3. 本条第2項で定めるアプローチを採用し実施する際には、各加盟国は、政府、使用者
 および労働者、ならびにその組織の責任の性質および範囲の多様性を考慮しながら、
 それぞれの補完的な役割および機能 を認識する。」


 5月29日、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律案」が成立しました。企業に職場のパワーハラスメント防止策に取り組むことを義務付けることをうたっています。しかし改正法が成立する前から職場のパワハラ防止の効果が疑問視されています。

 条約案は一言でいうと 「あらゆるハラスメントの根絶」 です。
 成立した日本の改正法と比べても定義、対象範囲、罰則付き禁止項目の有無など大きな乖離があります。最も大きいのは取引先などいわゆる第三者からの暴力問題で、改正法の審議においても「今後の検討する」です。

 5月14日の 「活動報告」 で紹介しましたが、4月16日の衆議院厚生労働委員会は、法案の審議にあたって5人の参考人陳述がありました。
 国民民主党の議員は 「この政府提出の法案で、ILOが採択を予定している条約を日本は批准することができると考えているか」 と質問しました。それに対して4人が難しいと回答しました。
 経団連の参考人は、「現状では、どういうふうになっていくかということによるかと思っています。むしろ、今、我が国でハラスメントについての議論をしているので、ぜひとも、ILOの条約にかかわらず、この国会の中で我が国の防止対策についてまとめていただければと思っております。」 と答弁しました。ILO条約は関係ないという答弁です。日本政府の姿勢と同じです。


 条約が採択されれば次は批准となります。また改正を迫られます。
 改正法の参議院での採決にあたって21項目の付帯決議がつけられました。その抜粋です。
「八、ハラスメントの根絶に向けて、損害賠償請求の根拠となり得るハラスメント行為そのものを禁止する規定の法制化の必要性について検討すること。
十九、国内外におけるあらゆるハラスメントの根絶に向けて、第百八回ILO総会において仕事の世界における暴力とハラスメントに関する条約・勧告が採択されるよう支持するとともに、条約成立後は批准に向けて検討を行うこと。
二十、セクシュアルハラスメント等の防止対策の一層の充実強化を求める意見が多くあることから、第百八回ILO総会等の動向も踏まえつつ、更なる制度改正に向けて、本法附則のいわゆる検討規定における施行後五年を待たずに施行状況を把握し、必要に応じて検討を開始すること。
二十一、第三者からのハラスメント及び第三者に対するハラスメントに関わる対策の在り方について、検討を行うこと。」


 法改正は、将来への期待・目標もふくめて行われます。
 しかし、今回の改正は現状の変更を望まない姿勢が表れています。そのため実効性のうすい、セクハラ防止においては大きな変更がない名ばかりの改正案でした。
 日本政府は批准にむけ、付帯決議をふまえて実効性ある改正にむけた取り組みを早急にすすめていかなければなりません。

 「『仕事の世界における暴力とハラスメント』 に関する条約案」
 「活動報告」 2019.5.14
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