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パワハラ防止法案  概念・要素は細分化するほど現実から遠ざかり実効性を失う
2019/04/05(Fri)
 4月5日 (金)

 2012年3月15日、厚生労働省は 「職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言」 (「提言」) を発表しました。日本ではじめて、職場のいじめ (パワハラ) の予防・防止の取り組みについてのとらえ方、概念規定・定義、取り組み方法を明示しました。
 「提言」 は、いじめは個人間の問題ではなく職場のなかで構造的に発生するととらえました。そのうえで概念規定・定義をおこないます。
「職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう」

 2月14日、労働政策審議会・雇用環境・均等分科会は、「女性の職業生活における活躍の推進及び職場のハラスメント防止対策等の在り方について」 をとりまとめ厚労大臣に答申しました。答申は 「法案」 となって国会に提出されています。
 答申の中の 「職場のパワーハラスメントの定義について」 です。
「職場のパワーハラスメントの定義については、『職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会』 報告書 (平成30年3月) の概念を踏まえて、以下の3つの要素を満たすものとすることが適当である。
 ⅰ) 優越的な関係に基づく
 ⅱ) 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により
 ⅲ) 労働者の就業環境を害すること (身体的若しくは精神的な苦痛を与え ること)」

  「提言」 の並列的それぞれの要素は、答申では3つの要素すべてを満たさなければならないものとなりました。

 どのような経緯で変更になったのでしょうか。
 検討会の報告書です。
「このため、企業の現場において、労使等関係者により、実効性のあるパワーハラスメントの予防等の対策が進むようにするためには、まずは、優先的に防止すべき具体的な行為を念頭に置いて、対象を定めることが望ましいと考えられる。
 具体的な対象を検討するための参考となる円卓会議のワーキング・グループで整理された職場のパワーハラスメントの概念は、『同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為』 と示されており、これに当てはまる典型例として6つの行為類型が示されている。
 現状ではこれら概念や行為類型を念頭に取り組んでいる企業も多いことから、本検討会においては、この概念や行為類型を踏まえて、実効性のある対策を取るためにはどうすれば良いかを検討すべきという意見が多く示された。このため、円卓会議のワーキング・グループで整理された概念を参考にしつつ、以下の①から③までの要素のいずれも満たすものを職場のパワーハラスメントととらえることを職場のパワーハラスメントの概念として整理することとした。」

 つまりは、これまでの 「6つの行為類型」 を実効性ある対策をとるため 「①から③までの要素のいずれも満たすものを職場のパワーハラスメントととらえることを職場のパワーハラスメントの概念として整理」 したといいます。言い換えるとこれまで 「提言」 にもとづいて取り組んでいたなかには本来 「パワーハラスメント」 に該当しないものまでさせていた “行き過ぎ” があったので整理するということです。
 はたしてこれまでパワハラと指摘された案件のなかには本当にそうでななかったというのがあったのでしょうか。被害者が声を挙げたということは、それだけで職場には何らかの問題が発生しているということです。


 労政審では定義・概念についてどのような議論がおこなわれたのでしょうか。
 検討会と労政審は、使用者側委員は2人同じです。
 労政審で労働者側委員は 「労使が入って10回にわたり開催された検討会で、双方が確認した経緯がありますので、相当な重みがあると考えています。」 ということで改めての議論は行われませんでした。

 答申は 「ⅲ) 労働者の就業環境を害すること (身体的若しくは精神的な苦痛を与え ること)」 でしたが法案では (身体的若しくは精神的な苦痛を与え ること) が消えています。
 パワハラの被害をうけるのは労働者です。その経過・結果、就業環境が害されます。その認識が欠落しています。指針等でカバーするというかもしれませんが、法律は指針等は関係なく1人歩きします。企業・事業場に視点をおき、(身体的若しくは精神的な苦痛を与え ること) を重要視したくないという姿勢が表れています。
 概念・要素は細分化するほど現実から遠ざかり実効性を失います。
 要素を厳格化すると声を挙げにくくなります。被害と被害者の尊厳が否定されてしまうという事態が生まれてしまいます。法に基づいたパワハラ予防・防止対応そのものがパワハラとなり、困難事案に発展していきます。


 パワハラが発生しない社会はありません。そのなかでパワハラ防止は、発生したら小さな芽のうちに摘むのが大切です。集団活動の職場のなかでなにかおかしいと感じた時におかしいと声を挙げることが必要です。それが職場を活性化します。そして問題が具現化した時に被害にあったと思われる側の立場に立って対処するとともにもう一度職場全体を捉え返していくことが大切です。
その時に、パワハラとは何かというような判断基準は本当はいりません。それでも議論のためには共通認識が必要だというときの要件が 「提言」 の概念規定・定義といえます。

 
 パワハラ予防・防止は自分たちの問題として、取り組むことが大切です。
 しかし検討会も、労政審も困難案件にしたうえで、使用者、加害者みずから解決するのではなく、第三者に委ね、被害者に救済手段として刑事事件、民事事件を提起します。
 「法案」 ではそのような状況が作り出されます。深刻化すると解決が難しくなり、時間がかかります。
 「法案」 の定義は、「提言」 に戻されるべきです。


 さて、民間における 「職場のいじめ (パワハラ)」 以外に、日本でのパワハラの定義はどのようなものがあるでしょうか。
 15年7月に地方公務員むけに人事院職員福祉課が作成したパワー・ハラスメント防止ハンドブック 「お互いが働きやすい職場にするために」 です。
「概念
 『パワー・ハラスメント』 については、法令上の定義はありませんが、一般に 『職務上の地位や権限又は職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、人格と尊厳を侵害する言動を行い、精神的・身体的苦痛を与え、あるいは職場環境を悪化させること』 を指すといわれています。(「パワー・ハラスメントの言動例 (人事院)」 及び 「職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言(厚生労働省)」 を参考に作成)」

 それまでは2010年1月に人事院職員福祉局職員福祉課企画班が作成した 「『パワー・ハラスメント』 を起こさないために注意すべき言動例」 がありました。
「〔はじめに〕
 ① 『パワー・ハラスメント』 については、法令上の定義はありませんが、一般に 『職権などのパワーを背景にして、本来の業務の範疇を超えて、継続的に人格と尊厳を侵害する言動を行い、それを受けた就業者の働く環境を悪化させ、あるいは雇用について不安を与えること』 を指すといわれています。
 なお、業務上の指導等ではあるが、その手段や態様等が適切でないものも、本来の業務の範疇を超えている場合に含まれると考えられます。」

 「『パワー・ハラスメント』 を起こさないために注意すべき言動例」 は 「提言」 が発表される前に通達されました。それぞれの要素は並列的ですべての要素を満たすものとはなっていません。「お互いが 働きやすい職場にするために」 もそれを踏襲しています。
 双方とも 「人格と尊厳を侵害する言動」 が入っています。しかし 「提言」 にも法案にもありません。これを機会に盛り込む必要があります。
 パワハラ防止法が法案のまま成立したら公務員の概念・定義も厳しくなってしまうのでしょうか。


 学校における 「いじめ防止対策推進法 (平成25年) 律第71号)」 です。
「(定義)
 第二条 この法律において「いじめ」とは、児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為 (インターネットを通じて行われるものを含む。) であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているものをいう。」
 法は2013年に制定されていますが、それ以前の1966年から文部科学省は 「児童生徒の問題行動党生徒指導上の諸問題に関する調査」 (「問題行動調査」) で学校におけるいじめ、暴力行為、不登校、自殺などの現況を調査しています。(内田良著 『学校ハラスメント 暴力・セクハラ・部活動―なぜ教育は 「行き過ぎる」』 (朝日新書) 参照)
 「問題行動調査」 の中での「いじめ」の定義です。
「本調査において、個々の行為が 『いじめ』 に当たるか否かの判断は、表面的・形式的に行なうことなく、いじめられた児童生徒の立場に立っておこなうものとする。」
 この後に法の 「いじめ」 の定義がつづき、「なお、起こった場所は学校の内外を問わない。」 が加わります。
 まさにいじめ問題をとらえるとき、「表面的・形式的に行なうことなく、いじめられた児童生徒の立場に立って」 とらえる必要があります。
 このことを踏まえるなら検討会の報告書、労政審の答申、そして法案の概念・定義は表面的・形式的に、しかも狭めて運用しようとしています。人格と尊厳を侵害するという視点は意図的に排除されているといえます。


 パワハラの概念・定義を比べると、法案が最も被害者救済から遠く、問題解決を難しくします。
 法案審議においては、職場のいじめの概念・定義を 「提言」 に戻し、さらに「人格と尊厳を侵害する言動を行い」を盛り込んだものにするため世論を喚起していく必要があります。

 「活動報告」 2019.3.26
 「いじめメンタルヘルス労働者支援センター」ホームページ・ご相談はこちらから
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