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「救助はすぐ側まで来ています。必ずあなたを助けます」
2018/07/31(Tue)
 7月31日 (火)

 自然災害が続きます。7月に入ってからの西日本豪雨では広島県、岡山県などでかなりの被害がでています。
 早速、全国から救援・支援の部隊が駆けつけました。暑いなんていうようなものではない日がつづくなかでです。
 
 名古屋市消防局のツイートが話題になっています。
 名古屋市消防局の隊員は、川の堤防が決壊し一面水浸しとなった岡山県倉敷市真備町に入り不明者の捜索活動にあたりました。地元消防団員の案内で1軒1軒確認してまわります。安否がわからない場合は地元消防の許可を得て住宅の中にはいり、泥まみれの家を入念に確認します。施錠されている家では、安否確認のためガラスを割ることもあり、確認を終えたら時間とメモを残します。

 捜索活動の傍らでスマホで写真を撮る隊員がいます。それを名古屋市消防局に送り、ツイート担当職員が文面を考えてアップします。
「遅くなりましたが救助はすぐ側まで来ています。必ずあなたを助けます」
「担当エリア全ての住居を検索しています。午後になり、さらに気温が高くなっています。皆さま気をつけて下さい」
 被災者を気遣うメッセージも忘れません。

 消防局は全体のために仕事をしているのだから目立つべきではないという考えがあります。それに対する名古屋市消防局ツイッター担当職員の見解です。
「ああいった時に 『助けに来ました』 とか 『助けに行きます』 っていうだけじゃない気持ちだと思うんですよね。向かっている職員は。被災地にいらっしゃる特定の方だけに伝われば良いと思ったので、できるだけ個人に届くようにと。だから 『あなた』 という言葉が出てきました」

 束の間の休憩をとる隊員たちに若い男性からパンの差し入れが届きました。受け取った隊員は 「普通に一般の方が 『パン余ったので』 っていうことで…うれしいです」 と語っています。
 差し入れをした男性は 「自分たちの被災した場所でもないのに、遠くから駆けつけてくれて。元気というか勇気づけられました」
 これまでは危険な活動に従事する救助隊に被災者は近づけませんでした。また救助隊員が差し入れを受け取るなどということはありませんでした。しかし感謝と感謝の交流が生まれました。
 別の男性です。「ヒーローのような感じに自分は見えて。自分も何かしないといけないなと思って」
 捜索活動だけでなくSNSでも消防隊員たちは被災地に寄り添いました。

 倉敷市民とみられる人からの返信もあり、それ以外からもフォロワー数はたくさんありました。
「あれだけのフォロワー数増は驚きでもありますし、それぞれ各隊員も励みになっていると思います。知ってもらって応援してもらうことで、本当にただそれが力になると思うので。この仕事の価値があるのかなって思います」

 名古屋市消防局は7月12日、1週間におよぶ活動を終えました。最期のツイートです。
「1日も早く、皆さまに平穏な日々がお戻りになる事を願っております」

 「必ずあなたを助けます」 のツイッターは、被災者にとってどんなに心強かったでしょうか。


 救援活動だけでなく、電気、水道、ガス、通信施設、交通手段など生活に必須なインフラ設備、いわゆるライフライン復旧のためにもたくさんの支援者が駆けつけました。日本でライフラインという言葉が公に使用されだしたのは1995年1月の阪神淡路大震災の時からです。
 救命活動の様子などはマスコミで放映されることがありますが、ライフライン復旧の支援者の活動が取り上げられることはほとんどありません。電気がついた、水道がでた、電車が開通したなどだけがニュースになります。
 生活に必須なインフラ設備は電気、上水道などだけでなく、下水道施設、ごみ回収・焼却もです。しかしだれも気が付かないうちに“復旧”しています。


 藤井誠一郎著 『ごみ収集という仕事 清掃車に乗って考えた地方自治』 (コモンズ刊) が話題になっています。著者は大学教員ですが9カ月間、東京都新宿区の清掃事務所の現場で働きます。その体験と見聞きしたことを本にしました。
 『本』 に阪神淡路大震災の時に応援に行った方の話が紹介されています。
「他の自治体で大災害が発生した場合、たくさんの自治体職員が応援に駆けつける。清掃職員もその例外ではない。以下は、応援経験者の運転手から聞いた話である。
 1995年1月に起きた阪神・淡路大震災のとき、神戸市東灘区の清掃事務所に、車5台と作業員10人、それに技能長と整備士の合計18人で向かった。発生からほぼ2週間後の1月30日、清掃車を並べて東京都庁で出陣式を行い、各清掃事務所から集まった36台が連なって出発。・・・
 近くに清掃工場がなかったので、臨時にごみを置く 「開け場」 を設置。朝一番に行って、通常は6台分収集するところを8台分収集し、2日目からは地元の大先輩が清掃車の横に乗り、現場をまわった。不燃も可燃も問わず、たんすであろうが家財道具であろうが、瓦礫を運んだ。収集中に、住民から手を合わせて拝まれたこともあった。仏壇の中にお金が入っていることもあったが、そのまま運んだ。
 こうした作業を1週間にわたって続け、次のチームに交代した。ただ、運転手はせっかく道を覚えたところなので、最低2週間は配属したほうがよいと思う。
 災害発生時に、住民にどのようなサービスを提供するのかを考えるとき、他の自治体から得られる支援は非常に有効だ。いつ大きな災害が起こるか予想がつかない。明日は我が身を想定し、清掃職員は他の自治体の現場に駆けつけている。この尽力が万が一の際に、数十倍となって住人に還元されるだろう。」

 東京都清掃局の職員が神戸市に支援に行っていた同じ時期、神戸市の別の区の避難所にボランティアで行っていました。
 廃校になった小学校の校庭は瓦礫・生活ごみの置き場になっていきます。高く積んでも毎日少しずつ広がっていきます。そこにボランティアは遺体安置所だったところから布団や毛布なども運びました。かなりの面積を占めるようになりました。
 その一方で、雪が降る中で常に焚火が焚かれていました。地域の倒れた家屋から木材や家具を運んできて燃やし続けました。瓦礫を少しは減らすことができたことになったのでしょうか。焚火は被災者の情報取得、コミュニケーションの場でもあります。しかし被災者にとっては誰かの財産を燃やしていたのです。
 いつの間にか、校庭の瓦礫・生活ごみは撤収されていました。でも被災者は当たり前の感覚で、電気が通った時のような感慨はありませんでした。

 これより少し前の話です。
 神戸市長田区の小学校の避難所に大阪の団体がトラックいっぱいの支援物資を届けました。昼出発しても渋滞で着いたのは真夜中でした。団体は物資を降ろすと校庭に山になっていたごみを空いた荷台に積んで持ち帰りました。団体の中に清掃関係の労働者がいました。そこには他の人なら気が付かない気配りがありました。
 被災者が必要としている物資を届けるのも支援です。被災者がどうしようもなくて困っているものを収集、撤収するのもライフラインの復旧支援です。

 熊本大地震、そして今回の西日本豪雨でも、瓦礫、ごみの処分が深刻でした。空き地という空き地がその置き場になっている様子が放映されました。収集は福岡県の各自治体が手分けしておこないました。一時、熊本と福岡を結ぶ国道は清掃車の列ができました。

 今回救助活動に従事した消防隊の方がた、瓦礫・ごみの収集の支援活動に従事した清掃関係者の方がたは、ひと段落したらゆっくり休養して欲しいと思います。


 『ごみ収集という仕事 清掃車に乗って考えた地方自治』 の本の紹介をするつもりでしたが、そこまでたどり着くことができませんでした。
 朝日新聞で取り上げられた書評を紹介します。
「本書はごみ収集という知られざる仕事の単なる内幕体験記というわけではない。地方自治を専門とする研究者の著者は 『現場主義を貫く』 というスタンスからから、新宿区内で9カ月間にわたってごみ収集を体験し、その参与観察の結果に基づき、ごみをめぐる地方自治の現状や課題、今後の展望をまとめている。
 その結果は多岐にわたるが、ごみ収集に関わる作業員が、実は誰よりも街の道路事情や住環境をめぐるわずかな変化まで知り尽くしていること。それが街の防犯や防災において貢献している潜在的な公共の財産になっていることなどは、深く納得した。逆に、どんどん進む清掃作業の委託化が、それらの財産を損ねかねない危惧についても気づかされた。」

 1990年代のある労働組合の交流会で、東京都世田谷区の清掃業務を担っている東京清掃労働組合世田谷支部の労働者は、1人暮らしのお年寄りについては、行政からの業務指示はないが各家庭までうかがって声をかけて収集しているということを聞きました。安否確認もかねます。清掃業務と一緒に福祉業務をになっていました。そこには地域に密着した業務に従事している労働者ならではの視点と使命感がありました。
 形式的議論なら自主的に “余計なことをして” 過重労働を作り出していたということになります。
 『本』 によると現在はそれが拡大し、新宿区でも業務の一環としておこなわれているようです。

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「大綱」 は問題提起ではなく、取り組みの義務
2018/07/27(Fri)
 7月27日 (金)

 7月24日、「過労死等の防止のための対策に関する大綱 ~過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ~」 が閣議で決定されました。「過労死等防止対策推進法」 (2014年法律第100号) に基づき、2015年7月に初めて策定しましたが、約3年を目途に、大綱に基づく対策の推進状況等を踏まえて見直すこととなっています。
 「大綱」 は、これまで省庁などのさまざまな機関が独自に行なってきた長時間労働やストレス、メンタルヘルス対策などの問題や調査結果を個別課題としてではなく検討しています。
 しかし、実際の推進力はどこにあるのかとなるとはっきりしません。本物の「働きかた改革」の中心テーマとして位置付けられたら実効性が出てくるかもしれませんがそうは位置付けられません。
 本来は、見直しに際しては、何ができなかったのかを指摘してなぜできなかったのかを検証しないと変更された内容についても実効性が薄くなります。


 「大綱」 を検討します。
 まず、「現状と課題」 においてさまざまな統計資料が取り上げられています。
 「勤務間インターバル」 については、「導入している」 1.4%、「導入 を予定又は検討している」 5.1%、「導入の予定はなく、検討もしていな い」 92.9%です。さらに、勤務間インターバル制度の導入の予定はなく、検討もしていない企業について、その理由別の割合をみると、「当該制度を知らなかったため」 40.2%、「超過勤務の機会が少なく、当該制度を導入する必要性を感じないため」 38.0%です。
 恒常的体制として必要ない企業もあります。労働実態と制度の必要性をクロスさせた調査をおこない、インターバルが必要な企業にたいしては導入の支援が必要です。

 「職場におけるメンタルヘルス対策の状況」 については、仕事や職業生活に関することで強い不安、悩み又はストレスを感じている労働者の割合は、59.5% (2016年) と依然として半数を超えています。その内容 (3つ以内の複数回答) をみると、「仕事の質・量」 (53.8%) がも多く、次いで、「仕事の失敗、責任の発生等」 (38.5%)、「対人関係 (セ クハラ・パワハラを含む。)」 (30.5%) です。
 ストレスチェック制度の実施が義務付けられている事業場のうち、実施している割合は82.9%です。結果を集団ごとに分析し、その結果を活用した事業場の割合は、37.1%です。(厚生労働省 「平成2 8年労働安全衛生調査 (実態調査) 特別集計」 による。)。
 ストレスチェック制度は当初から効果についてはエビデンスがないといわれていますが厚労省は実施に熱心です。他の課題についても同じような熱心さが必要です。


 「第2 過労死等の防止のための対策の基本的考え方」 の 「調査研究等の基本的考え方」 です。
「過労死等の実態の解明のためには、疲労の蓄積や心理的負荷の直接の原因となる労働時間や職場環境だけでなく、不規則勤務、交替制勤務、深夜労働、出張の多い業務、精神的緊張の強い業務といった要因のほか、その背景となる企業の経営状態や短納期発注を含めた様々な商取引上の慣行等の業界を取り巻く環境、労働者の属性や睡眠・家事も含めた生活時間等の労働者側の状況等、複雑で多岐にわたる要因及びそれらの関連性を分析していく必要がある。このため、医学分野や労働・社会分野のみならず、経済学等の関連分野も含め、国、地方公共団体、事業主、労働組合、民間団体等の協力のもと、多角的、学際的な視点から実態解 明のための調査研究を進めていくことが必要である。
 なお、過労死等の調査研究は、業務における過重な負荷による就業者の脳血管疾患、心疾患等の状況が労災補償状況等からは十分把握されていないことを踏まえ、労働・社会分野の調査において、労働者のみならず自営業者や法人の役員も対象としてきており、今後とも自営業者等一定の事業主のほか、副業・兼業を行う者も含め、広く対象とする。」
と問題点の指摘がおこなわれています。

 「企業の経営状態や短納期発注を含めた様々な商取引上の慣行等の業界を取り巻く環境」 については他の箇所でも取り上げられています。
「長時間労働が生じている背景には、様々な商慣行が存在し、個々の企業における労使による対応のみでは改善に至らない場合もある。このため、これらの諸要因について、取引先や消費者等関係者に対する問題提起等により、個々の企業における労使を超えた改善に取り組む気運を社会的に醸成していくこと が必要である。」
 労働時間は、親会社は削減さわれても、そのしわ寄せが子会社・孫会社、さらにその下請けに至っているという話をよく聞きます。また子会社・孫会社で過労死が発生しても親会社への気兼ねや圧力からうやむやに扱われているという話も聞きます。
 「生活残業」 がいわれています。残業代を生活維持のためにあてにして時間削減に応じない労働者がいます。さらに非正規労働者の処遇などを含めて労働時間の短縮は、業界としての取り組みを行わないと効果はありません。
 長時間労働の問題はもっと掘り下げての問題指摘と改善の取り組みが必用です。


 「2 啓発の基本的考え方」としては 「(1) 国民に対する啓発」、「(2) 教育活動を通じた啓発」、「(3) 職場の関係者に対する啓発」 があげられています。
 「(3)職場の関係者に対する啓発」 では 「過労死等は主として職場において発生するものであることから、その防止のためには、一般的な啓発に加えて、管理監督者等職場の関係者に対する啓発が極めて重要である。特に、それぞれの職場を実際に管理する立場にある上司に対する啓発や、若い年齢層の労働者が労働条件に関する理解を深めるための啓発も重要である」 とあります。

 職場における取り組みはトップの意識改革から始める必要があります。問題はトップの意識の問題です。
 2000年初め、「電通過労死事件」 の判決が確定すると、各企業の管理職研修は、使用者の安全配慮義務違反で裁判を提起されて敗けると膨大な賠償金を支払わなければならない、そのために裁判を提起されても負けないように労働者を管理し記録を残しておくようにという内容でした。労働者の健康を守るということが目的ではなく、会社の賠償額の減額が目的でした。今もそのようなとらえ方から行われている研修があります。
 啓発は、労働者の健康、権利、人権の基本視点がなければなりません。


 「第3 過労死等防止対策の数値目標」 が労働時間、勤務間インターバル制度、年次有給休暇及びメンタルヘルス対策について掲げられました。
 労働時間については、週労働時間60時間以上の雇用者の割合を5%以下とする (2020年まで)。
  勤務間インターバル制度について、労働者数30人以上の企業のうち、(1) 勤務間インターバル制度を知らなかった企業割合を20%未満とする (2020年まで)。(2) 勤務間インターバル制度を導入している企業割合を10%以上とする (2020年まで)。
 年次有給休暇の取得率を70%以上とする (2020年まで)。特に、年次有給休暇の取得日数が0日の者の解消に向けた取組を推進する。
 メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業場の割合を80%以上とする (20 22年まで)。
 仕事上の不安、悩み又はストレスについて、職場に事業場外資源を含めた相談先がある労働者の割合を90%以上とする (2022年まで)。
 ストレスチェック結果を集団分析し、その結果を活用した事業場の割合を60%以上とする (2022年まで)。
などです。

 その上で、「第4 国が取り組む重点対策」 として、「1 労働行政機関等における対策の重点的取り組み」 が掲げられています。
「(1) 長時間労働の削減に向けた取組の徹底」では法律順守やこれまでの指針や通達の徹底があげられています。
 さらに、今回の特徴として公務労働における長時間労働があげられています。
「地方公務員の勤務条件について、ガイドラインの周知はもとより、労働基準監督署がその職権を行使する職員を除き、人事委員会又はその委任を受けた人事委員会の委員 (人事委員会を置かない地方公共団体においては、地方公共団体の長) (以下 「人事委員会等」という。) がその職権を有する、労働基準法別表第1第11号及び第12号並びに同別表に含まれない官公署の事業に従事する職員に過重労働の疑いがある場合は人事委員会等が監督指導の徹底に努めるものとする。」


 「3 啓発」 のなかの 「(9) 商慣行・勤務環境等を踏まえた取組の推進」 として具体的に業種があげられました。
 ア.トラック運送業 イ.教職員 ウ.医療従事者 エ.情報通信業 オ.建設業 カ.その他。その他のなかには、重層下請構造や長時間労働の傾向が見られるメディア業界、長時間労働の傾向が見られ、年次有給休暇の取得率が低い宿泊業について具体的取り組みの必要性が指摘されました。


 さらに、長時間労働、健康被害の問題として 「第三者からの暴力」 の問題が指摘されています。
「平成29年版白書によると、外食産業の労働者のうち、顧客からの理不尽な要求・クレームに苦慮することが 『よくある』、『たまにある』 と回答した者の割合が44.9%に達すると報告されている。特に、サービス産業を中心に、一部の消費者及び生活者から不当な要求を受け、日常の仕事に支障が生じ、労働者に大きなストレスを与える事例も問題となりつつあることから、取組に当たってはそうした点に配慮する必要もある。」


 「大綱」 を問題提起にとどめるのではなく、解決が迫られている課題が指摘されていると受け止め、その改善の取り組みを労使ともの義務として進めなければなりません。

 「「過労死等の防止のための対策に関する大綱」
 「活動報告」 2016.10.7
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排除は人が一番息苦しい時間と空間
2018/07/24(Tue)
 7月24日 (火)

 自民党の杉田水脈衆院議員が雑誌への投稿で 「LGBTのカップルのために税金を使うことに賛同が得られるものでしょうか。彼ら彼女らは子供を作らない、つまり 『生産性』 がないのです」 と主張したことが批判を浴びています。明らかにヘイトで、人権が無視されています。しかし本人は沈黙を守っています。
 誰かを対象にして税金を投入することを否定することは、共存だけでなく存在を否定することです。
 税金を納めている彼ら彼女らはなぜ否定されなければならないのでしょうか。
 差別された側は人格が傷つけられ、自分らしく生きることが否定されます。その結果、自己を失ってしまったりします。

 税金を納めても否定される人たちがいるということは、ましてや納めていない者のために税金を使う必要はないという主張にいきつきます。そこでは人権が排除されます。
 たとえば、生活保護受給者は、自治体から迷惑がられ、国のお世話になるという意識をうえつけられます。その結果、社会に遠慮しながらの生活を余儀なくされます。
 現役時代はきちんと納税し、それこそ 「生産性」 あげて会社・社会に貢献していても、就労不能になると存在が否定され “やっかい者” です。これは生活保護受給者に対してだけではない日本の福祉政策の実態です。
 しかし水田発言は納税をしていても社会的存在は認めないという主張です。

 人間を生産性だけで判断する思考は、高齢者問題においても同じです。確かに高齢者層が増え、社会的保障予算を増大しているという現実があります。しかし、少子化はかなり前から問題提起されてきました。貧困問題を含めてきちんと手を打ってこなかったのは政府の責任です。
 国民年金を国が要求した40年間支払っても最低限の生活が保障されない制度はどう評価したらいいのでしょうか。しかも介護保険料をそのような介護の対象者からも徴収し、さらに増額されています。高齢で自立できる能力を失っても自助努力を強いられ、もちろんすべてではありませんが、介護を必要とする者同士の互助組織となっています。

 フランスでは、だれにでも社会参入権があるという共通認識のもとに、生活困窮者には 「積極的連帯所得手当」 が給付されます。だれでも生活困窮に陥る可能性があるという認識で 「保護ではなく連帯」 という捉え方です。
 

 子供を作らないことを 「生産性」 がないという主張は、子どもを 「作れない」 人たちをも生産性がないと批判します。その人たちの心情を無視しています。
 そして子供を作ることが社会に貢献するという思考は、まさに戦中の 「生めよ増やせよ」 で立派な兵士に育て、国に捧げさせようとした政策を連想させます。国策のもとに個が否定されてからめとられた負の歴史をもう一度捉え返し、教訓化する必要があります。
 子どもをどうするかはそれぞれの価値観です。国家のためではありません。子どもを育てているLGBTカップルもいます。
 水田議員が生産性がない者に税金を使うことを否定する主張は、将来の労働力を作らないということです。現在、国家への貢献として必要なのは経済成長・生産性向上に取り組むことだという主張です。しかし国策にのせられる必要はありません。
 

 この問題発言が発せられる前から、旧優生保護法のもとで不妊手術を強制された人たちが憲法の保障する幸福追求権を侵害されたとして国に謝罪と賠償を求める訴訟を起こしたニュースがつづいています。
 優生保護法は、1948年に施行され96年まで存続していました。「不良な子孫の出生防止」 を目的とし、医師が必要と判断すれば、都道府県の審査会での決定を経て、「優生手術」 として不妊手術を実施できました。旧厚生省は 「本人の意見に反しても行うことができる」 として、同意がなくても手術は強制可能と通知していました。遺伝性疾患やハンセン病、精神障害などを理由に不妊手術や中絶を本人の意思を無視して強制されていました。
 生む・生まないの自由を親から奪いました。
 「不良な子孫の出生」 の判断を医師や行政が行っていました。国・社会として不用という論理です。

 水田議員の主張の根底にあるのは人権を無視する、差別と排除に基づいた “伝統的秩序” にもとづく国家支配です。 「生産性 がない」 はその意向に沿わない人たちを排除するための現在的こじつけです。
 だれにも、他者の自己の存在、自分らしさを否定・排除する “権利” も “義務” もありません。


 水田議員と同じ地平で発生したのが、2年前の7月26日に神奈川県相模原市緑区で発生した入所者ら19人が殺傷された 「やまゆり園事件」 といえないでしょうか。
 違いは、国会議員がヘイトをして居直ったり、法律に基づいて就労不能となった者を痛めつけたり、不妊手術を強制したり生まれようとする子供を堕胎させたか、私的・個人的行為で「 障害者はいなくなればいい」 「不良な子孫」 と判断して殺害したかです。
 根底にあるものは 「不良な子孫」 は国家に貢献しない、生産性がない、税金を無駄遣いしているという思い込みです。

 どのような人間にも幸福を追求する権利があります。幸福の感じ方は人ぞれぞれ違います。他者から 「生きる価値がない」 といわれる道理はありません。また、施設に入れて不自由のない介助がおこなわれたからといって幸福とはいえません。人間の持つ権利は親であろうと奪うことはできません。
 とはいいながらも、多くの親が介護で疲弊しながら孤立し、困難を負っているという話も聞きます。
 そのような状況が、施設の介護者に入居者を 「不良な子孫」 という思いに至らせ、やりがいを失わせ、生きる権を否定する行為を実行させました。このような意識に至らせた職場環境、社会状況を問い直すことなしに、実行者個人をいくらせめても解決の糸口は見つかりません。
 事件を契機に施設のあり方が議論になっています。介護を必要とする者の立場に立って考え、社会的合意を探ってそこに向けて挑戦する時期にきています。そこでは、幸福の感じ方はそれぞれ違う、お互いに認め合ってそれぞれ充実させていくことが社会全体の幸福になるという共通認識を獲得していく必要があります。
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 労働者は 「生産性」 という言葉に翻弄されています。水田議員はそれを利用しました。
 労働者は自己犠牲を強いられ、横のつながりは断ち切られ、孤立させられながら競争を煽られています。職場の差別・分断政策にも無自覚になります。世代の連続性は断ち切られ、社会とのつながるゆとりが奪われて過去も未来も見えなくなります。問題が発生したら自己解決です。
 しかし出口が見つかりません。解決が無理だと思った時に、その原因を勝手に探し出したり、他者への責任転嫁になります。その1つの方向が障碍者や高齢者への不満、差別・排除です。
 国・社会はそれを扇動します。排除する・されるが常に自分自身と隣り合わせていることに気が付きません。実際は人が一番ゆとりを失って疲弊し、息苦しい時間と空間です。


 では生産性とは何をいうのでしょうか。
 安倍政権は「働きかた改革」を進める理由として生産性の向上をあげました。
 その本当の目的は、株主への配当額を高めることです。労働者には還元されません。

 どのようにしたら生産性は高まるのでしょうか。
 2007年にILOが発表した 「安全で健康的な職場 ディーセント・ワークを現実にする」 のなかのイギリスの好事例です。
「労働安全衛生が良好であれば、企業レベルでも国レベルでも生産性は向上する。イギリスの労働安全衛生機関で三者構成の『安全衛生庁』 の調査によると、主な企業20社で生産性の向上が見られた。調査結果を以下にまとめる:
 安全衛生とビジネス上の利益――イギリス安全衛生庁の事例研究
 労働災害や不健康を防止するための積極策を講じることによって、1年もしくは数年にわたってビジネス上いくつかの利益が得られた。例えば、
 ・欠勤率が大幅に下がった
 ・生産性が向上した
 ・工場が良好にメンテナンスされるため、相当額の節約ができた
 ・損害賠償や保険金支払いが大幅に減額した
 ・顧客や請負業者との関係が改善されて、企業イメージや評判が高まった
 ・契約予備審査の点数が高くなった
 ・仕事に対する士気、意欲、集中力が増して、労働者の幸福感が高まった
 ・労働者の定着率が高まった」

 労働安全衛生は、職場の物理的環境だけでなく人間関係も含みます。労働者は信頼・安心できる職場環境でこそ力量が発揮できます。
 労働者の人格・尊厳を否定し、差別・分断を煽り、不信・不快・不安をつのらせるなかで業務を遂行しても生産性が向上するはずがありません。


 「やまゆり園事件」 をどう捉えたらいいでしょうか。
 2005年4月25日に発生した福知山線脱線事故の後、遺族のJR西日本への粘り強い働きかけで、JR西日本、遺族、第三者が一緒に事故の真相究明の研究会を立ち上げます。そこでは本音で語り合い、遺族が納得できる事故再発防止の対策を導きだします。その経過が、松本創著 『軌道 福知山線脱線事故 JR西日本を変えた闘い』 (東洋経済新報社 2018年刊) に載っています。
「今の事故は、高度な技術や複雑なシステムの中で起きる、一生懸命やっても間違える。だが、捜査は 『誰がやったか』 『誰が悪いのか』 と処罰しようとする。これでは問題の所在をかえってあいまいにしてしまう。
 被害者の処罰感情は理解できる。しかし、事故の調査を捜査から切り離し、警察と同等の権限を認めないと真相は究明できない。あらゆる要素を洗い出し、導き出した結論が納得いくものであれば、被害者の処罰感情はきっと薄らぐだろう〉 (『神戸新聞』 09年11月3日)
 つまり、問題は、事故調査と捜査の混在にあるというわけだ。欧米など事故調査の先進国では、事件性の高いケースを除き、捜査より調査が優先される。だが、日本では1972年に警視庁と運輸省が交わした覚書により、事故調の報告書を警察の鑑定資料に使えるようになっている。調査結果が捜査の証拠になるために、当事者はなりふりかまわず責任回避に走る。さらには、事故調査報告書の内容も捜査を意識した記述になってしまう。……
 組織的・構造的問題まで踏み込む 『原因究明』 よりも、個人の責任を追及して罰する 『犯人捜し』 が優先されてきた歴史が日本にはある……」

 組織的・構造的問題にまでは踏み込まない解決への思いは「オウム事件」における遺族等にもみられます。

「現場のミスだけが原因ではない。会社の経営理念、経営陣の安全思想、指示系統やマネージメントの手法、社員教育や1人1人の責任感。さまざまな要因が絡むのが組織事故なのだ。……
『目に見えない部分にこそ、根本原因は潜んでいる。それらを抉り出してこそ、この事故の社会化ができる。……』
『この事故は100万分の1ではない。当事者には1分の1であり、取り返しがつかないのだ』 と考えなければ、安全の意識は真に高まらない。……
 そして、JR西に限らず、会社経営の中に根強くある 『経営効率と安全はトレードオフ (一方を追及すれば他方が犠牲になる、両立できない状態) という考え方。会議の中でも、ここに (遺族の) 浅野は強く異を唱えた。
『安全を追及することが、結果として経営効率を高める。そう考えるべきじゃないでしょうか。その2つを両立させることが鉄道事業者の使命であり、今後、経営幹部になっていく人の最大のテーマになるのではないでしょうか』」

 JR西日本を政府の福祉政策、経営効率を税金・予算投入と置き換えた時、事件の本質が少しは見えてきます。

 加害者の行為をそう呼ぶことはできませんが、ヒューマンエラーについてです。
「〈「事故の多くがヒューマンエラーになって起きているので、設備ではなく人間の意識や注意力を高めることで事故を防ぐ必要がある」 などと言う人がいるが、それはヒューマンエラーという概念を誤解している。ヒューマンエラーはシステムの中で働く人間が、システムの要求に応えられないときに起こるものなのだから、対策は設備を含めたシステム全体で考えるべきである〉」


 杉田議員の発言は、現代社会が抱える問題について、ちょっと本音を漏らしたのかもしれません。

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過労死の1割が 「専門的・技術的職業従事者」                     「働き方改革法」 は 「過労死促進法」
2018/07/19(Thu)
 7月19日 (木)

 7月6日、厚労省は2017年度 「過労死等の労災補償状況」 を公表しました。

 「脳・心臓疾患に関する事案の労災補償状況」 については、決定件数664件で支給決定件数253件、認定率38.1%です。支給決定数のうち死亡件数は96件、認定率39.0%です。
 請求件数は12年までは800件台半ばに至っていましたが、13年度からは700件台に減少、16年度からまた800件台になっています。過労死をめぐる社会的な動きに誘発され、泣き寝入りをしない労働者・遺族が増えていると思われます。
 決定件数は、600人台後半がつづいています。支給決定件数は13年度までは300人台でしたが少しずつ減少しています。

 支給決定件数を業種別にみると、 「運輸業・郵便業」 が99件(昨年97件) で断トツです。続いて 「卸売業・小売業」 35件 (29件)、「製造業」 24件 (41件) の順です。
 職種別では、「輸送・機械運転従業者」 89件 (昨年90件)、「サービス職業従事者」 36件 (22件)、「販売従事者」 29件 (23件)、「専門的・技術的職業従事者」 25件 (30件) の順です。
 「輸送・機械運転従業者」 は深刻な状況におかれてることが指摘できます。
 「専門的・技術的職業従事者」 が過労死の1割を占めます。「働き方改革法」 の反対運動のなかで 「高プロ」 は 「過労死促進法」 と批判されましたがまさにその通りです。

 支給決定件数が上位を占める職種が労働時間数も長くなっていることが想定できます。道路貨物運送業は人手不足が社会問題になっています。営業職業従事者はノルマ、飲食物調理従事者は人手不足のなかでの不規則な勤務です。これらの業種、職務にたいする早急な対策が必要です。

 年齢別支給決定数は、40歳~49歳が97件 (昨年90件)、50歳~59歳が97件 (99件)、60歳以上が32件 (33件) です。
 このうちの自殺者は40歳~49歳が41件 (昨年38件)、50歳~59歳が97件 (38件)、60歳以上が7件 (12件) です。

 時間外労働時間別の決定件数です。
 80時間~100時間未満が101件 (昨年106件)、100時間~120時間未満76件 (57件)、120時間以上59件 (71件)です。80時間以上が全体の83%、100時間以上では50%を占めます。

 過労死防止対策は効果が表れていません。というより、政府はその逆の政策を進めています。


 7月6日、過労死弁護団全国連絡会議幹事長の川人博弁護士は 「平成29年 『過労死の労災補償状況』 に対するコメント」 を発表しました。その抜粋です。
 2.脳・心臓疾患の労災認定件数として引き続き運送業・建設業が多いことが示されて
  おり、これらの業種を適用除外とした 『働き方改革法』 の問題点を改めて浮き彫りに
  した。これらの業種にについて、早急に過重労働をなくすための国家的な取り組みが
  必要である。
 3.精神障害の支給決定件数が多い業種として医療・福祉があげられているが、病院
  や介護施設等で働く人々の心理的負荷がたいへん大変大きいことを示すものであ
  り、これらの職場で働く人々の過重労働や精神的ストレスを軽減する国家的な取り
  組みが必要である。


 「精神障害の労災補償状況」 については、請求件数1732件、決定件数1545件で支給決定件数506件、認定率32.8%です。請求件数は16年度までは1500件台でしたがいっきに1700件台に、決定件数は1300件台から1500件台に達しました。処理件数が増えたか、決定が早くなっています。
 しかし支給決定認定率は30%後半から下がっています。特に女性は26.4%となっています。
 そのうちの未遂を含む自殺者の請求件数と支給決定数は、13年度177件と63件、14年度213件と99件、15年度199件と93件、16年度198件と84件、17年度221件と98件です。自殺防止対策が叫ばれていますが減ってはいません。

 支給決定件数を業種別にみると、製造業87件 (昨年91件)、医療・福祉82件 (80件)、卸売業・小売業65件 (57件)、運輸業・郵便業62件 (45件) の順でした。

 職種別では、専門職・技術的職業決定者130件 (昨年115件)、サービス従業従事者70件 (64件)、事務従事者66件 (81件)、生産工程従事者56件 (52件) の順でした。
 支給決定件数を年齢別にみると、40歳~49歳が158件 (昨年144件)、30歳~39歳が131件 (136件)、20歳~29歳が114件 (107件)、50歳~59歳が82件 (82件) の順です。
 支給決定件数を20時間刻みの労働時間数区分でみると100時間以上が151件 (昨年158件)、100時間未満が211件 (215件) となっています。自殺者数でみると100時間以上が43件 (48件) です。
 20時間未満が75件 (84件) です。一方、160時間以上が49件あります。長時間労働はちょっとは減少していますがまだまだ長時間労働問題は解消されていません。そして体調不良におちいる原因は労働時間だけでないことを物語っています。

 「出来事の類型」では、「ひどい嫌がらせ、いじめ又は暴行をうけた」 88件 (昨年74件)、「仕事内容・仕事量の (大きな) 変化を生じさせる出来事があった」 64件 (63件)、「悲惨な事故や災害の体験、目撃をした」 63件 (53件)、「2週間にわたって連続勤務を行なった」 48件 (47件)、「1か月に80時間の時間外労働を行なった」 41件 (39件) の順でした。
 「セクハラを受けた」 は35件 (29件) でした。
 心理的負荷が極度のものである 「特別な出来事」 は63件 (67件) です。
 業務遂行にゆとりがない状況が浮かび上がってきます。

 都道府県別請求・決定件数です。
 以前、極端に少なかった埼玉県は、決定件数61件、支給決定18件、認定件数29.5%です。少しは改善されました。
 ちなみに、12年度から16年度の流れは、45件-34件-49件-36件-39件、6件 (13.3%)-8件 (23.5%)-22件 (44.9%)-11件 (30.5%)-16件 (41%) です。
 13年秋に、IMCと全国労働安全衛生センター連絡会議は、埼玉労働局に原因究明の要請、提案行動をおこないました。その成果が出てきています。
 総就業者の割合には請求件数が絶対的に少ない愛知県は、82件、18件、21.9%です。三重県は16件、1人、0.6%です。このような状況では、労働者は体調不良に陥っても労災申請に期待する気になりません。


 今回から裁量労働者についての決定件数と支給決定件数が公表されました。
 脳・心臓疾患については、14年度決定件数9件、うち支給決定件数8件、15件度7件、3件、16年度3件、1件、17件度6件、4件です。
 精神障害については、14年度決定件数8件、うち支給決定件数7件、15件度10件、8件、16年度2件、1件、17件度19件、10件です。
 しかし、裁量労働制は、労働時間の管理等が難しい実態があります。それぞれがきちんと労働時間の管理をきちんとしておく必要があります。


 それにしても1年間に760人が労災認定を受ける、仕事が原因で自殺するという実態を見る時、政府が進めるべきは 「働かせ方改革」 ではなく、労働者の側に立った本当の 「働き方改革」 であるこを確信させられます。

 「2017年度 『過労死等の労災補償状況』」
 「いじめメンタルヘルス労働者支援センター」ホームページ・ご相談はこちらから
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「公共」 の名のもとに 「個」 が否定されている
2018/07/13(Fri)
 7月13日 (金)

 西日本豪雨の被害は広範囲におよんでいます。
 その中に、えっつと思われる災害がありました。
 愛媛県西予市野村町を流れる肱川が7月7日明け方に氾濫し、住宅約650戸が浸水し、逃げ遅れた5人が亡くなりました。氾濫は上流の野村ダムの放流によるものです。
 放水したダムを管理する国土交通省は、想定外の豪雨に遭遇したので市に放水を連絡した、市は消防や警察に連絡するとともに、防災無線などで警戒を促したと説明しています。そのいい方は、放水は管理規則に基づいて行ったので非はない、避難しなかった住民がわるいといわんばかりです。
 しかし、そもそもダム建設は、想定外の事態が発生した時には、下流の住民は被害を受け入れなければならない、治水には限界があるということを前提におこなわれているのでしょうか。
 今回の豪雨で、野村ダム以外でも、そもそも洪水調節の役割を果たさなかったダム、満杯の砂防ダムなどがたくさんあることが明らかになりました。
 「ダムさえできれば、住民は枕を高くして寝ていれる」 という “ダム安全神話” は崩れました。治水はダムで大丈夫なのか、それが最強なのかという原点に戻っての議論があらためて必要になってきています。

 16年2月26日の 「活動報告」 の再録です。
 松下竜一の 『砦に拠る』 は、55年末に九州地方建設局が熊本県と大分県にまたがる筑後川の水源近くにダムを建設することを決定して測量を開始したことに、地主の室原知幸の指導で住民が山に砦を作って立てこもり抵抗を続けた蜂の巣城の闘いがテーマです。
 建設局は、1953年に起きた大洪水の被害を繰り返さないためと説明します。
 室原は反論します。「洪水は、戦争で山を荒らして手入れをしなかったからではないか」
 建設局の住民への説得です。「日本は戦争に負けた、それを思えばこれくらいの犠牲が何です」
 室原らは憤慨して立ち上がります。
 室原は、55年の 「土地に杭は打たれても心に杭はうたれない」 と抵抗を続けた砂川闘争を知ったとき、「あげなように闘わにゃつまらんばい」 と農民に語り聞かせたといいます。

 国の姿勢に共通します。


 このニュースが流れている最中の7月9日、長崎地裁で、長崎県と佐世保市が東彼川棚町岩屋郷の石木川一帯に計画する石木ダム建設事業を巡り、反対地権者ら109人が国に事業認定取り消しを求めた訴訟の判決がありました。判決はダムの公益性を認め、原告側の請求を棄却しました。

 石木ダムは、佐世保市の利水と川棚川の治水を目的に計画されました。
 1972年に県が予備調査に着手、75年に建設事業に着工します。地元住民の反対運動が展開されると、2009年11月に県などは未買収の事業用地を取得するため、国土交通省九州地方整備局に事業認定を申請、13年に国が土地収用法に基づく事業認定を告示しました。そして県と市は16年5月までに、反対地権者13世帯の宅地を含む未買収地約12万6000平方メートルの明け渡し裁決を長崎県収用委員会に申請しました。総事業費285億円です。
 反対派地権者らは15年11月に事業認定の取り消しを求めて提訴しました。

 市が利水について12年に立てた水需要予測があります。佐世保重工業 (SSK) の水需要増大や観光客の増加を見込んで13年に急に増大するので不足分を石木ダムで補う必要があると説明します。

 原告地権者側は、同市が水需要予測を過大に、保有水源を過小に評価している、人口減などで同市の給水量は右肩下がりになっていることを理由に 「利水、治水面共に事業計画の根拠がなく、ダムは必要ない」 と反論しました。治水については、ダムの建設予定地は川棚川流域の11%しかなく、洪水防止に役立つとはいい難いと主張しました。14年7月には長崎県知事が 「河道整備が完成すれば、過去と同規模の洪水は石木ダムなしで対処できる」 と明言しています。
 利水、治水のいずれの面からもダム建設の必要性はなく、建設予定地の反対地権者13世帯の土地を強制収用するだけの公共性も欠くと主張しました。
 
 判決は、同市の水需要予測や長崎県の治水計画のいずれも合理性を欠くとはいえないとし、事業は 「地元住民の生命の安全に関わり、得られる利益は非常に大きい」 と指摘しました。居住地移転に伴う不利益については、近接地に代替宅地があり 「地域のコミュニティー再現は不可能ではない」 としました。その上で、土地収用法に基づく強制収用に向けた手続きの一環として、事業認定した国土交通省九州地方整備局 (九地整) の判断は適法と結論付けました。

 この後、控訴審が闘われますが、同時に未買収地の補償額や明け渡し期限を決める県収用委員会の審理はほぼ終わったといわれ、裁決そして強制代執行がいつ行われるかという緊張関係がうまれています。
 建設事業の着工から40年以上たちます。公共事業はいったん決定すると撤回されません。地元では、ダム建設賛成・反対を巡って二分された状況が続いています。

 今回の豪雨で、「治水の恩恵を受ける」 川棚町に6日、県内初の大雨特別警報が発表され、川棚川は一時、「氾濫注意水位」 まで増水しました。
 町民の女性は 「最近は異常な豪雨が多く、ダムがあるに越したことはない」 と語ったといいます。しかし川棚川の堤防補強はどうなっていたのでしょうか。愛媛県の野村ダムに見られるように 「ダムさえできれば、住民は枕を高くして寝ていれる」 神話は崩れました。


 戦後ダム建設についての論争は1960年ころもりあがりました。治水はダムで可能なのか、結論は当の昔に出ています。
 安部公房の作品の中に社会派推理小説 『石の眼』 があります。彼は各地のダムを調査して自分の結論をもつに至ります。
 『石の眼』 のなかの会話です。
「だから、それが政治だよ……土木工事あるところに、汚職ありきなんて言うが、実状はむしろ、汚職なきところに、工事なしというところだろうね
 ……業者が金をつんで、むりやり仕事をつくらせるんだからな……そしてその金で、誰かが選挙にでる……」
 このような主張は彼だけのものではなく、当時の雑誌、論文などに散在しています。
 
 ダム建設よりは河川の堤防補強を優先させた方が治水には効果が大きいという意見は今も根強くあります。
 それでもダム建設など公共事業は1960年頃から急増します。その裏には常に政官業のトライアングルの癒着があるといわれています。計上される予算は堤防補強よりはダムの方が大きいです。そのため政策として優先順位が逆転します。さらに浸水危険区域の堤防補強が後回しになってしまいました。

 ダム建設については、2000年の長野県知事選挙で当選した田中康夫が 「脱ダム」 宣言を発表し、ゼネコン主導の乱開発を否定しました。しかしさまざまな抵抗にあい、3期目の選挙は落選しました。
 2006年には、滋賀県知事選挙に嘉田由紀子が 「もったいない」 を合言葉に県内に計画されているダムの凍結見直しなどを訴えて立候補し当選をはたしました。
 しかし建設を主張する勢力の抵抗と巻き返しで転換せざるを得ませんでした。


 石木ダムの記事が新聞に載った翌日の7月11日、毎日新聞に 「<東日本大震災> 釜石の住宅強制収用 復興道路事業で 岩手」 の見出し記事が載りました。
 岩手県土整備部は7月10日、東日本大震災の復興道路として整備する三陸沿岸道路 (仙台市-青森県八戸市、約359キロ) のルート上にある、釜石市内の住宅などを強制収用する行政代執行を実施しました。国土交通省南三陸国道事務所によると、復興道路事業で代執行を行うのは初めです。
 同所は三陸沿岸道路・2020年度末開通予定の吉浜釜石道路 (14キロ) の仮称釜石中央ジャンクション (JCT) から南約1キロに位置し、高速道路の基礎部分にあたり、盛り土をして舗装する計画です。12年7月から国が用地取得交渉を始め、16年12月に収用委員会に裁決を申請、17年11月に国が権利取得しました。
 土地約1500平方メートル、住宅と倉庫 (計75平方メートル) などはここに暮らす80代男性が、住宅などは市内の別の場所に暮らす90代女性が所有していました。男性と女性に土地や建物を明け渡すよう説得したが応じなかったため、行政代執行に踏み切ったとされています。

 被災地復興という大義を掲げたら国はなんでもできるのでしょうか。地権者の協力を得られなかった場合には計画変更などは検討されなかったのでしょうか。やはり一旦決定した公共事業は変更されません。国に対して 「個」 の存在があまりにも小さく取り扱われています。
 というより、そのために土地収用法はあります。

 土地収用法は公共事業のために土地取得を行うに際し、事業主が任意取得できない場合に強制力を加えて収用する手続きを謳っています。
 15年10月20日の 「活動報告」 で触れた 「蜂の巣城の闘い」 の指導者室原知幸氏の発言の再録です。
「建設省はここを土地収用法で取り上げようちしよるとじゃが、それはこんダム事業が公共性を持っちょるこつを国に認定してもらわにゃならん、いい加減なもんぞ。考えちみい。九州地方建設局長上ノ土が出す申請書に建設大臣村上が認定ん判をつこうちゅうじゃき、一人二役たいね
 身内での手続きの滑稽さを指摘しています。
土地収用法ちゃ現代の赤紙たい。ばってん、今は民主主義ん世の中じゃろうもん、赤紙の中身をおれたちゃ調べる権利がある。公共性ちいえばおりどんが懼れるち思ったら大間違いぞ」 (松下竜一著 『砦に拠る』)
 ここに住民の大義があります。


 国土交通省は、今年6月に私有地などを強制的に取得し、公共事業用地として使う 「土地収用」 を迅速化するため、地方自治体向けの手引をとりまとめて作成し、自治体に配布しました。対象事業を具体的に示し、制度の活用を促すことで、公共事業のスピードアップにつなげる狙いだといいます。これまでは土地取得に時間がかかり事業が滞っているケースもあったためといいます。
 今後、土地収用法は公共性を盾にますます横暴さが増す危険性があります。

 戦前の土地収用法は、皇室の陵墓、神社の営建、軍事基地建設に際しては乱用されてきました。
 戦後の土地収用法は、これらは適用から排除しました。ですから今も自衛隊基地建設・拡大のためには活用できません。ここでは 「平和憲法」 は健在です。
 しかし、1992年のPKO法に付随した100条からなる 「雑則」 にはこっそりと 「緊急時には民間の土地を利用できる」 の条文がまぎれこまれていました。

 米軍基地については、「安保条約に基づく特措法」で強制使用が可能になっていますが、その手続きは土地収用法にならっています。
 沖縄・嘉手納米軍基地内に土地を所有する反対地主は返還要求をつづけています。これに対し日本政府・防衛施設庁 (現防衛庁) は土地強制使用を沖縄県土地収用委員会申請しました。1990年代の採決において、県収用委員会は申請書類に不備がなかったとして申請を認める判断がつづきました。
 戦後の土地収用委員会は、司法的判断ではなく、地元の利害関係を調整することを目的に、継続する土地が存在する都道府県から選ばれた委員によって構成され、地元の人たちの意見を聞きながら審理を進めるのが任務です。
 しかし沖縄の収用委員会採決以降、全国で手続きを判断する機関になってしまいました。
 石木ダム建設をめぐる土地収用委員会はまさにそれが踏襲され、裁判所は追認しました。

 沖縄・辺野古基地は、正式決定する前から、大成建設が設計図をつくったと公言されていました。まさに政官業の癒着です。


 土地収用法は国の強権化の1つの手段になっています。様々なところで、安全性、「公共性」 に名を借りて 「個」 が否定され、強権化が進められています。さらに政府は自衛隊を合法化した折には自衛隊基地建設・拡大に適用される危険性があります。自衛隊は、阪神淡路大震災における救援活動で市民権を拡大しました。

 「国に守ってもらっていたら、住民は枕を高くして寝ていれる」 という思いは神話です。
 個の連帯による共生・協働の共同体を作り上げていく必要があります。それこそが一番の人びとの安全・安心を守る防衛手段です。

 「活動報告」 2016.2.26
 「活動報告」 2015.10.20
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