FC2ブログ
2018/03 ≪  2018/04 123456789101112131415161718192021222324252627282930  ≫ 2018/05
「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会報告書」 Ⅱ
2018/04/13(Fri)

 4月13日(金)

 「検討会」 の目的の1つが職場のパワーハラスメント防止を強化するための方策です。
 現在の職場のパワーハラスメントの防止対策は、「提言」 を周知・情報提供することにより、企業等における自主的な取組を促しています。現状よりも実効性の高い取組を進めるために、5つの規定の創設や施策の実施とそれぞれの具体的内容が示されました。
 ①行為者の刑事責任、民事責任 (刑事罰、不法行為)
 ②事業主に対する損害賠償請求の根拠の規定 (民事効)
 ③事業主に対する措置義務
 ④事業主による一定の対応措置をガイドラインで明示
 ⑤ 社会機運の醸成
 5つについてもう少し詳しく述べると
 ① 行為者の刑事責任、民事責任 (刑事罰、不法行為)
 パワーハラスメントが違法であることを法律上で明確化し、これを行った者に対して、刑事罰による制裁や、被害者による加害者に対する損害賠償請求の対応です。
 検討会においては、すぐに実現すべきという意見は示されませんでした。
 ② 事業主に対する損害賠償請求の根拠の規定 (民事効)
 事業主は職場のパワーハラスメントを防止するよう配慮する旨を法律に規定し、その不作為が民事訴訟、労働審判の対象になることを明確化することで、パワーハラスメントを受けた者の救済を図る対応です。
 ③ 事業主に対する措置義務
 セクシュアルハラスメント対策やマタニティーハラスメント対策の例を参考に、事業主に対し、職場のパワーハラスメント防止等のための雇用管理上の措置を義務付け、違反があった場合の行政機関による指導等について法律に規定することで、個々の職場において、職場のパワーハラスメントが生じない労働者が就業しやすい職場環境の整備を図る対応です。
 セクシュアルハラスメントについては、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律により、対価型セクシュアルハラスメントや環境型セクシュアルハラスメントのないよう、事業主に雇用管理上必要な措置を講ずることを義務付けています。その上で、措置義務の具体的な内容について、「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」 で規定しています。
 忘れてならないのは、環境型セクシュアルハラスメントとは、個人ではなく職場全体だということです。そして、LGBTへのハラスメントに対しても援用されようとしています。
 マタニティハラスメントにつては、均等法及び育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律によって労働者の就業環境が害されることのないよう、 事業主に雇用管理上必要な措置を講ずることを義務付けています。
 その上で、措置義務の具体的な内容については、「事業主が職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置 についての指針」 及び 「子の養育又 は家族の介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置に関する指針」 で規定されています。
 これらの措置義務は定着して運用され、かなりの効果を上げています。

 この例に倣えば、対象となる行為の具体例やそれに対して事業主が講ずべき雇用管理上の措置は、指針において明確化することとなります。
 ①や②の対応策案に比べると現実的であり、この対応策案を支持する意見が多く示され、検討会では多数を占めました。「報告書」 に盛り込む防止策の方向性としては現実的方策として実効性があると連想され、期待されました。
 ④ 事業主による一定の対応措置をガイドラインで明示
 職場のパワーハラスメント防止等のための雇用管理上の一定の対応を講ずることをガイドラインにより働きかけることで、個々の職場 において、職場のパワーハラスメントが生じない労働者が就業しやすい職場環境の整備を図る対応です。
 一方、行為者に対する制裁としての効力が弱く、行政等による強制力も弱いことから取組が進まない懸念があることがデメリットとして指摘されました。
 使用者側委員は、最後まで➃に固執しました。
 ⑤ 社会機運の醸成
 職場のパワーハラスメントは、労働者のメンタルヘルス不調や人命にも関わる重大な問題であることや、職場全体の生産性や意欲の低下やグローバル人材確保の阻害となりかねず経営的にも大きな損失であることについて、広く事業主に理解してもらい、防止対策に対する社会全体の機運の醸成を図る対応です。


 これらを踏まえて、事業主が講ずる対応策として考えられるものが検討されましたが 「提言」 からの大きな変更はありませんでした。
 ただ、職場のパワーハラスメントの発生の要因として、パワーハラスメントの行為者及び被害者となる労働者個人の問題、つまり個人的要因によるものと、職場環境の問題によるものとが一緒のものではなく平行に述べられています。
 また、使用者側・労働者側委員双方から防止策を進めるときの難しさの理由として中小企業においては実態把握や事後対応に難しさがあり、単独で取り組むことの困難さと支援の必要性が提起されました。
 その対策の1つとして、都道府県労働局において個別労働紛争解決促進法に基づき労使双方からの相談に応じていることや、都道府県労働局長による助言・指導及び紛争調整委員会によるあっせんのほか、都道府県労働委員会等におけるあっせん等中立な第三者機関に紛争処理を委ねることができる制度があることを周知し、利用を促すことがあげられました。
 確かに実態調査の結果によれば、パワーハラスメントの予防・解決に向けた取組の実施率は、企業規模が小さくなると相対的に低くなっている結果があります。
 先に述べたように、職場環境と生産性はリンクすることを自覚した企業は 「提言」 に関係なく自主的に取り組みを進めてきています。その結果、職場のパワーハラスメント予防対策の取り組みには企業の規模に関わらず、大きな 「格差」 が出てきている現実があります。
 職場内の “人間関係” は企業の大小に関係ありません。中小企業における対応が難しい、対応が遅れているといたずらに主張することは、職場のパワーハラスメントの発生を職場環境のからの要因追及を放棄して個人的要因によるものと断定し、企業の本来必要な取り組みの遅さを免罪することになりかねません。
 職場内での解決を放棄し、第三者に判断を仰ぐということは、本質的解決に至らず、労使関係に禍根を残します。


 「報告書」 は、最後に顧客や取引先からの著しい迷惑行為について述べています。
 第1回は委員全員が意見を述べました。UAゼンセン日本介護クラフトユニオンの委員は
「現場ではパワハラだろうがセクハラだろうが、嫌なこと、困ったことなどいろいろな相談がくるのですが、その中には実は、特に流通とか介護の現場では多いのですが、顧客であるとか、利用者家族からのハラスメントも実は無視できない状態です。……相談を受ける側としては、やはり労働者を守るという意味では無視できない実態が実はあるのだということです。……これまでの取組の延長線上で現状を変えられるかということを考えますと、一定程度存在するパワハラ防止対策が進まない企業を、もう少しこの検討会では、今後の法整備に向けた、これまでよりもステップアップした対応についての議論が必要ではないかと考えております。」
 さらにその後の検討会には資料として医療機関や鉄道におけるいわゆる 「第三者からの暴力」 についての資料が提出されました。
 社会全体にとって重要な問題であり、何らかの対応を考えるべきという意見が示された一方で、議論の方向性としては、「提言」 の 「同じ職場で働く者に対して」 が踏襲され、さらに検討会では職場のハラスメントとの違いがクローズアップされ、取り上げない理由付けが縷々述べられました。消費者問題や経営上の問題として対応すべき性格のものであり、労働問題としてとらえるべきなのか疑問であるため、職場のパワーハラスメントについては職場内の人間関係において発生するものに限るべきとの意見が示されました。そして、
「こうした意見を踏まえれば、個別の労使のみならず業種や職種別の団体や労働組合、関係省庁 (厚生労働省、経済産業省、国土交通省、消費者庁等) が連携して周知、啓発などを行っていくことが重要であると考えられる。 ただし、顧客や取引先からの著しい迷惑行為については、業種や職種ごとに態様や状況に個別性が高いことも事実であることから、今後本格的な対応を進めていくためには、関係者の協力の下、更なる実態把握を行った上で、具体的な議論を深めていくことが必要であると考えられる。」
とまとめられました。

 
 「第三者からの暴力」 については、検討会外で問題提起がおこなわれました。
 昨年11月16日、UAゼンセン流通部門は 「悪質クレーム対策 (迷惑行為) アンケート調査結果 ~サービスする側、受ける側が共に尊重される社会をめざして~」 の速報版を公表しました。
 そこには現在、悪質クレームの定義が存在しない、判断が困難なという問題があります。
「クレームの対応の難しさは、悪質クレームの明確な基準がないことがあげられる。……実際には厳格な対応が難しい環境にある。そのことが企業の対応に差異がうまれ、対応の難しさにつながっていることは否めない。一方、企業が自主的に判断基準を設定することは差し支えなく、悪質なクレームに対しては毅然とした対応をするための基準の策定には大きな効果を望める。一企業ではなく、業界全体としての基準作りをしていくことでより効果も大きくなっていく。」
 12月21日、連合は、全国の15歳~69歳の男女2,000名 (一般消費者 (接客業務に従事していない人) 1,000名、接客業務従事者1,000名) の有効サンプルを集計し 「消費者行動に関する実態調査」 結果を発表しました。
 接客業務従事者に、勤務先で、消費者の迷惑行為に関するマニュアル作成や教育などが実施されているかどうかを聞きました。
「実施されている」 が42.9%、「実施されていない」 が57.1%です。
 業種別にみると、実施率が高いのは、「公務」 67.6%、「金融・保険」 59.5%です。続けて 「運輸・郵便」 45.2%、「生活関連サービス・娯楽」 43.4%、「医療・福祉」 42.9%、「情報通信」 41.3%の順です。
 「公務」 は、いずれかの迷惑行為を受けたことがある人の割合が高いですが、それが対応方法にもつながっているのでしょうか。
 しかし、検討会の途中でUAゼンセンの委員の主張はトーンダウンしてしまいました。


 労働者の人権、人格・尊厳は職業によって異なりません。会社によって違いはありありません。そして労働者が消費者や住民の立場になったときにも、相手の労働者の人権、人格・尊厳は尊重しなければなりません。
 ストレスは重層的格差社会が創り出しています。その構造の中で、ストレスを誰かにぶつけることで解消する連鎖をよんでいます。被害は労働者の自己を破壊させます。そして加害者の正義感をも破壊させます。
 お互いが尊重しあうなかから理解・共感が生まれ、さらに共生が生まれています。

 現在、いわゆる先進国において、職場のいじめについて、職場内と外からとで対応が異なり、「第三者」 からの暴力について法律や通達、指針等から排除し、対処していないのは日本だけと思われます。
 2003年、ILOは 「サービス業における職場暴力及びこの現象を克服する対策についての実施基準案」 を発表しています。これと比べるとはるかに対応が遅れています。

 海外における進んでいる取り組みの例としては韓国があります。
 韓国では職場の暴力を 「感情労働」 ととらえています。労働者の労働条件、処遇、健康、労働安全衛生は労働組合が使用者や関係団体に要求しながらキャンペーンなどが展開され、さらに労働安全衛生関係の研究所や学者、議員などが連帯して社会環境を変えていっています。さらに地域住民や利用者の共感を得て共同の闘いを組んでいます。
 例えば、2013年6月、安全保健公団とデパート業界は、「感情労働者健康保護の業務協約」 を締結しました。これにより公団は感情労働に伴う職務ストレスを予防するための 「自己保護マニュアル」 を開発・普及させ、各デパートは協力会社と一緒に共同の安全保健プログラムを運営することに同意し、公団と各業者は「安全誓約運動」共同キャンペーンを展開しました。主張は 「顧客が王様なら、従業員も王様だ」 です。
 フォーラムなども頻繁に開催されています。その中では 「感情労働をするテレマーケッターの場合には電話を先に切る権利を与え、無理な要求をする顧客には一方的に謝らない権利を与えなければならない」 と呼びかけられました。
 女性団体はデパートの前で 「デパートには人がいます」 と書かれたビラを配布し、△デパート労働者に丁寧語を使い△返品・払い戻し規定をよく熟知して不合理な要求をせず△会計をする時にはカードや紙幣を放り投げず△不必要なスキンシップや言語セクハラをしない、などを守ろうと呼びかけました。
 メーデーの日、コーヒーショップで働く労働者は、利用した労働者に 「感情労働者の苦衷、ちょっとだけ考えて見てください」 のチラシを配り連帯していきました。
 感情労働者を守るのは事業主 (元請事業主) の責任です。予防と対応をとらなければなりません。ソウル市は、2016年 「ソウル特別市感情労働従事者の権利保護などに関する条例」 を制定し2017年から施行されました。具体的には、ソウル市に感情労働者の勤労環境改善計画の樹立を義務付けています。

 ストレスは重層的格差社会が創り出しています。その構造の中で、ストレスを誰かにぶつけることで解消する行為は連鎖を呼びます。感情労働の被害は労働者の自己を破壊させます。そして加害者の正義感をも破壊させます。
 それぞれ立場は違っても、みな消費者であって労働者です。お互いが主張し合う中から理解し合って共感が生まれ、さらに共生が生まれています。
 日本においても、韓国の取り組みをまねながら労働者の人権と尊厳を守るための取り組みに着手することが必要です。


 検討会は、職場のパワーハラスメント防止対策を進めるために、事業主に対する措置義務を中心に検討を進めることが望ましいという意見に集約される様子が見られました。
 しかし使用者側委員は、ガイドラインに固執して最後まで反対し、譲りませんでした。多くの委員会等では、最後のまとめは 「座長一任」 ということが多くありますがそうにはなりませんでした。

 現在、政府は 「働き方改革」 の法制化を目指しています。しかし同じ政府の働き方改革実現会議が決定した 「働き方改革実行計画」 に盛り込まれていた 「職場のパワーハラスメント防止を強化するため」 の政策は法制化には至りませんでした。
 「働き方改革」 の 「高プロ」 は 「過労死促進法」 と呼ばれています。法制化を固執する 「高プロ」 は企業の生産性向上のなかで労働者は 「自己責任」 が問われます。

 「報告書」 は 「はじめに」 で
「職場のパワーハラスメントは、相手の尊厳や人格を傷つける許されない行為であるとともに、職場環境を悪化させるものである。こうした問題を放置すれば、人は仕事への意欲や自信を失い、時には心身の健康や命すら危険にさらされる場合があり、職場のパワーハラスメントはなくしていかなければならない。
 また、企業にとっても、職場のパワーハラスメントは、職場全体の生産性や意欲の低下など周りの人への影響や、企業イメージの悪化などを通じて経営上大きな損失につながるものである。」
とあり、労働者と企業双方に悪影響がおよぶことからの克服を目指そうとしています。
 しかし 「報告書」 を貫いているのは、「提言」 と比べると厳密な検討ということでの定義の枠の縮小、解釈等のゆとりの解消です。そして個人的問題・「自己責任」 が登場しました。「仕事への意欲や自信を失い、時には心身の健康や命すら危険にさらされる」 などは建前で、「職場全体の生産性や意欲の低下など周りの人への影響や、企業イメージの悪化などを通じて経営上大きな損失につながる」 の本音を 「防止」 させるための方策が盛り込まれたといえます。まさしく 「働かせ方改革」 の 「職場のパワーハラスメント防止対策」 版です。

 検討会が開催されている最中、さまざまな団体で職場のパワーハラスメント予防・防止の議論がおこなわれ、またさまざまなハラスメントの捉え返しが進みました。特に 「第三者からの暴力」 の被害を被る労働者の思いは切迫したものがありました。
 「報告書」はこの後、労働政策審議会に送られますが、検討会の報告を承認するだけで済ませるのではなく、労働現場の声を届け、反映させるための運動を展開し、「職場のパワーハラスメント予防・防止対策」の対案提起していく必要があります。
 そしてILOの議論においても討論が行われますが、日本政府の言いわけとねつ造を許さない世論を作り上げていく必要があります。
この記事のURL | いじめ・差別 | ▲ top
| メイン |