2018/03 ≪  2018/04 123456789101112131415161718192021222324252627282930  ≫ 2018/05
「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会報告書」 Ⅰ
2018/04/10(Tue)
 4月10日 (火)

 3月30日、厚生労働省は 「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会報告書」 (報告書) を公表しました。検討会は、昨年3月28日に政府の働き方改革実現会議が決定した 「働き方改革実行計画」 に 「職場のパワーハラスメント防止を強化するため、政府は労使関係者を交えた場で対策の検討を行う」 と盛り込まれたことによるものです。検討会は、昨年5月から今年3月まで10回開催されました。


 職場のいじめ対策については、2012年3月15日に 「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議」 が 「職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言」 (「提言」) を発表しました。日本で初めての職場 (労働者) のいじめ問題への取り組みでした。タイトルに 「予防」 とあるように問題が発生する前から 「なくしていく」 取り組みからはじめることの重要性が語られています。「職場のパワーハラスメントは、相手の尊厳や人格を傷つける許されない行為であるとともに、職場環境を悪化させるものである」 からです。
 具体的には、職場の一人ひとりそれぞれの立場から取り組みとして、最初にトップマネジメントへの期待、続いて上司への期待、そして職場の一人ひとりへの期待、さらに政府や関係団体への期待が語られています。職場のパワーハラスメントは構造的に発生するという捉え方です。
 職場からパワーハラスメントをなくし、働く人の尊厳や人格が大切にされる社会を創っていくための第一歩として 「提言」 をもとに組織的に取り組み、そこで働く一人ひとりは自分たちの職場を見つめ直し、互いに話し合うことからはじめることを期待しています。
 そのうえで、職場のいじめ・パワーハラスメントの概念規定・定義を行い、続けて6つの 【職場のパワーハラスメントの行為類型】 を挙げています。
「職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。」
【職場のパワーハラスメントの行為類型 (典型的なものであり、すべてを網羅するものではないことに留意する必要がある)】
 ①暴行・傷害 (身体的な攻撃)
 ②脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言 (精神的な攻撃)
 ③隔離・仲間外し・無視 (人間関係からの切り離し)
 ④業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害 (過大な要求)
 ⑤業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を
  与えないこと (過小な要求)
 ⑥私的なことに過度に立ち入ること (個の侵害)
 【予防・解決に向けた労使の7つの取組】 として円卓会議のもとに開催された 「ワーキング・グループ」 の報告では、考えられる労使の取組について、既に対策に取り組んでいる企業・労働組合の主な取組の例を7つ紹介しています。
 ○ 職場のパワーハラスメントを予防するために ⅰ トップのメッセージ、ⅱ ルールを決める、
  ⅲ 実態を把握する、ⅳ 教育する、ⅴ 周知する
 ○ 職場のパワーハラスメントを解決するために ⅵ 相談や解決の場を設置する、ⅶ  再発を防止する
 要約すると 「提言」 の位置づけは、提言を周知・情報提供することにより、企業等における自主的な取組を促すことです。
 しかし 「提言」 は対策の範囲を 「同じ職場で働く者に対して」 と限定し、顧客からなどいわゆる 「第三者からの暴力」 と 「差別」 の問題は除外されています。


 「提言」 から7年が経ち、再検討が必要にもなっていました。
 「検討会」 の目的は (1) 職場のパワーハラスメントの実態や課題の把握、(2) 職場のパワーハラスメント防止を強化するための方策、などについての検討をおこなうことでした。名称が円卓会議の 「職場のパワーハラスメントの予防・解決」 から 「職場のパワーハラスメント防止」 に変わりました。このことからも議論の性格が違っています。「最初にトップマネジメントへの期待・・・」 の流れが消えました。
 検討会の結論としての 「報告書」 には職場のパワーハラスメント防止策が盛り込まれています。法律に禁止項目を盛り込む防止法制定、事業主に職場のパワーハラスメント防止等のための雇用管理上の措置を義務付け、基本法、事業主による一定の対応措置をガイドラインで明示などのいずれかになることが想定されていました。そのため、労働者側委員、使用者側委員の発言は 「かまえた」 ものとなり現状認識、どのような行為がパワーハラスメントに該当するかの判断、パワーハラスメントの定義などについてそれぞれの立場をふまえた主張を展開しました。「報告書」 から逆算した議論です。例えば、使用者側委員は、定義等は厳格、防止対象とする行為はできるだけ限定的、防止策は緩いものにという主張になり、労働者側委員はなるべく早くに実効性がある規制を主張します。
 結局、「報告書」 はそのようなことのまとめとして労働政策審議会と厚生労働省に下駄を預けるものになりました。


 「報告書」 を検討します。
 まず現状について述べています。
 都道府県労働局における職場のいじめ・嫌がらせに関する相談の状況から職場のパワーハラスメントは増加傾向にあるといいます。しかし必ずしもパワーハラスメントとは言えない事案もあるといいます。実際、労働局の相談内容分類はあいまいです。どれに該当させるか困難なときに人間関係・いじめ・嫌がらせに分類されることがあります。
 それよりも 「提言」 の発表後、職場で問題が発生したときに声があげやすくなったという効果があります。このことはもっと評価されていいことです。
 企業でいうならば、職場環境と生産性はリンクすることを自覚した企業は 「提言」 に関係なく自主的に取り組みを進めてきています。職場のパワーハラスメント予防対策の取り組みには企業の規模に関わらず、大きな 「格差」 が出てきている現実があります。
「必ずしもパワーハラスメントとは言えない事案もある」 は、使用者側・労働者側委員の 「どのような行為がパワーハラスメントに該当するかの判断、パワーハラスメントの定義などについての主張」 の相違からのものもあります。

 発生の要因については、行為者及び被害者となる労働者個人の問題によるものと、職場環境の問題によるものがあるとの意見が示されたと述べています。
「労働者個人の問題としては、パワーハラスメントの行為者については、感情をコントロールする能力やコミュニケーション能力の不足、精神論偏重や完璧主義等の固定的な価値観、世代間ギャップ等の多様性への理解の欠如等があるとの意見が示された。また、パワーハラスメントの受け手となる労働者についても、社会的ルールやマナーを欠いた言動が一部には見られることもあるのではないかとの意見が示された。
 また、職場環境の問題としては、労働者同士のコミュニケーションの希薄化やパワーハラスメントの行為者となる労働者に大きなプレッシャーやストレスをかける業績偏重の評価制度や長時間労働、不公平感を生み出す雇用形態、不適切な作業環境等が要因であるとの意見が示された。
 特に、労働者同士のコミュニケーションについては、例えば、非常に困難な業務を与えたとしても、その際に、当該業務をやり遂げることの意義について十分な説明をすれば、パワーハラスメントであると受け止められずにすむなど、パワーハラスメントの発生に関わる重要な要素であるという意見が多数示された。職場のパワーハラスメントを防止するためには、これらの要因を解消することも重要である。」
 文章構成において労働者個人が先にきて、職場環境の問題が後になっています。この構成は 「報告書」 の特徴で、職場のパワーハラスメントの捉え方からきています。「提言」 の 「職場の一人ひとりそれぞれの立場から取り組みとして、最初にトップマネジメントへの期待・・・職場のパワーハラスメントは構造的に発生するという捉え方」 とは違っています。職場のパワーハラスメントは構造的に発生するという捉え方が消え、労働者の 「自己責任」 が大きく登場してきました。企業の対応が免罪されます。このようなことから相談案件数が減少したとしても改善されたということにはなりません。労働者はそのなかで就労を続けることになります。
 そのような傾向が厚労省の 「職場のパワーハラスメントに関する実態調査報告書」 における 「何もしなかった」 と回答した割合40.9%、その理由として 「何をしても解決にならないと思ったから」、「職務上不利益が生じると思ったから」 と回答した要因につながっています。企業がパワーハラスメント対策を進めようとするなら、労働者にこのような意識を克服、改善させるために、なおさら構造的に発生するという捉え方が必要です。

 「自己責任」 の捉え方は、職場でパワーハラスメントが発生しても問題の本質がえぐられず、かえって企業の対応の困難さに繋がっていきます。
「具体的には、相談に来た被害者が一方的な主張をしており、被害者にも非があるのではないかと思われるケースや、調査の結果、被害を主張していた労働者が反対にパワーハラスメントの行為者であったことが発覚したケース、また、客観的にはパワーハラスメントではなかったにもかかわらず行為者とされて退職した者が、企業に責任を追及したケース等、様々な事案について示された。
 また、企業内の相談窓口に寄せられた相談のほとんどが、何らかの感情の動きをパワーハラスメントという言葉に置き換えた相談であり、本当にパワーハラスメントに該当すると思われる相談は全体の1割弱であったという意見も示された。こうした状況を含め、パワーハラスメントの被害が訴えられた際の事実関係の確認が難しく、被害者がメンタルヘルスに不調を来している場合や同僚等の第三者が行為者との関係性から萎縮してしまう場合等になかなか必要な証言が得られないことや、噂の流布等の場合には行為者を特定できないことが課題として示された。行為者と被害を訴える相談者の人間関係、地位、業務の状況等が千差万別であることから、パワーハラスメントに該当するか否かの判断が難しいとの意見も示された。」
 職場の労働者が、パワーハラスメントかどうかはさておくとしても、周囲や会社に何らかの訴えをしているという事実、労働者が精神的に自己を失いかけている状態に追いこまれているという状況が捨象されています。そこではすでに問題が発生しているのです。そのことを捉えようとしないと労働者の行為が特異に映ってしまい、再発や職場で別の問題が発生する事態が続くことになります。
 労働者への自己責任の押し付けは企業の責任転嫁です。

 「提言」 のパワーハラスメントの定義は 「職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。」 です。
 これに対して、以下の①から③までの要素のいずれも満たすものを職場のパワーハラスメントの概念として整理しました。
【職場のパワーハラスメントの要素】
 ①優越的な関係に基づいて (優位性を背景に) 行われること
 ②業務の適正な範囲を超えて行われること
 ③身体的若しくは精神的な苦痛を与えること、又は就業環境を害すること
 さらに、パワーハラスメントに該当するか否かを判断するためのそれぞれの要素の具体的な内容について整理しました。
 ①優越的な関係に基づいて (優位性を背景に) 行われることについて
 「当該行為を受ける労働者が行為者に対して抵抗又は拒絶することができない蓋然性が高い関係に基づいて行われること」 を意味する 「優越的な関係に基づいて (優位性を背景に) 行われること」 とすることが考えられる。
 この要素に当てはまる主な例として、次のような行為が考えられる。
 ・職務上の地位が上位の者による行為
 ・同僚又は部下による行為で、当該行為を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有し
  ており、当該者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの
 ・同僚又は部下からの集団による行為で、これに抵抗又は拒絶することが困難であるもの
 ②業務の適正な範囲を超えて行われることについて
 「社会通念に照らし、当該行為 が明らかに業務上の必要性がない、又はその態様が相当でないものであること」 を意味する 「業務の適正な範囲を超えて行われること」 とすることが考えられる。
 この要素に当てはまる主な例として、次のような行為が考えられる。
 ・業務上明らかに必要性のない行為
 ・業務の目的を大きく逸脱した行為
 ・業務を遂行するための手段として不適当な行為
 ・当該行為の回数、行為者の数等、その態様や手段が社会通念に照らして 許容される
  範囲を超える行為
 ③身体的若しくは精神的な苦痛を与えること又は就業環境を害すること
 「当該行為を受けた者が身体的若しくは精神的に圧力を加えられ負担と感じること、又は当該行為により当該行為を受けた者の職場環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等、当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じること」 を意味する「身体的若しくは精神的な苦痛を与えること又は就業環境を害すること」 とすることが考えられる。
 また、この時の 「身体的若しくは精神的な苦痛を与える」 又は 「就業環境を害する」 の判断に当たっては、「平均的な労働者の感じ方」 を基準とすることが考えられる。この要素に当てはまる主な例として、次のような行為が考えられる。
 ・暴力により傷害を負わせる行為
 ・著しい暴言を吐く等により、人格を否定する行為
 ・何度も大声で怒鳴る、厳しい叱責を執拗に繰り返す等により、恐怖を感 じさせる行為
 ・長期にわたる無視や能力に見合わない仕事の付与等により、就業意欲を 低下させる行為
 しかし、解釈を厳格にするということは、問題が発生した時の解決において 「幅」 ・ゆとり、裁量が狭められるということになっていきます。

 「提言」 の 【職場のパワーハラスメントの6つの行為類型】 を検討しています。
 既にパワーハラスメント対策に取り組んでいる企業のこれまでの取組が意味のないものにならないようにするため、大きく変えない方が良いという意見が示され、他に行為類型として追加すべきものも特段挙げられませんでした。
 それを踏まえながら6つ行為類型のうち、【職場のパワーハラスメントの要素】 の3つの要素を満たすものを職場のパワーハラスメントに当たる行為として整理されました。行為の態様が、6つの行為類型に該当しそうな行為であっても、3つの要素のいずれかを欠く場合であれば、職場のパワーハラスメントには当たらない場合があることに留意する必要があることになります。そのうえで3つの要素を満たすと考えられるものとそうでないものの例が新たに示されました。
 そもそも、「提言」 の 【6つの行為類型】 に ①暴行・傷害 (身体的な攻撃)、② 脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言 (精神的な攻撃) などの暴力行為が職場のパワーハラスメントとして挙げられること自体が現状の深刻さを物語っています。

 また別の章では
 ➃ 業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害 (過大な要求)
 ⑤ 業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を
  与えないこと (過小な要求)
について、
「➃ら⑤までについては、業務上の適正な指導との線引きが必ずしも容易でない場合があると考えられるとされている。
 その上で、こうした行為について何が 『業務の適正な範囲を超える』 かについては、業種や企業文化の影響を受け、また、具体的な判断については、行為が行われた状況や行為が継続的であるかどうかによっても左右される部分もあると考えられるため、各企業・職場で認識をそろえ、その範囲を明確にする取組を行うことが望ましいとされている。」
と述べています。職場のパワーハラスメントの基準は業種や企業によって異なるということになります。そうでしょうか。このような判断は他のところにおいてもダブルスタンダードを登場させ容認することになっていきます。

 ちなみに、他に行為類型として追加すべきものも特段挙げられませんでしたとありますが、労働政策研究・研修機構が2015年発6月に発表した報告書 「職場のいじめ・嫌がらせ、パワーハラスメントの実態 -個別労働紛争解決制度における2011年度のあっせん事案を対象に-」 は、6類型では括れない事案が63件あり 「7経済的な攻撃」 (重複計上) があらたに取り上げています。中分類すると 「1.経済的不利益を与えること」 の行為数43件、「2.労働者の権利を行使させないこと」 の行為数20件となります。さらに小分類では 「1.経済的不利益を与えること」 は 「1.経済的な不利益・制裁」 行為数14件、「2.不当な評価 (降格等)」 7件、「3.成果の取り上げ・成果をあげる機会の取り上げ」 5件、「4.事実上の解雇となる雇用の終了」 9件、「5.労働日・労働時間の短縮、残業禁止命令」 8件です。「2.労働者の権利を行使させないこと」 は 「6.権利の剥奪」 12件、「7.権利に関わる問い合わせに応じないこと」 8件です。
 最近の労働相談においては、PIPなどの 「7経済的な攻撃」 の相談が急激に増えています。
                                 (つづく)
この記事のURL | 厚労省 交渉・審議会 | ▲ top
| メイン |