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どうする健康保険
2018/04/27(Fri)
 4月27日 (金)

 4月に入ると、日経新聞は健康保険についての記事を何回か載せています。

 健康保険組合の財政が悪化しています。健保組合は大企業が単独で設けたり、同業の中小企業が集まって設立したりしていて、労働者とその家族の健康保険を運営しています。
 現在は全国1389組合の加入者は約3千5百万人 (本人1960人、家族1500万人) です。全国の健保組合で組織する連合会によると、16年度に経常収支が赤字になった健保は543組合、保険料率を上げたのは206組合でした。
 18年度予算によると、平均の保険料率は前年度比で0.05ポイントほど上がり年収の約9.2% (労使折半) と11年連続で上昇しています。1人あたりの平均保険料は、年間約48万6千円となり、10年で10万円超も増えました。
 高齢者の医療費を支えるために健保組合の加入者以外への拠出金の負担が年々重くなっています。16年度の拠出金総額3兆2800億円は、健保組合が医療費として支出した法定給付費の85%にもあたります。
 18年度は保険料収入 (総額8兆1千億円) のうち4割超が拠出金に回る見通しで、この10年で1兆1千億円も増えました。負担増をまかなうために各健保は保険料率の引き上げに迫られています。
 2割強の300超の健保組合は、国所管の全国健康保険協会 (協会けんぽ 旧政府管掌健康保険) の保険料率以上になり、使用者にとっては存続の利点が小さくなっています。

 いくつかの独立採算である健保が財政悪化を理由に解散を検討しているといいます。例えば、人材派遣会社の労働者と家族約50万人が加入する 「人材派遣健康保険組合」、16万人「日生協健保」 などです。解散したら中小企業向けの協会けんぽに移ります。
 人材派遣健康保険組合の保険料率はここ10年で2ポイント上昇して9.7%です。今年度の拠出金は保険料収入の4割超に上り、今後も増加が見込まれます。
 日生協健保の保険料率は10.7%です。
 これらを労使で折半します。一方、協会けんぽの保険料率は都道府県で異なりますが平均10%です。健保の保険料率がこれ以上あがると、使用者の負担額は協会けんぽに加入した場合よりも増えるということも解散の理由になっていきます。
 3年連続して赤字など財政悪化が著しい組合は、財政健全化計画策定を義務づける「指定組合」制度がありますが、2つの健保はいずれも指定組合ではありませんでした。

 協会けんぽには年1兆円規模の国庫負担が投入されています。人材派遣健康保険組合が協会けんぽに加入すると、発足以降の解散での最大の加入者数となります。税投入額は加入者数で計算します。今回の2健保の解散による国庫負担の増加額は200億円規模に上るといわれます。

 健保組合の解散の波が訪れたのは、08年に75歳以上の後期高齢者医療制度が導入された時からです。08年度とその翌年度で、合計で40近い健保組合が解散しました。近年は毎年数組合程度にとどまっていましたが、再び増えています。
 健康保険組合連合会の昨年夏のまとめでは、17年度は全国に1400ある健保組合の7割で収支が赤字の見通しです。18年度は6割の組合が赤字を見込みで、赤字合計は1400億円弱に上ります。解散予備軍といえる健保組合は310を超えています。ここ数年は加入者の年収が低い組合の拠出金を減らす救済措置がとられていましたが、解散予備軍は17年度とほぼ変わりませんでした。救済の効果を打ち消すほどに拠出金が増えています。
 予測ではこのまま負担増が続くと25年度までに全体の4分の1の380組合が解散する可能性があると予測しています。健保組合の解散風が再び強まれば、協会けんぽへの補助金は増加します。仮に380組合が移れば、国庫負担は1800億円増える計算です。


 政府の方針は口実を設けて取りやすいところから取って間に合わせてきたということです。健保組合が協会けんぽに移れば、税金で支える対象者は増えます。超高齢社会への対応を後回しにしてきたツケは、さらに現役世代に回りつつあります。
 高齢者医療の財源の一部を現役の働き手と事業主が負担する健康保険料に依存する方法は根本的に間違っています。なおかつ限界にきています。
 しかもそういいながら、非正規労働者に対しては、所得税の扶養控除、社会保険料の扶養控除、配偶者控除などの制限額を設定しています。社会保険料の扶養控除は非正規労働者の健保加入を阻止し、企業の折半の負担を軽くしています。しかし控除されながらいずれかの健保を被扶養者として利用しています。
 非正規労働者の低賃金は、政府が進める 「同一労働同一賃金」 制度を推進し、企業も労働者も共に社会全体のために負担を追う必要があります。そのことで共助・共生の社会をつくっていく必要があります。そうすると、免除されていない労働者の負担も少しは小さくなります。
 扶養控除は現在の低賃金でのやりくりにおける損得で計算されますが、自立を妨げています。
 1人ひとりが家族の加入者を本人加入者にすることにより、独立した社会保険を負担することは、将来にわたっての自立を保障することになり、さらに財源の改善にもなります。

 そして、福祉に充てるという口実で導入され、上がった消費税はどう使われているでしょうか。もう一度点検し直す必要があります。


 もう1つの健保・国民健康保険についてです。これについては 『ダイヤモンド』 が連載しています。
 健保組合、協会けんぽ、海員健保、さらに公務員等の共済組合に加入していない人は健保に加入します。国保は、もともと農林水産業者や自営業者のために作られた制度です。

 現行法の前身である国民健康保険法 (旧国保法) が施行されたのは、戦前の1938年7月1日。当時、工場や炭鉱で働く労働者、会社員など、いわゆる被用者を対象とする健康保険はすでに作られていたものの、農民や漁民、都市部の自営業者などをカバーする公的な健康保険はなく、医療を受けられない人も多くいました。とくに農村部の貧困はすさまじく、病気になると田畑や家どころか、娘を身売りして医者にかかるといった悲劇が常態化していました。
 そこで、農林水産業者や自営業者などの医療費の負担を抑えるために制定されました。今に続く市町村国保の始まりです。ただし、今のように強制性はなく、任意組織という位置づけで、市町村単位の 「普通国保組合」 と同業同種で運営する 「特別国保組合」 が組織されました。

 1959年1月1日に施行された国民健康保険法は、会社員や公務員以外の人はすべて国保に加入するという規定を設け、誰もがなんらかの健康保険に加入することを義務づけました。国民皆保険が実現しました。病気やケガをしたとき、「いつでも、どこでも、だれでも」 医療を受けられる国民皆保険は、国保の存在抜きでは成立しません。


 国民健康保険中央会の 「国民健康保険の安定を求めて」 (17年11月) によると、国民皆保険が実現した1961年度の国保加入者 (世帯主) は、農林水産業者が44.7%、自営業者が24.2%。会社員などの被用者は13.9%でした。
 15年度は農林水産業が2.5%、自営業が14.5%まで減少。代わりに増えているのが被用者の34.1%です。
 加入者構成が変化した理由は一次産業人口の減少もあるますが、雇用形態の変化も影響しています。いまや全労働者の3分の1がパートタイマーや派遣社員などの非正規雇用です。先にも述べましたが、企業や公的機関で働いていても、正規の職員ではなく非正規雇用も増えています。身分が不安定で収入が少ないため健保組合、協会けんぽ、共済組合に加入できない人も多くいます。企業はこれを “歓迎” しています。国保は、この人たちの受け皿にもなっています。


 もうひとつ、現在の国保の加入者は無職者です。1961年度に9.4%だった無職者の割合は、15年度には44.1%まで上昇している。その多くは定年退職した74歳までの高齢者です (75歳になると、後期高齢者医療制度に移行する)。そのなかの前期高齢者 (65歳から74歳) の割合は39.50%です。


 国保の財源は、15年度は全体で2843億円の赤字となっています。
 そこで、国保の運営を安定させるために、2018年度から国保の財政基盤を根本的に見直すことになりました。国の財政支援を拡大させることで、これまで市区町村が行ってきた国保の運営に都道府県が責任を持ってかかわり、財政健全化に向けた中心的な役割を果たしていくことになりました。
 これまで国保の保険料は市区町村の判断で決められていたが、今年4月以降は所得水準や使った医療費などから標準的な保険料の目安を都道府県が示し、その金額を参考にして市区町村が保険料を決めていきます。保険給付に必要な費用は、全額、都道府県から市区町村に交付されます。また、都道府県が国保の運営方針をまとめて、事務作業の効率化や広域化も進めることになっています。


 健康保険は、病気やケガになったときに必要な治療を受けられるという個人の問題を解決するだけではありません。病気で働けないために貧困に陥る人を減らして社会を安定させ、経済成長にも貢献しています。
 人らしい自由な生き方を保障するためにも、健康保険をはじめとした社会保障はさらに充実される必要があります。
 現役世代が疲弊していくと、高齢者との摩擦が生まれます。現役時代には高額の納税義務を果たしてきた人たちが社会に遠慮しながら生活しなければならないとしたら、国家はその役割を果たしていないということです。

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「済州島4.3の名誉回復は和解と相生、                                 平和と人権に向かう私たちの未来です。」
2018/04/20(Fri)
 4月20日(金)

 4月2日から5日と、韓国・済州島に行ってきました。「済州4.3事件」70周年の式典に参加するためです。関東からは150人、関西から80人、沖縄から40人、そして台湾から40人とたくさんの人たちが参加しました。関東からの参加者は、半分くらいが在日韓国人の人たちです。
 済州島訪問は、4・3事件60周年、65周年についで3回目です。

 では、「済州4.3事件」とはどのような事件だったのでしょうか。
 事件と表現しますがあいまいです。事件にどのような立場でかかわったかで名称は変わってきます。さらにまだまだ解明されない出来事がたくさんあります。

 18年4月4日のハンギョレ新聞です。長いです。 
「済州市(チェジュシ)奉蓋洞(ポンゲドン)の済州4・3平和記念館。うす暗い第1館『歴史の洞窟』に入れば、鳥の声がしばし聞こえ、両壁には欠けた水瓶と壷が置かれている。天井からしたたり落ちるような水音は、そこが洞窟の中であることを感じさせる。済州4・3当時、済州島に散在している自然洞窟は、済州の人々の避難所だった。その洞窟の終点には白い大理石の碑石が横たわっている。碑石は、円筒形の柱を通じて来る日光を受けて輝く。

  抗争・暴動・虐殺など
 7年7カ月間、絡まり合った事件…
 政府報告書には事件の定義だけ…

 2014年国家追悼日には指定されたが
 歴史的評価は後世の役割に残し
 70周年迎え正名運動が始まった

 国家は50年間「暴動」とし
 進歩史学界は「抗争」とした
 最近15年間、虐殺糾明に焦点
 「統一国家に向けた闘争」談論喪失
 抗争性など歴史的大義に再照明
 多様な性格を包括した「正名」見つけるべき

 ■名付けることすらできなかった歴史
 碑石の表面には何の字も彫られていなかった。いわゆる“白碑”だ。説明文には「4・3白碑、名付けることもできなかった歴史」と記されている。名もなく立てることもできなかった。白碑は、事件発生から70年が経っても名付けることもできなかった4・3の現住所を見せる象徴物だ。

 2003年10月、韓国政府の「済州4.3事件真相調査報告書」(政府報告書)が確定して、大統領が謝罪し国家追悼日に指定されたが、依然として4・3は“名付けることもできなかった歴史”として残っている。当時の政府報告書は、事件の定義はしたが、性格規定は先送りした。2003年10月、国務総理室傘下の『済州(チェジュ)4・3事件真相究明および犠牲者名誉回復委員会』(済州4.3委員会)が確定した政府報告書の序文で、当時コ・ゴン国務総理は『報告書は事件の真相究明と犠牲者・遺族の名誉回復に重点を置いて作成され、4・3事件の全体に対する性格や歴史的評価は下さなかった。これは後世史家の役割と考える』と明らかにした。
 現代史の大きな事件の中で、4・19革命はすでに法・制度的公認がなされ、釜馬(釜山・馬山)抗争、5・18民主化運動、6・10抗争は文在寅(ムン・ジェイン)大統領が用意した改憲案前文に明示されるほどに民主化運動として公認された。これとは違い『済州4・3』は単に『4・3』だ。発端から終結まで一カ月前後だった他の懸案と比べて、4・3は7年7カ月にわたり、性格規定が難しくなった。分断と冷戦初期の展開過程で起きた済州4・3は、米軍の直接・間接的な介入と鎮圧に出た軍・警と西北青年団などの反倫理的な残虐行為が絡まり合いながら拡大した。……
 ■済州4・3とは
 与野党合意で2000年1月に制定された『済州4・3真相究明および犠牲者の名誉回復に関する特別法』(済州4・3特別法)には『済州4・3事件』の定義を『1947年3月1日を基点とし1948年4月3日に発生した騒擾事態および1954年9月21日まで済州島で発生した武力衝突とその鎮圧過程で住民が犠牲になった事件』と規定している。
 政府報告書によれば、済州4・3は米軍政時期の1947年3月1日、警察の発砲で『3.1節28周年記念大会』参加者の街頭行進を見物していた小学生と若い女性を含め6人が亡くなったのに、警察は発砲責任者の処罰どころか正当防衛だと主張して、大々的な検挙旋風が吹き荒れて始まった。その後1948年3月まで2500人余りが検挙され、拷問を受けたり裁判に付された。また、極右性向のユ・ヘジン道知事の独断的行政行為、極右勢力である西北青年団の済州島民に対する苛酷行為と、1948年3月の警察による2件の拷問致死事件を契機に、南朝鮮労働党(南労党)済州島委員会が1948年4月3日『弾圧には抗争だ』として、5・10単独選挙反対などを名分に武装蜂起を起こした。4・3は、米軍政下で起き朝鮮戦争が終わった翌年の1954年9月に漢拏山(ハルラサン)入山統制区域が解除される時まで、7年7カ月にかけて展開された。

 一部の保守団体は、南労党の武装蜂起と『5・10選挙反対』などを挙げて、4・3を相変らず『共産主義の暴動』であり『反乱』と見ている。
 しかし、済州4・3時期に武装隊の民間人虐殺や放火はあったが、多くの集団虐殺と無差別的放火が軍・警などの公権力によってなされたことは否めない。済州4・3委員会が犠牲者と遺族を最後に審査した昨年7月25日現在、犠牲者は1万4232人(死亡1万244人、行方不明3576人、後遺障害164人、受刑人248人)、遺族は5万9426人だ。犠牲者全体のうち、10歳以下は5.4%(772人)、11~20歳は17.3%(2464人)で、全体の22.7%が20歳以下だ。また61歳以上は6.3%(900人)を占めた。このような犠牲者比率は、当時済州島民が老若男女の別なく無差別に犠牲になったことを意味する。政府報告書は犠牲者数を2万5千~3万人と推定している。

 ■なぜ正名運動が展開されるのか
 済州4・3 70周年汎国民委員会は今年70周年をむかえ『4・3に定義を、歴史に正名を』をスローガンに掲げた。政治を任されたら何からするかという問いに孔子が『名を正す(正名)』と答えたという話から正名が出てきた。パク・チャンシク4・3汎国民委運営委員長は『公式的な歴史になるまでには多くの社会的討論と合意の過程が必要だが、正名問題をずっと先送りすることはできない。70周年に国家的な次元で公式正名がなされることは難しくとも、4・3の主体的な側面に光を当て、評価する部分は本格的に始めなければならない。正名運動の本格的な出発だ』と話した。彼は『4・3が特別法の制定などで制度化され、国家暴力による犠牲、大量虐殺などのフレームに閉じ込められた側面がある。当時、島民たちは単純に犠牲と抑圧のオブジェクトとしてのみ存在したわけではなく、歴史の主体であった。解放空間で近代国民国家を形成していく主体として、統一された国を建設するための努力と闘争があったが、(政府報告書以後の)過去15年間、談論の中で失踪した側面があった』として、正名運動の背景を説明した。

 済州4・3はこれまで暴動、抗争、虐殺などの名で呼ばれてきた。『暴動』は事件以後50年近く国家の公認された認識であったし、今も一部の保守勢力は4・3の性格を『暴動』で規定している。彼らは、討伐は正当だったし、鎮圧過程で一部の罪のない者の犠牲があったという見解だ。進歩歴史学界などは外勢の不当な弾圧に抗して分断に反対した『抗争』と規定する。またもう一つは、4・3の真実を糾明し傷を治癒するために、4・3は国家暴力による『民間人虐殺』と見たりもする。最近では、4・3の発生原因を分析し、外部の不正と不義などの不当な弾圧に抗して島の共同体を守るために起きた『正義』の闘争と見る研究者もいる。
 こうした多様な見解により、研究者は済州4・3は長期にわたって展開されたため正名に対する合意は容易でないと口をそろえる。ヤン・ジョフン済州4・3平和財団理事長は『正名問題に関する限り、現場と研究者の間に乖離がある。学者の立場から見れば、4・3は『抗争』だ。解放空間から48年の状況までを見れば抗争だ。しかし、その後54年までの期間は抗争でもなく、生存のための殺す側と殺される側との戦いだった』として『そのために正名には時間が必要だ。白碑は余韻を残すものだ』と話した。
 キム・ジョンミン元4・3専門委員は『犠牲者全体の10%未満と考えられる武装隊による犠牲者の遺族の気持ちも共に推し量らなければならない。比率が少ないからと言っても武装隊の誤りも確実にある。東学のように100年あまりの歳月が流れた後に、4・3を個人史や家族史ではなく歴史の目で見る時に初めて正名できることになるようだ、しかし、研究者が抗争と表現する分には反対しない』と話した。歴史学者であるパク・チャンシク済州学研究センター長は『個人の意見と公的領域で扱われるのは別の次元だ。公的な領域において正名運動は4・3 70周年をむかえて掲げたスローガンであり、積極的に推進しなければならないのは明らかだ。しかし、正名運動で国民的追認を受けることは相当に難しい過程を踏まなければならないだろう。東学運動も最初は東学の乱から始まり、東学革命を経て、東学農民戦争で定説化されたが、100年近い時間を経て正名化された』と見通した。

 韓国現代史研究の権威者であるソ・ジュンソク成均館大学名誉教授は、4・3の『抗争的』側面を強調する。彼はハンギョレとの電話インタビューで『4・3事件という名前をつけるだけでは、4・3を完全に理解することはできない。これまでは政治的な理由で4・3の抗争的な面を浮き彫りにすることが困難で、ただ4・3特別法にあるとおりにしようと適当にやり過ごしてきた面がある。正名を見つけるための積極的な努力があったとは見難い』と指摘した。彼は『4・3の勃発原因がきわめて重要だ。政府報告書にもあるが、特に3.1節記念大会以後に済州島に押し寄せてきた内地の人々の横暴や米軍政の実情、解放から2~3年が過ぎても統一独立国家を成し遂げられなかったことに対する絶望、こういうものが結局は4・3で爆発した。西北青年団などにやられたという強い被害者意識も作用した。そうした面で抗争的な性格を持っている。また、4・3は他の事件とは異なり、非常に長く続いた。抗争的な性格が強く入っていなければ、それほど長くは続かない。今までは真相究明と名誉回復に焦点を合わせざるをえなかったが、これからは一段階さらに(研究が)前に出て行かなければならない』と話した。」


 4月3日、漢拏(ハルラ)山の麓にある「4.3平和公園」で「第70周年 済州島4.3犠牲者追念式」が開催されました。
 式典では、小説家・玄基栄(ヒョン・ギヨン)氏が追悼辞を述べました。玄基栄氏は事件から30年後の1978年に「4.3」で最大の 被害を受けた村の一つ「北村里」での虐殺をテーマに、朴正煕大統領政権の時、4.3事件をどう捉えるのかを問う小説『順伊(スニ)おばさん』を著し「4.3」の実情を世間に知らしめました。しかし逮捕されて拷問を受け、本は発売禁止になりました。内容が“過激”だからではありません。事件を抹殺しようとしたのです。
 
 玄氏の追悼辞です。
「4.3で犠牲になった方々の悲しい魂は今、春の野原に黄色い菜の花として群れをなして咲いている。喊声のように一斉に咲いた菜の花を見ながら、私たちは南北分断の単独政府を反対し、統一国家を叫んだ70年前の喊声を聞いている」
「4.3の英霊たちは私たちに『哀悼だけに、4.3の悲しみだけにとどまるな』、『4.3の悲しい経験が生産的な動力になるようにせよ』、『その犠牲を無駄なものにするな』と語りかけている」
「3万という莫大な死は私たちに『人間とはいったい何で、国家とはいったい何であるか』を深く考えさせる。死ではなく生命を、戦争ではない平和を教えてくれている。4.3の魂たちは朝鮮半島の南北間に憎悪の言葉と身振りを止め、和解と相生、平和の道に進むよう、私たちの背中を押している」
 そして犠牲者たちに「朝鮮半島に平和が訪れるよう力を貸してほしい」と呼びかけました。

 4日、小説の舞台となった「北村里」を訪れました。

  朝天面北村里 (プクチョンリ) の国民学校と順伊 (スニ) おばさんの記念碑を巡る。
  49年1月17日の北村里は冷たい風が切りつけていた。
  部落の者たちは軍人たちの命令で国民学校に集められ、
  無差別に銃を撃ちまくられ、300人が虐殺された。
  北村里は 「無男村」 と呼ばれ家門が絶えた家も多い。
  しかし掠り傷1つ負わなかった順伊 (スニ) おばさん。

  順伊 (スニ) おばさんは、警察に夫の行方を白状しろと拷問を受けた。
  殻竿で頭が割れるまで殴打された。
  その恐怖の体験は、いつもいつも怯えさせる。
  軍人、巡警の影に怯えてしまう。
  神経衰弱は、幻聴症状を伴い、極端な潔癖症になった。
  苦痛は、
  56才の生涯に耕し続けた畑で、
  かつて銃が撃ちまくられた畑で、
  自の命を絶たせた。

 「怖かった」 と事実を、心象を誰にも語れなかった順伊 (スニ) おばさんは生涯、心傷性ストレス障害・PTSDから解放されることはありませんでした。


 式典には、大統領としては12年ぶりの参加となる文在寅(ムン・ジェイン)大統領が参加しました。文在寅大統領の「4・3犠牲者追念日 追念辞」です。

 4.3生存犠牲者とご遺族の皆さん、済州島民の皆さん、
 石垣ひとつ、落ちた椿の花ひとつ、痛哭の歳月を受け止めた済州で
 「この地に春はあるのか?」と皆さんは70年間、尋ね続けてきました。
 私は今日、皆さんに済州の春を知らせたく思います。
 悲劇は長く、風が吹くだけで涙が出るほど悲しみは深かったですが
 菜の花のように満開に済州の春は咲きほこるでしょう。
 皆さんが4.3を忘れずに
 皆さんと共に、痛みを分かち合った方たちがいたからこそ、
 今日、私たちは沈黙の歳月を乗り越えこのように集まることができました。
 渾身の力を振り絞り、4.3の痛恨と苦痛、真実を知らせてきた
 生存犠牲者とご遺族、済州島民の方たちに
 大統領として深い慰労と感謝の言葉を捧げます。
 尊敬する済州島民の皆さん、国民の皆さん、
 70年前、ここ済州で無辜の良民たちが理念の名前で犠牲になりました。
 理念というものを知らなくとも
 泥棒がいない、乞食がいない、門も無く共に幸せだった罪のない良民たちが
 訳も分からないまま虐殺に遭いました。
 1948年11月17日、済州島に戒厳令が宣布され、
 中山間(山のふもと)の村を中心に「焦土化作戦」が展開されました。
 家族のうち、一人でもいなければ「逃避者家族」という理由で殺されました。
 中山間の村の95%以上が焼けて無くなり村の住民全体が虐殺された所もあります。
 1947年から54年まで
 当時、済州の人口の10分の1、3万人が亡くなったと推定されます。
 理念が分けた生と死の境界線は虐殺の場だけにあったのではありません。
 一度に家族を亡くしても「暴徒の家族」という言葉を聞きたくないがために
 息を殺して生きなければなりませんでした。
 苦痛は連座制として次世代に受け継がれもしました。
 軍人になり、公務員になり、国のために働こうとする子どもたちの熱望を
 済州の父母たちは自らの手で折らなければなりませんでした。
 4.3は済州のあらゆる場所に染み込んでいる苦痛ですが、
 済州は生き残るために記憶を消さなければならない島になりました。
 しかし、言葉にできない歳月のあいだ
 済州島民たちの心の中から真実は消え去りませんでした。
 4.3を歴史の場に正しく打ち立てるための涙ぐましい努力も
 途絶えることはありませんでした。
 1960年4月27日、観徳亭の広場で、
 「忘れろ、じっとしていろ」と強要する不義の権力に立ち向かい
 済州の青年学生たちが立ち上がりました。
 済州の中学高校生1500人が
 3.15不正選挙の糾弾とともに、4.3の現実を叫びました。
 その年、4月の春はいくらも経たずに
 5.16軍部の勢力に捻じ曲げられましたが
 真実を知らせようとする勇気は消え去りませんでした。
 数多くの4.3団体たちが
 記憶の外にあった4.3を絶え間なく呼び起こしました。
 済州4.3研究所、済州4.3道民連帯、済州民芸総など
 多くの団体が4.3を抱き続けました。
 4.3を記憶することが禁忌であり語ること自体が不穏に見られた時節、
 4.3の苦痛を作品に刻み込み
 忘却から私たちを呼び覚ました方たちもいました。
 維新独裁の頂点であった1978年に発表した、
 小説家、玄基栄(ヒョン・ギヨン)の「順伊おばさん」
 金石範(キム・ソクボム)作家の「鴉の死」と「火山島」、
 イ・サナ詩人の長編叙事詩、「ハルラ山」
 3年間、50編の「4.3連作」を完成させた
 カン・ヨベ画伯の「椿の花が散った」
 4.3を扱ったはじめてのドキュメンタリ−映画
 チョ・ソンボン監督の「レッドハント」
 オ・ミョル監督の映画「チスル」
 イム・フンスン監督の「悲念」とキム・ドンマン監督の「タランシ窟の悲しい歌」
 故キム・ギョンユル監督の「終わらない歳月」
 歌手アン・チファンの歌「眠らない南道」
 時には逮捕と投獄につながった芸術家たちの努力は
 4.3がただ過去の不幸な事件ではなく
 今を生きる私たちの話であることを知らせてくれました。

 ついに私たちは4.3の真実と記憶を、明らかにすることが
 民主主義と平和、人権の道を開く課程であることを知りました。
 済州島民と共に長いあいだ4.3の痛みを
 記憶し知らせてくれた方たちがいたからこそ、4.3は起き上がりました。
 国家の暴力が起こしたあらゆる苦痛と努力に対し
 大統領として、もう一度深く謝罪し、また、深く感謝いたします。
 4.3生存犠牲者と遺家族の皆さん、国民の皆さん、
 民主主義の勝利が真実に進む道を開きました。
 2000年、金大中政府は4.3真相究明特別法を制定し、
 4.3委員会を作りました。
 盧武鉉大統領は大統領としてはじめて4.3に対する国家の責任を認め、
 慰霊祭に参席し、犠牲者と遺族、済州島民に謝罪しました。
 私は今日、その土台の上に4.3の完全な解決を目指し
 揺らぎなく進むことを約束します。
 これ以上4.3の真相究明と名誉回復が
 中断したり、後退することは無いでしょう。
 それと共に4.3の真実はどんな勢力も否定することのできない
 明らかな歴史の事実として、位置付けられたことを宣言します。
 国家権力が加えた暴力の真実をきちんと明らかにし
 犠牲となった方たちの怒りを解き名著を回復するようにします。
 このために遺骸の発掘事業も悔いが残らないよう
 最後まで続けて行きます。
 遺族たちと生存犠牲者たちの傷と痛みを治癒するための
 政府としての措置に最善を尽くす反面、
 賠償・補償と国家トラウマセンターの建設など立法が必要な事項は
 国会と積極的に協議いたします。
 4.3の完全な解決こそが済州島民と国民の皆が望む
 和解と統合、平和と人権の確固とした土台になるでしょう。
 済州島民の皆さん、国民の皆さん、
 今、済州島はその全ての痛みを乗り越え
 平和と生命の地として復活しています。
 私たちは今日、4.3の英霊たちの前で平和と相生は理念ではない、
 ただ真実の上だけで正しく立つことできるという事実を
 ふたたび確認しています。
 左と右の激烈な対立が残酷な歴史の悲劇を生みましたが
 4.3犠牲者たちと済州島民たちは
 理念が作り出した不信と憎悪を乗り越えました。
 故オ・チャンギさんは、4.3当時、軍警により銃傷を受けましたが
 朝鮮戦争が起きるや「海兵隊3期」に志願入隊し
 仁川上陸作戦に参戦しました。
 妻と父母、義母と義妹をすべて失った故キム・テセンさんは
 愛国の血書をしたため軍隊に志願しました。
 4.3で「アカ」とされた青年たちが死を覚悟し祖国を守りました。
 理念はただ、虐殺を正当化する名分に過ぎませんでした。
 済州島民たちは和解と容赦で理念が作り出した悲劇を勝ち抜きました。
 済州のハギ里では護国英霊碑と4.3犠牲者の慰霊碑を一箇所に集め
 慰霊壇を作りあげました。
 「皆が犠牲者であるから、皆を容赦するという気持ち」で碑を建てました。
 2013年には最も葛藤が深かった4.3遺族会と済州警友会が
 条件無しの和解を宣言しました。
 済州島民が始めた和解の手は
 これからは全ての国民のものにならなければなりません。
 私は今日この場所で、国民の皆さんに呼びかけたいです。
 未だに4.3の真実を無視する人々がいます。
 未だに古い理念の屈折した目で4.3を眺める人々がいます。
 未だに韓国の古い理念が作り出した憎悪と敵対の言葉が溢れています。
 もう私たちは痛みの歴史を直視できなければなりません。
 不幸な歴史を直視することは
 国と国のあいだでだけ必要なことではありません。
 私たち自らも4.3を直視できなければなりません。
 古い理念の枠に考えを閉じ込めることから逃れなければなりません。

 これからの韓国は
 正義にかなった保守と、正義にかなった進歩が
 「正義」で競争する国にならなければなりません。
 公正な保守と公正な進歩が「公正」で評価される時代でなければなりません。
 正義にかなわず、公正で無いならば、保守であろうと進歩であろうと、
 どんな旗でも国民のためになることはできないでしょう。
 生活のあらゆる場から理念が投げかけた敵対の影を取り除き
 人間の尊厳を咲かせられるように、皆が共に努力していきましょう。
 それが今日、済州の山々が私たちに聞かせてくれるお話です。
 4.3生存犠牲者とご遺族の皆さん、国民の皆さん、
 4.3の真相究明は地域を越え
 不幸な過去を反省し、人類の普遍価値を取り戻すことです。
 4.3の名誉回復は和解と相生、平和と人権に向かう
 私たちの未来です。
 済州は深い傷跡の中でも
 過去70年間、平和と人権の価値を叫んできました。
 これからその価値は、朝鮮半島の平和と共存につながり、
 人類全体に向かう平和のメッセージとして伝わることでしょう。
 恒久的な平和と人権に向かう4.3の熱望は決して眠ることはないでしょう。
 それは大統領である私に与えられた歴史的な責務でもあります。
 今日の追念式が4.3の英霊たちと犠牲者たちに慰安となり、
 わが国民たちにとっては新しい歴史の出発点になることを願います。
 皆さん、
 「済州に春が来ています」
 ありがとうございます。
            2018年4月3日
            大韓民国大統領 文在寅


 これ以上付け加えることはありません。

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「働き方改革」 で労働生産性は向上しない
2018/04/17(Tue)
 4月17日 (火)

 安倍政権は何かにつけ、2012年にアベノミクスが始まってから雇用は100万人以上増えたと豪語します。しかしその中身について触れることはありません。
 具体的にはどうなのでしょうか。
 内閣府の国民経済計算年次推計によると、確かに安倍政権が発足した12年から16年までに就業者は168万人増えました。内訳は、94%は65歳以上で、82%は女性でした。
 168万人の内訳は、介護事業などの保健衛生・社会事業が年間20万人以上のペースで急増して約100万人。次に事務代行などの業務支援サービス業76万人、宿泊・飲食サービス業12万人です。賃金水準が低い介護などのサービス業に集中しています。

 その結果、総務省が1月30日に発表した労働力調査によると、これまでは女性の労働参加率は、縦軸を就労率、横軸を年齢とする表を作成すると 「M字」 が描かれましたが、「逆U」 になっています。今はMの谷間の30代の落ち込みが緩やかになり、40代以降の労働参加率も軒並み上昇しています。中高年で主婦パートとして働き始める人が増え、17年の女性の労働力人口は前年から45万人増えて2937万人。60~64歳の労働参加率は54.9%と過去最高でした。
 男女雇用機会均等法が施行された1986年には、結婚・出産期にあたる年代の労働参加率が落ち込み、育児が落ち着いた時期に再び上昇するM字カーブを描き、その後も続いていました。M字カーブを描いていたのは他には韓国があります。共通していたのは男性労働者の長時間労働と女性労働者の低賃金です。
 労働力人口を10年前と比べると、65歳以上が125万人増、次いで45~49歳が79万人増でした。少子化で25~29歳は39万人減、30~34歳は34万人減少でした。

 一方、国民経済計算年次推計では製造業は28万人、建設業は約4万人、情報通信機器約2万人、電子部品・デバイス2万人減少しています。
 労働者1人ひとりが就労1時間当たりどれだけの付加価値を生み出しているかをはかる指標の労働生産性 をみると、労働生産性が高い製造業が構造調整で人手を減らしています。裁量労働制など隠された労働時間の実態をみると実際の労働生産性はどれほど高くなっているのかはわかりません。
 一方、生産性が低いサービス業に労働力が集まっている状況が浮き彫りになっています。 サービス業は労働力不足がいわれている中にあっても手取り収入は増えず、労働の質は高まっていません。労働生産性は、介護などの分野は12年~16年に3.8%、業務支援サービス業9.5%、宿泊・飲食サービス業3.1%低下しました。
 賃金水準も。厚生労働省の賃金構造基本統計から年収を推計すると、製造業の平均503万円に対し、宿泊・飲食業は349万円、介護は348万円にとどまっています。12年からの年収の伸び率は製造業の3.6%に対し、介護はわずか0.4%増です。

 雇用の流動化がいわれています。以前と違い、現在の企業は自社で労働者の教育・育成を行いません。経済協力開発機構 (OECD) によると、日本は25~64歳で教育機関で教育を受けている労働者の割合は2.4%で10%超のOECD平均に遠く及びません。長時間労働と低賃金のなかでその機会を作ることは困難ですが、企業も景気動向にあわせた “使い捨て” を行うなど長期雇用を望んでいません。企業は社会的責任を担おうとしていません。


 1956年から72年までの高度経済成長期に、就業者は955万人増え、その約6割を生産性が高い製造業が占めていました。
 1947年から49年は第一次ベビーブームで、49年の出生数は269万人でした。彼らが労働者となって納税の義務を果たし、社会の中枢を支えていたころは福祉政策も充実していきました。「国民の8割が中流意識」 の社会を作りだしました。この頃はお互いの助け合い思いやりも意識されていました。
 その後、71年から74年は第二次ベビーブームを迎え、73年の出生数は209万人でした。しかしその後出生数は増加することなく下降を続け、現在は100万人を切る事態になっています。

 2013年1月12日の 「活動報告」 の再録です。
 社会保障問題についての湯浅誠さんの講演です。
 湯浅さんは、高度経済成長期の 「3つの傘がしぼむと、雨に濡れる人が増える」 という図を示しました。
 いちばん上の傘は国、2番目は企業、3番目は正社員の傘です。
 国は、企業に様々な助成金と税制度の優遇などをする一方、子育て・家族の扶養、住宅問題は企業・個人に委ねました。本来の国の責務である社会保障の多くを企業が担いました。
 企業は、男性正社員に扶養家族手当を支払います。妻を働かせないで子育てに専念させる代わりに夫に長時間労働 (2人分の労働) を強いました。そして社宅保障や住宅ローンの支援をしました。さらに福利厚生施設まで提供しました。だから正社員は企業に忠誠を誓います。そして子供のために教育費を蓄えます。しかしゆとりはありません。ローンに縛られ、企業の傘から追い出されると家族全員の衣食住が奪われる恐れがあります。
 妻は労働を奪われていました。働く場合は家計補助の理由で低賃金のパート、アルバイトなどでした。その収入には課税免除額が設定されました。
 その一方、傘から追い出された非正規労働者、母子家庭の女性労働者や日雇い労働者は、国や企業が正社員に行っていた保障を受けられずに生活を維持していかなければなりませんでした。子育てをしながらワーキングプアに追いやられました。
 親の経済格差が子供の教育格差を生み出しています。

 バブルがはじけるとそれぞれの傘が閉じられます。貧困は傘の外に追い出された人たちを襲います。
 男性非正規労働者が増大しました。男性は 「社縁」 が切れると 「地縁」 も切れます。そうなると 「血縁」 も切れることになったりします。互助組織から排除され、その結果が自殺に至ったりします。
 格差社会は、会社でも、地域でも 「隣りに人がいなくなる」 状況を作り出します。
 貧困問題は、隣りの人に思いを寄せる、その関係性を作っていく中から社会全体の問題として捉えかえして解決していく必要があります。


 本来なら2000年頃に第三次ベビーブームを迎えることが予想されましたが、2000年の出生数は130万人でした。
 2000年頃は、まさにバブル経済は崩壊したあとで、リストラの言葉が躍っていました。それに拍車をかけたのが行政改革、規制緩和です。その結果、非正規労働者が増加していきます。
 出生率は2003年には最低の1.26を記録しました。しかし政府は、晩婚化が進んでいるなどといって問題の本質を視ようとしませんでした。
 OECDが作成した2010年の各国の出生率をみると最低は韓国で1.2、続いて日本、イタリア、ドイツ、スペインが1.4前後です。この数字をもう1つの軸・女性就業率からみるとイタリア58%、韓国60%、スペイン63%、日本68%、ドイツ76%です。全体として出生率が低い国は女性就業率も低いです。そこからは女性労働者の働きづらさが浮かび上がってきます。繰り返しますがその裏には男性労働者の過酷な労働があります。
 それらは国家収入に大きな影響をおよぼしています。あわせて第一次ベビーブームの人たちの医療・介護等の問題が押し寄せてきています。

 バブル崩壊は、大量の失業者を生みだしました。しかしこれに対する政府の対応はさまざまな分野での規制緩和の推進でした。「ワーキングシエア」 などがいわれましたが実行には移されませんでした。社会に 「勝ち組」 と 「負け組」 を登場させ、さらにその 「格差」 は拡大しました。それでも政府は 「負け組」 に対して自己責任論を押しつけました。非正規労働者だった者たちは起ちあがるすべがありませんでした。 第三次ベビーブームが到来する条件は存在しませんでした。 
 このなかで政府が進めた政策が医療・介護等の社会保障の削減です。高齢になって自己責任、自助努力を強制されるなら国家が存在する意味はありません。


 フランスの社会学者セルジュ・ポーガムは時代や社会によって異なる貧困の 「かたち」 を分析するための枠組みを提唱しました。枠組みは 「統合された貧困」 「マージナルな貧困」 「降格する貧困」 という3つの基本的な貧困の形態です。
「『統合された貧困』 は、経済発展があまり進んでおらず、大部分の人びとが貧しいが、家族や地域の強い紐帯があるような貧困を指す。『マージナルな貧困』 は、経済発展が進むとともに、雇用の最低所得保障の制度が用意された社会で、少数となった貧困者を 『社会的不適応者』 とみなしてコントロールするもので、貧困や貧困者への負のレッテル貼り (スティグマ) が強くなる。『降格する貧困』 とは、ポスト工業社会において、労働市場の不安定さが全般的に増大し、それが増す状況を指す。
 『降格する貧困』 は 『安定した困窮状態』 ではなく、私なりに言い換えれば、『不安定が深化するプロセス』 であるとも考えられる。たとえば失業が所得の低下を生み、それが住宅や健康状態の悪化を招き、家族との援助関係も希薄になったりして、しゃかいのあらゆる場面への参加が困難になる、また扶助制度を利用すれば、自分が社会に役立っていないような感情をいだくようになる、といった一連のプロセスを含んでいるとポーガムは述べている。
 このプロセスは、個人の 『社会的信用の失墜』 が深まっていくプロセスであり、『降格』 の意味もそこにある。しかも、このような 『降格する貧困』 のプロセスに巻き込まれるのではないか、という不安が社会全体に拡大しており、その中から社会的排除や孤独の増大が進むというわけである。『マージナルな貧困』 に比べて、『転落』 の可能性が拡大しており、これに対する制度対応が必ずしも十分でないところに、両者の違いがある。」(岩田正美著 『貧困の戦後史 貧困の 「かたち」 はどう変わったか』 筑摩選書)
「『失われた20年』 に出現した日本の多様な貧困の 『かたち』 は、『降格する貧困』 で説明できる。非正規雇用の若者の増大、生活保護を利用する単身高齢者のとめどもない拡大、相対所得貧困率の高さなどは、『不安定が深化するプロセス』 の新たな始まりとして受け止められた。」(岩田正美著 『貧困の戦後史』)

「内閣府は2010年に『生活困難を抱える男女に関する検討会報告j』を発表しているが、その委員を務めた阿部彩は2007年の国民生活基礎調査データを用いて、性別や年齢別に相対的所得貧困率を算定している。これによれば、もっとも貧困率が高いのは、母子世帯の母親、母子世帯の子どもで、以下、女性高齢単身世帯、男子高齢単身世帯、働ける年齢の女性単身世帯、男性単身世帯の順になっている。つまり、子どもだけでなく、女性、単身者に貧困が集中しやすいことが示された。」(岩田正美著 『貧困の戦後史』)
 その結果として
「第一次(2003年)から第六次(2010年)までの虐待死ケースの検証結果を見ると、年齢は0歳児が多く、第一次から第四次までの合計の約四割を占めていた。これが第五次検証では約五割となり、第六次検証では約六割に上昇している(心中ケースは除く)。〇歳児の月齢は〇カ月が最も多く、第一次から第四次までは約4割であったが、第5次検証では約5割、第6次検証では6割を超え、これも増加している。」(岩田正美著 『貧困の戦後史』)
 このよう深刻な問題の分析と対策はもっと早くからとられなければなりませんでした。

 
 労働力不足がいちじるしい介護業界で合理化を進めるのは限界があります。実際に介護業界を支えているのは、低賃金の非正規労働者のフル稼働と “奉仕” の精神を強制したサービス残業などを含めた過重労働です。その結果、就業数も増えていますが、労災などを含めて離職率が高くなっています。
 介護労働者の処遇を改善するには、利用者の負担を大きくするか、公的支援の増額に頼るしか方法はありません。しかし利用者の負担増は排除を作りだします。

 日本生産性本部の「日本日の生産性の動向 2014年版」によると、OECD加盟国34カ国のなかの日本の労働生産性は20位です。1990年代後半から主要先進7カ国中最下位を維持しています。
 この4月6日、産業別の労働生産性について、欧米4カ国と比較、分析した結果を公表しました。
 米国の生産性水準を100とした場合、サービス業の平均は50.7%でした。このうち 「宿泊・飲食」 38.8、「卸売り・小売り」 31.5%でした。製造業の平均は67.4%でした。ドイツと比べても88.7%でした。
 この数値を改善させようとするのが 「働き方改革」 です。その方法はさらなる過重労働と数値のごまかしによってです。
 労働時間が長いと生産性は上がるということではありません。
 離職率が高い産業は、生産性も低いです。そこには理由があり悪循環になっています。例えば、「お客様は神様です」 の意識を強制し、「第三者からの暴力」 を容認するサービス業の職場では生産性は上がりません。
 労働者の人権・尊厳を大事にする職場に変えていたら生産性は確実に上がります。


 日本の政府はどの方向からも対策を取ろうとしません。悪循環の連鎖を断ち切ろうとしません。
 富める者だけが社会保障を享受できる社会から、産業構造を見直すなかから労働者が誇りをもって働ける状況を作り出し、共同体の力を強化をはかりながら、社会保障の負担についても連帯・共助の精神で負担する方向に転換しないと、この深刻な状況から脱出でず、実質労働生産性は低下し、経済の発展もありえません。

 「活動報告」 2013.1.12
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「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会報告書」 Ⅱ
2018/04/13(Fri)

 4月13日(金)

 「検討会」 の目的の1つが職場のパワーハラスメント防止を強化するための方策です。
 現在の職場のパワーハラスメントの防止対策は、「提言」 を周知・情報提供することにより、企業等における自主的な取組を促しています。現状よりも実効性の高い取組を進めるために、5つの規定の創設や施策の実施とそれぞれの具体的内容が示されました。
 ①行為者の刑事責任、民事責任 (刑事罰、不法行為)
 ②事業主に対する損害賠償請求の根拠の規定 (民事効)
 ③事業主に対する措置義務
 ④事業主による一定の対応措置をガイドラインで明示
 ⑤ 社会機運の醸成
 5つについてもう少し詳しく述べると
 ① 行為者の刑事責任、民事責任 (刑事罰、不法行為)
 パワーハラスメントが違法であることを法律上で明確化し、これを行った者に対して、刑事罰による制裁や、被害者による加害者に対する損害賠償請求の対応です。
 検討会においては、すぐに実現すべきという意見は示されませんでした。
 ② 事業主に対する損害賠償請求の根拠の規定 (民事効)
 事業主は職場のパワーハラスメントを防止するよう配慮する旨を法律に規定し、その不作為が民事訴訟、労働審判の対象になることを明確化することで、パワーハラスメントを受けた者の救済を図る対応です。
 ③ 事業主に対する措置義務
 セクシュアルハラスメント対策やマタニティーハラスメント対策の例を参考に、事業主に対し、職場のパワーハラスメント防止等のための雇用管理上の措置を義務付け、違反があった場合の行政機関による指導等について法律に規定することで、個々の職場において、職場のパワーハラスメントが生じない労働者が就業しやすい職場環境の整備を図る対応です。
 セクシュアルハラスメントについては、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律により、対価型セクシュアルハラスメントや環境型セクシュアルハラスメントのないよう、事業主に雇用管理上必要な措置を講ずることを義務付けています。その上で、措置義務の具体的な内容について、「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」 で規定しています。
 忘れてならないのは、環境型セクシュアルハラスメントとは、個人ではなく職場全体だということです。そして、LGBTへのハラスメントに対しても援用されようとしています。
 マタニティハラスメントにつては、均等法及び育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律によって労働者の就業環境が害されることのないよう、 事業主に雇用管理上必要な措置を講ずることを義務付けています。
 その上で、措置義務の具体的な内容については、「事業主が職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置 についての指針」 及び 「子の養育又 は家族の介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置に関する指針」 で規定されています。
 これらの措置義務は定着して運用され、かなりの効果を上げています。

 この例に倣えば、対象となる行為の具体例やそれに対して事業主が講ずべき雇用管理上の措置は、指針において明確化することとなります。
 ①や②の対応策案に比べると現実的であり、この対応策案を支持する意見が多く示され、検討会では多数を占めました。「報告書」 に盛り込む防止策の方向性としては現実的方策として実効性があると連想され、期待されました。
 ④ 事業主による一定の対応措置をガイドラインで明示
 職場のパワーハラスメント防止等のための雇用管理上の一定の対応を講ずることをガイドラインにより働きかけることで、個々の職場 において、職場のパワーハラスメントが生じない労働者が就業しやすい職場環境の整備を図る対応です。
 一方、行為者に対する制裁としての効力が弱く、行政等による強制力も弱いことから取組が進まない懸念があることがデメリットとして指摘されました。
 使用者側委員は、最後まで➃に固執しました。
 ⑤ 社会機運の醸成
 職場のパワーハラスメントは、労働者のメンタルヘルス不調や人命にも関わる重大な問題であることや、職場全体の生産性や意欲の低下やグローバル人材確保の阻害となりかねず経営的にも大きな損失であることについて、広く事業主に理解してもらい、防止対策に対する社会全体の機運の醸成を図る対応です。


 これらを踏まえて、事業主が講ずる対応策として考えられるものが検討されましたが 「提言」 からの大きな変更はありませんでした。
 ただ、職場のパワーハラスメントの発生の要因として、パワーハラスメントの行為者及び被害者となる労働者個人の問題、つまり個人的要因によるものと、職場環境の問題によるものとが一緒のものではなく平行に述べられています。
 また、使用者側・労働者側委員双方から防止策を進めるときの難しさの理由として中小企業においては実態把握や事後対応に難しさがあり、単独で取り組むことの困難さと支援の必要性が提起されました。
 その対策の1つとして、都道府県労働局において個別労働紛争解決促進法に基づき労使双方からの相談に応じていることや、都道府県労働局長による助言・指導及び紛争調整委員会によるあっせんのほか、都道府県労働委員会等におけるあっせん等中立な第三者機関に紛争処理を委ねることができる制度があることを周知し、利用を促すことがあげられました。
 確かに実態調査の結果によれば、パワーハラスメントの予防・解決に向けた取組の実施率は、企業規模が小さくなると相対的に低くなっている結果があります。
 先に述べたように、職場環境と生産性はリンクすることを自覚した企業は 「提言」 に関係なく自主的に取り組みを進めてきています。その結果、職場のパワーハラスメント予防対策の取り組みには企業の規模に関わらず、大きな 「格差」 が出てきている現実があります。
 職場内の “人間関係” は企業の大小に関係ありません。中小企業における対応が難しい、対応が遅れているといたずらに主張することは、職場のパワーハラスメントの発生を職場環境のからの要因追及を放棄して個人的要因によるものと断定し、企業の本来必要な取り組みの遅さを免罪することになりかねません。
 職場内での解決を放棄し、第三者に判断を仰ぐということは、本質的解決に至らず、労使関係に禍根を残します。


 「報告書」 は、最後に顧客や取引先からの著しい迷惑行為について述べています。
 第1回は委員全員が意見を述べました。UAゼンセン日本介護クラフトユニオンの委員は
「現場ではパワハラだろうがセクハラだろうが、嫌なこと、困ったことなどいろいろな相談がくるのですが、その中には実は、特に流通とか介護の現場では多いのですが、顧客であるとか、利用者家族からのハラスメントも実は無視できない状態です。……相談を受ける側としては、やはり労働者を守るという意味では無視できない実態が実はあるのだということです。……これまでの取組の延長線上で現状を変えられるかということを考えますと、一定程度存在するパワハラ防止対策が進まない企業を、もう少しこの検討会では、今後の法整備に向けた、これまでよりもステップアップした対応についての議論が必要ではないかと考えております。」
 さらにその後の検討会には資料として医療機関や鉄道におけるいわゆる 「第三者からの暴力」 についての資料が提出されました。
 社会全体にとって重要な問題であり、何らかの対応を考えるべきという意見が示された一方で、議論の方向性としては、「提言」 の 「同じ職場で働く者に対して」 が踏襲され、さらに検討会では職場のハラスメントとの違いがクローズアップされ、取り上げない理由付けが縷々述べられました。消費者問題や経営上の問題として対応すべき性格のものであり、労働問題としてとらえるべきなのか疑問であるため、職場のパワーハラスメントについては職場内の人間関係において発生するものに限るべきとの意見が示されました。そして、
「こうした意見を踏まえれば、個別の労使のみならず業種や職種別の団体や労働組合、関係省庁 (厚生労働省、経済産業省、国土交通省、消費者庁等) が連携して周知、啓発などを行っていくことが重要であると考えられる。 ただし、顧客や取引先からの著しい迷惑行為については、業種や職種ごとに態様や状況に個別性が高いことも事実であることから、今後本格的な対応を進めていくためには、関係者の協力の下、更なる実態把握を行った上で、具体的な議論を深めていくことが必要であると考えられる。」
とまとめられました。

 
 「第三者からの暴力」 については、検討会外で問題提起がおこなわれました。
 昨年11月16日、UAゼンセン流通部門は 「悪質クレーム対策 (迷惑行為) アンケート調査結果 ~サービスする側、受ける側が共に尊重される社会をめざして~」 の速報版を公表しました。
 そこには現在、悪質クレームの定義が存在しない、判断が困難という問題があります。
「クレームの対応の難しさは、悪質クレームの明確な基準がないことがあげられる。……実際には厳格な対応が難しい環境にある。そのことが企業の対応に差異がうまれ、対応の難しさにつながっていることは否めない。一方、企業が自主的に判断基準を設定することは差し支えなく、悪質なクレームに対しては毅然とした対応をするための基準の策定には大きな効果を望める。一企業ではなく、業界全体としての基準作りをしていくことでより効果も大きくなっていく。」
 12月21日、連合は、全国の15歳~69歳の男女2,000名 (一般消費者 (接客業務に従事していない人) 1,000名、接客業務従事者1,000名) の有効サンプルを集計し 「消費者行動に関する実態調査」 結果を発表しました。
 接客業務従事者に、勤務先で、消費者の迷惑行為に関するマニュアル作成や教育などが実施されているかどうかを聞きました。
 「実施されている」 が42.9%、「実施されていない」 が57.1%です。
 業種別にみると、実施率が高いのは、「公務」 67.6%、「金融・保険」 59.5%です。続けて 「運輸・郵便」 45.2%、「生活関連サービス・娯楽」 43.4%、「医療・福祉」 42.9%、「情報通信」 41.3%の順です。
 「公務」 は、いずれかの迷惑行為を受けたことがある人の割合が高いですが、それが対応方法にもつながっているのでしょうか。
 しかし、検討会の途中でUAゼンセンの委員の主張はトーンダウンしてしまいました。


 労働者の人権、人格・尊厳は職業によって異なりません。会社によって違いはありありません。そして労働者が消費者や住民の立場になったときにも、相手の労働者の人権、人格・尊厳は尊重しなければなりません。
 ストレスは重層的格差社会が創り出しています。その構造の中で、ストレスを誰かにぶつけることで解消する連鎖をよんでいます。被害は労働者の自己を破壊させます。そして加害者の正義感をも破壊させます。
 お互いが尊重しあうなかから理解・共感が生まれ、さらに共生が生まれています。

 現在、いわゆる先進国において、職場のいじめについて、職場内と外からとで対応が異なり、「第三者」 からの暴力について法律や通達、指針等から排除し、対処していないのは日本だけと思われます。
 2003年、ILOは 「サービス業における職場暴力及びこの現象を克服する対策についての実施基準案」 を発表しています。これと比べるとはるかに対応が遅れています。

 海外における進んでいる取り組みの例としては韓国があります。
 韓国では職場の暴力を 「感情労働」 ととらえています。労働者の労働条件、処遇、健康、労働安全衛生は労働組合が使用者や関係団体に要求しながらキャンペーンなどが展開され、さらに労働安全衛生関係の研究所や学者、議員などが連帯して社会環境を変えていっています。さらに地域住民や利用者の共感を得て共同の闘いを組んでいます。
 例えば、2013年6月、安全保健公団とデパート業界は、「感情労働者健康保護の業務協約」 を締結しました。これにより公団は感情労働に伴う職務ストレスを予防するための 「自己保護マニュアル」 を開発・普及させ、各デパートは協力会社と一緒に共同の安全保健プログラムを運営することに同意し、公団と各業者は「安全誓約運動」共同キャンペーンを展開しました。主張は 「顧客が王様なら、従業員も王様だ」 です。
 フォーラムなども頻繁に開催されています。その中では 「感情労働をするテレマーケッターの場合には電話を先に切る権利を与え、無理な要求をする顧客には一方的に謝らない権利を与えなければならない」 と呼びかけられました。
 女性団体はデパートの前で 「デパートには人がいます」 と書かれたビラを配布し、△デパート労働者に丁寧語を使い△返品・払い戻し規定をよく熟知して不合理な要求をせず△会計をする時にはカードや紙幣を放り投げず△不必要なスキンシップや言語セクハラをしない、などを守ろうと呼びかけました。
 メーデーの日、コーヒーショップで働く労働者は、利用した労働者に 「感情労働者の苦衷、ちょっとだけ考えて見てください」 のチラシを配り連帯していきました。
 感情労働者を守るのは事業主 (元請事業主) の責任です。予防と対応をとらなければなりません。ソウル市は、2016年 「ソウル特別市感情労働従事者の権利保護などに関する条例」 を制定し2017年から施行されました。具体的には、ソウル市に感情労働者の勤労環境改善計画の樹立を義務付けています。

 ストレスは重層的格差社会が創り出しています。その構造の中で、ストレスを誰かにぶつけることで解消する行為は連鎖を呼びます。感情労働の被害は労働者の自己を破壊させます。そして加害者の正義感をも破壊させます。
 それぞれ立場は違っても、みな消費者であって労働者です。お互いが主張し合う中から理解し合って共感が生まれ、さらに共生が生まれています。
 日本においても、韓国の取り組みをまねながら労働者の人権と尊厳を守るための取り組みに着手することが必要です。


 検討会は、職場のパワーハラスメント防止対策を進めるために、事業主に対する措置義務を中心に検討を進めることが望ましいという意見に集約される様子が見られました。
 しかし使用者側委員は、ガイドラインに固執して最後まで反対し、譲りませんでした。多くの委員会等では、最後のまとめは 「座長一任」 ということが多くありますがそうにはなりませんでした。

 現在、政府は 「働き方改革」 の法制化を目指しています。しかし同じ政府の働き方改革実現会議が決定した 「働き方改革実行計画」 に盛り込まれていた 「職場のパワーハラスメント防止を強化するため」 の政策は法制化には至りませんでした。
 「働き方改革」 の 「高プロ」 は 「過労死促進法」 と呼ばれています。法制化を固執する 「高プロ」 は企業の生産性向上のなかで労働者は 「自己責任」 が問われます。

 「報告書」 は 「はじめに」 で
「職場のパワーハラスメントは、相手の尊厳や人格を傷つける許されない行為であるとともに、職場環境を悪化させるものである。こうした問題を放置すれば、人は仕事への意欲や自信を失い、時には心身の健康や命すら危険にさらされる場合があり、職場のパワーハラスメントはなくしていかなければならない。
 また、企業にとっても、職場のパワーハラスメントは、職場全体の生産性や意欲の低下など周りの人への影響や、企業イメージの悪化などを通じて経営上大きな損失につながるものである。」
とあり、労働者と企業双方に悪影響がおよぶことからの克服を目指そうとしています。
 しかし 「報告書」 を貫いているのは、「提言」 と比べると厳密な検討ということでの定義の枠の縮小、解釈等のゆとりの解消です。そして個人的問題・「自己責任」 が登場しました。「仕事への意欲や自信を失い、時には心身の健康や命すら危険にさらされる」 などは建前で、「職場全体の生産性や意欲の低下など周りの人への影響や、企業イメージの悪化などを通じて経営上大きな損失につながる」 の本音を 「防止」 させるための方策が盛り込まれたといえます。まさしく 「働かせ方改革」 の 「職場のパワーハラスメント防止対策」 版です。

 検討会が開催されている最中、さまざまな団体で職場のパワーハラスメント予防・防止の議論がおこなわれ、またさまざまなハラスメントの捉え返しが進みました。特に 「第三者からの暴力」 の被害を被る労働者の思いは切迫したものがありました。
 「報告書」はこの後、労働政策審議会に送られますが、検討会の報告を承認するだけで済ませるのではなく、労働現場の声を届け、反映させるための運動を展開し、「職場のパワーハラスメント予防・防止対策」の対案提起していく必要があります。
 そしてILOの議論においても討論が行われますが、日本政府の言いわけとねつ造を許さない世論を作り上げていく必要があります。
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「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会報告書」 Ⅰ
2018/04/10(Tue)
 4月10日 (火)

 3月30日、厚生労働省は 「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会報告書」 (報告書) を公表しました。検討会は、昨年3月28日に政府の働き方改革実現会議が決定した 「働き方改革実行計画」 に 「職場のパワーハラスメント防止を強化するため、政府は労使関係者を交えた場で対策の検討を行う」 と盛り込まれたことによるものです。検討会は、昨年5月から今年3月まで10回開催されました。


 職場のいじめ対策については、2012年3月15日に 「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議」 が 「職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言」 (「提言」) を発表しました。日本で初めての職場 (労働者) のいじめ問題への取り組みでした。タイトルに 「予防」 とあるように問題が発生する前から 「なくしていく」 取り組みからはじめることの重要性が語られています。「職場のパワーハラスメントは、相手の尊厳や人格を傷つける許されない行為であるとともに、職場環境を悪化させるものである」 からです。
 具体的には、職場の一人ひとりそれぞれの立場から取り組みとして、最初にトップマネジメントへの期待、続いて上司への期待、そして職場の一人ひとりへの期待、さらに政府や関係団体への期待が語られています。職場のパワーハラスメントは構造的に発生するという捉え方です。
 職場からパワーハラスメントをなくし、働く人の尊厳や人格が大切にされる社会を創っていくための第一歩として 「提言」 をもとに組織的に取り組み、そこで働く一人ひとりは自分たちの職場を見つめ直し、互いに話し合うことからはじめることを期待しています。
 そのうえで、職場のいじめ・パワーハラスメントの概念規定・定義を行い、続けて6つの 【職場のパワーハラスメントの行為類型】 を挙げています。
「職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。」
【職場のパワーハラスメントの行為類型 (典型的なものであり、すべてを網羅するものではないことに留意する必要がある)】
 ①暴行・傷害 (身体的な攻撃)
 ②脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言 (精神的な攻撃)
 ③隔離・仲間外し・無視 (人間関係からの切り離し)
 ④業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害 (過大な要求)
 ⑤業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を
  与えないこと (過小な要求)
 ⑥私的なことに過度に立ち入ること (個の侵害)
 【予防・解決に向けた労使の7つの取組】 として円卓会議のもとに開催された 「ワーキング・グループ」 の報告では、考えられる労使の取組について、既に対策に取り組んでいる企業・労働組合の主な取組の例を7つ紹介しています。
 ○ 職場のパワーハラスメントを予防するために ⅰ トップのメッセージ、ⅱ ルールを決める、
  ⅲ 実態を把握する、ⅳ 教育する、ⅴ 周知する
 ○ 職場のパワーハラスメントを解決するために ⅵ 相談や解決の場を設置する、ⅶ  再発を防止する
 要約すると 「提言」 の位置づけは、提言を周知・情報提供することにより、企業等における自主的な取組を促すことです。
 しかし 「提言」 は対策の範囲を 「同じ職場で働く者に対して」 と限定し、顧客からなどいわゆる 「第三者からの暴力」 と 「差別」 の問題は除外されています。


 「提言」 から7年が経ち、再検討が必要にもなっていました。
 「検討会」 の目的は (1) 職場のパワーハラスメントの実態や課題の把握、(2) 職場のパワーハラスメント防止を強化するための方策、などについての検討をおこなうことでした。名称が円卓会議の 「職場のパワーハラスメントの予防・解決」 から 「職場のパワーハラスメント防止」 に変わりました。このことからも議論の性格が違っています。「最初にトップマネジメントへの期待・・・」 の流れが消えました。
 検討会の結論としての 「報告書」 には職場のパワーハラスメント防止策が盛り込まれています。法律に禁止項目を盛り込む防止法制定、事業主に職場のパワーハラスメント防止等のための雇用管理上の措置を義務付け、基本法、事業主による一定の対応措置をガイドラインで明示などのいずれかになることが想定されていました。そのため、労働者側委員、使用者側委員の発言は 「かまえた」 ものとなり現状認識、どのような行為がパワーハラスメントに該当するかの判断、パワーハラスメントの定義などについてそれぞれの立場をふまえた主張を展開しました。「報告書」 から逆算した議論です。例えば、使用者側委員は、定義等は厳格、防止対象とする行為はできるだけ限定的、防止策は緩いものにという主張になり、労働者側委員はなるべく早くに実効性がある規制を主張します。
 結局、「報告書」 はそのようなことのまとめとして労働政策審議会と厚生労働省に下駄を預けるものになりました。


 「報告書」 を検討します。
 まず現状について述べています。
 都道府県労働局における職場のいじめ・嫌がらせに関する相談の状況から職場のパワーハラスメントは増加傾向にあるといいます。しかし必ずしもパワーハラスメントとは言えない事案もあるといいます。実際、労働局の相談内容分類はあいまいです。どれに該当させるか困難なときに人間関係・いじめ・嫌がらせに分類されることがあります。
 それよりも 「提言」 の発表後、職場で問題が発生したときに声があげやすくなったという効果があります。このことはもっと評価されていいことです。
 企業でいうならば、職場環境と生産性はリンクすることを自覚した企業は 「提言」 に関係なく自主的に取り組みを進めてきています。職場のパワーハラスメント予防対策の取り組みには企業の規模に関わらず、大きな 「格差」 が出てきている現実があります。
「必ずしもパワーハラスメントとは言えない事案もある」 は、使用者側・労働者側委員の 「どのような行為がパワーハラスメントに該当するかの判断、パワーハラスメントの定義などについての主張」 の相違からのものもあります。

 発生の要因については、行為者及び被害者となる労働者個人の問題によるものと、職場環境の問題によるものがあるとの意見が示されたと述べています。
「労働者個人の問題としては、パワーハラスメントの行為者については、感情をコントロールする能力やコミュニケーション能力の不足、精神論偏重や完璧主義等の固定的な価値観、世代間ギャップ等の多様性への理解の欠如等があるとの意見が示された。また、パワーハラスメントの受け手となる労働者についても、社会的ルールやマナーを欠いた言動が一部には見られることもあるのではないかとの意見が示された。
 また、職場環境の問題としては、労働者同士のコミュニケーションの希薄化やパワーハラスメントの行為者となる労働者に大きなプレッシャーやストレスをかける業績偏重の評価制度や長時間労働、不公平感を生み出す雇用形態、不適切な作業環境等が要因であるとの意見が示された。
 特に、労働者同士のコミュニケーションについては、例えば、非常に困難な業務を与えたとしても、その際に、当該業務をやり遂げることの意義について十分な説明をすれば、パワーハラスメントであると受け止められずにすむなど、パワーハラスメントの発生に関わる重要な要素であるという意見が多数示された。職場のパワーハラスメントを防止するためには、これらの要因を解消することも重要である。」
 文章構成において労働者個人が先にきて、職場環境の問題が後になっています。この構成は 「報告書」 の特徴で、職場のパワーハラスメントの捉え方からきています。「提言」 の 「職場の一人ひとりそれぞれの立場から取り組みとして、最初にトップマネジメントへの期待・・・職場のパワーハラスメントは構造的に発生するという捉え方」 とは違っています。職場のパワーハラスメントは構造的に発生するという捉え方が消え、労働者の 「自己責任」 が大きく登場してきました。企業の対応が免罪されます。このようなことから相談案件数が減少したとしても改善されたということにはなりません。労働者はそのなかで就労を続けることになります。
 そのような傾向が厚労省の 「職場のパワーハラスメントに関する実態調査報告書」 における 「何もしなかった」 と回答した割合40.9%、その理由として 「何をしても解決にならないと思ったから」、「職務上不利益が生じると思ったから」 と回答した要因につながっています。企業がパワーハラスメント対策を進めようとするなら、労働者にこのような意識を克服、改善させるために、なおさら構造的に発生するという捉え方が必要です。

 「自己責任」 の捉え方は、職場でパワーハラスメントが発生しても問題の本質がえぐられず、かえって企業の対応の困難さに繋がっていきます。
「具体的には、相談に来た被害者が一方的な主張をしており、被害者にも非があるのではないかと思われるケースや、調査の結果、被害を主張していた労働者が反対にパワーハラスメントの行為者であったことが発覚したケース、また、客観的にはパワーハラスメントではなかったにもかかわらず行為者とされて退職した者が、企業に責任を追及したケース等、様々な事案について示された。
 また、企業内の相談窓口に寄せられた相談のほとんどが、何らかの感情の動きをパワーハラスメントという言葉に置き換えた相談であり、本当にパワーハラスメントに該当すると思われる相談は全体の1割弱であったという意見も示された。こうした状況を含め、パワーハラスメントの被害が訴えられた際の事実関係の確認が難しく、被害者がメンタルヘルスに不調を来している場合や同僚等の第三者が行為者との関係性から萎縮してしまう場合等になかなか必要な証言が得られないことや、噂の流布等の場合には行為者を特定できないことが課題として示された。行為者と被害を訴える相談者の人間関係、地位、業務の状況等が千差万別であることから、パワーハラスメントに該当するか否かの判断が難しいとの意見も示された。」
 職場の労働者が、パワーハラスメントかどうかはさておくとしても、周囲や会社に何らかの訴えをしているという事実、労働者が精神的に自己を失いかけている状態に追いこまれているという状況が捨象されています。そこではすでに問題が発生しているのです。そのことを捉えようとしないと労働者の行為が特異に映ってしまい、再発や職場で別の問題が発生する事態が続くことになります。
 労働者への自己責任の押し付けは企業の責任転嫁です。

 「提言」 のパワーハラスメントの定義は 「職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。」 です。
 これに対して、以下の①から③までの要素のいずれも満たすものを職場のパワーハラスメントの概念として整理しました。
【職場のパワーハラスメントの要素】
 ①優越的な関係に基づいて (優位性を背景に) 行われること
 ②業務の適正な範囲を超えて行われること
 ③身体的若しくは精神的な苦痛を与えること、又は就業環境を害すること
 さらに、パワーハラスメントに該当するか否かを判断するためのそれぞれの要素の具体的な内容について整理しました。
 ①優越的な関係に基づいて (優位性を背景に) 行われることについて
 「当該行為を受ける労働者が行為者に対して抵抗又は拒絶することができない蓋然性が高い関係に基づいて行われること」 を意味する 「優越的な関係に基づいて (優位性を背景に) 行われること」 とすることが考えられる。
 この要素に当てはまる主な例として、次のような行為が考えられる。
 ・職務上の地位が上位の者による行為
 ・同僚又は部下による行為で、当該行為を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有し
  ており、当該者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの
 ・同僚又は部下からの集団による行為で、これに抵抗又は拒絶することが困難であるもの
 ②業務の適正な範囲を超えて行われることについて
 「社会通念に照らし、当該行為 が明らかに業務上の必要性がない、又はその態様が相当でないものであること」 を意味する 「業務の適正な範囲を超えて行われること」 とすることが考えられる。
 この要素に当てはまる主な例として、次のような行為が考えられる。
 ・業務上明らかに必要性のない行為
 ・業務の目的を大きく逸脱した行為
 ・業務を遂行するための手段として不適当な行為
 ・当該行為の回数、行為者の数等、その態様や手段が社会通念に照らして 許容される
  範囲を超える行為
 ③身体的若しくは精神的な苦痛を与えること又は就業環境を害すること
 「当該行為を受けた者が身体的若しくは精神的に圧力を加えられ負担と感じること、又は当該行為により当該行為を受けた者の職場環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等、当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じること」 を意味する「身体的若しくは精神的な苦痛を与えること又は就業環境を害すること」 とすることが考えられる。
 また、この時の 「身体的若しくは精神的な苦痛を与える」 又は 「就業環境を害する」 の判断に当たっては、「平均的な労働者の感じ方」 を基準とすることが考えられる。この要素に当てはまる主な例として、次のような行為が考えられる。
 ・暴力により傷害を負わせる行為
 ・著しい暴言を吐く等により、人格を否定する行為
 ・何度も大声で怒鳴る、厳しい叱責を執拗に繰り返す等により、恐怖を感 じさせる行為
 ・長期にわたる無視や能力に見合わない仕事の付与等により、就業意欲を 低下させる行為
 しかし、解釈を厳格にするということは、問題が発生した時の解決において 「幅」 ・ゆとり、裁量が狭められるということになっていきます。

 「提言」 の 【職場のパワーハラスメントの6つの行為類型】 を検討しています。
 既にパワーハラスメント対策に取り組んでいる企業のこれまでの取組が意味のないものにならないようにするため、大きく変えない方が良いという意見が示され、他に行為類型として追加すべきものも特段挙げられませんでした。
 それを踏まえながら6つ行為類型のうち、【職場のパワーハラスメントの要素】 の3つの要素を満たすものを職場のパワーハラスメントに当たる行為として整理されました。行為の態様が、6つの行為類型に該当しそうな行為であっても、3つの要素のいずれかを欠く場合であれば、職場のパワーハラスメントには当たらない場合があることに留意する必要があることになります。そのうえで3つの要素を満たすと考えられるものとそうでないものの例が新たに示されました。
 そもそも、「提言」 の 【6つの行為類型】 に ①暴行・傷害 (身体的な攻撃)、② 脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言 (精神的な攻撃) などの暴力行為が職場のパワーハラスメントとして挙げられること自体が現状の深刻さを物語っています。

 また別の章では
 ➃ 業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害 (過大な要求)
 ⑤ 業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を
  与えないこと (過小な要求)
について、
「➃ら⑤までについては、業務上の適正な指導との線引きが必ずしも容易でない場合があると考えられるとされている。
 その上で、こうした行為について何が 『業務の適正な範囲を超える』 かについては、業種や企業文化の影響を受け、また、具体的な判断については、行為が行われた状況や行為が継続的であるかどうかによっても左右される部分もあると考えられるため、各企業・職場で認識をそろえ、その範囲を明確にする取組を行うことが望ましいとされている。」
と述べています。職場のパワーハラスメントの基準は業種や企業によって異なるということになります。そうでしょうか。このような判断は他のところにおいてもダブルスタンダードを登場させ容認することになっていきます。

 ちなみに、他に行為類型として追加すべきものも特段挙げられませんでしたとありますが、労働政策研究・研修機構が2015年発6月に発表した報告書 「職場のいじめ・嫌がらせ、パワーハラスメントの実態 -個別労働紛争解決制度における2011年度のあっせん事案を対象に-」 は、6類型では括れない事案が63件あり 「7経済的な攻撃」 (重複計上) があらたに取り上げています。中分類すると 「1.経済的不利益を与えること」 の行為数43件、「2.労働者の権利を行使させないこと」 の行為数20件となります。さらに小分類では 「1.経済的不利益を与えること」 は 「1.経済的な不利益・制裁」 行為数14件、「2.不当な評価 (降格等)」 7件、「3.成果の取り上げ・成果をあげる機会の取り上げ」 5件、「4.事実上の解雇となる雇用の終了」 9件、「5.労働日・労働時間の短縮、残業禁止命令」 8件です。「2.労働者の権利を行使させないこと」 は 「6.権利の剥奪」 12件、「7.権利に関わる問い合わせに応じないこと」 8件です。
 最近の労働相談においては、PIPなどの 「7経済的な攻撃」 の相談が急激に増えています。
                                 (つづく)

 「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会報告書」
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