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韓国 2010年~14年 労災と認めたられた自殺は59件
2017/07/20(Thu)
 7月20日 (木)

 韓国での精神疾患の労災認定についての動向が新聞に載りました。日本と共通の課題を抱えています。

 7月16日のハンギョレ新聞は 「労災の可否、当事者の立場から判断してください」 の見出し記事を載せています。
 自殺も労災と認められます。ただし越えなければならない峠が数多くあります。
 労災の 「業務上の災害」 とは業務上の事由による労働者の負傷・疾病・障害または死亡を意味します。したがって自殺が業務上災害と認められるには、業務と自殺の間に相当な因果関係がなければなりません。労災保険法37条2項は 「労働者の故意・自害やそれが原因となって発生した死亡は業務上災害と見なさない」 と規定しています。基本的に自殺は業務上災害と見なしません。
ただし同じ条項で「その死亡が正常な認識能力等が明らかに低下した状態で行なった行為により発生した場合で、大統領令に定める事由があれば、業務上の災害と見なす」と例外規定を置いています。これによって労災保険法施行令36条は 「業務上の事由による精神的異常状態」 で自害したということが医学的に認められる場合などは業務上災害と見なされます。

 2010年から14年までの5年間、勤労福祉公団が自殺を業務上災害と認めた事例は遺族の申請190件中59件 (31.1%) に過ぎませんでした。これらの事件で勤労福祉公団は 「個人的要因の方が大きい」、「職場を持つ一般の人が耐えられる程度だった」、「ストレスの内容が自殺を誘発するほどに過度なものではない」 などの理由で遺族給与支給を拒否していました。
 クォン・ドンヒ労務士 (法律事務所 「明日」 所属) は 「勤労福祉公団で自殺事件を審議する際、精神健康医学と医者の医学的判断が重要な判断基準となる。医学的判断はどうしても業務上の構造的問題より労働者個人の問題に集中して見るという限界があり、業務上災害の認定がなされにくい」 と言っています。
 それに対し公団の統計によれば、公団の業務上災害不認定に不服があるとして、遺族が訴訟により裁判所から業務上災害確定判決を受けたケースは2010~16年に13件ありました。裁判所はそのような医学的判断より社会的・規範的基準を重要視するので、自殺の業務上災害を勤労福祉公団よりは幅広く認める方だといいます。最高裁の判例は「業務と災害発生の因果関係の有無は医学的・自然科学的に明白に証明されなければならないのではなく、規範的観点から “相当な因果関係” の有無として判断されるべきである」 と明らかにしています。さらに業務と自殺の因果関係に対しても「業務上過労やストレスが疾病の主な発生原因と重なって誘発または悪化し、それによって心身喪失などの状態に陥り自殺に至るようになったものと推断できる場合 “相当な因果関係” がある」という立場です。
 しかし裁判所も、自殺と業務の相当な因果関係を判断する基準が 「社会的な平均人」 なのか 「当事者」 なのかについては明確でなく、議論を生んでいます。最高裁は1991年から 「業務と災害の間の相当な因果関係の有無は、普通の平均人ではなく 『当該労働者』 の健康と身体条件を基準に判断すべきである」 という判例を何回も出していました。
 ところが2008年、最高裁は自殺事件で 「自殺が “社会的な平均人” の立場から到底克服できないような業務上ストレスのためでなければ “相当な因果関係” を認めることはできない」 と判断しました。この判例によって下級審では “社会的な平均人” の立場から見て自殺するほどのストレスを受けたものではないとして、自殺を業務上災害と認めない判決が続きました。
 しかしこのような判決に対し、当の最高裁が “個人的特性” をさらに考慮せよという趣旨で破棄した事例も2015年に確認されたものだけで6件あります。
 クォン労務士は 「最高裁が自殺と業務の因果関係の基準を “社会的な平均人” なのか “当事者” なのか明確にしないでいるため、混乱をきたしている。他の業務上災害認定基準と同様に、自殺事件も “当事者” の立場で判断すべきだ」 と指摘します。


 7月10日付のハンギョレ新聞は 「精神疾患そして業務上災害…自殺ではない、それは労災だった 2000年~2016年に労災判決を受けた自殺・精神疾患21件の分析」 の見出し記事を載せています。
 法律は労働者の身体的健康だけでなく精神的健康も保護されるべき対象として規定していますが、現実ではストレスなどによる自殺と精神疾患の労災認定は容易ではありません。
 ハンギョレ新聞は、クォン・ドンヒ労務士とともに、2000年から16年まで裁判所で業務上災害と確定した21件の自殺・精神疾患の判決文を分析しました。

 ■ 「業務変化」 がストレスの1位
 労働者が自殺するあるいは精神疾患にかかる理由は1つだけでは説明できません。そのため判決文に登場する多くの職場ストレスの原因のうち 「業務変化」 がとりわけ多く指摘されている点は注目に値します。
 コンドミニアムの総務チームに勤務していたLさんは2009年、一度もやったことのない客室管理を任されました。500を超える客室を維持・管理する業務はLさんにとって不慣れな仕事でしたが、副総支配人は客室の電話機に付いたシールの除去、エアコン点検などを指示し、さらに 「その仕事はそんなに時間がかかるんですか」 と随時督促しました。客室管理業務担当になってからLさんは不眠を訴えたり不安そうな姿まで見せました。2010年8月、Lさんは業務遂行の困難さ、会社の違法な業務処理などを記した遺書を残して亡くなりました。
 大邱 (テグ) 高裁は去年7月 「担当業務の突然の変更、変更された業務による自尊心損傷、ひどい侮辱感と羞恥心を誘発する事件に直面して業務上の深刻なストレスを受け急激な憂鬱症状などが誘発された」 としてLさんの自殺を業務上災害と認めました。

 軍需産業体に勤めていたCさんは軍需観測装備の組み立て・試験を担当していましたが、2012年8月射撃統制班に移った後、大きなストレスを受けて退社まで考えるほど悩みました。結局Cさんは同年10月12日病院に行って 「新しい業務によるストレスが大きく、初めてのプロジェクトを担当して心配でよく眠れず食事もまともに取れない」 と訴えます。適応障害と不安障害診断を受けてから4日目にCさんは自ら命を絶ちました。
 大邱地裁は2014年 「射撃統制班に移動した後、普段扱ったこともなく関連知識もない業務を担当することになり多くの心的負担を感じるようになった」 とし、勤労福祉公団の処分を覆して業務上災害と判断しました。

 ■ 条件・状況を考慮しない 「成果主義」
 通信分野でのみ働いてきたLさんは2010年にIPTV事業部長を務めるようになりました。部署移動の直後から営業損失が発生した上に2012年には市場占有率が下落し、Lさんはすべてが自分の責任に帰される雰囲気の中で 「売り上げ増大」 の圧迫にさいなまれます。そして2012年8月に命を絶ちました。
 ソウル行政裁判所は2015年8月 「LさんはIPTV事業に関する経験が全くない状態で会社の重点事業の売り上げ増大に対して負担を持っており、販売不振が続けば地位が保障されないかも知れないという不安を感じていたものと推断される」 と判断します。

 成果を上げなければならないという圧迫感は、長年やってきた慣れた仕事だからと言って違いはありませんでした。
 ある生命保険会社の支店長だったJさんは一日単位、週単位、月単位で目標対比実績を報告しなければなりませんでした。しかし2013年1~3月まで営業実績が27%下落する中でストレスを受けたJさんは2013年3月に自ら命を絶ちます。
 証券営業などを担当していたSさんも、2011年東日本大地震と世界金融危機の余波で顧客投資金に51億ウォン (約5億円) の損失が生じると 「死をもって償う」 として2011年8月に命を絶ちました。
 記者だったKさんは入社19年目にして初めて社会部に人事異動されると、精神的ストレスで鬱病診断を受けます。Kさんは他の部署に移ったが鬱病は持続し、4大河川特集企画記事を準備する中で2011年9月に極端な選択をしました。
 勤労福祉公団は 「20年間記者生活をした人であり、ストレスは認められるが死亡に繋がるほどの負担ではない」 として業務上災害を認めませんでした。しかしソウル行政裁判所は2014年11月 「4大河川特集企画製作を担当するようになり普段の2倍の分量の仕事を消化するために心的苦痛が加重され、成果を出さなくてはという精神的圧迫感が以前より大きかったと思われる」 として業務上災害不認定の判断を覆しました。

 ■ 「解雇」 は殺人だった
 2009年の整理解雇後死亡した双龍 (サンヨン) 自動車解雇者が28人にのぼり 「解雇は殺人」 だという声が高まったことがありました。高麗大のキム・スンソブ教授研究チームの 「2015年共に生きよう希望研究」 によれば、「過去1年間、鬱および不安障害経験」 のある双龍自動車解雇者の割合 (75.2%) は自動車工場労働者 (1.6%) の47倍に至ります。
 海藻類加工食品業体に勤めていたPさんは、会社と葛藤をきたし2013年3月に解雇通知を受けるや自殺を選びました。社長は防犯カメラで職員の勤務を管理し、社長の頻繁な叱責に一部職員が出勤を拒否して反発しました。社長はPさんが主導したと見てPさんと同僚を解雇した。光州 (クァンジュ) 高裁は2015年 「自分が解雇されたという精神的な衝撃のほかに自分のために同僚まで解雇されたという自責の念まで加わり、耐え難いストレスを受けたと思われる」 としてPさんの業務上災害を認めました。

 解雇の傷は復職後も容易に癒えませんでした。学校の非正規職調理師であるSさんは2007年1月、正規職調理師が同じ学校に発令されると解雇されます。4カ月後の同年5月、地方労働委員会の不当解雇判定でSさんは学校に戻ったが、急性ストレス反応などで精神科に通うようになりました。光州高裁は2011年 「突然解雇されたのであり、復職するまで相当なストレスを受けたものと見られる」 と判断しました。

 日常的に雇用不安を経験している非正規職は特にストレスに脆弱でした。派遣労働者のSさんは2003年ある工場に派遣されてコンピュータ管理業務などを担当したが、派遣業者と工場との契約が終結して2006年5月から失職の危機を迎えます。2003年から2006年の間、1年または3カ月単位で契約を結んでいたSさんは 「アルバイトでやれと言うが、ずっとそんなふうに勤めていられるか」 と憤慨して酒をたくさん飲みました。
 ソウル行政裁判所は2011年、Sさんの自殺を業務上災害と認めて 「雇用不安による心理的圧迫感など深刻なストレスを受けたものと見られる」 と明らかにしました。

 ■ 「劣悪な環境」 も精神疾患の危険要素
 劣悪な労働環境に露出している特定職業群のストレスも高く現れました。2003年からソウル都市鉄道 (地下鉄5~8号線) で機関士9人が自殺で死亡した事実が知られ、地下鉄機関士の劣悪な労働環境を指摘する声が大きくなったのが代表的事例です。
 ソウル都市鉄道5号線を運行していたYさんは2013年3月、自殺します。5号線はすべての区間が地下で粉じん濃度が高いのに換気が難しく、当時の9組5交代という勤務形態も一般人の生活パターンとは非常に異なるものでした。裁判所は 「劣悪な勤務環境は医学的に見て、精神疾患の発病または悪化に一部危険要素として作用し得る」 と判断しました。
 ソウルメトロの機関士であるKさんも2007年にパニック障害診断を受けました。ソウル行政裁判所は2009年にKさんの業務上災害を認めて 「機関士として高速運行に対する不安感、正確な時間に出発と下車を繰り返さなければならないところから来る緊張感、運行遅延による経緯書提出と乗客抗議などで持続的な精神的・心理的ストレスを受けてきたものと見られる」 と明らかにしました。
 特にKさんの判決文は、一般的な地下鉄機関士の精神健康問題を指摘しています。裁判部は 「研究結果によれば、事故を経験した機関士の外傷後ストレス障害とパニック障害発病率が、そうではない機関士よりずっと高く、同一業務をする地下鉄機関士の相当数がパニック障害を訴えている」 と明らかにしました。機関士だけでなく最近は感情労働者の精神的健康も社会的問題になっているだけに、ストレスに露出させられやすい業務環境を改善する事は労働者の精神疾患予防のために必須であるという指摘が出ています。

 クォン・ドンヒ労務士は 「職務ストレス検診制度などを取り入れて労働者が何のために苦しんでいるのか察してこそ、自殺や精神疾患などを予防することができる。事業主と政府が労働者の精神健康を保護できるような対策も具体的に反映させて法を作るべきだ」 と指摘します。


 7月10日付の記事は韓国・保健福祉部の 『2017年自殺予防白書』 について触れています。
 2015年の自殺者は1万3513人 (統計庁集計) で、死亡原因全体の5位を占めます。自殺者の中に就業者と非就業者が占める比重は、学生 (生徒) ・家事・無職が57.6% (7784人)、就業者は42.4% (5729人) です。2011年の統計で自殺者中非就業者の割合が61% (9706人)、就業者割合が39% (6200人) だったことから見れば、極端な選択をした人々のうち就業者が占める割合が増えている傾向にあると言えます。
 就業者がこのような選択をした原因を把握できるような統計はありません。ただし 「自殺の動機」 が記録された警察庁統計数値によれば、2015年の死亡者1万3436人中559人 (4.2%) の動機が 「職場や業務上の問題のため」 となっている。2012年には577人、2013年には561人、2014年には552人と記録されています。「職場及び業務」 から生じるストレスが年に500人ほどの犠牲者を出していることになります。自殺にまで至らなくても 「職場及び業務」 による精神疾患被害者の規模も相当なものと思われますが、これも正確な統計はありません。

   「海外のメンタルヘルスケア 韓国」
   「活動報告」 2017.7.7
  当センター「いじめメンタルヘルス労働者支援センター」ホームページ・ご相談はこちらから
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