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PIP (業績改善計画) が退職強要に利用されている
2017/07/04(Tue)
 7月4日 (火)

 6月27日の第20回ワンコイン講座は、4月18日に厚労省が発表した第2回 「職場のパワーハラスメントに関する実態調査」 報告書作成に検討委員会委員として携わった労働政策研究・研修機構の内藤忍副主任研究員をおまねきして、調査から見えて来たもの、5年前の調査からの変化などについてお話を伺いました。(『実態調査』 報告書については2017年5月23日の 「活動報告」 参照)
 お話は、2011年度に全国の都道府県労働局にあっせん申請がおこなわれた 「いじめ・嫌がらせ」 の事案284件を対象に労働政策研究・研修機構が調査して2015年6月に発表した報告書 「職場のいじめ・嫌がらせ、パワーハラスメントの実態 -個別労働紛争解決制度における2011年度のあっせん事案を対象に-」 についてとの比較検討も行われました。
 2つの 「報告書」 に重なる気になることがありました。

 2012年3月15日、厚生労働省は 「職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言」 (「提言」) を発表しました。「提言」 は、日本で初めて職場のいじめ・パワーハラスメントの概念規定・定義を行いました。「職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。」 です。
 続けて 【職場のパワーハラスメントの行為類型】 を挙げています。【職場のパワーハラスメントの行為類型 (典型的なものであり、すべてを網羅するものではないことに留意する必要がある)】 と断ったうえで6類型をあげています。
 ①暴行・傷害 (身体的な攻撃)
 ②脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言 (精神的な攻撃)
 ③隔離・仲間外し・無視 (人間関係からの切り離し)
 ④業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害 (過大な要求)
 ⑤業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと (過小な要求)
 ⑥私的なことに過度に立ち入ること (個の侵害)

 「職場のいじめ・嫌がらせ、パワーハラスメントの実態」 報告書は 【職場のパワーハラスメントの行為類型】 の6類型以外に大分類として 「7経済的な攻撃」 (重複計上) を取り上げています。63件ありました。これらを中分類すると 「1.経済的不利益を与えること」 の行為数43件 (15.1%)、「2.労働者の権利を行使させないこと」 の行為数20件 (7.0%) となります。
 さらに小分類がおこなわれています。「1.経済的不利益を与えること」 は 「1.経済的な不利益・制裁」 行為数14件 (4.9%)、「2.不当な評価(降格等)」 7件 (2.5%)、「3.成果の取り上げ・成果をあげる機会の取り上げ」 5件 (1.8%)、「4.事実上の解雇となる雇用の終了」 9件 (3.2%)、「5.労働日・労働時間の短縮、残業禁止命令」 8件 (2.8%) です。「2.労働者の権利を行使させないこと」 は 「6.権利の剥奪」12件 (4.2%)、「7.権利に関わる問い合わせに応じないこと」 8件 (2.8%) です。
 
 第2回 「職場のパワーハラスメントに関する実態調査」 報告書の企業調査で 「貴社で設置している相談窓口において、制度上対象としている相談テーマをお教えください。(複数回答可) また、従業員からの相談内容のうち、多い内容の上位2つまでをお教えください。(2つまで)」 の質問に対する回答です (回答3365社)。
 相談テーマとして 「人評価・キャリア」 39.3%、「賃金、労働時間の勤労条件」 47.4%が設置しています。そのなかで 「従業員から相談の多いテーマ (2つまで)」 は 「賃金、労働時間等の勤労条件」 18.2%、「評価・キャリア」 9.3%となっています。
 「パワーハラスメントに関する相談件数が増加した (または変わらなかった) 理由としてどのよう なことが考えられますか。当てはまるものを全てお教えください。(複数回答可)」 の質問にたいする回答で (回答1322社)、「評価・処遇への不公平感、不満が増加している」 が13.2%ありました。少なくない数値です。
 「過去3年間にどのようなパワーハラスメントに関する相談がありましたか。具体的な内容及び加害者と被害者の関係として当てはまるものを全てお教えください。(複数回答可)」 の質問にたいする回答で、6類型には含まれない 「その他」 として 「パワーハラスメントに関する相談の内容」 5.9%、「パワーハラスメントに該当すると判断した事案の内容」 2.4%がありました。

 従業員に対する質問で 「あなたの勤務先が設置している相談窓口で、あなたご自身が実際に相談したことがあるものがあればお教えください。(複数回答可)」 の質問にたいする回答 (3741人) で 「人事評価・キャリアについて」 が5.8%、「賃金、労働時間等の勤労条件について」 が5.5%ありました。
 「あなたが受けたパワーハラスメントは以下の6つの (行為類型の) どれに当てはまるかお教えください。(複数回答可)」 の質問にたいする回答に、6類型には含まれない 「その他」 が全体で6.2% (前回は8.6%) ありました。
 明らかに6類型には含まれない行為で少なくなく起きています。


 最近の労働相談のなかでは 「賃金」 「評価」 に関連する案件が目立ちます。特に、PIP (Performance Improvement Plan 業績改善計画) の相談が増えています。これが2つの報告書にも表れているのだと思われます。
 PIPとは、労働者への業績改善 (向上) のための指導方法です。具体的には、会社 (上司) が人事評価が低いと判断した労働者にたいして具体的な業績目標や取るべき行動等改善目標を設定し、期間を設けて進捗状況を確認しながら改善を促します。
 往々にして目標設定は会社 (上司) が一方的に設定し、労働者は従います。業績目標は数値だけではありません。改善目標の項目に労働者が達成できないような無理難題をわざと挙げたりすることもあります。そして改善できなかった場合には大幅な降給、さらに肩たたき・解雇にも至ります。実際には、会社が戦力外と判断した労働者や、余剰人員がでた時などにターゲットを絞ったリストラをするときにおこなわれます。会社によっては規定に 「目標達成に至らなかった場合は解雇する場合がある」 と謳っているところもあります。
 PIPは業務指導として行われます。労働者は指導なので拒否できないと思い込んで不本意ながらも従います。自分の認識とは違う能力不足を通告された時は会社にたいして不信感が生まれますが、同時に自信を喪失し、反論するエネルギーを奪われます。その結果、“行き過ぎた”指導で体調を崩す労働者も出ています。
 日本では従業員教育として、社内で先輩が後輩と一緒に日常の業務をこなしながら知識やスキルを教える 「職場内研修」 ・OJT (On The Job Training) と、社外でおこなわれる研修などを受講する 「職場外研修」 OffJT (Off The Job Training) があります。
この研修を通じて会社は必要な人材を育成し、長期に活躍してもらうことを期待しました。しかし最近はあまり行われていません。その理由の1つに、労働者同士がライバルになったことが上げられます。また会社は長期の雇用を期待していません。

 PIPは、OJT、OffJTとは逆に会社から排除する手法として使われています。
 行き過ぎた指導は 「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。」 で職場のパワーハラスメントそのものです。


 ある研究会でこの問題が議論になった時、いじめ問題か、人事制度、賃金・評価制度の問題として対応すべきかかという議論になりました。
 実態としては、会社は人事制度、賃金・評価制度の問題から切り離し、規定・規則に則った対応はとりません。労働者は、わけがわからない、どうしたらいいかわからない、反論できないことが指導の口実で執拗に追及されています。あきらかにいじめが指導の名のもとにおこなわれます。そして経済的不利益を被るに至ります。
 議論では、労働者と労働組合は、反撃の手法を見失っていますが、やはり賃金・評価制度の問題として対応していかなければならないのではないかということになりました。


 1995年に導入された成果主義賃金制度 (成果の定義は実際には難しい) は、評価によって日本で初めて 「降給」 を “合法化” するものでした。しかし、生産性の向上を目指して導入した制度は機能せず、逆に職場秩序を解体し、生産性を低下させることになり短期間で変更を余儀なくされました。
 その後、成果主義は修正され、“名ばかり” の実質的実績主義がはびこりました。その後、「役割給」 が登場します。「役割」 は職務に 「ミッション」 が加わります。ミッションとは、企業全体の経営方針や価値観についての 「職責を果たすために進んでとるべき行動」 や 「貢献することの責任」 です。企業全体がめざす方向と個々の労働者が仕事上で同じ方向性、つまりは企業への忠誠心が要求されます。そこには “上司の顔色を伺う” ことも含まれます。評価に企業への忠誠心が加味されると労働者は尊厳が奪われます。そのような役割の達成度にたいして評価が行われて賃金が決定します。
 成果主義賃金制度が導入されると労働者間の賃金差が大きくなります。使用者は労働者の個別管理の徹底をはかってきました。
 役割給は、労使の関係が従属・隷属になることを要求します。そして一方的業務指示、そして排除・退職勧奨に至っています。
 
 日本ではなぜ 「降給」 がなかったのでしょか。
 労働者の 「職能」 における 「成果」 は、日々研讃を積んで発揮されます。日々スキルアップします。逆に労働者の 「能力」 は一朝一夕にして落ちることはありません。
 つまり本物の 「成果」 は短期間で下がることはありません。評価が下がるのは、①業務が変更になった、②職場環境が変化した、③評価制度が変更になった、④評価者が 「成果」 を人為的に 「評価」 した、⑤労働者が体調を崩した、またはサボタージュをした、⑥社会が大きく変動した、場合です。
 ⑤以外は労働者の責任ではありません。⑤でも長時間労働などで体調を崩した場合は労働者の責任ではありません。労働者は、騙されないよう気をつけなければなりません。自分自身の職能にもっと自信を持ち主張する必要があります。

 労働者は使用者と労働契約を締結して就労します。使用者は労働条件を明記した就業規則を提示しなければなりません。労働基準法第2条は 「労働条件は、労働者と使用者が、対等な立場において決定すべきものである」 と謳っています。
 労働基準法第89条に就業規則に盛り込まれる事項が列記されています。賃金に関しては 「二 賃金 (臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。) の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項」、職業訓練については 「七 職業訓練に関する定めをする場合においては、これに関する事項」 と明記されています。
 賃金についての 「賃金規定」 は就業規則の一部です。評価は賃金を決定します。ですから 「評価規定」 は賃金規定の一部です。評価においては公明な 「評価規定」 と公平な運用が必要です。評価規定では 「評価基準設定」 と 「評価基準適用」 が開示されなければなりません。
 PIPの運用はこのようなことを逸脱して行なわれています。

 労働者保護のための労使対等を原則とする労働法制は闘いによって勝ち取られてきたものです。労働契約によらない一方的契約・契約解除は労働者に奴隷的拘束を課すもので認められません。労働契約によらない評価は正しい評価とはいえません。労使対等を基本に据えた対応が必要です。

 企業内組合の中には評価の問題は個人の問題だから取り組まないと宣言しているところもあります。しかし具体的評価内容は個人的問題でも、評価規定の運用は労働条件の問題であり労働組合が介入する必要があります。「個人的問題」 は取り組まないための口実です。
 また個人の結果は掌握出来なくても、労組として全体の動向については掌握をしておく必要があります。

 労働者の 「職能」 における 「成果」 は、指導・訓練・教育によってさらに高められます。PIPは本当にそのようなものであるかを確認する必要があります。意欲を奪ったり、逆に疑問を増すような、ましてや体調を崩すような指導は指導とはいえません。
 当り前のことですが、早期に成果が上がるか、それなりの時間を要するかは人によって違います。早期に成果をあげる者だけが能力があるなどという判断はだれにもできません。


 使用者が労働者の労働意力を奪うことが一番の生産性向上の疎外になります。逆に労働者に安心感を与えて、その力量を正しく評価し、発揮させたときに最も生産性は向上します。

   「活動報告」 2017.5.23
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