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人間らしい生き方を取り戻すための労働時間規制を
2017/06/09(Fri)
 6月9日 (金)

 6月5日、労働政策審議会は厚生労働大臣に対し、いわゆる “働きかた改革” における時間外労働の上限規制等についての建議を行いました。建議をうけてこの後は労基法の改正に向かいます。具体的内容です。

 1 時間外労働の上限規制 (1) 上限規制の基本的枠組み についてです。
 現在は上限なしの時間外労働が可能になっている 「時間外限度基準告示」 を法律に格上げし、上限を設定します。
 上限は原則として月45時間、かつ、年360時間です。この上限に対する違反には、特例の場合を除いて罰則を課します。また、一年単位の変形労働時間制 (3か月を超える期間を対象期間として定める場合に限る。) にあっては、あらかじめ業務の繁閑を見込んで労働時間を配分することにより、突発的なものを除き恒常的な時間外労働はないことを前提とした制度の趣旨に鑑み、上限は原則として月42時間、かつ、年320時間とします。

 これを原則としつつ、特例として、臨時的な特別の事情がある場合として、労使が合意して労使協定を結ぶ場合においても上回ることができない時間外労働時間を年720時間と規定します。かつ、年720時間以内において、一時的に事務量が増加する場合について、最低限、上回ることのできない上限として、
 ①休日労働を含み、2か月ないし6か月平均で80時間以内
 ②休日労働を含み、単月で100時間未満
 ③原則である月45時間 (一年単位の変形労働時間制の場合42時間) の時間外 労働を上回る回数は、年6回まで
とします。なお、原則である月45時間の上限には休日労働を含まないことから、①及び②については、特例を活用しない月においても適用します。

 現行の36協定は、省令により 「1日」 及び 「1日を超える一定の期間」 についての延長時間は、時間外限度基準告示で 「1日を超え3か月以内の期間及び1年間」 としなければならないと定められています。
 今後は、「1日を超える一定の期間」 は 「1か月及び1年間」 に限ることとします。併せて、省令で定める協定の様式において1年間の上限を適用する期間の起算点を明確化します。


 まだまだ長時間労働を本気で規制するものにはなっていません。
 特別な事情とは、あくまで通常を前提にしたうえでの特別で、イレギュラーのことを指します。「あらかじめ業務の繁閑を見込んで労働時間を配分すること」 とも違います。しかし 「上限は原則として月45時間、かつ、年360時間」 を通常としたうえでの特例になっています。そして具体的にどのようなことを想定しているのかの説明がありません。
 この間、過労死での労災が認定された事案のなかに外食産業があります。そこでは特別の事情は明記されないまま、恒常的な人手不足を補充するものとして 「時間外限度基準告示」 の36協定が締結されています。さらに長時間労働を隠ぺいするためにサービス残業が強制されていました。
 イレギュラーが予想・発生してから協定を締結することも可能です。例えば、大震災が発生した被災地において、協定が締結されていないことを理由に時間外労働を拒否した労働者はいません。あらかじめ協定を締結することが長時間労働を常態化・蔓延化することになっています。
 「2か月ないし6か月平均で80時間以内」 は長期間です。それを容認するのは使用者の努力義務を免除することです。


 (2) 現行の適用除外等の取扱い、についてです。
 現行の時間外限度基準告示では、①自動車の運転の業務、②建設事業、③新技術、新商品等の研究開発の業務、④厚生労働省労働基準局長が指定する業務 が適用除外とされています。

 労働政策審議会で出た意見です。
「現行、自動車運転者の労働時間等の改善のための基準という改善基準告示では、年間の拘束時間が3.516時間となっています。これは、休日出勤を含めて、年間1.170時間の時間外労働を可能とする内容です。……
 今次、……改正法施行5年後に960時間以内の規制適用、かつ、将来的には一般則の適用を満たす旨の規定が設けられたということで、先ほども御説明をいただきました。
 ……休日労働が960時間の別枠となりますと、現行の改善基準告示と何ら変わらないという意見が多く挙げられています。実行計画が明らかになって以降、政府が掲げた目標から我々自動車運転者、特にトラックドライバーから、『切り捨てられた』 という声が全国から寄せられています。皆さん御存知のとおり、過労死等の現状を見れば、自動車運転従事者、あるいは道路貨物運送業は、共に脳・心臓疾患の支給決定件数ワーストワンとなっています。是非ともこの実態を直視していただきたいということ、そして、自動車の運転業務こそ長時間労働の改善に向けて最優先に取り組まなければならない職種であるということです。……
 私ども運輸労連には運輸共済という共済制度があり、13万4.000名が加入しています。実は、この仲間の中で、自殺者が10年間で241名という、非常に痛ましい状況となっています。自殺の原因に関するアンケートも行っているところ、業務上に関連する問題が多くを占めている実態です。原因の全てが過重労働に結び付くかは定かではありませんが、我々としては、何としてでもこの業界の体質改善が必要であることを強く訴えさせていただきます。」

 しかし建議は、自動車の運転業務については、医師を含めて罰則付きの時間外労働規制の適用除外とせず、改正法の一般則の施行期日の5年後に、年960時間以内の規制を適用することとし、かつ、将来的には一般則の適用を目指す旨の規定を設けることが適当であるとしています。

 運送業の労働者は肉体的、精神的、そして経済的にゆとりのない劣悪な労働環境に翻弄されています。そのような現場からの切実な意見は切り捨てられました。
 今、産業界も消費者も “ジャスト・イン・タイム” を要求します。そのせわしない経済活動での数値の上昇も政府が掲げる経済成長に “貢献” したことになります。まやかしの経済成長です。しかもその裏では料金のダンピングが強要されています。
 産業界同士、労働者同士、そして労働者でもある消費者に思いやりがありません。昨今問題になっているヤマト運輸の問題は、他業界の労働者への “働きかた・働かせ方” の問題提起でもあります。運輸業だけでなく労働のあり方、サービスのあり方を社会問題として捉え返す契機にしていく必要があります。労働者の声でこの構造にメスを入れ、意識を転換させる必要があります。


 (3) 労働基準法に基づく新たな指針 についてです。
 36協定の必要的記載事項として、原則の上限を超えて労働した労働者に講ずる健康確保措置を定めなければならないことを省令に位置づけたうえで、当該健康確保措置として望ましい内容を指針に規定することが適当であるとします。


 2 勤務間インターバル についてです。
 労働時間等設定改善法第2条 (事業主等の責務) を改正し、事業主は、前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定時間の休息の確保に努めなければならない旨の努力義務を課すとともに、その周知徹底を図ることが適当であるとします。その上で、労働者の健康確保の観点から、新たに 「終業時刻及び始業時刻」 の項目を設け、「前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定時間の休息時間を確保すること (勤務間インターバル) は、労働者の健康確保に資するものであることから、労使で導入に向けた具体的な方策を検討すること」 等を追加することが適当であるとします。
 インターバルの導入は努力義務なりましたが、導入に際しては、労働者は “待ち” ・期待ではなく検討の主体です。積極的取り組みと提案が必要になります。


 3 長時間労働に対する健康確保措置 についてです。
 (1) 医師による面接指導と(2) 労働時間の客観的な把握 があります。
 長時間労働が体調不良を発症させます。しかし医師による面接指導は “ストレスに強い労働者作り” “まだ大丈夫” になっています。あわせて長時間労働を前提としながらの労働時間の把握は、会社が労災申請された時の反論書づくりにしかとらえられません。


 4 その他 (2) 上限規制の履行確保の徹底 ①過半数代表者、についてです。
 36協定を締結するに際して従業員代表は民主的に選ばれなければなりません。労働政策審議会に出された意見です。
「約4割の企業において過半数代表者の不適切な選出がされているというデータが提示されています。その中身を見てみますと、社員会、親睦会などの代表者が自動的に過半数代表になっている例や、会社側が指名したことで選ばれている所が4割に及ぶということです。こうした実態にあることを踏まえて、罰則付き時間外労働規制の実効性担保のためには、36協定の適正化が必要であり、過半数代表の選出手続の厳格化及び適正化等の検討をすることも必要であると考えております。」
 従業員は協定を知らないけれども強制されているということが多々あります。
 これは労働組合による協定でも同じです。労働組合は、36協定については大会で議論をして協定を結ぶ必要があります。

 別の委員からの意見です。
「労働協約の存在を知らない使用者ということで言うと少し語弊があるかもしれませんが、『時間外労働・休日労働に関する労使協定の締結の有無等』 という調査結果が出ています。……そこの中に 『協定あり』 という事業所が55.2%、『協定なし』 の事業所が44.8%となっています。『協定なし』 の中で 『時間外・休日労働がない』 という所が43%になっているわけですが、これを裏返して言うと、『協定なし』 の事業所の中で協定を取らないで時間外・休日労働を実行している所は、逆に言うと57%あるとも読めるわけです。さらに、『時間外労働・休日協定の存在を知らなかった』 という事業場は35%。それと、非常に残念ですが、『時間外労働・休日労働に関する労使協定の締結・届出を失念していた』 という事業場が14%あるという結果が、実際出てきているわけです。」
 労働基準監督署の監視と指導、そして提出に際しては従業員代表の選出方法も必須記載事項にする必要があります。

 建議は 「使用者の意向による選出」 は手続違反に当たるなど通達の内容を労働基準法施行規則に規定することが適当である、また、過半数代表者がその業務を円滑に遂行できるよう必要な配慮を行わなければならない旨を、規則に規定する方向で検討するとしています。
 きちんとして制度を確立されることを期待します。


 「働き方改革」 についてさまざまな方面から意見が出されています。
 経済界からは、改革で生産性が上がるのかという意見があります。生産性は労働時間と正比例するというような意見ですが、正比例しません。なぜなら労働者は “飼いならされて” も “生き物” だからです。長時間労働のリスク管理が無視され、使い捨て可能の思いが隠されています。
 生産性が向上した後に分配があって労働者の労働条件は改善するという意見があります。産業の歴史は技術革新と生産性向上の歴史でした。しかし、例えばQC運動がそうであったように、その結果はより過重な、過酷な労働の登場です。分配は成長のわずかばかりのものでしかありませんでした。そして過労死・過労自殺です。このことを冷静に労も使も捉え返すことが必要です。
 スキルをあげるために頑張っている労働者が挑戦するチャンスを奪うという意見があります。スキルをあげるための努力が時間外労働に至ることもありえます。努力は続ければいいです。その代わりドイツの 「残業で働いた時間は口座に貯蓄しておき、後で休暇として使う」 『労働時間貯蓄口座 (ワーキング・タイム・アカウント)』 のような制度を設ける方がよりクリエイティブな労働ができます。
 残業代をあてにしている労働者が存在するという意見があります。残業代を稼がせることが労働者のことを思っているということではありません。労働者個人の問題ではありません。低賃金が蔓延したり、社会保障が充実していない政治の問題をとらえかえす必要があります。

 労働時間の縮小の問題は、過労死防止のためではありません。過労死が発生するような働きかた・働かせ方がそもそも異常です。
 労働時間の縮小は、労働者がより人間らしい働きかた・生き方を取り戻すことにむけた挑戦です。

   「活動報告」 2017.1.31
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