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「金銭解決制度」 は雇用を不安定にする
2017/03/07(Tue)
 3月7日 (火)

 厚労省は、15年10月29日から 「透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」 を開催しています。その第13回が3月3日にありました。そこに厚労省から裁判で解雇が不当とされてから解決金が支払われ、雇用契約が終了するまでの流れを示す 「金銭解決制度」 の概要案が補足資料として提出されました。
 現在の労働紛争の解決制度である労働審判やあっせんでない新しい制度です。厚労省は新制度導入の目的を、ほとんどお金を得られずに解雇されて泣き寝入りをしている労働者を救済するといいます。(16年1月26日の 「活動報告」)

 これまでの案は、裁判で不当な解雇と認められた場合、解雇された労働者が望めば職場復帰を諦める代わりに会社に補償金を請求できる制度と説明され、「不当解雇の金銭解決」 を決めるのは労働者でした。
 しかし補足説明では新たな案も追加されています。
 1つは、裁判において①労働契約上の地位の存在確認の判決と同時に②使用者に一定額の金銭の支払いを命じる判決がだされて③労働契約の終了を宣言されるという案です。3つの判決を一回の裁判手続きで処理します。しかしこれまでの検討会では困難という結論に至りました。
 2つ目は、解雇無効の判決がでて確定した後に労働者が金銭救済を申し立て、裁判所が一定額の金銭支払いを命じ、使用者が金銭を支払います。
 3つ目は、労働契約上の地位の存在確認と一定額の金銭の判決と同時に給付の判決が出されて労働契約の終了の判決が出され確定した後に労働者が金銭救済を申し立て、判決で一定の金銭を命じ、使用者が金銭を支払います。
 4つ目は、労働契約上の地位の存在確認請求と金銭請求と労働契約終了請求を同時に出し、解雇無効の判決と一緒に使用者が金銭を支払うことで労働契約を終了します。
 この他に、解雇を不法行為として損害賠償を請求する訴訟や、実体法に権利を創設する仕組みとして、労働者が金銭救済を請求して訴訟に至って解雇が客観的合理的理由・社会的相当性を欠くと認められた場合、判決で一定の金額の支払いを命じ、使用者が金銭を支払います。

 これまでは解雇された労働者が職場復帰を諦める代わりに会社に補償金を請求できる制度と説明されてきましたが、判決で金銭額までおよぶ制度が導入されたら、使用者の復職拒否・金銭解決の主張や裁判所の契約解除の誘導の有効性が大きくなります。労働者側だけでなく、使用者が金銭解決を望んだ場合にも活用されます。
 現在は、解雇案件が裁判に持ち込まれた場合、判決よりは和解の方が実際に支払われる金額が高くなっていました。しかし判決で金額が提示される場合には使用者の拒否もあり得ます。その結果、「低い相場」 が定着する可能性があります。
 解雇事案は1件ずつ事由が違いますが、使用者は先を見越して “安心して解雇” できるようになっていきます。
 新制度は使用者を救済する制度です。


 使用者側は日本の労働者の雇用は保護され過ぎていると主張します。
「かつて大企業の 『正社員』 になれば、定年まで雇用が保障されるというイメージがありました。しかし 『はじめに』 でも触れたとおり、今では名だたる大手企業でも正社員の追い出しが本格化しています。正規雇用を削減する上で、退職を誘導する仕組み (事実上の退職強要) が果たす役割は大きく、諸外国と比較し、日本の解雇規制の実態は厳格ではありません。先進諸国が加盟するOECD (経済協力開発機構) のデータでは日本の雇用保護の厳格さはむしろ低いほうに属します。退職強要による 『自主的離職』 をOECDの解雇指標に含めれば、雇用保護に関する日本の位置はさらに低下するでしょう。長年の労働運動の努力で確立している整理解雇に関わる法理は裁判や労働委員会で争う場合には有効ですが、大半の労働者はそこに至る前に職場を去っています。」 (森崎巌 他編著 『ビジネス化する労働市場政策 劣化する雇用』 旬報社)
 「はじめに」 です。
「バブル経済が破綻した90年代以降、長期不況のもとで日本型雇用慣習は次第に変容しています。大企業の男子正社員でも関連会社への出向が日常化し、入社時の企業で定年を迎えられる労働者は半数をはるかに下回るまでになっています。電気産業をはじめ、名だたる大企業でも希望退職や退職勧奨という事実上の退職強要 (リストラ) が公然と行われるようになりました。『追い出し部屋』 はその典型です。」
 会社は、雇用の流動化の名のもとに社員の教育や研修・訓練を放棄して実質解雇し、実践力として活用できる労働力にとって変えます。労働が労働者に宿っているという捉え方が失われています。さらに実践力としても非正規労働者が増大しています。(16年2月19日の 「活動報告」)
 そして再就職のための教育や研修がひとつのビジネスとして登場しています。


 「整理解雇に関わる法理」 は、使用者に雇用ルール確認させるもので、解雇権の濫用を防止する役割を果たしてきました。労働者と労働組合はこれを武器に抵抗してきました。また雇用ルールが労使関係を維持させてきました。
 これまでも解雇事件においても団体交渉で解決した案件はたくさんあります。交渉において再度雇用ルールを確認することもあります。
 しかし新制度が登場したら、「整理解雇に関わる法理」 が形骸化し、使用者の雇用政策を乱暴にさせます。不要と判断した労働者に対する意識的いじめ・嫌がらせがおこなわれる危険性もあります。紛争が発生しても労働者にあきらめの気分が発生し抵抗は弱まります。使用者のやりたい放題になりかねません。現在の労使関係が崩されていく危険性がでてきます。
 2013年には裁判で不当とされた解雇が約200件ありました。制度が導入されたら 「有効活用」 されて増大することが予想されます。


 厚労省は解雇されて泣き寝入りをしている労働者を救済すると説明しますが、泣き寝入りをするのは使用者が 「整理解雇に関わる法理」 を逸脱したり、こじつけての退職強要をしたり、労働者を脅したりだましたりする場合です。必要なのは人権を無視した手段を禁止する対策であり、金銭解決の手法ではありません。

 政府の 「金銭解決制度」 は、現在進められている “働き方改革” と一体のものです。雇用の流動化は 「雇用の劣化」 を招いていますが拍車がかかります。まずその防止が先です。
 同一労働同一賃金や長時間労働の制度導入と “解雇のやりやすさ” がバーターになることは許されません。「ホワイトカラーエグゼンプション」 が導入され、長時間労働で体調を崩した労働者は 「金銭解決制度」 でどのように救済されるのでしょうか。
 使用者に労働者の使い捨てを保障するような制度の導入は絶対に許されません。


  「活動報告」 2016.1.26
  「活動報告」 2015.8.21
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