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ヤマト運輸  ただのサービスなどない
2017/02/24(Fri)
 2月24日 (金)

 ヤマト運輸労働組合は2017年の春季労使交渉で、18年3月期の宅配個数が17年3月期を上回らない水準に抑えることを要求したという報道がありました。人手不足とインターネット通販の市場拡大などにより長時間労働が常態化しているなかで 「現在の人員体制では限界」 という主張です。会社側も応じる意向です。
 要求はこの他に、ネット通販会社など割引料金を適用する大口顧客に対して値上げを求め、交渉が折り合わなければ荷受けの停止を検討する、ドライバーの労働負荷を高めている再配達や夜間の時間帯指定サービスなども見直しの対象とするなどもあります。長時間労働の抑制では10時間以上の 「勤務間インターバル制度」 の導入もあげています。ベースアップについては前年と同じ組合員平均1万1000円 (前年の妥結額は5024円) の要求です。
 切実さが垣間見られますが、労働組合が長時間労働の抑制をめぐって経営の改善までふくめて具体的要求をおこなうことはめずらしいことです。

 ヤマト運輸は宅配便最大手で46%のシェアをもっています。荷物の伸びには人員の増強で対応してきました。
 16年12月にヤマト運輸が扱った 「宅急便」 の個数は前年比6%増、11年と比べると20%増えています。一方人員は17年3月期末見通しが20万500人と、2012年3月期実績17万7301人の13%増にとどまっています。今期はパートやアルバイトなど非正規従業員を含む売上高人件費比率は51.0%となっています。
 人手不足は深刻化し、思うように人員を確保できない状況にあります。そのため宅配便は基本的に午前8時から午後9時までの配達で、ドライバーや荷物の仕分け担当者は交代制勤務になっていますが処理が追いつかず、早番の勤務者が夜まで残って作業することがあるという実態が生まれています。
 自社での人手確保が追いつかず、外部業者への配送委託が増えて、ヤマトHDの売上高に占める委託費の比率は今期15.5%と5年前に比べて1ポイント近く上昇する見通しです。


 ヤマト運輸における36協定は、年末年始などの繁忙期と閑散期の仕事量に波がある業務内容を踏まえ、17年度は残業時間を月単位ではなく年間456時間とすることで労働組合と合意しました。
 実態はどうでしょうか。15年11月17日の 「活動報告」 を抜粋します。
 横田増生著 『仁義なき宅配 ヤマト vs 佐川 vs 日本郵便 vs アマゾン』 (小学館 15年9月刊) にヤマト運輸の1人の配達員の労働実態が報告されています。
 労働時間の事態は朝6時から積み込み作業をはじめ、終了は午後10時までになるといいます。しかし業務開始を記録する携帯の専用端末 〈PP (ポータブル・ポス) 端末〉 を立ち上げるのは8時以降と決められています。午後9時20分前後に再配達を終了したら締めます。しかしその後の作業が残っています。昼食は、車を停めてとる時間がないのが現状で、運転したままでとることもあります。
 端末を立ち上げる前と締めた後、お昼の1時間はサービス残業です。サービス残業だけで月60時間以上に及びます。これらは、会社が厚労省などの調査で報告する記録上の残業時間の計算には含まれません。運輸業界の長時間労働の実態は隠されています。
 サービス残業ではない通常の残業は1日4時間以上で、月80時間です。実際の残業時間は月140時間です。これで残業代や諸手当を含めた賃金は額面で約30万円です。
 07年から労働者の残業時間の上限を決めた 〈計画労働時間制度〉 を導入しました。初年度の08年3月期の総労働時間は2.550時間でした。15年3月期は2.464時間です。16年度は2456時間、17年度は2.448時間にする計画だといいます。この設定自体が異常です。
 賃金体系は、基本給と残業代、それにどれくらい荷物を集荷配達したかによって支払われる業務インセンティブの3本柱になっています。業務インセンティブは賃金全体の60%から80%を占めます。総労働時間に近づくと期末には仕事ができません。業務インセンティブの手当が期待できなくなります。このことがサービス残業を温存する原因にもなっています。
 国土交通省が2013年に発表した資料では、全産業平均の月収が31万円であるのに対し、トラック事業の平均は29万円台でした。年収は416万円で50万円以上の開きとなっています。賃金が低いから残業に走ります。

 著者は、ヤマト運輸で3か月ごとに契約更新が行われる下請けの軽トラに1日同乗する体験を試みます。3か月ごとの更新は、繁忙期と端境期があるのでその調整のためです。
 午前8時過ぎ、配送センターで70個の荷物を積み込んで出発します。受け持ちエリアを午前中、昼過ぎから夕方まで、夕刻から夜9時までの3回配達に回ります。不在の場合には2回、3回と回ります。3回の配達で合計100個の荷物を配り終えたのは午後9時前。拘束時間は14時間近くで、日当1万5千円です。換算すると時給は1000円強ですがそこから車輌代、ガソリン代、車検代を支払います。
 夏の繁忙期にもう一度同乗をお願いして了承を得ましたが、運転手は前日頸動脈からのくも膜下出血で病院に搬送されていました。
 厚労省の2014年度に労災と認定された過労死が一番多かったのが 〈運輸業・郵便業〉 で92件です。


 ヤマト運輸は17年3月期の宅配便取扱個数は前期比7%増の18億5000万個と過去最高が見込まれています。一方、親会社のヤマトホールディングス (HD) は1月末、人手不足による人件費の高騰や外部委託費の増加などを理由に、17年3月期の連結営業利益の予想を前期比15%減の580億円 (従来予想は650億円) に引き下げました。取扱個数は増えたが利益は上がらないという構造になっていました。
 荷物の急増の背景はいうまでもなく、インターネット通販の拡大です。消費者向け電子商取引 (EC) の市場規模は15年度実績で13兆円を超えました。10年前と比べたら10数倍になっています。
 ネット通販は2000年代以降、「配送料無料」 などを武器に急速に拡大し、個人宅への配達が急増しました。その結果は受取人の不在件数も大幅に増えました。14年12月の国土交通省の全国調査では、1回目で配達が済むのは約80%で再配達が2回以上のケースも約3.5%あり、現場のドライバーたちへの負担が大きくなります。代金引き換えサービスやクール便利用者も増えています。ドライバーは現金やクレジットカードを取り扱わなければならず、利用者対応の手数が増えています。
 その一方で、顧客は自分の宅配便がどこにあるのか自宅のパソコンやスマートフォンで確認できるので配達が遅れたり、どこかで荷物が止まっていたりするとすぐに宅配業者側にクレームをつけることがでるようになりました。


 宅配業界では、1個当たりの運賃が250円以下になると、どのように工夫しても利益がでない構造になっています。
 以前、佐川急便が最大手の荷主であるアマゾンとの契約で合意したのは全国一律で250円をわずかに上回る金額だったといわれます。しかしアマゾンの配送を扱うことで、収支だけでなくサービスレベルも悪くなったといいます。13年春、宅配便単価の低下問題で契約を打ち切りました。経営の舵をシェア至上主義から “運賃適正化” を掲げて利益重視へと切り替えました。
 アマゾンの配送を運ぶことになったのはヤマト運輸です。

 ヤマト運輸は13年10月に稼ぎ頭のクール宅急便が常温で仕分けが行われていたことが新聞ですっぱ抜かれました。対策として、クール宅急便を取り扱える個数の上限を決め、それを上回った場合は荷物を引き受けることを断る総量管理制度を導入した再発防止と法人向けの運賃の適正化に取り組みます。運賃上昇→利潤率上昇→設備投資の増額→労働環境の改善をすすめ “豊作貧乏” から抜け出すことに挑戦します。
「本来はサービス内容で競争するべきなのでしょうが、運賃 (の値引きをするの) もサービスの一環だという考え方もありました。特にネット通販事業者から荷物をいただくには、運賃が大きな要因になります。けれど、そうした通販業者さんからも採算の合う運賃をいただかないと、輸送サービスの品質が担保できないと考えて、運賃の適正化に踏み切ったのです」
 14年3月末、コストに見合わない個人向けメール便の取り扱いを中止します。佐川急便はメール便については日本郵便に委託しています。
 
 佐川急便ホールディングの会長は14年の 「会長訓示」 で打ち切りについて触れました。
「昨年、ライバルに 『通信販売の100億円のエサを提供した』 と私は思っている。これは (佐川) 急便の収入の1.5%である/結果としてライバルは、集配品質の低下と固定費が増加した/必ずこれまでの体制を見直すはずである/事実クール便を40%UPで交渉を始めたとも聞く」 (『仁義なき宅配』)
 アマゾンジャパンや楽天などでは配送料無料、さらに返品無料もあります。そのために費やされる労働への対価はどうなっているのでしょうか。また配送料無料は往々にして運賃のダンピングにつながっていきます。運賃適正化は成功しませんでした。
 今回のヤマトの動きは、この時すでに想定されていました。しわ寄せは労働者にのしかかっていきます。
 佐川急便では、多忙のなかでの駐車違反に身代わり出頭が各地で摘発されています。


 ではヤマト運輸をふくめてトラック労働者の労働条件を向上させるためにはどうしたらいいでしょうか。
 今は時間指定の荷物とそれ以外は同額ですが、時間指定の場合は追加料金を徴収すべきです。特に夜間の指定に対しては当然です。
 多口顧客が配送会社にダンピングを強制するとそのしわ寄せは労働者にきます。労働の価値を認めず、労働者を愚弄するものです。誰かを犠牲にした経済活動はまともとはいえず、社会正義に反します。運賃適正化は厳格にすすめられなければなりません。
 アマゾンなどのネット通販事業者は配送料無料をうたって販売促進をしていますが、利用者は送料はどこに含まれているかを見極める必要があります。ネット通販事業者負担というのなら送料は商品に含まれているということです。消費者は騙されています。
 配送料無料などのサービス過多は労働の価値を低め、労働者同士の思いやりを奪います。社会秩序を破壊しています。国交相は、配送無料の広告を禁止し、運賃適正化を監視する必要があります。
 無理なサービスはまた事故を発生させる危険性があります。配送労働者の生活がネット通販事業者の犠牲になる必要はありません。
 ヤマト運輸労働組合の要求を、運輸業のサービスのあり方を社会問題として捉え返す契機にしていかなければなりません。
 このようなことが長時間労働を削減し、労働条件を改善し、労働力不足を解消する早道です。
 労働者がお互いの労働の価値を認め合い、尊重し合う関係性、あたりまえの社会秩序を作り上げていくことが必要です。

 本物の “働き方改革” は、働く者が現場から生の声をあげ、要求していくなかから “働きやすさ” “安心” を獲得するものです。

   「長時間労働問題」
   「活動報告」 2015.11.17
  当センター「いじめメンタルヘルス労働者支援センター」ホームページ・ご相談はこちらから
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