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職場復帰には 「5つのレベル」 がある
2017/02/21(Tue)
 2月21日 (火)

 1月8日の毎日新聞は、「<うつ病休暇> 半数が再取得 『企業は配慮を』 厚労省研究班」 の見出し記事を載せました。
 厚生労働省の研究班 (代表者、横山和仁・順天堂大教授) は、社員1000人以上の大企業など35社を対象に、2002年4月からの6年間にうつ病と診断され、病気休暇を取得した後に復帰した社員540人の経過を調査しました。その結果、うつ病を再発して病気休暇を再取得した人の割合は、復帰から1年で全体の28.3%、2年で37.7%と高く、5年以内で47.1%に達していました
 うつ病になって病気休暇を取った大企業の社員の約半数が、復帰後に再発し、病気休暇を再取得していました。特に復帰後2年間は、再取得する人が多く、仕事の負担が大きな職場ほど再取得のリスクが高いことも裏付けられたといいます。
 休暇期間では、1回目の平均107日に対し、2回目は同157日と1.47倍に長くなっていました。1回目の休暇期間が長い場合や、入社年齢が高くなるほど、2回目の休暇が長くなる傾向もみられました。
 調査した東京女子医大の遠藤源樹助教 (公衆衛生学) は 「うつ病は元々再発しやすい。企業は、病気休暇の再取得が多い復帰後2年間は、特に注意を払い、時短勤務などを取り入れながら、再発防止に努めてほしい」 と指摘しています。

 調査は比較的制度等が整備されている大企業が対象です。また、休職・復職という選択ではなく退職した労働者は数字には含まれていません。


 あるユニオンで 「ユニオンの労働相談とその心構え 特にメンタルヘルスの場合」 のテーマで話をする機会がありました。
 メンタルヘルスの問題は、体調不良になってからではなく、ならないための職場環境づくりが大切です。
 「使用者の安全配慮義務」 を履行させることが必要です。
 では 「使用者の安全配慮義務」 とは何でしょうか。2012年2月10日の 「活動報告」 で紹介した 「千代田丸事件」 について部分的に再録します。
 56年2月下旬、電電公社所有の長崎港を母港とする海底ケーブル布設船 「千代田丸」 に、朝鮮海峡の海底ケーブル故障個所の修理命令が出されます。全電通労組本社支部千代田丸分会は、安全保障や外国旅費等の労働条件について交渉を続けたが前進しません。
 そもそも朝鮮海峡の海底ケーブルは公社の所有ではありません。さらに修理場所は 「李承晩ライン」 の内側であり、攻撃を受ける危険性は大きくありました。本部支部は、公社の労働者と公社の間には朝鮮海峡の海底ケーブル作業の労働契約はない、契約を結ばないかぎり就労の義務はないと主張して交渉を続けました。
 しかし3月5日、公社は団体交渉の途中、警告文を読み上げて席を立ちます。
 5月4日、公社は本社支部役員3人に出向拒否指令責任者として公労法 (争議行為) 違反により解雇を発令します。解雇撤回闘争は裁判闘争に持ち込まれます。
 59年4月11日、「雇用関係が存在する」 の判決がでます。判決理由は、公労法違反の事実は証拠がないこと、朝鮮海峡工事にいく労働契約上の義務について証拠がないので千代田丸乗組員は行く義務がないという内容です。根拠として、「労働者が生命身体の危険を犯してまでも自己の労働力を売っていると見るべきではない」 と明確にしました。
 しかし公社は控訴。六三年六月、控訴審は三人の解雇を有効とする判決を出します。
 3人は上告しました。
 原告は最高裁の弁論要旨で主張します。
労働者が働かなくてはならないのは、使用者と労働契約を結んでいるからで、その契約にないことは新しい契約をしない限り働かなくてもよい。この点が労働者と奴隷の違いです。契約にないことを無理に働かせ、まして、米軍の権威や日米安保条約を持ち出して危険な海域にひきずり出すのは、労働者に奴隷的拘束を課し、その意に反する苦役を強制することになるのではないか。その意味で、この事件では労働者の憲法上の基本的人権が争われているのです。」
 68年12月24日、最高裁は原告勝利の判決が言い渡されました。
かような危険は、労使の双方がいかに万全の配慮をしたとしても、なお避け難い軍事上のものであって、海底線布設船たる千代田丸乗組員のほんらいの予想すべき海上作戦に伴う危険の類ではなく、また、その危険の度合いが必ずしも大でないとしても、なお、労働契約の当事者たる千代田丸上組員において、その意に反して義務の強制を余儀なくされるものとは断じ難いところである」「使用者は、労働者が労働組合の正当な行為をしたことの故をもって、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益取扱をする行為をしてはならない」 (『千代田丸事件』 今崎暁巳著)
 千代田丸事件の闘いで労働者は危険な作業を拒否できるという基本的人権と生存権が確立していきます。このような闘いを経て“使用者の安全配慮義務”は認識が固められていきます。

 「使用者の安全配慮義務」 はその後判例法理となりました。
「雇傭契約は、労働者の労務提供と使用者の報酬支払いをその基本内容とする双務有償契約であるが、通常の場合、労働者は、使用者の指定した場所に配置され、使用者の供給する設備、器具等を用いて労務の提供を行うものであるから、使用者は、右の報酬支払い義務にとどまらず、労働者が労務提供のため設置する場所、設備もしくは器具等を使用し又は使用者の指示のもとに労務を提供する過程において、労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務 (以下 「安全配慮義務」 という) を負っているものと解するのが相当である。」
 そして労働契約法で法律となりました。

 この地平を切り開いたのは労働組合の闘いではなく、遺族の闘いです。
 1991年の電通過労自殺事、過労死家族会結成と「過労死防止法」制定の闘い、そして16年の電通過労死事件などなどです。
厚労省は2002年に 「過重労働による健康障害 防止のための総合対策について」 を通知したのは1991年の電通過労自殺事の裁判の影響です。通知は 「時間外労働が2~6か月で平均80時間を超えると健康被のリスクが高くなる」 ・いわゆる“過労死ライン”を発表しました。しかしこの指導が強制力を持つようになるのは現在政府が法制化を進めている 「働き方改革」 によってです。15年後にやっと法律になりますが長時間労働の規制としては不充分です。


 「使用者の安全配慮義務」 の具体例については現在名古屋ふれあいユニオン・一心商事分会の闘いを紹介しました。
 一心商事分会は組合を結成したら会社から連続した攻撃をかけています。
 数年前には組合員が社長室に呼びつけられて日本刀で脅迫され、急性ストレス障害にり患してしまいました。
 昨年末には製造現場の組合員を街頭での商品宣伝やノルマを課したとびこみ個別訪問販売の営業に配置転換しました。組合員は 「適正配置義務」 を無視した嫌がらせで体調を崩してしまいましたがその後、業務命令を拒否して原職に就労し、裁判所への仮処分申請と労働委員会への実効性確保申立をしました。
 「適正配置義務」 とは、使用者が労働者を得意な分野・業種に配置をした時に労働者にとってはより大きな成果を達成し、会社の利益にもつながるという当たり前のとらえ方です。逆に労働者の不得手な部署に配置し、会社の利益にもつながらない人事は嫌がらせとしかとらえられません。
 分会長に対しては暖房のない部屋に隔離しました。

 2015年5月22日の 「活動報告」 に書きましたが、消費者庁は消費者の訪問勧誘・電話勧誘・FAX勧誘に関する意識調査を行いました。その結果、訪問勧誘を 「全く受けたくない」 が96.2%を占めました。自治体の中には条例で禁止しているところもあります。
 組合員にとっては不得手の、しかも相手から嫌がられる業務は精神的に追い詰めて体調不良に落とし込めることが予測でき、 「使用者の安全配慮義務」 に違反し絶対に許されません。


 職場復帰をスムースにはかるための課題についてです。復職問題については2015年9月28日の 「活動報告」 で触れました。
 実際は本当に難しいです。
 よくある労使のトラブルに 「復帰できる」 「治っていない」 の主張のぶつかり合いがあります。
 夏目誠大阪樟蔭女子大学・大学院教授は 「職場復帰には 『5つのレベル』 がある」 と説明します。「症状軽快レベル (日常生活はできる)」、「出勤可能レベル」、「定型業務レベル」、「通常業務レベル」、「残業可能レベル」です。
 主治医が 「出勤可能レベル」 と診断しても、休職前の 「通常業務レベル」 ではありません。そこに至るためにはリハビリ勤務・試し出勤による慣らしが必要です。
 また使用者は復職に際しては即戦力としての 「定型業務レベル」 や 「通常業務レベル」 を要求します。しかし即戦力という主張は、プロ野球でいうならば、シーズンオフからキャンプ抜きでシリーズに突入するようなものです。身体が対応しないし怪我が続発するのがはっきりしています。やはりリハビリ勤務・試し出勤による慣らしが必要です。

 使用者が悪意はなくても “腫れ物に触れるような” 対応をしていると復職者は不安だけではなく不信感を持ち、嫌がられていると受け止めてしまうことがあります。使用者はお互いにとって新たな挑戦なので職場全体で成功させようと宣言した上で、要望・希望があったら遠慮なくいってほしいと伝えると復職者は安心します。
 逆に、復職者がさまざまな要求を主張することがあります。なかには無理なこともあります。それは休職前から職場で孤立していたことにたいする不安・恐怖の別の表現だったりします。解消のためには孤立させないためにフォローする人格をきめてケアすることを伝えて了承を得る必要があります。

 復職は一度失敗すると自信を失い繰り返してしまいます。一度目の復職を慎重に対応し成功させることが大切です。成功した体験は労使の財産となり他の労働者も安心をえられます。
 復職を成功させるためには使用者も労働者も変わらなければ (成長しなければ) なりません。

   「訪問販売意識調査」
   「活動報告」 2015.9.28
   「活動報告」 2012.2.10
  当センター「いじめメンタルヘルス労働者支援センター」ホームページ・ご相談はこちらから
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