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労働時間は 「どのくらい長いか」 だけでなく                                      「どのように長いのか」 の検討も
2016/12/13(Tue)
 12月13日 (火)

 今、長時間労働が問題になっていますが、実態としては蔓延している職場とそうでないところが二極化しています。厚労省や総務省が発表する数値はそれらを合わせた平均です。
 メンタルヘルスの問題は労働基準法の基準による長時間労働だけでは語れません。この間の労災認定の状況も、長時間労働に起因しない案件が半数以上を占めています。ではどのように捉える必要があるのでしょうか。
 労働政策研究・研修機構はこの11月、労働政策研究報告書 「働き方の二極化と正社員 -JILPアンケート調査二次分析結果-」 を発表しました。研究の目的は 「正社員の働き方をめぐっても、長時間労働・残業、それに伴うストレスや健康への影響、転勤による家庭生活への支障等、様々な問題が指摘され、正社員と非正規雇用労働者の働き方の二極化の解消が求められている」 なかで 「正社員と非正規雇用労働者の働き方の二極化の解消のために必要な方策を示す」 ことです。
 その中から第5章 「若手正社員の仕事における心理的負荷の所在」 について見てみます。

 問題提起です。
「20代後半から30代の男性正社員の約3割、20代前半の女性正社員の約1割が週60時間以上就業している。こうした正社員の過重労働の背景には、ノルマや成果主義、人員削減に加え、職場の非正規化が進んだことで少 数の正社員に管理業務が集中し、過重な負荷がかかっていることも考えられる。」
「メンタルヘルスを毀損する過重労働についての社会科学系の先行研究では、長時間労働の影響に中心的な関心があった。……時間の長さだけにフォーカスするのでは不足する。メンタルヘルスに関わる過重労働を、労働時間の 『長さ』 以外も含め捉えなおす必要がある。これは、過重労働に関し、『労働時間の量』 (どの程度長ければ問題か) とともに、『労働時間の質』 (どのように長いと問題になるのか) を問うこととも言い換えられよう。」
「当然、こうした働き方の中身と言うべき 『労働時間の質』 は、職種・業種等によって大きく異なろう。先行研究では、メンタルヘルスに対して、サービス残業、要求度の高い仕事、 仕事の裁量性、成果主義的管理などの影響が検証されているものの、こうした働き方の問題は、業務の性質や雇用管理のあり方と関連が強く、どのような業種でも一律に問題になるというより、特定の業種に偏って存在すると考えられる。」

「心理的負荷の程度を業種別にみると、製造業や建設業に比べ、サービス業の多くの業種で心理的負荷が大きいが、特に 『宿泊業、飲食サービス業』 『教育、学習支援業』 『金融業、保険業』 では、他の業種に比べて心理的負荷が大きい。これらの業種では、メンタルヘルス不調に陥るリスクと隣り合わせの状況で働いている者が多いことがうかがえる。では、仕事における心理的負荷には何が関係するのか。まず、残業時間別に心理的負荷の程度をみると、残業時間が長いほど心理的負荷が大きいという関係が示される。特に1ヵ月の残業時間が60時間以上の場合、心理的負荷はきわだって大きい。全体としてみると、残業時間の長さと心理的負荷の関係は強いことがうかがえる。」


 調査から浮かび上がってきた具体的実態です。
「1ヵ月の残業時間が60時間以上の割合を業種別にみると、『教育、学習支援業』 で長時間残業者の割合が最も高く、『建設業』 『情報通信業』 『運輸業、郵便業』 などが次ぐ。心理的負荷の程度を業種別と見比べると、『教育、学習支援業』 は残業時間が長く心理的負荷も大きいが、同じく心理的負荷の大きい 『宿泊業、飲食サービス業』 『金融業、保険業』 は、残業時間の長い業種とは必ずしも言えない。逆に、『建設業』 は残業時間が長いものの、心理的負荷は大きくない業種といえる。このように、残業時間の長い業種と心理的負荷の大きい業種が必ずしも一致しないことは、心理的負荷に関わる要素が労働時間の 『長さ』 だけに還元できないことを示唆する。つまり、……『どのように長いと問題になるのか』 という労働時間の質的側面を同時に問わなくてはならない。」

「まず 『職場や会社の問題』 として指摘されるものの業種による違いから、業種によって問題の重心がどう異なるのかをみよう。『労働時間』 については業種を問わず広く指摘されるものの、特に 『教育、学習支援業』 で多く指摘され、『宿泊業、飲食サービス業』 『運輸業、郵便業』 『情報通信業』 が続く。『休日・休暇』 については、『宿泊業、飲食サービス業』 で最も多く指摘され、『小売業』 『医療、福祉』 『生活関連サービス業、娯楽業』 が続く。『ノルマや成果、進捗管理』 については、『金融業、保険業』 で指摘される割合が突出して高い。働く者が考える職場の問題について、業種による重心の相違がうかがえる。」
 「ノルマや成果、進捗管理」 については、「金融業、保険業」 が突出し、2位の 「製造業」 の3.3倍です。
 逆に、「特に問題はない」 と感じているのはほとんどの業種で3分の1以上を占めます。特に 「電気・ガス・熱供給・水道業」 では半数に近く、「情報通信業」 「製造業」 が続きます。

「労働者が残業する理由にも、業種による違いが大きい。『残業ありの割合』 については、どの業種においても約7~8割の者に残業があり、業種による差は大きくない。一方、残業理由をみると業種による違いが大きい。例えば、『業務量が多い』 ことによる残業は、『教育、学習支援業』 『製造業』 で特に多くみられる。また、『納期にゆとりがない』 は 『情報通信業』 『製造業』 『建設業』 で多く指摘される。『目標値・ノルマが高い』 ことに起因する残業は 『金融業、保険業』 で際立って高い。『人員不足』 に起因する残業は 『宿泊業、飲食サービス業』 で特に多く、『小売業』 が次ぐ。なお、『教育、学習支援業』 では、『業務量が多い』 の他に、『仕事への責任感』 や 『仕事や成果物へのこだわり』 も残業理由として多く指摘されるのが特徴である。」
 このほかに 「収入の確保」 の調査項目があります。高い順に 「運輸・郵便業」 「製造業」 「生活サービス業、娯楽業」 「不動産業、物品賃貸業」 です。賃金が低い業種です。昨今の 「運輸・郵便業」 における事故の多発はここにも原因があります。
 「突発的な仕事」 が全職種で約3割になっています。細かくは分析されていませんが、親会社から子会社への納期指定やサービス業における顧客からの要請への 「お客様は神様です」 の対応があります。


 このような結果を踏まえ、「教育、学習支援業」 では、業務量のみならず仕事への責任感やこだわりも背景とする長時間残業、「宿泊業、飲食サービス業」 では、人員不足に起因して休日・休暇を取れないことが問題、「金融 業、保険業」 では、厳しいノルマ管理、成果管理が中心的問題に焦点を当てて、心理的負荷に関わる過重労働について検討しています。

 「教育、学習支援業」 は、「持ち帰り残業」 が 「よくある」 割合が20%を超え、「ときどきある」 を合わせると、約半数の労働者が行っています。頻繁な持ち帰り残業は、メンタルヘルス不調のリスクも伴っています。
 サービス残業のメンタルヘルスへの悪影響については、報酬が努力と見合わないことによるストレスの増加として説明されていますが、持ち帰り残業はサービス残業と多分に重なります。また、例えば、自宅にまで仕事を持ち込むことによって仕事と仕事以外の生活との境界があいまいになり、一日の仕事に区切りをつけにくいことが家庭生活や意識面に悪影響を及ぼし、メンタルヘルスにも悪影響を及ぼすことが想定できるといいます。同じような問題は、裁量労働においても起きています。

 「宿泊業、飲食サービス業」 は、月間の休日が 「4日以下」 「5~6日」 の割合が高く、平均休日数が最も少ないです。年休取得日数についても、「0日」 の割合が56.8%ときわだって高く最低限の休日・休暇さえも確保しにくい業種と言うことができます。正社員が休日・休暇を取れない背景には、職場の非正規化によって少数の正社員に責任や管理業務が集中していることが関係しています。特に 「役職あり」 の正社員の場合はその傾向にあります。最低限の休暇・休日を確保できないことは、労働者のメンタルヘルスにも関わっています。逆に、年収500万以上の場合に心理的負荷が小さくなっています。
 「4日以下」 が最も多い職種は 「建設業」 です。人員不足は長時間労働、突発的な労働ももたらします。
 逆に、「9日以上」 が最も多かったのは 「金融・保険業」 で8割近くを占め、「情報通信業」 「製造業」 と続きます。

 「金融業、保険業」 を例に成果管理の運用の影響についてです。
 目標管理制度と過重労働との関連でまず着目すべきは、目標設定に関わる業務量の裁量性です。業務量に裁量性が乏しい場合、設定された目標は働く者にとって過大なノルマとなり、メンタルヘルスを毀損させうると考えられます。
 目標管理制度が適用されている割合は 「金融業、保険業」 で最も高い (83.1%)。そのうち 「仕事量の裁量性なし」 の割合も高い (35.3%)。目標管理制度の運用において、目標管理適用と仕事量の裁量性有無別に心理的負荷の程度をみると 「目標管理の適用なし」 に比べて、特に 「仕事量の裁量性なし [目標 管理適用]」 の者で心理的負荷が大きくなっています。
 従業員間の競争が激しくなる可能性についてです。
 目標管理制度が適用され、成果・業績が月給に反映されている割合は、「金融業、保険業」 でその割合が最も高く、「情報通信業」 が次ぎます。こうした業種では、個々の成果・業績を自身の月給に反映させるような業績評価の運用がなされる場合が多いです。そして、個人の成果・業績を月給に反映する運用は、従業員間の競争を激しくする可能性 があります。
 従業員間競争の激しさを業種別にみると 「金融業、保険業」 で 「非常に激しい」 「やや激しい」 の割合が際立っています。そして、「金融業、保険業」 において、業績の月給反映有無別に、従業員間競争が激しい割合をみると、「成果・業績の月給反映あり」 の場合に、従業員間競争 「非常に激しい」 「やや激しい」 が合わせて5割を超えます。「目標管理の適用なし」 に比べ、特に 「成果・業績の月給反映あり」 の場合に心理的負荷が 高くなっています。
 つまり、目標管理制度の適用より、ひとつには目標設定に関わる業務量に裁量性がない場合、もうひとつは個人の成果・業績を処遇に反映させる際に、(賞与にとどまらず) 月給に反映させる運用の場合に、心理的負荷が高まる構図があります。


 このようなことを踏まえて分析結果の要約がおこなわれています。
①仕事における心理的負荷の度合いは業種によって差があり、建設業・製造業よりもサービス業に属する業種、特に 「宿泊・飲食サービス業」 「教育、学習支援業」 「金融業、保険業」 で大きい。
②心理的負荷に関わる問題として、「業務量などに起因する長時間残業」 「休日・休暇の確保 困難」 「成果管理に関わる問題」 の3つが切り出せるが、それぞれを中心的問題とする業種は異なる。
③ 業務量や責任感に起因する長時間残業は、「教育、学習支援業」 で特徴的にみられる。ただ、メンタルヘルス上の問題は、残業の長さというより、むしろ 「持ち帰り残業」 という残業の性格にある。
④最低限 の休日・休暇を確保できない問題は、「宿泊業、飲食サービス業」 で顕著にみられる。休日が少ない場合、年次有給休暇を全く取得できない場合に、心理的負荷が大きくなる。この背景は、人手不足や要員管理に起因する部分もあるが、職場の非正社員比率の高まりも関係する可能性がある。
⑤成果管理にともなう問題は、「金融業、保険業」 で特徴的にみられる。目標管理制度の適用それ自体と言うより、仕事量の裁量性を伴わない目標設定が心理的負荷を大きくするほか、個人の成果・業績を月給に反映する運用が激しい従業員間競争を呼び込み、働く者の心理的負荷を高めていた。


 労働者のメンタルヘルスを保つ上では長時間労働が解消されるべきであることは異論がありませんが、そのうえで、 「どのように長いのか」 といった 「労働時間の質的側面」 に関わる要素も検討されて対策がとられなければなりません。

 なお、現在厚労省が開催している 「仕事と生活の調和のための時間外労働規制に関する検討会」 には別の調査によって作成された 「長時間労働の指摘がある業種・職種の実態について (例)」 などが提出されています。
 また、国土交通省自動車局は、バス事業者を対象とした 「改善基準告示」 などに関する運用実態調査の結果を発表しました。


   「長時間労働の指摘がある業種・職種の実態について (例)」
   「長時間労働問題」
   「活動報告」 2016.12.2
   「活動報告」 2016.11.29
   「活動報告」 2016.10.25
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