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「同一労働同一賃金」 の修正が始まった
2016/12/28(Wed)
12月28日 (水)

 政府は、12月20日の働き方改革実現会議で非正規労働者の処遇改善を目指した 「同一労働同一賃金ガイドライン (指針)」 案を発表しました。
 前文には 「このような正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差の解消の取り組みを通じて、どのような雇用形態を選択しても納得が得られる処遇を受けられ、多様な働き方を自由に選択できるようにし、我が国から 『非正規』 という言葉を一掃することを目指すものである。」 とあります。
 非正規のうち有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者を対象に正社員との格差是正を企業に求めます。待遇は基本給、賞与・手当、福利厚生、教育訓練・安全管理の4項目に分類して合理的な差、非合理な差について具体的な事例をあげて説明しました。
 賃金の大きな比重を占める基本給は (1) 職業経験や能力 (2) 業績・成果 (3) 勤続年数――の3要素の基準を設定し、それぞれの要素で働き方を評価し、雇用形態にとらわれない基本給を払うよう促し、正社員と非正規で評価が同じであれば同水準の支給を原則としながら、違いがある場合はその違いに応じた支給を求めています。

 翌日のマスコミ各紙は実効性が伴うのかの合唱でした。
 さらに逃げ道・抜け穴を教示がはじまっています。労働者・労働組合はそれを許さない取り組みが必要です。注意喚起を含めて紹介します。

 具体的見解です。
 12月26日のダイヤモンド・オンラインは、現在ビジネス研究所長八代尚宏の寄稿 「働き方改革が目指す 『同一労働同一賃金』 はなぜ実現しないのか」を載せました。
「競争的な労働市場では、賃金の低い企業から高い企業へと労働者が移動することで、賃金格差は自然に解消される。同一労働同一賃金が実現しないのは、そうした労働移動を妨げる障壁があるためで、それが何かを示し、取り除くための処方箋を描くのが、本来のガイドラインの役割である。
 このカギとなるのが 『雇用の流動化』 である。しかし、この肝心の点が報告書ではほとんど触れられていない。これは、(1) 賃金は正社員主体の労働組合と使用者との合意で決める、(2) 労使協調をもたらす固定的な雇用慣行の堅持、(3) その範囲内で非正社員にできる範囲のことだけするという 『労使自治の原則』 が、暗黙の前提となっているためだ。」
「日本の短時間労働者の時間当たり賃金はフルタイムの正社員の6割弱と、欧州主要国の8~9割と比べて大きい。これは主として若年層で小さく中高年層で大きい、正社員の年功賃金カーブから生じている。この年功賃金を所与として、どうすれば非正社員との賃金格差を縮小できるのだろうか。
 仮に勤続年数の等しい非正社員に正社員と同じ年功賃金を適用しても大きな意味はない。有期雇用の非正社員にとって、年功賃金のメリットが生じる前に雇用が中断され易いからである。」
「企業内訓練を通じた労働生産性の上昇は、年齢が高まるほど個人間のばらつきも拡大する。過去の高い成長期に大企業を中心に普及した年功賃金は、今日の低成長期には社員間の生産性に見合わない賃金格差の主因となる。日本企業でも個人の仕事の概念を明確化して、これまで避けてきた人事評価に本格的に取り組む時期に来ている。」

 指針の実効性に、当然のことですが非正規労働者は大きな期待を持っています。正規労働者既得権を防衛意識が働きます。
 八代の見解は思い込みで、翻弄されたら危険です。雇用の流動化が同一労働同一賃金を実現させる、非正規労働者の要望が実現しないのは 「労使自治の原則」 による労働組合との集団的労働契約が存在するからだと説明し、その解体を提案します。そうすると年功序列の賃金制度も解体され、高齢者の賃金分が非正規に回されるという主張です。逃げ道が閉ざされた高齢者が攻撃の対象になっています。
 確かに現在の企業内組合の多くは非正規労働者を組織しないで正規労働者の利益だけを主張しています。その弱点が突かれていますが、だからといって労働組合・労使自治が不要ということではありません。労働組合・労使自治が解体されたらこれまで以上に労働者がバラバラにして管理され孤立化が進みます。労働者の賃金は 「流動化」 して不安定な状態におかれます。非正規労働者の正規労働者化ではなく、正規労働者の現在の非正規労働者化が進みます。「雇用の流動化」 は少数の勝ち組と多数の負け組を生み出すことが想定されます。


 12月21日の日経新聞は 「政府 『同一賃金』 へ指針 非正規の格差是正促す」 の見出し記事を載せました。
「もっとも、企業と働き手の生産性が高まらなければ、企業の稼ぎは増えず、非正規職員の給料を上げるための原資は得られない。同一労働同一賃金とともに、時間でなく成果で賃金を払う脱時間給の導入などを一体で実現する必要があるが、関連法案は国会で棚ざらしになったままだ。
 同一労働同一賃金は非正規労働者の処遇改善にどの程度の効果があるのか。賃金の多くを占める基本給の格差を縮める効果は、今のところ限定的になるとの見方が多い。
 指針は基本給を 『職業経験や能力』 『業績・成果』 『勤続年数』 の3つの要素に分類した。例えば入社以降の経験や能力が同じであれば、非正規の職員という理由だけで待遇を正社員より低くしないように求めている。
 ただ、指針は経験や能力などが同じかどうかの基準を示しておらず、企業が自ら判断することになる。対応はばらつきが予想され、いまの仕組みを変更しない判断をする企業も多いとみられる。」

 生産性を高めて原資を得るためには、成果で賃金を払う脱時間給の導入を実現する必要がある、働いた時間ではなく成果に応じて賃金を払う 「ホワイトカラー・エグゼンプション」 の導入が不可欠だという主張です。現在の 「ホワイトカラー・エグゼンプション」 法案は対象者が年収によって制限されていますが、ゆくゆくは制限が下降していくのは明らかです。すでに導入している企業も存在します。
 しかし自己に対する高い評価の期待はそれ相応の無理を強制され競争が進みます。ホワイトカラー・エグゼンプションは 「過労死促進の労働時間制度」 です。高い成果への評価の期待の先には、労働できない結果が存在するという負の教訓が共有されていません。本質的には労働者のことを考えないで企業利益だけが優先されています。


 「プレジデント」 12月23日号は 「『賃金節約』 要員の非正社員に企業は本当にボーナスを出すのか?」 の見出し記事を載せています。
 最初に厚労省による2015年の調査結果 「非正規を雇う理由は 『賃金の節約のため』」 の表を紹介しています。「賃金の節約のため」 38.8%、「1日、週の中の仕事の繁閑に対応するため」 33.4%、「即戦力・能力のある人材を確保するため」 31.1%などです。つまりは初めから均等待遇は難しいということを遠回しに主張しています。
 そして逃げ道を教示しています。
「とくにボーナスは上がる可能性がある。……だが、会社の業績などへの貢献度に応じて支給している場合、指針ではこう言っている。
『無期雇用フルタイム労働者と同一の貢献である有期雇用労働者又はパートタイム労働者には、貢献に応じた部分につき、同一の支給をしなければならない。また、貢献に一定の違いがある場合においては、その相違に応じた支給をしなければならない』
 つまり、正社員と同じ貢献をしていれば同額を支給しなさい、貢献度が違うのであれば、それに見合った金額を支給しなさいと言っているのだ。」
「『正社員と同一の職業経験・能力を蓄積している非正社員には、職業経験・能力に応じた部分につき、同一の支給をしなければならない。また、蓄積している職業経験・能力に一定の違いがある場合においては、その相違に応じた支給をしなければならない』
  ……
 しかし、この指針では例外も設けている。
 具体的には (1) 総合職という名のキャリアコースの違い、(2) 転勤・職務内容の変更の可能性――の2つである。」

 貢献と成果は違います。貢献は会社が期待した成果が実現したものです。評価は上司の主観により差が付きます。それを容認しています。
 例外としての総合職という名のキャリアコースの違い、転勤・職務内容の変更の可能性は、現在の正規労働者間においても一般職や限定社員という位置づけで処遇がちがっています。さらに細分化した手法を駆使すれば賃金差は認められるという説明です。非正規労働者の改善の基準は一般職や限定社員です。


 12月27日の 『ダイヤモンド・オンライン』 は 「同一労働同一賃金の議論に足りない 『労働結果の評価法』 の視点」 の見出し記事を載せました。
「一番重要なのは、『同一労働同一賃金』 の実現によって非正規社員の待遇が改善され、わが国労働力の生産性が向上することではないだろうか。だとすれば、明らかに議論が不足している領域がある。それは、パフォーマンスマネジメントだ。
 そもそも、『同一労働同一賃金』 の考え方は、『同一労働とは何か』 ということを明確に定義する必要がある。そして、ここでいう同一労働とは、私の考えでは、労働する内容の定義であったり、労働する内容の予定であったりするのではなく、労働した結果だ。」
「ただし、現在の 『働き方改革実現会議』 の議論の方向性では、本来の趣旨での実現は難しいのではないか。肝心の 『パフォーマンスマネジメントの実現』 という視点が抜けていると感じる」

 「同一労働同一賃金」 は予定ではなく結果論、つまりどのようなパフォーマンス・成果を出したかたかで決定されるべきで、「同一の労働結果」 こそが 「同一の賃金」 であるべきという主張です。12月21日の日経新聞と似ていますが、そもそも 「同一労働同一賃金」 の議論は不毛だという主張です。
 現在の 「同一労働同一賃金」 の議論は生産性が向上しないので正しくない、向上のための正しい評価は結果に対する評価でそのほうが平等だという主張です。しかしパフォーマンスに対する評価制度は確立していませんし、困難です。くりi切り返しますが主観的です。その結果、労働者は会社への献身性という従属が要求されます。
 この主張の危険性は、使用者の労働者使い捨て政策に非正規労働者の側から目先の判断で世論が形成されかねないということです。最終的に現在の議論が歪曲されて到達しかねません。


 12月28日の 「ダイヤモンド・オンライン」 は 「本気で 『非正規』 をなくし、同一労働同一賃金を実現する方法」 の見出し記事を載せています。
「『非正規』 を減らすためには、正社員を増やす必要があり、そのためには企業が正社員を雇う負担を軽減する必要があり、さらにそのためには正社員の 『流動性』 を高める必要がある。
 第一に必要なのは、ルール化された金銭補償で正社員を解雇することを可能にする 『解雇の金銭解決ルール』 制定だろう。
企業の側では予測可能なコストで解雇できるので、需要の変動にも、また採用の失敗の可能性に対しても、これまでよりも積極的にリスクを取って、正社員を雇うことができるようになる。」
「ところで、個人の処遇は、企業と社員が、個別の交渉で決めていいのではないだろうか。業績・成果・経験・能力・人材の将来的な可能性・人材の確保など、企業側が社員の報酬を決める際に考慮したい要素は多数ある。ガイドラインにあるように、同じ業績・成果に対しては同じ処遇でなければならないことをルールで縛ると、柔軟な契約がしにくくなって、企業も社員も不利益を受ける可能性がある。
 企業と社員が個別に報酬を決定する際に、企業は社員に対して納得的な基準を提示する必要が生じるが、この場合に、一番分かりやすいのが 『同一労働同一賃金』 的な考え方をベースとすることだ。
 正社員 (ガイドラインでは 「無期雇用フルタイム労働者」) と非正規労働者の処遇を近づけることよりも、理想を言うなら、全労働者を一定の補償の下に解雇ができる現在よりも流動的な 『正社員』 として一律に扱うようにできれば、雇用形態の違いによる差を気にする必要がなくなる。
 また、全ての正社員の雇用と報酬が柔軟に調整できるようになると、企業にとっても、社員にとっても、よりフェアで効率的な仕事の進め方が可能になるだろう。」

 使用者の願望が先走った本音がストレートに主張されています。「同じ業績・成果に対しては同じ処遇でなければならないことをルールで縛ると、柔軟な契約がしにくくなって、企業も社員も不利益を受ける可能性がある」 はあまりにも乱暴です。
 労働組合との集団的労働契約を破棄して個別交渉にし、納得的な基準を提示するのが一番分かりやすい 「同一労働同一賃金」 的な考えだといいます。そして正規労働者を雇用するのはリスクが大きいので雇用の 「流動性」 を推進するために 「解雇の金銭解決ルール」 制定を急げという主張です。
 企業の社会的責任、労働者保護・生活保障という視点がまったくありません。そのような企業が労働者を大切にすることはありません。


 「同一労働同一賃金」 の議論に 「ホワイトカラー・エグゼンプション」 や 「解雇の金銭解決ルール」 が登場しています。「実効性がない」 指針に実効性を持たせるためと称して今後このような議論が進みかねません。
 しかし、議論の中に労働組合の主張がまったく聞こえてきません。労働組合は非正規労働者の声を聞き、一緒によりよい 「同一労働同一賃金」 を実現させるために具体的行動を進めていかなければなりません。


   「活動報告」 2016.12.6
   「活動報告」 2016.12.2
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『ありがとうございます』 感情労働者が一番欲しい一言です
2016/12/21(Wed)
 12月21 (水)

 12月19日、韓国の緑色病院労働環境健康研究所の任祥赫 (イムサンヒョク) 所長による韓国の 「感情労働 実態と改善方向」 の講演会がありました。主催したのは関西労働安全センターです。
 日本では感情労働で発生する問題への対応は個人や企業に任せられていて社会的課題にはなっていません。「お客様は神様です」 の意識が労働者にも利用者にもあります。
 韓国の対策は日本より数段進んでいます。講演の概要を紹介します。


 感情労働についてです。
 1983年アメリカの社会学者アーリー・ホックシールドは 「外的に観察可能な表情や身振りを作るための感覚の管理」 と定義しました。
 韓国労働部は 「職業上の接客時において、たとえ自分の感情が良いとか悲しいとか腹立つ状況にあっても、会社が要求する感情と表現を顧客に見せることができるなどの顧客応対業務」 と定義しています。
 具体的行為として、感情労働は特定の雰囲気を演出するため、要求される感情を持続的に表現しようと努力します。顧客から刺激や脅威の中でも、感情をおさえつけながら崩れない状態を維持します。言語的暴力や暴力、セクハラに対して自制力と平常心の維持が要求されます。感情が商品化されます。

 研究所が感情労働の問題に取り組むきっかけとなったのは、イギリスの労働組合のキャンペーンを知ってです。デパートの労働は客がいないとき椅子に座っていました。座ることができるのは労働組合・自分たちの力によってです。成功したのは消費者が必要だと思ったからです。疲れない方が労働者のサービスが向上します。
 研究所は接客業のかかえる職場環境を取り上げていきます。
 2010年から感情労働に対する調査を実施します。2011年、国家人権委員会が感情労働問題を取り上げました。
 社会的に大きく取り上げられたのは2013年です。4月、韓国航空に乗った大企業の常務が 「ラーメンをまともに作れなかった」 と女性乗務員に暴行を加える事件が発生、9月には大企業の会長が非正規職の航空保安労働者に暴行をはたらきました。連続する暴力の報道があり社会に知れわたりました。感情労働を遂行する約700万人の顧客対面労働者の精神の健康やストレスが社会的議題として台頭します。
 デパートの労働者は膝まづいて土下座させられたりしていました。サービス連盟と一緒に、社会にむけて何とかしなければならないということになりました。最初に始めたのが立って働く労働者に椅子を差し出すことでした。キャンペーンをしたらマスコミで取り上げられて大成功でした。韓国のデパートには椅子がおいています。

 感情労働の特性です。サービス産業は製品とサービスが結合された商品を販売することであらたな利潤をうみだす産業になりました。企業は顧客応対を労働者に任せるのではなく、サービス内容を標準化して一貫されたサービス品質を維持しようとします。そのためサービス評価に大きな影響をおよぼす感情労働者の言語だけでなく、話し方、態度、行動などの要素までも企業の顧客対応規則に含ませ、職員の感情表現を管理します。顧客満足や顧客サービス (カスタマーサービス) が企業の競争優位を決めるおもな要因の1つとして浮上しています。

 韓国職業能力開発院は2013年に感情労働従事者の現状を質問用紙で調査しました。ストレス度の最高点は5点です。そうすると高い順に、飲食サービス関連職4.13、営業および販売関連職4.1、美容・宿泊・旅行・娯楽、スポーツ関連職4.04、社会福祉および宗教関連職4.02、保健・医療関連職3.98、警備および清掃関連職3.93などでした。
 2013年は公務員の社会福祉従事者の自殺が多く発生しました。政府の政策制度が変わり、貧困な生活者からの苦情にその説明と対応をまかせられました。

 感情労働が多い職業の30選です。ストレス度が高い順に航空機客室乗務員4.70、広報アシスタントおよび販促員4.60、通信サービス・移動通信機販売員4.50、葬儀相談員および葬儀指導士4.49、アナウンサーおよびリポーター4.46、飲食サービス関連管理者4.44などの順です。テレフォンマーケッターは4.35です。

 感情労働は否定的効果が発生します。例えば、感情的不調和で自我の二重化が出てきます。低い職務満足で高い職務ストレスが発生しています。精神的枯渇は燃え尽き感を発生させます。高い離職率なります。飲酒、喫煙、薬物、賭博中毒など不健康な生活習慣に陥ります。適応障害、うつ病、外傷性ストレス障害、恐怖障害、自殺に陥ります。免疫機能の障害になります。そしてサービス産業の 「サービス」 の弱化になっていきます。コールセンターの女性の50%がタバコを吸っていました。


 2013年にサービス連盟と一緒に、過去1年間に2000人を対象に顧客から受けた被害などの調査をしました。その結果です。
人格を無視された経験86.74%、無理な要求をされた経験79.81%、罵声や暴言を受けた経験79.69、身体の脅威にあった経験46.1%、セクハラ、性的接触を受けた経験29.71%、暴行された経験12.8%などです。
 そのことを会社に知らせたときの反応です。加害者に法的責任を問えるよう支援してくれた3.62%、言葉で慰めてくれた43.28%、そのまま我慢しろといわれた33.90%、是非を正さず、顧客に無条件に謝れといわれた19.64%、かえって自分に人事上の不利益が来た3.27%です。
 逆に被害の事実を知らせない理由です。話すのが恥ずかしい3.14%、話したところで別に対策を立ててくれないようなので82.81%、却って自分に不利益が回るようで8.05%です。10%の労働者は同僚には話しています。
 感情労働者の鬱のレベルです。K-BDI分類で正常25.69、軽いうつ状態27.07%、中等度のうつ状態31.88%、ひどい鬱状態15.36%でした。


 なぜ韓国で感情労働が問題になるのでしょうか。
 企業の経営戦略として消費者の過剰な利益意識を誘発します。
 位階を重視する集団主義文化があります。
 家父長的な儒教文化があります。女性の犠牲と奉仕が要求される家事労働があります。
 尊敬されるお金持ちがいない社会です。
 感情労働者は女性労働者、非正規労働者になっています。
 業務に関連した反人権的モニタリング、覆面調査があります。
 職務教育ではない感情労働を強要する親切教育があります。
 無条件な謝罪が強制され、支持・支援のシステムが欠如しています。

 例えばロッテデパートの管理マニュアルです。
 カ、基本姿勢
 (7) 顧客が正しければ過失を認め、すぐに謝罪。反対なら顧客の対面を最大限いかして説得。
 (8) いかなる場合にも論争自体に対しては顧客に深く謝罪。
 ナ、状況別対応方法
 (2) 職員が不親切であると不満に思う場合
 -職員は弁明や言い訳をせず、顧客にすぐに謝罪。管理者ももう一度謝罪。
 (4) 職員のミスによって顧客が怒っている場合
 -まず周囲すべての顧客に謝罪。
 -ミスに対する会社の処理指針を知らせる。周囲のすべての顧客が認知するように。
 -状況が完了後、もう一度丁寧に謝罪。

 さまざまな消費者がいます。
 ブラックコンシューマーと呼ばれる、企業を相手に購買した商品やサービスに対して補償金などを目的に意図的に悪性な要求をする消費者です。
 意図的にあるいは偶然に、サービス組織とは別の顧客に否定的な影響をおよぼし、サービスを混乱させる不良消費者がいます。また、顧客という力の優位を保ち、感情労働者にいわゆる 「力関係の濫用」 をする消費者がいます。
 顧客サービスの原則なしに、顧客の過度な要求も無条件に受け入れた企業の経営方針によって、消費者は 「大声を出さなければむしろ損害を被る」 と考えるようになり、ますます過度な要求をするようになりました。これが結局、問題のある消費者をますます増加させています。

 消費者に対して2015年に調査をしました。感情労働者への不満は、よくある6.6%、時々ある60.8%、ほとんどない24.4%、まったくない8.2%です。


 労働者が顧客対面労働をしながらストレスを感じることの1位が無視 (ぞんざいな言葉) 40.1%、つづいて不当な要求37.6%、督促12.7%です。
 逆に消費者がストレスを感じるのは無視 (ぞんざいな言葉) 60.2%、不当な要求20.4%です。

 労働者、消費者双方にとってサービスがまともに成り立たない理由についてです。
 長時間待たせたことについては、労働者29.6%、消費者18.2%、必要な情報を知らせなかったについては、労働者23.5%、消費者26.7%、必要とするサービスの内容について理解できないようだったから、労働者14.2%、消費者20.6%、解決せず、サービスを他の人に回したから腹が立った、労働者16.1%、消費者19.2%です。

 労働者がサービスをまともに提供できない理由につてです。人手が足りなくて忙しいから42.7%、低い労働条件の上に雇用も不安定で、頑張ろうという気になれない33.6%、教育訓練をちゃんと受けていないから15.7%です。

 消費者と労働者が求めている共通点があります。
 労働者は正確な情報を提供するために、教育訓練を受けることを願い、消費者も同じです。
 消費者は安っぽい親切より、正確で合理的な業務処理を希望しています。
 労働者はより良いサービスを提供するため、雇用不安、低い労働条件、人員不足が解決されることを願っています。
 消費者からのクレームを専門的に処理する体系が作られることを希望しています。
 職員の言語使用、話し方、態度、行動などを規制して管理するのではなく、職員のサービスの質を高める考察や研究が必要です。
 労働者がアイデンティティを持つこと、組織が自分をどんなに大事に思っているのか、自分が重要な役目をする人だと認められることを知ることが必要です。

 企業が問題を解決することの必要性です。
 生産性と効率性が増加します。当該企業に対する社会的、国際的な評判が改善します。
 精神健康に対する法律上の規定があります。(社会、団体) 協約に明示する必要があります。
 生産性と効率性の増かについてです。ブラックコンシューマ―による経済的被害は売上高対比で12.4%のデータがあります。

 防止のためには枠組み合意が必要です。
 労働組合がある大企業では労使合意で施行しています。しかしまだ大部分は、感情労働手当などにとどまっています。EAP導入、感情労働休暇などが徐々に増加される傾向にあります。労使合意の感情労働対応マニュアルを作ったところもあります。

 人権保護のため法的規制が必要です。感情労働者を守るのは事業主 (元請事業主) の責任です。労働者にとっては予防と対応をとらなければなりません。

 ソウル市は、2016年 「ソウル特別市感情労働従事者の権利保護などに関する条例」 を制定し2017年から施行されます。
 具体的には、ソウル市に感情労働者の勤労環境改善計画の樹立を義務付けています。
 機関別マニュアル作成も義務付けられますがその中には、「甚だしく不当な要求をする顧客の場合、顧客の要求に応じない権利を保障」 「不当な待遇にあった感情労働従事者の業務中断時間に関する事項」 なども盛り込まれています。
 さらに、「ソウル市感情労働従事者権利保護センター」 を設置することが義務付けられています。
 ソウル以外でも光州など3つの自治体で同じ動きがあります。

 2枚のポスターが紹介されました。1枚は警察に貼られているものです。「相手方の人権を無視する大声、悪口などの言語暴力も処罰される場合があります」。もう1枚は国家人権委員会が作成したものです。「『ありがとうございます』 感情労働者が一番欲しい一言です」

 韓国の感情労働に対する取り組みの特徴です。感情労働者は女性労働者、非正規労働者が多く、劣悪な労働環境、労働条件のなかにおかれているという調査結果の中でその改善の必要性を強調しています。労働者、消費者個人の問題ではなく構造的問題ということです。
 調査においては、労働者だけでなく消費者からも要望を聞き出す取り組みをして改善点を洗い出しています。
 その中で労働者の人権を守ることを起点にしています。
 そして、一企業だけではなく社会的取り組みが必要ということで企業に働きかけて労使協定を締結したり、ソウル市の条例制定に至っています。

 日本での取り組みの課題が示されています。


   「感情労働」
   「海外のメンタルヘルス・ケア」
   「活動報告」 2016.9.27
   「活動報告」 2016.5.31
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長時間労働は1業種、1企業、1職種だけで解決できない
2016/12/16(Fri)
 12月16日 (金)

 長時間労働が問題になっています。解消はかけ声だけでは難しいです。実際は業種によって二極化しています。さらには業種内でもそうなっています。
 現在厚労省が開催している 「仕事と生活の調和のための時間外労働規制に関する検討会」 に資料 「長時間労働の指摘がある業種・職種の実態について (例)」 が提出されました。検討してみます。
 建設業は、1週間の労働時間が60時間以上の者が11%、49時間~59時間が16%、43時間未満が45%です。1日当りの平均労働時間は年齢層別・役職別にかかわらず「7時間超8時間以下」 と 「8時間超9時間以下」 で約7割を占めます。10時間超が全体で4%です。週労働が多い割には1日の労働時間が短いということは休日労働になっているということです。
 残業・休日作業を実施している現場は全体の3.1%になっています。理由は 「前工程の工事遅延」 23.8%、「無理な発注」 15.9%、「昼間時間帯の工事の制約」 15.9%、「天候不順」 15.1%の順です。1日あたりの長時間労働が少ない理由の 「昼間時間帯の工事の制約」 は、地域住民による制限が長時間労働を防いでいます。

 トラック運送業は、1週間の労働時間60時間超40%、49時間~59時間25%、43時間~48時間21%です。この調査への回答は100万人を超えています。荷役作業が平均2時間40分以上あります。手待ち時間がある運行での拘束時間は、手待ち時間がない運行と比べて平均拘束時間が2時間弱長くなっています。
 今、ドライバー不足が問題になっています。ドライバーが不足している場合の事業者の対応 (複数回答) は、「下請・傭車で対応」 78.4%、「事務職・管理職で対応」 52.8%、「対応できず輸送を断っている」 47.7%、「ドライバーの休日出勤で対応」 38%、「ドライバーの早出残業で対応」 24.5%です。事業者としても切実な状況があります。労働者は必然的に長時間労働になってしまいます。
 では労働時間短縮に向けて、トラック運送事業者が荷主側で必要と思われることについてです (複数回答)。「配達先での手待ち時間削減への口添え」 59.2%、「出荷時間の厳守・後倒し」 53.5%、「配達先への配達指定時刻の延長・柔軟化」 52.8%、「荷役作業の削減・解放」 45.4%、「発注時刻の厳守・後倒し」 43.4%、「荷役の機械化等による荷役時間の削減」 35%が挙げられています。
 トラック事業者・運転手側の問題だけでなく発荷主、着荷主の事情がドライバーに大きな影響を与えています。さらに発荷主、着荷主に連鎖する問題も改善される必要があります。

 医師についてです。1か月の時間外労働は、80時間以上8.1%、50時間~80時間14.2%、20時間~50時間31.5%となっています。平均34.1時間です。
 年齢別の1か月の時間外労働時間数は、20歳~30歳未満は80時間以上が32.3%でもっとも多く、それ以外の年齢層では20時間~50時間以下が30%前後をしめています。
 理由は、「緊急対応」 64.8%、「手術や外来対応等の延長」 57.7%、「記録・報告書作成や書類の整理」 55.6%、「会議・勉強会・研修会等への参加」 42.5%の順です。医師は当直や夜勤もあります。
 休日・休暇の実態です。1か月の休日に数は、0日11.4%、1~3日14.6%、4~7日47.0%、8日16.3%、9日以上10.7%です。
 かなりの過酷な状況があります。

 看護師です。1か月の時間外労働は50時間以上1.3%、20時間~50時間8.2%、10時間~20時間15.5%、5時間~10時間19.5%、0時間~5時間38.4%です。年齢別の1か月の時間外労働は大きな違いはありません。
 理由は、「記録・報告書作成や書類の整理」 71.8%、「会議・勉強会・研修会等への参加」 42.7%、「緊急対応」 41.5%、「勤務開始前の準備」 23.9%です。
 休日・休暇の実態です。1か月の休日に数は、0日0.7%、1~3日0.6%、4~7日6.8%、8日22.7%、9日~10日51.8%、11日~12日14.8%、13日以上2.6%です。
 かつては看護師不足がいわれ、過酷な労働現場といわれましたがかなり改善されています。


 2015年における1週間の就業時間が60時間以上の業種別の割合です。
 最も多いのは、運輸業,郵便業18.3%で、建設業11.5%、教育・学習支援業11.2%の順です。
 2010年と比べると情報通信は12.5%から3.3%、金融業・保険業は7.7%から2.2%下がっています。情報産業は10年前は長時間労働の巣窟でしたが過当競争のなかで 「勝ち組」 に淘汰されました。

 1週間の就業時間が60時間以上の職種別の割合です。
 医師41.8%、自動車運転従事者39.9%、生活衛生サービス職業従事者35.1%、飲食物調理従事者34.4%、輸送・機械運転従事者30.8%、教員23.6%、販売従事者20.0%の順です。

 さらに1か月の法定時間外労働の最長の者の事業場割合の100時間以上の事業所の割合です。
 飲食品製造2.1%、貨物取扱業2.6%、映画・演劇業2.4%、旅館業1.9%、飲食店の1.8%、金融広告業1.8%の順です。

 1週間の就業時間が60時間以上の職種別、1か月の法定時間外労働の最長の者の事業場割合とも大企業・中小企業の差はさほどありません。


 別の調査資料です。
 国土交通省自動車局は、バス事業者を対象とした 「改善基準告示」 などに関する運用実態調査の結果を発表しました。乗り合いバス事業者25社 (大手13、中小12) と貸切りバス事業者25社 (大手12、中小13) にヒアリングを実施し、さらに運転者250名にアンケート調査をおこなったものです。(調査時期は2014年7月~8月)アンケート調査の対象が少なすぎますのでバス事業者の全体像にはなりません。

 事業者へのヒアリングによれば、運転者の年齢構成は40代が37%で最も多く、次いで50代が28%、30代が19%、60代が12%となっています。時間外・休日労働に関する取り決めについては、9割以上の事業者が所定労働時間や休日、労働させることができる休日を定めています。また、始業・終業時刻を定めているのは78%、休憩時間を定めている事業者は84%です。
 ただし、1か月の勤務日数、1日の休息時間、1日の運転時間、連続運転時間、連続勤務の回数については6~7割の事業者が 「定めていない」 と回答しています。昼夜混在勤務の回数については88%が 「定めていない」 です。 
 高齢運転者に対する特例・運用上の配慮をおこなう事業者は4割、持病を抱えている運転者に対する特例・配慮を行う事業者は3割。夜勤後の休息時間や連続勤務者に対する特例・配慮についてはそれぞれ22%のみが 「(配慮) あり」 です。一方、一定以上の時間外・休日労働を行った場合の疲労度をチェックする体制については、6割が 「チェック体制がある」 と回答しています。

 運転者へのアンケート結果です。
 通算勤務年数の比率が最も多かったのは20年以上31.9%。次いで5年以上10年未満が21.4%、10年以上15年未満が18.1%です。
 運転者の労働時間に関する質問では、1日の平均的な拘束時間 (ワンマン業務の場合) は12~13時間が20.6%と最も多く、次いで10~11時間18.5%が続きました。1日の実運転時間 (休憩時間を除く) では、6~7時間32.3%が最多です。5~6時間30.2%、7~8時間21.8%と続き、8~9時間が7.7%でした。
 直近1か月の休日数については、5~6日が42.3%、7~8日30.2%とづづきますが、3~4日も24.2%です。13日以上の連続勤務については、約6割が 「連続勤務はほとんどない」 とする一方で、「連続勤務が恒常的にある」 が5.6%、「連続勤務は2か月に1回程度ある」 が10.5%を占めました。また、連続運転の間の休憩中に旅客対応をおこなうことがある運転者が47.6% (ときどきある、よくあるの合計) となっています。

 バス事業者の労働時間における二極化と、長時間労働の実態が見えてきます。労働力不足が切実になっています。悪循環を突破する必要があります。
 さらに中小・零細企業では客集めなどで企業間の競争や旅行会社からの要求で下限割れ運賃の契約なども発生し、労働者にとっては賃金をはじめとした労働条件は改善されません。その結果事故も発生しています。
 運輸業と同じような課題が垣間見られます。


 長時間労働は、製造-運送-加工-輸送-販売の流れの後期になるほど、元請から下請への発注、そしてサービス業において強いられ、改善がむずかしくなっています。しわ寄せは発言力が弱い側に押し寄せます。1業種、1企業、1職種だけで解決できない課題もたくさんあります。職場における仕事の見直しだけでは不可能です。
 経済活動における企業に対する統制・規制が必要です。建設業の 「昼間時間帯の工事の制約」 は実効性があります。このような社会的規制も強めていく必要があります。またトラック運送業の 「対応できず輸送を断っている」 は発荷主に改善を求める方法の1つです。無理な要求はしない・できないことを協定し、認識していく必要があります。ガマンは連鎖して慢性化します。
  そのためには労働者・労働組合からの要求、取り組みが不可欠です。“労働のあり方” “働き方・働かせ方”、労働者同士の思いやり、共存・共生に向けた取り組みに挑戦していく必要があります。


   「長時間労働の指摘がある業種・職種の実態について (例)」
   「長時間労働問題」
   「活動報告」 2016.12.13
   「活動報告」 2016.12.2
   「活動報告」 2016.11.29
   「活動報告」 2016.10.25
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労働時間は 「どのくらい長いか」 だけでなく                                      「どのように長いのか」 の検討も
2016/12/13(Tue)
 12月13日 (火)

 今、長時間労働が問題になっていますが、実態としては蔓延している職場とそうでないところが二極化しています。厚労省や総務省が発表する数値はそれらを合わせた平均です。
 メンタルヘルスの問題は労働基準法の基準による長時間労働だけでは語れません。この間の労災認定の状況も、長時間労働に起因しない案件が半数以上を占めています。ではどのように捉える必要があるのでしょうか。
 労働政策研究・研修機構はこの11月、労働政策研究報告書 「働き方の二極化と正社員 -JILPアンケート調査二次分析結果-」 を発表しました。研究の目的は 「正社員の働き方をめぐっても、長時間労働・残業、それに伴うストレスや健康への影響、転勤による家庭生活への支障等、様々な問題が指摘され、正社員と非正規雇用労働者の働き方の二極化の解消が求められている」 なかで 「正社員と非正規雇用労働者の働き方の二極化の解消のために必要な方策を示す」 ことです。
 その中から第5章 「若手正社員の仕事における心理的負荷の所在」 について見てみます。

 問題提起です。
「20代後半から30代の男性正社員の約3割、20代前半の女性正社員の約1割が週60時間以上就業している。こうした正社員の過重労働の背景には、ノルマや成果主義、人員削減に加え、職場の非正規化が進んだことで少 数の正社員に管理業務が集中し、過重な負荷がかかっていることも考えられる。」
「メンタルヘルスを毀損する過重労働についての社会科学系の先行研究では、長時間労働の影響に中心的な関心があった。……時間の長さだけにフォーカスするのでは不足する。メンタルヘルスに関わる過重労働を、労働時間の 『長さ』 以外も含め捉えなおす必要がある。これは、過重労働に関し、『労働時間の量』 (どの程度長ければ問題か) とともに、『労働時間の質』 (どのように長いと問題になるのか) を問うこととも言い換えられよう。」
「当然、こうした働き方の中身と言うべき 『労働時間の質』 は、職種・業種等によって大きく異なろう。先行研究では、メンタルヘルスに対して、サービス残業、要求度の高い仕事、 仕事の裁量性、成果主義的管理などの影響が検証されているものの、こうした働き方の問題は、業務の性質や雇用管理のあり方と関連が強く、どのような業種でも一律に問題になるというより、特定の業種に偏って存在すると考えられる。」

「心理的負荷の程度を業種別にみると、製造業や建設業に比べ、サービス業の多くの業種で心理的負荷が大きいが、特に 『宿泊業、飲食サービス業』 『教育、学習支援業』 『金融業、保険業』 では、他の業種に比べて心理的負荷が大きい。これらの業種では、メンタルヘルス不調に陥るリスクと隣り合わせの状況で働いている者が多いことがうかがえる。では、仕事における心理的負荷には何が関係するのか。まず、残業時間別に心理的負荷の程度をみると、残業時間が長いほど心理的負荷が大きいという関係が示される。特に1ヵ月の残業時間が60時間以上の場合、心理的負荷はきわだって大きい。全体としてみると、残業時間の長さと心理的負荷の関係は強いことがうかがえる。」


 調査から浮かび上がってきた具体的実態です。
「1ヵ月の残業時間が60時間以上の割合を業種別にみると、『教育、学習支援業』 で長時間残業者の割合が最も高く、『建設業』 『情報通信業』 『運輸業、郵便業』 などが次ぐ。心理的負荷の程度を業種別と見比べると、『教育、学習支援業』 は残業時間が長く心理的負荷も大きいが、同じく心理的負荷の大きい 『宿泊業、飲食サービス業』 『金融業、保険業』 は、残業時間の長い業種とは必ずしも言えない。逆に、『建設業』 は残業時間が長いものの、心理的負荷は大きくない業種といえる。このように、残業時間の長い業種と心理的負荷の大きい業種が必ずしも一致しないことは、心理的負荷に関わる要素が労働時間の 『長さ』 だけに還元できないことを示唆する。つまり、……『どのように長いと問題になるのか』 という労働時間の質的側面を同時に問わなくてはならない。」

「まず 『職場や会社の問題』 として指摘されるものの業種による違いから、業種によって問題の重心がどう異なるのかをみよう。『労働時間』 については業種を問わず広く指摘されるものの、特に 『教育、学習支援業』 で多く指摘され、『宿泊業、飲食サービス業』 『運輸業、郵便業』 『情報通信業』 が続く。『休日・休暇』 については、『宿泊業、飲食サービス業』 で最も多く指摘され、『小売業』 『医療、福祉』 『生活関連サービス業、娯楽業』 が続く。『ノルマや成果、進捗管理』 については、『金融業、保険業』 で指摘される割合が突出して高い。働く者が考える職場の問題について、業種による重心の相違がうかがえる。」
 「ノルマや成果、進捗管理」 については、「金融業、保険業」 が突出し、2位の 「製造業」 の3.3倍です。
 逆に、「特に問題はない」 と感じているのはほとんどの業種で3分の1以上を占めます。特に 「電気・ガス・熱供給・水道業」 では半数に近く、「情報通信業」 「製造業」 が続きます。

「労働者が残業する理由にも、業種による違いが大きい。『残業ありの割合』 については、どの業種においても約7~8割の者に残業があり、業種による差は大きくない。一方、残業理由をみると業種による違いが大きい。例えば、『業務量が多い』 ことによる残業は、『教育、学習支援業』 『製造業』 で特に多くみられる。また、『納期にゆとりがない』 は 『情報通信業』 『製造業』 『建設業』 で多く指摘される。『目標値・ノルマが高い』 ことに起因する残業は 『金融業、保険業』 で際立って高い。『人員不足』 に起因する残業は 『宿泊業、飲食サービス業』 で特に多く、『小売業』 が次ぐ。なお、『教育、学習支援業』 では、『業務量が多い』 の他に、『仕事への責任感』 や 『仕事や成果物へのこだわり』 も残業理由として多く指摘されるのが特徴である。」
 このほかに 「収入の確保」 の調査項目があります。高い順に 「運輸・郵便業」 「製造業」 「生活サービス業、娯楽業」 「不動産業、物品賃貸業」 です。賃金が低い業種です。昨今の 「運輸・郵便業」 における事故の多発はここにも原因があります。
 「突発的な仕事」 が全職種で約3割になっています。細かくは分析されていませんが、親会社から子会社への納期指定やサービス業における顧客からの要請への 「お客様は神様です」 の対応があります。


 このような結果を踏まえ、「教育、学習支援業」 では、業務量のみならず仕事への責任感やこだわりも背景とする長時間残業、「宿泊業、飲食サービス業」 では、人員不足に起因して休日・休暇を取れないことが問題、「金融 業、保険業」 では、厳しいノルマ管理、成果管理が中心的問題に焦点を当てて、心理的負荷に関わる過重労働について検討しています。

 「教育、学習支援業」 は、「持ち帰り残業」 が 「よくある」 割合が20%を超え、「ときどきある」 を合わせると、約半数の労働者が行っています。頻繁な持ち帰り残業は、メンタルヘルス不調のリスクも伴っています。
 サービス残業のメンタルヘルスへの悪影響については、報酬が努力と見合わないことによるストレスの増加として説明されていますが、持ち帰り残業はサービス残業と多分に重なります。また、例えば、自宅にまで仕事を持ち込むことによって仕事と仕事以外の生活との境界があいまいになり、一日の仕事に区切りをつけにくいことが家庭生活や意識面に悪影響を及ぼし、メンタルヘルスにも悪影響を及ぼすことが想定できるといいます。同じような問題は、裁量労働においても起きています。

 「宿泊業、飲食サービス業」 は、月間の休日が 「4日以下」 「5~6日」 の割合が高く、平均休日数が最も少ないです。年休取得日数についても、「0日」 の割合が56.8%ときわだって高く最低限の休日・休暇さえも確保しにくい業種と言うことができます。正社員が休日・休暇を取れない背景には、職場の非正規化によって少数の正社員に責任や管理業務が集中していることが関係しています。特に 「役職あり」 の正社員の場合はその傾向にあります。最低限の休暇・休日を確保できないことは、労働者のメンタルヘルスにも関わっています。逆に、年収500万以上の場合に心理的負荷が小さくなっています。
 「4日以下」 が最も多い職種は 「建設業」 です。人員不足は長時間労働、突発的な労働ももたらします。
 逆に、「9日以上」 が最も多かったのは 「金融・保険業」 で8割近くを占め、「情報通信業」 「製造業」 と続きます。

 「金融業、保険業」 を例に成果管理の運用の影響についてです。
 目標管理制度と過重労働との関連でまず着目すべきは、目標設定に関わる業務量の裁量性です。業務量に裁量性が乏しい場合、設定された目標は働く者にとって過大なノルマとなり、メンタルヘルスを毀損させうると考えられます。
 目標管理制度が適用されている割合は 「金融業、保険業」 で最も高い (83.1%)。そのうち 「仕事量の裁量性なし」 の割合も高い (35.3%)。目標管理制度の運用において、目標管理適用と仕事量の裁量性有無別に心理的負荷の程度をみると 「目標管理の適用なし」 に比べて、特に 「仕事量の裁量性なし [目標 管理適用]」 の者で心理的負荷が大きくなっています。
 従業員間の競争が激しくなる可能性についてです。
 目標管理制度が適用され、成果・業績が月給に反映されている割合は、「金融業、保険業」 でその割合が最も高く、「情報通信業」 が次ぎます。こうした業種では、個々の成果・業績を自身の月給に反映させるような業績評価の運用がなされる場合が多いです。そして、個人の成果・業績を月給に反映する運用は、従業員間の競争を激しくする可能性 があります。
 従業員間競争の激しさを業種別にみると 「金融業、保険業」 で 「非常に激しい」 「やや激しい」 の割合が際立っています。そして、「金融業、保険業」 において、業績の月給反映有無別に、従業員間競争が激しい割合をみると、「成果・業績の月給反映あり」 の場合に、従業員間競争 「非常に激しい」 「やや激しい」 が合わせて5割を超えます。「目標管理の適用なし」 に比べ、特に 「成果・業績の月給反映あり」 の場合に心理的負荷が 高くなっています。
 つまり、目標管理制度の適用より、ひとつには目標設定に関わる業務量に裁量性がない場合、もうひとつは個人の成果・業績を処遇に反映させる際に、(賞与にとどまらず) 月給に反映させる運用の場合に、心理的負荷が高まる構図があります。


 このようなことを踏まえて分析結果の要約がおこなわれています。
①仕事における心理的負荷の度合いは業種によって差があり、建設業・製造業よりもサービス業に属する業種、特に 「宿泊・飲食サービス業」 「教育、学習支援業」 「金融業、保険業」 で大きい。
②心理的負荷に関わる問題として、「業務量などに起因する長時間残業」 「休日・休暇の確保 困難」 「成果管理に関わる問題」 の3つが切り出せるが、それぞれを中心的問題とする業種は異なる。
③ 業務量や責任感に起因する長時間残業は、「教育、学習支援業」 で特徴的にみられる。ただ、メンタルヘルス上の問題は、残業の長さというより、むしろ 「持ち帰り残業」 という残業の性格にある。
④最低限 の休日・休暇を確保できない問題は、「宿泊業、飲食サービス業」 で顕著にみられる。休日が少ない場合、年次有給休暇を全く取得できない場合に、心理的負荷が大きくなる。この背景は、人手不足や要員管理に起因する部分もあるが、職場の非正社員比率の高まりも関係する可能性がある。
⑤成果管理にともなう問題は、「金融業、保険業」 で特徴的にみられる。目標管理制度の適用それ自体と言うより、仕事量の裁量性を伴わない目標設定が心理的負荷を大きくするほか、個人の成果・業績を月給に反映する運用が激しい従業員間競争を呼び込み、働く者の心理的負荷を高めていた。


 労働者のメンタルヘルスを保つ上では長時間労働が解消されるべきであることは異論がありませんが、そのうえで、 「どのように長いのか」 といった 「労働時間の質的側面」 に関わる要素も検討されて対策がとられなければなりません。

 なお、現在厚労省が開催している 「仕事と生活の調和のための時間外労働規制に関する検討会」 には別の調査によって作成された 「長時間労働の指摘がある業種・職種の実態について (例)」 などが提出されています。
 また、国土交通省自動車局は、バス事業者を対象とした 「改善基準告示」 などに関する運用実態調査の結果を発表しました。


   「長時間労働の指摘がある業種・職種の実態について (例)」
   「長時間労働問題」
   「活動報告」 2016.12.2
   「活動報告」 2016.11.29
   「活動報告」 2016.10.25
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「同一労働同一賃金」 に向けて労働者の声を
2016/12/06(Tue)
 12月6日 (火)

 11月29日、「働き方改革実現会議」 が開催され、正規労働者と非正規労働者との格差を改善する 「同一労働同一賃金」 の方向性が見えてきました。浮上している案はヨーロッパのEUの労働指令に倣って非正社員に対して 「客観的合理的理由のない不利益な取扱いを禁止する」 というものです。具体的には、(1) 仕事の内容や責任の程度、(2) 配置などの変更の範囲、(3) その他の事情、の3つの考慮要素に照らして裁判官が合理的かどうかを判断するという幅広の解釈が成り立つようにし、2016年末までに “よい例・悪い例” のガイドラインも作成します。
 その後、労働契約法、パートタイム労働法及び労働者派遣法などの関連法に差別禁止の条文を盛り込むというものです。
 「客観的合理的理由のない不利益な取扱いを禁止する」 は会社側が合理的理由を立証する責任を負うことになり、法の行為規範として正社員との処遇の違いについての説明責任も発生しますが、裁判を起こされても負けない程度の水準までは引き上げてるというものです。
 賃金格差は、同じ仕事をしている者と比べて格差は80%未満、福利政策等は均等にということのようです。かけ声は大きかった割には落ち着き先は法律を特段変えなくても現在の労契法20条やパート法を根拠に制度をきちんと遂行するなら実現しなければならない内容のようです。

 EUの労働指令には、パートタイマーや有期契約労働者であっても 「雇用条件について、客観的な理由によって正当化されない限り、有期労働契約であることを理由に、比較可能な常用労働者 (正社員) より不利益に取り扱われてはならない」 とあり、EU各国はこれに基づいて法制化しています。
 たとえばフランスでは 「期間の定めのある労働者 (有期契約労働者) が受け取る報酬は、同等の職業格付けで同じ職務に就く、期間の定めのない労働者が同じ企業において受け取るであろう報酬の額を下回るものであってはならない」 (労働法典) となっています。
 ですから、雇う側も非正規労働者を使用して人件費を抑えるという考えはとりません。また雇用関係においては雇用の調整弁の役割も果たしていません。非正規労働者は増えていますが1割前後です。そこには根底に人権の平等、対等の思想があります。

 日本では、非正規労働者はバブルが崩壊したことから急激に増え続けてきました。国際競争力をつけるための人件費抑制や雇用の調整弁の役割を担わせるためです。さらには株主への配当を重視した会社経営のためです。労働分配率はこの10年で10%ダウンしました。
 労働法制の規制緩和が続けられ、総労働者数に占める非正規労働者の割合が40%におよび、賃金以外の労働条件でも格差が拡大し、社会問題を発生させています。
 時間あたり平均賃金は、正規雇用労働者を1とした場合、非正規労働者のフルタイム労働者で0.68、パートタイム労働者では0.53、半分です。日本においては、正社員は能力・年齢・勤続年数などで昇給する職能給と呼ばれる属人給が主流であるのに対し、非正社員はどんな職種に就くかという職務基準で時給が決まります。とはいっても格差が大きすぎます。そもそも非正規労働者のフルタイム労働者とはどのような位置づけなのでしょうか。格差を強制した雇用でしかありません。非正規労働者の賃金は、最低賃金プラスアルファーというものが多く存在します。非正規雇用労働者世帯の貧困率は20%です。(2015年のOECD調査)
 
 海外での正規労働者と比較したく非正規労働者の賃金はどうでしょうか。
 イギリスは71.4、ドイツは79.3、フランスは89.1です。

 さらに日本では正社員と非正規労働者は各種手当や福利厚生、教育制度などがちがいます。
 これについても 「働き方改革実現会議」 で議論になりました。裁判官が合理的かどうかを判断する基準となります。
 例えば、賞与の額に差をつけることは “よい例” になりますが、正規労働者だけに支払うのは “悪い例” になるといいます。通勤手当、精皆勤手当などの各種手当は同じ額を支払うことになります。退職金、企業年金、住宅手当などについてはこのあとに “よい例・悪い例” が示されます。健康診断や病気休職などに差をつけることは “悪い例” です。教育機会については、雇用形態によらず同じ業務を担っているならば同じにすることが “よい例” になります。


 働き方改革実現会議では、反対する声も大きかったようです。
 経団連は今年7月19日に 「同一労働同一賃金の実現に向けて」 と題する提言を出しました。「わが国の賃金制度は多様であり、職務給を前提とする欧州型同一労働同一賃金 (職務内容が同一または同等の労働者に対し同一賃金を支払う原則) の導入は困難」と指摘し、現行の労働契約法、パート法の基本的考え方を維持すべきと、政府に牽制球を投げました。
 「将来的な仕事・役割・貢献度に対する発揮期待 (人材活用の仕組み)」 による処遇の違いも合理的要素と見なすことを求めている節もあります。「幹部候補の総合職」 は様々な経験を積ませてゼネラリストに育成する職能的な働き方と賃金体系を温存したいという思いがあるようです。

 正社員の地位は守らなければならないという主張です。1995年に日経連が発表した 「新時代の 『日本的経営』」 の、長期蓄積能力活用型グループ、高度専門能力活用型グループ、雇用柔軟型グループの3種類の労働者グループの区分けが連想されます。企業経営の維持として長期蓄積能力活用型グループの重要性が強調されますが、雇用における非正社員の職務内容は検討することなく格差を維持したいということです。それ以外のグループを軽視したために貧困などの社会問題も発生させたという企業責任にはまったく関心が寄せられていません。
 そして、「同一労働同一賃金」 が実行されたならばどうくぐり抜けるかという議論が始まっています。これまで以上に職務を厳密にし、違いを設けることによって 「同一労働」 を回避するという方法です。また、業務を分社化・アウトソーシングをし、雇用主を違えることによって格差を維持できるという考えもあります。

 そのような思考の根底にあるのは、正規労働者は会社という共同体の “内輪”、非正規労働者は共同体から排除される “外部” というとらえ方です。村社会です。正規労働者と同じような貢献性を強要しても、同じ職場で働いている労働者同士という関係性を作ろうとはしません。
 この思考は労働組合も同じです。
 正規労働者と比べて大きな格差がある非正規労働者の割合が40%に至ることを容認してきたのは労働組合です。その立場は会社という共同体の “内輪” で “外部” を排除してきました。労働者の権利、生活権、人権などの問題に関心を示しません。これが多くの企業内組合の実態です。


 その一方で 「同一労働同一賃金」 の考えを取り入れている企業もあります。
 りそな銀行は2008年の人事・給与制度改革において、社員を正社員、業務範囲などを限定する限定正社員、パートの3つに分け、職種で共通の職務等級制度を適用し、同じ等級なら時給換算の基本給も同じにしました。ただし職種に応じた責任の違いや転勤・異動の有無などを賞与や退職金、福利厚生に反映して差をつけています。
 導入のきっかけは03年に実質国有化されたことによる人員削減で大勢の正社員が去り、新卒採用も止まる経営危機がありました。そのなかで残った従業員の働く意欲を引き出す必要に迫られました。


 今、企業は労働力不足の状況にあります。トヨタなどでもかなり前から非正規労働者や期間工を正規労働者に切り換えています。
 そのことが、政府が労働者の処遇改善を進めている理由の1つになっています。

 今は非正規労働者の処遇改善のチャンスです。労働組合の出番です。
 労働組合と労働者は、経団連の抵抗に対抗する運動を進めていく必要があります。
 労働分配率の低下を転換させ、大幅な最低賃金を実現させ、労働者の権利、生活権を保障させなければなりません。
 そして賃金だけでなく、非正規労働者を共同体の “内輪” ・仲間として位置づけ、力量アップのために教育・訓練の機会を保障し、ともに活躍できる場を保障させなければなりません。
 EUに倣うというなら、社会、会社における労働者の地位、人権についても検討される必要があります。


   「活動報告」 2016.12.02
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