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学校のいじめ  子どもたちは自力で問題を解決する術を学んでいく
2016/11/24(Thu)
 11月24日 (木)

 学校のいじめが連日報道されています。いじめが増えているのかどうかはわかりません。1件報道されると、実は自分のところでもと連鎖して名乗り出るようになるからです。いじめられていると名乗り出ることは勇気がいることなのです。
 報道される段階では深刻な事態に至り、解決の糸口を失ってしまっています。記者会見をする学校関係者は 「重大事態とは認識していなかった」 と弁明し、教育委員会等は 「指導を強化する」 と回答します。学者や評論家は 「もっと早くに教師は気づいて対応すべきだった」 とコメントします。みなこのワンパターンです。
 具体的には、犯人探しをはじめ、見過ごした学校・教師の責任があらゆる方向から追究され、そして教育委員会の管理強化・指導が叫ばれます。さらに特徴的なのは、調査は “原因さがし” には至らないのと、保護者は被害者の側に立ちますが防止に向けた取り組みの積極的主体にはなりません。日常的には学校でのできごとにあまり関心を示していません。
 学校のいじめ問題は、学校の範囲に限定されます。別の言い方をするなら学校を孤立させ、管理教育体制の中で教師を孤立させています。学校が社会から隔離されています。

 2013年6月に 「いじめ防止対策推進法」 が施行されました。法が浸透し効果が生まれるにはそれなりの期間を要します。しかし3年が経過しての現在の状況は、法の有効性について検討してみる必要性の問題提起しているのではないでしょうか。(16年10月4日の 「活動報告」 参照)


 海外ではどのような対応が行なわれているのでしょうか。
 エミリー・バセロン著 『ある日、私は友達をクビになった』 (早川書房) が2014年に邦訳されています。スウェーデン、イギリス、アメリカなどの学校のいじめへの対応の25年間の思考錯誤を紹介しているルポルタージュです。
 まず、いじめはどういうものなのかということです。
 被害者が回想して語っています。
「毎日が地獄のようで本当に辛かった。心の傷は今でも痛むわ」 「あの頃のことを話すと今もぞっとする。頼るものがない無力感。自分に何か欠陥があるのではないかという気持ち。今の私なら、自分が悪かったわけではないと自信をもって言えるけど、それでもあの惨めさは簡単によみがえってくる」
 いじめは、いじめられている時だけでなく心に傷を残します
 教師の体験です。
「あんな風に残酷になれる子は、自分の中によほどの辛さを抱えているのだということを、両親が教えてくれたの。そのことを忘れたくない。その時、『そうか、あの子たちも不幸だったのだ』 と、目からうろこが落ちるような気がしたの。自分の娘にはあんな思いはさせたくないけど、私はあの経験ですっかり変ったわ」

 スウェーデンの公立学校の校医になったピーター・ポール・ハイネマンは子どもたちのいじめを観察し、1968年に雑誌に論文を発表し、学校が早いうちから対策を打つことを呼びかけます。「これは人間の社会では集団でのリンチ、集団犯罪に近い、しかし、モビングが子ども時代にすでに始まっていることは忘れられている。子どもが仲間から繰りかえし嘲りの言葉を浴びせられることは、その子にとって壊滅的な影響をおよぼす」。
 「モビング」 とは動物学の用語で、鳥が群れを作って違う種類の鳥や弱いメンバーを攻撃することをいいます。

 1969年、スウェーデンのダン・オルウェーズはハイネマン論文に疑問をいだき、子どものいじめの研究のためにいくつかの学校に何度も足を運び、1000人の6年生と8年生子どもたちにいろいろな問題を質問し、答えてもらいました。
「子どもたちの答えの中から、「彼らが特に苦痛だと感じている種類の攻撃を特定することができた。子供たちは長期にわたっていじめが繰り返され、しかもそれに対して自分を守ることができない状況にある時に、最も深く傷つくことが分かった。同等の力をもつ者同士喧嘩は問題ではなかった。本当のダメージは、優位にある者からひっきりなしに苦痛が与えられることによって起きる」
 このことからいじめは3つの条件を満たすものと定義づけました。
 いじめとは、「言語的あるいは身体的攻撃であり」、「ある程度の期間繰り返され」、「両者の間に力の差が存在する」。つまり1人あるいは複数の子どもが自分たちの強い立場を利用して相手を支配しようとするものです。「いじめの特徴は、相手がどんなに非力であっても攻撃するということです」
 いじめを行なうのは1人のボス (lone alpha) と少数の手下ということで、昔から英語圏にあった 「ブリ―イング (bullying)」 の言葉を当てます。

 このことを踏まえて、『本』 は2つのことを読み取ってほしいといいます。
「1つは、子どもたちがいじめを行なうのは、それによって 『仲間内での立場に関する何らかの利得』 があるからだということだ。他の子たちにいいところを見せたいという願望だったり、仲間に入れてもらうための儀礼だったり、みなから 『負け犬』 と見なされている子と距離を置いていることを示すための行動だったりする。こういう影の 『報酬システム』 を解体するのに、家庭や学校はどんなことができるだろう。いじめっ子よりも、良いことをする子の方が認められるのだということを、どう教えればいいだろうか」
 もう1つは 「良きにつけ悪しきにつけ、いじめにはおとなたちが決定的な役割を演じているということだ。事態が手に負えないほどに悪化する時というのは、たいていの場合、子どもたちの過ちや悪さが理由ではない。彼らは最初にことを起こした張本人ではあるが、個人的な過ちが世間を騒がす大事件になってしまうのは、多くの場合、大人たちが何一つ適切な手を打たなかったことか、大げさに騒ぎ立てすぎたことが原因である。対処の誤りは、両親から始まり、教師、校長、そして警察、裁判所とつながっていく。」


 アメリカの心理学者はいじめっ子たちのタイプも分析しています。
 抑うつ状態にある子どもが暴力行為や反社会的行動を起こしやすく、普通はまったく別のものと思われる2種類の問題行動に共通点があります。殻に閉じこもり不安をかかえ込むことと、他人を激しく攻撃すること、です。
 さらに分析を進めると5種類のタイプがあるといいます。
 第一のタイプは、昔ながらのいじめっ子、つまり 「悪党のこども版」 です。腕力にものを言わせて、他の子どもたちに暴力を振るったり、物を奪ったりします。
 第二のタイプは、社会性が劣るいじめっ子です。悪意からではなく、自分でもどうしていいかわからずに、悪者のように振る舞ってしまう子どもたちです。
 第三のタイプは、深刻な問題を抱えている、いじめの加害者であると同時に被害者でもある子どもたちです。両方の立場の最悪の部分を経験することになります。たいていは両親との関係がうまくいっていません。「彼らは自分自身をうまく守れない子どもたちです」 「どうしてもそういう行動を取らざるをえないところに陥ってしまったのですが、彼ら自身も、いじめられる子どもたちと同じように、あるいはそれ以上に犠牲者です」
 第四のタイプは、第三のタイプの反対で、成績もよく、周囲から認められている子どもたちです。周りの人たちの気持ちを読み取ることがうまく、それを操作することができます。彼らは 「人気者」 ですが、必ずしもみなから好かれているということではありません。やり方は、手が込んでいて巧妙です。
 第五のタイプは、フェイスブックを使ういじめっ子です。現代社会の産物です。ネット上では普段よりもずっと意地悪でひどいことを平気で言います。「もめ事はたいていフェイスブックから始まるの。フェイスブックだと嫌なことが言いやすく、いい気分になれるから」。インターネットを利用するいじめっ子にとっては、他の子をいたぶる無限のチャンスが手に入ったといえます。
「現実社会で独立性と自由を与えられている子どもたちは、ネット上のおしゃべりはあまりしない。行動の制限が多い子どもとほど、携帯電話やウェブを使用する頻度が高いのです」
「攻撃性は仲間内で自分の地位を高めるための道具である」


 アメリカにおける調査では、誰かがいじめられている時に、それに介入する生徒はほとんどいなかったといいます。いじめは10件に9件は他の子どもの目の前でおこなわれます。しかし犠牲者をかばう子供は20%以下です。いわゆる “見て見ぬふり” です。
 相手の気持ちを傷つけるような行為を、暗黙のうちに是認したり、許容したりすることをやめさせるためには町全体が変わる必要があるといいます。まず学校が悪い慣行を変えることを決意し、職員や生徒だけでなく、その家族、ひいてはコミュニティをリードしていく必要があるといいます。
 いじめ防止に関して、人びとが糾弾し合う中で大事な点が忘れられています。いじめは人をうつ状態にします。しかしそれは唯一の要因でも最大の要因でもありません。原因はほとんどの場合複雑なもので、防ぐにはいじめをなくす努力だけでは足りません。何かを原因だと決めつけることは無責任な行為です。今の風潮は、その子を不安定で弱い状態にしていた他の要因を無視して、いじめられている子どもは自殺のリスクが高いのだと思い込ませています。


 オルウェーズはいじめ防止プログラムを作成します。実践の方法を重視します。そのことを通して生徒たちに望ましい言葉やプロセスを定着させます。
 防止プログラムでは、いじめられた子に 「事後に」 手を差し伸べることを勧めています。いじめっ子にその場で立ち向かう必要はなく、後でそっとよりリスクの少ない方法でいじめられた子に寄り添うと大きな救いになります。いじめられた子は 「その友達がいたので、自分は自分のままでいいんだって自信が持てました。このいじめで人生がすっかりだめになったりしないって思いました」
 心理学者の調査結果です。「子どもたちに助け合いを期待するのは、大人の幻想にすぎません」 「困っている人を助けるのは人としての責任だと教え込むことはできても、いざという時には仲間の顔色を窺って、友達を失うことの方を心配するのです」

 いじめに対処する方法は、絶対に非暴力で、ひたすら時間をかけて話し合うことです。いじめの被害者が反撃した場合、相手との関係は一層悪くなったり、悪い状況が長引いたりします。いじめる相手を挑発することになるし、いじめられる方は自制心をなくしてとんでもない過激な行為に走ってしまう可能性もあります。
 いじめを体験者は、教師やカウンセラーたちは、相手の目を見ること、相手の気持ちを考えることの大切さを教えてほしいといいます。「僕をいじめた相手は、正面から僕の目を見て殴りかかってきたりしませんでした。いつも背中から襲いかかってくるんです。」

「子どもたちには小学校低学年になると 『あの子がかっとなったので、ストップって言ったの』 などと言うようになります。子どもたちには、かっとなった時には、まず自分に 『ストップ』 って言うように教えています。それから何が問題かを考えて、どうすべきかを考えるように教えています。そしてその解決法は、安全で正しいか、他の人がどう思うかを考えなさいと教えます


 オレゴン大学の教育学者は、精神的に問題を抱えるティーンエイジャーを指導する仕事をしていました。学力とソーシャルスキルを伸ばすために努力を重ねますが期待した進歩が見られません。次第に生徒の進歩は自分のコントロールがきかない教室の外の要因に大きく左右されているということがわかってきます。つまり学校環境全体です。「他行のベストプラクティスであっても、環境が悪いところでは失敗するということです。1人1人について考える前に、システム全体について考える必要があります」
 学校全体の混乱を沈めるような介入策が必要です。教室や廊下がもっと平静であれば、多くの生徒はその平和を維持しようとするだろうし、それを壊す犯人にされたくないと思う。それでも騒ぎを起こし続ける生徒は、深刻な問題を抱えたり、注目を欲していたりすることが多いから、学校はその生徒たちに集中的に対処すればいいです。

 教師と生徒の関係を強化するために 「報奨システム」 を取ります。報奨とは 「その場で良い行いを認めること」 です。「教師が子どもと握手して行動を褒めることに意味があります」 「教師に子どもの良い行いに注目させるためのものとも言えます」 この戦略はおとなと生徒たちの関係の強化を目的としています」
 いじめ防止を直接目指すものではありませんが、調査ではこのシステムを使っている学校は、確実にいじめの件数は減っているといいます。
 2人の生徒の関係が悪化します。校長を巻き込んで3人で話し合いをさせます。「校長先生は、君たちにはこのトラブルを解決するだけの力があるって言ったの。君たちは本当はもっとずっといい子なんだって。私、先生の言う通りにして、こんなことは辞めようって思ったんだ。何となくいい気分だった」


 「子どもを育てるのに村全体が必要」 です。同じように、いじめ防止の中核は、子どもたち、両親、学校の職員が一体となって 「悪質な行為は許されない」 という態度を明確にすること です。


 ニュージャージー州の 「いじめ防止法」 は、いじめに関する学校側の対策をこと細かく定め、その報告を義務づけており、州の教育省はその成果を学校ごとに評価して公表するとしていました。学校側は予算の後ろ盾のないこの命令に反論したが、州議会は取り上げませんでした。その結果学校側は神経質に子どもたちの言動を取り締まるようになりました。友だちを冗談半分でからかっただけでも処分の対象になったりしました。
 心理学者はいいます。「法律を作ってそれに盲目的に従わせることが目的になっては意味がありません。教育者たちは、子どもたちの行いが実際にどのような問題を引き起こしているかを判断する裁量を与えられるべきです。大人たちにそれができなければ、何の解決にもなりません」。生徒たちが精神的に成長する 「ゆとり」 を奪ってしまいかねません。「大人が介入せず、通常のルールがぞんざいしない場合が、子どもたちの成長には必要です」 「大人が何でも決めて解決してしまわない、子どもたちだけの自由な世界で、彼らは自力で問題を解決する術を学んでいくのです」
 日本の文科省に言っているように聞こえます。


   「活動報告」 2016.10.4
   「職場のいじめ」
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