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労基署職員5年間で81人減  厚労省は過労死を加速させた
2016/11/29(Tue)
 11月29日(火)

 10月7日に電通における過労自殺が公表されると、マスコミでは長時間労働や残業代未払い問題が連日取り上げられています。
 電通でも、いわゆる 「電通過労死事件」 以降にも過労死が発生していたこと、長時間労働については支社に労働基準監督署の立ち入りが行なわれていたことが明らかになりました。公表までは、労働組合との間で残業時間が100時間の特別協定が締結されていました。亡くなった方は、昨年10月以降は1か月約105時間の残業を行なっていました。協定違反がまかり通っていました。公表後、労働組合は団体交渉を行なって協定時間を40時間に改正しましたが後の祭りです。

 厚労省は労働時間の管理に関する通達を出していますが守っていない会社が多くあります。早出の残業を認めず会社が決めた始業時刻になったらタイムカードを打刻させる、終業時刻になったら打刻させ、その後に残業させると会社があります。残業は申告制ですが、実際は月末にまとめて報告・申請することになっている会社が多くあります。その段階で残業時間の制限が通告され、労働者が申請する時間数を減らしたり、自主的に少なめにしているという話も聞きます。電通では社員本人が作成する 「勤務状況報告表」 の時間外労働は月70時間を超えないよう指導されていたため、亡くなった方は10月に 「69.9時間」、11月に 「69.5時間」 と数字を作って記載していました。残念ながら労働者の意思によるサービス残業もあります。労働者自らの労働力のバーゲンです。帳簿上の、労基署等への提出書類用のごまかしの残業時間が強制されています。
 出退勤における入室・退室に個人ごとのカードが必要な会社が増えています。またパソコンの入力・消去時刻でも労働時間の掌握ができます。それらによる管理の方が正確ですが、逆に排除されています。
 厚労省はこのような資料に基づく調査結果と短時間労働総者数も母数に入れ、年間平均労働時間は1700時間台に減ったと公表、OECDなどにも報告しています。管理職は時間管理をしないという口実で残業はゼロ、裁量労働の労働者は協定した時間数で計算されます。この数字は総務省が発表する年間平均労働時間数とはかなりの差があります。

 政府は10月7日、「過労死等防止対策白書」 を閣議決定しました。(2016年10月7日の 「活動報告」 参照)
 厚労省が15年12月から今年1月までの間に、企業約1万社 (回答は1743社) と労働者約2万人 (同約19000人) を対象に調査を実施しました。(結果を検討するとき、企業の回答率が低すぎますが都合悪い企業はしない、逆に労働者は関心度が高いことを踏まえる必要があります)
 調査結果は、「過労死ライン」 の月80時間を超えて残業をしている正社員がいる企業の割合は22.7%と5社に1社です。業種別にみると、「情報通信業」 「学術研究、専門・技術サービス業」 では4割を超えています。
 労働者への調査では正社員の36.9%が高いストレスを抱えていることが分かりました。業種では、「医療・福祉」 (41.6%) や 「サービス業」 (39.8%) の割合が高くなっています。正社員で、自身の疲労の蓄積度について、「高い」 「非常に高い」 と答えた人は32.8%。睡眠時間も、45.6%が 「足りていない」 「どちらかといえば足りていない」 と答え、その理由 (複数回答) として最も多く挙げられたのは 「残業時間が長いため」 (36.1%) でした。
 「年間総実労働時間については、……ゆるやかに減少しているのはパートタイム労働者の割合の増加によるものであり、パートタイマーを除く一般労働者2000時間前後で高止まりしているのが実情」 と総務省発表に近い数字を報告しています。
 厚労省発表の 「労働白書」 は労働時間数については数年前から正規労働者とパートタイマーを分けなくして、実態を隠しています。さすが賃金については分けていますが、この使い分けから見ると意図的といえます。


 11月、厚生労働省は 「過重労働解消キャンペーン」 を展開し、その一環として労働基準監督署は重点監督を実施しました。
 監督の対象とする事業場等は、i 長時間にわたる過重な労働による過労死等に係る労災請求が行われた事業場等、ii 労働基準監督署及びハローワークに寄せられた相談等を端緒に、離職率が極端に高いなど若者の 「使い捨て」 が疑われる企業等です。
 重点的に確認する事項です。i 時間外・休日労働が時間外・休日労働に関する協定届 (いわゆる36協定) の範囲内であるかについて確認し、法違反が認められた場合は是正指導します。ii 賃金不払残業がないかについて確認し、法違反が認められた場合は是正指導します。iii 不適切な労働時間管理については、労働時間を適正に把握するよう指導します。iv 長時間労働者については、医師による面接指導等、健康確保措置が確実に講じられるよう指導します。
 書類送検については、重大・悪質な違反が確認された場合は、送検し、公表します。

 監督は、過労死等に係る労災請求が行われた事業場についてはこれまでも行なわれています。今回は電通にも強制捜査が行なわれています。
 重点的に確認する事項についての i 時間外・休日労働が時間外・休日労働に関する協定届 (いわゆる36協定) の範囲内であるかについて確認し、法違反が認められた場合は是正指導します、ということはごまかし管理の発見は難しくなります。

 厚労省は11月6日 (日) に 「過重労働解消相談ダイヤル」 を実施し、その結果を11月29日に公表しました。
 概要です。
  相談件数  合計712件
  主な相談内容
  長時間労働・過重労働 340件 (47.7%)
  賃金不払残業      305件 (42.8%)
  休日・休暇         53件 ( 7.4%)
  相談者の属性
  労働者          432件 (60.7%)
  労働者の家族     199件 (27.9%)
  その他           81件 (11.4%)
  主な事業場の業種
  製造業          103件 (14.5%)
  保健衛生業       101件 (14.2%)
  商業            89件 (12.5%)

 総数が多くありませんが、この数値から見えてくることがあります。
 長時間労働・過重労働340件 (47.7%) と賃金不払残業305件 (42.8%) のパーセンテージの合計が100を超えるということは、長時間労働・過重労働の上に賃金が支払われていないということです。家族からの相談が4人に1人以上になっているということは、労働者が我慢したり無理をしている状況を近くで見ていて心配になっているということです。その原因として権利を自覚できていない、労働組合が機能していない、社会的に認知されていない状況があるということです。

 相談事例が紹介されています。
○不動産会社の営業 (金融・広告業) 定時前に3時間、定時後に6時間程度の残業をしており、月の残業時間が200時間を超えている。終電がない場合は自腹でホテルに泊まることもある。労働時間は自己申告により管理されているが、36協定で定める時間を超えてしまった場合は、上司が労働時間を書き直している。【40代、労働者】
○ 機械部品製造会社の総務 (製造業) 人員不足のため、毎日7時間程度の残業を行っており、月100時間を超える残業を行っている。労働時間は自己申告により管理しており、パソコンに入力していたが、上司が自分のチームの残業削減を業績目標としているため、残業が少なくなるよう改ざんしている。【50代、労働者】
○ 金属製品製造会社の管理者 (製造業) 管理監督者として働いているが、部下の残業時間を36協定の範囲内に収めるため、月160時間を超える残業を行っている。管理監督者なので、基本給以外に管理職手当しか支払われていない。管理監督者になる前はタイムカードで労働時間が管理されていたが、今は何 も管理されていない。【30代、労働者の家族】
○ 商社の総務 (商業) 会社の方針として人件費を抑えることになっており、残業の申請も実際より少なく書くように言われている。繁忙期は定時前の早朝から出勤し、仕事をしているが、誰も残業の申請をしない。休日出勤も同様である。これだけ申請を抑えているにもかかわらず、申請 の半分程度の残業代しか支払われない。【50代、労働者】


 多くの企業内の労働組合が機能しなくなっているなかで、労働者は違法行為に気付いたときなどは労働基準監督署を訪れます。しかし労基署は役に立たないという話をよく聞きます。
 では労基署の体制はどうなっているのでしょうか。
 10月25日に開催された参議院厚生労働委員会で社民党の福島瑞穂議員は労働基準監督署の職員数について質問しました。
議事録の抜粋です。

○福島みずほ君 労働基準監督官は少しずつ増えているのですが、労働基準監督署の定員、職員の数は減っております。事前にお聞きしたら、2011年度の4950人をピークに、2016年度では81人減の4869人と聞いていますが、これでよろしいでしょうか。
 それから、労働基準監督署全体の仕事量が増える一方で、労働基準監督官は、監督課業務のみならず安全衛生課業務も担う場合が多いことから、負担が高まっています。この電通のケースも、事前に過労死の事件もあるわけですから、労働基準監督署の職員を増やすことで、実際今までもここの是正勧告も発しているわけですから、やっぱり労働基準監督署の職員を増やすべきだ。いかがでしょうか。
○政府参考人 (山越敬一君) お答えをいたします。
 平成28年 (2016年) 度の労働基準監督署の定員は、おっしゃられましたとおり、4869人でございます。労働基準行政につきましては、今御指摘もありましたように、過重労働対策や労働災害防止対策、様々な課題に的確に対応できる、そうした執行体制の確保が必要だというふうに認識をしております。
 労働基準監督署の定員は、平成23年 (2011年) 度と比べますと28年 (2016年) 度は81人減になっておりますけれども、他方で、労働基準監督署で支払ってまいりました労災給付につきましてシステム化によりまして本省への集中化をするとか、あるいは再任用短時間勤務職員として定年退職後の職員を活用する、そういったような工夫によりまして、定員の合理化などを図りながら行政課題に対応しているところでございます。
 29年 (2017年) 度の労働基準監督署の定員につきましては、安全衛生業務を担う専門職の増員とともに、長時間労働対策を担う労働基準監督官の75人の増員などによりまして、合計129人増員する要求を内閣人事局に提出をしているところでございます。
 今後とも、労働基準行政の諸課題に対応できますよう執行体制の確保に努めてまいります。
○福島みずほ君 労働基準監督官と職員の増員をもっともっともっと積極的にやってくださるようにお願いします。

 政府・厚労省自体が、労基署が使用者の違法行為を取り締まることにブレーキをかけています。口先だけで、長時間労働・過労死対策を叫んでもやる気の本気が見られません。まだまだ増員が必要です。

 そして、労働組合、労働者は、行政に依存しないで、電通の労働組合のような過労死の共犯者にはならないで、自分たちの力で労働条件、安全衛生につての取り組みを強化する必要があります。


   「活動報告」 2016.10.25
   「活動報告」 2016.10.07
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学校のいじめ  子どもたちは自力で問題を解決する術を学んでいく
2016/11/24(Thu)
 11月24日 (木)

 学校のいじめが連日報道されています。いじめが増えているのかどうかはわかりません。1件報道されると、実は自分のところでもと連鎖して名乗り出るようになるからです。いじめられていると名乗り出ることは勇気がいることなのです。
 報道される段階では深刻な事態に至り、解決の糸口を失ってしまっています。記者会見をする学校関係者は 「重大事態とは認識していなかった」 と弁明し、教育委員会等は 「指導を強化する」 と回答します。学者や評論家は 「もっと早くに教師は気づいて対応すべきだった」 とコメントします。みなこのワンパターンです。
 具体的には、犯人探しをはじめ、見過ごした学校・教師の責任があらゆる方向から追究され、そして教育委員会の管理強化・指導が叫ばれます。さらに特徴的なのは、調査は “原因さがし” には至らないのと、保護者は被害者の側に立ちますが防止に向けた取り組みの積極的主体にはなりません。日常的には学校でのできごとにあまり関心を示していません。
 学校のいじめ問題は、学校の範囲に限定されます。別の言い方をするなら学校を孤立させ、管理教育体制の中で教師を孤立させています。学校が社会から隔離されています。

 2013年6月に 「いじめ防止対策推進法」 が施行されました。法が浸透し効果が生まれるにはそれなりの期間を要します。しかし3年が経過しての現在の状況は、法の有効性について検討してみる必要性の問題提起しているのではないでしょうか。(16年10月4日の 「活動報告」 参照)


 海外ではどのような対応が行なわれているのでしょうか。
 エミリー・バセロン著 『ある日、私は友達をクビになった』 (早川書房) が2014年に邦訳されています。スウェーデン、イギリス、アメリカなどの学校のいじめへの対応の25年間の思考錯誤を紹介しているルポルタージュです。
 まず、いじめはどういうものなのかということです。
 被害者が回想して語っています。
「毎日が地獄のようで本当に辛かった。心の傷は今でも痛むわ」 「あの頃のことを話すと今もぞっとする。頼るものがない無力感。自分に何か欠陥があるのではないかという気持ち。今の私なら、自分が悪かったわけではないと自信をもって言えるけど、それでもあの惨めさは簡単によみがえってくる」
 いじめは、いじめられている時だけでなく心に傷を残します
 教師の体験です。
「あんな風に残酷になれる子は、自分の中によほどの辛さを抱えているのだということを、両親が教えてくれたの。そのことを忘れたくない。その時、『そうか、あの子たちも不幸だったのだ』 と、目からうろこが落ちるような気がしたの。自分の娘にはあんな思いはさせたくないけど、私はあの経験ですっかり変ったわ」

 スウェーデンの公立学校の校医になったピーター・ポール・ハイネマンは子どもたちのいじめを観察し、1968年に雑誌に論文を発表し、学校が早いうちから対策を打つことを呼びかけます。「これは人間の社会では集団でのリンチ、集団犯罪に近い、しかし、モビングが子ども時代にすでに始まっていることは忘れられている。子どもが仲間から繰りかえし嘲りの言葉を浴びせられることは、その子にとって壊滅的な影響をおよぼす」。
 「モビング」 とは動物学の用語で、鳥が群れを作って違う種類の鳥や弱いメンバーを攻撃することをいいます。

 1969年、スウェーデンのダン・オルウェーズはハイネマン論文に疑問をいだき、子どものいじめの研究のためにいくつかの学校に何度も足を運び、1000人の6年生と8年生子どもたちにいろいろな問題を質問し、答えてもらいました。
「子どもたちの答えの中から、「彼らが特に苦痛だと感じている種類の攻撃を特定することができた。子供たちは長期にわたっていじめが繰り返され、しかもそれに対して自分を守ることができない状況にある時に、最も深く傷つくことが分かった。同等の力をもつ者同士喧嘩は問題ではなかった。本当のダメージは、優位にある者からひっきりなしに苦痛が与えられることによって起きる」
 このことからいじめは3つの条件を満たすものと定義づけました。
 いじめとは、「言語的あるいは身体的攻撃であり」、「ある程度の期間繰り返され」、「両者の間に力の差が存在する」。つまり1人あるいは複数の子どもが自分たちの強い立場を利用して相手を支配しようとするものです。「いじめの特徴は、相手がどんなに非力であっても攻撃するということです」
 いじめを行なうのは1人のボス (lone alpha) と少数の手下ということで、昔から英語圏にあった 「ブリ―イング (bullying)」 の言葉を当てます。

 このことを踏まえて、『本』 は2つのことを読み取ってほしいといいます。
「1つは、子どもたちがいじめを行なうのは、それによって 『仲間内での立場に関する何らかの利得』 があるからだということだ。他の子たちにいいところを見せたいという願望だったり、仲間に入れてもらうための儀礼だったり、みなから 『負け犬』 と見なされている子と距離を置いていることを示すための行動だったりする。こういう影の 『報酬システム』 を解体するのに、家庭や学校はどんなことができるだろう。いじめっ子よりも、良いことをする子の方が認められるのだということを、どう教えればいいだろうか」
 もう1つは 「良きにつけ悪しきにつけ、いじめにはおとなたちが決定的な役割を演じているということだ。事態が手に負えないほどに悪化する時というのは、たいていの場合、子どもたちの過ちや悪さが理由ではない。彼らは最初にことを起こした張本人ではあるが、個人的な過ちが世間を騒がす大事件になってしまうのは、多くの場合、大人たちが何一つ適切な手を打たなかったことか、大げさに騒ぎ立てすぎたことが原因である。対処の誤りは、両親から始まり、教師、校長、そして警察、裁判所とつながっていく。」


 アメリカの心理学者はいじめっ子たちのタイプも分析しています。
 抑うつ状態にある子どもが暴力行為や反社会的行動を起こしやすく、普通はまったく別のものと思われる2種類の問題行動に共通点があります。殻に閉じこもり不安をかかえ込むことと、他人を激しく攻撃すること、です。
 さらに分析を進めると5種類のタイプがあるといいます。
 第一のタイプは、昔ながらのいじめっ子、つまり 「悪党のこども版」 です。腕力にものを言わせて、他の子どもたちに暴力を振るったり、物を奪ったりします。
 第二のタイプは、社会性が劣るいじめっ子です。悪意からではなく、自分でもどうしていいかわからずに、悪者のように振る舞ってしまう子どもたちです。
 第三のタイプは、深刻な問題を抱えている、いじめの加害者であると同時に被害者でもある子どもたちです。両方の立場の最悪の部分を経験することになります。たいていは両親との関係がうまくいっていません。「彼らは自分自身をうまく守れない子どもたちです」 「どうしてもそういう行動を取らざるをえないところに陥ってしまったのですが、彼ら自身も、いじめられる子どもたちと同じように、あるいはそれ以上に犠牲者です」
 第四のタイプは、第三のタイプの反対で、成績もよく、周囲から認められている子どもたちです。周りの人たちの気持ちを読み取ることがうまく、それを操作することができます。彼らは 「人気者」 ですが、必ずしもみなから好かれているということではありません。やり方は、手が込んでいて巧妙です。
 第五のタイプは、フェイスブックを使ういじめっ子です。現代社会の産物です。ネット上では普段よりもずっと意地悪でひどいことを平気で言います。「もめ事はたいていフェイスブックから始まるの。フェイスブックだと嫌なことが言いやすく、いい気分になれるから」。インターネットを利用するいじめっ子にとっては、他の子をいたぶる無限のチャンスが手に入ったといえます。
「現実社会で独立性と自由を与えられている子どもたちは、ネット上のおしゃべりはあまりしない。行動の制限が多い子どもとほど、携帯電話やウェブを使用する頻度が高いのです」
「攻撃性は仲間内で自分の地位を高めるための道具である」


 アメリカにおける調査では、誰かがいじめられている時に、それに介入する生徒はほとんどいなかったといいます。いじめは10件に9件は他の子どもの目の前でおこなわれます。しかし犠牲者をかばう子供は20%以下です。いわゆる “見て見ぬふり” です。
 相手の気持ちを傷つけるような行為を、暗黙のうちに是認したり、許容したりすることをやめさせるためには町全体が変わる必要があるといいます。まず学校が悪い慣行を変えることを決意し、職員や生徒だけでなく、その家族、ひいてはコミュニティをリードしていく必要があるといいます。
 いじめ防止に関して、人びとが糾弾し合う中で大事な点が忘れられています。いじめは人をうつ状態にします。しかしそれは唯一の要因でも最大の要因でもありません。原因はほとんどの場合複雑なもので、防ぐにはいじめをなくす努力だけでは足りません。何かを原因だと決めつけることは無責任な行為です。今の風潮は、その子を不安定で弱い状態にしていた他の要因を無視して、いじめられている子どもは自殺のリスクが高いのだと思い込ませています。


 オルウェーズはいじめ防止プログラムを作成します。実践の方法を重視します。そのことを通して生徒たちに望ましい言葉やプロセスを定着させます。
 防止プログラムでは、いじめられた子に 「事後に」 手を差し伸べることを勧めています。いじめっ子にその場で立ち向かう必要はなく、後でそっとよりリスクの少ない方法でいじめられた子に寄り添うと大きな救いになります。いじめられた子は 「その友達がいたので、自分は自分のままでいいんだって自信が持てました。このいじめで人生がすっかりだめになったりしないって思いました」
 心理学者の調査結果です。「子どもたちに助け合いを期待するのは、大人の幻想にすぎません」 「困っている人を助けるのは人としての責任だと教え込むことはできても、いざという時には仲間の顔色を窺って、友達を失うことの方を心配するのです」

 いじめに対処する方法は、絶対に非暴力で、ひたすら時間をかけて話し合うことです。いじめの被害者が反撃した場合、相手との関係は一層悪くなったり、悪い状況が長引いたりします。いじめる相手を挑発することになるし、いじめられる方は自制心をなくしてとんでもない過激な行為に走ってしまう可能性もあります。
 いじめを体験者は、教師やカウンセラーたちは、相手の目を見ること、相手の気持ちを考えることの大切さを教えてほしいといいます。「僕をいじめた相手は、正面から僕の目を見て殴りかかってきたりしませんでした。いつも背中から襲いかかってくるんです。」

「子どもたちには小学校低学年になると 『あの子がかっとなったので、ストップって言ったの』 などと言うようになります。子どもたちには、かっとなった時には、まず自分に 『ストップ』 って言うように教えています。それから何が問題かを考えて、どうすべきかを考えるように教えています。そしてその解決法は、安全で正しいか、他の人がどう思うかを考えなさいと教えます


 オレゴン大学の教育学者は、精神的に問題を抱えるティーンエイジャーを指導する仕事をしていました。学力とソーシャルスキルを伸ばすために努力を重ねますが期待した進歩が見られません。次第に生徒の進歩は自分のコントロールがきかない教室の外の要因に大きく左右されているということがわかってきます。つまり学校環境全体です。「他行のベストプラクティスであっても、環境が悪いところでは失敗するということです。1人1人について考える前に、システム全体について考える必要があります」
 学校全体の混乱を沈めるような介入策が必要です。教室や廊下がもっと平静であれば、多くの生徒はその平和を維持しようとするだろうし、それを壊す犯人にされたくないと思う。それでも騒ぎを起こし続ける生徒は、深刻な問題を抱えたり、注目を欲していたりすることが多いから、学校はその生徒たちに集中的に対処すればいいです。

 教師と生徒の関係を強化するために 「報奨システム」 を取ります。報奨とは 「その場で良い行いを認めること」 です。「教師が子どもと握手して行動を褒めることに意味があります」 「教師に子どもの良い行いに注目させるためのものとも言えます」 この戦略はおとなと生徒たちの関係の強化を目的としています」
 いじめ防止を直接目指すものではありませんが、調査ではこのシステムを使っている学校は、確実にいじめの件数は減っているといいます。
 2人の生徒の関係が悪化します。校長を巻き込んで3人で話し合いをさせます。「校長先生は、君たちにはこのトラブルを解決するだけの力があるって言ったの。君たちは本当はもっとずっといい子なんだって。私、先生の言う通りにして、こんなことは辞めようって思ったんだ。何となくいい気分だった」


 「子どもを育てるのに村全体が必要」 です。同じように、いじめ防止の中核は、子どもたち、両親、学校の職員が一体となって 「悪質な行為は許されない」 という態度を明確にすること です。


 ニュージャージー州の 「いじめ防止法」 は、いじめに関する学校側の対策をこと細かく定め、その報告を義務づけており、州の教育省はその成果を学校ごとに評価して公表するとしていました。学校側は予算の後ろ盾のないこの命令に反論したが、州議会は取り上げませんでした。その結果学校側は神経質に子どもたちの言動を取り締まるようになりました。友だちを冗談半分でからかっただけでも処分の対象になったりしました。
 心理学者はいいます。「法律を作ってそれに盲目的に従わせることが目的になっては意味がありません。教育者たちは、子どもたちの行いが実際にどのような問題を引き起こしているかを判断する裁量を与えられるべきです。大人たちにそれができなければ、何の解決にもなりません」。生徒たちが精神的に成長する 「ゆとり」 を奪ってしまいかねません。「大人が介入せず、通常のルールがぞんざいしない場合が、子どもたちの成長には必要です」 「大人が何でも決めて解決してしまわない、子どもたちだけの自由な世界で、彼らは自力で問題を解決する術を学んでいくのです」
 日本の文科省に言っているように聞こえます。


   「活動報告」 2016.10.4
   「職場のいじめ」
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「ストレスチェック制度」 個人情報を提供する必要はない
2016/11/18(Fri)
 11月18日 (金)

 改正労働安全衛生法・ストレスチェック制度が2015年12月1日から施行され、社員が50人以上の事業所ではこの11月末までの実施が義務付けられています。
 すでに8割の企業で終了しているなどの情報もありますが、実際はわかりません。期限を目前にして駆け込みも多いようです。労働者は受けなければならないという義務はありませんので拒否できますが強制している実態があります。夏から秋にかけては実施を請け負う企業のコマーシャルが頻繁に流されました。

 法案の段階からこれまでも何度も指摘しましたが、かなり危険な法律・制度です。それを厚労省はだまし続けています。
 そもそも 「労働者のストレスチェック・スクリーニング」 法案は問題があるということで廃案になり、「職場のストレスチェック」 を目的とする法案が登場しました。
 しかし成立し、実施にうつる段階では 「職場のストレスチェック」 ・ 「検査結果の集団ごとの分析」 は難しいということで努力目標になってしまい、廃案になった 「スクリーニング」 ・ 「労働者のストレスチェック」 が再度登場し、ストレスチェック票にも 「労働者のストレスチェック」 が盛り込まれて使用者に義務付けられました。
  「ストレスチェック票」 に 「心身のストレス反応」 がなかったら、労働者の期待するところであり有効活用も可能でした。労働組合や安全衛生委員会などで議論する資料にもなりえます。これが当初の目的でしたが努力義務になってしまいました。

 本来の目的は 「職場のストレスチェック」 でしたのでストレスチェック制度の実施義務を負うのは、事業場であり、労働者ではありません。

 「職場のストレスチェック」 と 「労働者のストレスチェック」 は違います。
 「予防医学」 には一次予防、二次予防、三次予防があります。予防医学は、病気を予防するだけでなく、疾病予防、障害予防、寿命の延長、身体的・精神的健康の増進を目的としています。
 一次予防は、生活習慣の改善、生活環境の改善、健康教育による健康増進を図り、予防接種による疾病の発生予防、事故防止による傷害の発生を予防することをいいます。
 二次予防は、発生した疾病や障害を検診などにより早期に発見し、早期に治療や保健指導などの対策を行ない、疾病や傷害の重症化を予防することをいいます。
 三次予防は、治療の過程において保健指導やリハビリテーション等による機能回復を図るなど、社会復帰を支援し、再発を予防することをいいます。
 わかりやすくいうなら、一次予防は 「職場ドック」、二次予防は 「人間ドック」。対象が職場環境か、労働者個人かということです。その対策の遂行は順序が大切です。当り前のことですが職場のストレッサーの除去なしに労働者のストレスの軽減はないからです。

 しかし 「労働者のストレスチェック」 法・制度は一次予防を免罪します。
 メンタルヘルス対策は第一次予防が重視される必要があります。未然防止は、具体的には長時間労働の禁止、過重労働の禁止、ストレス発生原因の解消などです。
 具体例をあげるなら、現在は、長時間労働に際しては、労働者は使用者への申し入れにより産業医を受信できる、残業時間が100時間以上の労働者に対しては義務付けられています。これは2次予防・ 「労働者のストレスチェック」 です。しかしその前提となっている1次予防・ 「職場のストレスチェック」 は無視されています。そして労働者の体調は自己管理、体調不良は自己責任にされています。
 「使用者の安全配慮義」 は問題・事故を発生させないために運用される必要があります。しかしほとんど労働者が体調不良に陥り、争いになったときの解釈論になってしまいます。その時のために使用者は労働者個人の情報を欲し、さらに健康管理はちゃんとしていたという口実が必要です。健康管理はストレスに強い労働者作り、つまりは長時間労働と過重労働に耐えられる労働者作りになっています。面接・指導、カウンセリングは労働者がストレス受容を大きくするために行われます。
 実際は、一次予防・ 「職場のストレスチェック」 が行なわれていないことがメンタルヘルス不調で休職・退職をしたり、過労死に至ったりしています。

 厚労省との交渉などでこのことについて質問するといつも 「一次も二次も三次予防も同時に進めていかなければなりません。総合的取り組みが必要です」 と回答が返ってきます。総合的とは一次予防を優先的に取り組まないということです。厚労省のメンタルヘルス対策は労働者の「健康管理」 だけが問題にされ使用者は放任されます。


 労働者のストレスチェックは、厚生労働省のホームページに無料でダウンロードできるコンテンツが用意されていています。従業員の名簿さえインプットすれば、集団分析まで可能となっています。

 ストレスチェック制度は当初とは別の目的も持つようになってきている気がします。
 最大の点は、チェック票の 「心身のストレス反応」 の導入です。事業者によって労働者1人ひとりの精神状態に関する検査とデータ作成が合法的行えるようになりました。労働者は第三者から 「心の管理」 が行われます。今後、「心身のストレス反応」 検査の合法化が前例となり、他のところでも第三者によって 「心の問題」 への干渉が悪用されていきかねません。
 厚労省は、ストレスチェック制度では事業者でも労働者個人の情報を勝手に取得できないと説明します。しかし昨今のパソコンからの情報の流出状況を見ていると、完全に保護されている情報はありません。

 今年1月1日からマイナンバー制度がスタートしました。
 総務省は、「マイナンバー制度は、住民票を有する全ての方に1人1つの番号を付して、社会保障、税、災害対策の分野で効率的に情報を管理し、複数の機関に存在する個人の情報が同一人の情報であることを確認するために活用されるものです。マイナンバーは、行政を効率化し、国民の利便性を高め、公平かつ公正な社会を実現する社会基盤」 と説明しています。「情報提供ネットワーク」 の役割があるといわれています。
 しかし自治体で管理する、利用者からは見えない情報の収集です。
 具体的には、社会保障分野の年金分野、労働分野、福祉・医療・その他の分野に利用されます。労働分野は、雇用保険等の資格取得・確認・給付を受ける際に利用、ハローワーク等の業務に利用とあります。福祉・医療・その他の分野は、医療保険法等保険料徴収等の医療保険における手続き、福祉分野の給付、生活保護の実施等低所得者対策の業務に利用されます。健康保険法、船員保険法、国民健康保険法、高齢者の医療に関する法律による保険給付の支給、保険外の徴収に関する事務も含まれます。保険給付の支給は、人びとの健康状態の掌握が可能になります。

 企業は、賃金支払い、税の徴収・納付のために労働者からのマイナンバーの報告を受けて提出書類に記載することになっています。会社は労働者のマイナンバーを掌握することになります。賃金計算を、子会社、経理専門会社や社労士などに委託している企業も多くあります。企業はナンバーの流出を止めることはできません。
 ストレスチェック票にマイナンバーが記載されて管理されたら、個人情報が知らないうちに社外に流出していることになりかねません。労働者の健康状態・情報が個人が知らないところで企業に 「提供」 され、管理されることになりかねません。
 その 「活用」 で、労務・人事管理において差別・排除、退職勧奨がわけがわからないうちに進められていきます。
 また体調不良で退職した労働者が再就職しようとした時に、相手会社から理由が明らかにされないまま拒否されるという事態が発生しかねません。

 改正マイナンバー法が成立した今年9月3日には 「改正個人情報保護法」 も衆院本会議で成立しました。個人情報保護法は国及び地方公共団体の責務等を明らかにしていますがプライバシーの保護はありません。
 個人情報は産業の創出並びに活力ある経済社会及び豊かな国民生活の実現のために利用していいということになり、その他の個人情報の前に位置づけられています。簡単にいうと、改正によって企業が持つ個人データを使いやすくするのとプライバシー保護の在り方が見直されています。
 ストレスチェック制度では情報の不正利用に対する罰則が設けられているから大丈夫という人たちがいます。
 しかし企業は情報取得を秘密裏に行い、漏えいが発覚したら後付の説明を行って合法だと居直れるように個人情報保護法は 「改正」 されました。居直るにしても謝罪するにしても、取得したら 「勝ち」 です。
 個人情報保護は、自分がしっかりとプライバシーを守っていれば大丈夫というレベルの問題ではありません。日本では個人情報が外部に漏らされることが人格権侵害という捉え方は小さいです。個人情報が他者から管理される、情報がどう利用されることになるか、そして個人が国家に管理されることに抵抗がありません。集団の中では仕方ないという諦めや、当たり前と捉える傾向があるようです。だから無防備と同時に他者のことも顧みず、いろいろなところに干渉したり、インターネットなどで他者の情報が流れていると書き込みをして追加の “情報提供” をしています。
 すでに様々な情報は収集されて管理されているのです。

 安倍政権の時期に、「ストレスチェック制度」、「秘密保護法」、「マイナンバー制度」、「個人情報保護改正」 が施行されるのは偶然でしょうか。
 くりかえしますがマイナンバー制度はあらゆる情報が盛り込まれ、人びとの一切を管理しようとするものです。
 これ以上個人情報を提供する必要はありません。

 ストレスチェック制度が実施されても、労働者にとって検査を受けることは義務ではありません。
 やむなく検査をうけざるを得ないとしても 「心身のストレス反応」 は拒否しましょう。
 チェック票にマイナンバーを記載することに反対しましょう。
 一次予防が目的なら、チェック票は無記名での提出も有効です。無記名でも 「検査結果の集団ごとの分析」 はできます。
 実施されても、体調不良者のリストアップ、排除・退職勧奨等に繋がらないよう監視をして行く必要があります。


   「活動報告」 2015.12.1
   「活動報告」 2015.12.4
   「活動報告」 2015.12.8
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『この世界の片隅に』 生きた人びとの願いは
2016/11/15(Tue)
 11月15日 (火)

 広島は戦前は 「水の都」 そして 「軍都」 でした。呉は一貫して軍港です。
 1944年から45年の広島、呉を舞台にした映画 『この世界の片隅に』 を観てきました。昼からの部を観ようとしたら満席で、予約席を確保できたのは次の次の次の回でした。
 原作者こうの史代の漫画はだいぶ前に読みなした。そこにあった場面が登場するとなつかしさが感じられました。時代は戦時中ですが物語の登場人物がほのぼのとした人たちだからでしょうか。戦闘場面などはあえて避けて戦争の実態を訴えています。


 こうの史代の作品には 『夕凪の街』 もあり映画にもなりました。広島に原爆が投下された後、生き延びて原爆スラムで暮らす主人公の女性の心情を描いたフィクションです。多くの人びとが亡くなったなかで自分は生き延びたことに罪悪感を抱き続けます(2012年7月24日の 「活動報告」 参照)。 『父と暮らせば』 に似ています。


 『この世界の片隅に』 の主人公は広島市内から呉に嫁ぎ、家族と一緒に暮らします。夫は呉の軍に勤めています。
 呉は軍港で軍が駐留していますので米軍の攻撃を頻繁にうけます。そのもとでの人びとの生活が描かれています。
 映画のあらすじを紹介するのではなく、心に残った場面を紹介します。

 冒頭で、主人公が歌う 『悲しくてやりきれない』 が流れます。

   胸にしみる 空のかがやき
   今日も遠くながめ 涙をながす
   悲しくて 悲しくて 
   とれもやりきれない
   このやるせない モヤモヤを
   だれかに告げようか

 オリジナルは1978年にフォーククルセダーズが歌っています。作詞はサトーハチロー、作曲は加藤和彦です。フォーククルセダーズは予定されていた 『イムジン河』 のレコードが発売自粛になります。そのため急きょ 『悲しくてやりきれない』 が作られて発売されました。聞き方によっては抗議の歌にも聞こえます。
 サトーハチローは広島の原爆で弟を亡くしています。平和大通りにサトーハチロー記念碑が建っています。
 映画の主人公とフォーククルセダーズとサトーハチローの心情が重なります。


 1944年当時の広島中心部が映し出され、原爆ドームが元の姿で登場します。戦闘は海外で展開されていました。人びとの生活はまだおだやかでした。
 しかし原爆ドームの元の姿・産業奨励館は、1943年11月1日から内務省中国四国土木出張所が1階と3階の一部を接収、県庁も部分的に移転していました。
 土木出張所は、日本を東西2つに分けて統治しようとした計画の西の第二総軍地下司令部を、現在の広島駅北側に見える二葉山に建設中でしたがそのための事務所でした。地下司令部建設作業には朝鮮半島から80人から100人が強制連行されて働かされていました。強制連行のための事務所が原爆ドームでした。

 日本が敗戦になると呉の軍司令部が軍関係の資料の焼却を命令し、兵士たちはその作業に取りかかるシーンがあります。
 当時、軍はもとより内務省の指示で県知事からも書類等焼却の通達が出されました。実際にGHQが日本に上陸するにはそれなりの時間を要しました。その間のことです。
 現在、強制連行や軍隊慰安婦にされた当事者の謝罪要求や裁判が続いています。日本は事実がない、証拠がないと主張しますが、証人・証言以外の証拠は焼却されたのです。


 軍艦大和が沈没させられたといううわさが伝わります。そして呉の港にも軍艦や船舶が沈められました。

 以前参加したヒロシマ平和ツアーは、尾道まで足を延ばし、向島の旅館に泊まりました。すると坊主頭の青年たちの集団と一緒になりました。何をしに来ているのかと聞くと映画撮影だといいます。何の映画だと聞くと佐藤純彌監督の 『男たちの大和』 だといいます。主役たちはいいホテルに泊まっていますが準主役やエキストラッチです。いわれてみると長期滞在のようで玄関の横にはスケジュール表が貼ってありました。
 話をしながら完成したら絶対観るからと約束をしました。そういいながらも一緒に行った1人が説教をはじめました。「あんたたち、いい戦争、正義の戦争なんてないんだからね。人を殺したり、殺されたりするんだからね。軍隊をかっこいいものなんて思っちゃだめだよ」。青年たちは 「わかりました」 と答えました。そのうちの1人は 「今日僕は殺される役でした」 といって笑いました。
 向島には 『男たちの大和』 のアミューズがあります。
 もちろん封切直後に観にいきました。

 軍艦や船舶が沈められているシーンをみて実感しました。軍艦は沈められるためにある。兵士は殺される。そうわかっていながら軍事予算は組まれる。安全地帯にいるものがもうけます。これが戦争の本質です。
 殺された者の遺族の生活と安全地帯にいてもうけたものの家族の生活の違い、これが戦後の格差社会の始まりです。(2013年10月21日の 「活動報告」 参照)


 呉の街が焼かれます。すると広島の人たちが支援物資をもってかけつけます。
 8月6日の原爆投下の状況は、呉の人たちにとってはあたりが真っ白になって、しばらくしてから爆音が聞こえます。
 広島の街がひどい目にあったということがわかると、呉の人たちは炊き出しをして広島に届けます。

 今年10月21日、鳥取で大地震が起きました。鳥取は1943年にも2回大きな地震が起きまいた。この時に京都の学生が大勢ボランティアに駆けつけたという記録があります。学生はまだ徴兵を免除されていました。
 この恩返しにと、8月6日に広島が大きな被害にあったということを聞くと、鳥取や島根の人たちは炊き出しをしておにぎりをむすび、沢庵や梅干しと一緒に背負って中国山脈を歩いて越えて届けました。この人たちは放射能の恐ろしさを知りませんでした。いわゆる入市被爆者になります。
 人びとは、いつの時代も助け合って生きてきました。

 敗戦を告げられると、人びとはたくさんの人・ものを失いながらも生活を再開します。「この世界の片隅に」 生きていきます。
 東日本大震災、熊本震災で被災した人たちの姿が重なります。

 最後に字幕が流れます。しかし観客はだれも席を立ちませんでした。本当の最後に、さようならと主人公の右手が振られます。

 軍事法制改正、自衛隊の海外出動が進むことへの静かなアンチでした。


   「活動報告」 2013.10.21
   「活動報告」 2012.7.24
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東日本大震災から5年8カ月
2016/11/11(Fri)
 11月11日 (金)

 11日で、東日本大震災から5年8か月がたちます。
 震災は大きな被害をもたらし、想像できない事態がおこりましたが、いまも関連するいろいろな困難局面が作り出されています。被災者が立ち上がるにはまだまだ時間が必要です。

 10月26日、地震、地盤沈下、津波に襲われ児童74人と教職員10人が死亡・行方不明となった石巻市立大川小学校の児童の遺族学校の対応を明らかにするために起こした損害賠償訴訟に仙台地裁は市と県に賠償を命じる判決を言い渡しました。
 遺族は 「本当は裁判まで起こしたくなかった」 と語っていましたが、訴訟ではあらためて亡くなった教師の判断の是非を問いました。遺族が裁判所に入る時と判決後の記者会見の席には「先生の言うことを聞いていたのに!!」 の横断幕が掲げられていました。
 判決に市は控訴しました。その理由を 「今回の判決で (死亡した) 先生方に責任を負わせることはつらい。学校の防災教育にも大きな影響を与える内容で、今後のことを考えて控訴する」 と説明しました。

 1人生き残った教師はPTSDにり患していると聞きます。自責の念に駆られ、証人として出廷できる状態にはないことは想定できます。無理にそうしたら新たな犠牲者にもなりかねません。被災地では被災者の心のケアが問題になっていますが、同じ被災者でも公務員、教師、消防士、警察官は問題にされません。

 判決とは白黒をつけるものですが、そこに至る前に何とかならなかったのかという思いにかられます。学校の防災教育が不足していたことは確かのようですが、その主張をするのなら、科目や道徳の詰め込みを重視するよう指導・監視している文部省も被告にされる必要があったのではないでしょうか。防災教育は阪神淡路大震災の後にいわれ始めましたが形骸化していました。
 悲惨な結果を招いてしまいましたが、子どもたちを死に追いやろう、自分も死のうと思った教師はいなかったと確信します。
 控訴した市は、高裁での和解を期待ますと表明していますがそうなってほしいと思います。

 2012年7月6日の 「活動報告」 で紹介しましたが、12年7月29日と30日、参議院が主催する 「子ども国会」 に宮城県代表として参加した6年生の佐々木綾香さんのお父さんは大川小学校の教師でした。
 佐々木さんは大川小学校の北上川をはさんだ向かいの小学校に通っていました。学校の屋上に避難しましたが犠牲になった同級生もいます。佐々木さんは、助かった大川小学校の児童が震災直後の様子を証言するテレビ番組などを見聞きし、お父さんの最期の状況を何となく感じ取れたと言います。「先生が私たちを津波から守ってくれた。同じように、お父さんも最後まで子どもたちを守ろうとしていた」 と確信しています。
 お母さんも教員です。「自分も教員だけに、保護者の無念さや悲しみ、怒りは理解できる。でも、私たちも遺族なんです」 と語ります。


 2020年の東京オリンピック・パラリンピックのボート、カヌー・スプリント競技の会場として宮城県登米市の長沼ボート場が候補にあがりました。登米市は、南三陸沿岸部の震災被災者が避難したところで、いまは移住者も多くいます。
 県知事は乗り気です。では整備費などの財源はどこから捻出されるのでしょうか。一部は東日本大震災復興基金を充てる考えです。
 基金は、被災者の自立支援や復興政策を進めるための資金ですが単年度予算の枠に縛られず、通常の補助事業に当てはまらないメニューにも弾力的に対応でき、使途の自由度が高く、自治体にとって使い勝手のいい財源です。
 これに対して被災者からは 「復興が最優先。基金は被災者や被災地の復興を直接進めるために使ってほしい」 などの声が上がっています。
 10月21日の県議会常任委員会でも 「復興財源を使うのは適切でない」 などと異論が出ました。県は 「被災者優先のスタンスは変わらない」 と強調しましたが、行政主導の説明は納得を得られるものにはなっていません。

 復興予算の無駄遣いです。そもそも、災害住宅もまだ足りていません。仮設住宅は2017年まで存続が予定されています。被害の大きさがそうさせているわけではありません。東京オリンピック開催の決定が被災地から復興工事のための人材、資材を奪い、人件費、価格を高騰させました。予定を立てても思うように進みません。
 被災者の生存・生活よりもオリンピックが優先されています。
 自衛隊出身の県知事にとっては、防潮堤工事が進んで 「国土」 の安全が確保されることが復興なのです。
 世界の各地から受けた支援に対してはオリンピックで復興した姿をみせようとしていますが、裏側には取り残された被災者がまだまだいます。


 11月9日、東京電力福島第1原発事故で福島県から横浜市に自主避難した中学1年の男子生徒が、転校先の横浜市立小学校で同級生のいじめを受けたとして不登校になっていることが分かったという報道がありました。
 避難してきた直後から、同級生に名前に 「菌」 をつけて呼ばれたり、暴力を振るわれたりするいじめにあっていました。「原発事故の賠償金をもらっているだろう」 といわれて金銭を要求されました。
 同じようなことは震災直後から各地で起きていました。しかしこれは大人たちの行動の再現です。

 2012年3月16日の 「活動報告」 の再録です。

 3月11日、石巻市の日和山公園からの眺めは空き地の先に海岸が見えません。空き地と水平線の間に高く積まれた 「瓦礫」 が平行線を描いています。海水にまみれた車両が集められて3段に重ねられています。まるで堤防がわりのようです。
 北上川をはさんだ漁港近くには4段重ねで高さ20メートルの巨大な 「瓦礫」 が他の建物を圧倒しています。「瓦礫」 には煙突が立っています。ガスが充満して発火する危険性があるので 「ガス抜き」 のためです。
 石巻市全体の 「瓦礫」 の量は610万トンで、岩手県全体を合わせた量を上回ります。しかも集められた 「瓦礫」 はまだ半分に至っていません。絶対量が多すぎます。1年間でやっと5%近くが処分されました。この調子では後20年かかります。

 公園で、初対面同士の60代と70代の被災者の方としばらく話をしました。
 やはり 「瓦礫」 と原発の話題になります。
 「陸前高田の松の木が京都の大文字焼で焚かれるのを拒否された時は悔しかったね」 もう1人が頷きます。「危険でなくてもああだから、被災地全部が危険だと拒否されたように受けとれた。『日本は1つ』 なんていうのは大嘘だったんだよね」
 「松の木が危険だというのなら、陸前高田に住んでいる人や、そのもっと手前にいる俺たちも危険に曝されていることになる。だけどそのことには関心ないんだよね。自分たちだけは危険にさらされるのが嫌だという」 「あれは一部の人で支援してくれる人のほうが圧倒的に多いけど」 「だけど、あのおかげで人に頼らないで自分たちでちゃんとしなければという意識を持つきっかけになった」

 市長や市の関係者は各地の自治体に瓦礫の処理の支援をお願いに行きました。行先で住民から 「帰れ」 の罵声を浴びせられている姿がテレビに映し出されました。
 市民たちが市長室に押しかけます。「市長、頭を下げないでくれ、市長が怒鳴られながら頭を下げているのを見ると俺が頭を下げている思いになる。俺たちは何も悪いことをしていない。瓦礫の処理に20年かかっても俺たちは我慢するからどうか頭を下げないでくれ」 と要請しました。
 話を聞かせくれた2人が続けました。「瓦礫は俺たちが築いた財産だから自分で処理しろといわれたらそうする。でも放射能は俺たちが作った財産じゃないよ。東京電力の電力を使った人たちのものだよ。放射能は持って帰ってくれといいたい。」

 「福島の子供たちが船橋市でいじめられた時は驚いたね。福島の人たちは福島原発の電力を使ってないよ。自分たちが福島原発の電力を使っていたくせに、使ってなくて被害を受けた人たちをいじめるんだからね。親の意識がそうなんだよね」 「福島の子どもたちは船橋や東京の人たちの被害者だよ。その認識がない。みんなが被害者だというがその前は原発を受け入れていたんだから」 「東京で使う電力は東京で作っていればいい。東京に原発を作っていたら福島は今回の様な被害に遭わなかった」
 東京に原発を作って事故に遭えばよかったといっているわけではありません。放射能被害を 「自分の周辺からだけは何が何でも排除」 と主張する人たちの思考とは相いれないということです。
 「福島の人たちは気の毒だよ。家があるけど帰れないんだから。俺らは家がなくなって帰れなくなったから諦められたけど」
 このような思いを抱きながら、あの後、被災者は発言を控えるようになりました。


 震災直後、首都圏のある地域で被災地と被災者をどのように支援していくかという会合がもたれました。そのなかに原発事故による放射能被害をまぬがれるためには自分たちも今すぐ避難しなければならない、それが先だと主張する人がいました。
 原発事故を鎮めるために頑張っている原発労働者がいる、被災者のために奮闘している消防職員や警察官、自治体職員等々がいると問題提起しました。
 それに対する避難が先だと主張した人の答えです。「あの人たちはお金をもらっているんだからいいのよ」。反論したのは1人だけでした。この人は 「原発反対」 を訴えるため毎週金曜日国会前に通っています。
 人の命はお金にかえられるものなのでしょうか。

 8月19日、厚生労働省は、東京電力福島第一原発事故後の作業で被曝した後に白血病になった元作業員の50代男性について労災を認定したと発表しました。原発事故後の作業従事者で、被曝による 「がん」 で労災が認められたのは、昨年10月の事例に続いて2人目です。
 厚労省は、放射線業務の従事者が白血病になった場合、発症までの時間などを考慮し、年5ミリシーベルト以上被曝して業務の開始から1年超が経っていれば労災と認める基準を設けています。
 原発事故の処理にはあとどれくらいの年月がかかるかわかりません。多くの労働者がその作業に従事することになります。これ以上労災認定者を増やさないように監視していかなければなりません。
 被曝労働に従事する労働者に敬意を表するとともに、健康に留意して活躍されることを期待します。


 被災地・被災者の苦闘・奮闘はまだまだ続いています。


   「活動報告」 2016.10.18
   「活動報告」 2014.3.19
   「活動報告」 2012.7.6
   「活動報告」 2012.3.16
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