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過労死等防止対策 個別的対応ではなく複合的対応を
2016/10/07(Fri)
 10月7日 (金)

 10月7日、政府は 「過労死等防止対策白書」 を閣議決定しました。
 2014年6月20日に 「過労死防止対策推進法」 が成立しました (14年5月30日の 「活動報告」 参照)。その第六条は (年次報告) 「政府は、毎年、国会に、我が国における過労死等の概要及び政府が過労死等の防止のために講じた施策の状況に関する報告書を提出しなければならない。」 と謳っていることによるものです。「白書」 は今回が初めてです。
 法はまた第七条で 「過労死等の防止のための対策に関する大綱」 を定めることを謳っています。15年5月25日に 「過労死等の防止のための対策に関する大綱 ~過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ~」 (案) が作成されました (15年5月26日の 「活動報告」 参照)。
 「大綱」 は、これまで個別に取り扱われてきた長時間労働やストレス、メンタルヘルス対策などの問題を集約的に取りまとめたもので新しいものは見当たりません。しかし個別的課題にほかの課題に連関させ、さらに大綱作成のために5回開催された過労死等防止対策推進協議会の議事録と提出された資料を合わせて読み通すと本質的問題が浮き彫りになりました。
 これまでの個別的対応、しかも法律ではなく強制力のない 「通達」 等の限界の状況が露呈されました。
 「白書」 はこれらの経過報告と一緒に、これまで様々な部署から個別に発表されてきた調査結果を集めています。


 第1章 過労死等の現状について見てみます。
「一般労働者とパートタイム労働者の別にみると、一般労働者の総実労働時間は2,000時間前後で高止まりしている一方、パートタイム労働者の総実労働時間は横ばいから微減で推移 している。一方、パートタイム労働者の割合は、近年、増加傾向にあることから、近年の労働者1人当たりの年間総実労働時間の減少は、パートタイム労働者の割合の増加によるものと考えられる。」
 一般労働者の総実労働時間2,000時間は、事業場を対象とした調査結果で、管理職、裁量労働の労働者、サービス残業の労働者等はどう扱われているか不明です。このからくりは事件が起きないと発覚しません。
 それでも2000時間を切ったのは2009年、リーマンショックの翌年だけです。総務省が行なっている世帯を対象とした労働力調査の労働時間とは開きがあります。
 厚労省は、この間、一般労働者とパートタイム労働者を合わせた平均労働時間を発表して世論をだましてきましたが、過労死防止対策が開始されてやっと別々に発表されるようになりました。

 1週間の就業時間が60時間以上の長時間労働者についてです。
「総務省 『労働力調査』 で雇用者 (非農林業) の月末1週間の就業時間別の雇用者の割合の推移をみると、1週間の就業時間が60時間以上である者の割合は、最近では平成15、16年 (2003年、04年) をピークとして減少傾向にある。平成21年 (2009年) に大きく減少した後、平成22年 (2010年) に一時増加したが、平成22年以降は緩やかな減少を続けている。」
 性別、年齢層別に見ると、週間就業時間35時間以上の就業者に占める割合は30歳代と40歳代の男性は18%前後、50歳代、20歳代は14%台です。
「総務省 『就業構造基本調査』 により、職業別に、年間就業日数が200日以上の者のうち、 月末1週間の就業時間が60時間以上の雇用者の割合をみると、平成24年 (2012年) は、『輸送・機械運転従事者』 で最も高くなっており、次いで、『保安職業従事者』、『農林漁業従事者』 の順に高くなっている。一方、『事務従事者』、『運搬・清掃・包装等従事者』、『生産工程従事者』 の順に、その割合が低くなっている。」
 「輸送・機械運転従事者」、「保安職業従事者」 は過重だが賃金が低い労働者です。そのため長時間に流れます。なおかつ関連会社、下請けが多い業種で、輸送・機械運転従事者は個人事業主も多くいます。これらの労働条件は、系列会社としての 「同一労働同一価値賃金」 の視点から検討して改善されなければなりません。現在進んでいる政府の 「同一労働同一賃金」 の議論はここまで含め、業界全体の底上げにいたらないと賃金、労働時間の格差は解消されません。
 見失ってはいけないのは、1週間の就業時間が60時間以上について公表されていますが、具体的時間数については明らかにされていません。OECDなどの国際的調査は最長60時間までになっているので日本もそれに合わせたと説明するのでしょうが、実際に労災認定状況などで明らかにされている資料では、100時間以上もかなりいます。
 具体的には、脳・心臓疾患の労災認定の時間外労働時間数 (1か月平均) 別支給決定件数のうち、100時間以上で支給決定 (労災認定) になった件数は、2014年に141件、15年に120件あります。精神障害の労災認定の時間外労働時間数 (1か月平均) 別支給決定件数では、2014件に174件、15年に172件あります。これらの数字は、超長時間労働は決して例外ではないということです。
 60時間以上ということで目くらましに合わないように注意しなければなりません。


 職場におけるメンタルヘルス対策の状況についてです。
「仕事や職業生活に関する強い不安、悩み、ストレスの内容 (3つ以内の複数回答) をみる と、『仕事の質・量』 (65.3%) が最も多く、次いで、『仕事の失敗、責任の発生等』 (36.6%)、『対人関係 (セクハラ・パワハラを含む。)』 (33.7%) となっている。」
「現在の自分の仕事や職業生活でのストレス等について相談できる人がいるとする労働者の割合は90.8%となっており、相談できる人がいるとする労働者が挙げた相談相手 (複数回答) は、『家族・友人』 (83.2%) が最も多く、次いで、『上司・同僚』 (75.8%)となっている。」
「また、ストレスを相談できる人がいるとした労働者のうち、実際に相談した人がいる労働 者の割合は75.8%となっており、実際に相談した相手 (複数回答) をみると、『家族・友人』 (58.9%) が最も多く、次いで、『上司・同僚』 (53.5%) となっている。」
 不安、悩み、ストレスの内容からは、労働者が職場で共同ではなく分断されて業務に従事している状況が見えてきます。実際は、この3つの内容は連関しています。「仕事の質・量」 が多い中で 「仕事の失敗、責任の発生等」、「対人関係(セクハラ・パワハラを含む。)」 は発生します。時代の流れでしょうが、同僚との仲間意識が薄れてきています。
 その結果、相談できる人がいるとする労働者の相談相手が 「家族・友人」 が「上司・同僚」 よりも大きくなっています。実際に相談した相手もそうです。職場のトラブルが家庭に持ち込まれています。その相談ではない形態が家庭内暴力です。


 メンタルヘルスケアに取り組んでいる事業所の割合についてです。
「メンタルヘルスケアに取り組んでいる事業所の割合は、60.7% (平成25年 (2013年)) であり、前年の47.2%より上昇している。取組内容 (複数回答) をみると、『労働者への教育研修・情報提供』 (46.0%) が最も多く、次いで、『事業所内での相談体制の整備』 (41.8%)、『管理監督者への教育研修・情報提供』 (37.9%) となっている。」
 実際は、教育研修は講師を外部から、相談体制は “専門家” に引き継ぐ、そして 「管理監督者への教育研修・情報提供」 の取り組みは、職場にいる労働者を巻き込んでのものではありません。「管理・監督」 の手法です。
 労働者の不満や希望、要求を聞き、改善点を探って体調不良者を出さないという職場環境づくりが必要です。


「職場のパワーハラスメントの問題については、近年、全国の総合労働相談コーナーへの 『いじめ・嫌がらせ』 の相談件数が増加するなど、社会問題として顕在化している。具体的には、総合労働相談コーナーにおいて、民事上の個別労働紛争に係る相談を平成27年 (2015年) 度中245,125件受け付けているが、そのうち、職場での 『いじめ・嫌がらせ』 に関する相談受付件数は、66,566件 (22.4%) であり、相談内容として最多となっている。」
 「いじめ・嫌がらせ」 の相談件数が増えているのは、現在の職場環境を見たなら頷けます。もう1つは、2012年3月15日に厚生労働省は 「職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言」 (「提言」) を発表しました。そのような流れの中で労働者が声をあげやすくなったということもあります。
 ただ、総合労働相談コーナーの相談内容の分類は項目が少なく、無理やり 「いじめ・嫌がらせ」 に含ませている内容ももあるように思われます。項目が少ないと、職場の実態が見えてきません。
 さらに相談件数245,125件、そのうち 「いじめ・嫌がらせ」 66,566件ですが、あっせん等の手段で解決に至っている件数はかなり少ないです。総合労働相談コーナーは、労働者から相談を受けたら解決に至る力量をもっともっとアップさせる必要があります。そうでないと 「あてにならない」 機関になっていきます。

 就業者の脳血管疾患、心疾患等の発生状況、精神障害の労災認定の状況については割愛します。(2016年7月8日の 「活動報告」 参照)


 自殺の状況における、勤務問題を原因・動機の 1 つとする自殺者数の推移 (原因・動機詳細別) についてです。
「原因・動機別 (遺書等の自殺を裏付ける資料により明らかに推定できる原因・動機を自殺者 一人につき3つまで計上可能としたもの) にみると、勤務問題が原因・動機の一つと推定される自殺者数は、平成19年 (2007年) から平成23年 (2011年) までにかけて、自殺者総数が横ばいから減少傾向にある中で増加したが、その後減少し、平成27年 (2015年) は2,159人となっている。
 勤務問題が原因・動機の一つと推定される自殺者数の推移を原因・動機の詳細別にみると、 勤務問題のうち 『仕事疲れ』 が3割を占め、次いで、『職場の人間関係』 が2割、『仕事の失 敗』 が2割弱、『職場環境の変化』 が1割強となっている。」
「勤務問題が原因・動機の一つと推定される自殺者数の推移を年齢層別にみると、概ね、40 ~49 歳、30~39 歳、20~29 歳、50~59 歳の順に多く、これらの階層は何れも全体の4分の1から5分の1を占めている。」
 「仕事疲れ」、「職場の人間関係」、「仕事の失敗」、「職場環境の変化」 は表面的原因です。
 13年2月28日、自殺対策に取り組んでいるNPO法人ライフリンクは、2008年に続いて 「自殺実態白書2013」 を公表しました。そのなかで自殺に至るまでの過程・プロセスなどを分析してまとめあげています。
 1.自殺の危機要因となり得るものは69個ある。自殺で亡くなった人は、「平均3.9個の危機要因」 を抱
  えていた。
 4.正規雇用者 (正社員+公務員) の25%は、配置転換や昇進等の 「職場環境の変化」 が出発要因
  となっていた。
 5.うつ病は、自殺の一歩手前の要因であると同時に、他の様々な要因によって引き起こされた 「結果」
  でもあった。うつ病の「危機複合度 (その要因が発現するまでに連鎖してきた要因の数) は、3.6と非
  常に高かつた。
などです。
 「平均3.9個の危機要因・経路」 の事例です。(「→」 は連鎖を、「+」 は問題が新たに加わってきたことを示す)
 【被雇用者 (労働者)】
  ① 配置転換 → 過労+職場の人間関係 → うつ病 → 自殺
  ② 昇進 → 過労 → 仕事の失敗 → 職場の人間関係 → 自殺
  ③ 職場のいじめ → うつ病 → 自殺
 【離職者 (就労経験あり)】
  ① 体調疾患 → 休職 → 失業 → 生活苦 → 多重債務 → うつ病 → 自殺
  ② 帯保証債務 → 倒産 → 離婚の悩み+将来生活への不安 → 自殺
  ③ 犯罪被害 (性的暴力) → 精神疾患 → 失業+失恋 → 自殺
などが挙げられています。
 危機経路の自殺の一歩手前がうつで、うつの対策は、その手前で対策を取らなければなりません。


 この後に公務員の労災状況が続きます。公務員についてまとめて報告されるのは珍しいです。


 疲労の蓄積度、ストレスの状況についてです。
「労働者 (正社員(フルタイム)) 調査において、最近1か月間の勤務の状況や自覚症状に関する質問により判定した疲労の蓄積度が 『高い』、『非常に高い』 と判定される者の割合を、回答者の勤務先の業種別にみると、『宿泊業,飲食サービス業』 (40.3%) が最も高く、次いで 『教育,学習支援業』 (38.9%)、『運輸業,郵便業」 (38.0%) の順となっている。」
「一方、労働者 (正社員(フルタイム)) 調査において、最近数週間のストレスの状況に関す る質問により4点以上と判定された者の割合を、回答者の勤務先の業種別にみると、『医 療,福祉』 (41.6%) が最も高く、次いで 『サービス業 (他に分類されないもの)』 (39.8%)、『卸売業,小売業』、『宿泊業,飲食サービス業』 (何れも39.2%) となっている。」
 ストレスの状況は残業時間に確実に正比例しています。

「労働者 (正社員 (フルタイム)) 調査において、勤務日における睡眠時間別に疲労の 蓄積度をみると、睡眠時間が 『3時間未満』 では、疲労の蓄積度が 『高い』 又は 『非常に高い』 と判定される者の割合は52.7%、『3時間以上6時間未満』 では46.3%であったのに対し、『6時間以上7時間未満』 では29.7%、『7時間以上8時間未満』 では21.9%、『8時間以上』 では20.6%と、睡眠時間が長くなるに従って、その割合が低くなる傾向がみられる。同様にストレスの状況 (GHQ12による判定が4点以上の者の割合) については、睡眠時間が 『3時間未満』 では52.6%、『3時間以上6時間未満』 では48.0%、『6時間以上7時間未満』 では34.9%、『7時間以上8時間未満』 では29.0%、『8時間以上』 では28.2%と、睡眠時間が 長くなるに従って、その割合が低くなる傾向がみられる。」
 睡眠時間が 「3時間未満」は異常です。原因を追究して改善に向かわせる必要があります。
 ワーク・ライフ・バランスがさけばれていますが、その中に睡眠時間はしっかりと組み入れる必要があります。


 勤務間インターバル制度の導入状況についての調査結果については、8月26日の 「活動報告」 を参照してください。


 日本では、問題が発生すると、調査をして報告書を作成します。しかし対策はそこで止まっています。「白書」 はそれらが集約されています。眠っている資料を複合的に活用するチャンス到来です。
 厚労省は、約2万人の労働者を10年間追跡する大規模調査や、長時間労働と健康に関する研究を推進する方針ということです。
 「白書」に書かれていることについてはまだまだ改善の余地があります。これを契機に意見を交流し、提案しながら具体的問題に対応していく必要があります。


   「平成28年版過労死等防止対策白書」
   「活動報告」 2016.8.26
   「活動報告」 2016.7.8
   「活動報告」 2015.5.26
   「活動報告」 2014.5.30
  当センター「いじめメンタルヘルス労働者支援センター」ホームページ・ご相談はこちらから
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