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それぞれが認め合える居場所を作ることがいじめ防止対策
2016/10/04(Tue)
10月4日 (火)

 9月28日で 「いじめ防止対策推進法」 が施行されてから3年が経つということで、新聞等では学校のいじめ問題が取り上げられています。
 法制定のきっかけとなったのは、2012年に大津市中2いじめ自殺事件が発覚たことによってです。事件がクローズアップされると、それまで泣き寝入りをしていた者たちも声をあげはじめ、表面化した件数は増えます。しかしそれ以降、増えているのか減っているのかはわかりません。

 法律には、(目的)、(定義)、(基本理念) などが謳われています。いじめの定義は、「『いじめ』 とは、児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為 (インターネットを通じて行われるものを含む。) であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているものをいう。」 です。
 法案成立に際しては衆議院、参議院ともにおなじ附帯決議がつきました。
「一 いじめには多様な態様があることに鑑み、本法の対象となるいじめに該当するか否かを判断するに当たり、『心身の苦痛を感じているもの』 との要件が限定して解釈されることのないよう努めること。」
 定義を狭くとらえることがないようにという提起です。

 しかし (目的)、(基本理念) に真新しいものはみつかりません。むしろ、自治体や地域の責務を謳っても、解決を学校・教師に押し付けて監視するという姿勢が見受けられます。教師に対する 「管理教育」 が進んでいます。
 教師は、文部省―教育委員会―校長―教頭からの管理・支配をうけています。その一方で保護者、地域からの要求・監視をうけます。双方の要求が同じ方向を向いているとは限りません。往々にして対立構造が作り出されます。教師は双方からの板挟みにあって攻撃にさらされます。
 そうとらえてしまっていると、小さないじめに気付いたとしても、そうではないと遠ざける意識が生まれます。いじめであっても小さいうちに自分たちで解決してほしいという “期待” をもちます。対応して問題が発覚してしまったほうが起きたことをふくめて批判の対象にされることを想像してしまうからです。ふだんからの上司や同僚の “見て見ぬふり” からは支援を期待できません。
 このような経過をへていじめが深刻化し、自殺などに至ってしまったという例がたくさんありますが、教訓となっていかされていません。そこには学校という “構造” があるからです。対策としては “期待” が先走ってしまう意識が生まれる “構造” にメスを入れる必要がまずあります 。

 そもそも教師がおかれている状況も深刻です。時間的にもゆとりがありません。子どもたちの中に入って信頼関係を強め、複雑な関係性を掌握したり気配りをするためには時間的にも精神的にもゆとりが保障される必要があります。「心身の苦痛を感じているものとの要件が限定して解釈されることのないよう努めること」 には教師を取り巻く環境を含ませる必要があります。いじめ担当教師やカウンセラーの配置は担任教師の業務を軽減しません。子供たちに複数で対応すると、子どもたちはそれぞれに対応を違えるだけです。

 学校のいじめの原因は学外にも存在します。それぞれの子どもたちがおかれている家庭状況など教師が掌握できないところを含めて複雑です。子どもたち同士の関係は学校外でもつづいています。教師も保護者も心身の苦痛まで見通せません。
 学校に無理難題を押し付ける保護者がいる一方、子どもと一緒にすごす時間をつくれない保護者も大勢います。

 定義は、「当該児童等が在籍する学校」 が対象です。子どもたちがおかれている学校外の状況に目を向けていません。
 いじめる子どもは何に怒って誰を相手に攻撃しているのでしょうか。学校のいじめ問題は、もっと社会的問題ととらえる必要があります。いじめはなぜ起きるのかということから根本的原因を探る必要があります。起きてしまってから誰かに責任を擦り付けるのではない、起こさない対策を探る必要があります。


 4月14日の朝日新聞の 「学びを語る いじめ防止」 のコーナーで評論家の荻上チキさんが語っています。
「いじめを防ぐにはどうすればいいか。『道徳心を培う』 など心の持ちようではなく、教員の指導のあり方など教室を取り巻く環境に着目し、いじめの発生原因を取り除こうという動きがある。
 教室にどれくらいストレスの要因があるかで、いじめの発生確率は異なるという説が最近、語られています。早期発見し、解決につなげる議論に比べて低調だったいじめの未然防止を考えるうえで、重要な視点です。
 ストレス要因の1つが教員の振る舞い。体罰をする教員の下ではいじめが起きやすい。問題のある子は懲らしめていい、というメッセージを発してしまうからです。服装や髪形指導も厳しいほどストレスがたまります。トラブルを見て見ないふりをすることで、いじめもセーフだという感覚を子どもが持つこともあります。小さないじめが積み上げられていくと、どんどん長期化、深刻化します。いじめが起きやすい 『不機嫌な教室』 から、ストレス要因を取り払うことがまず大事です。それにとどまらず、だれもがより居心地の良い 『ご機嫌な教室』 にどう変えていくかを問題提起しています。……
 いじめ対策法だけでなく、発達障碍者支援法が施行されました。性的少数者の子どもへの支援や、不登校を法律で認めようという動きも出てきました。教室はもっとご機嫌なものに変えられると思います。」


 白岩玄の小説 『ヒーロー!』 (河出書房新書) は高校が舞台の学校のいじめがテーマです。2年生の男子生徒・英雄と女子生徒佐古は中学が同じでした。
 英雄は、いじめをなくせる解決方法を思いついたといって演劇部の佐古に演出の協力を求めます。
「いじめってのは、誰か特定の人に負の関心が集まるから起こるわけだよ。だったら教室の中で何か面白いことをして、みんなの関心を無理やりさらってしまえばいい。簡単に言えばさ、休み時間の教室に急にミッキーマウスが入ってきたら、みんなそれに気を取られて、いじめなんか絶対に起こらないと思うんだ」
 佐古の受け止めです。
「うちの学校だけでもいじめの数は相当なものになるだろう。でもそれは仕方のないことなのだ。今みたいに社会全体が明確な方向性をもっていない時代には、誰かにベクトルを向けて暇つぶしをすることでしか日常を消化していけない。……この世からいじめはなくならない。だいたい大人の世界にあるものが、同じ人間の子どもの世界からなくなるわけがないだろう」
 そう思いながらも佐古は英雄に協力します。英雄は大仏の面をかぶって教室ではなく校庭でショーを実行し、全校から注目を集めます。演出は毎日違います。

 やり続けるために、英雄は直接校長に掛け合います。
 校長室で校長が2人に質問します。
「まずひとつめだけど、君たちは今やっていることで本当にいじめを防げると思うか。これは私が防げないと考えているわけではなくて、純粋に君たちがどう思っているかを知りたいんだが」
 「僕は防げると思います」 と英雄は明言した。
 佐古は 「ある程度は防げると思います」 と答えました。
「わかった。じゃあもうひとつ。君たちがいじめをなくそうと思った理由は何かな? なぜいじめをなくそうと考えたのか、それを教えてもらいたいんだ」
 英雄が答えます。
「・・・幼なじみがいるんです。幼稚園のときからずっと一緒に遊んでいた。そいつは小二のときにいじめられて、学校に行けなくなりました。心の病気になって、だいぶ回復してますけど、未だにフリースクールに通っている状態です。俺にはそいつを守れなかったっていう負い目がある。だからいじめをなくしたい。それだけです」
 沈黙のあと英雄がつづけます。
「最初に校長先生にお話しした時は言いませんでしたけど、俺が今のやり方でいじめをなくそうとしているのは、その幼なじみに言われたことが影響しているんです。俺がいじめをなくしたいと言ったとき、そいつはなるべく直接手を下さない方法でやってほしいと言いました。大人たちがするように、いじめの問題に直接手を下せば、人間関係にゆがみが生じて何かしらの遺恨が残ってしまう。悪い奴を叩けばそれで済むという問題ではないんです。下手をすれば余計に悪化して手がつけられなくなるだけだ。だから俺はみんなの注目を集めるやり方で、いわば間接的にいじめをなくそうと思ったんです」
 その後、校長は必死になって他の先生を説得します。

 後日、校長から呼び出されて大丈夫かと訊かれます。「ショーに出ている子どもたちが矢面に立っている子どもたちがいじめられてしまったら元も子もない」
 英雄が答えます。
「そういうのは気にしないでいいですよ。物事には役割分担ってのがあるんです。俺が前線でがんばって、校長先生や佐古が後方支援をしてくれる。どっちが欠けてもうまくいかない。だから校長先生は自分の役割をきちんと果たしてくださればいいんです。」

 佐古は英雄の幼なじみの公平に会いいじめのことを聞きます。
「・・・話すと長くなるんだけどね、僕と英雄は幼稚園が一緒だったんだ。でも小学校からは別々になった。僕は親の希望で私立の学校に入れられて、英雄は公立の学校に入学した。僕は英雄以外に友だちがいなかったし、人見知りで人付き合いも苦手だった。だから小二のときにいじめられた。相手は大人しい子だったんだけど、すごく陰湿ないじめをするんだよ。物を隠されたり、見えないところをつねられたり、それがあまりにも長く続いたから耐えられなくなって英雄に相談した。そうしたら英雄が怒ってさ、あの性格でしょ? 俺が懲らしめてやるっていうんだよ」
「でも僕は暴力が好きじゃなかった。英雄がその子を傷つけるところを見たくなかったんだよ。だから二人で話し合って、担任の先生に相談した。それで一時はおさまったんだ。でも告げ口したのが卑怯だって思われたのか、その子は少ししてから、前よりももっと激しく僕をいじめるようになった。両方の親が呼び出されて、何度も面談があって、先生が厳しく注意したけど、その子はいじめをやめなかった。その代わりお母さんがね、そのいじめっ子の母親が、僕にずっと謝ってくれたんだ。控えめですごく気の弱い人だったから、何回も何回も、こっちが気の毒になるくらい頭を下げ続けてね。だから僕も、最初はその子のことを恨んだけど、途中で 『もういいや』 って思ったんだよ。このままじゃこの件に関わる人全員が疲弊していくだけだって。でも僕がそう言っても、大人たちは止まらなかった。名門校のイメージを守りたいっていうのもあったのか、先生たちはいじめをなくすことに躍起になっていた。正義って背中に追い風が吹くんだよ。みんな冷静さを欠いていたし、解決することを急ぎすぎた。それで結果的に、その気の弱いお母さんが自殺したんだ。きっと必要以上に自分をおいつめちゃったんだろうね、ノイローゼみたいになったらしい」
「僕をいじめた子は、お母さんの葬式でいつまでも泣いていたよ。僕はそれを見て以来、学校に行けなくなったんだ。自分のせいじゃない、運が悪かったんだと思おうとしても、どうしても思い出しちゃうんだよ。自分がもっとうまいやり方をしていれば、あるいは自力で解決する方法を見つけていれば、人が死ぬことにはならなかったんじゃないかって」

 転校生の星乃が、チアリーダー部の柚木に英雄への協力を要請します。
「・・・新島英雄くんは私みたいな学校になじめない子の居場所をつくってくれました。彼が一生懸命人目を引いてくれたから、私はみんなから変なふうにからまれることが減ったんです。これまでの学校生活で、初めて呼吸が楽になったんです。私と似たような苦しみを持つ人が、きっとウチの学校にはいっぱいいます。その人たちは自分から声を上げられない。我慢して、嫌だなって思いながら平気な顔して、誰かが助けてくれるのを待っているんです。だからお願いします。どうかチアリーディング部の力を貸してください」
 チアリーディング部は協力を了解します。
 チアリーディング部とのコラボレーションを終えた英雄が漏らします。
「・・・俺さぁ、今までずっと、自分が学校の平和を守るんだって思っていたんだよ。でも別にそんなことしなくても、星乃と友達になったりさぁ、今日みたいに、みんなと何かを一緒に作り上げることで生まれる平和もあるんだなーって思ったわ。・・・1人で抱えすぎていたのかな?」

 校長はなぜ協力してくれたのでしょうか。佐古が聞いた話を公平に報告します。
「詳しくは話してくれなかったけど、自分は長い教師生活の中で、いじめの問題に対して何もできなかったっていう感覚が強かったんだって。それで私たちからの提案を受けたときに、初めて何かができるかもしれないって思ったらしいの」
「でももちろんそれだけが理由じゃないよ」
「君たちの提案を受けたのは、君たちの提示した方法が 『生徒の居場所をつくるもの』 だったからだ。君たちはショーをやることで人目を引いて、弱い立場の生徒に悪意を向けさせないと言った。それはつまり、教室の中に生まれてしまう差別的な空気を、いわば換気して取り払うということだ。理不尽な扱いを受けている生徒が、本来の自分のままでいられる環境を自然な形で作り出す。私はそこがいいと思った。
 いろんな意見があるだろうけど、私は学校で一番大事なことは、生徒1人1人の居場所があることだと思っているんだよ。教室でも、部活動でも、図書館でも保健室でもいい。それが1人の友達だっていいんだ。学校に自分の居場所があれば、生徒たちは学校に来る。別に学校に来ることがすべてではないけれど、嫌なことさえなければ、ほとんどの子どもは学校に行きたいものだからね。だから何よりも居場所を作ることを優先するように私は心がけてきた。でもただそれだけのことが難しい。・・・でも自分ではうまく居場所を作れない子だっているんだよ。居場所があるということが、その生徒にとってどれだけ大きな意味があることなのかが理解されない。私は前から思っているんだが、居場所というのは、その人の幸せそのものなんだよ」

 佐古は校長の話を公平に伝えながら言います。
「公平君が人を傷つけることの恐ろしさを教えてくれなかったら、私たちがこんなに結びつくこともなかったと思う」

 公平はフリースクールを辞めて都内にある私立の学校に通うための準備を開始します。
 英雄がどうせならウチの学校に来ればいいじゃんと誘ったが、それは甘えになるからと言って断ります。
「自分の居場所は自分の力で作りたいんだ」


 学校のいじめは、「だいたい大人の世界にあるものが、同じ人間の子どもの世界からなくなるわけがないだろう」 です。学校のいじめ対策は、大人社会の対策と同じです。いじめなんてつまらないと思える 「居場所」 をみんなが参加して作りあげることです。
 いじめの対応にマニュアルはありません。


   「活動報告」 2010.11.3
  
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電通の過労自殺は大手企業の傲慢さの象徴
2016/10/04(Tue)
 10月25日(金)

 大手広告会社の電通で、昨年末に新入社員が過労自殺し、労災に認定されたことを遺族が10月7日に記者会見して明らかにしました。
 昨年4月に入社した新入社員は、試用期間が過ぎた10月以降1か月の時間外労働が105時間におよびました。しかし電通は、社員本人が作成する「勤務状況報告表」の時間外労働は月70時間を超えないよう指導し、新入社員は10月に「69.9時間」、11月に「69.5時間」と記載していました。

 電通では、1991年に入社2年目の男性社員が過労自殺したことに対して遺族が提訴し、2000年に最高裁から東京高裁への差し戻し審で電通が損害賠償と謝罪をして和解しました。いわゆる「電通過労死事件」です。第一審判決では「使用者の安全配慮義務」違反が指摘され、判例はそれ以降の裁判でも踏襲されています。
 しかし電通においては労働環境が改善されていないといううわさはその後も漏れ伝わってきていました。今回の事件が報道されると、13年6月にも当時30歳で病死した男性社員は長時間労働が原因で過労死し、労災認定されていたことが明らかになりました。また14年6月に関西支社が、15年8月に本社が労基署から是正勧告を受けていたことが明らかになりました。新入社員は本社が勧告を受けた4カ月後のです。


 電通過労死事件の一審判決を契機に労働省は労災認定基準の改正作業に取りかかりました。その後、精神障害の労災認定は増えつづきます。
 使用者側も“高額の損害賠償金を支払わないため”のメンタルヘルス対策を開始しました。講習会では電通過労死事件の和解金額が掲載された新聞切り抜きを示し、管理職は社員の動向を監視し、裁判に至ったときに反証するための証拠づくりが命令されました。メンタルヘルス対策は、労働者個人の資質の問題、健康管理は自己責任というとらえ方で職場環境改善には至りません。その姿勢は、昨年12月1日から法的に義務付けられた「ストレスチェック制度」の具体的運用においてもそうです。
 労働者個人の資質の問題というとらえ方は、いみじくも今回の過労自殺事件が報道され、政府の「過労死等防止対策白書」が公表された直後に武蔵野大の長谷川秀夫教授が言い得ています。ニュースサイトなどに「月当たり残業時間が100時間を超えたくらいで過労死するのは情けない。自分が請け負った仕事をプロとして完遂するという強い意識があれば、残業時間など関係ない」と投稿しました。抗議をうけると「つらい長時間労働を乗り切らないと会社が危なくなる自分の過去の経験のみで判断した」と釈明しました。会社のためには労働者は無理を受忍しなければならないという主張です。労働者の健康よりも会社が優先、労働者は使い捨て、いつでも取り換えがきくという多くの使用者の本音が吐露されました。
 さらに「勤務状況報告表」の書き替えは、多くの企業で行なわれていますが残業代の未払いも発生させています。

 そのような労務政策によって多くの企業で長時間労働がはびこっています。
 2012年3月、世界人権宣言に基づく社会権規約に対して、国際人権活動日本委員会は「社会権規約第3回日本政府報告に対する『カウンターレポート』」を提出しました。そのなかに過労死問題も盛り込まれています。
「下記の表は日本経団連の会長・副会長歴任者出身企業の36条協定の実態である。これは株主の立場から企業の社会的責任(CSR)を求めて活動しているNPO株式オンブズマンが、労務上のコンプライアンスの現状を把握するために所轄の労働局を通じて得た情報である。」
 表には企業名、延長することができる最大時間(1日、1か月、1年)、過半数代表者が記載されています。
 例えば、
  キャノン   15時間、    90時間、1000時間、労働組合
  トヨタ自動車  8時間、    80時間、 720時間、労働組合
  新日鉄製鋼   8時間、   100時間、 700時間、労働組合
  三井物産   12時間45分、120時間、 920時間、労働組合
などです。
 三井物産の労働者は8時間労働で、間に1時間の休憩時間をはさみ、そのうえで12時間45分の残業をしたら、通勤時間を含めたら生活時間はどれくらいになるのでしょうか。
 かつての栄養ドリンクのコマーシャル「24時間働けますか」そのものです。
「日本を代表する、かつ日本の経済界をリードする大企業が労働基準法の規定をはるかに超えた36条協定を労働組合と締結しているという実態が示されている。労働組合がその不法不当な協定に合意し、かつ所轄の労働基準監督署がその36条協定を指導し訂正を求めることなく受理しているというゆゆしき結果が示されている。」
 記載されたある企業は、全員が対象ではなく、急に残業が必要になったときの担保だと弁明しましたが果たして実態はそうでしょうか。さらに多くの企業で「延長することができる最大時間」を超えた時間外労働が常態化しています。その具体的例が電通ではないでしょうか。

 このような長時間労働を「合法化」しているのが、厚労省が2003年10月22日に発した労基法36条の運用に関する「通達」(基発第1022003号)のなかの「特別条項付き協定」です。
「労使当事者は、……『限度時間』以内の時間を一定期間についての延長時間の原則として定めた上で、『限度時間』を超えて労働時間を延長しなければならない『特別の事情』が生じたときに限り、一定期間として協定されている期間ごとに、労使当事者間において定める手続を経て、『限度時間』を超える一定の時間まで労働時間を延長することができる旨を協定すれば、当該一定期間についての延長時間は『限度時間』を超える時間とすることができることとされているところである。」
具体的には「特別の事情」がある場合は「1日を超え3箇月以内の一定期間について、原則となる延長時間を超え、特別延長時間まで労働時間を延長することができる回数を協定するものと取り扱うこととし、当該回数については、特定の労働者についての特別条項付き協定の適用が1年のうち半分を超えないものとすること」です。
 要するに、特別条項付き協定を結べば、限度時間を超える時間を延長時間とすることができます。その運用(悪用)次第では労働時間の上限はないといえるものになります。
 経団連が、政府への「おねだり経団連」と呼ばれて久しいですが、政府・厚生労働省は労働時間の規制においては使用者の都合だけを配慮し、労働者の健康問題については「通達」「指針」で済ませています。
 長時間労働を合法化する特別条項付き協定は直ちに撤廃されなければなりません。

 長時間労働の実態は、特別条項付き協定を含めた36協定を締結している一方の労働組合にも責任があります。さらに、特別条項付き協定を超えた長時間労働の黙認は労働組合も共犯です。
 電通過労死事件の時、遺族は電通の労働組合に裁判へ支援を要請しました。労組は「中立を守る」という回答で拒否しました。「中立を守る」は、会社に非があったことが明らかになっても会社を追求しないで、裁判の結果を黙殺しました。その結果、今回の事件も発生しました。労働組合は共犯です。しかし今回も沈黙を守っています。労働者の生命も守ろうとしない労働組合はもはや労働者への敵対者でしかありません。

 さらに、「カウンターレポート」にあるように「所轄の労働基準監督署がその36条協定を指導し訂正を求めることなく受理しているというゆゆしき結果が示されている」問題が指摘されています。
 電通において労災認定が行なわれ、臨検・指導がおこなわれた後でも過労自殺者が起きるということは臨検・指導が形式に終始し、有効性を発していないということです。
 電通は、なぜ指導に従って労働環境を改善しなかったのでしょうか。指摘や指導があって自分たちには社会的力と存在感があるので見逃される、もみ消せるという大企業の傲慢さがありました。多くの大企業がそうでした。
 数年前から労基署の臨検で長時間労働が摘発され、実態が公表されて報道でも大きく取り上げられ、社会問題化しました。その結果、自主的に改善を進める企業も増えています。
 しかし民間企業の人事関係者の間では、摘発の“いけにえ”は、外食産業の次はIT産業だとささやかれていました。経済団体の中枢部から外れていて影響力が小さい産業だからです。これが現在の労基署の姿勢への評価でした。まさにトカゲのしっぽきりです。
 大企業こそ社会的責任は大きく、規範とならなければならなりません。労基署はそのように指導を強化する必要があります。


 現在、政府はさまざまな労働政策を推し進めています。労働者の保護が強化されると説明されています。しかし実際は経済成長における労働力の功利的活用の発想に基づくものでしかありません。
 過労死防止法は遺族の闘いで成立をかち取りました。労働者と労働組合は、長時間労働防止にむけて、政府の法制化による規制に期待をかけるのではなく、自分たちが獲得した地平を法律で担保させるような闘いを作り上げていかなければなりません。

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