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暴力が存在するところではトラウマはなくならない
2016/09/13(Tue)
 9月13日 (火)

 昨年9月19日、「安保関連法案」 はまともな議論が行なわれないままでで強行採決されました。

 政府は、11月に南スーダンに派遣する国連平和維持活動 (PKO) の陸上自衛隊の交代部隊に、安全保障関連法で実施が可能になった新任務の 「駆け付け警護」 と、他国軍と共同で拠点を守る 「宿営地の共同防護」 を付与する方針を固め、部隊に派遣準備命令を出し、訓練を開始します。
 従来、海外での武器使用は自衛隊員や管理下に入った人を守る場合に限って認めていました。駆け付け警護では、PKO活動を行う自衛隊員が、離れた場所で襲撃を受けた他国軍や非政府組織 (NGO) 職員の救援に向かうことが可能となります。

 8月24日の毎日新聞に 「駆け付け警護 自衛隊・駆け付け警護 『引き金を引けるのか』 訓練開始へ」 の見出し記事が載りました。
 その中で自衛隊員やその家族の本音が語られています。
「『ついに来たか』 駆け付け警護の訓練開始の表明に、東日本の50代の男性隊員はそう感じたという。
 PKOにおける自衛隊の任務は、道路などのインフラ整備や人道支援が中心だった。従来より踏み込んだ武器使用が可能となる駆け付け警護は、これまでの任務とは質が異なる。救援に向かった先で戦闘に巻き込まれる恐れが高い。『これからの訓練は厳しいものになるだろう。遭遇した場面で撃つのか、撃たないのか。指揮官も一線の隊員も非常に難しい状況判断を問われる』 と、派遣隊員をおもんぱかった。
 不安や疑問は尽きない。専守防衛の自衛隊が、海外に派遣される意味。そこで命を落とすリスク。安保法制をめぐって分裂したままの国民世論。割り切れないものを抱えながらも、男性隊員はただ 『みんな無事に帰ってきてくれ』 と祈る。」

「北海道千歳市の陸上自衛隊OBの60代男性は 『海外派遣から帰ってきた後も銃弾の音が頭から消えず、悩む知人もいる。訓練は年々実戦的になっていると聞く。これからどうなっていくのか』 と懸念を口にした。
 夫が陸上自衛隊員という同市の30代女性も不安そうだ。『いつかは……と思っていたが、いざ訓練が始まるとなると怖い』」

「実際に人に向かって撃てるのか――。2つの陸自駐屯地を抱える兵庫県伊丹市の30代男性隊員は 『人を撃つことへの抵抗は強い。通常の射撃訓練でも、標的を円形から人の形のものにすると、とたんに成績が落ちる隊員もいる』 と明かす。駆け付け警護では人に向かって発砲する事態も想定される。『撃てない隊員もいるだろうが、その時になってみないと分からない。自分も 『同僚や誰かを守るためならできる』とは思うが、本当にそうか。不安はある』 と揺れる胸のうちを語った。」
「2つの陸自駐屯地がある京都府宇治市の30代男性元自衛官は、PKOでゴラン高原に派遣された経験を持つ。『国際貢献は大切だが安保法制について国民的議論が尽くされたとは言えない。武器使用の要件は明確に詰められたのか。グレーゾーンを残したままだと派遣される隊員が危険にさらされる』 と疑問を投げかけた。」

「陸海自が駐屯する長崎県佐世保市の海自OB、西川末則さん (64) は 『駆け付け警護で応戦する相手から見れば日本は敵だ。新たな任務が始まれば引き返せなくなる。紛争に加わるのは間違いだ』 と話した。」


 9月9日の朝日新聞は、オピニオン&フォーラム欄で 『戦争における 「人殺し」 の心理学』 の著者デーブ・グロスマンさんのインタビューを載せています。(『戦争における 「人殺し」 の心理学』 については2014年7月4日の 「活動報告」 参照) 『本』 と内容がダブりますが抜粋して紹介します。

 ――殺される恐怖が、激しいストレスになるのですね。
「殺される恐怖より、むしろ殺すことへの抵抗感です。殺せば、その重い体験を引きずって生きていかなければならない。でも殺さなければ、そいつが戦友を殺し、部隊を滅ぼすかもしれない。殺しても殺さなくても大変なことになる。これを私は 『兵士のジレンマ』 と呼んでいます」
「この抵抗感をデータで裏付けたのが米陸軍のマーシャル准将でした。第2次大戦中、日本やドイツで接近戦を体験した米兵に 『いつ』 『何を』 撃ったのかと聞いて回った。驚いたことに、わざと当て損なったり、敵のいない方向に撃ったりした兵士が大勢いて、姿の見える敵に発砲していた小銃手は、わずか15%~20%でした。いざという瞬間、事実上の良心的兵役拒否者が続出していたのです」
 ――なぜでしょう。
「同種殺しへの抵抗感からです。それが人間の本能なのです。多くは至近距離で人を殺せるように生まれついていない。それに文明社会では幼いころから、命を奪うことは恐ろしいことだと教わって育ちます」

 ――本能に反する行為だから、心が傷つくのではありませんか。
「敵を殺した直後には、任務を果たして生き残ったという陶酔感を感じるものです。次に罪悪感や嘔吐感がやってくる。最後に、人を殺したことを合理化し、受け入れる段階が訪れる。ここで失敗するとPTSD (心的外傷後ストレス障害) を発症しやすい」

 ――防衛のために戦う場合と、他国に出て戦う場合とでは、兵士の心理も違うと思うのですが。
「その通り。第二次大戦中、カナダは国内には徴兵した兵士を展開し、海外には志願兵を送りました。成熟した志願兵なら、たとえ戦場体験が衝撃的なものであったとしても、帰還後に社会から称賛されたりすれば、さほど心の負担にはならない。もし日本が自衛隊を海外に送るなら、望んだもののみを送るべきだし、望まないものは名誉をもって抜ける選択肢が与えられるべきです」
 ――でも日本は米国のような軍事大国とは違って、戦後ずっと専守防衛でやってきた平和国家です。
「我々もベトナム戦争で学んだことがあります。世論が支持しない戦争には兵士を送らないという原則です。国防長官の名から、ワインバーガー・ドクトリンと呼ばれている。国家が国民に戦えと命じるとき、その戦争について世論が大きく分裂していないこと。もしも兵を送るなら彼らを全力で支援すること。それが最低限の条件だといえるでしょう」


 インタビューを聞いて、日本近現代史専攻の中村江里一橋大学特任講師がコメントを寄せています。
「根底にあるのは、いかに兵士を効率的に戦わせるかという意識です。兵士が心身ともに健康で、きちんと軍務を果たしてくれることが、軍と国家には重要なわけです。
 しかし、軍事医学が関心を注ぐ主な対象は、戦闘を遂行している兵士の 『いま』 の健康です。その後の長い人生に及ぼす影響まで、考慮しているとは思えません。
 私自身、イラク帰還米兵の証言やアートを紹介するプロジェクトに関わって知ったのですが、イラクで戦争の大義に疑問を抱き、帰還後に両親の呵責に苦しんでいる若者は大勢います。自殺した帰還兵のほうが、戦闘で死んだ米兵より多いというデータもある。戦場では地元民も多く巻き添えになり苦しんでいるのに、そのトラウマもまったく考慮されない。軍事医学には国境があるのです。
 一方で、日本には…… 『戦争神経症』 の症状を示す兵士は日中戦争以降、問題化していました。
 その存在が極力隠されたのは、心の病は国民精神の堕落の象徴と位置づけられたためです。こうした病は 『皇軍』 には存在しない、とまで報じられた。精神主義が影を落としていたわけです。
 戦争による心の傷は、戦後も長らく 『見えない問題』 のままでした。……
 昨年の安保関連法制定により、自衛隊はますます 『戦える』 組織へと変貌しつつあります。『敵』 と殺し殺される関係に陥ったとき、人の心や社会にはどんな影響がもたされるのか。私たちも知っておくべきでしょう。暴力が存在するところでは、トラウマは決してなくならないのですから。」

 精神主義は、現在の労働者がおかれている状況で受け継がれています。

 軍隊が行っているのは 「ストレスに強くなる対策」 です。
「学会では米国の専門家による招待講演もあり、イラク戦争に参加した米兵のPTSD研究の紹介がされていた。講演を聞きながらわたしは、『トラウマ研究は何時から、戦っても傷つかない人間をふやすための学問になったのだろう』 と思った。潤沢な予算がPTSDの予防や治療の研究につぎ込まれることと、平然と戦地へ兵士を送り出すことは、米国では矛盾しない。米兵のPTSDの有無や危険因子は調査され、発症予防や周期回復のための対策は練られるか、派兵をやめようという提案にはならない。イラクの人たちのPTSDについては調査どころか、言及さえない。そのことに違和感をもつ人はいないのだろうかと周囲を見回すが、みんな熱心に講演に聞き入っている。孤立感を覚える。」 (宮地尚子著 『傷を愛せるか』 大月書店 2010年)
 そしてこの方向性は、厚労省、企業が行っている労働者のストレス対策と同じです。


 2015年7月3日の 「活動報告」 の再録です。
 自衛隊は1985年から自殺者数を発表しています。年間60~70人前後で推移していましたが2002年度 (平成14年度) 78人でした。(制服組のみ)
 民主党の阿部知子衆議院議員の 「自衛隊員の自殺、殉職等に関する質問主意書」 への15年6月5日付の 「回答書」 では、2003年度から2014年度までの各年度における自衛隊員の自殺者総数は1044人です。

 「テロ対策特措法」 では海上自衛隊員が延べ約1万900人派遣されて自殺者したのは25人です。自殺による死亡率は229人です。
 「イラク特措法」 では陸上自衛隊員が延べ約5600人派遣されて自殺者したのは21人、航空自衛隊員が延べ約3630人で8人です。自殺による死亡率は375人と220人です。
 「補給支援特措法」 では海上自衛隊員が延べ約2400人されて自殺したのは4人です。自殺による死亡率は166人です。
 これらの自殺による死亡率は圧倒的に高いです。しかしここにはまだ隠されている数字があります。在職者だけの数字で、体調不良で除隊し、その後に自殺した者は含まれていません。精神的体調不良は派遣後しばらくしてからも発症します。
 また自殺の原因についての数字が発表されていますが、項目は、①病苦、②借財、③家庭、④職務、⑤精神疾患等、⑥その他及び⑦不明 です。
 これらの原因には連関性があります。調査項目や区分が不十分です。原因追及をしようとしない、区分けをごまかそうという姿勢が現れています。その結果、公務災害の認定数も少ないです。命が大切にされていません。

 日本政府・自衛隊は自衛隊員を殺しています。これ以上殺させることはできません。
 憲法9条から逸脱する派兵は絶対に阻止しなければなりません。

   関連:「軍隊の惨事ストレス対策」
   関連:「本の中のメンタルヘルス 軍隊・戦争」
   「活動報告」 2016.7.5
   「活動報告」 2015.7.3
   「活動報告」 2015.5.19
   「活動報告」 2014.7.4
   当センター「いじめメンタルヘルス労働者支援センター」ホームページ・ご相談はこちらから
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