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戦闘はたくさんの二次疾患、三次疾患の負傷者を生む
2016/07/05(Tue)
7月5日 (火)

 ピューリッツ賞受賞を受賞したジャーナリスト・デイヴィット・フィンケル著のドキュメント 『兵士は戦場で何を見たのか』 (古屋美登里訳 亜紀書房 )が刊行されています。
 『兵士は戦場で何を見たのか』 は著者によって先に出版されたドキュメント 『帰還兵はなぜ自殺するのか』( 古屋美登里訳 亜紀書房 2015年刊) (15年5月19日の 『活動報告』) の前編です。『帰還兵はなぜ自殺するのか』 は 『兵士は戦場で何を見たのか』 に登場する兵士たちの帰国後の状況が描かれています。

 これらのほかにも最近はフィル・クレイ著の小説 『一時帰還』 (岩波書店) など軍や隊ではなく個々人の兵士を描いたものが発表されています。(15年10月9日の 「活動報告」)
 かつてはデーヴ・グロスマン著の 『戦争における 「人殺し」 の心理学』 (1998年刊 筑摩書房) (14年7月4日の 「活動報告」) のように、戦闘ストレス・PTSDの問題が取りあげられても数の多さの問題としてでしたが、兵士1人ひとりに焦点があてられています。1人ひとりの死者や負傷者、体調不良者が総数になるのです。
 これらから浮かび上がってくるのは 「米政府・軍隊は米兵を殺している」 という事実です。
 しかし、10人以上の死者が出ない戦闘はニュースにもなりません。


 2003年から2010年まで8年に及ぶイラク戦争で死亡した兵士の数は、イラク治安部隊を含めた連合軍側もイラク側も、それぞれ2万数千人に及びます。負傷者はおよそ11万人です。アメリカ兵士の死傷者数がもっとも多かった年が、増派によって駐留するアメリカ兵の数が増えた2007年でした。

 2007年4月上旬、合衆国陸軍中佐ラルフ・カウズラリッチは800人の兵士を率いてバグダットに赴きます。著者はこの部隊に同行して状況を描いています。
 2007年7月のバグダット東部です。
「戦闘開始から1478日目にあたるこの日 (2007年4月6日) には、死亡した兵士の総数は3000人を超え、負傷した兵士は2万5000人にせまり、アメリカ市民が当初抱いていた楽観的な見方が消えてからだいぶ経ち、開戦へと導いた誤算と歪曲が詳細に暴かれ、開戦以来ずっと戦争を推進してきた政治的失態も露わになっていた。負傷者4人、と彼は報告を受けた。ひとりは軽傷、3人は重傷。そして1人が死亡」

「(弔事班の) 兵士の仕事は、死亡した兵士が生前、一緒に棺に入れることを望んでいた私物を探すために亡骸を調べることだった。……
 『ある兵士は防弾チョッキの中に手紙を入れていたよ』 サットンは、初めて彼が扱った死体のことを思い出しながら言った。『「これはぼくの家族に宛てたものです。みなさんがこれを読んでいるとしたら、ぼくはもうこの世にはいません」という手紙だ』
 『おいおい、手紙は絶対に詠むなよ』 ゴンザレスが言った。
 『それ一度きりですよ』 とサットン。『ぼくは手紙は読まない。写真も見ない。それが正気を保つこつだ。何も知りたくない。死んだのが誰なのか知りたくない。必要最低限のことだけ。見なくても済むものなら見たくない。触れたくない。触れなくても済むものなら、触れたくなんかないよ』」
 精神的に強い兵士などいません。強く見せていたり、そう思い込ませたりして自分を鼓舞しています。本当は、肉体的に負傷しなくても精神的に大きな、取り返しが出来ないほどの打撃を受けています。
「リーダーならば、越えてはいけない一線がわかるはずだと思われている。しかし、そんなことどうやってわかる? 軍隊は感情をコントロールするやり方を教えてくれたか? 自分の目の前で血を流して死んでいく友達にどう接すればいいか、軍隊は教えてくれたか?」


「亀裂は、マーチの所属する中隊だけでなく、第二大隊全体にわたって現れ始めていた。
 6月もひどかったが、7月はさらに最悪な事態が1週間続き――即製爆弾 (IED)、銃による襲撃、ロケット弾攻撃などが42回に及んだ――重傷者こそ出なかったものの、攻撃されたことによる明らかな変化が現れていた。従軍牧師のところには、内密の相談をするために深夜ドアを叩く兵士が増えていた。そのうちのふたりは自殺をほのめかした。基地の精神衛生のカウンセラーたちが睡眠補助薬と抗鬱剤の処方を書く回数が増えていった。驚くほどの数ではない、と牧師やカウンセラーはカウズラリッチに報告したが、万全の注意を払うことになった。規則違反がなされているという噂も増えてきたので、『福利厚生』 の全体調査がおこなわれ、立派な兵士が所持してはならないあらゆる物が発見された。
 ……
 そしてカウズラリッチとカミングズが考えていたのは、最初の亀裂が生まれたのは戦争のせいなのか、それとも陸軍が間抜けな馬鹿どもを入隊させざるをえなかったせいなのか、ということだった。」
 新兵募集にはさまざまな免責措置がおこなわれないと兵士の数は満たされません。それが徴兵制ではない中での兵士の方法です。徴兵制は階級・階層が不問になります。しかし徴兵制でなければ行きたくない階級・階層は免れることができます。一方、不足分は募集に応ぜざるを得ない者たち応募して満たされます。

「『お偉いさんたちが生きている世界ってどんなとこだろう、って俺はときどき思うね。俺たちが勝っているとでも思っているのかね』 ギーツがある日言った。
『新兵でそんなこと信じてる奴なんかひとりもいやしねえよ』 と彼は続けた。『奴らは傷ついてる。怖がっている。強がりなんて求めていない。理解してほしいと思っている。『俺も怖いんだよ』 って言っている人を求めている』
 敗将カウズ。ある小隊の兵士たちはカウズリッチのことをそう呼び始めた。怒りの矛先を向ける対象をだれもが求めていた。ブッシュ大統領。ブラヴォー中隊所属のある小隊の兵士たちは、カウズラリッチのことをそう呼んだ。それはカウズラリッチには兵士たちには見えないものが見え、兵士たちに見えるものが見えなかったからだ。」

「『何が起きたのかよく考えるようになった。そしてどうして俺はこんなところにいるんだろうって思うようになったんだ』 とウィーラーは言った。『意味ねえよな。テレビでは、兵士たちは好きでここに来ているみたいなことを言っているだろう? みんながみんなそうじゃねえとは思うが、俺たちがここにいるべきだなんて思っている奴やここにいたいと思っている奴の名前を挙げてみろよ、ひとりもいやしねえだろうよ。このくそおもしろくもない国にはひとりもいねえよ。
 出世したいとか勲章もらいたいとか、昇級したり名を挙げたいと思っている奴は別だけどな。でも、ここにいたいなんて奴ひとりもいやしねえよ。意味がないんだから。ここにいて何かいいことあるか? 何もねえよ』」

「『俺もあの男を殺したんだよ。ウィーラー軍曹が、男の腹に二発撃ち込んで、男が倒れていくあいだに、俺が頭に一発撃ち込んだ』
 それが実際にあったことなんだよ、とマーチは言った。これまでこれについて何も話さなかったのは、男を殺した後で以下のようなやり取りがあったからだった。小隊の仲間のところに走って戻ると、ひとりの兵士が 『大丈夫か?』 と訊いたので、『ひとり、殺った』 と答えると、その兵士は 『よくやった。この水を飲めよ』 と言い、マーチは水を飲んだ。飲みながら何度も何度も 『お前はいま人を殺したんだ、お前はいま人を殺したんだ』 と考えていた。そして人間を殺すということはどんな感じのものだと、と質問されたくないと思った。それで彼はウィーラーと、家宅捜査をしたほかの兵士に、今回のことを言いふらさないでくれ、と頼んだ」
 『戦争における 「人殺し」 の心理学』 には、戦場の兵士たちは、殺されるということよりも敵を殺すことに恐怖を感じているというデータが紹介されています。


「君は帰郷しなければならない。『戦闘ストレス』 担当の医師がそう言ったのは、シューマンがようやくそこに行き、気づくと自殺することを考えていると打ち明けたからだった。作戦基地に一週間のうち数日滞在する巡回精神科医がシューマンを、鬱状態にあり、心的外傷後ストレス障害 (PTSD) だと診断した。この診断結果は、戦争ではもっとも一般的なものだった。内部調査では、イラクに派兵された兵士のうち20パーセントが、悪夢を見ることから、不眠、過呼吸、激しい動悸、鬱状態、自殺願望にいたるまでのPTSDの症状を示していた。この調査はさらに、こうした症状は何度も派兵された兵士に多く現れることや、こうした症状に苦しむ何十万人もの兵士の治療費の方が、戦争自体で使われる費用より大きくなりかねないということも指摘していた。
 これまでおこなわれてきたどの調査においても、この問題の深刻さは指摘されていた。しかし、精神的な病になるのは弱いからだとするのが軍隊の伝統的な考え方であるように、目に見えない症状に対する診断は疑ってかかるというのが伝統的な態度だった。」

 撤退前、最後に亡くなったのは、医学部進学過程の学生だったが、学費が払えなくなって入隊した兵士でした。貧困が軍隊へと誘導しました。軍隊は、格差社会があって維持される構造になっています。日本においても同じです。


 帰国後の状況です。
「ギーツ軍曹は勲章をもらうが、やがてPTSDの診断が下り、二次的疾患として、たくさんの爆発の震動をうけたことによる外傷性脳損傷と診断され、三次的疾患として、彼のいう 『生存者の罪悪感 (サバイバーズ・キルト) だとさ。なんだかよくわかんねえけど』 につきまとわれることになる。『自分がひでえことをしてしまった気がする。許されることがあるのかと自問してるよ』 とギーツは前に言っていた。」
 二次疾患、三次疾患を含めたら戦争の負傷者はどれくらいになるかわかりません。
 その問題についての、この後のルポルタージュが 『帰還兵はなぜ自殺するのか』 です。

 自衛隊においても、在職中の自殺者数が問題になりましたが、退職後の状況については公表されていません。(共済年金の調査からでも掌握は可能のはずです) 同じく戦闘ストレスによる後遺症の問題も明らかにされていません。


 「戦士した兵士の数は、月に60人から90人ほどです」
 「アメリカは、イラク駐留のためにひと月に90億ドルも使っています」
 戦闘ストレスの 「症状に苦しむ何十万人もの兵士の治療費の方が、戦争自体で使われる費用より大きくなりかねないということも指摘していた」
 これらの現実から目をそらして戦闘が続けられる理由は何でしょうか。
 ワシントンと中東の現場感覚です。そして、ワシントンの指導者と兵士との階級・階層の違いです。戦争が一部の者の利益のためのビジネスになっています。

 ではなぜ兵士は戦闘に耐えられるのでしょうか。
 1人の兵士のロッカーのドアに落書きがありました。
 「イラクの男も女も子供も、アメリカ兵の知の一滴ほどの価値もない」
 イラクを沖縄に置き換えると今の沖縄の状況が現れます。イランの治安を守るためなどではありません。


 このような米兵の事態を自衛隊に重ねた状況が参議院選挙後の安全保障関連法の実態になりかねません。
 選挙結果に関係なく、人びとのちからで絶対に阻止しなければなりません。


   「活動報告」 2015.10.9
   「活動報告」 2015.7.3
   「活動報告」 2015.5.19
   「活動報告」 2014.7.4
  「軍隊の惨事ストレス対策」
  当センター「いじめメンタルヘルス労働者支援センター」ホームページ・ご相談はこちらから
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