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賃金ランキング 2014年は20国中19位
2016/06/28(Tue)
 6月28日 (火)

 6月24日の朝日新聞の 「表裏の歴史学」 は 「古代の勤務評定」 がテーマでした。
 古代の官僚の場合、基本的な給与 (季禄) は官職に相当する位に応じて額が決められ、年に2回、春・夏の分が2月上旬に、秋・冬の分が8月上旬に支給されました。半年に120日 (年に240日) 以上出勤していることが必須条件でした。大宝令には、前年の勤務評定が 「中下」 以下の者には2月の給与は支給しないとの規定がありました。つまりいくら所定の日数以上出勤していても、九等評価で 「中下」 以下をとると、給与が半年分まるごとカットされてしまいます。
 古代の勤務評定のポイントは、「善」 と 「最」 です。「善」 は4種。徳があること、清廉であること、公平であること、まじめに勤めていること (恪勤) の4つで、この 「善」 を1つ以上得る必要があります。「最」 は職種に応じた42種類の評価基準です。「最」 を得て、「善」 を1つ得ていれば、その年の勤務評定は 「中上」 です。
 勤務評定は毎年行なわれ、6年で総合評価を受けます。6年間 「中中」 であれば位が1階上がります。

 「善」 は今でいうなら行動評価、「最」 は業績評価です。古代においても評価項目は分かれていました。勤勉さは古代から必須でした。また、評価が生活を脅かすという事態もあったと推測されます。


 「朝日新聞グローブ」 6月5日号の特集は、「『給料の話』 おいてけぼりのニッポン」 です。
 経済協力開発機構 (OECD) の統計で先進国などの賃金を、実際にどれだけのモノやサービスを買えるのかを基準に比較したら、日本の賃金ランキングは1991年に20国中9位 (36,152米ドル) だったのが、2014年には19位 (35,672ドル) まで落ち込んでいます。グローバル化やIT化などはあるにせよ、あくせく働いても暮らし向きが良くならない現実があります。
 
 フルタイムで働く人の平均賃金は1997年の459万円をピークに下がり続け、2014年には400万円を割り込みました。主要国でこれだけ長く賃金が上がらないのは珍しいです。00年以降ほぼ横ばいです。
 ただGDPや企業の利益は平均賃金のように減っていません。生産性が上がってもその分け前が働き手に配分されていません。

 フルタイムということは、その間増え続けた非正規労働者を含めたら平均値はかなり下がります。

 日本総合研究所の山田久調査部長は、「市場の力も、組合の力も、どちらも中途半端になっている」 と指摘しています。
 転職市場が発達した米国なら、賃金カットすれば働き手がにげていくので賃金は下がりにくいです。市場の力で、伸びる産業や賃金が高い産業に人が移ります。欧州では、産業別に労資が職種ごとの賃金を決めて労働組合が賃金を守ります。
 日本は職を失うと再就職が難しいです。組合も企業別で弱いです。そのため賃金よりも雇用が優先されます。その結果、「失業率は上がりにくいけれど、賃金は下がりやすい」 ことになっています。

 日本でのこの構造、とくに職を失うと再就職が難しいという状況は、体調不良に陥っても我慢して隠して雇用を維持することを余儀なくします。住宅問題、教育問題がまたそうさせます。そうすると、休職に至るときは深刻な状況になっていて、問題の解決や復職がさらに難しくなります。


 カリフォルニア大学バークリー校のスティーブン・ボーゲル教授は「品質と安さで戦う日本モデルの強さが揺らいでいると言います。
 長い停滞の中で、日本企業は正社員の長期雇用を維持してきました。それが、賃金が下がってきた大きな理由です。正社員をリストラする前に、グループ企業への配置転換や賃金抑制をするため、正社員の賃金は上がりにくくなります。
 さらに、長期雇用の仕組みを守るために、正社員の数を絞り、賃金が低く雇用を調整しやすい非正規社員の割合がましました。これが平均賃金を下げたのです。
 米国では経営が厳しくなると人の数を減らして人件費を調整します。失業した人の生活は一気に厳しくなります。ボーナスや給料のカットは確かに不運ですが、失業よりはましでしょう。
 正社員の長期雇用を維持するのは、会社にとっても利益になります。日本の競争力の源となってきた製造業では、働き手と企業が長期的な関係を築くことが品質管理やコスト競争での強みになってきました。簡単にクビを切るような会社に、働き手は協力的にはなりません。
 もちろん、問題もあります。1つは、正社員と非正規労働者の二極化です。20~30代の若い人や女性に非正規労働者が偏り、労働市場が分裂してしまっています。また、賃金を下げても長期雇用を守るのは、それぞれの会社にとっては合理的でも、経済全体では消費者の購買力が下がってデフレになる悪影響があります。
 より大きな問題は、世界で富を生み出す産業が、日本が得意とする製造業からサービスや情報技術 (IT) にシフトしていることです。雇用を守って品質と安さで競争するこれまでの日本モデルの優位性から揺らいでいるのです。製造業の強みを維持しながら、どう新しい分野に打って出るか。

 正社員の長期雇用は、労働組合も労使協調と非正規労働者の排除の構造を作り上げてきました。その結果、同じ職場でも正規労働者と非正規労働者は賃金だけでなくさまざまな格差を生み出し、深刻な社会状況を生み出してきました。


 米ニューヨーク市立大学の経済学者ブランコ・ミラノビッチ教授は、ベルリンの壁崩壊から20年間で、世界の人びとの所得がどれだけ増えたかを調べました。すると 「超リッチ層」 (世界の所得上位1%) と、「振興国の中間層」 (上位30~60%) はともに所得が6割以上増えています。
 これに対し、先進国の中間層にあたる人々 (上位10%~20%) の所得は1割以下しか増えていませんでした。
 ミラノビッチは 「産業革命以来となる、賃金のガラガラポンが起きている」 と語っています。中間層がやせ細っているのは先進国に共通の現象だが、賃金が下がり続ける日本に、打つ手はあるのかと指摘します。


 2013年、米シアトルの市長選挙で 「最低賃金15ドル」 が争点になりました。
 14年、シアトルがあるワシントン州では全米に先駆けて 「時給15ドル」 の最低賃金が条例になりました。天保レベルの最低賃金は日本とほぼ同じで時給7.25ドル (約800円) です。
 時給15ドルを求める動きは、12年にニューヨークでファーストフードの従業員がストライキを起こしたのが始まりです。ストやデモが全米に広がり、シアトルに続いてニューヨークとカリフォルニア州でこの春、最低賃金を時給15ドルに段階的に引き上げることを決めました。
 なぜ15ドルなのでしょうか。サービス従業員国際労働組合 (SEIU) の現地トップのデービット・ロルフは 「働き手を鼓舞できる数字なのだ」 といいます。大胆な上げ幅だからこそ、メッセージがはっきりして世論の支持を得ました。
 
 米の平均賃金は上がり続け、世界2位につけています。しかしけん引役はハイテクや金融業界に努める人たちで働き手の中では少数派です。
 一方、中間層が細っています。背景には製造業の没落があります。自動車最大手ゼネラル・モーターズ (GM) 発祥の問い、ミシガン州フリントでは、40年前に約8万あったGM関連の職は、業績不振などで約1万まで減少しました。住民の4割は貧困ラインを下回る年収しか得ていません。
 全労働者の42%が時給15ドル未満という調査もあります。


 特集の締めくくりのタイトルは 「安月給で、もつのかニッポン」 です。
 1998年日本の平均賃金が下落に転じ、転換点でした。アジア市場は通貨危機で失速しました。
 前年に山一証券が自主廃業に追い込まれ政府は 「日本版ビッグバン」 と呼ばれる金融改革に乗り出します。
 慶応大学の樋口美雄教授は 「株主や投資家の影響が強まり、企業は利益を上げても賃金で還元しない傾向が強まった」 と話します。このころから、非正規労働者の割合が高まります。
 雇用を優先した日本の失業率は、他国と比べると低いです。ただ、雇用を守るために、事業の継続そのものがしばしば目的化します。もうけを度外視した安売り競争になり、賃下げ圧力が生じます。賃金低下で消費者の購買力が伸びないことも、安売り競争に拍車をかけます。
 社会保障負担がのしかかる日本。主な担い手である中間層の賃金が減り続ければ、社会の維持可能性は大きく揺らぎます。


 かつて、中間層がそれなりの数を占めていた時、かれらが支払う税や社会保険料が福利厚生を拡充させてきました。中間層の下の層をカバーしてきました。しかし中間層が減少し、さらに痩せていくと不可能になります。格差拡大が進む中でどの層に対しても「自己責任論」まで登場します。しかし自助努力のためにはベースが必要です。
 その一方、ミラノビッチ教授がいう 「超リッチ層」 と先進国の中間層にあたる人々は社会的責任を果たさないで個人的に肥え太り続け、保護もうけています。新たな階級社会が登場しています。
 賃金問題を解決するには、この 「階級」 のためだけの政治を止めなければなりません。そして社会的責任を課たさせることを含めた分配の再構築が必要です。


  「活動報告」 2016.17
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