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災害救助・支援活動で亡くなったかたの冥福を祈ります
2016/03/09(Wed)
 3月9日 (水)

 3月9日の岩手日報は、「大船渡市派遣の男性技師が自殺か 県の任期付き職員」 の見出し記事を載せました。
 大船渡市は、県から派遣されていた30代の男性土木技師が宿舎の仮設住宅で死亡していたが、現場の状況から自殺とみていると発表しました。市と県は仕事上の悩みなどを確認しておらず、原因は分からないといいます。市と県によると、男性は2013年4月に県が採用し同市に派遣。市内の仮設住宅に1人暮らしで、任期は3月末まででした。7日朝、出勤せず連絡も取れないため訪ねた同僚が発見しました。
 勤務状況に問題はなく、最近の残業時間は毎月2、3時間で、土、日曜は休んでいました。市は派遣職員に対し毎年アンケートなどを実施。男性に特に問題はなかったといいます。県も派遣職員に年3回の面談を実施しており、男性は 「課題はあるが、仕事は順調に進んでいる」 と話していたといいます。

 この報道からだけでは細かいことは分かりません。推測を交えながら検討してみます。
 東日本大震災の復興に従事した自治体労働者の自殺は、今回亡くなった方で4人です。
 震災後1年半を経た頃から自殺者が出ています。
「12年7月22日、4月から1年間の予定で盛岡市から陸前高田市に派遣されていた職員 (35歳) が遠野市内の路上に止めた車内で死亡しているのが発見されました。『希望して被災地に行ったが、役に立てず申し訳ない』 という趣旨の遺書を残していました。
 13年1月4日、12年10月から6か月の間の予定で兵庫県宝塚市から岩手県大槌町に派遣されていた職員 (45歳) が、宮古市内の仮設住宅で発見されました。室内には仕事に関する内容が記された宛名のない遺書が残され、『ありがとうございました。大槌は素晴らしい町です。大槌頑張れ』 と書かれていたといいます。生前、同僚に 『自分は役に立っているのだろうか』 と漏らしていたといいます。不安や無力感に襲われていました。
 宝塚市からの支援ということでは、阪神淡路大震災の体験のフラッシュバックはなかったのでしょうか。
 14年4月27日、岩手県山田町の職員 (59歳) が役場庁舎5階から飛び降り自殺していたのが発見されました。遺書には仕事が思うように進まないというようなことが書かれていました。
 いずれも自殺に至ったのは土・日曜日またはお正月です。派遣されていた2人は赴任からしばらく経って、期間が予定の半分に至る前です。多忙ななかでもふと一息入れて自己を取り戻した時、この後先が見えない業務量と自責の念で展望を失ってしまったのでしょうか。」 (『惨事ストレス 救援者の “心のケア”』 『惨事ストレス』 編集委員会編 緑風出版)
 今回大船渡市で亡くなった方も7日 (月) 出勤しなかったということは、亡くなったのは土曜か日曜です。張りつめていた意識が少し解放された時です。

 被災地では直後から土木関連職員が不足し、全国の自治体にもその関連業務の経験がある職員の派遣を要請してきました。しかし行政改革が進められたなかで各自治体は職員そのものにゆとりがありません。それでも無理をして要請に応じています。被災地の自治体は必要な人員を充足できず、共同で全国紙に年数回、3年有期の職員募集の広告を載せています。しかしオリンピック事業が土木関連の人材を高賃金で吸収し続けています。そのため工事は遅れに遅れています。
 男性は、30代の男性土木技師で、2013年4月に県が採用し同市に派遣とあります。おそらくこの募集に応募した方ではないでしょうか。公務労働の経験はあったのでしょうか。コミュニケーションは取れていたでしょうか。

 復興事業は5年が過ぎても道半ばです。実際に現地を見たなら緒についたばかりです。
 自治体職員を抜きにして復興はありません。
「これまで経験したことがない業務が発生し、人員不足の中で1人で何役もこなさなければならないこともあります。しかし無制限の過重労働が続き、今後も続くことが予想されるならばなおさら、各自が長期に関われる心身を確保するために定期的休養が必要です。自分を不可欠の人材であると捉え、責任もって任務を達成しようという熱意を持つならば、逆にいま無理をしてリタイアすることは全体に対する無責任になることを自覚する必要があります。支援者は、1人で復興活動に従事しているわけではありません。
お互いが業務を理解し合い、忙しい中でも労わり合い、“精神的ゆとり” と休息を保障し合うことが必要です。そうすると異常の予防・早期発見に繋がります。」 (『惨事ストレス 救援者の “心のケア”』)
 自殺は、長時間労働、過重労働だけが原因ではありません。
 業務途中の定期的な一斉休憩などで、業務外の話題に花を咲かせて交流することも大切です。自分の業務の必要性を確認できないまま遂行を続けるのはストレスです。先が見えないと無力感に襲われます。上司は朝礼などで事業の進捗状況を報告し、職員が自分の役割と責務を確認できるようにする必要があります。
 このようなことはカウンセラーや医師にできることではありません。カウンセラーや医師まかせることは問題解決の先送りでしかありません。


 東日本大震災震災の救援者・支援者の自殺は自治体労働者だけではありません。
 真山仁の小説 『海は見えるか』 (幻冬舎) が刊行されました。『そして、星の輝く夜がくる』 の続編です。(14年3月19日の 「活動報告」)
 被災地の小学校が舞台で、主人公は神戸から派遣された小学校の先生です。先生は、阪神淡路大震災で妻と娘を亡くしています。作者自身が阪神淡路大震災で被災を体験しています。
 担任した女子の児童みなみがふさいでいます。理由は、震災直後に親切にしてくれた自衛隊員と1年間近くメールを交換していたのですが途絶えてしまいます。
 先生は、つてを使いながら自衛隊員の消息を探り、駐屯地を訪ねます。

「『それで、小野寺さん (先生) が捜しておられるのは、このお嬢さんとメールの交換をしていた宮坂竜彦ですな』
『いらっしゃいますか』
『おりました』
 過去形か……。
『実は、亡くなりました』
 なんやて!
『事故ですか』
 小西 (隊長) が辛そうに唇を噛んでいる。その様子で、小野寺は事情を察してしまった。
『死因については個人の情報なので、規則ではお答えできません。ただ、今日小野寺さんがいらっしゃる旨をご遺族にお伝えしたところ、きちんと話して欲しいと言われましたので、特別にお答えします。我々としては、小野寺さんの胸の中だけにしまって戴けるとありがたいのですが』
 ここは頷くしかない。
『自室で首を吊って死んでいるのが見つかりました。おそらくは、自殺とみられます』
 やっぱり……、なんということや。この現実を俺はみなみにどう伝えたらええんやろう……。
『ちなみにいつのことですか』
『本年 (2012年) 2月26日の早朝です』
 みなみ宛に最後のメールが送信されたのは2月の終わり頃だった。
 ――眠れないし、毎日が辛いって言ったきり、連絡が取れなくなっているのって心配じゃないですか。
『原因は分かっているのですか』
 小西は静かに首を振った。
『文通では、悪夢で眠れないと打ち明けておられたようです』
『震災の影響かどうかは、分かりません。そうであってほしくないと思っています。しかし』
 小西が言葉に詰まった。それを柏原 (副師団長) が受けた。
『宮坂が発災直後から遠間市を拠点に、人命救助や瓦礫の撤去およびご遺体の搬送と洗浄を行っていたのはご存じですか』
『ええ』
『我々は、発災直後から隊員の心のケアには最大の注意を払ってきました。自衛隊員であっても、ご遺体を目にする経験はほとんどありません。特に宮坂はまだ21歳の若者で、災害救助活動も始めてでした。その彼に遺体の搬送や洗浄の作業は酷だったのかもしれません』
 21歳の若者が、来る日も来る日も遺体を洗う日々とは……。
 だが、誰かがやらねばならない仕事でもある。
『本来、洗浄作業については、5日以上は続けて任務に当たらないように義務づけています。しかも宮坂のような若手は避けていたのですが、彼が強く志願したものですから』
 志願した? 百戦練磨のベテランでも逃げだしたい過酷な仕事なのに。
『そういう男でした。辛いことを率先して実行する――、それが己を強くすると考えていました』
 若さゆえのストイック自己鍜錬か。それとも、被災地の惨状を見て何かやらずにはいられないと思ったのだろうか。
『ご遺体の洗浄作業は辛い作業です。でも、我々はご遺体を洗う時、生きている方として接しようと決めていました。きれいに体を洗ってご家族と会えるようにする。ベテランの隊員の中には、洗浄中ずっとご遺体に話しかけていた者もおります』
 それも任務なのか――。
『だから心のケアには配慮していたつもりです。毎晩必ず隊員が車座になって “解除ミーチィング” を行い、その日洗浄したご遺体のことや自分が考えたこと、辛かったことを話したりもしておりました』
 解除ミーティングというのは、『悲惨な状況の体験や感情を同じ現場で活動したグループで話し合い、共有する』 ミーティングを指すらしい。これは、その日の作業を終え、宿営地に帰隊した直後に参加することが義務付けられている。
『宮坂も参加しておりましたが、いつもしっかりとした口調で作業について語っていました』
 1日の悲惨な体験をしっかりとした口調で話すって、どんなすごい奴かと一旦は感心した。だが、すぐに若者のやせ我慢を感じた。」

 本の最後に作者の 「謝辞」 が載っていました。
「今回も多くの方々からご助力を戴きました。深く感謝いたしております。お世話になった皆様とのご縁を紹介したかったのですが、敢えてお名前だけを列挙させて戴きます。
 また、名前を記すと差し障る方からも、厚いご支援を戴きました。ありがとうございました。
  (名前略)」
 ここから察するとおそらく取り上げられていることは実話だと思われます。
 そのことを踏まえて検討すると、自衛隊の対応は間違いがあります。
「我々はご遺体を洗う時、生きている方として接しようと決めていました。」 同 じことを震災直後に被災地を訪れた防衛大臣も訓示していました。これでは体調を崩してしまいます。
 警察では、敢えていうなら、遺体は証拠品として大切に扱います。(2016年2月10日の 「活動報告」)
「彼が強く志願したものですから」。非現実的な状況を冷静に見つめていたとしても、その冷静事態が異常です。異常がなかったということではありません。意識的に日常性を取り戻す作業を行わないと異常が日常を支配して抜け出せなくなります。日常性を取り戻す作業の1つがグループの話し合いです。
 「死因については個人の情報なので、規則ではお答えできません。」 「ご遺族にお伝えしたところ、きちんと話して欲しいと言われましたので、特別にお答えします。」
 東日本大震災では、2名の自衛隊員の自殺が明らかになっています。もっといると思われますが隠されています。


 精神科医の野田正彰さんは、国鉄分割民営化の時に職員の自殺が急増した原因について調査をしています。
「人の死というのは、その要因を多角的に分析し、個々の要因をダイナミックに組み合わせて、人々とのつながりをひとつひとつ失い、絶望し、最後には1人になってしまった原因を、主要なもの、副次的なもの、背景となるもの、と順々に取り出していかなければならない。
 1人の人間の死は、あくまで個別的なものである。しかし孤立させ、自分の命を絶つ決意をさせたのは社会の問題である。自殺者は自殺という行為のみを選び、自分の絶望の意味を周囲の人や社会に伝えることはできないのである。死者はひとり向う岸に行ったのであるが、言葉をもたなかった死者のメッセージを読みとるのは私たちの義務である。
 死んだ者への本当の追悼は、死者の沈黙の言葉を読みとって、それを社会に伝えることにある。
   ……
 自殺はプライバシーにふれる、という。だが、死者のメッセージをプライバシーで隠そうとする姿勢は、死者を忘れるための手段にしかならない。そして、自殺者は続くのである。」 (野田正彰著 『生きがいのシェアリング 産業構造転換期の勤労意欲』 中公新書 1988年刊)

「ところで、国鉄は自殺の原因別内訳を発表している。これを中心となって担当したのは職員局のM調査役であり、彼は 『自殺そのものの調査ではなく、自殺の要因が職場環境にあるかないかを判定する限定的な調査』 を行ったという。私は、自殺未遂者の治療にあたったこともない非専門家が自殺を総合的に分析する努力もせずに、『職場に原因があるかどうか判断できる』 と断言するのは、いかにも官 (国鉄) らしいと思った。これは病理解剖を死者のプライバシーにふれるといって、心臓の切開だけに限定するようなものである。身体全体を見なくては、病理は見えてこない。否。このたとえよりまだ悪いといえよう。
 そんな彼らの分類によると、表4の左にあるごとく、自殺の原因 (1986年) はほとんど精神疾患 (38%) か、その他 (45%) ということになる。
 (表4の左: 「推定される原因 (国鉄職員局厚生課)」 として、「精神神経疾患等 (ノイローゼ、
 うつ病等)」 「家庭不和」 「病気苦」 「金銭苦」 「その他 (失恋、交通事故、看護疲れ等)」 となって
 いる。奇妙なのは、警察庁発表にある勤務問題の欄がない。)」 (『生きがいのシェアリング 産
 業構造転換期の勤労意欲』)
 実態がまったく見えません。知ろうとしていないのです。

 「官」 ではこのようなデータ作成が行われていたようです。現在の厚労省のメンタルヘルス対策も似たようなものです。
 もしかしたら自衛隊の東日本大震災派遣や海外派兵でもこのような調査なのではないでしょうか。だから発表数が小さいのではないでしょうか。だとしたら教訓が活かされません。 犠牲者をこれ以上増やしてはいけません。亡くなった方は浮かばれません。


 3月11日、あらためて被災して生き残った者たちは災害救助活動、支援活動中に亡くなった方がた、その後に亡くなった方がたの冥福を祈るとともに感謝の思いを伝えたいと思います。


  「心のケア」  
   「活動報告」 2016.2.10
   「活動報告」 2014.3.19
  当センター「いじめメンタルヘルス労働者支援センター」ホームページ・ご相談はこちらから
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