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「第九」 と 「第九条」
2015/12/24(Thu)
 12月24日 (木)

 年末ですので 「第九」 を聞きに行きました。
 第4楽章は、歓喜が少しづつ享受され、広まっていく場面で、弦楽器のベースからビオラ、バイオリンへ、そして管楽器へと受け継がれて盛り上がっていって合唱が始まります。
 合唱団はこのための募集に応募した人たちです。裏話としては、ドイツ語が流暢な人、話せる人、カタカナドイツ語の人、口パクの人がいるのだそうです。だから合唱のところはドイツ語が流暢な人が聞いていると 「なんだこれは」 となるのだそうです。しかし要は雰囲気と迫力です。

 13年7月16日の 「活動報告」 に書きましたが、東日本大震災の1カ月後、NHK交響楽団が東京でチャリティコンサートを開催したのをテレビで観ました。最後の曲はベートーベンの 「交響曲第9番」 でした。
 交響楽団員が被災地と被災者に思いを寄せているのがひしひしと伝わってきました。 “Brüder”(兄弟) と呼びかける弦楽器は唸り、合唱はこぶしがきいているようでした。感情をストレートに表出させ、クラシックではなく演歌でした。
 今回は、このことを思い出し、5回目の冬を仮設住宅でおくる被災者の人たちに思いをはせました。


 日本で最初に 「第九」 が演奏されたのは、1918年6月1日の第一次世界大戦の捕虜による徳島・坂東浮虜収容所だといわれています。習志野の収容所だという人もいます。また収容所の外では久留米の高等女学校講堂が最初だという調査結果も出されています。みんな自分たちのところが先だと主張します。
 広島・似の島の捕虜収容所には第一次世界大戦のときの中国・青島要塞でのドイツ人捕虜545人が送られました。やはり交響楽団が編成されて市内で披露されました。
 しかし広島はサッカーです。
 彼らと広島高等師範・師範学校のサッカーの試合が開催されたりしています。また島の子供たちはコーチをしてもらいました。その伝統があり島の中学はいまもサッカーの強豪校です。
 バームクーヘンを日本で最初に食べたのも似の島の人たちだと言われています。
 そのころ 「敵」 の異文化を受け入れ、交流していたということはちゃんと見ておくことが大切です。「第九」 は異文化交流の象徴です。
 とは言いながら、似の島の捕虜収容所の隣は弾薬庫でした。以前は、広島駅から宇品港を結ぶ鉄道・宇品線の沿線にありましたが爆発事故を起こし、再発を恐れた軍は似の島に移したのでした。


 作家の野坂昭如氏が亡くなりました。
 野坂氏がベートーベンの 「第九」 を好きだったかどうかは分かりませんが、憲法 「第九条」 は尊重していました。
 野坂氏が74年の参議院東京選挙区に立候補した時は、選挙カーに 「二度と飢えた子どもの顔は見たくない」 と書いていました。このスローガンを掲げて、ビールケースの上に立って辻々で説法を繰り返していました。
 全国区に立候補した候補の応援をしながら選挙区は野坂氏を応援しました。

 翌年の75年、野坂氏は 『戦争童話集』 を刊行しました。短編の童話が集められています。時代は、ほとんどが戦争終結間際です。戦争とは、子供たちから肉親を奪い、飢え死に至らせるという訴えが根底のテーマになっています。
 そこに収められている 『捕虜と女の子』 に捕虜が登場します。

「アメリカ人は、昭和16年12月8日、戦争がはじまってすぐ、日本軍に捕らえられた捕虜で、名前をスティーブと言います。
 開戦直後は、日本軍も景気がよく、南太平洋全域にわたって、電光石火の兵をすすめましたから、ほとんど迎え撃つ暇もないまま、白旗をかかげるアメリカや、イギリス、オランダの兵隊が、沢山つかまりました。
 西洋風の考え方では、捕虜になることは、べつに恥ずかしいことじゃない。
 いや、最後まで逃げ出さず、戦ったあげくの果てに、刀折れ矢つきて捕虜になることは、むしろ名誉とみなされています。
 そして捕虜は、国際条約の定めに従い、人道的な取扱いを受ける権利がある。スティーブは、また一緒に捕まった仲間たちも、だから気楽な気持で、はじめはいました。
  ……
 半年して、捕虜は、日本の内地に移されました。
 日本の若者たちは、どんどん戦場に送りこまれ、しかも一方では、兵器を沢山つくらなければならない。学生も、勉強より工場で働くよう命令され、女性もあそぶことを許されない時代に、捕虜だけ、のうのうと暮らしているのはけしからんというわけです。
 スティーブは、細長い町の、海に面した倉庫で、鉄材の運搬を命じられました。
 本当は、捕虜に強制的な労働をさせてはいけないのですが、大男たちに無駄飯を食べさせておくには、日本も切端つまっていたし、当時の日本軍隊は、捕虜について、他の国と少しかわった考え方をしていました。
 『生きて虜囚のはずかしめを受くるなかれ』 と、兵士に教え、敵につかまるなど、本人だけではなく、家族や親戚にまで、恥をかかせることだと、みなされていたのです。
 こういう考え方は、しかし、そんなに古くはなく、たとえば、戦国時代には、敵方に降服し、今度はその味方をして、それまでの君主をやっつけても、べつに裏切者とは、されなかった。
 明治に入って以後、貧しい島国である日本が、世界の列強と立ちまじり、競争して行く上で、兵士に強制したことです。自分だけではなく、親や子供まで世間に顔向けできなくなると思えば、命を惜しんでなどいられない。
 負けと分かった戦でも、死ぬために突撃していき、その、気迫で、少ない兵力、貧しい武器を補おうというわけです。
 日清、日露、日中から太平洋戦争と、戦争のたびに、この日本軍特有の考え方は、強くなるばかり、そして、日本軍が勝手に考えるだけなら、まあ仕方ないとして、交戦国の捕虜についても、同じく見なすようになりました。
  ……
 日本へ連れてこられた捕虜は、早速、きびしい労働を命じられました。……当時、いろいろな人が、戦争のために、慣れた職場をはなれ、工場や倉庫へ徴用されていました。
  ……
 まして、仕事をしようにも、物資は足りないし、電力も不足している。その分、夜の眼もねずに働けといっても、大和魂だけでは、飛行機も船もつくれやしない。……
 そういう中で、いちばんよく働いたのは、捕虜と、そして、学校で教えられたとおり、日本は必ず勝つと信じこんでいる学生たちでした。」

 野坂氏は、童話に託して若い世代にその教訓を伝えようとしたのだと思われます。
 『生きて虜囚のはずかしめを受くるなかれ』 は、日本の伝統的な思想ではありません。天皇制に名を借りた軍部の、自分たちだけの生き残り方策です。


 今年は 「安」 の年とのことです。安保法制を巡って大きな反対運動が展開されました。「第九条」 を守れのスローガンは国会前では何度も何度も叫ばれました。
 法案は通りましたが闘いはこれからです。
 安保法によって攻撃を受けるのは人びとです。

 政府が、安保法を口実に攻撃をかけて来たらどうしたらいいでしょうか。
 戦争を体験しているもう1人の作家・なかにしれいが詩を書いています。

  『平和の申し子たちへ -泣きながら抵抗を始めよう』

                                      なかにし礼
  ……(略)
  戦争の恐怖をしらない人たちよ
  ぼんやりしていてはいけない
  それはすぐそこまできている
  だからみんな
  さあ逃げるんだ!
  急いで逃げるんだ!
  どこへ
  決まっているじゃないか
  平和の中へさ
  平和を護る意思の中へ
  さあ逃げるんだ
  急いで逃げるんだ
  平和を堅持する行動の中へ
  平和とは戦争をしないことだという
  あたりまえのことを高らかに歌おう
  平和こそ僕らの聖域 (アジール) であり
  抵抗の拠点なのだから

     (『平和の申し子たちへ -泣きながら抵抗を始めよう』 より)


 平和を堅持する行動の中へ急いで逃げましょう。そして異文化交流をしながら抵抗の力を大きく作って対峙していきましょう。「第九条」 は連帯の象徴です。
 闘いはここからです。

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日本はサービス過剰 しかし無料のサービスはない
2015/12/18(Fri)
 12月18日 (金)

 12月9日、国土交通省は2014年度の 「鉄道係員に対する暴力行為の実態調査結果について」 を発表しました。毎年この時期に発表なります。そして毎年少しづつ簡単になっています。
 以前は大手民鉄協会に加盟している鉄道会社等の調査でしたが、一昨年から国交省に移り全鉄軌道事業者を対象になりました。暴力行為とは鉄道係員に対する暴言・罵声などは含まれず、身体的被害を被って診断書を提出した案件です。被害を受けても我慢したり、報告しなかったものは含まれません。

 発生件数は全国で887件で前年度から35件の増加となっています。
 都道府県別では、大都市に集中しています。加害者の飲酒の有無では、6割以上が 「飲酒有り」 で、「飲酒無し」 は20%近くになっています。
 おもな事例です。
 改札口で、加害者は30代で酒は飲んでいません。「走行中の列車内で乗客同士が揉めていたため、駅到着後に駅員が仲裁に入った際に 眉間を殴打された。(全治5日間)」。駅員はまったくの被害者です。
 車内で、加害者は60代で、酒を飲んでいます。「乗客が携帯電話で通話していたので、車内では遠慮いただくようお願いしたところ、突然暴 力行為を受けた。(全治3日間)」

 しかし、国交省の発表内容にはこれ以上の情報がありません。資料表紙の文書にある取り組みについては 「今後も、警察等関係 者と連携し、暴力行為の撲滅に向けて、広報啓発活動等の取組みを進めて参ります。今年度も、東京都において、警察関係者と連携して、駅構内等における粗暴事犯防 止対策を実施する予定です。」 と毎年同じようなものです。これは何も取り組んでいないということです。
 構内や車内に貼られているポスターにどれだけの利用者が気が付いたでしょうか。もう少し、お互いの人権や人格保護の積極的な呼びかけが必要ではないでしょうか。


 鉄道に関する11月26日の 「withnews」 の記事です。
 電車や地下鉄で見かける、広告代理店が作った乗車マナー向上を呼びかけるポスターは、床に座り込んでいたり、ヘッドホンから音漏れしていたり、学生が迷惑行為をしているものがほとんどです。
 札幌市交通事業振興公社は、今回は目線を変えて 『学生から大人への呼びかけ』 というテーマで地元の高校生にお願いしました。11月中旬から掲示が始まった札幌市営地下鉄のポスターは 「オトナなのにマナーも守れないの?」 「それでもオトナですか?」 といったフレーズです。
 「オトナなのにマナーも守れないの?」 というフレーズの横には、子どもたちが乗車しようと並んでいる列に、中年のサラリーマン風の男性が割り込んでいる様子が描かれています。もう1枚の 「それでもオトナですか?」 には、車内でおしゃべりをしている中年女性や、足を組んで新聞を広げている若い男性、ドアが閉まる中で駆け込んでくる男性が描かれていて、いずれも迷惑行為をしているのは大人ばかりです。
 利用者は自己主張はしますが自己の振る舞いを見直すことはなかなかできていません。1人ひとりの違う目線からの指摘でもう一度自己を見直してほしいという訴えです。


 目線を変えた訴えを、鉄道ではありませんが、韓国の 「感情労働」 の取り組みから紹介します。
 15年5月1日の 「ハンイギョレ新聞」 に 「感情労働者の苦衷、ちょっとだけ考えて見てください」 の見出し記事と写真が載りました。写真に写っているステッカーには次のように書かれていました。
 「伝えてください
  今日差し上げる
  バラの花もバンドエイドも
  申し訳ないですが
  あなたの為のものではありません
  日常で出会う
  感情労働者に差し上げてください
  あたりまえの日常に対する感謝と
  互いの労働に対する尊重を
  私たちから始めましょう
  たった今から」
「昼食を終えて出てきた市民たちが受け取ったコーヒーカップには 『私の仕事は世の中で最も美しい労働です』 と書かれたピンク色のステッカーが付いていた。ステッカーにはサービス業に従事する “感情労働者” のパク代表とここで働くバリスタ30人余りが感じている苦悩が書かれていた。
 メーデーを翌日に控えた30日、ソウル鍾路 (チョンノ) 区通仁洞のコーヒー工房は 『メーデーコーヒー・フリーデー』 というイベントを行った。この日だけはアメリカンもカフェラテも全て無料だ。5年前からメーデーの前日に行っているコーヒー工房のコーヒーフリーデーでは、無料コーヒーと一緒に 『考えるテーマ』 が与えられる。今年のテーマは “感情労働” だ。
 パク代表は 『「ありがとう」 とか 「コーヒーが美味い」 というお客さんの一言を聞くためにこの仕事をしている。互いに少しだけ配慮すれば、人から力をもらうことができるのに、感情労働のせいで傷つく若者の話を聞くたびに心が痛む』 と語った。
 この日、店の前では青年ユニオンとソウル青年政策ネットワークの青年団体会員たちがピンクのバラの花とバンドエイド、ステッカーを配った。パク・ウヨン青年ユニオン労働相談局長は 『今日出会う感情労働者たちに花とバンドエイドを渡して暖かい気持ちを交わそうという意味』 と説明した。クレジットカードに貼れる小さなステッカーには 『あなたの労働にありがとう』 『お金やカードを投げたりしません』 と書かれていた。
 コーヒーを受け取った市民は 『消費者の役割』 を考えてみたと話した。キム・ヒョジョンさん (34) は 『私も感情労働者だけど、同時に消費者でもある。今日コーヒーを飲んで、私が辛かっただけに消費者として誰かには確かな慰労をしなければと考えた』 と話した。」

 14年11月12日の 「ハンギョレ新聞」 に 「デパート従業員も売場で水を飲めるようにしよう」 の見出し記事が載りました。
「デパートのサービス・販売職労働者が尊重を受けて働ける環境を作ろうというキャンペーンが開かれる。
 光州 (クァンジュ) 女性民友会は13日、光州市東区大仁 (テイン) 洞のロッテ百貨店光州店付近で 『デパートには人がいます』 という主題で 『尊重の帯つなぎキャンペーン』 を実施する。デパートの女性労働者が人権を尊重されて仕事が出来る労働環境を作ることを促すためだ。
 同団体は女性労働者を尊重するデパートの仕事場を作るために、6つの事項を要求している。『デパート労働者は仕事の特性上、話をよくするので喉が渇くが、売場で水を飲めないケースが多い』 として 『デパート労働者が売場で自由に水を飲めるようにすべきだ』 と促す方針だ。また、デパート労働者が顧客用トイレと移動手段を一緒に使えるようにし、売場にお客さんがいない時は椅子に座れるようにしてほしいと要求する計画だ。
 この日、光州市北区の北東信用協同組合付近で開かれる市民実践キャンペーンも注目を集めている。この団体は市民に△デパート労働者に丁寧語を使い返品・払い戻し規定をよく熟知して不合理な要求をせず会計をする時にはカードや紙幣を放り投げず不必要なスキンシップや言語セクハラをしない、などを守ろうと知らせる計画だ。また、この団体は 『売場に商品がない時、デパート労働者たちは顧客を待たせないよう倉庫まで走って取りに行くよう努めているので余裕ある心でゆっくり待とう、と市民に知らせる』 と明らかにした。」


 日本では、利用者は過剰なサービスを当然のように要求します。
 ドイツのサービスについての捉え方がインターネットの熊谷徹氏の 「独断時評」 に載っています。
「・なぜドイツはサービス砂漠なのか?
  ……
 『サービス砂漠・ドイツ』 に悩んでいるのは、われわれ日本人だけではない。私の知人で日本に長年勤務したドイツ人は、故郷に戻って来た直後、パン屋の店員の態度の悪さにショックを受けたという。……
 なぜドイツ人はサービスが不得意なのだろう。ドイツ語でサービスはDienstまたはDienstleistung だが、この言葉はdienen、つまり、誰かに仕えるという動詞からきている。dienenというドイツ語には、従属的な語感がある。自分が他者に対して、低い地位にいるような印象を与える。つまり、個人主義と独立性を重んじるドイツ人にとっては、イメージの悪い言葉だ。
 したがって、ドイツではサービスが無料ではない。この国の企業や商店は、サービスを提供するためのコストを常に考慮する。サービスに掛かる費用が、収益に比べて高くなり過ぎると判断された場合には、サービスは提供しない。これは、日本とドイツの商習慣の最も大きな違いの1つだ。
 もう1つ、サービス砂漠を象徴するものは、商店の営業時間の短さだ。これは 『閉店法』 という法律によるものだが、ドイツに初めてやって来た日本人の多くは、ほとんどの商店が日曜日や祝日に閉まっていることに戸惑う。日本では、コンビニエンス・ストアだけではなく、スーパーマーケットやデパートの中にも夜間営業を行う店が増えているが、ドイツでは考えられないことだ。
 日本人は、『休日は多くの市民が買い物をする時間があるのだから、店を開けておけば売り上げが増えるではないか』 と思うだろう。しかしドイツでは、週末に店を開けて売り上げを伸ばすよりも、休みを優先させる。『オフィスで働くサラリーマンだけではなく、商店で働く人々にも、家族との時間を楽しむ権利を保証するべき』 という意見が有力だ。
 •価格を抑えるためにサービスを節約?
 一方で、ドイツの物価は日本に比べると割安である。その理由には、サービスを省略しているということもあるだろう。ドイツの商店やホテルが、日本のような、かゆいところに手が届くようなサービスを提供できない背景には、人件費が高いゆえに効率的に仕事をさせなくてはならないという事情がある。もしも、ドイツのホテルや商店で日本並みの水準のサービスを要求したら、請求書の金額はより高くなるだろう。
 例えばドイツには、サービスは悪いが、割安なホテルがたくさんある。税金や社会保険料のために、ドイツの可処分所得は日本よりも低いので、市民にとっては細かいサービスよりも、安いことの方が重要なのだ。
 ドイツのスーパーマーケットには、日本のように丁寧な態度をとる店員はめったにいない。あるスーパーでは、店員が商品を補充するために、品物を満載した運搬カートを通路のど真ん中に置いていた。カートが邪魔で客が通れなくて困っていても、店員はそ知らぬ顔である。ドイツの店員は、こうした点について全く気が利かない。
 その代わり、この国の牛乳やヨーグルト、バター、パンなどの食料品の価格は、かなり安い。多数の安売りスーパーが激烈な価格競争を繰り広げていることも理由だが、ドイツの消費者が、良いサービスを商店やホテル、飲食店に期待せず、むしろ価格の安さを重視することが背景にある。ここに、『名を捨てて実を取る』 というドイツ人の国民性が反映されている。サービスが行き届かないことに慣れてしまっていることが、ドイツのサービス砂漠がなかなか改善されない原因の1つである。
 ただし、私がドイツに来た1990年頃に比べると、ドイツのサービスもやや改善した。営業時間の延長などはその1例である。顧客が気持ち良く買い物できるように、値段だけでなくサービスにも配慮してもらいたいものだ。」

 日本では昔から過剰サービスがあったわけではありません。70年代のオイルショック以降の消費の冷え込み、製造担当労働者の営業への配置転換、“社員全員営業部員” 方針とノルマ設定などによります。「お客様は神様です」 はこの頃から言われ始めます。労働者は 「神様」 のわがままを聞き入れて従属することを強いられました。 「神様」 はますます図に載ります。
 しかし無料のサービスはありません。最初の犠牲は生産者や労働者の人件費です。その次に価格に付加されます。自分には特権があると思う利用者は、誰かを犠牲にしています。犠牲になった労働者はストレスを別のところで爆発します。それが駅員だったりします。駅員こそ悪循環の最終的犠牲者です。

 利用者も多くは労働者。駅構内での暴力行為の本質的対策は、会社や社会・i政府を改善してストレス減少させることです。ぶつける相手を見間違ったり、「弱者」 に向けないことです。
 労働者同士、お互いへの感謝といたわりと連帯が必要です。


   「職場の暴力」
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マイナンバーは 「監視」 「管理」 「排除」 に利用される
2015/12/15(Tue)
 12月15日 (火)

 ここ数年、いわゆる 「犯罪」 と言われるものは減っているのだそうです。
 その一方で、事件が起きると解決手段として利用されているのが防犯カメラです。防犯カメラが 「犯罪」 を防止しているということではありません。人びとは無頓着で、知らないうちに一方的に設置されています。どう利用されているかはわかりません。
 もう1つ、目には見えない犯罪 があります。情報漏えいがいたるところで起きています。極秘利用や流出を防ぐことはできませんのでいわば必然です。活用した方の勝ちで、発覚した時は終わりです。法律の罰則規定は役に立ちません。
 とは言いながら、人びとは多くの情報を社会に無自覚に “提供” しています。他人の個人情報を勝手に流すことが平気になっています。匿名で他者を攻撃すると加勢する者が出てきます。そして一緒に快感を味わう風潮がはびこっています。
 日本では個人情報、その前の人権・人格権、人権保護などは問題にしません。個人情報を外部に漏らすことが人権を侵害するというような捉え方は小さいです。
 情報が管理され、利用されることに恐怖感や抵抗がありません。
 そのような個人情報を欲しがっている者がいます。企業の労務管理担当者などです。だから売る側も登場します。個人情報の売買が1つのビジネスになっています。全国の被差別部落の名前・所在住所などが記されている 「部落地名総鑑事件」 は昔話ではありません。
 人権無視、人びとを攻撃し合う分断社会は、国家にとっては支配しやすい体制です。政府への不満も身近な誰かへの攻撃をすることでスルーされます。


 12月12日、東京で 「あぶない 共通番号 マンアンバー制度の廃止を求める12・12集会」 が開催されました。改めてマンアンバー制度の危険性を実感しました。
 すでに東京、仙台、新潟、金沢、大阪でマイナンバーの収集、保存、利用、提供の禁止を求める裁判が提起されていることが報告されました。
 マイナンバー制度の目的は何でしょうか。国家による情報一元化による 「監視」 「管理」 体制作りです。ではなぜ急ぐのでしょうか。具体的には2020年開催の東京オリンピックでのテロや反対派対策などが言われています。競技場への入場はマイナンバーの提示が必要といわれています。しかし 「まだ」 マイナンバーには思想信条は含まれていません。そうすると、本当は 「保安処分」 の排除が目的とではないかともいわれます。
 「安保法制」 との関連も指摘されました。

 海外ではマイナンバーと同じ全員強制・生涯不変・官民共通利用の番号制度を導入している国はありません。アメリカやカナダは住民登録制度がなく任意の社会保障番号です。アメリカは省庁により、独自番号への切り替えが行われています。カナダでは民間分野での利用禁止です
 フランスは全員付番の社会保障番号、ドイツやイタリアは納税分野の番号です。
 イギリスは2006年に労働党政権がID・身分登録証明カード法を制定し、国民全員に順次、身分登録証、番号カードを導入、2013年に義務化する政策を実施しつつありました。しかし2010年5月の総選挙で労働党が敗退し、保守党と自由民主党の連立政権が誕生すると、市民的自由の回復のための改善がおこなわれます。IDカード廃止、国家身分登録台帳の廃止および次世代型生体認証式パスポートの導入廃止、監視カメラの過剰設置抑制、保護者の許可なしに学校での子供の諮問採取禁止などのプログラムが実施されました。

 日本のマイナンバーは世界に例を見ません。しかも本人は管理される情報を知ることが出来ません。
 マイナンバー制度は 「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」 に基づくものですが、今年9月3日に改正されました。その時に、個人番号カードに生体認証 (指紋、虹彩、静脈、顔データなど) を記録するという利用拡大が付帯決議に盛り込まれました。
 生体認証式パスポートの導入廃止、監視カメラの過剰設置抑制などは日本と真逆です。


 9月3日には 「改正個人情報保護法」 も衆院本会議で成立しました。10月30日の 「活動報告」 の再録です。
 個人情報保護法は国及び地方公共団体の責務等を明らかにしていますがプライバシーの保護はありません。
 そもそも日本の法律ではプライバシー保護の法律はありません。
 改正個人情報保護法は第一条で (目的) を謳っています。
「……国及び地方公共団体の責務等を明らかにするとともに、個人情報を取り扱う事業者の遵守すべき義務等を定めることにより、個人情報の適正かつ効果的な活用が新たな産業の創出並びに活力ある経済社会及び豊かな国民生活の実現に資するものであることその他の個人情報の有用性に配慮しつつ、個人の権利利益を保護することを目的とする。」
とあります。
 太字の部分が追加されました。つまりは、個人情報は産業の創出並びに活力ある経済社会及び豊かな国民生活の実現のために利用していいということです。その他の個人情報の前に位置づけられています。簡単にいうと、改正によって企業が持つ個人データを使いやすくするのとプライバシー保護の在り方が見直されます。公が個に優先します。

 第15条は (利用目的の特定) を謳っています。 改正前です。
「個人情報取扱事業者は、個人情報を取り扱うに当たっては、その利用の目的 (以下 「利用目的」 という。) をできる限り特定しなければならない。 ……
 2 個人情報取扱事業者は、利用目的を変更する場合には、変更前の利用目的と相当の関連性を有すると合理的に認められる範囲を超えて行ってはならない。」
 改正では、企業などが本人の同意なしに変えられる個人情報の使い道の範囲が 「相当の関連性」 がある範囲 から 「関連性を有する」 範囲に変わりました。
 第23条は (第三者提供の制限) を謳っています。
「個人情報取扱事業者は、以下の場合を除いては、あらかじめ本人の同意を得なければ、個人データを第三者に提供してはならない。……
 2.人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。」
 身体の保護が、「個人の権利利益を保護することを目的とする」 ということで使用者の安全配慮義務を拡大解釈して、使用者が勝手に情報を取得するような状況が生まれないでしょうか。一度集めた個人情報は別の目的にも転用できます。

 企業は情報取得を秘密裏に行い、漏えいが発覚したら後付の説明を行って合法だと居直れるように個人情報保護法は 「改正」 されました。
「個人情報の適正かつ効果的な活用が新たな産業の創出並びに活力ある経済社会」 のために利用目的の特定が緩和されて 「活用」 されるということは、つまりは体調不良者が生産活動の疎外者として摘発・排除するために利用されるということになりかねません。
 使用者が 「活用」 に対しての個人情報が漏えいしたと指摘されたら 「身体の保護のために必要があった」、使用者の安全配慮義務の履行だと主張しかねません。
 居直るにしても謝罪するにしても、取得したら 「勝ち」 です。


 マイナンバー制度は、具体的にはどのようなことのために利用されるのでしょうか。
 法第6条の 「利用範囲」 は、社会保障分野、税分野、災害対策分野などでです。しかしマスコミ等では税分野、災害対策分野、そして社会保障分野では 「メタボ検診」 や予防接種がクローズアップされているだけです。目くらましです。
 社会保障分野はさらに年金分野、労働分野、福祉・医療・その他の分野に分けられます。
 労働分野は、雇用保険等の資格取得・確認・給付を受ける際に利用、ハローワーク等の業務に利用とあります。
 福祉・医療・その他の分野は、医療保険法等保険料徴収等の医療保険における手続き、福祉分野の給付、生活保護の実施等低所得者対策の業務に利用とあります。
 その中には、健康保険法、船員保険法、国民健康保険法、高齢者の医療に関する法律による保険給付の支給、保険外の徴収に関する事務が含まれます。

 現在の医療分野の情報は縦割り行政の中で管理されています。
 間もなく医療機関は、健康保険証等の資格確認のためマイナンバーとリンクする器機を設置することになります。そして今後、情報には医療費や保険給付の支給などのほか、病院名、治療期間も含んでリンクすることになっています。健康情報の管理・連携といわれますが、つまりは、第三者が1人ひとりの健康状態の掌握が可能になるということです。
 企業は、賃金支払い、税の徴収・納付のために労働者からのマイナンバーの報告を受けて提出書類に記載することになります。その結果、社員1人ひとりの健康状態の情報は、本人が知らないところで管理されることになります。
 そこまで厚労省は人びとの健康管理に力を入れようとしているのでしょうか。


 さて、12月1日から改正安衛法による 「ストレスチェック制度」 が開始されました。マイナンバー制度、個人情報保護法改正と合わせてこれらが同時期なのは偶然でしょうか。それぞれが危険ですが、安倍政権はこの時期に人びとの一切を一括して管理しようとしています。

 ストレスチェック制度は 「メンタルヘルス不調の未然防止」 の予防医学の一次予防を目的とすると国会の付帯決議がつきましたが、実施のために出された 「通達」 や 「指針」 では 「メンタルヘルス不調者の未然防止」 になりました。「者」 が入ることで目的が違ってきます。
 「通達」 等作成のための検討会の議論の進め方は、まさに政府の自衛隊の海外派兵を憲法9条に照らして合憲だと主張する国会答弁と同じくらいの拡大解釈です。法の趣旨を逸脱しています。
 その結果、ストレスチェック制度は、世界で初めて、事業者による労働者の精神状態・「心身のストレス反応」 の検査を合法化しました。労働者のストレスチェック結果は労務管理のために企業が最も欲しい情報です。
 会社が賃金と納税を口実にしての労働者のマイナンバーを掌握し、そこにストレスチェックの結果をリンクしたら、簡単にすべての情報が集約されます。
 この情報が流出してマイナンバーにリンクされて悪用されたら、労働者の知らないところで体調不良者のリストアップが行われ、排除・退職勧奨等が横行します。また一旦体調を崩して退職したら、希望する新しい会社に応募した段階で不合格となり、再就職は困難になります。
 今後、「心身のストレス反応」 の検査を合法化は前例となり、他のところでも第三者によって 「心の問題」 への干渉が悪用されていきかねません。


 マイナンバー制度開始、個人情報保護法改正、特定秘密保護法施行、ストレスチェック制度開始が同時期なのは偶然ではありません。
 これらの制度・法に対しては、世論を喚起して廃止、撤回させていかなければなりません。マイナンバー制度に関してはイギリスの前例があります。
 情報の極秘利用や流出を防ぐことはできません。しかし個々人としては情報を提供しないことができます。ここから運動は始まります。


   「活動報告」 2015.12.1
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被災地の 「心のケア」  『二次的要因』 が表れている
2015/12/11(Fri)
 12月11日 (金)

 11日で東日本大震災から4年9か月を迎えました。
 被災地以外では日頃はあまり話題にのぼらなくなりました。やむをえません。身の周りではそれでなくても様々な問題があふれています。
 しかし被災地は、復興といえる状況からは遅れに遅れています。

 震災後の状況について語る時、「そこ退け、そこ退け防災が通る」 という言い方があるのだそうです。防災という名のもとに住民の意見は無視され、上からの計画が押し付けられます。東日本大震災の場合には防潮堤がそうです。箱モノ、公共事業で建設・土建業界は好景気です。
 防潮堤は、高さの3倍の幅の土地が利用不能となります。例えば、高さが20メートルの防潮堤では、両側で60メートルの範囲内の土地は使用不可となります。高い防潮堤は海の様子が見えなくなり、遮断されてしまうといわれています。さらに海に行くには回り道をしなければならなくなります。生活上だけでなく、精神的にも物理的にも遠くなります。
 宮城県女川町では、国土交通省と県が高さ30メートルの防潮堤を築こうとしました。地元で頑張る被災者と町民は止めさせました。そして海から逃げないで共存しようと 「津波に弱い町づくり」 を続けています。危険と思ったらすぐ避難できる防災対策を進めています。津波の大きさは予測できません。

 その一方で、今に至っても被災者が待ち望んでいる災害復興住宅建設は予定通りに進んでいません。待ち切れずに自分で何とか住宅建設にこぎつけたり、地元を離れて転職する被災者が相次いでいます。そのため今度は入居前から空きが出ることがあきらかになり、誰に入居してもらうかに四苦八苦しています。
 12月9日付の 「毎日新聞」 は 「集団移転宅地 被災者以外も対象に 石巻市、3割空き見通しで」 の見出し記事を載せました。
「石巻市は8日、東日本大震災で被災した住民の防災集団移転先として整備中の新蛇田地区など新市街地5地区で宅地の3割に当たる約400区画が空きになる見通しを発表した。このため空き区画を、幹線道路の整備などに伴い立ち退きを余儀なくされる住民らにも分譲や借地で提供することを決めた。被災者以外に対象を広げるのは県内で初めて。
 市の新市街地整備計画数は1401区画。本来、これらの宅地への入居は自宅が災害危険区域にある住民に限られる。ところが、801区画は移転世帯が決定、移転検討中が201区画なのに対し、残る399区画が空きになる見込みになっている。市によると、当初は新市街地での自宅再建を希望していた人が、災害公営住宅への移転に切り替えたり、別の土地に移転先を求めたりして減ったためという。」
 いずれの場合でも4年9か月は長いものがありました。


 阪神淡路大震災から1年後に出版された 『記録 阪神・淡路大震災と被差別部落』 (兵庫部落解放研究所編 解放出版社)に収録されている住宅問題が専門の早川和男神戸大学名誉教授の講演記録です。
「今、盛んに 『こころのケア』 と言っています。もちろんないよりマシだし、それに携わってくださっている、ボランティアの方たちの努力は尊いとは思いますけれども、生きる意欲を失うようなところに人をほうりこんで、事後処理的に 『こころのケア』 を言うよりも、まちの中に住めるようにすべきです。」
「日本憲法の中に健康で文化的な生活保障の規定はあるのですが、住居の権利を保障するという項目はありません。それに関して、『日本国憲法の中の人権に関する章の中に、適切な住居に関する権利を明確な人権として含むように考慮すること』 とあります。スペイン憲章でありますとか、ドイツは州によって憲法が違うのですが、ノルトライン・ウエストファーレン州の憲法の中には、『人間の尊厳を守れるような家に住むことは、人々の基本的人権である』 とうたわれています。ですから、政府が補償しなければならないのです。」

 ところが日本は、高度経済成長期頃からマイホームは自己責任、ステータスとなり、企業の福利厚生制度に組み入れられたりしてきました。土地や住宅は利潤が大きいビジネスとして成立しています。
 「衣・食・住」 を政府な補償しません。労働者はローンにあくせくし、そのため会社に忍従して雇用継続を期待するようになっています。住宅問題を抜きにして労働運動の再生はありえません

 さらに続きます。
「イギリスは 『揺りかごから墓場まで』 という言葉があるように、社会保障の国として有名です。そのイギリスでは、住むところが保障されてきたのです。終戦の1945年からサッチャー政権が登場する1978年までの間に、イギリスで建設された総住宅戸数の6割、正確には58.1%が公営賃貸住宅でした。その半分以上は3LDK以上です。家賃は、収入の6分の1を超えると補助してくれます。世の中が不景気になって失業すると失業保険をもらいますね。そのときにはまた家賃がドーンと下がります。だから、安心して暮らせるのです。」
 サッチャー政権の登場で壊されますが、そこに至る経緯です。
「1915年といいますから第一次世界大戦のころですが、労働者がどんどん大都会の軍需産業に集まってきました。民間家主は家賃を上げます。払えない者は追い立てました。それに対して、労働組合と借家人組合、それに婦人労働者連盟、女性ががんばるんです。男の中には戦争をしたり、悪いことをする人が多いのですが、女性は、命を守るとか、生活環境を守るとか、福祉を発展させました。」
 同じように、戦時中は労働不足から女性も労働現場に駆り出されましたが、その中で男性と同じ労働に従事させられました。そのなかから男も女も同じように仕事ができることを “実証” し、「同一労働・同一賃金」 の要求を掲げ、ベルサイユ条約を経てILO憲章に生かしていきます。


 東日本での 『こころのケア』 についてはどうでしょうか。
 11月16日の 「朝日新聞」 は 「被災者 進まぬ心の復興」 の見出し記事を載せました。
「岩手大学の麦倉哲教授らの研究グループは大槌町の仮設住宅に住む、被災者3千人を対象に調査を毎年続けている。2014年に気持ちの変化を尋ねたところ、『かえって厳しくなった』 と答えた人が28.4%を占めた。『震災直後からほとんど変わらない』 と答えた38.7%を合わせ、6割強が精神状態が改善していなかった。……
 内閣府自殺対策推進室によると、被災3県での震災関連の自殺者は今年9月までの累計で151人に上る。
 宮城県石巻市の市立病院開成仮診療所。……12年5月から患者に接してきた医師の長純一所長は、これまで、うつ病やうつ状態と診断した患者は約250人、心的外傷後ストレス障害 (PTSD) と診断した患者は約60人に上る。
 長さんは 『全体の1割近い人が重い精神的な障害の傾向があるのは、被災地以外では考えられない高さだ』 と指摘する。」
 住宅問題や生活不安定は、震災から時間が経過するにつれてストレスを大きくしていっています。

 そのようなことを裏付ける実態と同時に新たな問題が登場しているという報道です。
 12月1日の 「毎日新聞」 は、「被災地、教育に貧困影響 『父が非正規・無職』倍増」 の見出し記事を載せました。
 東日本大震災で被災した子どもたちの学習を支援している公益社団法人 「チャンス・フォー・チルドレン」 (本部・兵庫県西宮市) は、11月30日、同法人が支援に関わるなどした被災家庭2338世帯を対象に2014年5〜9月に実施した、被災地の子どもの貧困や教育格差の実態調査 「被災地・子ども教育白書」 を発表しました。
 白書によると、父親が契約社員などの非正規労働か無職の割合は13.1%で、震災前の6.3%に比べ約2倍になりました。逆に正規労働は9.4ポイント減の78.5%に落ち込みました。世帯所得が250万円未満の割合は36.9%で、震災前に比べ8.5ポイント増えました。
 理想とする進路を中学3年生に尋ねたところ、56.2%が 「大学以上 (大学、大学院)」 と回答。しかし 「現実的には、どの学校まで行くことになると思うか」 との質問に 「大学以上」 と答えた割合は44.3%にとどまり、11.9ポイントの開きがありました。その理由に 「経済的な余裕がない」 を挙げたのは13.4%。国が全国の親子を対象に11年度に実施した同種の意識調査で、現実的な進路を選ぶ理由に 「経済的理由」 を 挙げた割合は4.3%しかなく、被災地の子どもたちが自分の希望に反し、経済的理由から現実的な進路選択を迫られる割合が高まりました。
 一方、不登校の経験がある中高生を世帯の所得別でみると、年収100万円未満世帯が最も高い17.9%で、低所得世帯ほど高くなっています。「安心して過ごせる居場所がないと感じたことがある」 「自殺をしようと思ったことがある」 と回答した割合も、低所得世帯ほど高い傾向がみられました。
 同法人の今井悠介代表理事は 「震災の影響は学習面だけでなく生活のさまざまな面に及び、要因も家庭の経済状況や人間関係など複数が絡み合っている。給付型奨学金の充実や子ども専門のソーシャルワーカーの制度化など、国や自治体、地域が連携した支援が必要だ」 と指摘しています。

 震災は、建設・土建業界には大きな利潤をもたらし、自立できない被災者は放置されています。格差はますます拡大しています。
 その中で、自分たちの体験を踏まえてこの問題に取り組んでいるあしなが育英会の地道な活動には本当に脱帽します。


 同じような傾向は、阪神淡路大震災の後にも見られました。13年11月19日の 「活動報告」 を抜粋再録します。
 阪神淡路大震災発生後10年間、兵庫県の関連機関は毎年 『阪神・淡路大震災復興誌』 を刊行しています。その最終版・第10巻の 「第6章 教育から学校の状態」 から児童・生徒の心理状況はどうだったのか、それに教職員はどう対応していたのか拾ってみます。実際に教職員がどのような活動をしていたのかを見る中から、教職員への対応策も探れるからです。
「しかし、被災から10年たっても児童・生徒が負った心の傷は今も残されている。大震災からの援興が広い分野で進んだ中で、いまだに解決、解消の道が遠い課題でもある。大震災から学んだ教訓だ。
 兵庫県教委は、被災直後の1996年から、震災による教育的配慮を必要とする児童・生徒数の調査を続けている。1998年度の4,106人をピークに、1997年度から3年間は4,000人の大台を超え、2000年度から減少傾向となった。要因別に見ると、被災から5年を境に、事情が変わってくる。前期は 『震災の恐怖によるストレス、住宅環境の変化、通学状況の変化』 などが主な要因。後半は 『家族・友人関係の変化』 や 『経済環境の変化』 などが漸増傾向を見せるようになる。これを県教委は 『二次的要因』 と位置づけている
 要因はどうあれ、要配慮児童・生徒は、10年後の2004年度1,337人、2005年度808人にのぼる。県教委をはじめとして教育現場では、初体験の 『心のケア』 に取り組んできた。その成果が要配慮児童・生徒数の減少である。その中心的役割を果たしたとして評価されるのが 『教育復興担当教員』。略称 『復興担』 は被災後、国の教員加配措置で配置され、『心のケア』 と 『防災教育の推進』 に努めた。」

 兵庫県教委が1996年度から7月1日現在で続けている 「大震災で子どもが負った心の傷を調べる 『教育的配慮を要する児童・生徒の実態調査』 です。
「2004年の調査対象は小学校828校1分校、15万9,697人。中学校359校3分校 (芦屋国際中等教育学校を含む)、14万9,117人。合計1,187校4分校、30万8,814人。
 調査結果によると、配慮が必要な小学生556人 (前年比420人減)、中学生781人 (同151人減)、合計上1,337人 (同571人減)。毎年減少となっているが、被災9年後に新たな発症が74人もいた。」
「要配慮児童・生徒の2004年度要因 (複数回答) は 『住宅環境の変化』 が43.5% (前年40.1% 、前々年40.0%)。『経済環境の変化』 が37.1% (34.7%、33.1%)。『家族・友人関係の変化』 が36.9% (39.0%、41.0%)。『震災の恐怖によるストレス』 が29.9% (35.3%、36.8%) で、これら4項目が要因の大半を占める。4項目以外では 『学校環境の変化』 4.9% (6.9%、8.6%)、『通学状況の変化』 4.3% (4.7%、5.5%) など。
 トップの 『住宅環境の変化』 は前年と変わらないが、『経済環境の変化』 が2位 (前年4位、前々年4位) につけた。『家族・友人関係の変化』 は3位 (前年2位、前々年1位)。「震災の恐怖によるストレス」 は4位 (前年3位、前々年3位)。要因別順位は2位以下にかなりの変動が見られた。『震災の恐怖』 が大きくポイントを下げたのに対し、『経済環境』 は毎年ポイントを上げ、最近の二次的要因の特徴を2004年度も見せた。
 9年間の調査結果の流れを見ると、1996年度から1999年度までは 『震災の恐怖』 の割合が最も高かった。『住宅環境』 は1996年度、1997年度は40%を超える高い割合を占め、その後、一時減少したが、2002年度以降、再び、40%を超え、2004年度は最も高い。
 生活基盤を揺るがす災害は、直接の衝撃だけでなく、その後の生活の不安定さなどの二次的ストレスが、心理的に大きな影響をもたらし続けることが指摘されている。この調査でも1995年度から2001年度まで 『家族・友人関係の変化』 が増加し、その後やや減少したとはいえ、2004年度でも36.9%を占めている。
 また、『経済環境の変化』 は1995年度以降、一貫して、その割合が増加し、2004年は37.1%、第2位となった。このような二次的ストレスが、震災の恐怖などのストレス体験を呼び起こすことも指摘されており、今後の取り組みは、調査結果の流れ、傾向を踏まえて進める必要がある。」

 このような児童・生徒に対応しているのが教職員です。
 しかし、阪神淡路大震災の時は、教職員や公務員の 「心のケア」 についてはさほど問題になりませんでした。実際は深刻でした。5年後、10年後に 「バーンアウト」 「PTSD」 が発症しています。
 東日本大震災でも 『二次的要因』 が表れ始めています。教職員は初体験の 『心のケア』 にも対応していかなければなりません。阪神淡路大震災の教訓を生かして対応していく必要があります。

 とはいいながら、教職員の状況も深刻です。
 11月24日の 「河北新報」 に 「震災以降悪化…教職員の心身不調やや改善」 の見出し記事が載りました。
 宮城県教委は、2011年12月と13年6月に続き今年6月に、県内の公立小中高、特別支援学校の教職員1万8859人を対象に健康状態や睡眠、ストレスなど計36項目の調査を実施しました。(13年11月19日の 「活動報告」 参照) 調査票に自己記入する方式で、回収率は84.2%でした。
 精神面の健康評価で、セルフケアで対応可能な 「心配ない」 「注意が必要」 は前回より3.4ポイント多い87.5%。専門機関のケアが必要な 「かなり注意が必要」 は6.0%、「要注意」 は4.8%で、ともに前回とほぼ同じ割合です。
 仕事への意欲が低下するバーンアウト (燃え尽き) も、「心配ない」 「注意が必要」 が73.8%と4.6ポイント増えました。これに対し 「要注意」 は16.7%で、前回とほぼ変化がありませんでした。
 震災前との業務量の比較では 「大幅に増えた」 が10.2%、「増えた」 34.9%とそれぞれ微増です。2つの回答の合計を圏域別でみると、東部 (石巻市、東松島市、女川町) が第1回調査の66.1%から56.2%に減少。南三陸 (気仙沼市、南三陸町) は61.3%と横ばいでした。
 「仕事が楽しいと感じたことがある」 と答えたのは78.3%で、前回比4.9ポイント増。圏域別では南三陸が80.7%で最も高くなっています。
 体調不良の数が現状維持になっているということについての対策が必要です。専門機関のケアを希望する教職員に、臨床心理士による個別面談やメール相談の窓口を紹介しているといいます。

 体調不良者は継続したケアが必要ですが、現在 「心配ない」 「注意が必要」 と回答したなかからも、緊張の糸が切れた時や、業務に一区切りついて一息入れた時、業務から離れた時に体調不良に陥ることがあります。
 「心のケア」 は医師やカウンセラーだけではできません。信頼、安心できる人と人との関係性が最良の治療です。日常的にゆとりを創り出し、時間をかけて震災体験の恐怖や悲嘆を “吐き出し” て共有し、客観視できるようになると無意識的にも抑えていたストレスが徐々に解消されていきます。

 東日本大震災で被害を受けたのは沿岸の住民だけではありません。内陸部でもかなりの被害がありました。
 フィギアスケートで活躍を続ける羽生結弦選手は、海岸から10キロ以上離れた仙台市内の自宅が被災し、避難所生活を送りました。練習に使用していたスケートリンクも被害にあいました。
 その彼が11日に大記録を達成したことは、被災地への大きな激励となりました。


   「教職員の惨事ストレス対策」
   「活動報告」 2013.11.9
  当センター「いじめメンタルヘルス労働者支援センター」ホームページ・ご相談はこちらから 
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ストレスチェック制度とマイナンバー制度
2015/12/08(Tue)
 12月8日 (火)

  前回からの続きです。

「学会では米国の専門家による招待講演もあり、イラク戦争に参加した米兵のPTSD研究の紹介がされていた。講演を聞きながらわたしは、『トラウマ研究は何時から、戦っても傷つかない人間をふやすための学問になったのだろう』 と思った。潤沢な予算がPTSDの予防や治療の研究につぎ込まれることと、平然と戦地へ兵士を送り出すことは、米国では矛盾しない。米兵のPTSDの有無や危険因子は調査され、発症予防や周期回復のための対策は練られるか、派兵をやめようという提案にはならない。イラクの人たちのPTSDについては調査どころか、言及さえない。そのことに違和感をもつ人はいないのだろうかと周囲を見回すが、みんな熱心に講演に聞き入っている。孤立感を覚える。
 メンタルヘルスケア対策は何時から、過重労働やいじめに遭っても傷つかない労働者をふやすための対策になったのだろう。」(宮地尚子著 『傷を愛せるか』 大月書店 2010年)

 アメリカの姿勢は厚労省と同じです。
 厚労省が進めているメンタルヘルス対策は、ストレスに強くなる労働者作り、つまりは長時間労働と過重労働に耐えられる労働者を作ることを目的にしているとしか捉えられません。労働者の健康管理は個人の問題・ 「自己責任」 が基本姿勢です。面接・指導、カウンセリングは労働者がストレス受容を大きくするために行われます。そして使用者の責任が回避される方向になっています。体調不良者を出す職場環境の改善は二の次です。


 ストレスチェック制度の開始で何がどう変わるでしょうか。
 最大の点は、チェック票の 「心身のストレス反応」 の導入です。事業者によって労働者1人ひとりの精神状態に関する検査とデータ作成が合法的行えるようになりました。労働者は、第三者から 「心の管理」 が行われるのです。残念ながら法案作成から成立までの間に、人権・人格、基本的人権、個人情報保護というような問題は議論に上がりませんでした。
 今後、「心身のストレス反応」 検査の合法化は前例となり、他のところでも第三者によって 「心の問題」 への干渉が悪用されていきかねません。 
 世界的には人格権侵害、人権無視の行為であり得ないことです。これは 「安全配慮」 以前の問題です。

 第1回の専門検討会にイギリスの例が紹介された資料が提出されました。
 そこには記載されていないですが、イギリスのストレス調査は、「職場のストレスの多くの原因は、人事関係の問題である。職場のいじめ、長時間労働の慣習、人員整理とそれによって残された人々にかかる作業負荷、そして、女性差別や民族差別のようなことは、全て人事 (HR) が対処すべき問題である。」 「もし事業者が労働時間、労働量、管理形式のような分野に及ぶ基準を満たそうとするなら、人事部は重要な役割を果たさなければならない。」 ということを目的とされています。人事関係とは日本でいう労務管理のことです。人事関係・人事部の対処こそが調査されるのです。

 国際安全衛生センターの資料からです。
 2004年11月、イギリス安全衛生庁 (HSE) は、職場ストレスに関する新しいマネージメント基準を発表しました。基準は法で規制されるものではないですが、企業が職場のストレスレベルを測定し、その原因を特定し、この問題に取り組むスタッフに役立てることを目的としています。
 最初のマネージメント基準は2003年6月に公表されました。この基準では6つの重要な職場のストレッサーである 「作業要求」、「管理」、「支援」、「関係」、「役割」、「変化」 を低減する目標を設定しています。この目標達成のためには、一定の割合のスタッフが、ストレッサーの管理方法に満足しているということを示すことが事業者にとって必要となります。
 さらに法では、5人以上の労働者を有する企業は、労働関連ストレス、いじめ、いやがらせを防止する上での対策が含まれている安全方針を文書で作成しなければなりません。
  職場ストレス原因は多種多様ですが最も重要ないくつかの潜在的根源をあげ、克服できないものはないと断言しています。効果的なストレスマネージメントの鍵の1つは、これらのストレッサーが発生するおそれがある場所を認識し、ストレッサーが現実の問題となる前に、それに対応する準備があるかということです。

 職場ストレスの主原因として、次のようなものが特定されています。
 ・企業内での不適切、あるいは不十分なコミュニケーション、特に人事異動期間中についての
 ・家庭及び仕事に基づいたストレスは成長し、お互いに影響し合い増大する
 ・個々人に与えられた作業要求は、各々の能力に適合したものでなければならない。そして、
  作業量は作業要求にふさわしい作業方法に見合っていなければならない
 ・過重労働及び過少労働ともにストレスになり得る
 ・交替制勤務及び夜勤は、本質的にストレスが多く、災害発生の高いリスクにつながるおそれがある
 ・自宅勤務は、労働者に孤独感を感じさせるおそれがあるので、支援体制が必要となる
 ・ホット・ディスキング(職場で個々人の机を決めていないこと)や、短期間契約は、特別なプレッシャ
  ーにつながる
 ・役割のあつれき、不明確で変化する役割は、全てストレスにつながる
 ・神経をすり減らし、いじめがある管理の仕方は相談、支援、管理でのバランスが必要となる
 ・中間管理職のコミュニケーションスキルの不足。管理職は、コミュニケーション訓練が要求され、通常
  の人よりも、このスキルが必要となる
 ・余剰人員整理のためには、スペシャリストを訓練するという特別なニーズが必要となる
 ・照明が不適切で不十分な職場は、スタッフが不快に思い、かつモチベーションが高まらない環境となる
 ・新技術の導入において、計画的かつ、斬新な方法で行われない場合には、ストレスレベルを高める
 ・労働者が常に働いていることを要求されているように感じる職場環境

 日本のストレスチェック票と比べると明らかですが、 「仕事のストレス要因」、「周囲のサポート」 はありますが 「心身のストレス反応」 はありません。ストレスは個人的問題か、職場全体の問題かというような捉え方はしません。イギリスが特異なのではありません。本来の職場のストレスチェックはこのようなもので、日本が特異なのです。
 イギリスがこの地平に至ったのは、労働政策の決定が政・労・使で激論のすえ行われているからです。日本は、使・使の代弁者・労の不在で行われていのが実態です。これでは労働者の人権・人格は保護されません。 


 作成されたチェック票の管理は誰が行うのでしょうか。
 ストレスチェックの結果、労働者の体調不良が明らかになったら医師や保健師は労働者に結果を通知します。労働者は面接を希望する時は事業者に面接の申し出をすることができます。厚労省はこのようなシステムだから、事業者は労働者個人の情報を勝手に取得できないと説明します。
 ではチェック票はだれが保存・管理するのでしょうか。ちゃんとした保健室があり、産業医や看護師がいる職場ならそこが管理するでしょう。それ以外は。事業主が管理します。事業主は労働者の健康に関する情報は喉から手が出るほど欲しいです。猫に魚の番をさせることになりかねません。労働者の不信は消えません。


 ストレスチェック制度が開始された12月1日は、特定秘密保護法が完全施行された日でもあります。今後は秘密を漏らす恐れがないと 「適正評価」 を受けて選定された者たちだけで特定秘密を取り扱っていきます。取扱者は、薬物乱用や精神疾患、酒癖などが調べられました。自衛隊員だけでなく国家公務員、警察官、さらに民間企業の社員もいます。取扱者数は今後もっと増えるといわれています。
 この後、適正評価に際し、対象者を1人ひとり呼び出して調査したり、周囲に対象者であることを知られないで判断できる方法はないでしょうか。こう考えた時、精神疾患の 「適正評価」 については、せっかく実施したストレスチェック票の 「心身のストレス反応」 を流用したいという考えが浮かんで来るのは必然です。これがいつからかストレスチェック制度導入の目的になっているのではないでしょうか。防衛省は、人びとの健康に関する情報は喉から手が出るほど欲しいです
 厚労省は、ストレスチェック制度では事業者でも労働者個人の情報を勝手に取得できないと説明します。しかし昨今のパソコンからの情報の流出状況を見ていると、完全に保護されている情報はありません。

 来年1月1日からマイナンバー制度がスタートします。
 総務省は、「マイナンバー制度は、住民票を有する全ての方に1人1つの番号を付して、社会保障、税、災害対策の分野で効率的に情報を管理し、複数の機関に存在する個人の情報が同一人の情報であることを確認するために活用されるものです。マイナンバーは、行政を効率化し、国民の利便性を高め、公平かつ公正な社会を実現する社会基盤」 と説明しています。
 「情報提供ネットワーク」 の役割があると言われています。しかし自治体で管理する、利用者からは見えない情報の収集です。
 具体的には、法第6条の 「利用範囲」 で、社会保障分野、税分野、災害対策分野などに利用されます。
 実際は、社会保障分野はさらに年金分野、労働分野、福祉・医療・その他の分野に分けられます。労働分野は、雇用保険等の資格取得・確認・給付を受ける際に利用、ハローワーク等の業務に利用とあります。
 福祉・医療・その他の分野は、医療保険法等保険料徴収等の医療保険における手続き、福祉分野の給付、生活保護の実施等低所得者対策の業務に利用とあります。マスコミ等では社会保障分野として 「メタボ検診」 や予防接種がクローズアップされています。
 注意しなければならないのは、健康保険法、船員保険法、国民健康保険法、高齢者の医療に関する法律による保険給付の支給、保険外の徴収に関する事務も含まれます。保険給付の支給は、人びとの健康状態の掌握が可能になります
 10月14日、マイナンバー制度のシステム設計の契約に絡んで厚労省の室長補佐が収賄容疑で逮捕されました。厚労省のシステム設計や開発に関わる調査業務2件の企画競争にシステム開発会社が受注できるように便宜をはかった見返りとして現金を受け取っていました。室長補佐は情報政策担当参事官室室長補佐ですが、収賄が言われるときは社会保障担当参事官室に在籍しています。開発内容は病院が持つ情報と連携させるシステム作りなどです。患者の病名、通院・入院の頻度の情報がマイカードに蓄積されるのです。


 企業は、賃金支払い、税の徴収・納付のために労働者からのマイナンバーの報告を受けて提出書類に記載することになっています。会社は社員のマイナンバーを掌握することになります。賃金計算を、子会社、経理専門会社や社労士などに委託している企業も多くあります。企業はナンバーの流出を止めることはできません。
 ストレスチェック票にマイナンバーが記載されて管理されたら、個人情報が知らないうちに流出していることになりかねません。マイナンバー制度によって、労働者の健康状態・情報が個人が知らないところで企業に 「提供」 され、管理されることになりかねません。
 その 「活用」 で、労務・人事管理において差別・排除、退職勧奨がわけがわからないうちに進められていきます。
 また体調不良で退職した労働者が再就職しようとした時に、相手会社から理由が明らかにされないまま拒否されるという事態が発生しかねません。


 マイナンバー制度は 「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」 に基づくものですが、改正マイナンバー法が成立した今年9月3日には 「改正個人情報保護法」 も衆院本会議で成立しました。個人情報保護法は国及び地方公共団体の責務等を明らかにしていますがプライバシーの保護はありません
 改正個人情報保護法は第一条で (目的) を謳っています。
「……国及び地方公共団体の責務等を明らかにするとともに、個人情報を取り扱う事業者の遵守すべき義務等を定めることにより、個人情報の適正かつ効果的な活用が新たな産業の創出並びに活力ある経済社会及び豊かな国民生活の実現に資するものであることその他の個人情報の有用性に配慮しつつ、個人の権利利益を保護することを目的とする。」
とあります。
 太字の部分が追加されました。つまりは、個人情報は産業の創出並びに活力ある経済社会及び豊かな国民生活の実現のために利用していいということになり、その他の個人情報の前に位置づけられています。簡単にいうと、改正によって企業が持つ個人データを使いやすくするのとプライバシー保護の在り方が見直されます

 第15条は (利用目的の特定) を謳っています。 改正前です。
「個人情報取扱事業者は、個人情報を取り扱うに当たっては、その利用の目的 (以下 「利用目的」 という。) をできる限り特定しなければならない。 ……
 2 個人情報取扱事業者は、利用目的を変更する場合には、変更前の利用目的と相当の関連性を有すると合理的に認められる範囲を超えて行ってはならない。」
 これが改正では、企業などが本人の同意なしに変えられる個人情報の使い道の範囲が 「相当の関連性」 があるから 「関連性を有する」 範囲に変わりました。
 第23条は (第三者提供の制限) を謳っています。
「個人情報取扱事業者は、以下の場合を除いては、あらかじめ本人の同意を得なければ、個人データを第三者に提供してはならない。……
 2.人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき。」
 身体の保護が、「個人の権利利益を保護することを目的とする」 と使用者の安全配慮義務を拡大解釈して、使用者が勝手に情報を取得するような状況が生まれないでしょうか。一度集めた個人情報は別の目的にも転用できます。


 ストレスチェック制度では情報の不正利用に対する罰則が設けられているから大丈夫という人たちがいます。
 しかし企業は情報取得を秘密裏に行い、漏えいが発覚したら後付の説明を行って合法だと居直れるように個人情報保護法は 「改正」 されました。居直るにしても謝罪するにしても、取得したら 「勝ち」 です。

 個人情報保護は、自分がしっかりとプライバシーを守っていれば大丈夫というレベルの問題ではありません。日本では個人情報が外部に漏らされることが人格権侵害という捉え方は小さいです。個人情報が他者から管理される、情報がどう利用されることになるか、そして個人が国家に管理されることに抵抗がありません。集団の中では仕方ないという諦めや、当たり前と捉える傾向があるようです。だから無防備と同時に他者のことも顧みず、いろいろなところに干渉したり、インターネットなどで他者の情報が流れていると書き込みをして追加の “情報提供” をしています。
 すでに様々な情報は収集されて管理されているのです。
 
 安倍政権のこの時期に、「ストレスチェック制度」、「秘密保護法」、「マイナンバー制度」、「個人情報保護改正」 が施行されるのは偶然でしょうか。
 くりかえしますがマイナンバー制度はあらゆる情報が盛り込まれ、人びとの一切を管理しようとするものです。


 「職場のストレスチェック制度」 は、チェック票の 「心身のストレス反応」 がなかったら、労働者の期待するところであり有効活用も可能でした。労働組合や安全衛生委員会などで議論する資料にもなりえます。しかし開始される制度は 「検査結果の集団ごとの分析」 は努力義務ということです。
  「心身のストレス反応」 を含んで 「検査結果の集団ごとの分析」 が行われ、議論ための資料として活用することは個人の労働者を犠牲にするものです。
 ストレスチェック制度が実施されても、労働者にとって検査を受けることは義務ではありません。
 やむなく検査をうけざるを得ないとしても 「心身のストレス反応」 は拒否しましょう。
 チェック票にマイナンバーを記載することに反対しましょう。
 一次予防が目的なら、チェック票は無記名での提出も有効です。無記名でも 「検査結果の集団ごとの分析」 はできます。
 実施されても、体調不良者のリストアップ、排除・退職勧奨等に繋がらないよう監視をして行く必要があります。
 

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