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「過度な親切は止めましょう」                             「ただし私が買うときは正当な情報を伝えてください」
2015/11/26(Thu)
 11月26日 (木)

 11月12日から16日まで、コミュニティユニオン全国ネットワークは韓国で労働組合等と交流をしてきました。前回の続きです。
 3日目は、ウォンジン緑色病院内にある労働環境健康研究所を訪問しました。対応していただいたのは任祥赤赤 (イムサンヒョク) 所長と研修医の方です。

 研究所は1999年6月に設立されました。韓国で唯一の民間の労働安全衛生分野の研究所です。
 設立目的は、1980年代初めに源信 (ウォンジン) レーヨンで二酸化炭素中毒事件が発覚し、最終的には1000人を超える職業病患者を発生させ、死亡者は100人に及んだことを踏まえ、二度とこのような悲惨な被害者を出さないようにするということです。患者が闘って獲得した補償金で財団を立ち上げて病院と研究所を設立しました。
 93年にウォンジンレーヨンは廃業しました。財団の理事の半数は退職者の患者たちです。患者の集まりがあり、そこが推薦した人が理事になります。
 現在は医師3人、研修医4人など23人が働いています。
 労働組合、労働者、環境被害者の要請に応えて活動しています。また必要と判断したら独自に活動します。政府からはすごく嫌われています。にもかかわらず研究所が成長してきた背景は2つあります。1つは、国内の最高の専門家が集まっている、2つは、現実に最も必要な研究をしているということです。
 政府の労働安全政策制定にも深くかかわっていて、研究所が参加することで法案が変更させることもあります。政府には好かれていないのに法制化に至るのは、労働者と一緒になって社会的問題提起をする中で政府を動かすからです。研究のための研究をしていないからです。
 財源は、会員はいますが寄与度は少ないです。委託研究は、数が多くないですが政府や行政からもあります。労働組合からも、労働組合を通じた企業からもあります。
 韓国労総は内部に環境測定をできる組織がありましたが最近規模を縮小しました。あまり活動していません。

 最近の事例です。環境美化 (道路清掃) の清掃労働者は休憩所がありませんでした。作業を終えた服装で帰宅します。彼らのために休息と洗面するスペースが必要だという研究を行い、休憩所を設置するキャンペーンを環境美化の労働者を組織している労働組合と一緒に取り組みました。清掃労働者はほとんどが下請けで給料が低く、年齢が高い、そして労働者の権利を持たないままにいます。
 大きな波紋を社会に投げかけました。環境美化労働者が身体を洗える権利を含んだ法律が制定されました。

 コンビニやスーパーのレジで働くサービス業の女性労働者がいます。立って働いていると足が痛くなるし疲れます。これらの労働者のために調査を行い、椅子を置こうというキャンペーンを民間サービス労働組合と一緒に行いました。多くの社会団体がこのキャンペーンに参加しました。大きな社会的反響があり政府機関もキャンペーンに参加しました。
 きっかけとなったのは、イギリスの労働組合のホームページです。「立っていますか? 足が痛くなりませんか?」 と問いかけ、「労働組合に相談してください」 という相談事例を見つけました。椅子を置く取り組みでした。
 客がいいなければ座れます。キャンペーンを展開する時に客に対して座っていても失礼じゃないと宣伝しました。制度化は研究によって出来るものではなく、労働者の力も弱いので消費者や地域住民と一緒に行わなければなりません。
 しかし椅子を置いても座るのは難しいです。労働組合の力で勝ち取らなければなりません。

 建設労組と一緒に法律を変えた取り組みがあります。
 作業環境測定の制度があり、工場の保守、施設の公開には建設労働者がかかわります。例えば、化学物質を扱う工場で施設を変えるためにプラントの回収に携わる場合には短期間で清掃をします。その時に化学物資が暴露します。
 2つの制度を変えました。そのような施設管理に携わる建設労働者にどのような毒性の物質があるかの情報を伝える法律を作りました。短期間で工事を行うために環境を評価することが出来ませんでした。しかし有害化学物質に短期間でも暴露することは健康に影響があります。短期間暴露の基準を設定しようと研究成果を発表しました。これも法制化させました。

 地域住民の知る権利が法制化される予定です。住んでいる地域に工場がたくさんありますが、そこでどのような物質がどれくらいの量使われているのか、どれだけ危険なのかを地域住民は知りません。もし事故が起きた時、事実を知らないと退避することもできません。
 そのような情報を地域住民に知らせろとキャンペーンを行いました。労働部ではなく環境部の仕事です。
 それに基づき、各自治体で地域住民に知らせるための条例作りをしています。


 消費者に対面する、またはコールセンターで応対する労働者、顧客に対応するCSなどを韓国では感情労働者、そこでのいじめやパワハラを 「感情労働」 と呼んでいます。
 感情労働による健康障害はメンタルヘルスです。労災認定・補償の基準を定める法案を作成しました。うつ病、適応障害、パニック障害が対象になっています。とりあえず入り口のところではじまりました。長期的にはいろいろなことも入ってくると思います。因果関係・認定基準については法制化されていませんし、政府の政策もありません。労働時間がどれくらいか、企業による無理な要求はないかなどをいくつかを考慮し、その結果、精神疾患になりうるということを判断します。労災認定の中で精神疾患も年間約20人が認められています。
 労働環境健康研究所の研究を議員が反映させて取りまとめました。
 感情労働を巡ってネットワークを作りました。法制化できたのも消費者の支持があったからです。「過度な親切は止めましょう」 「ただし私が買うときは正当な情報を伝えてください」 という要求を掲げたら労働者の要求と一致しました。
 まだ立法化はされていませんが今度の国会で成立するかなと思っています。

 感情労働の具体例です。
 サムスンのアフターサービスの労働者はみな非正規労働者です。顧客先に行き、サービスが終わるとサムスンから電話がかかってきます。「今回のサービスは10点満点で何点でしたか」。10点でないとサービスに行った労働者は始末書を書き、全員の前で読み上げさせられます。普通の評価ではだめで、「よくできました」 でなければなりません。そうすると顧客側の要求が高くなります。「ゴキブリを捕まえてくれ」 とかもあります。
 そこまでいくとパワハラに近い労働者管理と言えます。
 労働組合があればそのようなことはさせません。しかし韓国の労働者の組織率は10%に満たないです。

 コールセンターにしょっちゅう電話をしてくる人がいますが、電話を受けた労働者は自分から電話を切ることが出来ません。クレーム電話でも先に電話を切ったらペナルティを課せられます。労働組合があったらそうではないでしょう。
 キャンペーンを進めたら、労働者が電話を先に切る権利を受け入れる企業も出てきました。それを法制化しようとしています。

 スーパーの労働組合で、感情労働の価値を認めろと要求しています。日本では笑顔で対応するのが当たり前と言われますが、そうではないということを認めさせようとしています。日本でも感情労働によるストレス疾患が増えていくと思われるので、日本に紹介すべきことがと思います。
 特に感情労働で苦しめられているのはデパートの化粧品売り場の労働者です。トラブルが一番多いです。デパートの化粧品売り場の労働者が、メーカー直属でなく輸入化粧品の販売代理業の会社で労働組合を作り、そこで感情手当を制定させました。会社ごとに差はあります。

 ロッテデパートの服売り場でパートの責任者の労働者が屋上から飛び降り自殺しました。遺書には直属の上司への不満が書かれていました。上司から販売量を上げるようにと実績を要求され、実績を上げないと叱責されました。その案件は労災と認められました。

 公務職の中に社会福祉職があり住民からの窓口の仕事をします。おもにお金のない人を相手にします。審査を通じて保護の対象から振り落とすこともします。落とされた住民は役所に来て狼藉を働くこともあります。
 年ごとに社会福祉制度が変わっていきますので業務量も多いです。2013年、区役所で社会福祉を専門にしている労働者3人が相次いで自殺しました。自治体で対応すると言っていますがどうなっているかは掴んでいません。

 労働者が体調不良に陥った場合の休職期間は、公務員は6か月です。民間企業にはありません。


 事前学習用に渡された労働政策研究・研修機構作成のパンフレット 『韓国における労働政策の展開と政労使の対応 -非正規労働者問題の解決を中心に-』 に、韓国で2番目の大型スーパー・ホームプラスでの非正規労働者の組織化と処遇改善の闘いについてのヒアリング調査が報告されています。上部団体のサービス連盟や民主労総の地域組織の支援を受けて労組が結成されたのは2013年3月24日です。
 ホームプラスは年間売上が約10兆ウォンで、大型店舗数は139店。労働者数は約2万1000人で、2015年3月現在の労働組合員数は約2500人です。正社員の加入も認めていますが加入者は少なく、パートタイマーが組合員の大半を占め、43店舗に組合支部が設立されました。そのうち、組合員が従業員の過半数を占める支部が10あります。

 報告の中の感情労働に関する部分を中心に紹介します。
 組合結成の背景には次のものが挙げられます。
 第1に、非正規労働者保護関連法の2年みなし規定により、多くのパートタイマーは無期契約労働者となりますが、勤続10年でも手取りの月給が100万ウォンを下回る労働者も多く、それも勤続10年までしか昇給しませんでした。そのために、勤続1年と10年との間に賃金の差はほとんどありませんでした。第2に、パートタイマーなのに超過労働を強いられることが多く、手当はほとんど支払われませんでした。第3に、暴言、暴行の人格無視、不当な仕事の命令が日常的に行われていました。また、顧客からのハラスメントにさらされているのに、会社の本格的な対応はありませんでした
 組合加入呼びかけ文には「不法行為をただすことから組合活動を始めます」という見出しのところに次のことが例示されています。「超過労働をさせながらも手当を支払わない」、「週12時間を超えることができないとされる超過労働が数十時間も行われている」、「個別従業員が顧客のクレームに耐えなければならず、冒涜されても、会社はどうしようもないとのことで対応をしてくれない」、「最賃とあまり変わらない賃金」、「上級者が汚い言葉や暴言を吐き、人格的な侮辱感を覚える言葉や行動を惜しまない」。
 組合結成後、現場では目に見える形で変化が現れてきました。一週間も経たないうちに、「上司が丁寧語を使うようになった」、「定刻退勤ができるようになった」、「組合結成により同僚の表情が明るくなった」、「協力会社の社員に掃除をさせなくなった」、「休日出勤をしないようにという指示が来るなど奇妙なことが起きている」、「法律で認められた権利を正当に行使するようになった」 等のような変化がありました。
 労使は2013年8月27日から労働協約締結に向けた団交に入り、4回目の交渉で基本協約を締結しました。組合は、152項目の要求項目を掲げて労働協約の締結を目指し、団交を続けていきましたが、会社は3分の1の項目を削除するように対抗してきました。
 組合は、11月10日に会社の本社前で座り込み集会を開催しました。また、ストへの賛否投票を行い、12月24日に96.7%でスト権を確立し、組合員は、「団結して労働協約を勝ち取ろう」等の字が入っている布 (背中屏報 (トンビョッポ)) を背中に張って仕事を行うことを決めました。12月31日、1つの店舗で部分ストに入りその後相次いで他の店舗でも部分ストを行いました。そして2014年1月9日に全面ストと上京集会に入ることを決定しました。会社は、それに押される形で同日深夜1時に労働協約の締結に同意しました。
 
 労働組合が高く評価する労働協約の内容です。第1に、労働時間の確定によるサービス残業の廃止、30分間の休憩時間 (有給) の獲得。第2に、入社16か月が経つと自動的に無期契約労働者となる雇用安定です。
 第3に、感情労働者の保護です。職員が顧客から暴行を受けた場合、会社は積極的な救済措置をとることを原則とし、また、暴言・暴行の際に当該の職員は直ちに顧客への対応を拒否し、代わって上位責任者が対応を行います。顧客からの暴言等で深刻な感情の毀損が認められる際に1時間の心理管理時間を与えるとともに当該の顧客に2回目の対面を原則禁止します。そして、顧客の不平不満の多い顧客センターでは暴行・暴行の予防措置をとります。組合は、感情労働手当として月5万ウォンを要求したが、認められませんでした。
 第4に、組合活動の保障です。企業が賃金を支払う6人の組合専従者を認めるとともに、各店舗に掲示板の設置、また、チェックオフ (賃金の1%) も組合の事務室提供も認めさせました。第5に、組合員は、法律や労働協約によって保障されている権利を正当に行使することができるようになりました。

 労働協約の締結の後、組合は、2014年4月21日より初めての賃上げ交渉を行いました。要求内容は、1.生活賃金の保障として、2013年都市労働者の平均賃金の58%水準の基本給 (月148万ウォン) を求めた。2.賃金の低下を伴わないボーナス4か月の支給。3.レジうち、調理等職種別に異なる賃金を統一すること、4.感情労働手当の新設、等10項目でした。
 労働組合は、8回までの団交で具体的な回答内容を示されなかったのでスト権の投票を行うことを決めました。投票の結果、93%の賛成率を記録しました。7月11日から部分ストを行い、22日に警告ストの実施を決めました。28日からは部分ストに加えて集団休暇闘争を行い、8月29日は、全面ストの決起集会を開きました。そのほか店舗別ピケッティング及び集会、店舗別一斉食事スト等の多様な争議行為が行われました。このような組合の抗議を経て、10月23日、労使は妥結する方針を示しました。
 主な内容は、第1に、平均賃上げ率を3.79%以上にする、第2に、職種区分の賃金レベルを従来5つから3つにする、です。

 組合は、初めての賃上げ交渉を次のような意味づけをしています。第1に、会社設立15年ぶりに労働者が賃金を直接決める歴史的な出来事である、第2に、従業員が会社の爆発的な発展を遂げてきた主役であったにもかかわらず、低賃金、高い労働強度に強いられてきた者として、それに相応しい正当な要求を求める交渉であった、第3に、組合員の団結と実践によって、会社を楽しく誇らしい職場に作り替える橋頭堡であった。

 ホームプラスでは、非正規労働者が自ら労働組合を立ち上げて、処遇改善活動等をしているが、それも当該労働者が無期契約化されたから可能でした。非正規労働者保護関連法上2年のみなし規定は、非正規労働者の組合立ち上げや活動の環境を間接的に創ったといって過言ではありません。


 韓国の労働者の労働条件、処遇、労働安全衛生、健康は労働組合がキャンペーンなどを展開し、地域住民や利用者を共感させて共同の闘いを組んで向上させています。その闘いに労働環境健康研究所はコミットします。そして社会環境を変えていっています。
 「お客様は神様」 ではありません。労働者と消費者・利用者はお互いに人権と人格を認め合い、社会のパートナーとして理解しあって共生していくことの大切さを痛感させられました。


   「海外のメンタルヘルスケア 韓国」
   「感情労働」
   「職場の暴力」
   「活動報告」 2015.7.23
   「活動報告」 2015.12.27
   「活動報告」 2014.2.4
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