2015/10 ≪  2015/11 123456789101112131415161718192021222324252627282930  ≫ 2015/12
無料のサービスはありえない
2015/11/17(Tue)
 11月17日 (火)

 総務省の労働力調査で、週労働時間60時間以上の雇用者の割合について業種別のデータを公表しています。輸業・郵便業がダントツで、2012年は18.9%に及んでいます。しかも週労働時間60時間以上、つまり時間外労働が月80時間以上の詳しい状態については分かりません。
 運輸業・郵便業には、鉄道や観光バスの運送が含まれます。しばしばニュースで取り上げられている高速バス、観光バスの労働実態は深刻です。
 厚労省の2014年度に労災と認定された過労死が一番多かったのが 〈運輸業・郵便業〉 で92件です。

 宅配業の状況を取材した横田増生著 『仁義なき宅配 ヤマト vs 佐川 vs 日本郵便 vs アマゾン』 (小学館) が出版されました。そのなかから宅配業の労働時間の実態を探ってみます。それぞれ下請会社を抱えていますので、そこから宅配以外の運輸業の状況も垣間見ることが出来ます。
 国土交通省の数字では、2015年3月期の宅配便の個数は36億個強、メール便は54億強です。アマゾンジャパンや楽天などでは配送無料、さらに返品無料もあります。ではそのために費やされる労働への対価はどうなっているのでしょうか。

 著者は、ヤマト運輸で3か月ごとに契約更新が行われる下請けの軽トラに1日同乗する体験を試みます。3か月ごとの更新は、繁忙期と端境期があるのでその調整のためです。
 午前8時過ぎ、配送センターで70個の荷物を積み込んで出発します。受け持ちエリアを午前中、昼過ぎから夕方まで、夕刻から夜9時までの3回配達に回ります。不在の場合には2回、3回と回ります。3回の配達で合計100個の荷物を配り終えたのは午後9時前。拘束時間は14時間近くで、日当1万5千円です。換算すると時給は1000円強ですがそこから車輌代、ガソリン代、車検代を支払います。
 夏の繁忙期にもう一度同乗をお願いして了承を得ましたが、運転手は前日頸動脈からのくも膜下出血で病院に搬送されていました。

 宅配業界では、1個当たりの運賃が250円以下になると、どのように工夫しても利益がでない構造になっています。
 以前、佐川急便が最大手の荷主であるアマゾンとの契約で合意したのは全国一律で250円をわずかに上回る金額だったといわれます。アマゾンの配送を扱うことで、収支だけでなくサービスレベルも悪くなったといいます。
 2013年春、打ち切りました。経営の舵をシェア至上主義から “運賃適正化” を掲げて利益重視へと切り替えたのです。

 アマゾンの配送を運ぶことになったのはヤマトです。しかしヤマトはメール便については日本郵便に委託しています。
 ヤマトは2013年10月に稼ぎ頭のクール宅急便が常温で仕分けが行われていたことが新聞ですっぱ抜かれました。
 対策として、クール宅急便を取り扱える個数の上限を決め、それを上回った場合は荷物を引き受けることを断る総量管理制度を導入して再発防止に取り組みます。同時に法人向けの運賃の適正化に取り組みます。
「本来はサービス内容で競争するべきなのでしょうが、運賃 (の値引きをするの) もサービスの一環だという考え方もありました。特にネット通販事業者から荷物をいただくには、運賃が大きな要因になります。けれど、そうした通販業者さんからも採算の合う運賃をいただかないと、輸送サービスの品質が担保できないと考えて、運賃の適正化に踏み切ったのです」
 ヤマトは佐川のアマゾンの配送の中止、クール宅急便問題の危機に押されて運賃適正化をすすめました。運賃上昇→利潤率上昇→設備投資の増額→労働環境の改善へとつながり “豊作貧乏” から抜け出すことに挑戦します。


 宅配便に関わるトラックは、集配車のほかに夜間に長距離を走る幹線輸送車があります。各社とも9割以上が下請けで、その下請け業者を “傭車” と呼びます。
 著者は佐川の傭車に同乗しました。荷物の積み下ろしまで傭車のドライバーの仕事です。
 関東のセンターで夕方から仕事開始、午後8時過ぎ出発し、関西の中継センターについたのは午前3時、仮眠をとって午後4時から荷物を積み込み、8時に出発し関東の営業所で荷物を降ろし終えたのは翌日午前6時過ぎです。3日にまたがる拘束時間34時間で、労働時間 (休息を含む) は26時間です。
 これに対して佐川が下請け業者に支払う運賃は16万円です。下請会社は軽油代、高速料金代、車両の償却費、保険代を負担します。ドライバーの平均賃金は約25万円で、20年前と比べると半分ほどの水準になっています。


 国土交通省が2013年に発表した資料では、全産業平均の月収が31万円であるのに対し、トラック事業の平均は29万円台でした。年収は416万円で50万円以上の開きとなっています。
 労働時間に関しては、全産業平均が1700時間台ですが (この数字にはからくりがあります)、トラック事業は2200時間台です。
 年齢別労働人口では、全産業平均では29歳以下が18%を占めていますが、大型トラックのドライバーは3%台です。若者層に避けられている業種です。対策は急務です。

 もう一つの宅配事業を行っている日本郵政では、郵便局内のゆうパック部門に 「奪還営業」 と大書した幟が立っているといいます。ヤマト運輸からの荷物の奪還です。


 ヤマトの1人の配達員の労働実態が報告されています。労働時間の事態は朝6時から積み込み作業をはじめ、終了は午後10時までになるといいます。しかし業務開始を記録する携帯の専用端末 〈PP (ポータブル・ポス) 端末〉 を立ち上げるのは8時以降と決められています。午後9時20分前後に再配達を終了したら締めます。しかしその後の作業が残っています。昼食は、車を停めてとる時間がないのが現状で、運転したままでとることもあります。
 端末を立ち上げる前と締めた後、お昼の1時間はサービス残業です。サービス残業だけで月60時間に及びます。これらは、会社が厚労省などの調査で報告する記録上の残業時間には含まれません。運輸業界の長時間労働の実態は隠されています。
 サービス残業ではない通常の残業は1日4時間以上で、月80時間です。実際の残業時間は月140時間です。これで残業代や諸手当を含めた賃金は額面で約30万円です。
 2007年から労働者の残業時間の上限を決めた 〈計画労働時間制度〉 を導入しました。初年度の2008年3月期の総労働時間は2550時間でした。2015年3月期は2464時間です。この設定自体が異常です。
 賃金体系は、基本給と残業代、それにどれくらい荷物を集荷配達したかによって支払われる業務インセンティブの3本柱になっています。業務インセンティブは賃金全体の60%から80%を占めます。
 総労働時間に近づくと期末には仕事ができません。業務インセンティブの手当が期待できなくなります。このことがサービス残業を温存する原因にもなっています。

 佐川急便の中小型トラックでのセールス・ドライバーの平均年収は385万円で、大型トラックのドライバーとの年収の差は80万円以上になっています。


 ではトラック労働者の労働条件を向上させるためにはどうしたらいいでしょうか。
 1つとしては、今は時間指定の荷物とそうでないのと同額ですが時間指定の場合は追加料金を徴収すべきだと提案されています。特に夜間の指定に対しては当然です。
 しかし顧客がセンターに荷物を持ち込むと、時間指定を半強制的に記載されます。これではセンターが労働強化を積極的に進めていることになります。

 1個当たりの運賃が250円以下になるとどのように工夫しても利益がでない構造がありといいます。
 アマゾンや楽天をはじめとするネット通販事業者は配送無料をうたって販売促進をしています。誰が送料を負担しているのでしょうか。
 多口顧客として配送会社にダンピングを強制し、そのしわ寄せは労働者にきます。労働の価値を認めず、労働者を愚弄するものです。誰かを犠牲にした経済活動はまともとは言えず、社会正義に反します。
 またネット通販事業者負担というのなら送料は商品に含まれているということです。消費者は騙されています。
 アマゾンは書籍販売で街の書店の経営を脅かしています。その結果街から書店が消え、消費者は不自由を強いられてもいます。
 無料配送、サービス過多は労働の価値を低め、労働者同士の思いやりを奪います。社会秩序を破壊しています。
 営業シェアが飽和状態になり 「奪還営業」 が不可能になった時点で今のシステムは崩壊します。その前に無理なサービスはまた事故を発生させる危険性があります。配送労働者の生活がネット通販事業者の犠牲になる必要はありません。
 国交相は、配送無料の広告を禁止し、運賃適正化を推進する必要があります。
 そのことが長時間労働を削減し、労働条件を改善し、労働力不足を解消する早道です。

 労働者がお互いの労働を理解し、尊重し合う関係性、あたりまえの社会秩序を作り上げていくことが必要です。

  当センター「いじめメンタルヘルス労働者支援センター」ホームページ・ご相談はこちらから
この記事のURL | 長時間労働問題 | ▲ top
| メイン |