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「職場ドック」 は参加型職場環境改善活動
2015/10/02(Fri)
 10月2日(金)

 前回報告した勉強会では職場の労働安全衛生もテーマでした。

 予防医学は、病気を予防するだけでなく疾病予防、障害予防、寿命の延長、身体的・精神的健康の増進を目的として一次予防、二次予防、三次予防があります。
 一次予防は、生活習慣の改善、生活環境の改善、健康教育による健康増進を図ることなどです。二次予防は、発生した疾病や障害を検診などにより早期に発見し、早期に治療や保健指導などの対策を行ない、疾病や傷害の重症化を予防することです。三次予防は、治療の過程において保健指導やリハビリテーション等による機能回復を図るなど、社会復帰を支援し、再発を予防することをいいます。
 わかりやすく言うなら一次予防は 「職場ドック」、二次予防は 「人間ドック」。対象が職場環境か、労働者個人かということです。
その対策の遂行は順序が大切です。職場のストレッサーの除去なしに労働者のストレスの軽減はないからです。荒井千暁医師は、著書 『職場はなぜ壊れるのか-産業医が見た人間関係の病理-』 (ちくま新書) で 「労働衛生の3管理」 を取り上げています。
「労働者が健康を害さないよう措置を取る 『労働衛生の3管理』 とは何か。
 『作業環境管理、作業管理、健康管理』 で、これについては順序が大切です。
 労働組合はこのことをもう一度自覚する必要があります。『作業環境管理、作業管理』 を抜きにして 『健康管理』 はありえません。」

 しかし、現在のメンタルヘルス対策は 「健康管理」 だけが問題にされています。
 例えば、2013年に厚労省は、「第12次労働災害防止計画」 を発表いました。その中のメンタルヘルス不調予防のための職場環境改善の取り組みについてです。
「メンタルヘルス不調者を増やさないためには、労働者自身によるセルフケアをはじめ、管理監督者や産業保健スタッフによるケアなどにより、メンタルヘルス不調者の早期発見・早期治療を進めるとともに、メンタルヘルス不調になりにくい職場環境に改善していくことが必要である」
 「セルフケア」 が最初です。安全衛生は労働者個人の責任だと言わんばかりで、使用者の対策は免罪されてしまいます。
 「メンタルヘルス不調者を増やさないために」 「メンタルヘルス不調者の早期発見」 などという論理展開の提案は理解不可能です。


 一次予防の 「職場ドック」 とは、具体的にはどのようなことをいうのでしょうか。
 職業性ストレスに関連する多領域の要因について、職場環境や働き方の改善手法を、産業保健スタッフ目線のアプローチで容易化したものです。計画 (Plan) から実施 (Do)、見直し (Check)、継続改善的方針の確認 (Act) までのPDCAステップを職場に合わせて展開できるよう、わかりやすく、実施しやすく開発されました。

 その詳細は省略して、「職場ドック」 の名称を最初に使って取り組んだ高知県庁を紹介します。
 2012年12月13日付の産経新聞に 「高知県庁の 『職場ドック』 模様替え・席替えで効率アップ」 の見出し記事が載りました。切り抜きをとっていました。

 職場の席替えや資料の整理整頓でコミュニケーションが活発になり、仕事効率がアップ-。高知県庁 (高知市) が年に1度、全庁挙げて職場環境の改善に取り組んでいる。その名も 「職場ドック」。会議改革やテニス大会開催など職場のストレスを軽減するさまざまな取り組みも実施。昨年度は228件の改善例が報告され、8割の職員が 「良かった」 と評価。人事院や北海道庁などから問い合わせが相次ぐなど注目されている。
  意思疎通スムーズ
 「職場ドック」 は、高知県総務部職員厚生課の産業医、杉原由紀さんらが企画。職場でのストレス軽減には、メンタルヘルス研修などで個々人に対応するだけでなく、組織全体にアプローチする必要がある、と考案された。「人間ドックを受けて健康管理を行うように、毎年、自分たちの職場をみんなで点検して、ストレスをなくし、働きやすい環境へと改善してほしい」 と杉原さん。
 平成22年度に2つの職場で実験的にモデル事業を行い、23年度に全職場へと拡大させた。

 「職場ドック」 実施の手順はまず、年度始めの春に各職場でリーダーを選出、「情報の共有化」 「執務内環境の整備」 など6種類あるチェックリストを基に職員たちと確認作業を行い、優先的に取り組む内容を洗い出す。夏から秋にかけて実際に改善に取り組み、改善例を報告。優れた職場ドックを行った職場が表彰される。それらを改善事例集として冊子にまとめ、参考資料として各職場に配布している。
 昨年度の大賞は総務部統計課。部屋の出入り口にあった書架が職場全体の見通しを悪くしており、車椅子の職員が通りにくそうだった。「地震で倒れたら危ない」 との危機感もあり、昨年8月、書架を壁側に移動、隣接する書架と専用金具で連結固定した。
 さらに、壁側の段ボールや資料、備品などを片付け、来客対応のテーブルを配置。それぞれの机の上に置かれていた2段の書棚も1段に減らしたことで、向かい合わせに座る職員の顔が見え、意思疎通がスムーズになったという。
 同課長補佐の隅田孝雄さんは 「不便だと感じていてもなかなか取り組めなかったレイアウトの変更など、思いきって取り組むことができました。仕事の効率も上がりました」 と話す。

  メンタルヘルス
 土木部幡多土木事務所土佐清水事務所(高知県土佐清水市)では、道路担当の2班の席が2つの島に分かれていた。「互いの業務を把握しきれていない」との声があり、2班の職員の机を向かい合わせた配置に変更し、これまで一番端にあった入庁2年目の若手技師の席を先輩たちの真ん中にした。
 リーダーを務めた主査の森田仁さんは 「若手を交えて話し合う機会が増え、人材育成の意味でも有意義です」と 話す。
 職場ドックは、模様替えや席替えなどの環境改善にとどまらない。ノー残業デーを利用したテニスで、職員のコミュニケーションを促進したり、会議の前にポイントや所要時間を宣言し、効率化を図ったり。
 杉原さんは 「ちょっとしたアイデアと工夫を出し合い、できることから取り組んでいくことが大切。ストレスが少なく、働きやすい、やりがいのある職場になることでメンタルヘルス対策にもつながる」。
 公益財団法人・労働科学研究所の吉川徹副所長は 「職場ドックというネーミングも面白く、職場のみんなが討議して無理のない所から取り組む点が評価できる。国際的に見ても新しいメンタルヘルス対策の取り組みだ」 と話している。


 労働科学研究所の機関誌 『労働の科学』 2014年10月号は 「『職場ドック』 のちから――新しいメンタルヘルス改善のプログラム」 を特集しました。その中では高知県庁の取り組み報告も載っています。

 高知県庁は、2007年度から「心とからだの健康づくり計画」を策定し、研修や相談事業、職場復帰支援制度の充実など、さまざまな対策に取り組んできましたが、担当者は、これまでの取り組みは、個人へのアプローチが中心でした。メンタルヘルス不調の要因としては、働き方や職場環境が原因と考えられたり、その悪化要因に関連しているケースもありますが、対策が難しいのが現状であり、今後は組織へのアプローチが必要ではないかと考えたといいます。そしてストレスが少ない働きやすい職場づくりを目指し、職場のメンタルヘルス対策としての職員参加型の職場環境改善事業に取り組むことにしました

 取り組みやすい6つの項目を盛り込んだ 「メンタルヘルス アクションチェックリスト」を 作成しました。
 A.ミーティング・情報の共有化  具体的な改善の視点 業務量の配分なども含む
 B.on(仕事)・off(休み)のバランス  具体的な改善の視点 ノー残業デーなどの目標、
  休日・休憩時間の確保など
 C.仕事のしやすさ  具体的な改善の視点 レイアウトや動線の改善、書類等の保管方法、
  ミスや事故の防止
 D.執務内環境の整備  具体的な改善の視点 空調環境・視環境・音環境、受動喫煙の
  防止、休養設備、緊急時対応
 E.職場内の相互支援  具体的な改善の視点 相談しやすさ、チームワークづくり、職場
  間の相互支援
 F.安心できる職場の仕組み  具体的な改善の視点 セルフケアの推進、スキルアップの
  研修、相談窓口、職場の設備や環境の整備
です。

 「チェックリスト」 と合わせて、個人用ワークシート、グループ討論用ワークシート、改善事例シートが作成されていて、これらを用いて職場ごとにグループ討論し、改善計画をたて、それぞれ環境の改善に取り組みました。
 ここで配慮したのは、まず自分たちの職場の良い点を職場で共有することで、次に改善点を 「働きにくさはどこにあるか」 「どこを改善すれば働きやすくなるか」 「そのために自分達でどんなことができるのか」 といった視点で話し合い、できることから、特に簡単で手軽にできることから楽しみながら取り組んでいくということでした

 継続するための工夫としては、各職場からさまざまな声がある中、まずはやってみる、楽しみながら、今ある資源でできることからをポイントにして取り組みを進めるため、マニュアルには、「職場ドックを成功させるための6か条」 を盛り込みました。6か条は
 ・職員の集め方、場の持ち方はその職場にあった方法で (チーム会やチーフ会)
 ・リーダーを決めると良い
 ・管理職はオブザーバー的存在で温かく見守って
 ・簡単に、手軽にできるところから始める
 ・楽しみながらやるとアイディアも出やすい
 ・やる前からあきらめは禁物
です。

 新聞記事に載った以外の取り組みの成果です。
 改善策を出して職場環境の改善を行うことは、職場巡視や上司からの改善命令でも行うことができますが、チェックリストを用いてグループ討論を行うことにより、「ちょっとしたことだが、普段言いにくいこと」 や 「気にはなるが、あえて言うほどでもないこと」 などを出し合い、お互いが職場のことについてどう考えているかの理解が深まることにより、職場内でのコミュニケーションの活性化につながっていきました。
 ストレス要因を各職場で解決することからストレスの少なく働きやすい職場をつくる仕組みづくりのツールとなります
 長期病休者数も若干ですが、横ばいから減少傾向にあるといいます


 北海道庁でも全職員を対象にしたメンタルヘルスのための職場環境改善事業として職場ドックを2012年度から取り組みを開始しました。
 現在は、職員用イントラネット上に作成した 「職場ドック」 ホームページに映像化した職場ドックの具体的すすめ方のビデオ、「職場ドックマニュアル」 と成果報告集との3点セットでいつも閲覧できるように整備されています。

 職場ドックをすすめるうえで重要なことは、「改善」 について特別な知識や技術を持たなくても、誰もが参加して実施できるという、「参加型の職場環境改善」 だということです。
 グループワークは少人数 (最大で5名程度) のグループごとに意見交換をします。活発な意見交換のコツは、抱える課題や弱みから始めるよりも、参加者や職場での成果や強み、良い点から討論し、それから改善点を討論していくポジティブな思考です。

 このほか、京都府などでも取り組まれています。
 参加型職場環境改善に取り組んだ事業場へのインタビューでは様々な変化が確認されたといいます。
 労働者の変化としては、労働者は、当事者として参加することで、安全や健康に対する意識の向上や参加型アプローチに対する肯定的な理解、自主的に行動する力の獲得という意識や行動レベルでの変化が生じました
 推進者は、安全や健康の基本的な知識を得たり、意識が向上するといった変化よりも、職場のリスクを常日頃から把握し、適切な対策をとることの重要性への気づきといった意識・行動面の変化が生じました
 職場組織全体の変化としては、職場全体の雰囲気の肯定的な変化、相互理解とコミュニケーションの促進、職場全体の一体感と結束力の強化、職場全体への取り組みの浸透と拡大がみられました

 職場の労働安全衛生は、みんなで取り組むと労働者の視点から問題が提起され、納得できる対策がとられて成果も大きいです。


  当センター「いじめメンタルヘルス労働者支援センター」ホームページ・ご相談はこちらから 
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