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「戦争の後」 20%以上の精神的な障害者を生み出している
2015/05/19(Tue)
 5月19日 (火)

 5月14日、安倍首相は新たな安全保障関連法案を閣議決定した後の記者会見で、隊員が死亡するリスクが高まると指摘された質問に対し、「まるで今まで殉職した隊員がいないかのように思っている方もいるかもしれないが、1,800人が殉職している。私も遺族とお目にかかっており、殉職者が全く出ない状況を何とか実現したい」 と語りました。
 何を言いたかったのでしょうか。これまでにも死者は出ていると言いたかったのなら軽すぎる発言です。逆に 「戦後も国に命を捧げた者が1,800人いる、お前らも捧げろ」 とでも言いたかったのでしょうか。

 防衛省が発表している1950年にGHQの指令で警察予備隊が発足してからの殉職者数は、今年3月末現在で1,874人です。(いつも疑問に思うのは、現憲法がGHQからの押し付けだから作り直しが必要だという人たちは、同じくGHQ指令で発足した自衛隊の解体をなぜ主張しないのでしょうか)
 しかし自衛隊の “体質” によってそこには含まれない隊員もたくさんいます。精神疾患に罹患していて自殺に至ると “原因不明” と判断されたり、いじめなどによる自殺の場合は業務外ということで原因究明されなかったりします。なにせ 「自衛隊では、『いじめ』 があったという例は極めて稀です」 なのです。(2011年4月4日の 「活動報告」 参照)
 PTSD (心的外傷後ストレス障害) は、軍隊において兵士が陥った体調不良から発見・研究・対策が進められてきたという経緯がありますが、旧日本軍そして新日本軍・自衛隊ではあまり関心が向けられていません。
 2011年2月2日の 「活動報告」 に書いた、海上自衛隊の護衛艦 「たちかぜ」 の乗務員がいじめが原因で自殺したことに対し、自衛隊は 「自殺の兆候を見せておらず、自殺は予見できなかった」 と主張していました。良心に苛まれた同僚の告発でいじめがあったことが組織ぐるみで隠ぺいされていたことが暴露されました。
 このようなことが起きるのは、1人ひとりの命は大切にされないという軍の体質を色濃く持っているからです。安倍首相の発言は、トータルとして1800人なのです。


 自衛隊が隊員の命を大切にしないことがもたらしたことについてです。
 1965年7月、陸上自衛隊八戸駐屯地の車輌整備工場に勤務していた27歳の隊員がバックしてきた大型自動車にひかれて即死しました。
 両親は、国家公務員災害補償法による補償金76万円を受け取っただけでした。
 後日、自衛隊の事故死者の遺族の集まりである遺族会の関係者から訴訟を起こせると聞き、事故から4年以上過ぎた1969年10月に損害賠償訴訟を起こしました。
 1審、2審とも不法行為による請求権は時効が成立していると退けられました。しかし1975年2月25日、最高裁は1審、2審の判決を退けました。
「国は、公務員に対し、国が公務遂行のため設置すべき場所、施設もしくは器具等の設置管理又は、公務員が国もしくは上司の指示のもとに遂行する公務の管理にあたって、公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務 (以下 「安全配慮義務」 という) を負っているものと解すべきである」
 その法的根拠です。
「安全配慮義務は、ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務として一般的に認められるべきものであって、国と公務員との間においても別異に解すべき論拠はない」

 自衛隊が安全配慮義務を怠ったことは、債権債務関係における債務の実行を怠ったという判断です。そして債務不履行に対する時効は10年なので損害賠償請求できるという判断で請求を認めました。
 このあと判例が積み重ねられて現在の 「使用者の安全配慮義務」 が確立し、さらに時効が10年の債務不履行での損害賠償訴訟の道を開きました。
 それにしても、他者からの加害による死亡事故が単なる公務災害扱いとは余りにも人命が軽すぎます。


 自衛隊は不思議な組織です。
 2012年7月13日の 「活動報告」 に書きましたが、1992年、自衛隊を海外派兵するPKO法案が国会で審議されていた時、国会周辺は連日人であふれました。当時の社会党などが会期期限切れ廃案をめざして行使した 「牛歩戦術」 を、法案を通したらさらに進められるであろう軍事力強化政策、再度の軍隊による海外侵略、そして徴兵制を1分1秒でも遅らせる、そして政策を後退させたいという思いで国会前に通いました。
 この時自衛隊は人びとから包囲されていました。

 それから3年経った1995年の阪神淡路大震災で自衛隊は “市民権” を獲得します。神戸市長が3月31日をもってボランティアを追放した後、1年間、神戸に常駐したのです。三ノ宮駅前の歩道橋には 「自衛隊のみなさんありがとう」 と大書きした横断幕がずっと飾られていました。自衛官への応募者も増えました。
 しかし、こんなに長く基地を空けることができるということは閑なんだなと思いました。アメリカなどでは、災害支援などへの緊急出動は本来の任務ではないので長くて2週間です。それ以上基地を空にすることはしません。
 自衛隊の災害救援・支援は、組織強化のための隠れ蓑に利用されています。二足のわらじはそもそもおかしいです。

 東日本大震災でも一時期最大10万人の自衛官が基地を離れました。
「12日の段階で沿岸部の浸水被害地区では自衛隊や警察も活動を行っていた。しかし現場レベルでの調整は難しく、それぞれ独自に活動していたのだ。単独で活動していても成果は薄い。3日目にようやく (仙台市消防局警防部警防課) 大久保主幹が市災害対策本部内で警察や自衛隊との調整を試みる。警察も自衛隊も 『消防の指揮下に入る。何でもいってくれ』 とすぐに応えてくれた。仙台市消防局に緊急消防援助隊、そして警察、自衛隊による混成チームとなり、ローラー捜索作戦もスピードを増した。」 (『ドキュメント 東日本大震災 救助の最前線で レスキュー編』 イカロス出版)
 愛知県防災航空隊による12日から4日頃の救助活動です。
「救援活動現場の上空で、数多くの救難ヘリと遭遇したのも、初めての経験だった。……
『サーチ アンド レスキュウの最中に一度、アスコット (U‐125A・航空自衛隊の捜査機) から無線で呼びかけられた。おそらくUH‐60 (航空自衛隊の救難へり) が活動している空域に我々が入っていったからだと思うが、悪いが対応しなかった。我々には我々のミッションがあり、それを自衛隊の統制下で行なえという命令は受けていないからだ』」 (『ドキュメント 東日本大震災 救助の最前線で レスキュー編』)
 自衛隊は消防本部の指揮下で活動していました。この 「実績」 を踏まえ、そのまま消防庁指揮下の災害救援隊に衣替えすればよかったのです。それ以外は解体すればいいと今も本気で思っています。

 さて、東日本大震災において2人の被災地派遣の幹部自衛官が自殺しています。
 2011年10月22日付のJCASTニュースです。
「被災地派遣の幹部自衛官、相次ぎ自殺
 『丁寧なメンタルケアが必要』 の声
 新潟県上越市の自衛隊宿舎で、陸上自衛隊の連隊長を務める52歳の1等陸佐が自殺しているのが2011年10月19日発見された。理由は不明だが、この1等陸佐は福島県の被災地で、人命救助や行方不明者の捜索の指揮を取っていた。18日にも、やはり被災地に派遣されていた青森県青森市の3等陸佐が自殺している。いずれも幹部自衛官だ。
 今回の震災では最大10万人の自衛官が、被災地で過酷な救助、捜索の任務に当たった。以前にはイラクに派遣された自衛官に自殺者が急増して問題となったが、今回の震災では大丈夫なのか。」
 はたしてこの2人は殉職者に含まれているのでしょうか。自宅での自死は個人的問題として片づけられることが多くあります。
 「『丁寧なメンタルケアが必要』 の声」 とありますが、自衛隊ではどのようなメンタルヘルスケアが行われたのでしょうか。漏れ聞こえてくるところでは充分なものとは言えません。それは 「命」 が大切にされていないということでもあります。

 そして、東日本大震災を通じて、自衛隊は 「国民」 を守るという言い方がされはじめました。それまでは 「国」 です。災害と戦争、被災者と国があいまいにされたまま (わざとしたまま) 自衛隊は 「市民権」 を獲得していきます。
 さらに最近は 「国民の財産」 を守ると言い始めています。海外派兵で 「国民の財産」 とはなんでしょうか。もしかしたら石油危機が生じた時などの 「株価」 なのではないでしょうか。
 軍隊は国民を守りません。これは満州でも、沖縄でも体験した歴史的事実です。


 ついでに 「イラクに派遣された自衛官に自殺者が急増」 についてです。
 この問題については、これまで新聞などで何度も取り上げられ、国会においても「質問趣意書」が提出されています。(ホームページ → 「こころのケア」 → 「軍隊の惨事ストレス対策」 参照)
 この問題は日本だけではありません。
 2012年8月7日の 『Newsweek』 日本版に、作家のアンソニー・スウォフォードの 「アメリカ 『帰還後に自殺する若き米兵の叫び』 の見出し記事が載りました。
「アメリカでは毎日18人前後の元兵士が自ら命を絶っている。アフガニスタンとイラクからの帰還兵だけでも自殺者は数千人にも上り、戦闘中の死者数 (6,460人) を上回るとみられている。」
 2014年7月4日の 「活動報告」 で紹介しましたが、イタリアの作家、パオロ・ジョルダーノの 『兵士たちの肉体』 (早川書房 2013年邦訳刊) はアフガニスタンに派遣されたイタリア軍が戦闘に巻き込まれた2011年9月23日の西部ヘラートでの戦闘などを下敷にしたフィクションです。ここでも多くの精神疾患に罹患した多くの兵士が登場しています。
 アメリカをはじめとしてベトナム戦争帰還兵が陥っている状況、被った被害が無視されています。


 安倍政権が新たな安全保障関連法案の準備を始めていた今年の3月頃、本屋ではディヴィッド・フィンケル著 『帰還兵はなぜ自殺するのか』 (亜紀書房) が平積みされていました。現在は第3版になっています。
 イラクに派兵された米兵の “その後” が16章に分けて語られています。その後には家族のもとに正装した上級の軍人が訪れた、つまりは死亡の報告に来た例もあります。負傷の場合は電話連絡、重症の場合は通常の軍服を着た兵士が訪れるのだそうです。
 第1章を紹介します。
「サスキアがそう言うのは、アダムが戦争に行く前の状態に必ず戻るという希望を抱いているからだ。こうなったのはアダムのせいというわけではない。彼のせいではなかった。彼は恢復したがっていないわけではない。恢復したいと思っている。しかし別の日には、死んだほうがましだという気がする。アダムに限ったことではない。アダムと共に戦争に行ったあらゆる兵士たち――小隊30人、中隊120人、大隊800人――は、元気な者ですら、程度の差はあれ、どこか壊れて帰ってきた。アダムと行動を共にした兵士のひとりは、『悪霊のようなものに取りつかれずに帰ってきた者はひとりもいないと思う。その悪霊は動き出すチャンスをねらっているんだ』 と言う。
『助けがどうしても必要だ』 2年間、寝汗とパニックの発作に苦しんだ兵士はこう言う。
『ひっきりなしに悪夢を見るし、怒りが爆発する。外に出るたびに、そこにいる全員が何をしているのか気になってしょうがない』 と別の兵士は言う。
『気が滅入ってどうしようもない。歯が抜け落ちる夢を見る』 と言う者もいる。
『家で襲撃を受けるんだ』 別の兵士が言う。『家でくつろいでいると、イラク人が襲撃してくる。そういうふうに現れる。不気味な夢だよ』
『2年以上も経つのに、まだ夫は私を殴ってる』ある兵士の妻が言う。『髪が抜け落ちたわ。顔には噛まれた傷がある。土曜日に、お前は最低のクソ女だと怒鳴られた。夫が欲しがっていたテレビをわたしが見つけられなかったからよ』
 いたって体調がよさそうに見える兵士は、『妻が言うには、ぼくは毎晩寝ているときに悲鳴をあげているそうだ』 と言ったあとで困ったように笑い、『でも、それ以外は何の問題もない』 と言う。
 しかしほかの兵士たちと同じように、途方に暮れているように見える。
『あの日々のことを、死んでいった仲間のことを、俺たちがやったことを考えない日は1日たりともない』 とある兵士は言う。『しかし、人生は進んでいく』」
 帰還兵はこのような状態におかれています。

「ひとつの戦争から別の戦争へと。2百万のアメリカ人がイラクとアフガニスタンの戦争に派遣された。そして帰還したいま、その大半の者は、自分たちは精神的にも肉体的にも健康だと述べる。彼らは前へと進む。彼らの戦争は遠ざかっていく。戦争体験などものともしない者もいる。しかしその一方で、戦争から逃れられない者もいる。調査によれば、2百万人の帰還兵のうち20パーセントから30パーセントにあたる人々が、心的外傷後ストレス障害 (PTSD)――ある種の恐怖を味わうことで誘発される精神的な障害――や、外傷性脳損傷 (TBI)――外部から強烈な衝撃を与えられた脳が頭蓋の内側とぶつかり、心理的な障害を引き起こす――を負っている。気鬱、不安、悪夢、記憶障害、人格変化、自殺願望。どの戦争にも必ず 『戦争の後』 があり、イラクとアフガニスタンの戦争にも戦争の後がある。それが生み出したのは、精神的な障害を負った50万人の元兵士だった。」

 ベトナム帰還兵にとってベトナム戦争はまだ終わっていません。イラクからの帰還兵にとっては真っ最中です。米軍は米兵を殺し、負傷させています。しかし政府は兵士等の要求で多少の補償をしても大きな関心は示しません。だから過ちが繰り返されています。
 過ちを繰り返さないためには、戦争を生み出さない社会を作りあげることが必要です。

 しょっちゅう安倍首相は100人単位の商人・商社マンを引き連れて海外を訪問しています。それでも軍事力を強化するということは、海外訪問が外交になっていないということです。
 100人単位の商人で原発を売り込み、兵器を売り込みに行っています。死の商人です。そのためにはまず製造国がそれらを保持しなければならないということのようです。
 民間を含めて本物の外交による軍事力の軽減を目指すことが必要です。
 それが平和に、安心して生きるための本物の 「安全保障」 です。

   関連:「軍隊の惨事ストレス対策」
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