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東日本大震災から4年後のイシノマキ
2015/05/29(Fri)
 5月29日 (金)

 5月25日から、東京で演劇 「復興支援舞台 イシノマキにいた時間」 が上演されました。
 これまでに全国30か所で上演されて好評でした。6月には北九州でも予定されています。

 登場人物は3人です。
 チラシの 「~あらすじ~」 です。
「東日本大震災後、石巻で活躍する小さなボランティア団体 「take action」 の代表、宮川廣貴 (ヒロキ) は震災後すぐ石巻でボランティア活動をはじめた。実家が工務店の安田幸一郎 (ヤス) はゴールデンウィークにやってきてから長期の活動を続け、フリーターの飯田人志 (ヒトシ) はバイトを辞める度に石巻にやってきた。飯田のように、何度も石巻にやってくるボランティアは 『カムバック組』 と呼ばれていた。
 2011年が終わる頃 『いつまで? どんな支援を? 誰のために?』 被災地に残っているからこそ答えが出ない葛藤が生まれていた。そして今日も悩みながらも、朝からテンションの高いヒロキと、ことごとく普通なテンションのヤスのボランティア活動が始まり、ヒトシはバイトを辞めて、また石巻に戻ってきた。」

 時期は東日本大震災から8か月後、夏休みにはボランティアはたくさん来ましたが少しずつ減っていました。泥かきの作業がまだ残っていた頃です。
 ボランティアは長期間滞在するとリーダー的存在になり、新たに参加したメンバーに指揮する任務も出てきます。被災者とも親しくなりいろいろな交流をします。その土地に愛着が生まれてきます。被災者と一緒の行動をとる人も出てきます。
 ヒトシは仮設住宅に新聞を配る任務に就きます。回って話を聞いているとたくさんの被災者からお茶や食事を勧められます。ボランティアが被災者から食事をごちそうになっていると陰口をたたかれますが本当は無理して付き合っていたのでした。
 ヒロキは、漁業の被災者の手伝いをするうちに船に乗って漁に出ます。ヤスはボランティアはそこまでするのはやり過ぎだと説教します。しかしヒロキは漁師と同じことをしたいと主張します。2人は対立し、ヒロキは故郷に戻ります。
 「take action」 を取材したいという連絡がNHKからきます。帰郷したヒロキが同級生だった記者に被災地の大変さと支援が必要だということを全国に知らせてほしいと必死に訴えたのでした。

 舞台の最後に、今年3月21日にやっと全線開通したJR石巻線の列車が登場します。このことに象徴されるような状況が4年後の復興の現実です。
 出演している3人の体験と思いと期待があちこちに取り入れられていると思われます。


 曇り空をバックに、大地にスコップが突き刺されている写真のチラシには真ん中に
  「流れていた時間は
   楽しく、温かく、悲しかった。
   そして、今、
   時間はゆっくり流れている。」
とあります。忘れてはいけないこと、今に引き付けて語り継がれなければならないと訴えています。
 北九州用のチラシにはサブタイトルが 「~震災から4年が過ぎ、何が変わって、何が変わらずにいるのか~」 とあります。


 ボランティアとは何かが1つのテーマになっています。
 阪神淡路大震災にボランティアに行った時に一緒だったボランティア仲間と後日話をしたことがありました。被災者ではない、行政ではない、三角形のもう1つの頂点という結論になりました。非常時に被災者が困難に遭遇して支援を必要としているが、行政の力量を超えていて行き届かない時に被災者の側に立って行政のフォローをする役割だと位置づけです。
 ボランティアは被災者とは距離を保ちます。被災者の依存が強くなると自立できなくなるからです。しかしこの三角形の関係のなかで実際に見えてきたのは、行政の被災者への対応の無慈悲さでした。街の復興とはコンクリートと経済のことで、そこには人間が存在しませんでした。

 大勢の若者が鑑賞していました。石巻はピースボートが拠点を作って今も活動を続けていますが、そこを経由してボランティア活動に参加した人たちだと思われます。観客席の笑いと、涙と、頷きは1人ひとりに現地での活動を再現させていたからです。


 5月30日に、仙石線が全線開通します。
 ボランティアが仙台を経由して石巻に向かうのに代行バスに乗り換える必要がなくなりました。いろいろな問題を含みながらもやっとここまでです。


 宮城県がパンフレット 「みやぎ・復興の歩み4 2011.3.11-2015.3.11 ココロアルバム」 を作製しました。その中からです。
「東日本大震災の概況
 人的被害  死者10,530人 行方不明者1,255人 (死者のうち909人が関連死)
 住宅被害  全壊 82,993棟 半壊 155,126棟
 避難状況 (平成23年12月30日 県内の全避難所が閉鎖)
  ピーク時 (平成23年3月14日) 1,183施設 (35市町村) 320,885人
  応急仮設住宅入居者 35,332人
  民間賃貸借上住宅入居者 32,503人
  県外避難者 7,458人
 被災額の概要  計9兆2,223億円

 復興の進捗状況
  災害公営住宅  事計画戸数15,484戸 (H27.1.3現在)
  業着手戸数 13,487戸 (H27.1.31現在) 着手率約87%
  完成戸数  2,692戸 (H27.1.31現在) 完成率約17%」

 石巻エリアについてです。震災時は17万の人口をかかえていました。
「人的被害 死者5,284人 行方不明者714人 (H27.1.31現在) 
 住宅被害 全壊 28,475棟 半壊 18,953棟 (H27.1.31現在)
 応急仮設住宅入居者  プレハブ住宅 17,330人 (H27.1.31現在)
 民間賃貸借上住宅入居者 8,739人 (H27.1.31現在)

 復興の進捗状況
  災害公営住宅  計画戸数5,928戸 (H27.2.28現在)
  事業着手戸数 4,450戸 (H27.2.28現在) 着手率75%
  完成戸数 976戸 (H27.2.28現在) 完成率16.5%」

 これらの数字は大きいでしょうか、小さいでしょうか。オリンピックに労働力と資材と資金が奪われなかったらもっと大きくなっていました。

「宮城県への支援状況
 活動ボランティア延べ人数 71万167人 (H23.3.12~H26.12.31)
 他都道府県などからの人的支援 宮城県 380人 (H27.1.1現在) 市町村986人 (H27.1.1現在)
 寄付金  県内の災害復旧および復興事業の財源に活用
    12,454件 339億684万円 (H26.12.31現在)
 義援金  被災された方々に対する生活支援のために活用
    197,875件 265億9,439万6千円 (H26.12.31現在)
 政府および義援金受付団体からの配分状況
    1,8217億2,079万9,880円 (H27.2.28現在)
 東日本大震災みやぎこども育英募金  東日本大震災による震災孤児などのために活用
    11,281件 82億1,639万7,000円 (H26.12.31現在)」

 これらは一端でしかありません。直接被災者や学校・団体に届けられたのもたくさんあります。


 まだまだ支援が必要です。
 しかし支援とは金や物だけではありません。
 震災直後のラジオで、爆笑問題の太田光は 「何もできないと思うことは、思うことで支援をしている」 と言っていました。被災地のことを忘れないことが大きな支援です。


 2012年1月16日の 「活動報告」 の再録です。

    あ り が と が す

             高橋 悦郎

  だらだらの汗 日焼けした顔
  泥まみれの作業服
  おめえ様とすれちがう時
  おらは目頭が熱くなるちゃ
  宿舎にもどっていくおめえさまの背中に向かい
  おれは心の中で最敬礼するのしゃ
  おめえ様は仕事だからと実に恰好いい
  おめえ様にも緑豊かな古里があり
  心やさしい家族が待っているべ
  ほんでも もうちょっとだけ
  おらに力を貸してけねが
  おらも精一杯努力すっから
  必ず夜の次には朝がきて
  泣いたあとには笑うときがくるちゃ
  この前テレビでどこかのばあちゃんが
  ありがとがすと何回も頭を下げていたのしゃ
  おらも同じだ
  ありがとがす ありがとがす ありがとがす
  おらも精一杯努力すっから
  ありがとがす

     (河北新報社の復興支援企画 詩集 「ありがとう」 から)


 6月下旬に2日間、こころのボランティアで 「イシノマキにいた時間」 を体験してきます。

   「活動報告」 2015.3.24
   「活動報告」 2012.1.16
   「活動報告」 2011.3.24
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過労死防止のための 「労」 の責務は
2015/05/26(Tue)
 5月26日 (火)

 昨年6月20日に過労死防止対策推進法が成立したのを受け、昨年12月17日から過労死等防止対策推進協議会が開催されていました。そして5月25日の第5回で 「過労死等の防止のための対策に関する大綱 ~過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ~」 がまとめられ、現在、発表に向けた最終的調整が行われているようです。
 まだ (案) が付いていますが、公表されている 「大綱 (案)」 を検討してみると、これまで個別に取り扱われてきた長時間労働やストレス、メンタルヘルス対策などの問題を集約的に取りまとめたもので新しいものは見当たりません。課題として調査・研究が加わりましたが法制備の必要性のような問題には触れていません。
 しかし逆に、現在の労働現場で個別に取り扱われていた課題がこんなにたくさんあったということをあらためて思い知らせてくれます。

 「大綱 (案)」 から課題をもう一度整理してみます。
 「第2 現状と課題」 です。
「1 労働時間等の状況
 労働時間については、労働者1人当たりの年間総実労働時間は減少傾向で推移しているが、パートタイム労働者の割合の増加によるものと考えられ、一般労働者については2,000時間前後で高止まりしている (厚生労働省 「毎月勤労統計調査」 による。)。
 また、我が国は、欧州諸国と比較して、年平均労働時間が長い。さらに、時間外労働 (週に40時間以上) を行っている者の構成割合が高く、特に週に49時間以上働いている労働者の割合が高い (ILO 「ILOSTAT Database」 (日本は総務省 「労働力調査」) による。)。
 週の労働時間が60時間以上の者の割合は、全体では近年低下傾向で推移し、1割弱となっているが、働き盛りの30代男性では平成26年は17.0%と、以前より低下したものの高水準で推移している。平成26年の全産業の週60時間以上の就業者は566万人、うち雇用者は468万人である (総務省 「労働力調査」 による。)。」

 厚労省はこれまで年間総労働時間は、例えば13年では1.746時間と発表してきました。分母に非正規労働者を含めたものです。一般労働者だけでは平均年間時間外労働343.56時間を合わせると2.018時間です。しかも使用者への調査なのでサービス残業や労働時間の改ざん、管理職の時間外労働は含まれていません。この数字は隠されてきました。労働時間についての調査はもう1つ、ILO 「ILOSTAT Database」 が使用している総務省の 「労働力調査」 がありますが、日本政府が公表する時は1.746時間を1人歩きさせています。
 しかし、この間の労政審や今回の協議会では通用しなくなっています。やっと2.018時間で議論されるようになりました。今後はこの現実をふまえた検討が必要です。

 今回の検討会では、民間労働者の問題だけでなく、公務労働の実態についても報告が行われて議論されました。めずらしいことです。
「(2) 国家公務員の公務災害の状況
 一般職の国家公務員の公務災害について、過去10年程度では協議件数 (各府省等は、脳・心臓疾患、精神疾患等に係る公務上外認定を行うに当たっては、事前に人事院に協議を行うこととされており、その協議件数) は、脳・心臓疾患は、平成18年度に41件となっている以外は6件から25件の間で増減している。また、精神疾患等は、平成18年度に56件となっている以外は21件から44件の間で増減している。
 このうち、過去10年程度では公務災害の認定件数は、脳・心臓疾患は2件から15件の間で、精神疾患等は3件から17件の間でそれぞれ増減している。いずれも特定の年度の件数が突出しているほかは、特段の傾向は認められない。最近5年間の公務災害認定者の職種別構成比では、脳・心臓疾患は一般行政職が13件、公安職が3件、指定職が2件、医療職、研究職、その他がそれぞれ1件となっている。同様に、精神疾患等は一般行政職が22件、医療職が10件、公安職が8件、専門行政職が2件、福祉職が1件となっている。年齢別には、脳・心臓疾患は50歳代、40歳代の順に多く、精神疾患等は20歳代、30歳代が同数で最も多い。」

 この内容について、第2回の協議会で人事院から説明がありました。
 脳・心臓疾患について平成18年度 (2006年) が41件と多いのは、1つの原因として、それまでは脳・心臓疾患、精神疾患の申請についてそれぞれ各府省から人事院に遅いタイミングで協議がおこなわれて処理していたのを変更し、早いタイミングで相談して協議するようになったという要因があります。
 精神疾患で認定された件数の内容、業務負荷の累型別に件数を分類すると、「公務に関連する異常な出来事への遭遇」 の認定件数が19件です。具体的に一番多いのは看護師に対する患者又は患者の家族からの暴行です。その他では東日本大震災に遭遇です。
 「職場の暴力」 は官民とも深刻です。

 国家公務員の年間超過勤務時間数については、全組織で年間超過勤務時間数は237.7時間です。本府省と本府省以外に分けると、本府省が375.8時間で、本府省以外ではそれより少なくなっています。
 4月10日の「活動報告」で紹介した霞が関国家公務員労働組合共闘会議の調査結果とは大きな開きがあります。

「(3) 地方公務員の公務災害の状況
 地方公務員の公務災害の受理件数について、過去10年程度では、脳・心臓疾患は、平成23年度まで41件から58件の間で増減した後、平成24年度は26件、平成25年度は14件となっている。また、精神疾患等は、29件から66件の間で増減している。
このうち、過去10年程度では公務災害の認定件数は、脳・心臓疾患は9件から20件の間で増減しており、精神疾患等は平成17年度に20件に増加した後、平成25年度まで15件から22件の間で増減している。最近5年間の公務災害認定者の職種別構成比では、脳・心臓疾患は義務教育学校職員が19件、警察職員が17件、義務教育学校職員以外の教職員が8件、消防職員が4件、その他の職員 (一般職員等) が22件となっている。同様に、精神疾患等では義務教育学校職員が17件、義務教育学校以外の教職員が9件、消防職員が4件、警察職員が4件、その他の職員 (一般職員等) が49件等となっている。年齢別には、脳・心臓疾患は40歳代、50歳代、精神疾患等は40歳代、30歳代の順に多い。」

 これについても第2回の協議会で総務省から説明がありました。
 地方公務員の総数は、2013年4月1日現在で、47都道府県と1.700余の市町村で約275万人です。教育部門や警察部門も含まれます。
 地方公務員災害補償基金で公務災害の対象としているのは常勤の職員です。非常勤の職員は、地方公務員災害補償法第69条により、地方公共団体の条例で公務災害補償制度を定めることになっています。報告は地方公務員災害補償基金が取りまとめた常勤の職員についてです。非常勤職員についての数字はありません。
 脳・心臓疾患の受理件数が平成24年 (2012年)、25年度は例年と比べて少なくなっていることについては特段見当たるところがないということです。
 公務災害認定者の年齢別の構成は、脳・心臓疾患は40~49歳のグループが41.4%と最も高く、40代以降が全体の80%を占めています。精神疾患も40~49歳が一番多いですが、20、30代が全体の半分を占めています。脳・心臓疾患に比べ若年層の割合が高い傾向があります。
 脳・心臓疾患及の公務災害の職種別の構成比は、義務教育学校職員と義務教育学校以外の教育職員を合わせて27件38.5%です。精神疾患は、その他の職員49件57%と一番多くなっています。地方公務員の災害補償は、大きく9職種で分類していますが、その他の職員49件の職務内容で一番多いのは一般事務職です。その次が看護師で、この2つの職務が大半を占めております。

 超過勤務の時間数別の公務災害の認定件数です。脳・心臓疾患では、80時間以上120時間未満で48.6%です。精神疾患では、100時間以上の時間数の区分が100時間未満の時間数よりも件数が多い傾向になっております。
 業務負荷の類型別の認定件数については、異常な出来事への遭遇、仕事量 (勤務時間の長さ) が全体の過半数を占めています。「異常な出来事への遭遇」 は、救助活動の際に悲惨な現場に遭遇したことに起因して精神疾患等を発症した例などです。

 委員から、国家公務員、地方公務員の自殺者の統計があるかという質問がありました。
 一般職の国家公務員、林野現業も含む28万人ベースについては、自殺者は、平成21年度 (2009年) が68人、平成22年度が64人、平成23年度が58人、平成24年度が44人、平成25年度が59人です。
 地方公務員については統計・調査はしていないということです。


 国以外の主体が取り組む重点対策が盛り込まれています。
 その中の「2 事業主 (1) 経営幹部等の取組」です。
「過労死等の防止のためには、最高責任者・経営幹部が事業主として過労死等は発生させないという決意を持って関与し、先頭に立って、働き方改革、年次有給休暇の取得促進、メンタルヘルス対策、パワーハラスメントの予防・解決に向けた取組等を推進するよう努める。」
 これは2012年3月15日に発表された 「職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言」 の思考です。

 「3 労働組合等」 です。
「過労死等の防止のための対策は、職場においては第一義的に事業主が取り組むものであるが、労働組合においても、労使が協力した取組を行うよう努めるほか、組合員に対する周知・啓発や良好な職場の雰囲気作り等に取り組むよう努める。また、労働組合及び過半数代表者は、この大綱の趣旨を踏まえた協定又は決議を行うよう努める。」

 第3回協議会に提出された 「大綱 (案) 骨子」 では、
「(2) 労使の取組
 ○労使は、それぞれの職場で過死等防止対策が浸透するよう取り組む
 ○過労死等の防止ためには、使が 過労死等の防止ためには、使が 協力 して取り組むことが重要である
  ことに留意する」
でした。
 これに対して、本当は使用者側委員の立場の専門家委員から意見が出されました。
「その次に (2) ですが、『事業主等』 の次が 『労使』 となっておりまして、なぜか労働団体が主体的になっていないところがちょっと残念です。やはり労働組合も組合員の命と健康を守ることに取り組むために1つの主体として、『労使と』 ではなくて 『労働組合』 という形でお書きいただくほうがバランスがとれるのではないかと思います。今は余り出ませんが、かつては労働組合の要求の1つに時短の要求が随分華々しく行われた時期があります。そういうことを考えると、賃金要求と合わせて組合にも、もう一度時短をお考えいただくような時代ではないかと思います。さらに、労働組合などの団体の持っている、例えばレクリエーションなどの機能は、職場の雰囲気づくりとして大変重要だと思います。従業員が孤立しないための1つの機関として労働組合というものをここでもう少しクローズアップしていいのではないかと思いました。」
 別の専門家委員です。
「まず事業主が過労死を出さないというところの決意を出すというところを強く書いていただけると有り難い、そして、労働者団体あるいは労働者そのものも過労死になりたくないわけですからその努力をするという、双方の立場を明確にしていただければありがたいと思った次第です。」
 このような提案を受けて 「大綱」 では 「3 労働組合等」 が独立した項目になりました。

 この提案を労働者側委員はどのように聞いていたのでしょうか。
 繰り返しますが、「大綱」 は、これまで個別に取り扱われてきた諸課題を集約的に取りまとめたものです。労働組合にとっては、自分たちの怠惰、任務放棄も問題になっているのです。これまで過労死を生み出してきた責任の一端は自分たちの側にもあるという認識はないのでしょうか。
 本来なら労働者側委員からこれを機会に自分たちも過労死を出さないために奮闘するという決意表明と一緒に先に提案することです。聞いていて恥ずかしくなかったのでしょうか。恥ずかしいという意識もなくなっているのでしょうか。
 もしかしたら、労使ということで使用者に責任を負わせて自分たちの責任は回避するつもりだったが余計なことを言いやがってという意識だったのでしょうか。
 今後、長時間労働が放置されて新たな過労死・過労自殺者が出たら労働組合は 「共犯者」 だということを強く自覚すべきです。


 5月23日、過労死防止学会が発足しました。
 過労死防止に向けて、「労」 の責務を含めて運動が大きく前進することを期待します。

   「過労死等防止対策推進協議会」
   「活動報告」 2015.4.10
  関連 「労働災害」
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訪問勧誘、電話勧誘は労働?
2015/05/22(Fri)
 5月22日 (金)

 特定商取引法 (特商法) は訪問販売や電話勧誘販売などでの不当な勧誘を禁じています。4月28日、消費者庁の消費者委員会専門調査会は法の見直しをおこない、あらかじめ 「お断り」 の意思を示した消費者宅への訪問販売や電話勧誘を原則禁止するなどの規制強化を提案しました。
 早ければ来年の通常国会に特商法の改正案が提出されます。一方、政府内には規制に慎重な意見もあります。


 この提案に至ったのが、消費者庁が5月13日に公表した 「消費者の訪問勧誘・電話勧誘・FAX勧誘に関する意識調査結果」 です。
 今年3月に全国を対象にしてインターネット調査が行われました。有効回答数は2000人です。
 質問と回答です。
 この5年間に、訪問販売員が自宅や職場に突然やってきて、商品やサービスを購入するように勧められた経験はありますか (以下、こうした勧誘を 「訪問勧誘」 といいます。) の質問への回答は、「ある」 27.9%、「ない」 72.1%です。
 「ある」 と回答した方に頻度を聞いています。多い順に、年に2~3回33.5%、年に1回28%、半年に2~3回22.8%、月に1~2回13.3%です。
 この5年の間に、訪問勧誘を受けた商品やサービスの内容は何でしたか (複数回答可) の質問に、多い順に新聞55.2%、インターネット回線接続39.2%、塗装工事30.5%、生命保険22.2%、ソーラーシステム22.0%などです。

 続けての質問は、訪問勧誘において、法律は以下のような行為を禁止しています。あなたは、この5年間にこれらの不当な行為を受けたことがありますか (複数回答可) で具体的行為を上げています。
 「上記のような行為を受けたことはない」 が43.9%で最も高く、次いで 「断っているのに勧誘を続ける」 31.2%、「最初に勧誘をする目的であることを告げない」 30.1%、「事業者の氏名や名称を明らかにしない」 14.7%、「不利な事実を隠す」 9.7%の順です。
 ついでにこれ以外の禁止行為は、「商品やサービスの種類を明らかにしない」、「嘘の説明をする」、「声を荒げて契約を迫るなど強引な勧誘をする」、「申込後に、商品の種類や金額等を記載した書面を交付しない」 です。

 この5年の間に、訪問勧誘を受けた結果、契約を締結したことがありますかの質問には、「ない」 81.2%、「ある」 18.8%です。
 「ある」 と回答の方に、振り返ると、その契約についてどのように思いますかと質問しています。
 「契約してよかった場合と、契約しなければよかった場合があるが、契約しなければよかったと思う場合の方が多い」 29.5%、「契約してよかった」 26.7%、「契約してよかった場合と、契約しなければよかった場合があるが、契約して良かったと思う場合の方が多い」 24.8%、「契約しなければよかった」 19.0%の順です。
 「契約してよかった場合と、契約しなければよかった場合があるが、契約しなければよかったと思う場合の方が多い」 と 「契約しなければよかった」 を足すと半数を超えます。

 この半数の方に、解除やクーリングオフで返金を受けたことがありますかと質問しています。「解除やクーリングオフをしたことはない」 72.7%、「解除・クーリングオフをして、全額の返金を受けたことがある」 19.5%、「解除・クーリングオフをして、一部の返金を受けたことがある」 7.8%の順です。
 契約させた側の勝ちです。

 全員に、今後、訪問勧誘を受けたいと思いますかの質問をしました。「全く受けたくない」 が96.2%です。訪問勧誘を受けて商品やサービスを購入したいと思いますかについては、「全く購入したくない」 が80.8%です。訪問勧誘について、どのようにしてほしいですかに対する選択肢提示には、「原則禁止し、「消費者が訪問を依頼した場合」 にのみ勧誘に来られるようにしてほしい」 51.3%、「特になし」 16.0%、「原則、訪問勧誘はできるが、「訪問販売を受けたくない」 というステッカーを貼っている家庭には訪問してはならないようにしてほしい」 9.9%です。
 つまり訪問勧誘をする側にとっては、相手から嫌がられているということです。


 今度は電話勧誘販売についてです。
 この5年間に、突然あなたの電話 (固定電話・携帯電話・職場の電話) に事業者から電話があり、商品やサービスの購入を勧められたことがありますか (以下、こうした勧誘を 「電話勧誘」 といいます。) の質問に、「ある」 70.2%、「ない」 29.9%です。
 「ある」 と回答した方に頻度を聞いています。多い順に、月に1~2回33.6%、半年に2~3回22.0%、年に2~3回18.8%、週に1~2回11.7%の順です。
 この5年の間に、電話勧誘を受けた商品やサービスの内容は何でしたか (複数回答可) についてです。
 インターネット回線接続が60.4%、投資関係 (ファンド型、社債、株式等) 37.0%、健康食品33.9%、電話回線接続32.9%、化粧品19.5%、分譲マンション19.2%の順です。
 法律によって禁止されている行為をあげて、この5年間にこれらの不当な行為を受けたことがあるか (複数回答可) を質問しています。
 「上記のような行為を受けたことはない」 36.9%です。「断っているのに勧誘を続ける」 が37.5%で最も高く、「勧誘をする目的である旨を最初に告げない」 30.7%、「事業者の氏名や名称を明らかにしない」 13.7%、「商品やサービスの種類を明らかにしない」 11.5%、「不利な事実を隠す」 9.6%の順です。

 この5年の間、電話勧誘を受け、断った際の経験を質問しています (複数回答可)。
 「すぐに断った、又はすぐに電話を切った」 71.7%、「断ったが、勧誘を続けようとしたため、電話を切るのに苦労した」 23.6%、「一度電話を切ったにもかかわらず、再度かかってきた」 19.6%です。
 この5年の間に、電話勧誘を受けた結果、契約を締結したことがありますかの質問に、「ない」 90.8%、「ある」 9.2%です。
 「ある」 と回答の方に、振り返ると、その契約についてどのように思いますかと質問しています。
 「契約してよかった場合と、契約しなければよかった場合があるが、契約しなければよかったと思う場合の方が多い」 31.0%、「契約しなければよかった」 25.6%、「契約してよかった場合と、契約しなければよかった場合があるが、契約して良かったと思う場合の方が多い」 23.3%、「契約してよかった」 20.2%です。
 「契約してよかった場合と、契約しなければよかった場合があるが、契約しなければよかったと思う場合の方が多い」 と 「契約しなければよかった」 の合計が56%になっています。

 今後、電話勧誘を受けたいと思いますかの質問です。
 「全く受けたくない」 96.4%、「受けたい」 0.6%です。
 電話勧誘を受けて商品やサービスを購入したいと思いますかの質問です。
 「全く購入したくない」 84.2%、「あまり購入したくない」 12.6%です。

 電話勧誘について、どのようにしてほしいですかの質問です。
 「原則禁止し、「消費者が依頼した場合」 にのみ電話勧誘できるようにしてほしい」 57.2%、「特になし」 15.2%、「原則として電話勧誘はできるが、「電話勧誘を受けたくない」 という意思表示をした人に対しては電話勧誘してはならないようにしてほしい」12.0%です。

 「仮に、「電話勧誘を受けたくない」 という登録をした人に対しては電話勧誘をしてはならない、というルールができた場合、そのような登録をしたいと思いますか。」 と質問しています。
 「手続が面倒でなければ登録したい」 41.9%、「ぜひ登録したい」 31.4%、「登録したくない」 17.1%です。
 しかし登録をするということは、電話番号をどこかに届ける・ 「登録」 することです。このことに危険性はないでしょうか。「仮に」 という質問をしているということは 「登録」 が法案に盛り込まれる危険性があります。個人情報保護の視点からは、説明不足の安易な質問に思われます。
 これが日本の個人保護問題の現状です。危険です。

 さらにFAXでの勧誘についても同じような項目の質問をしています。


 さて、質問は消費者に対するものですが、立場を逆にして、勧誘している労働者の側から捉えたらどうなるでしょうか。
 訪問勧誘を 「全く受けたくない」 が96.2%、「全く購入したくない」 が80.8%、「訪問勧誘について原則禁止し、「消費者が訪問を依頼した場合」 にのみ勧誘に来られるようにしてほしい」 51.3%です。
 電話勧誘に対して 「すぐに断った、又はすぐに電話を切った」 71.7%、「断ったが、勧誘を続けようとしたため、電話を切るのに苦労した」 23.6%です。今後の勧誘については 「全く受けたくない」 96.4%、商品やサービスを 「全く購入したくない」 84.2%です。
 このような消費者を対象に労働しています。
 対応して打率が低いというような問題で捉えることはできません。嫌がられる仕事をしています。このようなことを続けるとストレスが蓄積し、苦痛が生まれます。はたしてその様な行為を労働と呼べるのかという労働者側からの捉え返しが必要です。
 嫌がられても、食い込むのが仕事などと精神主義を叩きこまれると労働者の精神がゆがんでしまいます。新入社員に 「当てって砕けろ」 の体験をさせることは鍛えるのではなく離職を促進させるだけです。
 ノルマなどを課せられるとそこには 「ねばれ」 の指令と 「切り替えし話法」 のスキルが登場し、「強制」 「騙し」 が入り込んでしまいます。新入社員の場合には、親族、知人に勧誘する拡大が終了すると退職勧奨・強要が行われます。
 人が嫌がることに入り込むことが許されるのは日本だけです。日本は人の精神・信条への介入が野放しになっていて保護されません。安易に集団主義が強制されます。


 1973年と79年のオイルショックで、日本経済は高度経済成長時の産業構造から省エネ・省資源の減量経営への転換を迫られます。国際競争力を輸出志向に結びつけた電子・家電、自動車などは、高度な技術開発や周辺技術の活用、品質やコストの競争力を強め、市場ニーズに対する細かい対応を進めていきます。
 そのなかでQC運動は推進されます。現場の労働者からの改善・提案を企業は積極的に取り入れて奨励します。当初、労働者は自分の提案が受け入れられることに喜びを感じます。しかしそれが合理化に利用され、ゆとりが奪われて自分たちの首を絞めることになっていることに気が付きます。そしてさらなる改善・提案をノルマとして要求されると苦痛になっていきます。
 産業構造の転換はリストラクチャーと呼ばれ、労働力の配置転換も行われます。他社との競争に勝ち抜いて生き残ることが命題になります。そのため企業は “社員全員が営業部員” の意識をもたせて営業活動を業務の一部に繰り込みます。「やる気」 と 「根性」 が煽られ、人格が否定されました。社内での競争がそれに拍車をかけます。社員は拒否することができません。「企業戦士」 が強制されます。
 “余剰人員” に対しては、それでも 「日本的経営」 が残っていて解雇は簡単ではありませんでした。会社に残る社員は拡張された営業部に強制配転され、その他の労働者は出向、転籍が行われました。いつの間にかリストラ=首切りと捉えられるようになっていきます。営業部員はノルマを課せられ「お客様は神様です」 の姿勢での販売訴求が強制されます。消費者を “偉く” まつりあげ、迎合します。労働力の安売りです。

 経営者と社員の 「向き合い方」 が労使関係でなくなります。企業内組合はますます閉じこもりと保身に走ります。そのようななかで 「企業戦士」 から、言い換えるなら家畜ならぬ 「社畜」 に慣らされていきます。労使関係は消えていきました。
 1980年代に 「24時間働けますか。ビジネスマン」 という栄養ドリンク剤のコマーシャルが放映されました。明らかに労働基準法違反です。しかし違反だと主張する声はもみ消されました。その一方で過労死が問題になっていきます。
 さらにIT業種や介護などのサービス業務での競争が激しくなり、営業が生き残りをかけて展開されます。営業担当者が非正規労働者にとってかえらられました。消費者のニーズや要求に応えられない企業は淘汰されていきました。

 労働経済学者の熊沢誠さんの著書 『日本的経営の明暗』 (1989年刊) からの引用です。
「いま職場に生じつつある仕事の変化の重要な側面のひとつは、『販売・営業』 以外の職種の担務にもセールスの要素が加えられていることだと思う。『全員セールス』 の時代といわれる。セールスは心労の多い仕事だ。……セールスはいわゆる単純労働ではないかもしれない。しかし総じて、じっくり考えてことを進める創造的な仕事でもないだろう。ここでの多くの場合、一定の商品知識と面接技術を把握した上では、なによりも売りを押し込む意欲と体力が要求される。ときにはファナティックに自己を鼓舞することができなければ続けられるものではない。有名な 『地獄の特訓』 は、内心忸怩 (じくじ) とせずそうした 『鼓舞』 のできる戦士をつくる人間工学であろう。どんなハイテク商品も、それが顧客の手に渡るまでには、このような野蛮な 『男の舞』 が不可欠であるとされている。セールス労働には不適応になる人が多く、定着率がなかなか高まらないのも無理はない」

 営業活動、勧誘労働は、消費者保護の視点だけでなく、労働者の人権回復・保障の課題と合わせて即刻全面的に禁止される必要があります。
 労働とは、社会に、人びとに喜ばれ、労働者にとってもやりがいのあるものをいいます。

   関連:「消費者の訪問勧誘・電話勧誘・FAX勧誘に関する意識調査結果」
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「戦争の後」 20%以上の精神的な障害者を生み出している
2015/05/19(Tue)
 5月19日 (火)

 5月14日、安倍首相は新たな安全保障関連法案を閣議決定した後の記者会見で、隊員が死亡するリスクが高まると指摘された質問に対し、「まるで今まで殉職した隊員がいないかのように思っている方もいるかもしれないが、1,800人が殉職している。私も遺族とお目にかかっており、殉職者が全く出ない状況を何とか実現したい」 と語りました。
 何を言いたかったのでしょうか。これまでにも死者は出ていると言いたかったのなら軽すぎる発言です。逆に 「戦後も国に命を捧げた者が1,800人いる、お前らも捧げろ」 とでも言いたかったのでしょうか。

 防衛省が発表している1950年にGHQの指令で警察予備隊が発足してからの殉職者数は、今年3月末現在で1,874人です。(いつも疑問に思うのは、現憲法がGHQからの押し付けだから作り直しが必要だという人たちは、同じくGHQ指令で発足した自衛隊の解体をなぜ主張しないのでしょうか)
 しかし自衛隊の “体質” によってそこには含まれない隊員もたくさんいます。精神疾患に罹患していて自殺に至ると “原因不明” と判断されたり、いじめなどによる自殺の場合は業務外ということで原因究明されなかったりします。なにせ 「自衛隊では、『いじめ』 があったという例は極めて稀です」 なのです。(2011年4月4日の 「活動報告」 参照)
 PTSD (心的外傷後ストレス障害) は、軍隊において兵士が陥った体調不良から発見・研究・対策が進められてきたという経緯がありますが、旧日本軍そして新日本軍・自衛隊ではあまり関心が向けられていません。
 2011年2月2日の 「活動報告」 に書いた、海上自衛隊の護衛艦 「たちかぜ」 の乗務員がいじめが原因で自殺したことに対し、自衛隊は 「自殺の兆候を見せておらず、自殺は予見できなかった」 と主張していました。良心に苛まれた同僚の告発でいじめがあったことが組織ぐるみで隠ぺいされていたことが暴露されました。
 このようなことが起きるのは、1人ひとりの命は大切にされないという軍の体質を色濃く持っているからです。安倍首相の発言は、トータルとして1800人なのです。


 自衛隊が隊員の命を大切にしないことがもたらしたことについてです。
 1965年7月、陸上自衛隊八戸駐屯地の車輌整備工場に勤務していた27歳の隊員がバックしてきた大型自動車にひかれて即死しました。
 両親は、国家公務員災害補償法による補償金76万円を受け取っただけでした。
 後日、自衛隊の事故死者の遺族の集まりである遺族会の関係者から訴訟を起こせると聞き、事故から4年以上過ぎた1969年10月に損害賠償訴訟を起こしました。
 1審、2審とも不法行為による請求権は時効が成立していると退けられました。しかし1975年2月25日、最高裁は1審、2審の判決を退けました。
「国は、公務員に対し、国が公務遂行のため設置すべき場所、施設もしくは器具等の設置管理又は、公務員が国もしくは上司の指示のもとに遂行する公務の管理にあたって、公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務 (以下 「安全配慮義務」 という) を負っているものと解すべきである」
 その法的根拠です。
「安全配慮義務は、ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務として一般的に認められるべきものであって、国と公務員との間においても別異に解すべき論拠はない」

 自衛隊が安全配慮義務を怠ったことは、債権債務関係における債務の実行を怠ったという判断です。そして債務不履行に対する時効は10年なので損害賠償請求できるという判断で請求を認めました。
 このあと判例が積み重ねられて現在の 「使用者の安全配慮義務」 が確立し、さらに時効が10年の債務不履行での損害賠償訴訟の道を開きました。
 それにしても、他者からの加害による死亡事故が単なる公務災害扱いとは余りにも人命が軽すぎます。


 自衛隊は不思議な組織です。
 2012年7月13日の 「活動報告」 に書きましたが、1992年、自衛隊を海外派兵するPKO法案が国会で審議されていた時、国会周辺は連日人であふれました。当時の社会党などが会期期限切れ廃案をめざして行使した 「牛歩戦術」 を、法案を通したらさらに進められるであろう軍事力強化政策、再度の軍隊による海外侵略、そして徴兵制を1分1秒でも遅らせる、そして政策を後退させたいという思いで国会前に通いました。
 この時自衛隊は人びとから包囲されていました。

 それから3年経った1995年の阪神淡路大震災で自衛隊は “市民権” を獲得します。神戸市長が3月31日をもってボランティアを追放した後、1年間、神戸に常駐したのです。三ノ宮駅前の歩道橋には 「自衛隊のみなさんありがとう」 と大書きした横断幕がずっと飾られていました。自衛官への応募者も増えました。
 しかし、こんなに長く基地を空けることができるということは閑なんだなと思いました。アメリカなどでは、災害支援などへの緊急出動は本来の任務ではないので長くて2週間です。それ以上基地を空にすることはしません。
 自衛隊の災害救援・支援は、組織強化のための隠れ蓑に利用されています。二足のわらじはそもそもおかしいです。

 東日本大震災でも一時期最大10万人の自衛官が基地を離れました。
「12日の段階で沿岸部の浸水被害地区では自衛隊や警察も活動を行っていた。しかし現場レベルでの調整は難しく、それぞれ独自に活動していたのだ。単独で活動していても成果は薄い。3日目にようやく (仙台市消防局警防部警防課) 大久保主幹が市災害対策本部内で警察や自衛隊との調整を試みる。警察も自衛隊も 『消防の指揮下に入る。何でもいってくれ』 とすぐに応えてくれた。仙台市消防局に緊急消防援助隊、そして警察、自衛隊による混成チームとなり、ローラー捜索作戦もスピードを増した。」 (『ドキュメント 東日本大震災 救助の最前線で レスキュー編』 イカロス出版)
 愛知県防災航空隊による12日から4日頃の救助活動です。
「救援活動現場の上空で、数多くの救難ヘリと遭遇したのも、初めての経験だった。……
『サーチ アンド レスキュウの最中に一度、アスコット (U‐125A・航空自衛隊の捜査機) から無線で呼びかけられた。おそらくUH‐60 (航空自衛隊の救難へり) が活動している空域に我々が入っていったからだと思うが、悪いが対応しなかった。我々には我々のミッションがあり、それを自衛隊の統制下で行なえという命令は受けていないからだ』」 (『ドキュメント 東日本大震災 救助の最前線で レスキュー編』)
 自衛隊は消防本部の指揮下で活動していました。この 「実績」 を踏まえ、そのまま消防庁指揮下の災害救援隊に衣替えすればよかったのです。それ以外は解体すればいいと今も本気で思っています。

 さて、東日本大震災において2人の被災地派遣の幹部自衛官が自殺しています。
 2011年10月22日付のJCASTニュースです。
「被災地派遣の幹部自衛官、相次ぎ自殺
 『丁寧なメンタルケアが必要』 の声
 新潟県上越市の自衛隊宿舎で、陸上自衛隊の連隊長を務める52歳の1等陸佐が自殺しているのが2011年10月19日発見された。理由は不明だが、この1等陸佐は福島県の被災地で、人命救助や行方不明者の捜索の指揮を取っていた。18日にも、やはり被災地に派遣されていた青森県青森市の3等陸佐が自殺している。いずれも幹部自衛官だ。
 今回の震災では最大10万人の自衛官が、被災地で過酷な救助、捜索の任務に当たった。以前にはイラクに派遣された自衛官に自殺者が急増して問題となったが、今回の震災では大丈夫なのか。」
 はたしてこの2人は殉職者に含まれているのでしょうか。自宅での自死は個人的問題として片づけられることが多くあります。
 「『丁寧なメンタルケアが必要』 の声」 とありますが、自衛隊ではどのようなメンタルヘルスケアが行われたのでしょうか。漏れ聞こえてくるところでは充分なものとは言えません。それは 「命」 が大切にされていないということでもあります。

 そして、東日本大震災を通じて、自衛隊は 「国民」 を守るという言い方がされはじめました。それまでは 「国」 です。災害と戦争、被災者と国があいまいにされたまま (わざとしたまま) 自衛隊は 「市民権」 を獲得していきます。
 さらに最近は 「国民の財産」 を守ると言い始めています。海外派兵で 「国民の財産」 とはなんでしょうか。もしかしたら石油危機が生じた時などの 「株価」 なのではないでしょうか。
 軍隊は国民を守りません。これは満州でも、沖縄でも体験した歴史的事実です。


 ついでに 「イラクに派遣された自衛官に自殺者が急増」 についてです。
 この問題については、これまで新聞などで何度も取り上げられ、国会においても「質問趣意書」が提出されています。(ホームページ → 「こころのケア」 → 「軍隊の惨事ストレス対策」 参照)
 この問題は日本だけではありません。
 2012年8月7日の 『Newsweek』 日本版に、作家のアンソニー・スウォフォードの 「アメリカ 『帰還後に自殺する若き米兵の叫び』 の見出し記事が載りました。
「アメリカでは毎日18人前後の元兵士が自ら命を絶っている。アフガニスタンとイラクからの帰還兵だけでも自殺者は数千人にも上り、戦闘中の死者数 (6,460人) を上回るとみられている。」
 2014年7月4日の 「活動報告」 で紹介しましたが、イタリアの作家、パオロ・ジョルダーノの 『兵士たちの肉体』 (早川書房 2013年邦訳刊) はアフガニスタンに派遣されたイタリア軍が戦闘に巻き込まれた2011年9月23日の西部ヘラートでの戦闘などを下敷にしたフィクションです。ここでも多くの精神疾患に罹患した多くの兵士が登場しています。
 アメリカをはじめとしてベトナム戦争帰還兵が陥っている状況、被った被害が無視されています。


 安倍政権が新たな安全保障関連法案の準備を始めていた今年の3月頃、本屋ではディヴィッド・フィンケル著 『帰還兵はなぜ自殺するのか』 (亜紀書房) が平積みされていました。現在は第3版になっています。
 イラクに派兵された米兵の “その後” が16章に分けて語られています。その後には家族のもとに正装した上級の軍人が訪れた、つまりは死亡の報告に来た例もあります。負傷の場合は電話連絡、重症の場合は通常の軍服を着た兵士が訪れるのだそうです。
 第1章を紹介します。
「サスキアがそう言うのは、アダムが戦争に行く前の状態に必ず戻るという希望を抱いているからだ。こうなったのはアダムのせいというわけではない。彼のせいではなかった。彼は恢復したがっていないわけではない。恢復したいと思っている。しかし別の日には、死んだほうがましだという気がする。アダムに限ったことではない。アダムと共に戦争に行ったあらゆる兵士たち――小隊30人、中隊120人、大隊800人――は、元気な者ですら、程度の差はあれ、どこか壊れて帰ってきた。アダムと行動を共にした兵士のひとりは、『悪霊のようなものに取りつかれずに帰ってきた者はひとりもいないと思う。その悪霊は動き出すチャンスをねらっているんだ』 と言う。
『助けがどうしても必要だ』 2年間、寝汗とパニックの発作に苦しんだ兵士はこう言う。
『ひっきりなしに悪夢を見るし、怒りが爆発する。外に出るたびに、そこにいる全員が何をしているのか気になってしょうがない』 と別の兵士は言う。
『気が滅入ってどうしようもない。歯が抜け落ちる夢を見る』 と言う者もいる。
『家で襲撃を受けるんだ』 別の兵士が言う。『家でくつろいでいると、イラク人が襲撃してくる。そういうふうに現れる。不気味な夢だよ』
『2年以上も経つのに、まだ夫は私を殴ってる』ある兵士の妻が言う。『髪が抜け落ちたわ。顔には噛まれた傷がある。土曜日に、お前は最低のクソ女だと怒鳴られた。夫が欲しがっていたテレビをわたしが見つけられなかったからよ』
 いたって体調がよさそうに見える兵士は、『妻が言うには、ぼくは毎晩寝ているときに悲鳴をあげているそうだ』 と言ったあとで困ったように笑い、『でも、それ以外は何の問題もない』 と言う。
 しかしほかの兵士たちと同じように、途方に暮れているように見える。
『あの日々のことを、死んでいった仲間のことを、俺たちがやったことを考えない日は1日たりともない』 とある兵士は言う。『しかし、人生は進んでいく』」
 帰還兵はこのような状態におかれています。

「ひとつの戦争から別の戦争へと。2百万のアメリカ人がイラクとアフガニスタンの戦争に派遣された。そして帰還したいま、その大半の者は、自分たちは精神的にも肉体的にも健康だと述べる。彼らは前へと進む。彼らの戦争は遠ざかっていく。戦争体験などものともしない者もいる。しかしその一方で、戦争から逃れられない者もいる。調査によれば、2百万人の帰還兵のうち20パーセントから30パーセントにあたる人々が、心的外傷後ストレス障害 (PTSD)――ある種の恐怖を味わうことで誘発される精神的な障害――や、外傷性脳損傷 (TBI)――外部から強烈な衝撃を与えられた脳が頭蓋の内側とぶつかり、心理的な障害を引き起こす――を負っている。気鬱、不安、悪夢、記憶障害、人格変化、自殺願望。どの戦争にも必ず 『戦争の後』 があり、イラクとアフガニスタンの戦争にも戦争の後がある。それが生み出したのは、精神的な障害を負った50万人の元兵士だった。」

 ベトナム帰還兵にとってベトナム戦争はまだ終わっていません。イラクからの帰還兵にとっては真っ最中です。米軍は米兵を殺し、負傷させています。しかし政府は兵士等の要求で多少の補償をしても大きな関心は示しません。だから過ちが繰り返されています。
 過ちを繰り返さないためには、戦争を生み出さない社会を作りあげることが必要です。

 しょっちゅう安倍首相は100人単位の商人・商社マンを引き連れて海外を訪問しています。それでも軍事力を強化するということは、海外訪問が外交になっていないということです。
 100人単位の商人で原発を売り込み、兵器を売り込みに行っています。死の商人です。そのためにはまず製造国がそれらを保持しなければならないということのようです。
 民間を含めて本物の外交による軍事力の軽減を目指すことが必要です。
 それが平和に、安心して生きるための本物の 「安全保障」 です。

   関連:「軍隊の惨事ストレス対策」
   関連:「本の中のメンタルヘルス 軍隊・戦争」
   「活動報告」 2014.7.4
  「活動報告」 2014.1.7
  「活動報告」 2013.5.24
  「活動報告」 2012.7.13
  「活動報告」 2011.4.4
  「活動報告」 2011.2.2
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コミュニティ・ユニオンは本物のセーフティネット
2015/05/15(Fri)
 5月15日 (金)

 あるユニオンのメーデー前夜祭でメーデーと労働基準法改正とメンタルヘルスを1つのテーマにした報告を依頼されました。現情勢ではタイムリーな課題です。
 「活動報告」 を切り貼りしてレジュメを作製しましたが、そこでの報告をかいつまんで紹介します。

 メーデーは1886年5月1日にアメリカ・シカゴの労働者が8時間労働制を要求して統一ストライキを行ったのが起源だということはよく知られています。当時の状況としては、過重労働での長時間労働は身体がもたないということもありました。健康維持の問題であり、寿命の問題でもありました。その後、労働者は時間短縮、8時間労働を勝ち取っていきます。
 4月24日の 「活動報告」 に書きましたが、日本では明治時代、政府は工場法の制定しようとしましたが経営者側の反対によっておくれました。この時の政府の主張には 「労働力を磨滅させてしまっては元も子もなくなる」 もありました。しかし経営者は変わりがいくらでもある消耗品と捉えています。
 この経営者の姿勢は今の労基法改正においても同じです。

 8時間労働の提案は、第一次世界大戦を経た1918年のベルサイユ講和会議で国際連盟の創設が提唱され、さらに1919年1月25日、「国際的立場から労働条件を調査し、及び国際連盟と協力しかつその指示の下に右の調査及び考慮を係属すべき常設機構の形式を勧告する」 と国際労働法制委員会設置を決議したなかで行われました。
 35回の委員会を経て、労働者の代表を交えた労働問題に対応する国際労働機関 (ILO) の創設と 「国際労働規約」に盛り込む社会正義のための 「一般原則」 を決定します。その第一は 「締結国は現に労働が単なる商品と見なさるべきものに非ずと認めるが故に労働条件を規律する方法及原則にして……」 と 「労働非商品」 をうたいました。さらに団結権の保障、最低賃金制、1日8時間・週48時間、毎週1回の休日、年少労働禁止、男女同一労働同一賃金、移民の自由、労働保護監督制度の9原則をうたいました。
 6月28日、ILOが創設されます。

 男女同一労働同一賃金が提案された経緯です。
 イギリスで家庭に閉じ込められていた女性たちは、1899年からのボーア戦争や第一次大戦中の労働力不足を補うため男性に代ってさまざまな分野に進出し、男性と同じように働けることを 「証明」 しました。この経験が、戦後は帰還した男性に職場を奪われることになっても、男女同一労働同一賃金を要求する契機になっていきます。
 第二次世界大戦の日本でも同じ状況が作られ、要求が出されたが、戦後は男性に取って代わられ名目だけになってしまいました。それどころか家制度の復活やマイホーム主義で女性労働者は排除され、「専業主婦」 が増えていきます。

 友愛会は1919年に 「大日本労働組合総同盟友愛会」 と改称し、その政綱にILOの一般原則を盛り込みます。さらに1921年には「日本労働総同盟」に改称されます。
 第1回メーデーが開催される少し前から 「縦の組合」、「横の組合」 の論議が行われていいます。「縦の組合」 とは現在の企業別組合で、「横の組合」 とは産業別組合です。
 鈴木文治は、友愛会機関紙で 「ちかごろ縦の組合、または縦断組合とかいうことがしきりにとなえられている。……この用語の発明人は、床次内相であるという。しかしてその言葉の意味は、労働者の組合を同職、または同業というような関係で、地方や工場のいかんにかかわらず、広く大きくつくることの代わりに、一工場、一鉱山、一仕事場というようなせまい範囲で、専門の職の相違などに頓着なく、すべて一しょに団結し、職長も組長も公工場長も技師も、ないしは支配人も社長も、ことごとく組合員のなかに取り込む仕組みをというのである。……名は自治的の組合といっていても、じつはすこぶる専制的な、封建的な仕組みといわなければならぬ。」 と書いています。
 「横の組合」 が言いだされたのは、産業別、職業別の横断組合を確立しようという動きがあったからです。これがメーデー実現の原動力でもありました。
 「縦の組合」 のことを指して 「御用組合」 と言われるのもこの頃からです。


 ついでに同一価値労働同一賃金についてです。
 賃金格差を克服する制度として主張される職務給に基づく賃金制度で、「労働環境」 「負担」 「責任」 「知識技能」 などのファクターと評価レベルを点数化して賃金を決定します。
「米国の賃金コンサルタント企業であるヘイ社は、独自の得点要素法を研究開発し、これが普及した。しかし1970年代後半になると、米国やカナダで、これが女性差別撤廃運動の批判の対象となった。ヘイ社の得点要素法は女性職務を低く評価するジェンダー・バイアスがあって、それが女性の低賃金の重要な理由となっているとの批判であった。そして、この批判の影響のもとに、一九八〇年代以降、女性職務を低く評価しない考え方で得点要素法を研究開発することがすすんだ。その研究開発の重要な一つが、『感情労働』 にともなう労働者の負担を、四大ファクター 『負担』 の一つに採用することであった。そして、女性職務を低く評価しない考え方が、女性差別撤廃運動のなかで Comparable Worth や Pay Equity と英語で呼ばれるようになり、その後に 『同一価値労働同一賃金』 と日本語訳された」 (遠藤公嗣著 『これからの賃金』 旬報社)
 カナダのオンタリオ州では、1987年に10人以上を使用している公共・民営部門の企業に対して、「ペイ・エクイティ法」 (Pey Equity Act、賃金衡平法) が制定されました。
「ペイ・エクイティは、従来の女性職に対する低い評価を改め、平等賃金を実現するための有力な原則であり運動ですが、限界もあります。
 1つには、従来の職務評価の技法 (ヘイ・システム) は職場の複雑さと重要度を、ノウハウ・問題解決能力・説明責任の三つのファクターで評価する点ですが、ケアのような仕事の評価には適切ではないからです。一九九一年にオンタリオ看護協会がヘイ・システムに反対して、感情労働 (emotional labor) の評価を導入する評価技法を聴聞審判所に認めさせました。このように、たえずジェンダーに中立な職務評価法を開発していくことが必要です。」 (『竹中恵美子が語る 労働とジェンダー』 ドメス出版)


 日本で最初の大衆的メーデーは、1920年、上野公園に5000人が結集して開催されました。それまで日本の労働運動を個別に切り開いてきた鉄鋼、繊維、炭鉱などの労働者郡が情勢のなかで共通した認識に到達し、共同の行動をとるに至って実現しました。
 このメーデーで採択された決議は 「治安維持法第17条の撤廃」、「恐慌来にさいし、失業の防止」、「生活を保証する最低賃金の設定」 でした。緊急動議として 「8時間労働制」、「シベリア即時撤兵」、「公費教育の実現」 が提案され可決されました。「8時間労働制」 は緊急動議です。治安維持法第17条は 「同盟罷工」 の 「扇動」 の禁止などが盛り込まれていました。
 2014年9月30日の 「活動報告」 に書きましたが、19年9月に開始された川崎争議はサボタージュ闘争で8時間労働制を実現させます。その結果、出勤率が上がり、労働意欲が高まって生産性も向上したといいます。さらに川崎争議は全国的に大きな反響を呼び、10月以降は他の工場労働者が8時間労働制を要求していきました。関西では、播磨造船、大阪汽船会社、川北電気、田中電気、神戸製鋼などが8時間労働を採用しました。日本で最初の8時間労働の実現です。
 前回の活動報告に書きましたが、20年2月6日には八幡製鉄所で1万3千人の職工がストライキに立ち上がり、500の 『溶鉱炉の火は消えたり』 の闘いが展開されました。
 2011年5月1日の 「活動報告」 に書きましたが、火野葦平の父・任侠玉井金五郎が主人公の実話小説 『花と竜』 にこの時のメーデーを話題にする場面があります。
 その認識は港湾労働者・請負師と沖仲士のものでもありました。
 『花と竜』 の後半は、下請け企業と日雇労働者を扱った 「プロレタリア文学」 です。


 2015年3月3日の 「活動報告」 の再録です。
 全国労働安全衛生センターの機関誌 『安全センター情報』 3月号に、欧州リスク観測所の 「労働関連ストレスと心理社会的リスクの費用の計算」 の記事が載りました。心理社会的リスクとは、組織や社会状況の中で労働の進め方や管理の相互関係から発生する労働者の精神的、物理的達成観における損害のリスクです。
「この数十年間に職場に新たな労働安全衛生の課題に影響を与えたのはグローバリゼーションの拡大や自由市場の確立などによる世界的な社会政治的進展と急速な人口変動です。
 具体的に見ると、労働が社会的テンポの加速化に影響されて作業強度や持続的時間の制約、複数作業の同時遂行、現状を維持するためだけでも新しいことを学ぶ必要性をもたらしています。このような構造的かつ長期的変化に加えて、現在の経済危機が使用者と労働者の双方に競争力を継続させる大きなプレッシャーをかけています。
 経済発展をもたらしてはいるものの、管理がまずければ心理社会的リスクを高め、健康や安全にマイナスの影響をもたらすかもしれません。」
 具体的現象としては、心理社会的リスクに関連する労働要因として過度の作業負荷や作業ペース、雇用不安、融通の利かない作業予定、不規則、予測不能または非社会的な労働時間、劣悪な人間関係、参加の欠如、組織内における役割の不明瞭さ、コミュニケーション不足、キャリア開発の不足や労働と家庭の要求の対立があげられています。
 心理社会的リスクの発生は、労働者間のストレスにつながり、パフォーマンスの低下や長引く場合には重大な健康問題をもたらす可能性があります。
 調査研究結果から、心理社会的ハザーズやストレスによる短期的影響として睡眠障害、気分の変化、疲労、頭痛や胃炎などをあげています。長期的影響としては不安、うつ、自殺企図、睡眠障害、腰痛、慢性疲労、消化器の問題、自己免疫疾患、免疫機能の低下、心血管疾患、高血圧や消化性潰瘍などの幅広い精神的及び身体的健康影響が発症しています。
 EU労働力調査では、1999~2007年に欧州労働者の28%近くの約5,560万人が心理社会的リスクを蒙っています。

 このような状況を踏まえて1998年に 「モラルハラスメント」 が問題提起されます。
 モラルハラスメントは 「雇われている労働者の権利や尊厳が侵されるような労働条件の切り下げを目的にした、またはその効果を狙って繰り返される行為。労働者の身体的、精神的または職業上の将来の名誉を傷つけることを目的にして繰り返される行為。」 と定義づけられています。

 今年2月6日の 「活動報告」 の再録です。
 朝日新聞社の 「The Asahi Shimbun GLOBE」 2015年2月1日号は特集 「メンタルヘルス 職場のうつを考える」 です。
 1面に大きく 「1 / 5 世界」 そして 『心の病』 と診断される人が増えている。本人が苦しむのはもちろん、経済への影響も心配されている。職場で家庭で、『心の病』 にどう向き合っていけばいいのか。」 とあります。その説明です。「世界の5人に1人が心の不調を抱えている OECDは2012年、世界の15~64歳のうち、症状の重い心の病を抱えている人が5%、軽い心の不調を抱えている人が15%いると推定した。合わせると、5人に1人が心の不調を抱えていることになる。」
 2面に大きく 「1 / 3」 とあります。その説明です。「うつ病と診断された時に勤め先に伝えるという人は、3人に1人 『うつ病と診断された場合、そのことを勤め先に言うか』との質問に対し、『言う』 が34%、『言わない』 が28%、『分らない』 が37%だった。欧州うつ協会が2012年、英国、フランス、ドイツなど欧州7か国で16~64歳の7065人を対象に調べた。」 
今、メンタルヘルスケア国際的問題になっています。


 このような状況、労働関連ストレスは日本も同じです。
 社会変化のなかで経営者も管理不能になっています。これまでの規則や法律、価値観は対応できない、漏れるものが出てきています。
 その隙間を労使のどちらが埋めるのか、新たな秩序を作るのかが現在の課題です。
 株主、経営者、労働者、関連会社・下請け等の在り方が変化し、それぞれ競走させられ、生き残ろうともがいています。そのなかで格差拡大が進んでいます。仕事の仕方・させられ方、働き方・働かされ方が変化しています。具体的には、残業規制緩和、裁量労働制、整理解雇の判例法理の変更 (阻止)、ホワイトカラーエグゼンプション (阻止)、派遣法改正、賃金制度の変更、「高度プロフェッショナル制度」 です。社会変化の中で、使用者が一方的に秩序を作ろうとしています。その手法として一方的に労働者に犠牲を強いようとしています。

 今年3月10日の 「活動報告」 に書きましたが、賃金制度が変更されつつあります。労務政策が変わる時、一緒に賃金制度も変わります。成果給が実績給 (業績給) に、実績給はその後修正が加えられて 「役割給」 になっています。賃金が時間に対してではなく 「成果」、さらに 「貢献」 になりつつあります。賃金の持つ性格が変えられ、労働時間が無視されようとしています。これらはすべて成果主義と呼ばれています。
 今後は全産業に波及していきます。

 15年3月6日の朝日新聞の記事です。
「……企業が 『一律でない賃上げ』 を思考する背景には、バブル期の大量裁量や、バブル崩壊後の採用抑制で社員の年齢構成がいびつになっていることがある。一定の原資を均等に配分するのではなく、より成果を重視したり、人材確保のために若手の配分を増やしたり、子育て中の女性職員を賃金面で支えたりと、きめ細かい配分の工夫をしないと企業の競争力を失いかねないという事情がある。
 円安などで大手を中心に企業業績が改善し、一定の賃上げが可能になったことも配分見直しの動きを後押ししている。ある大手自動車メーカー幹部は 『大きなベアがあるときは、賃金制度改革のチャンス』 という。原資が多いと、配分方法を見直した時の社員からの不満を抑えやすいとみているからだ」
 役割給の導入は、賃金アップにこれまで以上に大きな差が生まれています。

 みな真面目に一生懸命働いています。
 しかし労働者がばらばらにされる状況が作り出されています。他者をきちんと評価できなくされています。そのなかで自分の仕事について確認の仕方、到達点がわからなくされています。理解しあうためには他者との関係性が必要です。
 裁量権がない状況で挑戦はエンドレスです。職場でストレスが拡大、コミュニケーション不足ではなく不成立でトラブルの発生は必然です。いじめの連鎖、職場の暴力の連鎖がおきています。
これに合わせて労基法改正の動きが起きています。
 労働時間はすでに充分すぎるくらい長いです。改正はそれを抑制するためのものではありません。労働条件の根幹である労働時間と賃金に対する規制、保護が根底から変えられよう、なくされようとしています。

 今年2月13日に労働政策審議会からだされた 「今後の労働時間法制等の在り方について」 では建議の具体的な意向として 「労使自治」 の推進がうたわれています。法律の縛りを緩くするため 「労使が協議して決定」 です。労使で労基法の逸脱を了承しようということになりかねません。労使対等でない状況では使と “ものわかりのいい” 労の自治です。労組法の対等な労使関係が壊されようとしています。「縦の組合」 の再編成です。
すでに労基法36条の特別条項はザル法で過労死を生み出しています。

 対抗する労働者の闘いの方向性は人間性の獲得、人権尊重です。
 国際的に労働条件は、法律や労使関係・労働協約で規制されています。
 しかし日本では2つとも当てになりません。さらに法律が変えられようとしています。もう1つは、あるとしたら社会的世論で今後の課題です。「過労死防止法」、「日比谷派遣村」 は、労働者個人の責任ではないことを可視化しました。
 労働者は泣き寝入りしない、問題を隠さない闘いを起こす必要があります。

 労働者はどのようにして自己を守るか。
 職場で日常的に孤立しない仲間づくりを会社の分断化に抗するものとして構築する必要があります。自分たちだけではどうしようもないと思った時のために「1人でも入れる労働組合、コミュニティ・ユニオンがあります。コミュニティ・ユニオンは本物のセーフティネットです。
 そうすると情報交換、対抗する力の確保・蓄積を労働組合・ユニオンで行うことができます。1人に起きたことを個人の問題にしない、原因追及ができます。
 いじめには、原因 →経過 →現象 →結果の流れがあります。職場環境、労働安全衛生の問題として捉え必要があります。被害を小さくするには早期に声を上げる、騒ぐことが大切です。
 働き方・働かされ方の変化への対応に人権・人格権、生活権の観点を導入することが必要です。
 本来人間が持っている価値観は、不公平・不平等、モラルダウン、人間同士のいがみ合いを受け入れない、慣らされないもの。遠くにいる者に対しても、やっぱりおかしいことはおかしいと声をあげる、そのことが自分の人間性を取り戻すことになります。
 このようなことを保障し合う労働組合・ユニオン運動を推進しましょう。

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