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「政・労・使」 ではなく 「政&労・使」
2015/02/17(Tue)
 2月17日 (火)

 2月13日、労働政策審議会は、「今後の労働時間法制等の在り方について (報告)」 をとりまとめ、厚労大臣に建議しました。この後厚労省は通常国会に法案を提出、2016年4月1日からの施行を予定しています。
 「報告書」 は、冒頭で一般労働者の年間総実労働時間が2000時間を上回る水準で推移していることを認めたうえで (総務省統計。厚労省のデータは1800時間台と発表している)、労働者の健康確保に向けた取り組みをとして長時間労働を抑制するための取り組みをうたっています。実際にはどれくらいの長時間労働が存在するのか明らかになるものはありません。
 しかしそれに続けて、労働時間の規制がない労働者群を合法的に作すことを了承しています。長時間労働は、規制が行われている状態から緩和されるのではなく、すでに野放しになっているのがさらに推進されるということです。
 矛盾する2つの政策が同時進行です。

 報告書から問題の 「高度プロフェッショナル制度」 の部分を抜粋します。
「4 特定高度専門業務・成果型労働制 (高度プロフェッショナル制度) の創設
 時間ではなく成果で評価される働き方を希望する労働者のニーズに応え、その意欲や能力を十分に発揮できるようにするため、一定の年収要件を満たし、職務の範囲が明確で高度な職業能力を有する労働者を対象として、長時間労働を防止するための措置を講じつつ、時間外・休日労働協定の締結や時間外・休日・深夜の割増賃金の支払義務等の適用を除外した労働時間制度の新たな選択肢として、特定高度専門業務・成果型労働制 (高度プロフェッショナル制度) を設けることが適当である。
 なお、使用者代表委員から、高度プロフェッショナル制度は、経済活力の源泉であるイノベーションとグローバリゼーションを担う高い専門能力を有する労働者に対し、健康・福祉確保措置を講じつつ、メリハリのある効率的な働き方を実現するなど、多様な働き方の選択肢を用意するものである。労働者の一層の能力発揮と生産性の向上を通じた企業の競争力とわが国経済の持続的発展に繋がることが期待でき、幅広い労働者が対象となることが望ましいとの意見があった。
 また、労働者代表委員から、高度プロフェッショナル制度について、既に柔軟な働き方を可能とする他の制度が存在し、現行制度のもとでも成果と報酬を連動させることは十分可能であり現に実施されていること及び長時間労働となるおそれがあること等から新たな制度の創設は認められないとの意見があった。」

 労働者にとって賃金と労働時間は労働条件の根幹です。
 労基法が改正された場合の問題点については1月20日の 「活動報告」 に書きましたが労働法制の根幹、労働者の働き方が根底から変えられようとしています。「残業代ゼロ」 レベルの問題ではありません。
 

 2005年6月21日に日本経団連が 「ホワイトカラーエグゼンプションに関する提言」 を発表したことに対する反対運動が盛り上がった時は、同時に労働契約法の制定についても議論がまき起こりました。労働契約法案は現在の内容とは大きく違います。
 当時の労働契約法制定反対の意見は、労基法を改正して盛り込めはいい法案の項目をなぜ新たな法律として独立させるのかということでした。労働契約法で労使の契約・労働条件が個別的に決定されていくと労基法、労働組合法が持つ集団的労使関係が否定されてしまう危険性を指摘したものです。そのなかでホワイトカラーエグゼンプションが導入され、その条件である年収基準がどんどん下がっていったら労基法は機能しなくなることを危惧しました。
 当時、ホワイトカラーエグゼンプションに対して労働者と労働組合は 「残業代ゼロ」 のスローガンを掲げて反対の声を大きくして阻止しました。同時に労働契約法案も大きく修正させました。

 労働契約法に賛成する人たちもいました。労基法ではカバーできなくて放置されている問題を取り込むことができるという主張です。たとえば、解雇、雇用終了についてはそれまで規制する法律がありませんでしたが条件がつきました。労働者の安全への配慮は「判例法理」だけでなく法律になりました。
 しかし、労働契約法は労働者側に有利にだけではなく改正されて行くと、労基法、労働組合法を無視することが合法化されてしまう性格を持っていることを肝に銘じておかなければなりません。

 今回の 「ホワイトカラーエグゼンプション」 導入は労基法改正によってです。
 労働条件を規制するには2つの方法があります。1つは国が法律によって。2つ目は労働組合の力です。しかし日本では2つともあてになりません。もう1つの社会的力・世論も労働者に味方することはほとんどありません。
 厚労省が2003年10月22日に出した労基法36条の運用に関する 「通達」 (基発第1022003号) の 「特別条項付き協定」 は年間2000時間をはるかに上回る労働時間の強制を合法化しています。労働組合が機能していないからです。そのようなことを承知の上で 「報告書」 は労使の自主的取組の促進を提案しています。使のやりたい放題です。


 労働法の改正と企業の労務政策・賃金制度改革は同時に進行します。
 昨秋から、賃金制度を改正して 「役割給」、「ジョブグレード制度」 を導入する企業が増えています。ソニー、パナソニック、日立、トヨタなどです。賃金の持つ性格が変えられようとしています。賃金が労使の対等な関係のなかでの労働の対価ではなく、会社に対する「忠誠」への対価になります。その結果、無償労働と長時間労働がはびこることは明らかです。

 そもそも今回も言われている成果とは何をいうのでしょうか。あいまいです。
 1995年から成果主義賃金制度が導入されましたが上手くいかないということがわかるとすぐに軌道修正が行われ、「役割給」 が登場しました。役割給も成果主義賃金制度と呼ばれます。役割給は、企業全体の経営方針や価値観についての 「職責を果たすために進んでとるべき行動」 や 「貢献することの責任」 をミッションと呼び、位置付けがあいまいなミッションの達成度に対して賃金が支払わる制度です。成果でも実績でもない 「貢献」 が評価される役割給はこれまで以上に労働者を企業に従属させます。そしてエンドレスの貢献を要求され、疲弊したら使い捨てです。
 これが 「報告書」 のなかの使用者の主張である 「労働者の一層の能力発揮と生産性の向上を通じた企業の競争力とわが国経済の持続的発展に繋がることが期待」 です。
 このような “労使関係” が作り出されようとしています。


 政府は 「過労死促進法」 と呼ばれる法改正を進めようとする一方で 「過労死防止法」 を制定させ、長時間労働削減推進本部を立ち上げて議論を進めています。この関係性はどのようなものなのでしょうか。

 世界人権宣言に基づく社会権規約委員会は、2013年4月30日にジュネーブの国連人権高等弁務官事務所で日本の社会権規約の実施について第3回の審議をおこないました。(2013年7月9日の 「活動報告」) 審査最終日の5月17日、総括所見が発表されました。日本政府に対しては37項目におよぶ 「日本の第3回定期報告書に関する総括所見」 が発表されました。
 長時間労働については17項目目です。
「17.委員会は、締約国が雇用主に対して自主的な行動をするように奨励する措置を講じているにもかかわらず、多くの労働者が今なお非常に長時間の労働に従事していることを懸念する。また、委員会は、過労死及び職場における精神的なハラスメントによる自殺が発生し続けていることも懸念する。
 委員会は、社会権規約7条に定められた、安全で健康的な労働条件に対する労働者の権利、そして、労働時間に対する合理的な制限に対する労働者の権利を守る義務に従って、締約国が長時間労働を防止する措置を強化し、労働時間の延長に対する制限に従わない者に対して一般予防効果のある制裁を適用するよう勧告する。また、委員会は、締約国が必要な場合には職場におけるあらゆる形態のハラスメントを禁止、防止することを目的とした立法、規制を講じるよう勧告する。」
 そして37項目目は 「37.委員会は、締約国に対し、委員会が2008年に採択したガイドライン (E/C.12/2008/2) にしたがって、次回の定期報告書を2018年5月31日までに提出するよう要請する。」 です。
 これまでの日本政府の答弁は、労基法36条で労働時間はきちんと規制されているというものでした。しかしその説明では不充分だという指摘です。
 おそらく今後提出する報告書には 「過労死防止法」 を制定させた、長時間労働削減推進本部を設置して取り組んでいると記載すると思われます。そして労働時間にとらわれない働き方、裁量労働制の拡大ということで実労働時間をカウントをしない方法で長時間労働を誤魔化そうとしています。

 過労死等防止対策推進協議会に提出された総務省の労働力調査の資料によると2013年の週の雇用労働者の労働時間が60時間以上の者の割合は8.8%、474万人います。60時間以上の具体的時間ごとの区分はわかりません。国際的データでは60時間はマックスでそれ以上の労働者が存在することを想定していません。それに合わせて日本でも区分をしていませんが、労災認定や労基署の立ち入り調査においては月100時間以上、120時間以上なども多く存在しています。
 2000年6月閣議決定した 「新成長戦略」 で政府は2020年までに週の労働時間60時間以上の者の割合を5%、260万人に減らそうとしています。しかし逆に言えば、2020年にも20人に1人は健康障害リスクが高まるとする過労死ラインの月80時間を超えて働いていることになります。はたしてこれは戦略、政策と呼べるものなのでしょうか。

 「今後の労働時間法制等の在り方について (報告)」 を強行的にまとめて建議した労働政策審議会労働条件分科会会長は岩村正彦東大教授、過労死等防止対策推進協議会会長も岩村会長です。一方で過労死を作りだし、一方で防止をするという議論の責任者です。
 このような厚労省の御用学者が公益委員と称して牛耳って 「政・労・使」 ではなく 「政&労・使」 を構成しています。


 労働法制の根幹、労働者の働き方を根底から覆す労基法改正を何が何でも阻止していかなければなりません。まだまだ間に合います。

   関連:「活動報告」 2015.1.20 
   関連:「活動報告」 2013.7.9
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