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韓国:感情労働                                                          客は従業員の人格まで侵害する権利はない
2015/01/27(Tue)
 1月27日 (火)

 大韓航空の副社長が、搭乗していた飛行機の乗務員がナッツを袋のまま出したことに怒って航空機を引き返させたいわゆる 「ナッツ・リターン」 事件は、副社長が財閥の娘だったということを含めて様々な議論に発展しています。
 しかし、このような事件は韓国では特異なものではなく、今 「感情労働」 に従事する労働者の問題は深刻になっています。この事件後にも似たような事件が発生しています。
 いかにも日本で 「半沢直樹」 がヒットした後に職場で “土下座” が行われているのと同じです。
 韓国におけるこの間の感情労働についての動向を整理します。

 1月8日の 「中央日報」 の社説は、「『デパート母娘事件』 …他人に対する配慮が消えた韓国社会」 の見出しです。韓国ソウル近郊のデパートで、客の母娘が駐車場のアルバイト生をひざまずかせて頬を殴ったという主張がネット上に流れた事件です。

 事実関係を確かめてみると、特権層の権力乱用というよりは客の我が物顔の振る舞いといえるだろう。だが、多くの人はこの事件を起こした母娘の単なる逸脱行為とは見ていない雰囲気だ。私たちの周辺でよく目撃する後進的な実状だからだ。ネット上には我が物顔の客による暴言で心を傷つけられた 「感情労働者」 らの怒りがあふれ返っている。一部の非常識な暴力は感情労働者を病や死に追いやることもある。
 昨年11月、入居者の暴言に耐えられず焼身自殺をしたソウル江南 (カンナム) のあるアパート警備員Lさんの家族は、入居者と警備企業を相手取り、最近、民事訴訟を起こした。原告側の弁護人は 『Lさんの死に謝罪して責任を全うしなければならない管理会社と入居者が責任を回避している』 とし 『彼らはLさんを死に追い込みあたたかい家庭を破綻に追いやった直接的な原因だ』 と主張した。
 われわれ韓国社会は経済的に相当な水準に到達した。ところが自身の権利を主張する一方で他人の権利も尊重しなければならないという市民意識はまだまだ身についていないようだ。甲乙関係の 「甲」 でないなら詐称してでも損を回避しようとする浅はかな身分社会の残骸が今も残っている。まだ一部の企業オーナーは職員を作男 (雇い人) だと思い込み、一部の我が物顔の顧客は従業員を召使のように冷遇する。『お客様は神様』 は、企業が利益を最大化するためにつくり出したただのスローガンに過ぎない。
 客は支払った分に対する待遇を受ける権利はあるが、従業員の人格まで侵害する権利はない。一部は感情労働者に対する法的保護を強化しなければなければならないと主張する。だがこれは法で解決するような問題ではない。自身の行動が他人に害を及ぼしていないか振り返る成熟した市民意識が先に定着してこそ解決される問題ではないか。

 関連する記事が14年10月31日のソウル=聯合ニュースに 「『入居者応対』 に苦しむマンション警備労働者」 の見出しで載りました。

 今月7日ソウルのあるアパート警備員の焼身自殺未遂で、アパート警備員の労働条件に社会的な関心が集っているなかで、賃金を以外に 「入居者応対」 が最も大きいストレスの要因と分かった。
 ハン・イニム労働環境健康研究所・研究員は 「アパート警備員の労働人権改善のための緊急討論会」 でこのように報告した。
 労働環境健康研究所によれば、8~9月にソウルの団地で働く警備員152人を対象にアンケート調査を実施した結果、回答者の39.6%が、この1年間にことばの暴力を体験したと答えた。
 ことばの暴力を体験したこれらの46%は1か月に1回以下、36%は1か月に2~3回体験したと答えたが、『ほとんど毎日』 が6%にもなった。また経験者の69.4%は加害者は 「入居者と訪問客」 とした。
 この1年間で身体的暴力や脅しに遭ったことがあると答えた人も8.9%だった。加害者の72.7%は 「入居者と訪問客」 だと答えた。
 回答者の15.8%が、昨年一年間に業務中の事故で病院や薬局を訪ねたと答え、このうち66.7%は治療費を自分で出したと答えた。労災保険で処理したという答は18.5%に過ぎなかった。

 さらに関連記事です。14年10月22日の 「毎日労働ニュース」 は 「政府は感情労働・精神疾患を労災と認定せよ 野党議員が福祉公団の国政監査で」 の見出し記事を載せました。

 ソウルの江南 (カンナム) のあるアパートで発生した警備労働者の焼身事件と関連して、国会・環境労働委員会の野党議員は 「感情労働の被害を減らすために、精神疾患を積極的に労災に含ませなければならない」 と声を揃えた。
 ハン・ジョンエ新政治民主連合議員は勤労福祉公団の国政監査で、「最近5年間の精神疾患による労災申請承認現況」 を公開した。資料によると2010年から今年の6月まで、精神疾患に関連した労災申請件数は517件で、労災が承認されたのは167件に過ぎなかった。
 ハン・ジョンエ議員は 「精神疾患に関連した労災審査に対する制度的な規定が不備なため」 と指摘した。特に 「精神疾患の労災処理に関する社会的な議論を疎かにした雇用労働部に責任がある」 と批判した。
 実際に公団は、昨年 「精神疾病の業務関連性の判断と療養方案研究」 で、「うつ病や不安障害などは業務関連性を証明しにくく、外傷後ストレス障害以外の精神疾患は労災認定基準に含ませにくい」 という消極的な結論を出していた。
 公団は最近、精神疾患に対して別途の災害調査シートを作るように調査指針を改正したが、根本的な対策にはなっていないというのがハン議員の指摘だ。「調査指針の改正でなく、労災の審査対象と承認基準を拡げるような制度改善が必要」 と強調した。
 同党のチャン・ハナ議員は 「安全保健公団は2011年から 『感情労働による職務ストレス予防指針』を作って対策を立てているが、労災との関連性を判定する勤労福祉公団は消極的な対処しかしていない」。「労働者の感情労働を含む業務上のストレスを、労災として受け容れる必要がある」 と主張した。
 イ・ジェガプ公団理事長は 「精神疾患の労災認定基準を拡げるより、調査指針の改正に力を入れている」。「精神疾患の労災認定可否を統合的に審理するソウル疾病判定委員会に、精神疾患専門医を増やす」 と答えた。

 この警備員たちは最近、改善要求を掲げて労働組合を結成しました。


 14年9月24日のハンギョレ新聞は、「暴言にセクハラ…深刻な青年アルバイトの 『感情労働』」 の見出し記事を載せました。

 24日に青年ユニオンが感情労働全国ネットワーク、国会環境労働委員会チャン・ハナ新政治民主連合議員室と共に全国15~29歳のアルバイト生225人を調査した 「感情労働実態調査結果」 を発表しました。調査対象者はコンビニ、ファーストフード店、レストラン、飲み屋、コーヒー専門店、パン屋など、主にサービス業種で仕事をしているアルバイト生です。
 最近1年間にお客さんから無理な要求を受けたことがあると答えたのは121人 (53.8%) に達しました。 114人 (50.7%) が人格を無視されることを言われたと、89人 (39.6%) が悪口や暴言を言われたことがありました。 セクハラや身体接触をされたは34人 (15.1%)、身体的威嚇は35人 (15.6%)、暴行9人 (4%)です。
 インタビューに応じた1人は 「オーストラリアのワーキングホリデーのプログラムに参加した時は、お客さんの行きすぎた要求はマネジャーが遮断してくれました。 ところが韓国では 『お前がお客さんにうまく接しないからだ』 という言葉がとても自然に出てくる」 とうんざりした顔をした。」 ということです。
 「過度な感情労働は体と心を害する。 20代でコンビニ・飲み屋・レストランでのアルバイトをしたチョン・ジェヨンさん (30) は 『仕事を終えて家に帰ると誰とも話をしたくなかった。 ささいなことで怒ったり、自らを役に立たない人間だと感じもした』 と話した。 キム・ミンス青年ユニオン委員長は 『アルバイトの現場で被った傷は、自尊心低下、うつ病、就職拒否症状などにつながる。 雇用労働部と関連企業が対策を用意しなければならない』 と語った。」 とあります。


 感情労働での被害は自分自身をも破壊させてしまいます。
 具体的対策の取り組みです。

 14年10月6日の毎日労働ニュースに 「タサン・コールセンター、公共機関で初めて 『有給感情休暇』 保障 年に1回保障、経歴5年越えれば2回」 の見出し記事が載りました。

 タサン・コールセンターが公共機関で初めて有給の感情休暇を導入する。希望連帯労組タサン・コールセンター支部は暫定合意案について組合員の賛否投票を行う。
 希望連帯労組によれば、タサン・コールセンター支部と委託業者の交渉権を委任された経済人総連は、先月30日に集中交渉を行った結果、暫定合意案を作った。合意案によれば、組合員は年1回 「感情馴化の有給安息休暇」 を取れるようになる。勤続年数が5年を超えれば更に1回追加して使用することができる。暴言とセクハラなどに苦しめられるコールセンター労働者の心を治癒するための措置だ。
 ソウル市は8~9月に2回の労組との面談を通じて交渉を仲裁し、委託業者が解決しにくい福祉問題の解決対策を約束した。
 感情労働が社会的な争点に浮上したが、未だ感情労働保護対策や補償は一部の私企業のサービス事業場に限定されている状況で、今回の事例は他の公共機関にも影響を及ぼすものと見られる。

 14年10月14日のハンギョレ新聞に 「『感情労働』 から社員を守る企業が増える兆し」 の見出しの記事が載っています。 全文です。

 顧客に応対した社員が悪口や暴言を浴びせられた時、会社はどのように対処しなければならないか? 「お客様は神様」 だから我慢しろと命じるか、あるいは、たとえ顧客を失うことになってもまず職員を保護しなければならないか? 今後、イーマート (訳注:韓国の代表的大型マート) の顧客応対社員はそんなことが起こった場合 「相談が困難です」 と了解を求めた上で、通話を切った後に部署長に報告すればすむようになる。心に傷を受けた職員に対しては、休息が必要と判断されれば部署長は早退などの勤務調整措置を取り、最高の先任者や自分自身が代わりに顧客と通話することになる。
 イーマートの職員たちが顧客に応対する時に受けるストレスによる “感情労働” を認めてほしいと要求してきたことに対して (ハンギョレ6月19日付)、会社が代案プログラムを用意したと14日明らかにした。 顧客に応対する時に発生しうるストレスを予防し、社員を保護するための 「イーケア (E-Care)」 プログラムだ。
 まずイーマート150全店舗に店長らが参加する内部苦情処理委員会の力量を強化するために相談教育を実施し、業務関連ストレス相談だけでなく家庭、子供の問題など個人的な問題についても心理相談を行う予定だ。 感情労働により職員に心理的安静が必要だと判断されれば、早退させ休憩室も改善する予定だ。 状態が深刻な職員のためには心理相談の専門機関である韓国EAP (Employee Assistance Program) 協会の協約機関との相談と連係することにした。極端な悪口などを言う顧客に対しては、顧客の了解を求めて電話を切れという初期対応マニュアルを製作し配布した。また、各店舗ごとに顧客応対が優秀な職員を選抜し、消費者専門相談士資格証の取得を支援する計画だ。
 顧客対面が多い流通業界を中心に、職員の感情労働に対する代案準備が進んでいる。“お客様は神様” という風土の下に職員に全面的責任を転嫁するのが以前の文化だとすれば、職員のうつ病、自殺など深刻な後遺症が社会的に台頭して “悪質な顧客” を選び出して職員を保護しようという動きが広がっているわけだ。
 イーマートの場合、職員が労働組合を中心に昨年から感情労働の価値を認めてほしいと訴えてきた。イーマート労組は昨年4月から今年4月まで 「感情労働の価値認定と顧客応対マニュアル作成」 を団体協約に反映させることを要求した。チョン・スチャン イーマート労組委員長は 「感情労働は顧客応対の内部原則が守られないために発生する場合が多い。 例えば、領収書持参、期間基準などの払い戻し規定があるが、顧客が規定を拒否した場合、末端職員が原則通り対応しても管理者が現れ顧客の希望通りの措置を取るケースが多い。マニュアルも重要だが、そのような状況を源泉から遮断できる環境造成も重要だ」 と話した。
 イーマートに先立つ今年1月にはホームプラスが、「‘労使は組合員の感情労働の価値を認める」 という条項を団体協約に含めた。釜山のロッテ百貨店は 「感情労働者自己保護マニュアル」 を用意し “感情労働者ヒーリング・プログラム” も運営中だ。
 感情労働に対して別途の手当てを支給する企業も増えている。ロレアル・コリアは全国のデパートで化粧品を販売する職員に月10万ウォンの感情労働手当てを支給している。1年間1日の休暇も別途与えられる。 資生堂は月額4万ウォンの手当てを、釜山新世界免税店は月額3万ウォンの手当てを支給している。大型マートの中では手当てを支給する所はまだない。
 流通企業ではないが顧客対面が多いサムスン・エバーランドも感情労働に従事する職員のための心健康管理専門プログラム “ビタミン キャンプ” を開発し、今年6月から運用している。

 関連する記事が2014年10月23日の 「毎日労働ニュース」 に 「イーマート・CJ第一製糖など、ソウル市と 『感情労働者人権保護協約』 締結 サービス連盟 『協約履行を見守る』」 の見出し記事が載りました。

  ソウル市が7月から主導している感情労働者人権保護協約に、イーマートなど3企業が追加で参加した。協約締結式にはイーマート・CJ第一製糖・アジア洲キャピタルが参加し、緑色消費者連帯・企業消費者専門家協会も同席した。ソウル市は韓国ヤクルト・LG電子・愛景産業など6企業と1次協約を結んでいる。
 ソウル市は 「1・2次に参加した9企業は、業務の特性上、顧客を直接相手にしたり電話応対が多い大型流通業者やショッピングモールで、感情労働者が多く働く企業」 であり、「感情労働者の人権保護の観点から、他の企業の実践を誘導できると期待する」 とした。
 協約を締結した企業は 『企業の10大実践約束』 を基に、感情労働者の勤務環境改善のために努力することになる。10大実践約束は、△感情労働者の基本的人権の保障・支持、△安全な勤務環境の造成、△適正な休憩時間・休日の保障、などが内容。
 イ・ソンジョン・サービス連盟政策室長は 「イーマートが最近 『社員保護応対マニュアル』 を作って全職員に配布したが、その趣旨と内容は悪くない」 ので、「このような感情労働者保護のための試みがキチンと作動するかどうか、もう少し見守らなければならないだろう」 と話した。


 日本ではまだ自己責任の防衛手段が対策の中心になっています。 『お前がお客さんにうまく接しないからだ』 です。
 しかし相手の振る舞いを野放しにするような社会状況のなかで根本的対策にはなりません。「お客さんの行きすぎた要求はマネジャーが遮断してくれる」 ような対策が必要です。そして 「マニュアルも重要だが、そのような状況を源泉から遮断できる環境造成も重要だ」 です。
 感情労働者の基本的人権の保障・支持、安全な勤務環境の造成、適正な休憩時間・休日の保障など、雇用労働部と関連企業を含む社会全体での改善の取り組みが早急に必要です。


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