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鉄道労働者への暴力は“社会を写す鏡”
2014/12/10(Wed)
 12月10日 (水)

 日本民営鉄道協会は10月4日、今年度上期 (4~9月) の大手私鉄16社の駅員や乗務員らに対する暴力行為の件数が125件に上ったと発表しました。暴力事件とは被害者が治療を要した事件数だけです。2000年度から毎年度上期と下期に分けて発表していますが2008年度下期と同数のこれまでの最多でした。
 具体的には、2000年度は年間75件で、その後少しずつ増加していきます。2007年度下期に100件を超え、2008年度に年間236件に急増します。その後微減を続けていました。2007年下期頃からはサブプライムローン問題による世界金融不安が拡大していき、2008年にリーマンショックが起きます。
 いじめ、暴力行為の件数は社会状況を大きく影響を受けています。

 データ分析として、主な契機別発生件数が発表されています。
 多い順に、「理由なく突然に」 43件 (34%)、「酩酊者に近づいて」 30件 (24%)、「迷惑行為を注意して」 17件 (14%) です。順位は3年間同じです。
 「理由なく突然に」 は防ぎようがありません。加害者は日常的に蓄積しているストレスを、抵抗しないと思われる対象を選んで、その時の自分の気分を発散させます。
 特に加害者は72%が 「飲酒あり」 で、22時から終電までの時間帯に多く発生しています。
 加害年齢は60代以上が21%、40代が20%、30代が17%、20代が15%です。「若者が暴走」 などではなく、やはり生活や仕事のストレスが原因となっているように思われます。
 発生場所は、改札38%、ホーム32%、車内13%などの順です。
 事例としては、火曜日の17時~22時、酒を飲んでいる60歳代が理由なく突然に改札付近で大声を出しながら改札担当の係員に掴みかかろうとしたため、他の係員と引き離そうとしたところ、頭を殴られて負傷したなどがあります。


 12月9日に、国土交通省は2013年度の 「鉄道係員に対する暴力行為の発生件数」 を発表しました。大手民鉄16社の他にJR3社・東京都交・横浜市交・名古屋市交・大阪市交・東京モノレール・北総・愛知環状の計26社局の調査結果です。
 暴力行為を、唾かけ行為なども含めてとらえた幅広い集計では、発生件数は全国で852件、前年度の932件から80件の減少です。そのうちの警察に届け出た件数は552件です。
 都道府県ごとの発生状況の票がありますが都道府県で比率が大きく違います。おそらく会社ごとで対応マニュアルが違うのと、東京などでは多すぎていちいち報告していないということもあるのかもしれません。報告しにくいという状況もあるのかも知れません。泣き寝入りです。
 加害者は57%が 「飲酒あり」 です。
 事例としては、改札で深夜、30代が料金が不足しているので呼びかけた際、膝蹴りを受けた上で、目に指を突き立てられるなど全治7日の暴行を受けたが、後日、家族の謝罪もあり示談となったなどがあります。


 この間、新聞に載った事件を紹介します。
 9月27日の 「毎日新聞」 です。
「最終電車の終着駅で起こされたのに腹を立てて駅員を殴ったとして、埼玉県警東松山署は27日、警視庁保安課警部補 (54) を暴行容疑で現行犯逮捕したと発表した。酒を飲んでおり 『手を出していない』 と容疑を否認しているという。
 逮捕容疑は、27日午前0時55分ごろ、東武東上線森林公園駅 (同県滑川町) に到着した最終電車内で寝ているところを起こされた際、男性駅員 (21) の胸を殴ったうえ、止めに入った別の男性駅員 (47) の胸も殴ったとしている。
 警視庁の警務部参事官は 『誠に遺憾。捜査結果を待って厳正に対処する』としている。」

 12月10日の 「神戸新聞」 です。
「駅員を殴るなどしたとして、兵庫県警明石署は10日、暴行の疑いで、自衛隊大阪地方協力本部所属の広報官の男 (45) を現行犯逮捕した。
 逮捕容疑は同日午前1時20分ごろ、JR西明石駅の改札口で、男性駅員 (24) の顔や脇腹を殴ったり蹴ったりした疑い。容疑を認めているという。
 同署によると、改札を無理やり乗り越えたため、声をかけた駅員に激高し、殴りかかったという。駅員は柔道の有段者で、男の攻撃をかわしながら、最後は寝技の「けさ固め」で取り押さえたという。
男は当時酒に酔った状態で、最寄りの駅を乗り過ごし同駅で降りたという。」
 容疑者は大阪市内で同僚と飲酒した後、降りる駅を寝過ごし、終点の西明石駅で改札を乗り越えて外に出たため駅員が呼び止めました。 「むかっときて殴りました」 と容疑を認めているといいます。

 特に公務員を選んだわけではありません。民も公ストレスが蓄積し、発散させる手段を持っていません。
 そのような中で駅員は被害者になっています

 ではどうしたらいいでしょうか。
 いじめ メンタルヘルス労働者支援センター著 『“職場のいじめ” 労働相談』 (緑風出版) から引用します。
「具体的例からは、世相が見えてきます。
 酔っ払いが多くいます。酒を飲むと平常心を失い、強がりをいいながら乗り越しなど自分の失敗の憂さ晴らし方法を探します。酔った勢いでしか自己主張できず、日頃の鬱積した気持ちを抵抗しない他者への攻撃的行動で爆発させます。
 失敗に遭遇した時、回復、脱出方法を探るのではなく、『立ち往生』 している姿です。解決策を探す行為や支援要請に向かうことを思いつかない (つけない)、日常的に孤立して追い詰められ、脱出できない状況におかれている姿そのものです。攻撃性は慢性的挫折が日常化しているなかから出る反応です。だから手加減のない力を発揮します。
 酒を飲んでいなくても、会社ではおとなしい利用者が、社外に出ると攻撃性を表出します。職場での我慢・不満・鬱積の発散を帰宅途中でのサービス業に従事する労働者などに衝動的に転化させてしまっています。無意識のうちに憤懣をぶつけても無視をしない、反撃しない、相手にして主張を聞いてくれる対象者を探し、ささいな出来事に因縁をつけて逃がしません。
 労働者が自己の存在を主張する場が奪われています。認め合える同僚や仲間がいません。このような利用者の行為は自分の言い分を聞いてほしい、自分を認めてほしいという社外でしかできない自己主張です。自分の要求が通ったからといって攻撃を終了しないで次から次へと要求します。我慢・不満・鬱積の元凶にぶつけるのではないので問題が解決しないからです。人が恋しいということの裏面です。
 暴力行為や相手の人格・人権を否定する言動にまで至ります。自分の人格が否定されている姿を鏡に映しているようなものです。労働者の奪われた尊厳は、他者の尊厳を破壊する方法では回復しません。」

「このような行為は職場からの連鎖反応です。会社や社会の競争主義、分断政策、孤立化政策のひずんだ現象です。労働者同士、人間同士、お互いへの思いやり、立場の理解ができなくなっています。
 利用者は鉄道職員より偉いと思っています。サービス業に従事する労働者を見下しています。社会の私物化です。
では鉄道職員が反撃したらどうなるでしょうか。世論は、おそらくやりすぎ、立場をわきまえていないという理由で職員を批判します。サービス業に従事する労働者の地位はやはり低められています。
 しかし、鉄道職員が一方的にそのような対象にされるのはたまったものではありません。」

「対策には、ILOや韓国のサービス連盟が具体的に提案しているように、労働者・消費者・政府・企業それぞれの役割があります。解決方法としては、クレームや攻撃は起こることを前提に対策を取る必要があります。
 まず企業・使用者は、トップから職員を守る姿勢をはっきりさせる必要があります。最終的責任はトップが負うというアピールが必要です。そのうえでトラブルが発生した時のサポーター体制を確立しておくことが必要です。ましてやそこでのトラブルを評価の対象にしないことが必要です。そうすると労働者は少しは安心して対応できます。
 しつこいクレーマーにははっきりと 『業務妨害』、『暴力』 であると提示し、企業・使用者は労働者に、顧客との対応を拒否する決定権限を与えることが必要です。(韓国のように) 『感情労働者に不当要求拒絶、謝らない権利を付与せよ』 『電話を先に切る権利を与えよ』 のようなことをマニュアル化する必要があります。クレーマーは一歩譲歩すると二歩付け込んできます。クレーマーの顧客が減っても企業の売上高は大きく減少しません。むしろクレーマーに対応している時間はチャンスロスが発生しています。

 そのうえで労働者は、心構えが必要です。
  ・自分に向けられたものだとは思い過ぎない。
  ・相手の社会に対する不満がたまたま自分に向けられていると理解する。
  ・相手の感情に巻き込まれない。弁解しない。その方が早く終了する。
  ・後で誰かにその時の状況を、感情を含めて話して聞いてもらう。
  ・終了したら休息をとる。
  ・体験を共有化する。
です。」


 加害者の多くも職場でストレスを抱え、その解消を営業やサービス業労働者に向けます。労働者が労働者をいじめています。悲しいことです。
 このような行為は、労働者の賃金そして感情をバーゲンセールすることになってしまいます。心身を壊しながら労働の安売りをしています。商品の価格破壊ではなく、労働の価値を破壊しました。労働条件の悪循環と労働環境の悪化をもたらしています。
 労働者の感情破壊攻撃は暴力です。
 国鉄の分割民営化の後、鉄道労働者への暴力が増大しました。行政改革・「小さな政府」 攻撃は公務員バッシングを加速させ、今も続いています。賃金が高すぎる、遊んでいるという攻撃は、民間労働者の賃上げを抑制させ、過重労働を強いる効果も持ちますが民間労働者は気が付きません。

 反論しない・できない労働者へのバッシングは暴力です。起きている事件は “社会を写す鏡” です。

    関連:「労働安全衛生 職場の暴力」
   当センター「いじめメンタルヘルス労働者支援センター」ホームページ・ご相談はこちらから
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