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黄金の花は いつか散る
2014/12/25(Thu)
 12月25日 (木)

 2014年が終わろうとしています。この1年は、それぞれにとってはどんな年だったのでしょうか。

 政府は景気が回復に向かっていると主張しますが、世論は大きく2つに分かれます。持てるものは苦労しないで富を増していきます。持たないものは生活維持が大変です。社会の二層化が進んでいます。

 権力を握っているものは、人々からさらに搾り取ろうとします。消費税率の引き上げです。
 権力を握っているものは、今がチャンスとばかりに憲法9条を無視し、しかもちゃんとした議論もしないで集団的自衛権、特定秘密保護法の具体化を推し進めようとしています。
 権力を握っているものは、労働者を自由にこき使って収益を独占しようとしています。労働法制の規制緩和、ホワイトカラーエグゼンプション導入の動向です。
 権力を握っているものは、それを振りかざします。国会解散はその最たるものです。富むもののための政策が推進されます。
 それぞれ、ここまでやるのかという思いです。
 東日本大震災は遠い昔の出来事のように追いやられています。原発の再稼動の動きがあります。


 今年はミレーの絵画展が各地で催されました。なぜいまミレーなのでしょうか。偶然ではないようです。
 殺伐とした現実を離れて人間の優しさが語りかけてきます。
 農民作家で、大作 『橋のない川』 を完成させた住井すゑの小説 『夜明け朝明け』 の “あとがき” です。
「哀しい時に、人は泣くといいます。それは、嘘ではありません。しかし、人は悲しい時だけ泣くものではありません。ふつう、いわれているような悲しさでは、私は泣きません。
 私は、悲しいもの、真実なものの前に泣きます。時には、その美しさ、真実さに感動して、おえつのとまらないことさえあります。たとえば、フランスの田園画家、フランソア・ミレーの画です。あの “アンゼラス” や “落穂拾い” を見ていますと、画中の人の心がじかにひびいてきて、私は、どうしても涙を流さずにはいられません。
 “アンゼラス” の人たちはいいます。
『あ、今日も、私は、生きている。終日働いて、今、ここに、こうして寺院のかねをきいている。そして、あすも、あさっても、私は働いてあのかねをきくだろう。』

 “落穂拾い” の彼女はつぶやきます。
『私のいとしい児よ。私は決してお前をこの畑に、おいてけぼりしてはいかないよ。おまえが、どんな苦労をして、一人前の穂になったか私は知っている。さあ、早く私の胸につかまっておくれ。』
 これ以上に美しい、これ以上に真実な人間の姿がまたとあるでしょうか。
 ミレーはこれにこたえて、
『なるほど、わたしの絵は、汗とほこりにまみれて働いている人たちばかりだ。着飾った貴婦人や遊楽に耽る貴顕紳士は1人もいない。だけども、だから私の絵が卑俗だとか、不愉快だとかいうのはあたらない。
 働く人が、土を耕し、種をまき、作物を刈り、これを調整するために、顔をゆがめたり、足をねじ曲げたり、たらたら汗を流したり、苦しい表情をするのはあたりまえだ。私が、その人たちの苦しさを苦しさのままに表現するのは、働く人たちの自然の姿、真実の姿を伝えんがためだ。その自然の姿が、卑しいというのはどういうわけだろうか。その真実の姿を見て、不愉快になるというのはどうしたことだろうか。
 働く人たちが、どんなにみにくく顔を歪めても、どんなに乱暴に手をふり上げても、また、どんなにはげしく目をつり上げても、それは、物を生産するためであって、決して人を罵ったり、物をはかいしたりして他人に迷惑をかけるためではない。いや、反対に、その生産によって、自分をはじめ、他人の生命までも保証しているのだ。もしこの世に、こうした姿で働く人がいなければ、パリの紳士や貴婦人も生きていけなくなるではないか。にもかかわらず、この人たちの姿を、みにくいとか、卑しいとか、不愉快だとかいうが、その人たちこそ、実は、美をりかいしていないのだ。
 私は、パリの華やかな生活を楽しむ貴婦人や、享楽をのみ追う紳士よりも、腰を曲げ、汗を流して働く百姓の姿こそ道徳的だと思っている。道徳的であるということは、善だということだ。善はよろこばれ、愛される。善は美しい。その人にとっても、また、周囲の人にとっても、絶対に美しい。百姓のうちの百姓である私は、それ故、生涯をかけて百姓の絵をかくであろう。』」

 “落穂拾い” は、いつの世でも、どこでも百姓は行います。育てたいとし子を大切にし、労働の喜びを感受します。TPPの動向いかんで営農を続けようか、止めようかと悩んでいる農民もします。原発事故で追われた福島の農民たちも抱いていた思いです。
 安部政権とその取り巻きはその喜びを知りません。いかにもパリの紳士や貴婦人のようです。

 今年はアメリカで黒人への攻撃とそれに抗議する動が盛り上がりました。
 200年前からアメリカ社会はどの程度変化したのでしょうか。1875年にジェイムズ・T・レイビアが連邦政府下院議員でおこなった公民権法案を支持する演説です。
「議長殿、人間の心には他人を抑圧して喜びを感じる、臆病者の性向があります。この卑しい欲望を満足させるために、安全を剥奪できる人物を犠牲者に選びます。世界の諸国では、一般的にユダヤ人がその犠牲者となってきました。この国ではその目的にもっとも適ったのが黒人です。ほかに比べ生まれつき劣等だったからではなく、安全を剥奪しやすい人物であるため黒人は対象になりました。黒人が精神的文化の高い要求に応じる能力がないと敵が信じているどころか、明らかにその反対で、白人たちは黒人の進歩を実にまめまめしく阻止しています。白人の器量が狭ければ狭いほど、黒人の知的・精神的進歩を妨げようと躍起となります。黒人が進歩したときの結果を恐れるという、単純ですが納得できる理由からです。白人は黒人が人間として、紳士として、高い精神的基準に到達するのを望んでいないのです。」 (荒このみ編訳 『アメリカの黒人演説集』 岩波文庫)

 フォークソング 『勝利を我らに (we shall overcome)』 は、1930年代にタバコ産業の黒人労働者の1人が、解雇に抗議して毎日門前で歌っていたら少しずつ人の輪が出来ていって合唱になったといいます。ルーツは労働歌です。

   We shall overcome, we shall overcome,
   We shall overcome someday;
   Oh, deep in my heart, I do believe,
   We shall overcome someday.

 その後、公民権運動やベトナム戦争被反対する運動の中で歌い継がれていきます。
 労働歌として歌われてから80年、公民権運動で歌われてから50年。黒人の置かれている状況はどれくらい変わったでしょうか。可視化されない差別が温存・拡大されています。

 安部政権とその取り巻きは、アメリカ社会の白人と同じで臆病者の性向がある者ばかりです。日本においても差別は拡大しています。正規労働者と非正規労働者、そしてヘイトスピーチです。差別を助長する社会構造が拡大しています。

 沖縄の人びとは、辺野古基地建設反対運動を中心に大和に対抗し続けた1年でした。
 県知事選、年末の総選挙の結果は、沖縄戦を体験し、「復帰」 40年を過ぎた沖縄の人たちの民意です。全体の選挙結果とは対照的です。

   黄金の花が 咲くという
   噂で夢を 描いたの
   家族を故郷 故郷に 
   置いて泣き泣き 出てきたの

   素朴で純情な 人達よ
   きれいな目をした 人たちよ
   黄金でその目を 汚さないで
   黄金の花は いつか散る 

  
   楽しく仕事を してますか
   寿司や納豆 食べていますか
   病気のお金は ありますか
   悪い人には 気をつけて

  
   素朴で純情な 人達よ
   ことばの違う 人たちよ
   黄金でその目を 汚さないで
   黄金の花は いつか散る 

  
   あなたの生まれた その国に
   どんな花が 咲きますか
   神が与えた 宝物
   それはお金じゃ ないはずよ

  
   素朴で純情な 人達よ
   本当の花を 咲かせてね
   黄金で心を 捨てないで
   黄金の花は いつか散る

  
   黄金で心を 捨てないで
   本当の花を 咲かせてね

 98年に作られた歌 『黄金の花』 です。今も歌われています。
 沖縄の人たちは、政府の沖縄復興策・支援予算という 「黄金の花は いつか散る」 ことに気づきました。「黄金でその目を 汚さないで」 自分たちの足元を見つめ直すことを選択しました。「本当の花を 咲かせてね」 を進めようとしています。

 沖縄県知事選の応援にいった菅原文太の演説画像が流されています。
「政治の役割は2つあります。1つは国民を飢えさせないこと、安全な食べ物を食べさせること。もう1つは、これがもっと大事です。絶対に戦争をしないこと……」
 短い中にも為政者の責務がきちんと盛り込まれています。「命どぅ宝」 (ぬちどぅたから・命こそ宝) です。

 安部政権とその取り巻きは、「強い国日本」 のために日米関係を強化するといいます。しかし辺野古基地建設は将来の自衛隊基地のためです。命の大切さを尊重しません。


 安部政権とその取り巻きが安倍首相に進言していないことがあります。安倍首相の祖父の岸信介は、国会を取り巻いた人たちによって退陣させられたという事実です。60年安保闘争から日本では 「市民」 という言葉が本格的に登場しました。

 今も様々な課題を掲げて国会を取り巻くうねりは絶えていません。各地でも連動した行動が発展しています。
 投票所には行かなくても国会に駆けつける多くの市民・労働者がいます。そこには世論があります。
 2015年は、その世論のうねりが政権を打倒する力に発展することに期待したいと思います。本物の政治の登場です。

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神戸から東北へ  『惨事ストレス 救援者の “心のケア”』 刊行
2014/12/19(Fri)
 12月19日 (金)

 今年は各地で災害が発生しました。地上での人間の自然破壊に地球が怒っているかのようです。被災者は想像つかなかった状況の中でお正月を迎えます。
 阪神淡路大震災から来年1月17日で20年を迎えます。たくさんの催しが予定されていますが、20年間過ぎたからといって傷が癒されない人たちはたくさんいます。

 3月25日の 「活動報告」 で報告しましたが、今年3月、神戸で 「阪神・淡路から20年 東北へのメッセージ 震災と心のケアを考えるシンポジウム」 が開催されました。このシンポジウムの記録や東京でのシンポジウム、それに 『安全センター情報』 13年11月号に掲載した惨事ストレスの記事を再録して本『惨事ストレス 救援者の “心のケア”』 (緑風出版 2000円+税) を刊行しました。
 阪神淡路大震災の体験の掘り起しと捉え返し、そして今も東日本大震災の復興活動で奮闘する労働者の一助になれればという思いです。本のタイトルから型苦しくとらえられがちですが内容はそうではありません。阪神淡路大震災と東日本大震災の “もう1つの側面” の実話の読み物です。

 「惨事ストレス」 は 「災害ストレス」 とも呼ばれます。「消防隊員、警察官、医療関係者などの災害救援者が、現場活動をとおして受ける通常とは異なる精神的ストレス」 を言います。悲惨な状況を目撃しながら活動を続けるとさまざまな心身の不調をきたします。多くは一時的なもので、時間が経過するなかで薄れていきますが、衝撃が大きい時はPTSDに罹患することもあります。またしばらくたってから突如症状が表れることもあります。体調を崩した支援者を精神衛生関係者の間では 「隠れた被災者」 と呼んでいます。

 惨事ストレスの症状は、アメリカの南北戦争で発見され、「戦争神経症」 と呼ばれました。その後、第一次世界大戦の最中にイギリス軍において取り組みが開始されます。
 日本の軍隊でも症状は発見されていました。具体的に取り組みが始まったのは1990年代に入ってからの消防においてです。その中でも阪神淡路大震災後の神戸市消防局は、その教訓を全国で共有するため、体験集を発行し、手記等をホームページでも公開しています。


 『本』 の内容を細かく紹介するのではなく、問題点を集約している 「はじめに」 を抜粋します。
「全国の自治体から被災地の自治体に支援の職員が派遣されています。今年度は1400人余りにおよんでいます。現在は、復興期に入っていますが、そうするとこれまで経験したことのない業務が発生してきます。震災直後より復興期の方が業務量は増えます。それを限られた体制でこなさなければなりません。
 災害からの被害をより小さくするためには平常時の体制のゆとりが必要です。
 しかし東日本大震災は行政改革攻撃による “小さな政府” が進んだ後に発生しました。支援の職員を派遣する全国の自治体にもゆとりがありません。そのなかで地元の職員も派遣職員も奮闘を続けています。
 しかし1年半が過ぎた頃から今日まで、支援活動に従事していた自治体労働者の中から3人の職員が自ら命を断ってしまいました。
 いずれも自殺に至ったのは土・日曜日またはお正月です。派遣されていた2人は赴任からしばらく経って、期間が予定の半分に至る前です。多忙ななかでもふと一息入れて自己を取り戻した時、先が見えない業務量と自責の念で展望を失ってしまったのでしょうか。
 これ以上の犠牲者を出させないための対策が急がれます。

 震災直後から “心のケア” が言われ続けていいます。阪神・淡路大震災の経験は活かされています。しかしその問題が救援活動に従事する者、自治体職員や教職員などにおよぶことは多くありません。さらに深刻な状況にあるにもかかわらず組織内だけで問題にされて外部と共有されることは多くありません。むしろ隠されているとも思われます。それがまた問題解決を困難にしています。
 誰が最初に言ったのかわかりませんが、体調不良は災害という 『異常な事態への正常な反応』 です。そのことをお互いに理解し合い、惨事ストレスもお互いに理解し合うなかから小さくすることはできます。災害は防げませんが被害をより小さくすることはできます。」


 TBSテレビは、1月19日 (月) 夜9時からドラマ 『テレビ未来遺産ORANGE ~1.17 命がけで闘った消防士の魂の物語~ 』 を放映します。当時、救助に当たった消防士達100人以上に取材をして作り上げた物語です。
 番組紹介には 「“オレンジ” とは、人命救助の為に特別な訓練を受けた、全消防士のわずか3%の人間、特別救助隊の隊員だけに着ることが許された救助服の色。“オレンジ” は消防士にとって誇りであり、憧れでもあり、ヒーローの象徴です。しかし、そんなヒーローにも、助けられなかった数えきれない命がある。たった1秒で失われてしまった命がある…。震災で味わった悔しさ、どこにもぶつけられない憤りや無力感、そして果てしない悲しみを乗り越え、今も命の最前線で戦い続ける彼ら。彼らは、どんな想いを持ち、自分の命を顧みず人を救おうとするのか──。」 とあります。楽しみです。

 神戸市消防局は、東日本大震災での救援活動においても、その教訓を活かして被災地の消防をサポートしながら活動しました。報告のそのいくつかを 『本』 から紹介します。
 阪神淡路大震災の時の記録です。
「救援者である彼らは、残された家族に強く感情移入し、自分たちもその悲しみや怒りを感じとり傷つくのである。災害精神医学者のラファエルによれば、このような 『接死体験』 は『ストレス反応の発生に大きく関与し、悪夢、不安感、睡眠障害、そして若干の抑鬱的傾向』をもたらすという。つまり、PTSDの発症が心配されるくらい大きいストレスなのである。
 印象的なのは、隊員の多くが、災害救助についてひどい “無力感” を味わったことである。
 『今まで、どのような災害に出会っても、仲間とともに救出、救助、消防活動をし、この仕事に誇りを持っていた。が、今回は違った。助けを求めてきている人々に応えることのできない自分の力のなさを嘆き、自然の恐ろしさに驚異を感じた。
 「ほんまに消えるんやろか……」 あまりにも消防が無力に思えた。
 病院収容後、人命を救助したという充実感はまったくなく、すでに失われたであろう尊い命の数や救助を待ち焦がれている大勢の人びとのことを思うと、自分の無力さを思い知らされるとともに、今までの大規模災害に対する認識の甘さを痛感した。』」 (安克昌著 『心の傷を癒すということ』 角川文庫から引用)
「今回、懸命に消火活動にたずさわる消防隊員に被災者のなかから 『消防隊員はなにやってるんや』 と罵声があびせられたそうである。……隊員たちは、被災者の気持ちが理解できるだけに、無力感を抱かずにはいられなかった。」 (同)

 東日本大震災においての活動です。
 3月14日、神戸市消防局が最初に支援に駆けつけたのは宮城県山元町です。到着すると責任者は 「皆さんに休んでもらうために駆けつけました。何でも申し付けて下さい」 と挨拶したといいます。被災地の消防士たちの心情を理解している対応です。
 また、被災地の人たちにとっては神戸、兵庫という車輌やプレート、制服を見ただけで自分たちの気持ちがわかってくれる人が来たと受け止めて安心できたということです。
 東日本大震災についての手記です。
「2日目も午前、午後をとおし、重要な拠点はすべて、ガレキ、堆積物を除去して捜索を終了。見つけられないもどかしさに葛藤しながら、皆、心を痛めていた。そのため、毎晩それぞれ疑問点や反省点を出し合い、ディスカッションやブレーンストーミングを行なった。
 最終日も結局、見つけることはできなかった。住民からかけられる、『ありがとう』、『ご苦労さま』 の言葉、捜索現場で見つけた若い2人が写った結婚式の写真……心が締め付けられるような想いと自分自身の不甲斐なさ……。『やれることはしたはずなのに』 と自問自答……。しかし、活動をともにした小隊長や隊員たちに救われた気がする。何もできなかったが、このチームで活動できたことは誇りである。ありがとう。」 (南三陸消防署・亘理消防署・神戸市消防局+川井龍介=編 『津波と瓦礫のなかで 東日本大震災 消防隊員死闘の記』 旬報社から引用)

「3月23日、中央消防署3階会議室に福島第一原子力発電所への派遣隊員53人が結集した。
 『今回の任務にたいする活動方針は、全員無事に帰ってくること!』
 指揮隊長のこの言葉から我々に課せられた任務の危険性が切実に感じられた。
 派遣日までの間、放射能にたいする研修や現場対応の訓練が連日おこなわれた。出発の直前には東京消防庁ハイパーレスキュー隊へ出向き、福島第一原発で放水活動しいている特殊車両と同型の車両操作訓練もおこなった。
 この間にも福島第一原発の状況は日々刻々と変化していることはテレビや新聞の報道で伝えられており、我々の想定している範囲での現場活動となるのか不安は募るばかりであった。『今やれることを一生懸命やろう』。そんな気持ちで自分を奮い立たせていた。そして3月29日、福島に向けて出発することとなった。」 (同)
「当時は原発そのものの情報が乏しく、私自身も特殊災害隊員として原発派遣に自ら手を上げたものの、不安感は非常に大きかった。しかしそれらの業務や不安感はさまざまな方々の協力により解決することができた。……
 (神戸大学の) 北村先生は、我々とともに福島県まで同行し、寝食を共にしてくださった。現地での隊員の汚染検査時などでも的確なアドバイスをいただくことができ、非常に心強かった。」 (同)

 雄姿だけではない1人ひとりの人間の喜怒哀楽の “物語” です。
 消防以外にも警察官、自治体職員、教員、報道関係者についても取り上げています。

 『本』 の「おわりに」からの抜粋です。
「日本は確実に災害大国になっています。
 しかしさまざまな予防対策、訓練によって被害はなくすことができなくても小さくすることができます。その対策を急がなければなりません。そして災害が発生した時には被災者だけでなく救援者、支援者にも心を寄せ、“心のケア” を意識しておく必要があります。救援者、支援者から新たな被害者を出さないようにしなければなりません。そのことが忘れられたり、おろそかにされた結果犠牲者を出してしまったら、それは人災です。

 災害に遭遇して生き延びた命は生かされた命です。亡くなった人たちの分も合わせて大命の重さを大切にしなければなりません。
 心のケアは、社会全体で取り組まなければならない課題です。
 『しあわせ運べるように』」


   「活動報告」14.3.25
   「神戸消防局 阪神・淡路大震災 消防職員手記」
   「消防士の惨事ストレス」
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メンタルチェック法  精神科医の委員は身の丈で主張している
2014/12/16(Tue)
 12月16日 (火)

 8月19日の 「活動報告」 で、6月19日に衆議院本会議でいわゆる 「ストレスチェック法案」 と呼ばれた労働安全衛生法改正法案可決・成立し、今後の運用方法などを決定するための 「ストレスチェック項目等に関する専門検討会」 が開催されたと報告しました。
 そこでの 「報告書」 を受けて、10月から 「ストレスチェック制度に関わる情報管理及び不利益取扱い等に関する検討会」 と 「ストレスチェックと面接指導の実施方法等に関する検討会」 が並行して開催され、12月15日に合同の検討会が開催されて 「報告書」 が提出されることになりました。
 この後、報告書は労働政策審議会安全衛生分科会に提出、答申を受けて来年1月下旬頃に省令・指針等を制定、これらと並行して医師等への研修を行い、来年12月までに施行予定というスケジュールです。

 検討会は合わせて13回開催されましたが11回傍聴することができました。あと2回は、抽選で外れました。検討会は、傍聴席が100人近くの会場だったり30人だったりしますが、100人の会場でもほぼ満席です。これまでのいろいろな労働安全衛生関連の審議会・検討会を傍聴してきましたが、報道関係者を含めて瞬間的にも20を超えることは珍しいことでした。(報道関係者は出入りが激しいです) 時には数人ということもたくさんありました。
 なぜこんなに傍聴者が多いのでしょうか。労働安全衛生問題への関心が労働組合や社会で高まったのでしょうか。ストレスチェックで事業拡大をしようとしている健康診断等に携わっている企業の社員たちです。ストレスチェック法案が提出されてきた1つの側面もあります。

 改正された法律です。
「(心理的な負担の程度を把握するための検査等)
第六十六条の十 事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師、保健師その他の厚生労働省令で定める者 (以下この条において 「医師等」 という。) による心理的な負担の程度を把握するための検査を行わなければならない。」
 法案成立に際しては両院でそれぞれ付帯決議が付けられました。衆議院厚生労働委員会での付帯決議です。
「二 ストレスチェック制度は、精神疾患の発見ではなく、メンタルヘルス不調の未然防止を主たる目的とする位置付けであることを明確にし、事業者及び労働者に誤解を招くことのないようにするとともに、ストレスチェック制度の実施に当たっては、労働者の意向が十分に尊重されるよう、事業者が行う検査を受けないことを選んだ労働者が、それを理由に不利益な取り扱いを受けることのないようにすること。また、検査項目については、その信頼性・妥当性を十分に検討し、検査の実施が職場の不利益を招くことがないようにすること。
 三 ストレスチェック制度については、労働者個人が特定されずに職場ごとのストレスの状況を事業者が把握し、職場環境の改善を図る仕組みを検討すること。また、小規模事業場のメンタルヘルス対象について、産業保健活動総合支援事業による体制整備など必要な支援を行なうこと。」

 付帯決議に 「精神疾患の発見ではなく」 と盛り込まれたのは、以前に提出されて廃案になった法案が、労働者の 「精神的健康の状況を把握するための検査」 が労働者に義務付けらたが、スクリーニングで体調不良の労働者を排除するものだと不評だったことによるものです。だから成立した法律は 「心理的な負担の程度を把握するための検査」 と位置付けられ、厚労省も国会で 「一次予防」 のものであると答弁し、それに加えて 「精神疾患の発見ではなく、メンタルヘルス不調の未然防止を主たる目的とする位置付けであることを明確にし」、「職場ごとのストレスの状況を事業者が把握し、職場環境の改善を図る仕組み」 の付帯決議が付いたのです。

 一次予防とは何をいうのでしょうか。
 予防医学における対策で、一次予防、二次予防、三次予防があります。病気を予防するだけでなく、疾病予防、障害予防、寿命の延長、身体的・精神的健康の増進を目的としています。
 一次予防は、生活習慣の改善、生活環境の改善、健康教育による健康増進を図り、予防接種による疾病の発生予防、事故防止による傷害の発生を予防することをいいます
 二次予防は、発生した疾病や障害を検診などにより早期に発見し、早期に治療や保健指導などの対策を行ない、疾病や傷害の重症化を予防することをいいます。
 三次予防は、治療の過程において保健指導やリハビリテーション等による機能回復を図るなど、社会復帰を支援し、再発を予防することをいいます。


 では、3つの検討会で厚労省の答弁と付帯決議はどのように議論されたでしょうか。
 もちろん労働者の心理的負荷は、個人的問題によるものもあり、業務上や職場環境によるものだけではありません。
 検討会は、法律が果たすべき目的や方向性の認識が深められることなく、共通認識が不在のままで法律の条文 「心理的な負担の程度を把握するための検査」 の具体的方法の検討から始まりました。それが「ストレスチェック項目等に関する専門検討会」です。
 ですから委員の法律の受け止め方や思いはばらばらです。しかもストレスチェックの方法や項目について、さらに厚労省が採用を期待しているストレスチェック方法にもエビデンスがあるのかという議論は精神衛生学会のなかではずっとありました。
 共通認識の不在は、13回の検討会の端々に登場して議論が行ったり来たりしました。それでもまとまったのは、厚労省のさまざまな審議会や検討会の委員に就任し、今回の検討会にも参加している複数の委員たちの “妥協” です。


 「ストレスチェック項目等に関する専門検討会」 の議事録から出された意見を紹介します。
 第一回です。
「産業保健支援室長 今回の改正につきましては、特にメンタルヘルスの不調の未然防止、一次予防というところの対策を強化することを主な目的としております。労働者のメンタルヘルス不調を未然に防止するためには、労働者のストレスマネジメントの向上、それから、職場環境の把握と改善というのが非常に重要になっておると思います。このため、今回ストレスチェック及び面接指導というような制度を設けることとなったということでございます。」
 厚労省のこの一次予防の定義が曲者です。「労働者のストレスマネジメントの向上」 が言われ、しかも 「職場環境の把握と改善」 の前に来ています。「労働者のストレスマネジメントの向上」 か一次予防なのかとか、必要ないという問題ではなく、一次予防といいながら、職場環境の把握と改善が二の次に置かれ、労働者個人の認識、対応が優先され、診断結果は労働者個人に還元される構想だということです。二次予防が一次予防に越境し、本来の一次予防が後退させられます。
 この後の議論はそのようなトーンで貫かれました。

「我々、産業医で現場に行きますと、職場全体の雰囲気というのはメンタルでおかしいというようなこともありますし、ハラスメントみたいなこともかなりあるので、このメンタルヘルスのチェックが先ほど言いましたように、集団的に分析を行う。……職場改善とか職場環境、ほかの職場と奇異な感じというか、かなり問題があるというようなところをチェックするという意味でも大事だと思うので、いわゆる個人のストレスのチェックということもあり得ると思うのですけれども、職場全体のチェックというか、それを検討するというのも大事だと思うので、そのあたりも含めて、ぜひ制度をきちんと活用したほうがいいのかなと思います。」

「委員 前提としての確認事項ですが、今回の法案における『心理的な負担の程度を把握するための検査』の目的が以下のいずれかを明確にする必要があるのではないかと思います。
 まず1つは、メンタルヘルス不調者の早期発見と適切な対処、いわゆる二次予防的な見地のものか、あるいは、職場のストレス因子の検証と職場環境改善という一次予防的見地なものか、あるいはその両方を含んだものなのかということです。二次予防なのか、一次予防なのか、その両者なのかというのをはっきりしておかないと質問項目の選定というのがうまくいかないのだろうと思っています。……
 そして、最後に、必要に応じて職場環境改善を行う。医師の面談結果を踏まえた職場担当者の調整。ここまで行わなければ本制度の趣旨が反映されないことになるのではないかなと私見的に思っております。」

「労働衛生課長 これまでの議論に補足させていただきたいのですが、1つは法律の条文の心理的な負担を把握するというところの意味ですけれども、私たち事務局としては、この心理的な負担を把握するということの中に、「ストレス要因」 の部分と 「心身のストレス反応」 と両方含む言葉だと理解して、この条文にしています。……
 2つめは、今回の国会審議でも、事業場の環境改善につなげるということについてたびたび質疑があり、その重要性が非常に強調されました。そこは前回と前提が違う。やはり、環境改善に使える制度でないといけないと考えています。」
 しかし多くの委員も、事業場の環境改善とは何をどうしたらいいかわからないようで、「心身のストレス反応」 の議論だけが進められます。

 第2回です。
 ストレスチェック票に盛り込む項目についての議論です。
「座長 目安を示す場合、『心身のストレス反応』 と、『仕事のストレス要因』 及び 『周囲のサポート』 を分けて検討するのでよいかとありますが、これについてはいかがでしょうか。」
「委員 『仕事のストレス要因』 と 『周囲のサポート』 は、明らかに一次予防の項目です。……『心身の反応』 というのは症状のところなので、むしろ二次予防というところになると思います。したがって、かなり性質が違うと思います。
 要するに、ストレスが非常にかかっていて仕事のストレス要因も高くて周囲のサポートが弱いけれども、まだ症状が出ていない人は『心身の反応』は点数は低いけれども、『仕事のストレス要因』と『周囲のサポート』が高くなるということで、むしろ一次予防ということになると、そういう人を引っ張り上げなければいけないことになります。だけど、これをやる以上、症状がある人を見逃がしておくわけにはいかないということで、真ん中のストレス反応というところも判定しなければいけないことになると思います。したがって、それぞれ必要だと思います。仕事のストレス要因、周囲のサポートのところで引っ掛かる人と、心身の反応で、症状として引っ掛かる人、それぞれをピックアップする必要があると思っています。」

「委員 今の意見に基本的に賛成です。『心身のストレス反応』 とそれ以外の2つ、『仕事のストレス要因』 及び 『周囲のサポート』 とは分けて判定するのがいいと思います。ただ、前回も少し申し上げたのですが、一応、心身のストレス反応が高くてまだ病気になっていない方に、セルフケアをすることで発症を予防するという一次予防的な使い方もできるので、そこは一次予防的なやり方もあるかなと思っています。……
 基準を満たさないような抑うつの方がたくさんいて、その方たちは長期にフォローアップすると、どうしても、うつ病に移行しやすくなるので、そういう方たちにストレスマネージメントやセルフケアを提供することで、一次予防を実現するというのは、ありかなと思います。」
 厚労省寄りの委員は、このように一次予防を拡大していきます。本来の一次予防があいまいになっていきます。


 このような議論を経て報告書が出され、それをもとに10月から 「ストレスチェック制度に関わる情報管理及び不利益取扱い等に関する検討会」 と 「ストレスチェックと面接指導の実施方法等に関する検討会」 が並行して開催されました。

 「第3回 ストレスチェックと面接指導の実施方法等に関する検討会」 に、厚労省はストレスチェック実施後の集団的分析・改善の取り組みについて提案しました。厚労省は中心テーマとしてではないですが 「事業場の環境改善」 をこだわっているように思われます。
 ストレスチェックの結果を踏まえた 「集団的分析の実施」 と 「それを活用した職場環境改善の取り組み」 について3つの案を提出しました。
 案①、「集団的分析の実施」 義務、「それを活用した職場環境改善の取り組み」 義務
 案②、「集団的分析の実施」 義務、「それを活用した職場環境改善の取り組み」 努力義務
 案③、「集団的分析の実施」 努力義務、「それを活用した職場環境改善の取り組み」 努力義務
です。それぞれへの賛成者がいます。
 案①支持者は、国会での付帯決議を踏まえるならこれしかない。義務にしなければしなくてもいいということで実効性が伴わない。
 案②支持者は、実際に出来る事をしなければならない。ステップを踏んで少しずつ進めていくことにすればいい。
 案③支持者は、法律には義務とは書いていない。実際にはできない。
 それ以外にも多くの意見が出され結論は出ませんでした。

 当初の検討会は、ストレスチェック項目等など専門家の専門分野の議論が続きました。
 2つの検討会になってからは、実施者は産業医でなければならないなど専門家の役割が指摘、強調されました。しかしいざ具体的にどう実施していくかということになると精神科医の委員は、必要・必要出ないではなくて、自分らの現状の身の丈だけから出来る事・出来ないことの判断で、そこまではできない、難しいということで押し切ってきました。自分にできないことは制度に盛り込んでほしくないのです。
 結局は、現在の状況下で産業医が出来る範囲のことが報告書に盛り込まれていきます。
 集団的な分析等の義務、努力義務は出来ないという意見が強く出されました。

 第4回 「ストレスチェックと面接指導の実施方法等に関する検討会」 と第4回 「ストレスチェック制度に関わる情報管理及び不利益取扱い等に関する検討会」 は、共通の 「報告書 (案)」 の検討で摺合せが行われました。
 この間、議論で多くの時間が費やされたのは高ストレス者についてです。
 高ストレス者の発見方法、高ストレス者への事業者への申し出によらず相談可能な窓口に関する情報提供、事業者から面接指導の申し出の有無の情報を実施者に提供してもらい申し出を行なっていない労働者への勧奨などです。つまりは、高ストレス者の発見と確実な面接指導の実施が主眼です。これが今回の法改正の目的になっていきそうです。

 これまで厚労省が出してきた報告書案には集団的な分析が見え隠れします。
 厚労省は集団的な分析の実施と職場環境改善については、進めていきたいという意向を示しました。(案) には 「今後の普及状況などを把握し、労働安全衛生法の見直しに合わせて、改めて義務化について検討することが適当」 の文言が入れられています。義務化が駄目なら、「必要な配慮をするものとする。」 ではどうかという提案も行われました。「必要な配慮をするものとする。」 は、労働契約法第5条、(労働者の安全への配慮) 「第五条  使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」 を参考にしたものだそうです。
 この案を推進しようという委員からは付帯決議が持ちだされました。

 12月15日、2つのストレスチェック検討会の合同検討会が開催されました。
 報告書を作成するための最後の検討会でしたが、これまで合意に至っていたつもりだったことがそうでなかったりしていて、いろいろな意見がぶり返したりで、聞いている側は面白いですが、やはり問題がある法改正だったと思わされました。

 厚労省の案文は、
「<面接指導の対象となる高ストレス者を選定するための方法>
○ 高ストレス者を選定するための方法としては、最もリスクの高い者として 「心身のストレス反応」 に関す
 る項目の評価点の合計が高い者を選定することが適当。これに加えて、「心身のストレス反応」 に関す
 る項目の評価点の合計が一定以上であり、かつ 「仕事のストレス要因」 及び 「周囲のサポート」 に関す
 る項目の評価点の合計が著しく高い者についても選定する方法を国が示すことが適当。」
です。

 そもそもトレスチェック票は、職場環境改善のためのものであって高ストレス者を選定するためのものではありません。しかし今後はそれを使って選定することになります。
 かつて「職業性ストレス簡易調査票」 を作成した委員から 「心身のストレス反応」 を活用するのはまだしも、「仕事のストレス要因」 及び 「周囲のサポート」 を活用するのは適当ではないとの意見が出されました。せいぜい 「のぞましい」 だという意見です。活用の目的がおかしいということのようです。
 別の委員からは、「仕事のストレス要因」 及び 「周囲のサポート」 も活用するということは個人についての問題ではなくサポート体制の問題にもなって来るのではないかという意見も出されました。
 他の委員からは今さら (ぶり返すな) という発言もありました。
 この問題は、安全センターが 「ストレスチェックのエビデンスがあるのか」 と主張していた問題で、スタースタート時点からの大きな議論になっていた問題です。厚労省が安易に 「簡易チェック票」 を利用しようとしたことの問題点がまた出てきました。
 結論は、時間との関係で妥協妥協の結果の議長預かりです。
 「ストレスチェック制度を性善説で捉えるか、性悪説で捉えるかで目的は違ってきますね」 などという発言も出されました。

 厚労省の案文です。
「ウ 集団的な分析と職場環境改善
(ア) 集団的な分析の実施
○ 一次予防を主な目的とする制度の趣旨を踏まえれば、セルフケアと同様に、職場環境の改善も重要で
 あり、事業者においては、個人のストレスチェック結果を集団的に分析し、その分析結果に基づき必要な
 職場環境の改善の取組を行うべきである。
  一方で、現時点では集団的分析が広く普及している状況にはなく、手法が十分に確立・周知されてい
 る状況とも言い難いことから、まずは集団的分析の実施及びその結果に基づく職場環境の改善の取組
 を事業者の努力義務とし、その普及を図ることが適当。この場合の努力義務は、集団的分析の実施の
 必要性や緊急性が低いことを意味するものではなく、事業者は、職場のストレスの状況その他の職場
 環境の状況から、改善の必要性が認められる場合には、集団的分析を実施し、その結果を踏まえて必
 要な対応を行うことが自ずと求められることに留意するべきであること。
  なお、国は集団的な分析手法の普及を図るとともに、その普及状況などを把握し、労働安全衛生法
 の見直しに合わせて、改めて義務化について検討することが適当。
(イ) 集団的な分析の実施方法
○ 集団的な分析の具体的な方法は、国が標準的な項目として示す 「職業性ストレス簡易調査票」 又は
 簡略化した調査票を使用する場合は、「職業性ストレス簡易調査票」 に関して公開されている 「仕事
 のストレス判定図」 によることが適当。
○ 独自の項目を用いる場合には、「仕事のストレス判定図」 を参考としつつ、各企業において定めるこ
 とが適当。
(ウ)集団的な分析結果の事業者への提供
(以下、略)」
です。

 上記のような案文を盛り込むことは、厚労省はこれまでの検討会の意向を無視し、強引さがあるように思われますが、歓迎です。精神科医の委員の反対はあっても足掛かりまではつけたいと思っているように思われます。

 「ストレスチェック制度の流れ図」 が提案されました。
 使用者側委員は、「目的を、一番上に、企業のリスク管理にもなり、生産性も上がる」 と盛り込んだ方が取り組みやすくなるのではないかと提案しました。
 すかさず、かつて大阪ガスの産業医の委員が 「それは目的と違います。目的は労働者の安全衛生です」 と反論しました。拍手したくなる場面でした。
 大阪ガスの産業医は、前回の検討会で、労働者が面談を拒否するのを防ぐにはどうしたらいいかという議論の時、「それは面談をうけること事態に労働者はストレスがあるからですよ」 と根本的問題と実態からの発言をしていました。

 この他にもいろいろな問題が新たにも出されました。
 正式な報告書は議長預かりということで検討会での議論はすべて終了しました。

 厚労省は、すでに検討会を踏まえたマニュアル作りを、検討会の委員の何人かで進めているようです。結論が煮詰まらなかった問題、新たに出された問題は、非公開ですがそこで詰められるようです。


   「活動報告」14.8.19
   「活動報告」14.6.27
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非正規公務員は 「感情労働」 の前線にいる
2014/12/12(Fri)
 12月12日 (金)

 11月下旬、今春出版した本 『“職場のいじめ” 労働相談』 (緑風出版) の読者が所属する団体から学習会に呼ばれました。
 『本』 は事前に読まれているのを前提にして最近の話をしました。10月24日の 「活動報告」 に書いた第26回コミュニティ・ユニオン全国交流会の分科会 「交渉事例から考えよう――いじめ・パワハラとユニオンの可能性」 のなかでの闘争報告を紹介しました。被害の体験者からは同意できるという感想をもらいました。再録します。
 
「数年前から職場でいじめに遭い、ユニオンに加入して対応し、 “脱出” できたことでの教訓を3つ披瀝しました。
 1つは、いじめを受けると自殺思考になるので周囲は “見て見ぬふりをする” のではなく喚起する必要がある。
 2つは、いじめを受けたら、業務時間とプライベート時間の切り替えをしっかりし、業務時間以外に嫌な思いを持ち込まないで楽しむ。
 3つは、いじめに遭って怖いと思ったら逃げる。逃げることは卑怯でも負けでもなく、自己防衛の手段。
 報告者は最後に 『ユニオンに加入して、みんなに支えられながら、闘ってきてよかった』 と実感を語りました。そして、職場や社会は確実に変わってきていると語っていました。」

 いじめに遭ったら、まず自分を守ることを考えなければなりません。その手段として逃げることも必要です。逃げてから起きていることを冷静に、客観的に捉え直してみると事態が見えてきたりします。その上で対応を検討します。逆に我慢を続けると意識が内向きになってしまい、被害意識が拡大していって体調不良に陥ったりします。そうすると解決は困難になります。
 周囲の者が 「見て見ぬふりをする」 ことが及ぼす影響について話をすると議論になりました。
 いじめ問題の捉え方がいい方向に向かっているという感想を持ちました。

 学習会の参加者からは、『本』 を読んだが相談活動のためのマニュアルではなく研究書だったという感想が寄せられました。言われてみると確かにそのような性格を持っています。ただ、シンプルなマニュアルは多様に応用がききません。相談活動で寄せられる1件1件違う事態に対しては応用できる参考書が必要です。『本』 はやはりそのためのマニュアルです。
 別の参加者からは、「職場の暴力」 「感情労働」 の章を読んで、自分の職場の状況を捉えかえすことができたと言われました。研究・開発部門所属で、外部からも問い合わせや要望、意見が寄せられます。しかしそれだけではなく文句や強要もあり、長時間に及ぶこともあるといいます。業務から外れた話にも及ぶので話を切り上げたいという思いからストレスが湧いてきます。『本』 を読むまではどう捉えたらいいか、我慢しなければならないのかと考えていたといいます。


 今秋もう1冊本を出しました。『パワハラにあったときどうすればいいかわかる本』 (合同出版) です。
 書評がレーバーネットに載りました。転載します。
「『公務員を叩く人が首長になると、モンスターペアレントが増えるんですよ』、こんな話を大阪の教員から聞いた。客室乗務員 (CA)、看護師、介護士はじめ対人サービス業は、自分の感情を抑え、いつも笑顔で穏やかな対応が求められるので感情労働とも呼ばれるが、顧客からのパワハラの矢面に立ち、心身を壊すケースが少なくない。そんな問題も視野に入れているのが、いじめ・メンタルヘルス労働者支援センター (千葉茂代表) と精神科医・磯村大さんの共著 『パワハラにあったときどうすればいいかわかる本』 (合同出版) である。
 日本でパワハラを議論する場合、しばしば参照されるのが、厚生労働省の円卓会議が出した 『職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言』 である。この提言は 『働く人の尊厳や人格が大切にされる社会を創っていくための第一歩』 だと自らを位置づけているが、それを 『答え』 として固定化して捉える向きも少なくない。 本書も 『提言』、とくにパワハラの定義や6類型 (パターン) を参照するが、『この6つのパターンにあてはまるものだけがパワハラではない』 と言う。この視点が、前述した 『顧客からのパワハラ』 の理解に活きている。……」
 身に余る紹介をしていただきましたが、最初に 「感情労働」 が取り上げられていることに正直驚きました。
 
 感情労働とは、1900年代後半にアメリカの社会学者アーリー・ホックシールドが著書 『管理される心』 のなかで 「自分の感情を誘発したり抑圧したりしながら、相手の中に適切な精神状態を作り出すために、自分の外見を維持すること」 と定義しています。労働のなかで相手に迎合して本当の自分ではない自分を演じなければなりません。長期に及ぶと自分をコントロールできなくなり人格が破壊されます。 EUでは 「職場の暴力」 の概念に含まれるようになってきていますが、日本ではまだ 「お客様は神様です」 の対応が続いています。

 学習会の参加者の報告と書評で 「感情労働」 の問題が取り上げられたのは偶然でしょうか。時代の趨勢でしょうか。2冊の本が感情労働の啓蒙書になるならうれしい限りです。


 感情労働は、世界的には労働現場から問題提起され、それぞれの分野の専門家から意見が出されてきました。
「米国の賃金コンサルタント企業であるヘイ社は、独自の得点要素法を研究開発し、これが普及した。しかし1970年代後半になると、米国やカナダで、これが女性差別撤廃運動の批判の対象となった。ヘイ社の得点要素法は女性職務を低く評価するジェンダー・バイアスがあって、それが女性の低賃金の重要な理由となっているとの批判であった。そして、この批判の影響のもとに、1980年代以降、女性職務を低く評価しない考え方で得点要素法を研究開発することがすすんだ。その研究開発の重要な1つが、『感情労働』 にともなう労働者の負担を、四大ファクター 『負担』 の1つに採用することであった。そして、女性職務を低く評価しない考え方が、女性差別撤廃運動のなかで Comparable Worth や Pay Equity と英語で呼ばれるようになり、その後に 『同一価値労働同一賃金』 と日本語訳された」 (遠藤公嗣著 『これからの賃金』 旬報社)

 ケア労働においてです。
 ノーベル経済賞を受賞したアマルティア・センはケア労働について 「ケア労働とは、献身・責任・協力・感情というような動機と結びついた人間関係的労働であり、自分自身の利害のみに動機づけられて行動するものではなく、他利的要素を持っている。しかも、ケアする労働の中には、人間が持っている潜在的能力を培っていくという主要な側面がある。したがって、ケア労働における人間的側面をネガティブに、ただ “減らす” 方向でのみ把握すべきではない。」 というようなことを述べています。 (『竹中恵美子が語る 労働とジェンダー』 ドメス出版)
 ケア労働を高く評価したうえでそこに含まれている問題点を指摘しています。そのうえで、竹中恵美子さんは別の章で問題点を指摘しています。
 カナダのオンタリオ州では、1987年に10人以上を使用している公共・民営部門の企業に対して、「ペイ・エクイティ法」 (Pey Equity Act、賃金衡平法) が制定されました。
「ペイ・エクイティは、従来の女性職に対する低い評価を改め、平等賃金を実現するための有力な原則であり運動ですが、限界もあります。
 1つには、従来の職務評価の技法 (ヘイ・システム) は職場の複雑さと重要度を、ノウハウ・問題解決能力・説明責任の3つのファクターで評価する点ですが、ケアのような仕事の評価には適切ではないからです。1991年にオンタリオ看護協会がヘイ・システムに反対して、感情労働 (emotional labor) の評価を導入する評価技法を聴聞審判所に認めさせました。このように、たえずジェンダーに中立な職務評価法を開発していくことが必要です。」 (『竹中恵美子が語る 労働とジェンダー』)
 聴聞審判所とは、労使の紛争が解決しない場合に、審査・調停をする労使の代表からなる機関です。ケア労働は他の労働と比べて感情労働による精神的負荷は大きいことを指摘して認めさせました。

 同じようなことが日本での評価制度の中でも指摘されています。
 遠藤公嗣明治大学教授は、自治労の職務評価制度作成に携わりました。
「『同一価値労働同一賃金』 の考え方はどこに反映しているのか。それを2つ例示しよう。
……
 第二に、大ファクター 『負担』 のなかに、小ファクター 『感情的負担』 を特に設定することだ。『感情的負担』 は、対人サービス労働で労働者に求められる 『感情労働』 の負担のことである。『感情労働』 とは、顧客や住民の感情的な言動や理不尽な要求などにもかかわらず、労働者が自分の感情をコントロールしながら、顧客や住民に礼儀正しく適切に対応するという労働のことだ。古くからの肉体労働や頭脳労働とは違って、サービス経済化がすすむにつれて、この30年間で重視されるようになった労働の考え方だ。『同一価値労働同一賃金』 の考え方による職務評価は、この考え方を取り入れている。
 ところで、地方自治体に窓口業務はつきものだ。住民票の発行から消費生活相談まで、とても多い。これら窓口業務を担当する職員は、全員が 『感情労働』 を求められ、その 『感情的負担』 が大きいはずだ。そしてあまり知られていないことだけれども、地方自治体の窓口業務は、その全部または相当部分が、非正規職員、とくに女性の非正規職員の担当だ。住民に応対する職員の多くは、実は、非正規職員なのだ。だから 『感情的負担』 ファクターを設定することは、彼女らの職務評価を高くしている。」

 
 非正規公務員の問題については昨年11月29日の 「活動報告」 で触れました。
 自治労の2012年6月1日現在の調査では、警察や消防、教員などを除き、臨時・非常勤職員は30万5,896人、正規職員は61万9,542人で、全体に占める非正規率は33.1%です。未調査自治体を含めて換算すると全国の非正規公務員数は約70万人と推計されます。
 非正規公務員の構成比は、学童指導員92.8%、消費生活相談員86.3%、図書館職員67.8%、学校給食調理員64.1%、保育士52.9%、学校用務員52.0%。生活保護業務を担うケースワーカーは1割に及んでいます。

 非正規公務員問題はジェンダー問題でもあります。
 2012年調査では、74.2%が女性です。ちなみに民間で非正規労働者が占める割合は68.8%です。非正規公務員で最も女性の構成割合が高い職種は看護師等で97.8%、次が給食調理員97.7%、保育士等で95.7%と正規公務員と同様の傾向を示しています。
 一般事務職・技術職員に占める女性正規公務員の割合は25.6%です。しかし非正規公務員に占める職種別ではもっとも多く80.8%を占めます。窓口業務は非正規公務員が多くいます。

 非正規公務員については労働条件が問題にされますが、問題はそれだけではありません。
 住民に直接接する出先の仕事 (相談業務、保育士、休職調理) など、家事的公務ともいえるケア的部分は公務員の仕事としては軽くいられ、非正規でもできるとみなされ劣悪な労働条件で働かされています。
 日常的に行政の窓口で住民の要望や不満を受ける職員には権限がありません。その構造は住民と “役所” の距離も作り出します。そのため住民による暴力事件も起きていますが、窓口は 「盾」、露払いの役割も担わせられています。低い労働条件で、住民から不満をぶつけられ、“役所” の 「盾」、露払いという三重苦の労働条件を強制されています。 

 自治労には遠藤教授の指摘をうけての具体的取り組みを期待したいと思います。


 感情労働に含まれるネガティブの問題の本格的克服のためには、社会全体と労働現場で人権問題がきちんと取り組まれることが必要です。日本ではもう少し時間がかかりそうですが、粘り強い問題提起が必要なことを知らされました。


    関連:「感情労働」
   「活動報告」14.10.24
   「活動報告」13.11.29
   当センター「いじめメンタルヘルス労働者支援センター」ホームページ・ご相談はこちらから
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鉄道労働者への暴力は“社会を写す鏡”
2014/12/10(Wed)
 12月10日 (水)

 日本民営鉄道協会は10月4日、今年度上期 (4~9月) の大手私鉄16社の駅員や乗務員らに対する暴力行為の件数が125件に上ったと発表しました。暴力事件とは被害者が治療を要した事件数だけです。2000年度から毎年度上期と下期に分けて発表していますが2008年度下期と同数のこれまでの最多でした。
 具体的には、2000年度は年間75件で、その後少しずつ増加していきます。2007年度下期に100件を超え、2008年度に年間236件に急増します。その後微減を続けていました。2007年下期頃からはサブプライムローン問題による世界金融不安が拡大していき、2008年にリーマンショックが起きます。
 いじめ、暴力行為の件数は社会状況を大きく影響を受けています。

 データ分析として、主な契機別発生件数が発表されています。
 多い順に、「理由なく突然に」 43件 (34%)、「酩酊者に近づいて」 30件 (24%)、「迷惑行為を注意して」 17件 (14%) です。順位は3年間同じです。
 「理由なく突然に」 は防ぎようがありません。加害者は日常的に蓄積しているストレスを、抵抗しないと思われる対象を選んで、その時の自分の気分を発散させます。
 特に加害者は72%が 「飲酒あり」 で、22時から終電までの時間帯に多く発生しています。
 加害年齢は60代以上が21%、40代が20%、30代が17%、20代が15%です。「若者が暴走」 などではなく、やはり生活や仕事のストレスが原因となっているように思われます。
 発生場所は、改札38%、ホーム32%、車内13%などの順です。
 事例としては、火曜日の17時~22時、酒を飲んでいる60歳代が理由なく突然に改札付近で大声を出しながら改札担当の係員に掴みかかろうとしたため、他の係員と引き離そうとしたところ、頭を殴られて負傷したなどがあります。


 12月9日に、国土交通省は2013年度の 「鉄道係員に対する暴力行為の発生件数」 を発表しました。大手民鉄16社の他にJR3社・東京都交・横浜市交・名古屋市交・大阪市交・東京モノレール・北総・愛知環状の計26社局の調査結果です。
 暴力行為を、唾かけ行為なども含めてとらえた幅広い集計では、発生件数は全国で852件、前年度の932件から80件の減少です。そのうちの警察に届け出た件数は552件です。
 都道府県ごとの発生状況の票がありますが都道府県で比率が大きく違います。おそらく会社ごとで対応マニュアルが違うのと、東京などでは多すぎていちいち報告していないということもあるのかもしれません。報告しにくいという状況もあるのかも知れません。泣き寝入りです。
 加害者は57%が 「飲酒あり」 です。
 事例としては、改札で深夜、30代が料金が不足しているので呼びかけた際、膝蹴りを受けた上で、目に指を突き立てられるなど全治7日の暴行を受けたが、後日、家族の謝罪もあり示談となったなどがあります。


 この間、新聞に載った事件を紹介します。
 9月27日の 「毎日新聞」 です。
「最終電車の終着駅で起こされたのに腹を立てて駅員を殴ったとして、埼玉県警東松山署は27日、警視庁保安課警部補 (54) を暴行容疑で現行犯逮捕したと発表した。酒を飲んでおり 『手を出していない』 と容疑を否認しているという。
 逮捕容疑は、27日午前0時55分ごろ、東武東上線森林公園駅 (同県滑川町) に到着した最終電車内で寝ているところを起こされた際、男性駅員 (21) の胸を殴ったうえ、止めに入った別の男性駅員 (47) の胸も殴ったとしている。
 警視庁の警務部参事官は 『誠に遺憾。捜査結果を待って厳正に対処する』としている。」

 12月10日の 「神戸新聞」 です。
「駅員を殴るなどしたとして、兵庫県警明石署は10日、暴行の疑いで、自衛隊大阪地方協力本部所属の広報官の男 (45) を現行犯逮捕した。
 逮捕容疑は同日午前1時20分ごろ、JR西明石駅の改札口で、男性駅員 (24) の顔や脇腹を殴ったり蹴ったりした疑い。容疑を認めているという。
 同署によると、改札を無理やり乗り越えたため、声をかけた駅員に激高し、殴りかかったという。駅員は柔道の有段者で、男の攻撃をかわしながら、最後は寝技の「けさ固め」で取り押さえたという。
男は当時酒に酔った状態で、最寄りの駅を乗り過ごし同駅で降りたという。」
 容疑者は大阪市内で同僚と飲酒した後、降りる駅を寝過ごし、終点の西明石駅で改札を乗り越えて外に出たため駅員が呼び止めました。 「むかっときて殴りました」 と容疑を認めているといいます。

 特に公務員を選んだわけではありません。民も公ストレスが蓄積し、発散させる手段を持っていません。
 そのような中で駅員は被害者になっています

 ではどうしたらいいでしょうか。
 いじめ メンタルヘルス労働者支援センター著 『“職場のいじめ” 労働相談』 (緑風出版) から引用します。
「具体的例からは、世相が見えてきます。
 酔っ払いが多くいます。酒を飲むと平常心を失い、強がりをいいながら乗り越しなど自分の失敗の憂さ晴らし方法を探します。酔った勢いでしか自己主張できず、日頃の鬱積した気持ちを抵抗しない他者への攻撃的行動で爆発させます。
 失敗に遭遇した時、回復、脱出方法を探るのではなく、『立ち往生』 している姿です。解決策を探す行為や支援要請に向かうことを思いつかない (つけない)、日常的に孤立して追い詰められ、脱出できない状況におかれている姿そのものです。攻撃性は慢性的挫折が日常化しているなかから出る反応です。だから手加減のない力を発揮します。
 酒を飲んでいなくても、会社ではおとなしい利用者が、社外に出ると攻撃性を表出します。職場での我慢・不満・鬱積の発散を帰宅途中でのサービス業に従事する労働者などに衝動的に転化させてしまっています。無意識のうちに憤懣をぶつけても無視をしない、反撃しない、相手にして主張を聞いてくれる対象者を探し、ささいな出来事に因縁をつけて逃がしません。
 労働者が自己の存在を主張する場が奪われています。認め合える同僚や仲間がいません。このような利用者の行為は自分の言い分を聞いてほしい、自分を認めてほしいという社外でしかできない自己主張です。自分の要求が通ったからといって攻撃を終了しないで次から次へと要求します。我慢・不満・鬱積の元凶にぶつけるのではないので問題が解決しないからです。人が恋しいということの裏面です。
 暴力行為や相手の人格・人権を否定する言動にまで至ります。自分の人格が否定されている姿を鏡に映しているようなものです。労働者の奪われた尊厳は、他者の尊厳を破壊する方法では回復しません。」

「このような行為は職場からの連鎖反応です。会社や社会の競争主義、分断政策、孤立化政策のひずんだ現象です。労働者同士、人間同士、お互いへの思いやり、立場の理解ができなくなっています。
 利用者は鉄道職員より偉いと思っています。サービス業に従事する労働者を見下しています。社会の私物化です。
では鉄道職員が反撃したらどうなるでしょうか。世論は、おそらくやりすぎ、立場をわきまえていないという理由で職員を批判します。サービス業に従事する労働者の地位はやはり低められています。
 しかし、鉄道職員が一方的にそのような対象にされるのはたまったものではありません。」

「対策には、ILOや韓国のサービス連盟が具体的に提案しているように、労働者・消費者・政府・企業それぞれの役割があります。解決方法としては、クレームや攻撃は起こることを前提に対策を取る必要があります。
 まず企業・使用者は、トップから職員を守る姿勢をはっきりさせる必要があります。最終的責任はトップが負うというアピールが必要です。そのうえでトラブルが発生した時のサポーター体制を確立しておくことが必要です。ましてやそこでのトラブルを評価の対象にしないことが必要です。そうすると労働者は少しは安心して対応できます。
 しつこいクレーマーにははっきりと 『業務妨害』、『暴力』 であると提示し、企業・使用者は労働者に、顧客との対応を拒否する決定権限を与えることが必要です。(韓国のように) 『感情労働者に不当要求拒絶、謝らない権利を付与せよ』 『電話を先に切る権利を与えよ』 のようなことをマニュアル化する必要があります。クレーマーは一歩譲歩すると二歩付け込んできます。クレーマーの顧客が減っても企業の売上高は大きく減少しません。むしろクレーマーに対応している時間はチャンスロスが発生しています。

 そのうえで労働者は、心構えが必要です。
  ・自分に向けられたものだとは思い過ぎない。
  ・相手の社会に対する不満がたまたま自分に向けられていると理解する。
  ・相手の感情に巻き込まれない。弁解しない。その方が早く終了する。
  ・後で誰かにその時の状況を、感情を含めて話して聞いてもらう。
  ・終了したら休息をとる。
  ・体験を共有化する。
です。」


 加害者の多くも職場でストレスを抱え、その解消を営業やサービス業労働者に向けます。労働者が労働者をいじめています。悲しいことです。
 このような行為は、労働者の賃金そして感情をバーゲンセールすることになってしまいます。心身を壊しながら労働の安売りをしています。商品の価格破壊ではなく、労働の価値を破壊しました。労働条件の悪循環と労働環境の悪化をもたらしています。
 労働者の感情破壊攻撃は暴力です。
 国鉄の分割民営化の後、鉄道労働者への暴力が増大しました。行政改革・「小さな政府」 攻撃は公務員バッシングを加速させ、今も続いています。賃金が高すぎる、遊んでいるという攻撃は、民間労働者の賃上げを抑制させ、過重労働を強いる効果も持ちますが民間労働者は気が付きません。

 反論しない・できない労働者へのバッシングは暴力です。起きている事件は “社会を写す鏡” です。

    関連:「労働安全衛生 職場の暴力」
   当センター「いじめメンタルヘルス労働者支援センター」ホームページ・ご相談はこちらから
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