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「ストレスチェック法案」 は付帯決議がついて成立
2014/06/27(Fri)
 6月27日 (金)

 「ストレスチェック法案」 と呼ばれる労働安全衛生法改訂案が、6月19日の衆議院本会議で全会一致で可決・成立しました。
 可決に際して、衆議院厚生労働委員会で次のような付帯決議が付きました。
「二 ストレスチェック制度は、精神疾患の発見ではなく、メンタルヘルス不調の未然防止を主たる目的とする位置付けであることを明確にし、事業者及び労働者に誤解を招くことのないようにするとともに、ストレスチェック制度の実施に当たっては、労働者の意向が十分に尊重されるよう、事業者が行う検査を受けないことを選んだ労働者が、それを理由に不利益な取り扱いを受けることのないようにすること。また、検査項目については、その信頼性・妥当性を十分に検討し、検査の実施が職場の不利益を招くことがないようにすること。
 三 ストレスチェック制度については、労働者個人が特定されずに職場ごとのストレスの状況を事業者が把握し、職場環境の改善を図る仕組みを検討すること。また、小規模事業場のメンタルヘルス対象について、産業保健活動総合支援事業による体制整備など必要な支援を行なうこと。」
 この付帯決議は、今後の改訂法運用に際してのチェックポイントにしていく必要があります。


 2013年4月15日、日本産業衛生学会労働衛生関連政策法制度検討委員会は 「労働衛生法令の課題と将来のあり方に関する提言」 を発表しています。その抜粋です。
「第179回国会に提出された労働安全衛生法改正案で規定される予定だったストレスチェックの仕組みは、現行の定期健康診断での自覚症状の問診から精神的健康の状態に関するものを区別していること、労働者に受診義務を課しながらも、原則として、事業者に結果が報告されない形式で、感度や特異度が不明確な労働者の精神的健康に関する検査を行うものとなっており、科学的にも実務的にも解決すべき多くの課題を有しているとの指摘もある
 最近の世界各国のメンタルヘルス対策の動向を見ても、職場におけるメンタルヘルス対策は、人間関係を含めた職場環境の改善などの幅広い活動を通して、労働者の心身の健康を保持増進することに寄与する仕組みを構築すべきである。今後は第一次予防対策を強化して、メンタルヘルス不調の発症予防に取り組むための法令の強化や労働現場での有効な仕組み作りが望まれている。」
 ストレスチェックについては科学的にも実務的にも解決すべき多くの課題を有している、メンタルヘルス対策は第一次予防 (メンタルヘルス不調者を出さないための職場環境作り) 対策の強化が有効だと提言しています。

 しかしこの後に厚労省から労政審に提出された法案は、ストレスチェックの 「労働者への義務付」 の条項が盛り込まれ、第二次予防の体調不良者を早期発見し、重症化しないうちに対応する、実際には体調不良者のあぶり出しに固執していました。
 労政審は原案のままで厚労省に答申しました。

 2月19日の自民党の部会では、ストレスチェックの 「結果がきちんと管理される保証がない。企業に知られると労働者の不利益が大きい」 などの意見が相次ぎました。厚労省は法案から労働者への義務付の条項を削除、さらに対象を 「産業医の選任が必要な従業員50人以上の事業場」 に修正します。
 3月5日の閣議決定前の与党協議のなかで、自民党内から 「検査結果が悪用されるおそれがある」 という意見が出されます。

 3月11日に法案は閣議決定し、最初に参議院に回されました。参議院では4月1日より審議入りし、厚生労働委員会での審議を経て4月9日に、参議院本会議で可決されました。
 厚生労働委員会では附帯決議が付きました。
「二、ストレスチェック制度については、労働者個人が特定されずに職場ごとのストレスの状況を事業者が把握し、職場環境の改善を図る仕組みを検討すること。また、小規模事業場のメンタルヘルス対策について、産業保健活動総合支援事業による体制整備など必要な支援を行うこと。」
 この後衆議院に回され、6月19日、衆議院本会議で可決、成立しました。


 2月10日付で、全国労働安全衛生センター連絡会議メンタルヘルス・ハラスメント対策局といじめ メンタルヘルス労働者支援センターは、衆参の厚生労働委員会の議員に 「要請書」 を郵送しました。内容はストレスチェック法案そのものに反対です。自民党部会、与党協議の中で出された修正を求める意見は、「要請書」 に記載した内容とかなり似ていました。
 この問題について他に反対の表明をした団体はないように思われます。

 今年3月28日に全国労働安全衛生センター連絡会議は厚労省に要請行動を行ないました。
 そのなかで、ストレスチェックについては産業衛生学会でも検討されているが議論が分かれている、ストレスチェックそのものにエビデンス、第一次予防につながる医学的な根拠はないという意見があると主張しました。そして一次予防については、むしろ有害物質の管理と同じようにリスクアセスメントをストレスあるいはメンタルヘルスについて行って、それで職場改善の対策を取るのが一番いいだろうという意見があるが厚労省は検討しているのかと質問しました。
 厚労省は、ストレスチェックでよく用いられている57項目の職業性ストレス簡易調査票についてはそれなりの信頼性・妥当性をもったものであると認識している、それを用いた職場改善が行われているということについてのエビデンスは一部報告されていると理解している、と回答しました。
 産業衛生学会がストレスチェックが有効だというエビデンスがないと主張していることにたいして、厚労省は信頼性・妥当性をもったものであると認識しているという回答です。

 また、ストレスチェック票を提出しない労働者に対して不利益な取り扱いを禁止することが必要だと主張しました。
 厚労省は、法案は、面接指導の申し出をもって不利益な取り扱いをしてはいけないとなっているが、それ以外のことについては不利益を生じないようにやっていきたいと思っているとしか回答しませんでした。
 当初の法案から 「労働者への義務付」 は削除されましたが、これでは労働者が拒否したことを “チェック” されて不利益な取り扱いを受ける危険性が残ります。実質的義務付になってしまう危険性があります。


 13年12月29日付の 「産経新聞」 は 「メンタルヘルス対策不十分 企業の担当者3人に2人が 『効果不明』」 の見出し記事を載せました。
 三柴丈典近畿大教授 (労働法) らの研究チームが11月に、企業や団体でメンタルヘルス (心の健康) に取り組む労務担当者や産業医らの実務者を対象にした調査で429人から回答がありました。
 その結果、社内で実際にメンタルヘルス対策を講じているとした213人のうち、139人 (65・3%) が 「効果を認識できていない」 と回答。17人 (8%) は 「効果が表れていない」 と答えています。
 具体的に講じている対策 (複数回答可) としては、相談窓口の設置 (70・4%) や管理職研修 (58・7%) などの “定番” が多かった半面、効果が高いとみられるメンタルヘルスの専任者配置 (11・3%) は最も少なかったといいます。
 回答者の中には、すでにストレスチェックを実施していた会社も含まれていると思われます。
 また、社内の不調者がここ3年間で減っていないと分析する実務者と、今後10年間は増加または横ばいで推移すると予測する実務者が、いずれも9割以上にのぼることも判明しました。
 企業や団体で実際にメンタルヘルス対策を講じているのは半数以下というのが実態です。


  労働者へのストレスチェックそのものが絶対悪ということではありません。
 しかし実態はすでにたくさんの問題が発生しています。ストレスチェックを受ける・受けないの意思表示と受けた結果が悪用されています。体調不良者の “気づき” “発見”、そしてその対策が個人の問題として取り扱われ、職場環境の改善には結びついていません。
 具体的には、受けなかったものは協調性がないという評価や都合悪いことを隠しているという捉え方をされます。そして体調不良者が “発見” され排除・退職の対象にされます。このような目にあった労働者はたくさんいます。
 使用者は、体調不良者を追放したら健全な職場になると捉えています。

 海外ではどうでしょうか。
 たとえばイギリスにおけるストレス調査は、「職場のストレスの多くの原因は、人事関係の問題である。職場のいじめ、長時間労働の慣習、人員整理とそれによって残された人々にかかる作業負荷、そして、女性差別や民族差別のようなことは、全て人事 (HR) が対処すべき問題である。」 「もし事業者が労働時間、労働量、管理形式のような分野に及ぶ基準を満たそうとするなら、人事部は重要な役割を果たさなければならない。」 ということを目的とされています。
 人事関係・人事部の問題として対応するか、個人の問題化とするかがイギリスと日本の違いです。
 
 職場のストレスチェックの目的が労働者のメンタルヘルスの病状チェック・掌握という日本のメンタルヘルス対策は、国際的には “独特” です。
 労働者へのストレスチェックにエビデンスがあるかどうかの議論については、国際的には、労働者がかかえるストレス調査は職場環境改善のためのデータ作りが目的で、病状発見を目的にしていないのでデータがありません。ストレス発生を労働者個人の問題として捉えていないのです。
 今回のストレスチェックはこのような目的からかけ離れています。そして効果のエビデンスがありません。


 ストレスチェック法案は成立してしまいました。しかし付帯決議はこれまで厚労省が実施を強行しようとした内容について歯止めをかけました。
 しかし、厚労省は制度運用項目を決定するに際して“逆襲”に出ることも予想されます。
 今後の検討会では実際に悪用された実例を挙げ、その危険性が排除されていないことを指摘し続けて、付帯決議を尊重し、活かした実施要項になるよう監視していかなければなりません。
 効果のない現在のメンタルヘルス対策は根本的に捉え返しが必要です。第一次予防を中心にしたものにするために監視していかなければなりません。

    資料:「要請書」 14.2.10

    資料:「要請書」 12.5.18
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