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すべての労働問題はパワハラ
2014/06/03(Tue)
 6月3日(火)

 IMCは、労働相談を受ける側の人たちのための講座を開催しています。
 日頃、労働組合や行政機関などで相談を受けている中での思いや問題点を出し合って意見交換をします。輪番でチューターを決めて問題意識を提起してもらいますが、雰囲気を和らげるために毎回お菓子をほおばり、お茶を飲みながら和やかに進められます。

 5月28日は特別編で、行政におけるセクシャルハラスメントや職場のいじめ問題への取り組みのパイオニアである元東京都労働相談情報センターの相談員だった金子雅臣さんから職場のいじめ問題の捉え方について話しをしてもらいました。長い年月を経た経験を話してもらうために準備したのはバームクーヘン (年輪を感じさせるという意味で) と紅茶です。

 金子さんの報告をかいつまんで紹介します。

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 私は、行政として最初に職場のセクシャルハラスメント問題への取り組みを開始したと言われますが、そこ頃はセクハラという言葉自体もありませんでした。
 東京都の職員の時、アメリカに行ったついでにサンフランシスコの、東京都労働情報相談センターのような機関の女性問題を専門に扱う部署を訪問していろいろな話をしました。
 以前から、相談活動のなかで女性にかかわる気になっている問題がありました。
 1つは、男社会で男性の上司に反論する女性は、男性なら解雇にならないような理由でもなっている。もう1つは、今から言えばセクハラそのものですが、解雇理由が本当の原因と経過や結論が違う事案があります。セクハラ事件が起きた後、上司との関係がうまくいかなくなって反抗的とかの理由で解雇になっています。そのような事案について漠然と気になっていました。
 サンフランシスコに行った時に、日本ではこういう男女差別のひどい相談が結構あると話をしました。そうしたら相手の男性の方が 「それはセクハラだよ」 と言われました。えっ何それと話をしたら、厚い資料を示して、法律ではこのように決まっていているというような話を聞かせられました。資料はもらいました。

 東京に戻り、何とかしなければいけないと思って相談担当者会議でサンフランシスコでの話をしました。気になる相談とか、結果はともかく原因が性的なトラブルが背景にある事例があったら次の会議に報告してほしいと要請しました。そうしたら女性の相談員が反応して何件か報告がありました。
 それを相談活動の調査報告で集計して 「性的嫌がらせ」 (ハラスメント) という項目を作りました。そしたら読売新聞の女性記者が着目してこれは何ですかということになりました。
 他の人たちや団体もアメリカから仕入れた資料を活かして活動を始め、1989年にいきなり話題になります。それと男女雇用機会均等法制定の流れなどいろんな要素があって問題になってきました。


 セクハラ問題の集計の時に気になっていたのは、行政は結果で集計します。つまり女性がセクハラ問題が根底にあって解雇になっても解雇で集計します。何が原因で解雇になったのかは出てきません。他の項目もそうです。
 大事なのは原因です。何で首になったのかがわからなければ、斡旋・調停などではほとんど手続きだけで、解雇予告手当が必要、正当な理由があるかないか、ちゃんと手続きを踏んでいるかどうかが中心になります。お金を払ってもらえませんでしたという主張に、給料の一部だから賃金不払いですよと説得しますが、経営者は働きが悪いとか理由をいろいろ言い、納得しません。
 法律で決まっているから払えという話だけではなく、原因まで遡って職場で何が起きているのかわからないと労働問題として解決しません。
 原因に遡る取り組みができないかなと労働相談をしながらずっと考えてきました。


 パワハラ問題については問題意識を強く持っていたわけではありません。「パワハラ」 という表現までは思いつかなかったですが、労働相談をしながら “いじめ” は気になっていたテーマではありました。
 今は非常に関心があります。これはなんとかしなければいけないなという気持ちが強くなっています。その点での私の考え方、なぜこれが問題なのかということを考えてみます。

 なぜ今パワハラが問題になっているのか。1つは人権意識が高まってきたということです。職場での嫌なことにみんなガマンできなくなって訴えるようになってきています。それと、職場環境が劣悪化している中で人間扱いされていないことが起きてきて、声をあげざるを得なくなって悲鳴が出てきていると考えた方がいいのかなと思います。
 法律が先行しているわけではないですが、パワハラという言葉が出てきたことによって、職場でくやしい思いをして今まで鬱積した悔しさを言ってくる人もいます。


 今いろいろな大企業を含めて研修をする時、従業員に 「あなたの会社は何がよければ働きやすいと思いますか」 というような優しい言葉で、匿名でアンケートをとります。会社にも何がよかったら働きやすいかを知りたいですよねと言うと是非やって下さいと言います。とんでもない結果が出てきてびっくりします。「上司がもうちょっといい人だったら」 とか 「同僚との人間関係がうまくいったら」 「社長がいい人だったら」 と書いてきます。アンケートは聞き方次第です。
 アンケート結果は、今は圧倒的に人間関係です。賃銀とか休暇、退職金などは、結構労働条件が悪いと思われる会社からも出てきません。ということは、それ以上に人間関係がひどいことになってきていると見ていいのだと思います。これが今の実感です。 


 社会的には今、切れる、逆切れ、上から目線という言葉が当たり前のように使われます。切れるとはコミュニケーションを断ち切るわけです。逆切れに至っては、自分が悪いことはわかっているけれども途中から相手に食ってかかる現象です。上から目線は、その言い方が気に入らないということです。上の人がそう言われても困るような話です。こんなことは今まで、いい悪いは別として、ありえなかったことです。
 みな社会的にイライラしていると状況が背景にあります。
 労働問題では、この10年で、いじめが原因で「うつ病自殺」などの裁判が起こされたり、労災認定基準の見直しが行われています。
 見方によっては異常な実態です。死ぬところまで至ってようやく問題になりました。しかもそのことによって労災が適用されます。過労死に次いでいじめによる労災認定基準の見直しまで行われるようになってきました。

 今、上司の態度、指導が問題だという訴えが裁判になるケースが増えてきています。
 N保険会社事件の判例です。(H17.4.20東京高裁) 保険会社の20人位の営業所で、トップが所長で次が課長、その次が課長代理、そして職員です。営業活動のトップの地位の課長代理が所長と課長を裁判に訴えました。
 所長と課長は課長代理の営業成績があまりよくないことを気にしていました。営業でトップを走ってもらいたいという思いがあります。しかし本人はあまり気にしていません。 
 日頃から注意していたが効果がありません。販売促進月間に他の社員は気合を入れていやっているにもかかわらずよくない。後半になって所長と課長が相談をして注意することを決めます。課長の提案で、全員に見えるようにすると見せしめにもなるということでメールで注意することにしました。課長は 「課長代理、いい加減にしてください。例によってこの段階に来ても成績は低迷してますよ。このままいったら課長代理としての職責が泣きますよ」 というようなことを書こうとします。所長はそんななまっちょろいことではあいつはこたえないということで文書を書き変えます。「意欲がないなら会社を辞めるべきだと思います。……」
 逆切れした課長代理が所長と課長を訴えました。理由は、1つは、何でこんな恥をかかせる必要があるのか、もう1つは、何でメールを使ってしなければならないのかということです。さらに自分の名誉を毀損しているということです。
 これに対する一審判決は、確かに言い方はきついかもしれないけど、営業成績が悪いんだし言われてもしようがないだろうという内容です。人格を傷つけるなどと大げさに騒ぐもんじゃないということでした。
 しかし二審になるとひっくり返ります。
 「退職勧告とも会社に非必要な人間ともとれる表現、人の気持ちをいたずらに逆なでする侮辱的言辞など、名誉感情を毀損するものであることは明らかであり不法行為を構成する。」
 理由の1つは、辞めろと言ったら教育とか指導と言えるのかということです。2つ目は、人の気持ちをいたずらに逆なでする侮辱的な言辞です。相手を侮辱して、受け入れないようにしておきながら指導するというのは指導と言えるのか。3つ目は、愚図な性格とか個人の性格まで踏み込んで名誉感情を毀損するのはやり過ぎではないか。4つ目に、なんで赤文字でポイントを上げた表現をしなければならないのか。教育・指導に上司の個人的怒りの感情を表現する必要があるのか、なるべく冷静になって相手に間違っているところを直してもらうようにするのが教育・指導であるということです。当り前のことです。
 これまでだと一審判決が当たり前なのですが、二審は、そもそも教育とか指導ということを言っているが、これは教育・指導と言えるのかともう1回チェックしたものです。極めて優れた視点です。


 パワハラは4つのポイントで判断します。
 1つは、職務上の地位や人間関係の優位性などの背景です。2つ目は、業務の適正な範囲を超えるなどの手段、3つ目は、人格・人権を否定する (言動) などの手段、4つ目は、精神的・身体的苦痛を与える、職場環境を悪化させる結果です。

 以前は、性的な意図を持っていなければセクハラではないと言われていました。
 私は、そうではない、性的なトラブルだけではなく、職場におけるすべての女性差別の問題はセクハラであると言い切りました。いずれそうなると言ってきました。「くそばばあ」 とかの言葉の問題は性的な目的を持っていったわけではないですが、今はセクハラ問題になります。
 パワハラも同じです。すべての労働問題はパワハラだと言ってもいいと思います。解雇は究極のパワハラです。賃金不払いや配置転換、出向は嫌がらせであったら明らかにパワハラです。賃金不払いの原因は何なのか、原因から結果を問うような闘い方、問い詰め方を今後の労働問題はしていく必要があると言い続けています。
 パワハラの概念がないとなかなか言いずらいのですが、パワハラというキーワードでもう一度労働問題を全部問い直して原因を追究することが必要です。


 セクハラ問題の場合は、職場での解決は無理だと思っています。訴える側も、訴えられた側もお互いの人権侵害はありとあらゆるところにからんできます。だからむしろ第三者がジャッジして解決していかないと抜本的解決はあり得ないと思います。

 私が企業の中で問題にしていることは、パワハラはハラスメントであるけれどもセクハラと違って性的な人権侵害というキーワードがありません。
 職場のお互いのコミュニケーションギャップからくるものも含み、すごく厄介です。職場の仕事の進め方を含めた業務、業態のあり方、日ごろのコミュニケーションギャップまで含めて出てきて深刻な問題になることもあります。
 わかりやすい言い方をすると、パワハラの場合、気が付いてごめんと謝ればある程度は済む話がかなりあります。上司は頭を下げないから駄目なんです。パワハラは気が付いた時にもとに戻れます。許容度は結構あります。
 企業の中でもちゃんと問題を抱え込んで、コミュニケーションの問題を含めて処理できる能力を持てば、解決する手段はあります。最初はわからなくても、解決指導するとある程度解決していきます。人権回復ができます。
 企業の取り組みは、いかに人権侵害をやらない企業に変わるかということを含めて考えていく必要があるテーマです。

 結論として、パワハラが提起している課題について、次のようにまとめることができます。
 (1) 職場の人権が問題にされなければならない劣悪な職場環境においては、すべての労働問題はパワハラです。
 (2) パワハラは職場環境を問うキーワードです。企業の体質が出てきます。仕事の進め方、考え方が違います。パワハラ職場の訴えで噴出する職場環境の告発を問題にしていく必要があります。
 (3) パワハラは単なる 「業務上の適正な範囲を超えた指導」 (行き過ぎ) の問題ではなく、企業の人権感覚を問い直すバロメーターです。業界・企業の体質、企業組織や仕事の進め方が問い直される必要があります。
 企業競争に勝つためには、パワハラ体質を引きずってはやれません。いろんな危機感が出てきてスタンダードを変えなければならない時代になっています。
 問いなおしてイメージを変える時に、褒めて変えるの方向で転換すると成功します。
 (4) 労働組合はいまだに駄目です。体質的に変えなければならないです。労働組合が人権問題に取り組むことを考えていかなければなりません。
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