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「過労死等防止対策推進法」 に実効性を持たせるために
2014/05/30(Fri)
 5月30日 (金)

 5月23日、「過労死等防止対策推進法案」 が衆議院厚生労働委員会で全会一致で可決され、27日には本会議を通過して参議院に回されました。

 ここに至るまでかなりの時間がかかりました。全国過労死を考える家族の会や過労死弁護団全国連絡会議などの呼びかけで集会が開催され、さらに 「過労死防止基本法」 の成立を目指し、政党や国会議員、労働組合などに呼びかけて 「過労死防止基本法制定実行委員会」 を結成して運動を展開してきました。過労死防止基本法は、1. 過労死はあってはならないことを国が宣言すること 2. 過労死をなくすための、国・自治体・事業主の責務を明確にすること 3. 国は、過労死に関する調査・研究を行うとともに、総合的な対策を行うこと の総合対策を盛り込んでいました。
 可決された 「過労死等防止対策推進法」 は、目的を 「過労死等の防止に関し、基本理念を定め、及び国、地方公共団体等の責務を明らかにするとともに、過労死等を防止するための施策の基本となる事項を定めること等により、過労死等を防止するための施策を総合的かつ計画的に推進し、もって仕事と生活を調和させ、健康で充実して働き続けることのできる社会の実現に寄与することを目的とする。」 と謳っています。その上で、(1) 過労死等の防止のための対策に関する大綱の策定義務、(2) 過労死等の概要および政府が講じた施策の状況に関する報告書の国会提出義務、(3) 厚生労働省内における過労死等防止対策推進協議会の設置、(4) 過労死等防止啓発月間 (11月) の設定などを規定しています。
「過労死等」 とは、「業務における過重な身体的若しくは精神的な負荷による疾患を原因とする死亡 (自殺による死亡を含む。) 又は当該負荷による重篤な疾患をいう」 と定義しています。


 では、過労死等防止のために具体的にはどのような対策が進められなければならないのでしょうか。
 1つには、2014年4月18日の 「活動報告」 に書きましたが 「勤務間インターバル規制」 の導入です。
 勤務間インターバル規制とは、一言でいうなら、時間外労働などを含む1日の最終的な勤務終了時間から次の勤務開始までに一定時間以上の休息を義務づけ、短期間内に心身の疲れをリセットできるようにする制度です。
 欧州連合 (EU) では、労働者の健康と安全の保護 (EC条約第137号) の観点から、1993年に 「労働時間指令」 を制定します。(2000年改正) そこでは24時間につき最低連続11時間の休息を付与する、7日ごとに最低連続24時間の休息日を付与するなどが規定されています。これに基づいて加盟国が法制化しています。

 日本では情報労連や基幹労連の加盟組合が、労働安全衛生面から労働時間規制も講じる必要があると判断し先駆的に取り組んできています。
 今春闘においても情報労連傘下の9単組が導入を経営側と妥結しました。10時間のインターバル制度が2単組、8時間が7単組です。
 これまで導入の効果として、職場からは 「深夜時間帯の回線切り替え等作業が、連続勤務からローテーション勤務に変更された」 「企業側が交代要員の確保や複数業務をこなせる多能工化を進めるようになった」 「始業時間に間に合わなくても勤務したものとみなされるので、休息時間が確保しやすくなった」 「インターバル規制が浸透し、休息時間が翌日の勤務に食い込んでも気兼ねなく出勤できるようになった」 などの評価が出ています。
 今年2月5日付の 「日経新聞」 は、「終業から始業、11時間休息を、電機連合、要求へ」 の見出し記事を載せました。
 勤務間インターバル制度は、長時間労働の制限がない状況に上限規制を設けることになります。

 2つ目は、過労死の温床・無制限残業を容認する 「特定条項付き時間外労働に関する労使協定」 (2003年10月22日付、労基法36条の運用に関する 「通達」 (基発第1022003号) の廃止です。
 この 「特別条項付き協定」 の内容です。
「労使当事者は、……『限度時間』 以内の時間を一定期間についての延長時間の原則として定めた上で、『限度時間』 (例えば1か月では45時間) を超えて労働時間を延長しなければならない 『特別の事情』 が生じたときに限り、一定期間として協定されている期間ごとに、労使当事者間において定める手続を経て、『限度時間』を超える一定の時間まで労働時間を延長することができる旨を協定すれば、当該一定期間についての延長時間は 『限度時間』 を超える時間とすることができることとされているところである。」
 具体的には 「特別の事情」 がある場合は 「1日を超え3箇月以内の一定期間について、原則となる延長時間を超え、特別延長時間まで労働時間を延長することができる回数を協定するものと取り扱うこととし、当該回数については、特定の労働者についての特別条項付き協定の適用が1年のうち半分を超えないものとすること」 です。

 労使協定を結ばなければ実行されない “はず” です。しかし実際に労働組合や従業員代表は機能していません。“名ばかり労働組合” になっています。いや “名ばかり労働組合” だからいいように利用されています。協定を結んでいるということで過労死の共犯者という自覚もありません。
 しかしこれが実態です。
 要するに、「特別条項付き協定」 を結べば、限度時間を超えた長時間労働が合法になります。延長時間が1か月100時間などという企業がたくさんあります。しかも運用実態は1年のうち半分などではなく常態化しています。これは違法です。しかし取り締まる労働基準監督署が機能していません。
 労働時間についての規制は使用者の都合だけが配慮され、労働者の健康問題は後付けになりました。労働基準法36条はザル法です。
 労働者の健康管理対策として、「特別条項付き協定」 は緊急の課題です。

 3つ目は、過労死・過労自殺が発生して労災認定された企業の公表です。
 過労死・過労自殺が発生した場合の遺族や関係者の対応は、職場の労働組合が機能しているなら労働組合で交渉、労働組合がない場合は個人加盟の労働組合・ユニオンで交渉することができます。さらに労働災害として労災申請、または損害賠償訴訟を提訴することができます。
 しかし労災申請、訴訟ともそこに至るまでが困難で、さらに時間的、経済的に大きな負担を強いられます。

 京都の大庄での過労死事件で、遺族は会社法第429条に違反するとして取締役らを訴えました。会社法第429条は、(役員等の第三者に対する損害賠償責任) として 「役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。」 です。
 高裁判決で善管注意義務違反が認められました。
「当裁判所は、控訴人会社の安全配慮義務 違反の内容として給与体系や三六協定の状  況のみを取り上げているものではなく、控 訴人会社の労働者の至高の法益である生命・健康の重大さに鑑みて、これにより高い価値を置くべきであると考慮するものであって、控訴人会社において現実に全社的かつ恒常的に存在していた社員の長時間労働について、これを抑制する措置がとられていなかったことをもって安全配慮義務違反と判断しており、控訴人取締役らの責任についても、現実に従業員の多数が長時間労働に従事していることを認識していたかあるいは極めて容易に認識し得たにもかかわらず、控訴人会社にこれを放置させ是正させるための措置をとらせなかったことをもって善管注意義務違反があると判断するものであるから、控訴人取締役らの責任を否定する上記の控訴人らの主張は失当である。なお、不法行為責任についても同断である。」 (大阪高裁 2011年5月25日判決 (労働判例1033号))
 遺族がここまでしなければ企業の責任を追及できません。

 労災申請は、企業と事実関係の争いになりますが、認定されても労災保険給付は国が支払う制度で、企業ではありません。企業は労災保険料が増えるだけです。つまり労災を発生させた企業の不法行為に対する制裁は発生しないのです。“みんなで渡れば怖くない”ということで企業内での責任はうやむやにされてしまいます。結局、企業は反省をしないし、労災の予防・防止の対策をとりません。

 予防・防止の対策をとらせるためにはどうしたらいいか。
 労働基準監督署が、企業名を公表することです。
 しかし現在は行われていません。理由は、特定の個人を識別できる恐れがある、法人の信用低下を招く恐れがある、また企業が調査に非協力的になるということです。
 実際は権限を放置しているから企業からなめられているのです。
 その結果泣きを見るのが労働者です。
 労災を発生させた企業には社会的制裁を科して責任をとらせることが抑制策となって、労災の予防・防止の対策を進めることになります。


 政府の産業競争力会議では新しい労働時間制度の創設を提案しています。(2014年5月20日の 「活動報告」)。企業が競争力を高めるために 「柔軟な働き方」 の理由は、「特別条項付き協定」 が通達された時のものでもありました。その結果、過労死を増やしています。
 またホワイトカラーエグゼンプションが言われ始めました。以前、法制化されようとした時 「残業代ゼロ法案」 と呼んで反対運動が展開されました。しか労働時間の短縮・「残業ゼロ」 の視点からの要求にはなかなかなりませんでした。ホワイトカラーエグゼンプションは 「過労死促進」 です。

 「過労死等防止対策推進法」 を労働者の命と健康を守るためのものとして実効性がある具体的対策を持ち寄って内容の濃いものにしていく必要があります。
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