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メンタルヘルスチェック法改訂は、使用者の安全配慮義務違反の免責が目的
2014/02/07(Fri)
 2月7日(金)

 1月24日、厚生労働大臣は 「労働安全衛生法の一部を改正する法律案要綱」 を労働政策審議会に諮問を行いました。この後、改正案は通常国会提出されようとしています。その中に、使用者に定期健康診断などにおいて労働者のストレスチェックを法律で義務づける 「職場におけるメンタルヘルス対策」 が含まれています。
 使用者は、全従業員に年1回、医師か保健師によるメンタルヘルスチェックを実施し、必要な措置を講じなければならない、労働者は検査を受ける義務があるなどの内容です。

 法案は、民主党政権時代の長妻厚労大臣の時に提出されましたが廃案になりました。昨年は提出されようとしましたが、結局されませんでした。(11年11月4日、12年6月28日、13年6月28日の 「活動報告」)
 厚労省はなぜここまで執拗なのでしょうか。

 全国安全衛生センターといじめメンタルヘルス労働者支援センターは、労働者のメンタルヘルス対策推進に寄与するものではなく、逆に体調不良の労働者を排除するもので危険性が大きいととらえて何度も厚労省に提出反対を要請してきました。

 反対する理由です。
 労働安全衛生法は、第一条で 「労働災害の防止のための危害防止基準の確立、責任体制の明確化及び自主的活動の促進の措置を講ずる等その防止に関する総合的計画的な対策を推進することにより職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進することを目的とする。」 と (目的) を謳っています。
 職場の健康確保と快適な職場環境の形成は、労使の自主的な活動によって行われるもので、産業保健スタッフがそれを支援して推進されます。
 法は (事業者等の責務) を謳っていますが、労働者の義務はありません。
 しかし改正案は労働者に検査を受ける義務を負わせます。現在の労働安全衛生法からの大きな転換です。
 なぜ、メンタルヘルスに関してだけ労働者に義務が負わされるのでしょうか。

 2012年12月23日付の 「共同通信」 発信の 「健診受けないと賞与減 直属の上司も 来年度からローソン」 の見出し記事です。
 「コンビニエンスストア大手のローソンが、健康診断を受けない社員の賞与を15%減額する異例の制度を、来年度から導入することが23日分かった。直属の上司も10%カットする。多忙を理由に健診を受けず、健康を害して仕事を続けられなくなるケースを減らすのが狙いだ。
 企業の医療費負担の軽減にもつなげたい考えだ。2013年度中に健診か、人間ドックを受けなかった社員とその上司について、14年度の賞与を減額する。
 会社の健診を仕事の都合で受けられない場合も、会社の費用負担で別の日に受診できるため、どんなに忙しい職場でも健診を受けることは可能とみている。厳しいペナルティーを科すことで全員の受診を目指す。
 ローソンでは、11年度の健診受診者が約83%にとどまった。『社員の健康管理のため社としてすぐ行動すべきだ』 (担当者) と判断したという。」
 現行の労安法からは明らかに逸脱です。しかしなぜここまで強硬なのでしょうか。本当に労働者のことを考えてのことでしょうか。
 本音は、全労働者の健康データが欲しいということではないでしょうか。

 労安法は、第三章で安全管理体制を謳っています。「総括安全衛生管理者」 「安全衛生管理者」 「衛生管理者」 「安全衛生推進者」 の選任と 「安全委員会」 「衛生委員会」 「安全衛生委員会」 の設置です。
 しかし最近は、労働政策研修 研究機構の 「メンタルヘルス、私傷病などの治療と職業生活の両立支援に関する調査」 結果に見られるように、企業は体制確立をおろそかにしています。(14年1月23日の 「活動報告」) そして確立しても実態が伴わない名目だけのものも多くあります。
 その弊害はメンタルヘルス以外でも発生しています。
 職場は、業種、職務さらにそれぞれの社風や慣習などで違います。その状況を踏まえた取り組みが必要になります。現場を熟知している安全管理体制はその中でより機能させることができます。
 厚労省は、法改正ではなく企業と労働組合に法遵守を働きかけて職場の健康確保を充実させていくことが先の課題です。それをしないでの法改正は事後処理でしかありません。


 厚労省は2000年9月8日付で 「事業上における労働者の心の健康づくりのための指針」 を策定しました。そこでは、第一次予防 (未然防止及び健康増進)、第二次予防 (早期発見と対処)、第三次予防 (リハビリ社会復帰) に区分されています。
 メンタルヘルス対策は第一次予防が重視される必要があります。未然防止は、具体的には長時間労働の禁止、過重労働の禁止、ストレス発生原因の解消などです。現在これらへの対策は遅れていて深刻な問題になっています。その取り組みを放置して第二次予防だけを推進することは本末転倒です。
 メンタルヘルスチェックが目指すのは長時間労働に耐えている労働者の中から耐えられない労働者を摘発して対処=排除する手法としか受け取れません。
 労働安全衛生対策は、ストレスに強くなる労働者を作ることではありません。

 企業は、労働者に労働法制が規制する限界を強制して 「違法でない」 と主張します。時間外労働には制限がありません。
 このような中で労働者は我慢して働いています。「違法でない」 の寸前は過度のストレス状態でゆとりがまったくありません。労働者は健康も安全も確保されていません。
 その中でメンタルヘルスチェックで 「発見」 された労働者は、あてにならない労働力として対処=排除されていきます。排除は生活手段を奪います。実際にこのような労働者は大勢います。だから排除を恐れて我慢して働いている労働者がたくさんいます。
 未然防止及び健康増進対策は、「違法でない」 境界線を守ることではなく、充分にゆとりを持って働ける労働条件と職場環境の確保が必要です。現段階は不十分などという段階にも至っていません。


 このような状況が放置されたままで改正案が成立したら、体調不良を隠して働いていた労働者が摘出された場合、使用者の安全配慮義務違反が免除され、自己責任を強いられる危険性が出てきます。法改正は、使用者の安全配慮義務違反を免責することが本当の目的だとしか受け取れません。

 今、戦略特区が言われ、労働法制適用除外の特例が設定されようとしています。
 現在においても「違法でない」の寸前で働いている労働者にそれを越える労働をしても 「違法でない」 と合法化するものです。明らかに第一次予防政策を相容れないものです。これに加えて自己責任を強いられることは労働者の使い捨てを促進するもので、大量の体調不良者が発生する危険性があります。

 法改正によるストレス調査は、専門家からも手法、効果が疑問視されています。
 にもかかわらず法改正を強行しようとすることはまさしく、予防という視点からではなく使用者の安全配慮義務違反免除が目的であるとしか受け取ることができません。


 全国安全衛生センターメンタルヘルス・ハラスメント対策局といじめメンタルヘルス労働者支援センターは、あらためて厚労省と衆参の厚生労働委員会所属の議員に提案反対、採択反対の 「要請書」 を送付します。
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