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「疲れて当たり前ですよ」
2013/03/29(Fri)
 3月29日(金)

 今年初めに、兵庫県宝塚市から岩手県大槌町に派遣されていた職員が自殺しているのが発見されました。(2013年1月8日の 「活動報告」)
 このニュースを知った時、3つの疑問が湧いてきました。
 1つは、受け入れ自治体は惨事ストレス対策をきちんと取っていたか、メンタルチェックなどで事足れりとしていたのではないか。理解がなかったのではないか。2つ目は、派遣された職員は過重労働について、意見を言えたのだろうか、ストレスを発散する機会はあったのだろうか。遠慮があったのではないか。3つ目は、兵庫県宝塚市からということでは阪神淡路大震災の体験があり、フラッシュバックしたのではないだろうか。兵庫県では、神戸消防局では惨事ストレス対策が進んでいるが、自治体労働者はどうだったのだろうか。

 1月30日付の 『毎日新聞』 地元版は、大槌町の総務部長が、対策は 「これまで有名無実だった。しっかり機能を果たすためにも強化が必要」 と述べたと報じています。被災地の他の自治体も同様だったと思われます。
 大槌町は、1月29日に労働安全衛生法で設置が義務づけられている 「町職員衛生委員会」 のメンバーに精神科医を追加するなどの職員のメンタルヘルス対策を発表、3月までに来年度から5年間の方針を定めた 「大槌町職員の心の健康づくり実施計画」 を策定することを決定しました。

 被災者でもある自治体職員にとって、遠隔地からの支援者・救援者にとっても理解できない事態が目の前で発生し、続いています。いわゆる 「惨事ストレス」 が発症する危険性が大きくあります。
 日本では阪神淡路大震災の時から 「心のケア」 が言われ始め、東日本大震災では被災者や救援活動従事者が大変な精神状況におかれていると言われていますが、まだまだ地域的、限定された職種でしか問題が捉えられていません。

 惨事ストレスについて報告をする機会がありました。内容は 「概論」・解説のレベルです。

 阪神淡路大震災における精神医療について、神戸大学病院の安克昌医師は体験を 『産経新聞』 に連載しました。連載は 『心の傷を癒すということ』 のタイトルで本になりました。安医師たちの活動が、日本で最初の惨事ストレスへの本格的取り組みのようです。

 報告は、まず 『本』 から具体例を紹介しました。
 「……被災地には 『無傷な救援者』 など存在しなかったのである。
 大規模都市災害というものは、こういうものなのだ。埋もれた人を助ける人手がない。道具がない。消火活動するための水がない。病院で検査ができない。手術ができない。収容するベッドがない。そして、スタッフは全員疲労困憊している。こういう状況で、多くの人がなおかつ働き続けたのである。
 それはしかし、使命感によるものだけではなかっただろうと思う。混乱した状況の被災地に住む人々は、働くという行為によりどころを求めていた。働くことで安定した“日常生活”を取り戻そうとしていたのである。
 だが実際には、自らも被災した救援者は、いかに不眠不休で働いても決して充実感を得ることはできない。使命を果たしたという満足感よりも、十分なことができなかったという不足感が上まわるのである。そのため使命感にかられて自らを酷使し、消耗させてしまう。こういう状態が長期化しまったものを、私たちは 『燃え尽き』 症候群と呼んでいる。」

 1月下旬から、いくつかの保健所に 「精神科救護所」 が設置され、各自治体から派遣された精神科医、精神科ソーシャルワーカー、看護師などが配置されました。
 安医師の体験です。
 「私が手伝ったのは兵庫保健所の精神科救護所だった。たいてい保健所というものは、区役所に併設されている。その区役所の有り様を見て、私は驚いた。いろいろな相談に訪れ、救援物資を求める大勢のひとたちが、庁舎を雑踏に変えていた。睡眠不足で目が赤く、疲れた表情の職員が、忙しく動きまわっていた。少々殺気立った大声も聞かれた。こんな騒然とした役所のありさまを、私ははじめて見た。
 案の定、区役所の若い男性職員が、こっそりと救護所に相談に来た
 『こんなところにいるの見つかったら、さぼっていると怒られますわ』
 そう言って彼は腰痛と疲労感を訴えた。顔色が悪く、疲れて愛想笑いもできないようだった。聞けば、震災後ずっと役所に泊り込んで、着の身着のままで仕事を続けているという。区役所の人も住民もいらいらしていて、少しでも休んでいると叱られる、とも言った。
 『疲れて当たり前ですよ』 と私が言うと、そうですね、そうですよね、と安心したように彼は頷いた。湿布を貼って、苦労をねぎらうと、しばらくしてほっとしたように帰って行った。」

 東日本大震災直後に、宮城県名取市の職員のことが各新聞で写真入りで取り上げられました。
 赤ん坊だった子供の遺体は数日後、妻の遺体は数ヵ月後に発見されました。その間も職員は不眠不休で職務につきました。彼は市役所玄関に設置されたメッセージボードに被災者に向けてメッセージを届けます。
 「最愛の妻と、生まれたばかりの一人息子を大津波で失いました。いつまでも二人にとって、誇れる夫、父親であり続けられるよう精一杯生きます。被災されたみなさん、苦しいけど負けないで」
 彼は、今年3月11日に開催された政府主催の式典で遺族代表として挨拶しました。
 「一日一日を生きることがこんなにも大変なことだったのかと、過ぎゆく時間の重さを感じ続けた2年間でした。自分は何のために生きているのだろう。何度も同じ疑問がうかんでは、そのたびに息が詰まり、答えを出せずにいました。それでも、ひとつだけ確かなことは、あなたがいた私の人生は幸せだったということです。自分に残された年月をかけて、愛する2人の人生の続きを、私が歩んでいこうと思います。」


 『本』 の中の消防士についてです。
 「救援者である彼らは、残された家族に強く感情移入し、自分たちもその悲しみや怒りを感じとり傷つくのである。災害精神医学者のラファエルによれば、このような 『接死体験』 は 『ストレス反応の発生に大きく関与し、悪夢、不安感、睡眠障害、そして若干の抑鬱的傾向』 をもたらすという。つまり、PTSDの発症が心配されるくらい大きいストレスなのである。
 印象的なのは、隊員の多くが、災害救助についてひどい “無力感” を味わったことである。
 『今まで、どのような災害に出会っても、仲間とともに救出、救助、消防活動をし、この仕事に誇りを持っていた。が、今回は違った。助けを求めてきている人々に応えることのできない自分の力のなさを嘆き、事前の恐ろしさに驚異を感じた。
 「ほんまに消えるんやろか……」 あまりにも消防が無力に思えた。
 病院収容後、人命を救助したという充実感はまったくなく、すでに失われたであろう尊い命の数や救助を待ち焦がれている大勢の人びとのことを思うと、自分の無力さを思い知らされるとともに、今までの大規模災害に対する認識の甘さを痛感した。』」

 東日本大震災で共同通信発信の警察官についての記事です。
 「探しても探しても、その番号の遺体が見当たらない。
 津波被害を受けた地域の遺体安置所に、西日本から派遣された男性警察官は、そんな悪夢にうなされる。
 与えられた任務は、家族による身元確認の付き添いや遺体引き渡しの手続き。目の前には平常時ではあり得ない、おびただしい数の遺体が並んでいた。おえつが響き渡る空間に死臭が漂う。『何番を見せてほしい』。その遺体まで案内し、一緒に確認する。『ご家族は確認できた直後は一様にほっとする。泣くのはそれから。確認できないとあの日が終わらないんです。早く見つけてあげたいと思った』
 掛ける言葉が出てこない。遺族の話にただうなずいて、頭を下げることしかできない。
 そんなことは初めてだった。
 『生き返って!』。子どもを亡くした母親の、悲痛な叫び声が耳に残っている。子どもの遺体はわが子の姿がダブり、特に胸にこたえた
 『自分は警官だ、自分は (精神的に) 強い』 と思っていた。被害者や遺族への接し方にはそれなりに自信もあった。意気込んで被災地へ向かったが、その自負はすぐに打ちのめされた
 1週間もすると、死臭もがれきの山も “日常” になった。『慣れるのは、精神的なキャパがもたないからなのかもしれない』 と言う。
 任務を終え、震災前と同じ日常に戻ると、違和感を覚えた。『この街には死臭がしない』。眠りが浅くなり、やめていたたばこに手を出した。幼児の変死事案に対して何も感じない自分がいた。あの仕事は何だったのか。一生懸命任務を全うしたつもりだが、充実感なんてこれっぽっちもない
 『ありがとうとご遺族に言われたが、遺体を見つけたのは俺じゃない。最後に引き渡しただけ。誇れることじゃない』 組織的なフォローは特にないが、期待もしていない
 『あったとしても、人事上の不利益にもつながりかねないし、信用して相談なんてできない。個人で折り合いをつけるしかないでしょ?』
 今も被災地で一緒に活動した仲間と連絡を取り合っている。「同じ思いを分かち合える相手がいることが、救いです」

 「ラファエルはさらに、救援者の役割上のストレスとしていくつかの要因を列挙している――自分が適切な措置が取れないこと、通信連絡の支障、資材や器具の不備、目的地へ到達できないこと、人手不足、官僚主義からくる諸問題。これらのすべてが消防隊員の手記にも記されている。
 そして今回、懸命に消火活動にたずさわる消防隊員に被災者のなかから 『消防隊員はなにやってるんや』 と罵声があびせられたそうである。……隊員たちは、被災者の気持ちが理解できるだけに、無力感を抱かずにはいられなかった。」
 被災直後の被災者は、さまざまな心身の不調を体験するが、それは災害という 「異常な事態への正常な反応」 です。多くは一時的なもので、時とともに薄れていくが、衝撃があまり大きい時はPTSDとなって長期化することもあります。予防のためには被災体験を他人に話すこと、それについての感情を表現することが大切です。
 PTSDとは、「正常な反応」 が解消せず、症状が持続し悪化した状態です。


 兵庫県では大震災の後の6月に 「心のケアセンター」 を設立しました。
 安医師と一緒に活動した加藤寛医師は 「心のケア活動」 を3つに分けて説明しました。
 (1)個人のケア 
  ・大災害の後の被災者の心理状態は日を追うごとに変わっていく。「震災パラダイス」=“みんな平等”。
   少しでも落ち着きを取り戻したら生活者として立ち止まっていられない。すると今後への不安が襲う。
  ・救援のシステムは、
   「<心のケア> と言っても精神科医や臨床心理士が前面に出ることはいいやり方ではない。
    ラファエルが言うように、『精神衛生面での応急措置にかかわる役割は、災害直後の他の多くの重
   要な作業と密接に結びついているので、できるかぎりそれらの作業と連携を保ちながら、他の応急作
   業担当者たちを認識し、協力しながら進めるべき』 なのである。……
   『災害からしばらくの間は、ショックに打ちひしがれ、悲嘆にくれる時間が被災住民には必要である。
   その間は (応急的対応は別として) カウンセリングよりもむしろ生活支援に重点を置く方が精神的支
   援にもつながるであろう』
    すなわち、<心のケア> が独立して活動するよりも、一般的な救助活動の中に <心のケア> を盛
   り込んでいることがよい。
 (2)地域のケア
 (3)ケアする人のケア
  ・心的外傷を受けていながら、その体験を自分の中で受け入れることができないでいる。
    治療の目標は、外傷体験を受け入れられるように援助すること。=「外傷体験について考えることも
   考えないことも自由にできるように助力すること」

 治療の4つの要素です。
  ⅰ 安全であるという感覚を取り戻す。
  ⅱ その恐ろしい体験と折り合いをつける。
  ⅲ 生理的なストレス反応を統制する。
  ⅳ 安定した社会的つながりと対人関係における効力を再確立する。
 デビット・ロアの 「アクティブ・リスニング」 です。
  ・聞き役に徹する
  ・話しの主導権をとらず、相手のペースに委ねる
  ・話を引き出すよう、相槌を打ったり質問を向ける
  ・事実 「何が起こったか」 → 考え 「どう考えたか」 → 感情 「どう感じたか」 の順が話しやすい
  ・善悪の判断や批評はしない
  ・相手の感情を理解し、共感する
  ・ニーズを読み取る
  ・安心させ、サポーとする
 「デフリーフィング (debriefing)」――報告を聞く。「任務を終えた時に、良かった体験、ひどかった体験、その時の感情、現在の感情などについて話し合う」
 デブリーフィング は、米空軍では 「帰還報告」 のことをいいました。今は消防や災害などにかかわった人たちの 「災害体験報告」 の意味で使われている。体験を語り、共有することが現地で受けた災害ストレス解消には不可欠です。
 その他に、「デフュージング (defusing)」 と呼ばれる救援者同士で雑談的に救助活動についてざっくばらんに話し合う方法もあります。
                                            (つづく)
 
  
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いじめ問題への取り組みは労使にメリットをもたらす
2013/03/26(Tue)
 3月26日(火)

 3月2日、雑誌 『女も男も』 (労働教育センター発刊) が 「職場のいじめ・パワハラとメンタルヘルス対策」 を特集したのを記念して、執筆者による講演とパネルディスカッションが開催されました。

 最初に、労働政策研修 研修機構研究員の内藤忍さんが 「実態調査からみた職場のパワハラに状況と労働組合の取り組み方」 と題して講演しました。
 たくさんの資料が紹介されました。
 その中の職場のいじめの背景、発生職場の傾向についてです。パワハラ相談がある職場に共通する特徴は、「上司と部下のコミュニケーションが少ない職場」 51.1%、「正社員や正社員以外など様々な立場の従業員が一緒に働いている職場」 21.9%、「残業が多い/休みが取り難い職場」 19.9%、「失敗が許されない/失敗への許容度が低い職場」 19.8%、「他部署や外部との交流が少ない職場」 12.3%の順です。いずれもパワハラを経験した労働者も、未経験者も高い回答率を占めています。
 パワハラ問題に取り組む必要性、意義についてです。
 まず大前提として、パワハラは労働者の尊厳や人格を侵害する許されない行為です。パワハラは、受けた人だけでなく周囲の人、行った人にも、企業にとっても大きな損失が発生します。一方、予防・解決に取り組むことは、損失の回避だけにとどまらず、仕事に対する意欲や職場全体の生産性の向上にも貢献し、職場の活力に繋がります。
 イギリスの典型的な職場いじめ1件が企業にもたらすコストの試算についての2003年の研究結果があります。(いじめの結果としての) 欠勤£6.972 (1,020,849円)、(いじめによる離職の結果としての) 人材採用費用£7.500 (1,098,159円)、生産性の低下については不明、事実調査に係る調査者の時間コスト£2.110 (308,875円)、ラインマネジメントの時間コスト£1.847 (270,359円)、懲戒プロセスコスト (顧問、弁護士) £3.780 (553,307円) などなどで、少なくても£28.109 (4,114,528円) です。
 3月15日の 「活動報告」 で報告しましたが、いじめ問題はイギリス経済に年間137.5億ポンド (日本円で約2兆円) の損害を与えていると暫定的に推定されています
 いじめ問題については、まず、企業は 「職場のパワハラなくすべきものである」 という方針を明確に打ち出す必要があります。労働組合は、①企業と共同で取り組む、②自ら相談窓口の設置や周知啓発などに取り組む、③企業に対して、対策に取り組むよう働きかけをする、などが求められています。

 続いて、「労働現場や相談窓口からいじめ・パワハラの構造を探る」 のテーマで4人のパネリストによるパネルディスカッションです。
 日教組女性部長の佐野由美さんは教育職場の実態について報告しました。
 「現在の学校職場は、とてもストレスフルです。社会の状況の厳しさが保護者の生活にも影響し、子どもたちの生活や教育にも影を落としています。さまざまな子どもたちや保護者の声に対応することが求められる現状がありますし、熱心であればあるほど一生懸命何とかしようと頑張ります。本来の教材研究にとりくむゆとりがない現状があります。一般の教職員にとっても管理職にとってもストレスのかかる職場になっています。」
 このような中で、女性組合員を中心にパワハラへの取り組みが開始され、兵庫県を皮切りに大阪府などでパワハラ防止指針が作成されていきます。
 なぜ女性たちが取り組みに立ち上がったかについて4点あげました。
 1つは、従来からセクハラについて女性が当事者として予防や対策に取り組んできた。2つめは、女性であることを理由とする理不尽な対応にぶつかる経験を持っていて、ハラスメントに敏感になっている。3つ目は、女性は男性と比べて、雑談のなかで職場の様子などをよく話して情報交換をしている。4つ目は、女性は職場や家庭のなかでもケアする立場を担うことが多いという現実が関係している。
 泣き寝入りをしない、おかしいことはおかしいと言い合いながら、体験を活かして実態に対応すると具体的対策が見つけ出せます。

 IMCからの労働相談の具体例を報告しました。
 ある大手企業の支店です。
 上司が、朝礼で、社員が大勢いる中で、連日個人の業績を取り上げて批判します。周囲の者も耐えられません。パワハラだから止めるよう要請しました。すると上司は 「業務中に横から口を出すな」 と業務命令をしました。
 この問題について労働組合に相談すると、個人の問題は取り上げないと回答されました。職場の苦情処理委員会に申し立てたが相手にされません。労働安全衛生委員会は機能していませんでした。
 人権保護局に相談したら、労働問題は権限がないと受け付けられませんでした。厚労省・労働局に相談すると 「何か不都合がありますか」 と逆に質問されました。弁護士に相談すると 「どんな不利益が生じましたか」 と質問されました。
 段階を経る中で、労働者はストレスが蓄積し体調不良に陥ります。
 この例は円卓会議 「提言」 の 「行為類型」 の 「脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言 (精神的な攻撃)」 に該当します。せっかくの 「提言」 を使用者はネグレクトします。労働組合は無視します。上司は 「業務の適正な範囲」 を超えないと判断すると同時に処分をちらつかせて脅します。
 これが実態です。「労働者の権利は門前で立ち止まる」 (熊沢誠) です。
 いちばん悪いのは労働組合です。労使間には信頼関係がありますが、労働組合と組合員とに信頼関係を構築していません。職場で起きている問題を解決する気がありません。労使関係から人権、人格権が消えています。あるのは幹部と専従者の自己保身だけです。
 本当は職場環境、安全衛生の問題です。労働安全衛生法の 「就業環境整備義務」、判例と労働契約法の 「安全配慮義務」 に違反しています。安全衛生問題は精神面にまで拡大しています
 個人加盟の労働組合なら腕の見せどころとなります。

 カウンセラーの高山直子さんは、パワハラの被害者から相談を受ける時のポイントについて話をしました。
 まずは 「聴いて・質問して・聴いて・質問して」 を繰り返し、相談者に充分に話をさせることが必要、特に 「聴いて、受け止める」 プロセスが大切だと強調されました。そして判断や選択は、時間がかかってもあくまでも相談者に委ねる、被害者の意思を1つひとつ確認しながら進める。被害者にとってよかれと思って勝手に動かない、などと指摘しました。
 さらに二次被害のリスクが高くなるNGワードを紹介しました。

 産業医の牧由美子さんは、教職員のメンタルヘルスの状況を中心に話をしました。
 文部科学省の調査では、11年度中に休職した教員は5274人でした。2年連続で減少しましたが10年前と比べると約2倍です。文科省は、「学級を1人で受け持ち、保護者との関係の悩みなどを同僚や上司に相談しにくい状況が依然あるのではないか」 と分析しています。
 さらに精神科医の立場から、うつ病と日常的なうつ気分の違いや休職から復職までの過程などについての解説をしました。

 会場からもたくさんの質問が寄せられました。
 Q 日本では職場のいじめがもたらすコスト損失の計算はあるのでしょうか。
 A ありません。理由は、いじめの研究がほとんど取り組まれていないからです。
 Q パワハラの法制化は必要でしょうか。
 A 必要です。円卓会議から 「提言」 が出されても労使ともに無視している状態があります。使用者から
  かえってやりづらくなったという意見も出されています。強制力を持たせることが必要です。そのことは
  職場環境改善の底上げにも繋がります。
 Q 相談窓口はどのようにしたら利用しやすくなるでしょうか。
 A プライバシーを守るということを周知させることが必要です。相談員は相談を受けるだけの力量があ
  り、誰からも指示されないということを確立することが信頼に繋がります。いじめはどこでも起きる問題
  であるという認識と、解決に向かう入り口であると理解させる必要があります。それが相談しやすい雰
  囲気になります。
 Q 労働組合は、被害者が謝罪を要求している時どのような対応をしたらいいでしょうか。
 A 使用者は謝罪をしません。損害賠償訴訟の証拠になるからです。最近は代わりに感謝状を提案して
  います。被害者が会社で貢献したことに感謝の意を表するということです。そうすると被害者は存在を
  認められたことで自己を取り戻します。
   カナダの労働組合では、いじめ撲滅の取り組みの中で、仲直りをするプログラムに 「今後は挨拶をし
  ましょう」 ということを組み込んでいます。相手をリスペクトすることで関係性を修復しているという報告
  があります。
 Q 被害から回復するということはどういうことでしょうか。
 A 信じる力の回復です。
   特に集団的な被害の場合には1人では回復できません。情報交換から始めることもあります。

 この他にもたくさんの質問が寄せられました。休憩時間や終了後にも講師やパネリストに個人的に質問したり、感想や情報を寄せてくれる参加者がたくさんいました。

 しかし参加者は、現場の労働者は多くありませんでした。いじめの問題への取り組みは現場から盛り上がらないとせっかくの円卓会議の 「提言」 は活かされません。
 声をあげないと解決の入り口にも立てません。労働組合を突き上げる、衝き動かすことが必要です。そうすると 「次」 が見えてきます。 

  
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体調不良は職場環境のなかで原因があって発生している
2013/03/22(Fri)
 3月22日(金)

 2月28日、自殺対策に取り組んでいるNPO法人ライフリンクは 「自殺実態白書2013」 を公表しました。2007年から2012年までに亡くなった方の遺族ら523人の協力を得て、5年間かけて聞き取り調査を行い、自殺に至るまでの過程・プロセスなどを分析し、まとめあげたものです。
 労作です。

 今回の調査からは、それぞれの属性によって自殺に追い込まれるプロセスが大きく異なっていることが浮き彫りになってきたといいます。そのことを踏まえて、属性ごとの自殺の特徴 (危機経路や援助希求の有無等) を明らかにしています。

 始めに調査から見えてきたことを10項目あげています。
 1.自殺の危機要因となり得るものは69個ある。自殺で亡くなった人は、「平均3.9個の危機要因」 を抱
  えていた。
 2.職業等の属性によって、「自殺の危機経路 (プロセス)」 に、一定の規則性がみられた。
 3.最初の危機要因 (出発要因) の発現から自殺で亡くなるまでの日数は、職業等の属性によって大き
  く異なり、「自ら起業した自営業者」 が最も短くて、その50%が2年以内に亡くなっていた。
 4.正規雇用者 (正社員+公務員) の25%は、配置転換や昇進等の 「職場環境の変化」 が出発要因
  となっていた。
 5.うつ病は、自殺の一歩手前の要因であると同時に、他の様々な要因によって引き起こされた 「結果」
   でもあつた。うつ病の 「危機複合度 (その要因が発現するまでに連鎖してきた要因の数)」 は、3.6と
  非常に高かつた。
 6.実は、自殺で亡くなった人の多くが 「生きよう」 としていた。亡くなる前に、行政や医療等の専門機関
  に相談していた人は70%に上った。亡くなる1か月以内に限つても48%が、何らかの専門機関に相
  談に行っていた。
 7.専門機関に相談していた人の約50%は、相談した当日に自殺で亡くなっていた。
 8.若年女性 (10~20代) の67%に、自殺未遂歴があつた。
 9.過去に虐待やいじめ等を受けた経験が 「自殺の遠因」 になっていた可能性のある人は、14%に上っ
  た。女性が19%と、男性 (12%) より高かつた。
 10.明確に 「自殺のサイン」 と呼べるものがあるわけではなかつた。「自殺のサインがあったと思うか」
  との問いに 「あつたと思う」 と答えた遺族は58%いたが、「それが発せられた時点でもそれを自殺の
  サインだと思ったか」 との問いには、遺族の10%しか 「思った」 とは答えなかつた。

 自殺に至るまでの平均年月は5.0年 (中央値)、7.5年 (平均値) です。


 自殺の危機要因となり得るものは69個ありましたが、そのうち 「勤務問題」 として抱えられていたのは、多い順に、職場の人間関係 (95)、過労 (69)、仕事の悩み (51)、職場環境の変化(配置転換)(43)、仕事の失敗 (39)、職場環境の変化 (転職)(19)、職場環境の変化 (昇進)(17)、休職 (113)、職場のいじめ (11)、職場環境の変化 (降格)(6)、定年退職 (3)です。
 現在の職場環境と孤立している労働者の姿が浮かびあがってきます。

 正規雇用者 (162人) についての10大要因は、育児の悩み、介護疲れ、職場環境の変化、過労、職場の人間関係の悪化、身体疾患、家族間の不和 (夫婦)、仕事の悩み、仕事の失敗、負債 (多重債務等)、うつ病です。抱えられていた危機要因の数は平均4.0個です。
 自殺に至るまでの平均年月は4.0年 (中央値)、6.3年 (平均値) です。
 亡くなる前にどこかの専門機関に相談していた割合は64.6%、1か月以内に相談していたのは44.7%です。
 非正規雇用者 (41人) についての10大要因は、統合失調症等、家族間の不和 (親子等)、職場の人間関係の悪化、家族間の不和 (夫婦)、身体疾患、失業・就職失敗、将来生活への不安、負債 (多重債務等)、生活苦、うつ病です。
 抱えられていた危機要因の数は平均3.9個です。
 自殺に至るまでの平均年月は6.9年 (中央値)、8.1年 (平均値)です。
 亡くなる前にどこかの専門機関に相談していた割合は66.0%、1カ月以内の相談は39.6%です。
 正規雇用者の10大要因には含まれているが非正規労働者にはないのが、育児の悩み、介護疲れ、職場環境の変化、過労、仕事の悩み、仕事の失敗です。逆に非正規雇用者の10大要因には含まれているが正規労働者にはないのが、統合失調症等、失業・就職失敗、将来生活への不安、生活苦です。
 正規労働者は長時間労働が家庭生活に及ぼしていることが窺えます。非正規労働者は、雇用不安・不安定、生活不安定の悪循環が窺えます。

 事例です。(「→」 は連鎖を、「+」 は問題が新たに加わってきたことを示す)
 【被雇用者 (労働者)】
  ① 配置転換 → 過労 + 職場の人間関係 → うつ病 → 自殺
  ② 職場のいじめ → うつ病 → 自殺

 自営業者・自ら起業 (55人・個人事業主を含んでいるのかどうかはわかりませんが) についての10大要因は、事業不振、身体疾患、失業日就職失敗、過労、保証人問題、負債 (多重債務等)、生活苦、借金の取り立て苦、家族間の不和 (夫婦)、うつ病です。
 抱えられていた危機要因の数 (平均) 4.6個です。
 自殺に至るまでの平均年月2.0年(中央値)、4.0年 (平均値)です。
 亡くなる前にどこかの専門機関に相談していた割合は63.3%、1カ月以内の相談は42.4%です。特徴としては、自殺に至るまでの年月が最も短い。保証人問題が大きく効いています。
 事例です。
 【自営者】
  ① 事業不振 → 生活苦 → 多重債務 → うつ病 → 自殺
  ② 介護疲れ → 事業不振 → 過労 → 身体疾患 + うつ病 → 自殺
 【失業者、等】
  ① 身体疾患→ 休職 → 失業 → 生活苦 → 多重債務 → うつ病 → 自殺
 です。

 それぞれの10大要因にうつ病、危機経路の自殺の一歩手前がうつ病です。
 うつ病に罹患するのは原因があります。これは自殺問題だけではありません
 せっかくの「自殺実態白書2013」をきちんと活かすなら、配置転換、過労、職場の人間関係、職場のいじめなどの問題への取り組みをしないうつ病対策はありません

 今、「労働安全衛生法案」 が上程されようとしています。
 「職場におけるメンタルヘルス対策の推進」 として、事業者に通常健康診断とは別にメンタルヘルスの不調者を見つけるために検査・スクリーニングを義務付けようとしています。
 現在職場で行われているスクリーニングは体調不良者の排除を目的にしているものが多くあります。だから正直に対応する労働者は多くありません。そうすると労働者がその後に体調不良に陥ると使用者の安全配慮義務は免責され、自己管理責任となります。
 体調不良は職場環境のなかで原因があって発生しています。使用者は、体調不良者を 「摘出」 する前に配置転換、過労、職場の人間関係、職場のいじめなどの問題に取り組む必要があります。
 厚労省はこのことを真剣に検討する必要があります。それをしないでスクリーニングだけを義務づけるのは、労働者をますます窮地に追い込みます。
 「労働安全衛生法案」 は危険です。

 労作 「自殺実態白書2013」 を、実態を知ることで済ませるのではなく、予防・防止対策として活用していく必要があります。


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「みんなもう充分にがんばっているよね」
2013/03/19(Tue)
 3月19日(火)

 3月11日の石巻市は、陽が照っていますが、陸から海に向けて強い風が吹き続けました。いまだ行方不明者の中には海に飲み込まれた人もたくさんいます。その人たちに陸から近況を伝える便りを送っているかのようでした。

 午後2時46分、石巻市内の海を見遥かす日和山公園にいました。
 サイレンが鳴りました。みなで海に向かって黙とうをしました。
 隣りは近くに住む被災からは免れたというお年寄りです。聞くと、知り合いが何人も亡くなったので、市内と海を見渡せるところで供養しようと思って来たとのことです。同じような思いの人も多いようです。各地から来ているボランティアも集まっていました。

 遠くに牡鹿半島の島々が見えます。海は穏やかで水平線は青く一直線です。北上川の河口はさざ波が立っています。去年と同じような光景です。
 違ったところがあります。
 去年は、海岸線を隠すように瓦礫と廃車の長い堤防がありました。北上川の対岸には高さが20メートルの大きな瓦礫の山がありました。今は少しづつ崩して処理されています。搬入を止めて瓦礫置き場を解消しようとしています。
 その代り、眼下にはまだ取り壊しされていない家屋や住宅が点在しています。解体しても運搬先がないからです。また解体業者など人手不足が深刻な問題になっています。

 石巻市の瓦礫の量は、岩手県全体を合わせたのを上回りました。震災直後は処理に20年かかると言われていました。各地の自治体にも引き受けてもらいました。
 しかし一昨年のお盆を境に、政策を転換していきます。陸前高田市の被災した松の木の供養を京都の大文字焼で拒否されてからです。
 それから被災地の人たちは口が重くなりました。
 被災地の市長・町長や自治体関係者が各地の自治体を廻って瓦礫の受け入れを要請しました。しかし逆に地元住民の反対運動に遭遇し、追及もされました。
 それをテレビなどで観た被災地の人たちから、「市長が頭を下げるのを観たくない。自分たちが下げている思いになる」 「俺たちは悪くない。市長は頭を下げるな。悪いのは東電だ」 という意見がだされました。そして時間がかかっても地元で何とかしようという思いに至りました。
 もう少しで処理量は半分になります。
 地元の方に意地悪な質問をしました。「京都で災害がおきたら支援に行きますか」
 すかさず 「行くよ、困っている人がいたら支援しなくちゃ」 との答えが返ってきました。

 2時46分が近づくと海岸線の道路から山に向かう車が増えました。山の真下にはお寺と墓地があります。みな同じ命日です。カモメが群れをなして飛んでいます。お供え物を狙っています。
 以前、カモメは漁港や水産加工場の廃棄物を狙っていました。
 しかし漁港も水産加工場もなかなか立ち直れていません。漁港の海底に瓦礫が積もっていて船が入れませんでした。岸壁は地盤沈下を起こしていました。行政の対応は本当に遅いです。


 山の下、海岸付近を歩きました。
 お墓はまだ倒れたままのがたくさんあります。墓石に新たに 「平成21年3月11日」 と彫られたのも目立ってきました。
 昨年はお参りをする人も多くありませんでした。
 やっと法要するほどのゆとりが出てきました。
 「おれんとこのお墓はどこだっけ」 と探している人たちがいます。周囲の光景が一転したからです。

 門脇小学校に行きました。
 震災の時のままですが、落下物等で危険なため窓ガラスは壊されています。しかし内部はそのままです。
 玄関の近くに校歌が彫られた石碑が建っています。
 1番の歌詞には 「太平洋」、2番には 「北上川」 が盛り込まれています。学校はこの2つから襲われました。
 校舎は近くでみると無残ですが、遠くから見ると耐え抜いた姿は凛々しくも見えてきます。

 「がんばろう石巻」 の大きな看板は地域の献花台にもなっています。
 今年も神戸市長田区の方々が、訪れた人たちにコーヒーとパンとクッキーをふるまっていました。
 空地には雑草も生えていません。ヘドロは草木を育てません。

 北上川の川添に歩いて市の中心部に向かいました。
 3月11日が近づくと、各テレビ局は放射能に汚染された福島県の被災地に倒壊した建物がそのままで残っている光景を映しました。
 放射能汚染地域ではありませんが、同じように、住めない建物と空地の光景が一帯に残っています。山の上からの光景は、バブル崩壊直後の地上げ屋が荒らした東京の中心部のようでした。

 かつての繁華街・寿町商店街は、青山学院大学の学生ボランティアが大勢でヘドロの撤去と道路にレンガを敷き詰める作業をしてくれました。感謝の意をこめたその時の写真が大量に貼られています。
 しかし今、商店街は、営業している店舗と封鎖された店舗が半々くらいのようです。客はほとんどいません。
 閉鎖している店舗の前に墨で大書きした紙が貼られていました。

   歩み出すと 遥かに遠い 道程です
   そんな 心境でも ありますが
   多くのご支援を 頂いたみなさま方の 善意に応える為にも
   一歩一歩 前進する 勇気と希望を 
   持ちたいと 思っております

 2時46分が過ぎて山を下りている時、前を歩いていた老夫婦の会話が聞こえてきました。
 「がんばれと言われるけど、みんなもう充分にがんばっているよね。もっと頑張れと言われるときついよね」
 復興の勢いをつけようと作られた仮設の商店街も撤退が目立っています。
 それでも街のあちこちでたくさんのボランティアと行き交うと希望を捨てる気持ちが止まります。


 海岸線から瓦礫と廃車の堤防がなくなったあとはどうなるのでしょうか。
 宮城県は、海岸沿いにかなりの高さの防潮堤を築こうとしています。各地で住民から賛否両方の意見が出されています。議論が続いていますが強行しようとしています。
 三陸沿岸が、コンクリートに囲まれます。
 防潮堤はどれくらいの高さなら安全と言えるのでしょうか。高い防潮堤ができたら安心を過信して震災を忘れてしまう、それが一番危険だという意見があります。陸からプランクトンが流れないと近海のわかめや昆布、牡蠣などはちゃんと育たない、養殖の魚が育たなくなるという意見が出ています。
 漁民は海面を見て仕事の段取りを考えます。防潮堤は漁民と海を遮断します。共存できなくなります。
 地元の方が吐いた言葉です。
 「村井知事は自衛隊出身だから、住民を守るのではなく、国土を守ることしか考えない」
 それに建設業者が便乗しています。

 同じような県の政策に 「水産復興特区」 があります。企業の漁協への参加を認めるものです。ほとんどの漁協が反対していますがプランは進んでいます。
 漁民の生活はどうなるのでしょうか。1か月19万円のサラリーマンになります。
 漁はいい時も悪い時もあります。漁民はそれを承知しています。しかし参入した企業は 「悪い時」 もいるでしょうか。数年後、サラリーマン漁民は 「解雇」 されるのが目に見えています。

 ハローワームをのぞきました。求職者は多くありません。
 地域全体で、求人数と求職者数では求人数が勝っています。しかし職種、条件などでのミスマッチが多くあります。
 求人票が掲示されていました。雇用条件に 「正職員でない・派遣ではない」 「雇用期間の期限はない」 などと記載されています。使用者の言いなりで、すぐにトラブルが発生するような条件提示です。
 条件が満たされない若者は、地元を離れています。

 駅前に市役所が移転しました。5階に献花台が設けられています。訪れる人が絶えないようです。
 市民の休憩コーナーに、各自治区の新聞が置いてありました。その中に 「おがつ新聞」 がありました。
 旧雄勝町は、硯石の産地です。東京駅の屋根はここの硯石で葺いています。
 震災直後は、廃村もささやかれましたが 「おがつ ふっかつ ぜったい勝つ」 の看板を掲げて復興に取り組んできました。
 地元の中学生で、人権作文コンテスト優秀賞を受賞した3年生の作品が載っていました。


  ……
  震災から1年と半年がたった今でも、苦しい生活を強いられている人たちがいる。僕はそんな人達のた
 めに、将来は、自分の地域の復興に携われる人になりたいと思うようになった。そのためには、勉強や学
 校生活で日々の努力を大切にして頑張ることが必要であるとも考えるようになった。

  「復興とは何だろうか。」
  この問題は、日本全国たくさんの人が意見を出し合っている。僕は復興とは公共施設やたくさんの日用
 品をそろえることができるスーパーなどが立ち並ぶなど、便利な生活になることだとは思わない。不便な
 生活が続いても、みんなが夢や希望をもって生きることが、一番大切なことだと感じた。
  たくさんの大切なものをなくしたあの日。これまで経験したことのない非日常の中で、僕は 「人間らしく
 生きる」 ことの本当の意味を知ることになった。そして自分の「生きる意味」も知った。  (完)


 ついでに埼玉県の人権作文コンテストで最優秀賞作品賞を受賞した作品を紹介します。
 
   『支えあって生きる』

  基本的人権の尊重。今までの自分が人権について知っていることと言えばこの言葉ぐらいだ。日本は、
 世界に比べれば平和で安全な国だし、自分もその国で、何不自由なく幸せに暮らしていた。そうあの日ま
 では…。
  3月11日の東日本大震災は、たぶん日本の歴史に残る大きな災害だ。教室の後ろに掲示してある歴
 史年表にも、いつか刻まれることと思う。ぼくは、その被災地に住んでいた。地震で建物が壊れたりしたも
 のの、家族や友達、地域の方々に亡くなった人はいなかった。
  しかし、地震の後の原発事故のため、ぼくと家族は家を離れ、友達や親しい人たちと別れなければなら
 なくなった。生まれ育った故郷を離れなければならなかったのだ。
  人権をおびやかすもの。戦争や紛争、貧困、差別や偏見、環境破壊など、今までの自分にはなんの興
 味もなかったことだった。まだ戦争や紛争中で、子供たちの命が危ない国があることも、戦争は終わった
 けれど、貧困のため食べるものがなく、病気になっても満足な治療も受けることができない国があること
 も社会で学習した。テレビでそんなニュースを見れば、かわいそうだと思ったし、争いがよくないことも分
 かっていた。
  しかし、それは自分にとって、遠い遠い国の出来事で、自分の心を痛めるようなことではなかった。まさ
 か自分たち家族が、家を無くし、日本中を転々と移動しながら、目に見えない恐怖におびえ逃げまどう避
 難民になろうとは、想像もしていなかった。避難所では、配給のおにぎりを妹と半分にして食べた。薄い毛
 布にくるまり、寒い夜を過ごした。ラジオのニュースを聞くのが、とても怖かった。
  避難先でぼくと妹は、父に言われたことがあった。
  「これから先、もしかしたら、おまえたちは差別を受けることがあるかもしれない。福島は被曝という厳
 しい現実と向き合わなければならないからだ。心ないことを言う人がいても我慢をしていこう。そういうとき
 こそ、人の本当の温かさが分かる。人とのつながりがどんなに大切か分かるはずだから。周りをしっかり
 見ていきなさい。」
  その時は、父の言葉の意味がよく理解できなかった。いつになく真剣で、悲しそうな父の顔が印象に残
 っただけだった。
  自分は今、埼玉県本庄市に暮らし、学校にも通っている。なつかしい故郷にはまだ帰ることはできない
 が、新しい友達もでき、幸せだと思う。
  初めて学校に行く日は、とても緊張していた。自分が福島から来たことで、被曝者と言われたりしない
 か、無視されたりしないか、汚いものを見る目で見られたりしないか、不安でしょうがなかった。
  しかし、友達の反応は違っていた。自己紹介で、福島から避難してきたことを聞いた時は一瞬驚いてい
 たが、次の瞬間からは他の友達となんのかわりもなく接してくれた。
  みんなの態度は、ぼくにとって、とてもありがたかった。かわいそうにと思われてもかまわないが、ぼくは
 一人の中学一年生として、生活がしたかった。校長先生や他の先生方、先輩方にも、時々声をかけてい
 ただいたが、普段は他の友達と同じように、時には厳しく、時には優しく接してくださる。そんな生活の中
 で、ぼくは、自分が避難してきたことを忘れてしまいそうになる。
  このように、ぼくは、差別という人権侵害を一度もうけることがなかった。ぼくの人権を尊重し、受け入れ
 てくれた皆さんにとても感謝している。
  人権を守るというのは、自分の力ではなかなかできないのではないかと思う。自分の人権は、誰かに
 守ってもらっているのだ。それは、家族だったり友達であったり、地域の人々だったりする。それだけでは
 ない。見ず知らずの人であっても、傷付け合ったりせず、お互いに人権を守り合うことが大切なのだと思
 う。それが人権を尊重すると言うことではないだろうか。
  震災は、自分にとって人とは何か、幸せとは何かについて考えたり気づいたりするよい機会になった。
 一番大切なことは、一人ひとりが、何が差別で何が人権侵害なのかを、しっかり考えることだと思う。そし
 て、相手が何を望み、どう接してほしいのかを考えてあげることが必要だ。
  ぼくの未来はまだ何も見えてはいない。しかし、ぼくには分かったことがある。それは世界のどこにいて
 も、どんな困難にぶつかったとしても、それぞれの人権や自由を守ることができる社会さえあれば、人は
 幸せに生活できるということだ。
  父の言葉には、そんな意味があったのかもしれない。それはまだ分からないが、今自分ができることを
 して生きていきたいと思う。
  それが、「支えあって生きていく」 ということではないだろうか。


 若い世代が、希望を繋ぎとめてくれます。 
 
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いじめは職場の心理的リスクと考えるべき
2013/03/15(Fri)
 3月15日(金)

 2月28日、労働政策研修 研究機構が主催する労働政策フォーラム 「欧州諸国における職場のいじめ・嫌がらせの現状と取り組み」 が開催されました。メモに基づいて報告します。
 最初に、イギリスのマンチェスター大学ビジネススクール教授のヘルゲ・ホーエルさん、フランスのボルドー第4大学比較労働法・社会保障研究所研究員のロイック・ルルージュさん、スウェーデンのカールスタッド大学教授のマルガレータ・ストランドマークさん、ドイツの弁護士マルティン・ヴォルメラートさんが報告をしました。
 国によっていじめの捉え方、取り組みは違います。

 イギリスの報告です。ヘルゲ・ホーエルさんはホテルのマネージャーとして労働組合リーダーの経験を持っています。
 いじめの発生率は調査方法によって違います。インターネット調査では20%以上、無作為サンプル調査では10%以上、個別訪問面接聴取法では4~7%が経験しています。
 いじめは、反復される頻度が高く、そのことで耐えられなくなります。当事者間の力の不均衡から発生しています。
 いじめを受ける割合は男女とも同程度で、少数民族、障碍者、レスビアン、ゲイおよびバイセクシャルのいじめ経験率は高いです。民間部門よりも公共部門で広く蔓延しています。
 上司から部下へが75%から80%を占めています。他は同僚、部下、顧客によるものです。
 仕事に対する満足度、心理的・身体的健康に影響を及ぼしますが、組織的な影響について議論の焦点になっています。離職、生産性、欠勤、訴訟、傍観者の問題などです。
 イギリス経済に年間137.5億ポンド (日本円で約2兆円) の損害を与えていると暫定的に推定されています。
 原因としては、グローバル化した職場環境、権威主義や幹部がストレスに曝されているなかでのリーダーシップのスタイル、労使関係における管理的統制ツールとして使われるなどがあります。

 職場いじめに特化した法令はありません。1990年代に 「職場の尊厳法案」 は上院を通過しましたが、歴代の政府に阻まれています。
 1974年に労働安全衛生法が制定されました。その中に合理的に実行可能な範囲で、従業員の健康、安全、福利厚生を確保する使用者の義務が盛り込まれています。
 被害者が活用できる法令や規制があります。
 2010年に制定された 「反差別法制」 は、「保護の対象となるグループ」 に対する雇用差別およびハラスメントの禁止、相手に脅迫的な、敵意のある、品位を傷つける等の環境を生む効果を有する行為を禁止しています。
 1997年に 「ハラスメントからの保護法」 が制定されました。「何人も(以下のような)一連の行為をしてはならない。a)他人へのハラスメントにあたるものであって、b)他人へのハラスメントにあたると知っている、又は知るべき行為」 と謳っています。
 1996年の雇用権法は不公平解雇やみなし解雇 (=自分の意思に反して仕事を辞めること、退職させられること) からの保護を謳っています。

 使用者の対応に対する介入が必要です。
 いじめについての捉え方が変わってきています。使用者はいじめと厳格な管理を誤解していた、不適切な管理方法と違う1つのアクションと捉えられていました。
 労働組合は、1990年代後半から積極的に介入しています。いじめ対策に関する方針の策定と実行に力を入れています。組合員の調査を通じて、いじめの活性およびリスク要因の証拠 (エビデンス) を提供しています。例えば、「いじめをする人は罰せられずにやってのけていた」 「労働者は報告する勇気がない」 などがあります。

 2004年に 「職場の尊厳パートナーシッププロジェクト」 が立ち上げられています。使用者側と労働組合が参加しています。これを成功させる鍵は、使用者の上層部のコミット、従業員の参加、従業員の参画を組み入れたいじめ対策に関する方針、共通の当事者意識および信頼の醸成、ゼロ・トレランス方式 (細部まで罰則を定めそれに違反した場合は厳密に処分を行う方式)、マイノリティーの従業員、「保護の対象となるグループ」 に特別に重点を置くことです。しかし公式的アプローチは、経営側に有利に偏っていると思われていて、救済策を提供していません。


 フランスのロイック・ルルージュさんは、昨年夏に次ぐ来日です。
 昨年9月にIMCが主催した集会で講演をしてもらいました。(昨年9月14日の 「活動報告」 参照)


 スウェーデンの報告です。マルガレータ・ストランドマークさんは、看護師として働いた後、看護学の教授に就任しています。
 福祉国家スウェーデンといわれていますが、精神健康被害が最近増加しています。国の病気休暇費用の負担は精神的障害が最も高くなっています。
 いじめの発生状況は、過去20年間では3.5%から11%になっています。1996年に、5つの病院と5つの役所が使用者に調査をした結果は、過去6か月間に1週につき1つの否定的行為を受けているという基準に基づくと18.5%がいじめを受けていました。2001年に、1週につき2つの否定的行為を受けていたという基準では6.8でした。
 また、4%が自己判断としていじめを受けた、22%がいじめを目撃した、38%が若年期にいじめを受けたと報告しています。
 8.5%は、業務に関連したいじめを受けていた、2.3%は、深刻ないじめに曝されたと報告しています。
 2012年に雇用環境局は、健康医療や社会医療従事者、補佐員、ホテル・レストランの従業員と清掃員は、いじめや嫌がらせを受けるリスクがあると報告しています。

 いじめを受けた22人への聞き取り調査結果があります。
 5つの特徴がみられました。屈辱感を味わった。罪悪感が生まれた。自信低下など。
 いじめは人間のイメージを変えます。自分が信頼できなくなります。
 いじめは職場において深刻です。巻き込まれた人に大きな苦痛を与え、仕事の時間を奪います。
 メディアはしばしばいじめに関する記事を載せますが、職場の責任者は隠蔽しようとします。
 いじめに特化した予防的取組はありません。

 スウェーデンの雇用環境法は物理的環境を強調していますが心理的要因も取り上げています。
 2008年に差別禁止法が制定されました。
 スウェーデン文化の長所と短所があります。
 問題が存在しないふりをするために、いじめはなくなることがありません。労働組合と使用者の間に、交渉と平等に関する長い伝統があります。出る杭は打たれる、他人よりも突出してはいけなという傾向があります (トールポピー症候群:Tall Poppy Syndrome)。前向きなことをしても賞されないし、認められません。
 国の政策として、いじめ法制を補完すること、使用者に、いじめを予防・排除するために充分な措置が講じられていることを示させるなど、さらに大きな責任を課す必要があります。
 今後の労使の対策としてはボトムアップ的な視点が必要です。
 具体的には、リーダーと同僚の責任を明確にすること。参加を伴う取り組みと行動計画。評価制度を伴う取り組み。いじめの複雑な現象を理解するために、いじめに加えてその反響に関する知識も重視すること。労働組合はこのようなことに重要な役割を果たしていくことが期待されます。


 ドイツの報告です。
 20年前からの取り組みのデータがあります。
 総雇用数の3.5%、140万、約半分の企業で被害にあっています。終業生活期間において4~9人に1人の従業員が経験しています。民間部門、公共部門のあらゆるビジネスで起きています。年によって、経済状況によって状況は違っています。従業員が250人以上の企業よりも、中小企業で多く起きています。
 民間サービス、公共サービス、商業で高いリスクがあります。学校、幼稚園でも起きています。被害者の3分の2から4分の3が女性です。すべての年齢層で見られますが、特に30歳から49歳の年齢層に多くなっています。雇用期間が長期でも防止できません。約50%が上司から、約50%が同僚から、1.5%から2.3%が部下からです。

 その犠牲が、健康、仕事に表れています。年間1万人の自殺者が出ていますが、そのうち20%がいじめによるものです。男性1500人、女性500人のうち20%です。
 いじめを行なう者への法的制裁はむしろ非現実的です。「不安感によりいじめを行なう者」 (おそれによるいじめ) は、いじめられるよりはいじめる行為をするからです
 企業と従業員に対する対策として、年間に約150億ユーロの事業コストがかかっています。

 いじめを防止・規制する法律はありません。
 国の政策として問題を否認しています。「存在しない」 という姿勢です。小さな政党が法案を出しましたが大きな政党は興味がないようです。
 司法もあまり重要でない周辺部分と捉えています。判決はほんの少数です。裁判所は紛争を解決する場ではありません。裁判所以外で解決しています。
 企業における介入と防止策が必要で、労使協議会と事業所協定が不可欠です。一つの良い例としてフォードは労使協議会で連携をとっています。
 法律のツールはなくても、「モビングはいらない」 という欧州委員会の決定を国家法の中で適用できればいいと思います。


 この後、日本の状況が報告され、続いて4人をパネリストとして討論と質疑応答が行われました。
 いじめの背景、原因、いじめる人・いじめられる人はどういう人かということについてです。
 イギリスの実情としては、ほとんどは普通の人と変わりません。みんながいじめにあう可能性があります。いじめる人も普通の人です。
 スウェーデンでも同じです。
 フランスの判例が紹介されました。2009年に、解雇の手続きをしないで会社から追い出すということがありました。管理手法に問題があると捉えられました。2010年に、管理者がもっと働いて生産性を挙げろ、週末、夜も働けと指示したことに管理手法が問われて、個人を対象にしたいじめと捉えました。
 ドイツの状況報告として、個人の問題ではなく企業に背景があることが指摘されました。

 どのようなことがいじめの原因になっているのでしょうか。
 イギリスの報告です。
 対立のいじめの他に、略奪的いじめ、つまり自分のストレスを解消しようとしている時に容易に攻撃できる被害者をさがして餌食とします。そのため反差別法で保護される集団を定めて禁止しています。人と違うことがいじめの対象になることがあります。
 スウェーデンの報告です。
 背景の1つにポストを得るための指名獲得競争があります。
 フランスの報告です。
 マネージメント手法がモラルハラスメントに該当するという破毀院の判例があります。管理者がくりかえし部下によい成果を上げるよう催促した場合は、特定の個人がそのターゲットになった時は悪意がなくても該当します。

 イギリスで 「職場の尊厳法案」 が阻まれている原因は何でしょうか。
 90年代に取りまとめられ上院で審議されましたが、政府は充分な時間を与えませんでした。国レベルでは定義するのが厳しいと思ったようです。

 フランスで法整備はどれくらいの効果があったのでしょうか。
 2002年以降はモラルハラスメントの訴因だけで訴訟を提起する人が増えています。2008年に92件、2012年に12件の判決が出ています。
 モラルハラスメントだけでなく、職場の心理的リスクと考えるべきです

 イギリスでは、職場のいじめは職場のストレスと捉えています。ケアをする必要があります。労働安全衛生を担保しなければなりません。
 ドイツでは、よい事業所協定があれば介入は少なくなると思います。しかし今、協定の質が変わってきています。モビングはその中の1つでしかありません。
 解決手段としては調停を推進しています。効果があります。結論を言うと、加害者が権力を持つと解決できなくなります。仲裁は二者間で被害者は不利です。芽を摘むと効果があります。


 この他にもさまざまなことが議論されました。
 この労働政策フォーラムに先立って、他の国からの参加者も含めてた討論が2日間にわたって開催されました。
これらの報告は、労働政策研修 研究機構の機関誌 『日本労働研究雑誌』 や 『Business Labor Trend』 で発表する予定だそうです。


  当センター「いじめメンタルヘルス労働者支援センター」ホームページ・ご相談はこちらから
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